桃源暗鬼に感化された。
______________
鬼。
それは世界に少人数しかいない特別な存在。
家系や行いは一切問わず、個体差も異なる。
幼い頃に出現する者や、死ぬ直前に暴走を起こす者。
過去の凄惨を乗り越え恨みがある者。
そう言った者にかつての鬼は取り憑き血を変える。
ある時、いきなり人を喰らい殺す衝動に見舞われ暴走を引き起こし、あたり一体を滅ぼした事件があった。
それまで鬼は特に警戒されているわけでもなく、隠れて生活する事もなかった。
だがそれを機に世は180度回転した。
「鬼は根絶やしにする」
日本どころか、世界までもがその事件をきっかけに協定を結んだ。
そして日本には各地に「鬼斬滅委員会」たるものが作られ、日々鬼の捜索をしていた。
それを知った1人の鬼が仲間を集め人に紛れて暮らす事を覚えた。
血を変え、姿を変え人に紛れた。
しかし角は消えなかった。
いつしか鬼は地下で暮らし、夜に行動を移した。
人を守るべく、「鬼斬滅委員会」には武士や刀鍛冶の末裔が集められていた。
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目次
#1 鬼の目覚め。
「…鬼ってまじでいるんだ…厨二病の考えかと思ったけどこんなもん見たらモノホンかぁ…私もこの鬼を滅ぼす事になるんだよね…」
帰り道、歴史書と睨めっこしてそう呟くのは成瀬中高一貫校の通う普通の女子高校生の豊臣神楽。
昔から父親に鬼の話をされていたがその度に嘘だと思っていた。
だが授業で習い、少しの興味で歴史書を借り中を覗けば鬼の存在がしっかりと記されていた。
ここまで記されているともう信じる事しか選択肢はなく、仕方なく信じる事にした。
歴史書を閉じ、スクールバッグに仕舞ってはスマホを取り出して通知欄を見る。
鬼に襲われた友人の桜舞がここに入院しているため何かあってはいけないので特別にスマホの持ち込みが許可されており、定期的に確認している。
「は~…桜舞早く退院してよね、あの病院苦手なんだから…」
神楽にとって近所にある大型病院、成瀬病院は苦い思い出があり近寄り難い場所である。
だが大事な友がいるので仕方なく近寄っているのだ。
気分が落ち込んでいる中、街に悲鳴が響いた。
声が聞こえた方向を見ると微かに炎が見えた。
病院だ。病院の方から火が上がっている。
嫌な予感が脳を刺激して気がつけば走り出していた。
無我夢中で走り続け着いた頃には病院はほぼ全焼に近しい状態だった。
「はぁ…っ、あ"………ッ…さくま‼︎、…」
友人の名前を呼ぶ。
だが普段返ってくるはずの落ち着いた声は聞こえない。
目の前の光景も相まって神楽は絶句していた。
しかしそんな彼女の隣にいた中年男性は焦った笑顔を浮かべ声をあげて笑っていた。
この街に住む人の大事な人が沢山いるのに何故この人は笑っていられるのだ。
どれだけの人の命が人の手によって奪われたのか。
考えが渦巻けば渦巻くほど神楽の心は黒く怒りに染まっていった。
「ねぇ…おっさん………なんでテメェは笑ってられるんだ?なんで?大事な人がいなくなってんだよ!?なんとも思わないわけ⁉︎冗談でも不謹慎だよ、常識の範囲外なんだよお前は‼︎へらへら笑って……この病院の先生や患者さん、看護師さんに謝れよ!患者さんのご親族に謝れよ…」
怒りをぶつけ、泣き崩れる。
もう周りを見れば犯人は一目瞭然だった。
神楽の声を聞いた住人は一斉にその中年男性を見つめた。
そんな中神楽の中にはただ一つ、「絶対殺す」。
その信念があった。
頭からはツノが生え、爪は尖り犬歯も鋭く尖った。
今の神楽の姿は歴史上に載る鬼そのものだった。
そこらに落ちていた石を拾えば大麻(おおぬさ)に変え、巫女そのものの姿に成り果てた。
街とか関係なく、上にあげた大麻を振り下ろす直前誰かに殴られたような感覚に襲われた。
鬼の力の制御が効かなかったせいかすぐに姿は元に戻り気を失った。
「……ここじゃ人目につく、…ど…しよ………れ、玲央奈ぁ~…」
「その子連れて早く戻るよ、私達はもう既にバレてるから学校に預けたらすぐ拠点変えるよ。いいね、明羅」
「は、はぁーい…」
---
目を覚ませば見覚えのない天井。
意識が少し曖昧な中、体を起こし周囲を見渡す。
中は病室のようだが微かに不気味な雰囲気を纏っており、体が強張る。
ガチャ
乾いた木の音が気持ちを和らげる。音の方向を向けば神楽とはまた違う垂れたツノを生やした気怠そうな男性が入ってきた。
起きている神楽に気付けば落ち着いた低い声が少し漏れる。
