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第一章 第一話 水底のトリガー
誰かさんのサブアカウント
夜の秋葉原は、電子の海だ。
巨大なビルボードが放つネオンが、小雨に濡れたアスファルトを毒々しい原色に染め上げている。
行き交う人々は誰もがスマートフォンに目を落とし、世界の裏側で今まさに始まろうとしている「破滅」に気づいていない。
「——ターゲット、路地裏のビル3階に潜伏中。一般人の巻き込みは不可。派手にやっていいよ、紬」
耳の奥のインカムから、脳を直接くすぐるような電子音声が響く。
魔術管理局の情報分析官、神楽の声だ。
中央通りから一本外れた薄暗い路地。
雑居ビルの非常階段の影で、僕——|紡《つむぎ》は、手の中にある|自動拳銃《グロック17》の感触を確かめていた。
重い。
けれど、驚くほどに手に馴染む。
「了解。結衣、配置は?」
「いつでもいけるよ、紬。……絶対に、無理はしないでね」
隣から、鈴の鳴るような声が返ってくる。
そこにいたのは、管理局の制服である黒い外套をまとった少女、結衣だった。
艶やかな黒髪を夜風に揺らしながら、彼女は僕の右手をそっと握りしめる。その手は少しだけ震えていた。
結衣はいつもそうだ。僕が戦場に出る時、まるで二度と会えなくなるのではないかという、異様なほどの怯えをその瞳に宿す。
「大丈夫だよ、結衣。いつも通りやるだけだ」
「うん。信じてる。あなたの後ろは、私が命に代えても守るから」
結衣の言葉は、単なるバディの軽口にしては重すぎる。
けれど、10年前に「黄昏の旅団」に家族を殺され、孤独だった僕を管理局に迎え入れてくれたのは彼女だ。
その歪なまでの献身が、今の僕のすべてだった。
「よし、突入するぞ」
僕が足を踏み出そうとした瞬間。
頭上から、爆音と共にガラスの破片が降り注いだ。
「ガハハハッ! 待たせたな、お前ら!」
非常階段の踊り場に、巨大な影が着地する。
現世の最新突撃銃――アサルトライフルを片手で構え、獰猛な笑みを浮かべる男——僕たちの前線指揮官であり、兄貴分の|時雨《しぐれ》さんだ。
「時雨さん! 遅いですよ」
「わりぃわりぃ、|局長《おやじ》の説教が長引いてな。さあ、ネズミ駆除の時間だ。紬、結衣、遅れるなよ!」
時雨さんが突撃銃の引き金を引く。
放たれたのは通常の弾丸ではない。
青白い魔力の光を帯びた「魔導弾」が、ビルの壁を紙のように穿ち、奥に潜んでいた人型の怪物——旅団が使役する魔獣を炙り出した。
「神楽、魔力ラインのハッキングを開始してくれ!」
僕は叫びながらビル内へ飛び込む。
肉薄してくる魔獣の爪を紙一重でかわし、グロックの銃口を突きつける。
なぜ弾道が読めるのか。なぜ初めて対峙する魔獣の弱点がわかるのか。
自分でもわからない。
ただ、身体が、脳が、完璧な戦闘手順を「覚えている」のだ。
パァン、と乾いた銃声が響き、魔獣が霧となって消滅する。
「相変わらず見事な手際だな、紬。お前のその才能には、いつも惚れ惚れするよ」
背後から追いついてきた時雨さんが、僕の肩をぽんと叩く。その大きな手の温もりに、僕は確かな安堵を覚えた。この人がいれば、僕は間違えない。正義の味方でいられる。
「ありがとうございます。でも、まだ奥に気配が——」
「……ッ、紬、下がって!」
結衣の悲鳴のような叫びと同時に、空間が「爆発」した。
正確には、大気が引き裂かれたのだ。
赤い魔力の残光を引いて、闇の奥から一振りの美しい魔剣が突き出される。
「——管理局の猟犬どもが。これ以上、我らが王の庭を汚すな」
現れたのは、漆黒の甲冑をまとった男。
旅団の最強魔剣士、ルカ。
その圧倒的な殺圧に、僕の身体が硬直する。
しかし、僕の視線は彼の剣ではなく、その奥の闇に釘付けになった。
なぜだろう。
僕はあの男を、あの赤い魔力を、ずっと前から知っている気がする。
「紬、ぼうっとするな!」
時雨さんが僕を突き飛ばし、自らの銃でルカの魔剣を受け止める。
火花が散り、現世の電子ネオンが狂ったように明滅した。
これが、僕たちの戦い。現世の影で繰り広げられる、血塗られた日常。
この先に、僕のすべての記憶を弄ぶ、底なしの奈落が待っているとも知らずに、僕は再び引き金を引いた。
第一話スタァトォォォ!(深夜テンション)
はい。
どうも、誰かさんのサブアカウントです。
今回はギリぐろじゃないかな⋯
では!
追伸
一部のキャラの名前にその名前をつけた大事な理由があります
(時雨とか、ね)