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1話「いつもの部活」視点:3年2組 楠香苗
本作は実在する団体や人物とは一切関係ございません。
なんてことない市立の中学校、赤野中。
大会を目指し部活に明け暮れる生徒、逆に大会を気にしない、または無い部活は黙々と自分の作業をこなす普通の中学校。
私が所属する部活、園芸部は後者の部活だ。
部員の仲は良く、みんなで楽しく野菜を育てる。
なんてことない平穏な部活のはずだった。
ー部室にてー
「はーい。これから園芸部の活動を始めます」
初めてこの挨拶を聴いてから早3年。
今は、時々私も発する言葉となった。
まぁ、今日は部長の|椎奈 連《しいな れん》がいたから彼が言ってるけど。
私、|楠 香苗《くすのき かなえ》は中学3年生。部活では副部長だ。
他にも、図書委員もやってる。
正直、私があまり頼りになるタイプしゃないことなんて、とっくのとうに自覚している。
頼りになるタイプといえば……それは……
「すみませーん。遅れちゃいましたー」
「俺も遅れました」
噂をすれば。今部室に来たのは|梅田《うめだ》 ゆあと|竹田 新《たけだ あらた》だ。
ゆあは園芸部書記であり、同時に美化委員会の副委員長を務めている。頭の良くて、先生からの信頼も厚いけれど、ちょっと強気な子だ。私から見れば、一刻も早くその頭脳を分けてほしいものである。
新は園芸部副委員長であり学級委員。いつもは他の男子とわちゃわちゃ騒いでいるのに、しっかり者でもある。そして、ノッポ。152cmの身としては一刻も早く身長を分けてほしいものである。
真面目な部長の連、わちゃわちゃ副部長の新、頼りになる書記のゆあ、そして、読書家ってことだけが取り柄のもう1人の副委員長の私、香苗の4人で赤野中園芸部は運営されている。
今日、顧問の先生達はそれぞれ別の用事でいない。うちの部活ではなんだかんだよくあることだった。
「えーと、今日はプール近くの花壇を耕して肥料を入れます。どんな感じでやれば良いかは黒板に描いてある通りです」
わかりやすく、簡単にまとめられている文章。多分うちの主顧問の先生があらかじめ描いておいたんだろう。
連が軽く読み上げた後に、園芸部で今日集まっている部員20名は外へそれぞれ飛び出していった。
私も遅れて外に向かうと、ほぼ全員が数少ないシャベルの取り合いをしていた。
3年生は譲ってちっちゃいスコップ使ってやれよ……とは思ったが言わなかった。
ー花壇にてー
「やっほー悠羽。今日ちょっと暑くない?」
畑をちっちゃいスコップで掘っているついでに私が話しかけたのは1年生の|萩野 悠羽《はぎの ゆう》。家が近くて、彼の姉である|花梨《かりん》とは幼馴染で、彼の妹は私の弟の同級生。必然的に家族ぐるみで付き合いがあり、特に悠羽は弟としょっちゅう私の家でゲームをしている。
「あーうん。今日暑いよね。まだ、5月だよ?おかしくない?」
「わかる」
なんだかんだ、後輩の方が話しやすい。
先輩と違って、フランクに話してもなんも言われないし、同級生と違って気を使うことも無い。
「あ、先輩。こっち良いですか?」
そう言って来たのは2年の|柊 隼人《ひいらぎ はやと》だった。
部活も委員会も奇しくも一緒で、3年生の間では「次期部長最有力候補」と言われてる子。丁寧で用意周到と言った方が良いのだろうか。仮入部の時に部活に軍手をただ一人持って来て、元顧問だった先生を圧倒させていたのは今や懐かしい記憶だ。
「うん。いいよ。だってあっち3年ばっかだもんね」
実際、畑の反対側は3年生の陽キャグループが話しながら耕している。2年はちょっと気まずいだろうというのはすぐに察せた。
「はい。ありがとうございます」
そう言うと、隼人はすぐにスコップで掘り始めた。
異変が起きたのは、私のスコップからだった。
ポキ
明らかに土の中からはしちゃいけない音。
いやでもワンチャン土の中に枝とかが混じってるだけかもしれないし……
……なら尚更取り除かなきゃじゃん!!
植物の育成にも影響するし……
そう思って、私は掘り進めた。何かに「そうしろ」と言われているようだった。
そして、見えてきたのは白いもの。
土を被っているけれど、確かに白いものだった。
血の気が全身から引いていくのを感じた。
掘り進めたくは無かった。それが何か、気付いてしまったから。もし掘り起こしたらもう戻れない。そう悟ったから。
でも、何かに取り憑かれたように掘り進めていた。
取り出せたのは、白くて細い手だった。
「……先輩……それ……」
「香苗センパイ……なんですか……それ……」
後輩の声が聴こえてくる。
きっと、みんな私と同じような表情をしているだろうな。見なくともわかる。
「んー、どうしたの?楠さん?」
後輩達の人だかりに異変を感じたのか、ゆあが様子を見に来た。
しかし、それを見た時、血の気がさっと引いていた。
「……ほっ……骨……?」
いつの間にか、他の3年生も様子を見に来ていた。
「は……?なんで……?」
「ちょっ……どういう事だよ……楠……」
待って、私は絶対に人を殺してない。
この世に生を受けて14年と少し。友達とはぎくしゃくする事もあったけど、優しさと好きを大切にする事とこの瞬間を楽しむことに命を懸けてきた。友達も少なくはないし、親友とも呼べる子もいる。多少、親や先生に反抗した事はあるけど、最終的には和解もした。めっちゃ恨みを買った記憶も無いし、そこまで人を恨んだことも無い。
てか待って、ポキって音したけど私死体損壊しちゃった?犯罪じゃん!やば、捕まっちゃうじゃん!私捕まりたくない!!
「……なんで……」
ぐるぐると回る、言葉に出来ない言葉達の中からやっとの思いで絞り出されたのはこの一言だけだった。
「……っ。警察を呼ぼう。これは事件だ。」
連は様子を見て、警察を呼ぶべき事態だと察したらしい。
「じゃあ俺、先生誰か呼んでくる!」
そう言って、新は校舎に向かって走っていった。
なにも言えなかった。
ミステリー小説は好きだ。殺人事件が起こるやつは特に大好きだ。今まで見てきた世界が全部ひっくり返っていくのが好きだ。
今、私は小説の登場人物の気持ちを知った。
悲鳴すら出てこなかった。
ふと、今日確か塾あったなと思い出した。
でも、どんな形に転んでも、塾には行けそうにない。
ー1話 終ー