「あぁ…起きたのか…回復早ぇなぁ…まぁ、血のおかげだろ…よかったなぁ、命が尽きなくて。下手したらお前死にかけてやがったからなぁ?鬼の血に感謝しとけぇ…」
「鬼の血…?命が尽きる…?何の話?あとここどこ!?あんた誰なの、そのツノ…」
「順を追うから落ち着けぇ…俺は話すのは得じゃねぇんだ、こいつらに任せるけどよぉ…」
ギシ、と軋んだ音のする椅子に腰を掛けカルテの様な物を見つめる。
無言で数分見つめれば机の方を向きペン立てにあるペンを取って何かを書き込む。
疲れているのか、書き込みが終われば机に突っ伏してしまい「あ"ー…」と低い唸り声を出す。
老人の様な動きを見つめていれば丸い木の音が数回聞こえる。来客が来た様だ。
「彗月崖せんせー、入っていい?あ、玲央奈だよ。明羅も連れてきたよ~!」
「彗月崖でいいって何回言ったら分んだぁ…?まぁ…入れ、豊臣に話しとけ…俺はまとめておくからよぉ…あと豊臣ぃ…説明が終わればお前に質問があるからよぉ…?」
ドアが勢いよく開けば悪魔の様にピンと立ったツノを生やし少女と怯えてヤギの様なツノを生やした少女?少年?が立っていた。
部屋に入れば神楽の座っているベッドの近くに椅子を引いて座り込む。
彗月崖と呼ばれた男と数回話せば目線はすぐにこちらを向きまじまじと見つめられる。
ゆっくり見つめればまた彗月崖と話し、目線を戻す。
「えーっと、君が『鬼斬滅委員会』会長の豊臣尽央の娘さん、豊臣神楽ちゃんであってるかな?まぁあってるんだけど、鬼の話するね。私は鬼の力に詳しいだけだから明羅、任せたよ。大丈夫、緊張しないしない」
「ふぇぇ…玲央奈いきなりすぎるよぉ…あ、ぁ…えっと明羅…です…。
お、鬼の話…って言っても授業で習ったよね…?暴走をきっかけに存在しちゃいけないって言われてるんだけど…ここはその鬼達の隠れ家みたいな場所…過去を乗り越えた人、望みが低い人…すごく大きく分ければこの二つの人に昔存在した鬼は血に取り憑くんだ…君もその1人だよ…家系も何も関係ないんだ、武士の家系でもなるからね…」
「は、話がよくわからなさすぎてやばみ…とりあえず私は鬼の子なんだよね?そこはわかった…でも何でここに運ばれたの?」
「あ、それは私が話すよ。その前に私は玲央奈、鬼の確保と育成、保護を中心にしているよ。
さっそく運ばれた理由から話すけど、神楽ちゃんの住んでいた街の病院。あの近くにいたおじさんが原因で燃えたんだよね。人の怒りや大事な人を失った恨みで中に取り憑いた鬼の血が暴走を始めたの。個体にも寄るんだけど生まれてすぐ発動する人もいれば死ぬ直前までわからない人もいる。神楽ちゃんはさっき明羅が言っていた過去を乗り越えた人に分類されるの。
そして鬼にはそれぞれ自能力と言って自分だけの能力を持ってる。神楽ちゃんの場合は多分祓いの巫女だろうね。それか変化自在。まぁ…前者だと思うよ、見た限りね。
力を使うには息を殺して手に力を込めて念じないといけない場合がほとんどでね、例外もあるんだよ。部隊にいる人がそう。あとそこの彗月崖先生も。
暴走状態は恨みの念が強すぎて自我が保てなくなった。だから人々を巻き込み掛けたんだよ。…明羅が幻痛を感じさせたからよかったけどさ」
「長いな…とりあえず能力ね…にしてあのおっさん…」
説明を受け、頭がパンクし掛けている神楽。
もう夢なのか現実なのかわからなくなっていた。
今いる場所は鬼の隠れ家。そしてそれぞれ個体によって能力を持ち念じる量で暴走状態に入る事ができる。
そこまでは神楽の頭の中でまとめられた。
それ以上は順を追って理解していくしかない。国語どころか勉強が苦手な神楽にとって聞き取ってまとめ、その日のうちに全て記憶するのは至難の業であり感覚で覚え火をかけて理解していく体質だった。
明羅、と名乗った中性的な子が「…追記、なんだけど…」と声をあげた。
「鬼…には鬼祖って言う特殊な血を引く子もいるんだ…鬼祖の血はあまりにも強くて、寿命が少ないの…長生きするのは難しいんだ。長くて4年、短くて1週間も持たない。しかも鬼祖の血を引くのは1人しかいない、引いている子が死んでしまえばまた別の子に取り憑いて寿命を失う代わりに強力なものが手に入る…」
目を見開き、唖然とした。
寿命が短くて1週間も持たない鬼祖の血。
誰が継いでいるのかもわからないがもしかしたら自分なのかもしれないと言う恐怖に苛まれていた。
これからの生活、何があるのかもわからないのに別の恐怖を植え付けられるこの世界に神楽は今にでも逃げ出したかった。
でも今逃げ出せばあの時近くにいた人は神楽を殺しにかかるだろう。「鬼斬滅委員会」にでも通報されたら父親に殺される、それだけは勘弁だった。
