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情とは依存、ともなう縛りそれは愛
目の前に広がっていた景色には、私の身体の熱が段々と上がっていき、喉が乾いて、ムワッとする湿度に内臓が蒸されてしまう程に熱いのに、まるで目の前で私の手によって乱れた女に酷い嘘をつかれ、騙さされてしまったかのような大きなショックを受け、募っていく不信感が肌の表面の温度を急激に下げ、鳥肌が一気に身体の末端からゾワゾワと上に上にと、広がっていった。どうしてだろうか。この女には息が上がって首筋から肩まで真紅に染まり、目を合わせる事も恥ずかしいからと、背中を向けて汗で彼女の短くぷつりと毛先の揃った後ろ髪がうねって湿る、長くて細い首筋に張りついて、首をこてんと傾けてその綺麗に真っ直ぐな髪に潜んで色めかしい視線を此方に向ける、愛しい彼女。そのいじらしい姿に、唆られて、こたえるようにその、甘い香水が汗と交じってラストノートとなり、彼女の甘さとあどけなさそして、私の愛を一心に受けそれに応えるよう、『貴女の愛しい私を見て』と訴えかける愛を享受し、支配的に微笑み、何処かかげりのあるその表情をじっと見つめ、艶々とひかる背中を両腕できつく抱擁し、女の子らしく甘くて可愛らしいシャンプーの香りが肩口からふわふわと漂って、肩からうなじそして鎖骨へと順に唇を当てつけていく。その行為に彼女は甘い嬌声を僅かに漏らす。ふーっとみるみる紅くなり、温度が上がっていく彼女の身体を私の冷たい舌で舐めとる。耳裏までじっくりと虐めぬくと辛抱かなわず、勢いよく私の胸に飛び込み、今にも泣き出しそうな淡くうるうるとした瞳と共に、真っ赤になった頬と唇が私の唇に迫ろうと顔が近づいてきた。なんだか余裕のない彼女がいじらしくて、可愛らしくて、愛おしいと思った衝動にかられ、小さな頭を腕で鷲掴むように抑えてそのぽてっと丸く、小さな唇に思い切りかぶりついた。理性なんていう咎なんて既に捨ててしまったように一心に互いを求めて、受け入れる。次第に彼女との息遣いや目線がゆっくりと間合いをもって、調和していく。苦しいくらいに、痛いくらいに胸の中で心臓が跳ねている。「興奮」ってこういう事をいうのか、と変に俯瞰的に頭が働くも、彼女の一挙手一投足には目が離せない。こうして身体が重なるという快楽は恐ろしいくらいに人のブレーキを破壊させる威力があった事に今更、驚かされていく。そうして互いの隙間を無くしてひとつに紡ぐ、生温い体温で汗となって溶かされていく。
……………
あれからもうどれだけの時間が経ったのか、わからない。まだ深く眠り続ける彼女を起こさないように、ベットから起き上がり、掛け布団を肩まで掛けてやると、ゆっくりとカーテン越しに雫が反射している濁った明かりが漏れる窓に近づく。もう息の乱れようもないのに、まだ心臓がやけに背中や手のひらにうるさく響いている。あれほどにかいた汗は、籠った匂いと合わさった形跡は残したものの消えていた、というのに相変わらず、窓の外の雨は止む事はなくて、そればかりかトントンと屋根に弾く雨音はザーという古い機械のモーター音のような不快なノイズが空から降り注がれている。
いつも通りの1日であったなら、この雨もいち早く止む事を望んでいただろう。
否、彼女と出会った時から、既にいつも通りなんていう不確定でいて安心感のある日常など、もうとうに消え失せてしまっていただろう。
雨が止めば、きっと我にかえってしまう
梅雨があければ、もう二度と………
鼻歌交じりにショッピングモールを1人で練り歩く。どうやら大勢の人間との関わる時間の割合より、1人で気ままに過ごす時間を多くとっていた方が性にあっている、とここ最近気づいた。
その事実を受け入れるのには、少々抵抗があったが、こんなにも悠々自適な時間を過ごせる1人の時間というものに気付いてからは大人しく、対人関係に関する苦手意識を受け入れている。
もうかれこれ、大人になって何年経ったのだろうか、とふと思い起こし、浸る事も1人であれば気軽に出来る。快適で充実した休日にして満喫しようと気合いを入れてまた、違う階層へと繋ぐエレベーターへ向かい歩く事を繰り返す。趣味や生活必需品と違った、生活に彩りを与える事に関しての物欲が昔からあまりなく、社会生活を送る上での買い物は最低限できる方だと自分を認識している。だからこそ、必要な物以上に欲しい物を、という近年のご褒美システムか未だに理解できないところがある。読書や音楽といった娯楽文化には物質的なものとして保存できるが、ゲームや推しといった、不確定要素の多いものに対して心が動かないのだ。
そんな私が、不確定でフィクションで都合の良い物語を描き、売り、それで毎日うまい飯をしこたま食っているのだからなんとも不思議な話だ。