#2 誰かの決めつけを覆したいという執念。
「…っと、これで説明は終わり!あ、神楽ちゃん息してね?ツノ出たまんまだからさ。彗月崖先生も、だから寝不足なんでしょ~?」
玲央奈に言われはっとする神楽。体が一気に疲労感に浸り、息をしていなかったのか咳き込んでしまった。
数分で落ち着きを見せれば、その場にいた神楽を除き全員が驚いた表情を浮かべ唖然としていた。
なぜなら鬼になった際、ツノを仕舞う時一気に酸素が体に入ってくる為処理が追いつかなく大抵の人は2時間~1時間、早くて40分くらいは咳き込んでいるからだ。
「えぇ…どんだけ化け物なのこの子…ねぇ彗月崖先生、もう部隊所属いけるんじゃない?」
「訓練も何もしてねぇバカは足手纏いだろぉがよ…はぁ…お前苦しくねぇのかぁ?」
「え、いや…普段運動してるから何とも…あ、それか運動している人でも遅いんですか…?」
「大抵の人は長時間咳き込んでるよ…喉の炎症が酷いから彗月崖蓮司先生が毎回治す羽目になってるけど…」
慣れていなさそうに目線を逸らし、続ける。
化け物と言われたことに結構なダメージを食らうも、状況が状況なのであまり表情には出せない。
ずっと顔を壁に向けていた彗月崖が神楽に視線を合わせ、バインダーを持って何かを探す様に見つめた。
「えー…質問してくぞ…はい一つ。年齢と学歴…能力名は決まり次第教えろぉ?二つ、何であの病院にいたんだぁ?用がねぇなら行かねぇよなぁ?…三つ、鬼の説明を受けてどう思った。これだけ答えぁ十分だ」
「え、えっと…豊臣神楽、15歳…まだ小卒…中高一貫校にいるから…病院にいた理由?…鬼に襲われた友人が入院してて…ってはや、ど、どう思った?えっと…まだ教えられたばっかだし、信用しきれないとこもあるけど正直な感想…暴走した経緯があるとはいえ駆除される意味ないと思う…息をすれば抑えれるのか分からないけど何と言うか…その…と、とにかく話し合えば鬼も安心して地上で暮らせるんじゃないかなって!」
「…誰と話し合うの?」
「えっ…鬼斬滅委員会に決まってるでしょ…」
「そう、今のままであっちは話を聞くと思う?」
「……お、押し切れば…」
「無理だよ。あっちは国自体が作り上げたもの。それに比べてこっちは個人が集まって立ち上げたものだから人手不足だし弱すぎる。大型の争いになれば人数不利で確実に負ける。話し合いの場すらないんだよ、私達鬼には人権がないと言っても過言じゃない」
「そんなの誰が決めつけたんですか‼︎」
立ち上がり、そう叫ぶ神楽の声が部屋全体に響く。
3人は腑抜けた顔をしてただ呆然と見つめる。
「鬼には人権がないだとか、話し合いの場がないとか…誰が決めたの!鬼にも人権はある。この国で暮らす全員に人権はあるんだよ!話し合いも…今はなくてもいつか叶うこと、いつ叶うかなんて私には分からないけどさ…でも可能性を捨てるのだけは私絶対に嫌だ!どれだけ低い可能性でも私は賭ける。希望のある方に賭けるよ!無理だと言われても曲げない。意思は曲げない。それが私、豊臣神楽だから」
真剣な眼差しを向け、そう述べる。
彼女の目は本気だった。
まっすぐな希望と光が生み出した様な存在感の強い宣言。
小さな事にも賭けるその根性に神楽に関わる全員が心が揺らいだ。
無理だと分かっていても、それでも可能性があるなら倒れてもなんども立ち上がるゾンビの様にしつこいその執念は玲央奈達の心を貫き、同時に動かした。
一気に希望が与えられた様に目を見開けば口元に弧を描き、「じゃあ、神楽ちゃんのその執念を応援しなくちゃね」と告げた。
黙って聞いていた2人も笑顔を浮かべ、神楽を見つめた。
神楽は今日から世と戦う事になるのだ。
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鬼について軽い説明。
個体差はあるが大抵の鬼が高校生くらいからツノを出現させる。そして自能力と言うものを持ち、それを使っている間は呼吸をしない為どの鬼にも必ず使用時間制限ある。なお肺活量などを鍛えればその制限は上がっていく。
鬼は大体が地下で暮らし、訓練などをし鬼斬滅委員会に対抗する力をつけるが地上で隠れて暮らす鬼も一定数いる。家族を持ったり、親の介護だったり学校に行ったり。
死ぬ直前になると必ずツノが出現し、鬼としての生涯を過ごした証として腐敗のスピードが人間よりも10倍くらい遅い。
回復が人間よりも早くそれが影響しているらしいが根本的な要因は不明。
まだ判明していない点が多く、捕まえられた鬼は生態調べのために実験に使われるケースもある様でどうなるかは遭遇した鬼斬滅委員会の役員次第。
そして鬼の祖、鬼祖は恐ろしいほど短命である。
話でもあった様に長くて4年、短くて1週間以下。
短命の要因としては膨大な力があげられる。鬼祖の魂が入り込む事によって膨大な力を手に入れる代わりに体の負担がとてつもなく掛かるので短命になるのだと思われる。また、傾向として鬼祖は暴れるのが好きらしく発達障害や不良などどこかに不備がある者や短気の者に取り憑く傾向が見つかっている。
鬼斬滅委員会について。
鬼を抹消する為だけに作られた国公認の団体。
現在は神楽の父である豊臣尽央(とよとみじんおう)が会長を務めており、今までよりも活発的に動いている。
主に大きく、研究隊、戦闘隊、探究隊の3つで構成されており街中で遭遇しやすいのが戦闘隊である。その他の隊も遭遇したり戦えたりするものの外に出ることは基本なく室内にての隊になる。
委員会の役員は武士家系の傾向が高く、平民家系の方が数えるほどしかいない。
(豊臣や織田と戦国時代や江戸時代の大名の名字がつくものは必ず武士の血を引いている)
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一通り終えた後、部屋に通され一時的な宿泊となった。
今の状態では絶対に街に帰っては行けないようで外に出るにも引越しが余儀なくされるようだった。
様々な出来事にどっと疲れが出てきたのか部屋に入った瞬間神楽はベッドに倒れ込み、足をバタバタと動かした。
あの病院に居た友人の安否、その他諸々…とにかく心配事が多かった。
複雑な心境を無視するように時間は段々進み、止まる事を知らず残酷なほど不安を募らせる。
「…桜舞の安否、聞けばよかったな」
そう呟く彼女の声は空気のように薄く消えっていった。
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ゆっくり白い引き戸を開ければ一つ、ベッドがぽつんと置かれておりそこには毛先をピンクに染めた少年が横たわっていた。
沢山の管を体につけられ、呼吸器で呼吸し切られたような跡が痛々しく残っていた。
「早く目、覚ましてあげてね。あの子心配してるから…ほんと、鬼に襲われたって言ってたから人間だと思ったけど…襲われる直前に鬼が取り憑いて回復が追いついてるなんて奇跡、見た事ないよ。桜舞君」
「…鬼祖…?」
「違うでしょ。痣の形が違う。鬼祖の一つ下、鬼天だろうね」
「後々から変化する事例もあるから…鬼祖も視野に入れた方がいいんじゃない…?」
起こさぬよう、小声で話す玲央奈と明羅。
眠っている桜舞を目の前に手を出し息を殺す。そして管に続いている液体の袋などに触れば緑色の光が手から生まれ、尋常じゃないスピードで体に流れていく。
鬼だからこそ出来る特殊な治療法なのだ。
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自能力
「流動覚醒剤(スティルズウェアード)」
手に触れた液体の威力や効果を上げる能力。訓練すれば操ったり別の物体越しでも発動することが出来る。
また、量を減らしたり増やしたりなどができるので必要に応じて調整を行う。
だが欠点として血など人体に流れる液体や水分は発動するのが不可能な為水地が少ない場所での戦闘になるとすぐに圧倒される。
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「えぇ、!?それ使っちゃうの…!?大丈夫なの、?」
「だい、じょうぶ…いけるっ、!」
数分、かざせば手を離し呼吸をし始める。
息を止める時間が長ければ長い程、落ち着くまでの時間は比例して伸びていく。
鬼が能力を発動する条件は主に2つ。
1つはどの鬼も最初に行う「念を込め息を止める」こと。
死への直結の可能性は低めでまだ安全性がある為大抵の鬼がその方法を選ぶ。
そして2つは部隊…要するに訓練を受けた者だけが出来る技法といえばいいだろう。
個体により条件こそ違うものの、一般として「能力との相性の良い場所」だと念を込めなくても発動出来る。
また場合によっては「恨みを糧に自身の血を使って無理矢理発動」させるものもいる。
だが、どちらも死への直結の可能性が極めて高く鬼祖はどちらを選んでも短命な為死への直結の可能性が非常に高い。
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「…んん、………通知…あ、お父さん…」
『お前、なぜ鬼機関にいるんだ。お前は鬼斬滅委員会に入るはずだろう?…まさかだと思うが鬼が取り憑いたのか。そうか、そうならば俺はお前を娘とじゃなく敵としてみよう。』
スマホを覗けば一つの通知。
内容を見れば今まで育ててくれた父からの別たれの言葉。
だがそれに大袈裟な反応をするわけでもなく、ただ静かに見つめる。
《意思は曲げない。それが私、豊臣神楽だから。》
そう宣言した言葉が脳裏を過ぎる。
スマホをベッドに置けばクローゼットに入っていた服を着て部屋を出る。
玲央奈達の元へ向かおうとすると、ある一室から声が聞こえる。
緊急処置室だ。
足を止め、静かにドアへ耳を当て精神を研ぎ澄ませて盗み聞きをする。
「…………なんて奇跡、見た事ないよ。桜舞君」
「…!」
中から聞こえたのはずっと心配していた友人、桜舞の名前。
話し声を出す人物は気付いていないのか、何の反応も示さない。
安堵と疑いが同時に来るも今は安堵が勝ち扉の前で座り込んで涙を流す。
無事だったのだろう。
あの巨大な炎に包まれたと言うのに「奇跡」と言うのは生きていたからなのだろう。
しばらく扉の前で泣いていればガチャリと開かれる。
「わっ⁉︎か、神楽ちゃん…どうしたの!?ってその服…」
「あ、あ、…えっと鬼管養成学園に…入るんだね…?じゃなくて、あの…えっと!さ、桜舞君は生きてるよ!だい、大丈夫!」
#3 安否と接戦不敗
慌てる様にそう言っても神楽は完全に黙ったまま。
2人を無視して桜舞の寝込んでいるベッドの側まで行けば、一直線に見つめ涙を流す。
「…ばか、生きてんなら早く言ってよ…心配したんだから…ッ、」
そう吐き捨てれば目を擦り、顔を上げ2人の方を見つめる。
「私、鬼管入る。鬼が隠れて暮らすのはいやだ。鬼は人を襲わないって世間に教えてやるの」
「だから…私を鬼管に入れてください」
力強い眼差し。
それほど本気な様だ。
玲央奈と明羅は目を合わせ、互いを見つめる。
そして神楽へと視線を戻せば口を開いた。
「…おっけぃ、鬼管に入るなら相当な覚悟がいるよ。生き延びる為の厳しい訓練がある。それでも神楽ちゃんは耐えれる?」
「耐えれます。絶対、目標を成し遂げるから…」
「……だってさ、明羅」
「そっか、なら…豊臣神楽。鬼管養成学園入学を許可する。」
待ち侘びていた様に目を輝かせ、元気な返事を返す。
_____________________
明羅に連れられたのは神楽が元々通っていた中高一貫校に近い建物。
鬼管養成学園、通称鬼管だ。
待合室に入れられれば明羅と別れを告げる。
何もない部屋を探索しつつ、暇を紛らわす。
神楽は暇が余程嫌いなのだ。
ピシュン。
どこからかナイフが飛んできた。
音と共に避け、地面へよろける。
「何…今の…」
混乱を隠しつつ気配を探る。
何処かしらにはいるはずだ。
目の前を通り過ぎれば後ろを通り過ぎる。中々に厄介ですばしっこい人物の様だ。
そして神楽を惑わせると姿を表し、「ばぁ」と声をあげる。
「!そこかッ‼︎」
「おっと…出会い頭殴るのか…君、まだ自能力が出てないんだね?」
「…出てますけど、貴方。誰ですか」
「俺かぁ~、俺は鬼管養成学園講師。如月累徒だよ~‼︎いやぁ、久しぶりに女の子がきたからつい攻撃を…ぶはぁッ⁉︎」
雰囲気が一気にチャラくなり、眉をひそめる。
ナンパでもする様な口調で言い出せば怒りの限界と言わんばかりに累徒の顔面を殴る。
これが講師と思うと心配でしかない。
「あ、あるんだ!なら…今の実力を見せて貰おうか」
姿が徐々に消え、透明になる。
自能力だ。
神楽も念を込め、息を殺し自分の髪を一本抜き、大麻を作り出す。
巫女そのものの姿になれば大麻を振り上げ、口を開く。
「……古来より存在する獣(けだもの)よ、悪去し現代には似合わぬ遡行…喰らわずして命はないと想え!寿界の仙来、渧‼︎」
そう唱えれば大麻を振り下ろし、無数の札が地面を覆う。
そして、左に向ければ透明な累徒を追跡し出し一枚の札が手を拘束する。
「やっべ、完全に油断してた…w」
透明化がなくなり、地面に倒れ込む。
「…あ、が…ッ……げほ、」
「あーあー…やっぱ制御は出来ないかぁ~…肺が破れてるね、それ」
神楽の肺の位置を指でトン、と指せば目を細める。
軍帽の中から見える白い瞳は的確に肺の状態を凝視する。
「俺の自能力は全身全霊。自分の体を透明にしたり相手の体内を透視出来るんだよね、すごいっしょ。そんな俺も戦闘部隊なんだよ~?もー、まじ訓練頑張ったんだから。動けないでしょ、うちの相棒が蓮司のとこまで連れてってくれるさ」
そう、累徒が言えば後ろから人影が出てきた。
左目を眼帯で隠している女性だ。
その女性は息をしながら神楽を浮かし、彗月崖の元へと連れて行った。
「…なぁ~んで生徒を増やすかなぁ~…息成擬忠は鬼を殺すっつーのに…」
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息成擬忠【そっせいぎじょう】とは。
玲央奈達が説明していた自能力の名前であり、物の形状を変えることから擬態の擬が使われている。
この名前を知っているのは鬼だけなので外では自能力、と呼ばれている。
---
「_______い"ッッッ⁉︎」
「我慢しろ我慢、そのまま呼吸続けろぉ…」
涙目になりながら呼吸をする。
如月との戦闘で肺が破れるも、左肺だけで済み現在彗月崖のお世話になっている途中だ。
目線逸らし、適当な口笛をし下手に誤魔化す如月に彗月崖はゲンコツを一発食らわした。
「息成擬忠を使い慣れてねぇ奴に出迎え戦闘はするなとあれほど言っただろぉがぁ‼︎こういう奴が肺を破ってこっち来るんだ、てめぇの手下の一之瀬もよぉ…制御くらいしやがれやぁ?」
「すみません。負傷した者を運ぶのが私、一之瀬流杏の仕事で御座います」
「うっせぇよ…こいつに出迎え戦闘するなと言え。累徒、てめぇこれ以上やったら除籍すっぞぉ?」
「わりぃって、ついつい手が出ちまっただけじゃあ~ん蓮司~」
横で言い争いを起こす彗月崖と如月。
こちらは苦しんでいるというのにあちらは何だか楽しそう。
そう思えば殺意が湧き、眉がピクピクと動く。
そして苦しみがなくなれば如月に対して一つ顔面殴りを見舞いしてやった。
「せんせぇ…私をナンパしといて肺を破るとか飛んだクズなんですね…」
「ちょ、ちょちょ‼︎顔が笑ってないよ!目が、目が!!謝るから‼︎許してぇぇぇぇ!」
_____________________
…まぁなんとかなった様で今は教室に来ている。
なんとも沈黙が続いて気まずい。
「…自己紹介してね…ちょっと俺顔面痛いわ…」
「自業自得でしょうが」
ツッコむ神楽。
如月は顔面を抑えて痛みに耐えていた。
「…えっと、私豊臣神楽!15歳です、よろしッ⁉︎」
自己紹介をし終える前に空気が裂かれた様な攻撃に見舞われる。
持ち前の反射神経で避けるもどこから撃たれたのかはわからない。
キョロキョロと探していると1人、ツノを出した少年が神楽を睨んでいた。
「ねぇ、名前何…?なんで攻撃…」
「菱網 吐空。馴れ合いしない」
「お、落ち着いてぇ…僕は瀬凪 真迎です…っ!」
「桟土間 星流菜。以上」
「最近目覚ましました…桜舞です…」
「柊 狛李…ですっ」
全員が自己紹介を終えたあと、神楽は目を丸めた。
桜舞が目を覚まし鬼管に入学している。
その事実に驚きが隠せなかった。
だが、その驚きも束の間。吐空からの斬撃は止まらない。
反射神経で避けていくも、一歩間違えれば他のクラスメイトにも被害が及ぶ。
それだけは絶対に避けたかった。
「…っ、あんま使いたくないけど!去った善よ悪と引き換えろ…緋凱の染苒!」
札がツノに巻き付く。
数秒だけの自能力無効だ。
一瞬でも無効にすれば呼吸をし出すのが鬼、ならば即座に行動に移せばいいと思ったのだ。
ツノが仕舞われ咳き込む吐空に手を差し伸べるも叩かれ睨み付けられる。
それでも神楽は動じなかった。
昔からそう言う目で見られるのは慣れていたのだ。
「げほッ…武士の家系だからって…、調子乗んなよッ、」
「はいはいそこまで。これ以上やるなら如月先生は黙ってないぞ」
静止の合図で皆が黙る。
出迎え戦闘でその実力をわかっているからだ。
さっきまでヘラヘラとしていた目は鋭い眼光に変わり、一人一人を見ていく。
そして口を開き、
「お前らには今から即興戦闘をしてもらう。ただ無呼吸発動だとこれからの活動に限度があるから先に伝授をするんだけど…寿命が縮む。これだけは絶対覚えとけ。そして自能力…正式名称息成擬忠は悪ふざけに使うな。それで何人もの生徒がここで命を落としてるんだ、だからやるなよ。これは寿命を引き換えに起こすものだ」
空気が張り詰める。
その空気は如月を始めとした全員の目が物語っていた。
_____________________
広い戦闘場、そして遠くには観戦席。
生徒にとってはあまりにも広すぎる。
「今からここでお前には戦闘をしてもらう。俺がさっき伝授した方法を使って息成擬忠を発動しろ。守れなければこの場で即刻処分だ」
#4 実力発揮
如月の言葉にその場の全員が息を飲む。
実践出来なければ即刻処分______________
なんとも厳しい状況だ。
(息成擬忠…初めての無呼吸以外での発動だけど…桜舞はそもそも発動してるのか…?)
自分の心配より他人の心配が勝ってしまう。
誰にも比べものにならないくらいお人好しなのだ。
「戦う相手はこの通り」
一回戦目
神楽 対 桜舞
二回戦目
吐空 対 真迎
三回戦目
星流菜 対 狛李
「いざと言うときは俺が止める。お前ら生徒は相手から逃げろ。力には対抗出来ねぇからな」
______________
トップバッター。
最初の重要な役割だ。
始めをしっかりしなければ今後の訓練等に響いてしまう可能性がある。
バンッ。
試合の始まりを告げる鉄砲の音。
神楽と桜舞は即座に戦闘体制に入り、息成擬忠を発動する。
「息成擬忠…『変化祓い(シュリンダー・デット)』!」
「神楽昔から巫女好きだよね。息成擬忠『舞い散る枝垂れの歌舞伎』」
神楽は髪を大麻に、桜舞は姿を変える。
互いに似た能力なのかもしれない。
先制を仕掛けたのは神楽だ。
持ち前の運動神経で桜舞に攻撃していく。
しかし、全て避けられてしまう。
昔から一緒の彼にとって彼女の先制は見切っていたことだった。
「…『夜桜の襲撃・海舞』」
そう唱えると桜舞の後ろから鋭い花びらが無数に飛んでくる。
舞をする様に扇子を持ちながら華麗に避けていき、視界を塞ぐ様に上手く息成擬忠を使う。
距離を取れば桜舞の勝ちだった。
「勝たせるかっ…『世界樹の祈り、今神に捧げよう』」
一気に間合いを詰める。
一瞬でも隙を作ればいい。
懐に入れば勝ち筋が光立つのだ、「世界樹の祈り、今神に捧げよう」は少しの希望でも賭ける神楽にはぴったりなものだった。
勝ち筋があるかどうかを判別する能力。
光ればあり、何もなければ見込みなし。
そしてその判別は_______
「勝てる見込みありッ、_______!」
「もう畳み掛けるよ、『兆華舞の秘勝利』!」
一瞬で間合いを詰める。
桜を全て散らせる様に俊敏に動き桜舞の首元に大麻を当てる。
降参と言わんばかりに両手をあげ、持っていた扇子が崩れ落ちる。
疲れ果てた様に神楽は倒れ込み、慌てて桜舞がそれを支える。
「えっ、ちょ…ここは不味いって、神楽…起きて…」
「む、無理…疲れが一気に…」
「えー、なんだよそこデキてんのかよ」
「出来てねぇよ…おい、起きろって」
「運んでぇ~泣」
如月が教えた息を殺す以外の息成擬忠の発動法、それは…
「疲労代償にしたらここまでやばくなるとは思わんじゃん…運動できてもこれはしんどい…」
そう、何かを代償に呼吸を許し発動させる事。
代償はなんでも良い。感情でも疲労でも。
神楽は疲労を代償に、桜舞は無意識を代償に発動させたのだ。
「1日目にしては上出来さ。瀬凪、菱網準備しろー。桟土間、柊準備運動。豊臣、春咲観戦席向かえ。派手に荒らしやがって…流杏、直せ」
「御意」
どこから現れたのか、すっと姿を表し手を上に上げる。
すると散らばっていた瓦礫などが宙に浮き元の場所へと戻る。
抉れたあとは綺麗に消え、来た時の状態に戻った。
「…はぁ、弱そうな奴の相手をしてる暇なんざ僕はないんだけど?おいクソ教師、いつになったら卒業だよ」
威圧的にそう問いかける吐空。彼の信念はまだ誰にもわからないが、人一倍強いのがよくわかる。出会って一日目で鬼斬滅委員会会長の元娘である神楽に息成擬忠を使ってくるほどだ。相当な恨みを伴っているとしか思えないくらいによく扱えている。
投げられた質問に対して累徒は悩んだ。そんな質問は菱網が初めてだったからだ。もうすぐ卒業だね、などは元生徒たちとよく言い合ってはいたが入学して初日に聞く人は今回が初。だからどう回答するのが正当なのか如月累徒も一ノ瀬流杏もわからなかった。下手を言えばキレるからだろう。
「……実力がついてからじゃない?別に今の状態が悪いってわけじゃないんだけど、やっぱ希望する場所によっては前線に出るわけでしょ?なら心配されないくらいの実力を先生たちに見せて証明ができたら卒業じゃないの?神楽は何も知らないけど」
「それだとくっそ時間掛かるだろ。僕は早く卒業してお前の父親を殺したいんだよ。理由ぐらいわかるだろ?」
「はい〃行った行った。ま、豊臣の言うことも一理あるけどな。自分の身を自分1人で守れるようになったらお前らは卒業さ」
チッ、と舌打ちをすればそそくさと出て行く。回答を濁された怒りか、話を遮られた怒りか。そこは誰にも分からないが、足取りは先ほどより威圧感が増し、それを正々堂々と間に受けた真迎は怯んでいた。
さっきまでそこで激戦が行われていたとは思えないくらいに綺麗に直された訓練場に、真迎と吐空が降り立つ。
正反対の性格の2人が対面し、真剣な表情を浮かべる。片方は苛立ちのような、呆れのようなそんな雰囲気なのに対し、もう1人は怯えのような、緊張のような雰囲気を纏っていた。
両者が見合い、累徒が合図を出した瞬間、吐空が先制し攻撃を始めた。
「ひゃぁ.ᐟ.ᐣ」と真迎が避けたあと、空気が切れるような鋭い斬撃が直ったばかりの壁に跡をつけた。止まる気配もなく、本当に命を狙っているような勢いで何度も斬撃が飛んできてはそれをひたすら避けるだけのただの鬼ごっこになりかけていた。
「…はぁ、つまんね。ビビりが来る場所じゃねぇからここ。そんなに怖いなら地上にでも出て勝手に殺されとけばいいだろ」
吐空が苛つきのあまり吐いたその一言で逃げ惑っていた真迎が足を止めた。
幼い顔立ちが一直線に吐空を見つめ、口元が微かに震えているのが見てとれる。何か言おうとしても喉に言葉が引っかかり思うように出ない、そんな表情でただ真っ直ぐ見ていた。反論もない、そう感じ終いかけようとした瞬間、真迎が口を開いた。
「僕、は確かにずっと怯えてるし、気は弱いけど…でも吐空くんに馬鹿にされるほど弱い覚悟でここに来てない.ᐟ.ᐟ僕だってやる時はやるんだよ。でもすぐ行動に移せないから、だからそんな自分を変えたくて、少しでも誰かのためになれるような人になりたいって気持ちで来てる.ᐟそれも知らない人に、馬鹿にする権利はないから.ᐟ」
その言葉が響いた時、真迎は裁判官が法廷で叩く木槌、「ガベル」を手に持ち、振り上げた。
何気ないたった一つの行動で緊張が走り、余裕ぶっていた吐空が目を見開き冷や汗を流す。——————これはやばいかもしれない。そう本能が悟り、話しかけていた。神楽の霊気や桜舞の妖気、吐空の怒気とはまた違う空間そのものが裁判所になったような感覚が全員の肌に纏わりつき、観戦して居る側さえも発言が許されないような空気に悪寒とも取れるものを覚える。
真迎がゆっくり深呼吸し、顔を上げる。さっきの怯えは消え、今吐空の目の前にいるのは覚悟を決めた勇敢な少年そのものだった。
「菱網吐空。貴方を名誉毀損、及び侮辱罪、脅迫罪で権利侵害と判決し有罪であることを今ここで下す」
カコン、と乾いた音が響く。一見何も起こらぬように見えるがよく見れば吐空の動きが少し鈍くなっているのが分かる。
「は….ᐣ何だよ、これ…んな感覚俺しらねぇぞ、お前何した、何でこんな動き連れぇんだよ.ᐟ.ᐣ」
「僕の能力だよ。『即席裁判執行』、実際にある罪に当てはめて有罪判決を下す。罪の多さ、重さで代償が変わる。吐空くんには今三つの罪があって、行動制限、範囲制限、威力制限が設けられてる」
「チッ…そんな性格してながらにチート能力かよ、性に合ってねぇな。重要なものを制限されりゃ何も手出しできないし…降参。これ以上やっても墓穴を掘るだけだ」
終わりは虚しくあっさりとしたものだった。真迎が能力を解き、歩き出そうとした瞬間前のめりに倒れそうになったのを吐空が支え込む。さっきまで敵対し、煽り暴言を吐いていた少年が自分に勝った相手を支えるとは少し奇妙な光景だった。
観戦席にいた狛李が「青春.ᐟ.ᐣ青春ですかぁ~.ᐟ.ᐣ」と目を輝かせて言い、「うーん…まぁ部分的に見ればそうかもね」と神楽が返した。桜舞は感心したようにじっと見つめ、累徒は大袈裟に胸を抑えその場に蹲り、星流菜は興味なさそうに戦いの準備を始めた。
「ごめんねぇ…緊張を糧にしたら…こうなっちゃって…僕迷惑かけすぎだよね、吐空くん…」
「……別に。俺に勝ってんだから迷惑だとかネガティブ言ってねぇで正々堂々と威張ってろよ。病んでる暇あんなら少しでもなりたい自分に近付け。自分磨きしてんだろ、今のままじゃ意味ねぇぞ」
「….ᐟそうだよ、ね。僕正々堂々とする.ᐟでも今ちょっと足がすくんで歩けないから観戦席まで連れて行って…」
「は.ᐣあ゛ー…運び方に文句言うなよ」
「へ、.ᐣ」
膝裏を抱え、真迎を軽々しく持ち上げた。世間で言うお姫様抱っこである。
抱え上げられた真迎は顔を真っ赤にし、キャパを越えたのか沈殿して行った。それとは反対に吐空は何食わぬ顔で抱えた重みを感じているのか怪しいくらいに涼しい顔をして観戦席に戻っていた。
観戦席に入ってきた2人の状況を見て星流菜を除く4人が目を丸くして見つめていた。神楽は餌を待つ魚のように口をパクパクさせ、累徒はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべ、桜舞はその場に固まり、狛李は興奮気味に黄色い悲鳴をあげていた。
試し読み 公開は ここまで です .ᐟ.ᐟ
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