丁度、目当てのアパレルファッション店へと着いた。この店は価格帯も機能性も優れているし、何よりもデザインが好みだ。さて、今日はもう直ぐ夏も来る頃だし、Tシャツを何枚か買い込むとするかな、と様々なコーナーをぐんぐん進んでいき、流行り物のキャラクターとのコラボTシャツが販売しているコーナーへと最終的に行き着いてしまい、正直なんの興味もないキャラクターを単純に可愛いから、気に入ったからと身につけて、周りに好きでもないのに?と、何故だか冷めた目で見られた事が大昔にあってから気が引けてしまい、こういったコラボなどのコーナーは服屋以前に、全てにおいてあの不愉快な記憶が無条件に反芻されるので嫌だ。それに近年はヲタク文化がじわじわと若者を中心に当たり前に浸透していき、それぞれの趣味嗜好に余計な干渉が野暮だという事にようやく世間が気づき始めてきたのはいいものの、それ故に"誰某の軽率な言動がどうこう"といった、リスペクトが感じられない好意的な言動を無差別に叩き潰す風潮もよくみられる。ネットの普及も相まって、『匿名』という|誰もが簡単に自身の意思を平等に貫ける権利が得られた《軽はずみな言動に大いなる責任の排除が可能になった》事が、何よりの要因であろうが。
ああああ、思考が散開していく。
やっとこさ、えられた休日だったというのに。
これも職業病なのかもしれないな、なんて隙あらば、脳の休息を阻む回転速度に見切りをつける。
はあ、こんな時いつも私を労り、慰めてくれた彼女が恋しくなる。
それほどに彼女の存在は私にとって大きなものだ。10年前に別れたはずなのに、今も私は飽きもせず、彼女のそばに……………
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ネガティブな思考に陥っていき、買い物どころではなくなっていく精神的疲労度にまた自らの"被害妄想"でどん底へと落ちていくスピードに拍車がかかる。そのまま一定のリズムで歩き続けて、遂には気づけばフードコートまで行き着いてしまい、『take free』と書かれた表示の下にある紙コップと蛇口から水を汲んで、勢いよく飲み干した。
そのまま空になった紙コップを捨てようとゴミ箱を探していたら、
ふと、ポケットのおくそこに眠っていたスマートフォンのマナーモードから、バイブして、足に振動が軽快なリズムで着信がかかっていることが伝わる。きっと、仕事の電話だろうと、悶々としながらポケットから取り出すと、珍しくその予想は外れていた。
彼女からの電話だった。迷いや戸惑いなんかに、翻弄される私に彼女は、気づいていないのだろうか。それとも、既に彼女は全て受け入れてしまったのだろうか。だとすれば、ここで切ってしまうのは身勝手すぎる。私は既に、彼女の元の居場所から望んで引き摺り落としたのだから。
己の軽率で、稚拙な言動の数々が記憶によぎり、その度に彼女を結果的にいつも苦しめていたのかもしれないと、身体の節々に痛感する。そんな罪悪感ともいうどこまでも自己中心的な感情に苛まれながら、居ても立っても居られずに、直ぐに電話に出た。
「………もしもし、」
『!…もしもし……|朔吉《りきち》さん、こうやって話すのは久しぶりね』
「……そうかもしれないね、あぁでもこの前2人で話したばかりだから案外久しぶりでもないのかも」
『、そうね……』
「ねぇ、どうして今日になって電話を?……」
『っそれは、……………』
「ああ、ごめんね。急かしたい訳ではないの」
『ただね、伝えなきゃいけない事があったから、思い切って電話をかけてみようと思ったの。』
『…………っ、今度の日曜日にどこかで会える?』
「っ…………それ、本気?」
『………うん、』
「…………わかった……また連絡して!今度の日曜は丸一日空けとくから、時間とか場所は好きに決めて」
『ありがとう、じゃあまた…………』
表情が固まったまま、耳元にあったスマートフォンをポケットへとまた戻す。
最悪な気分だ。こうしてまた、2人で会える事に無邪気にも喜びを感じてしまう、自分に吐き気すら覚えた。ふと、手にした紙コップを捨てなければと、冷静な頭に切り替えるように手元を見れば、持っていた紙コップはグシャグシャに握りつぶされていた。手のひらの乾燥が酷くて角が指に食い込んで、摩擦で赤くなっていた様に、大きな溜息が漏れてしまう。
とりあえず、彼女に会っていくために新しい服を買いに行こうとグシャグシャに丸まった紙コップだったモノを乱雑に『燃えるゴミ』と赤く大きな文字で書かれた蓋付きのゴミ箱に投げ捨て、人混みに溢れ返り、侘しい私をかき消す騒々しさに少しだけ救われた。私は重い足取りでフードコートを後にした。
「いらっしゃいませー」
明るく、軽やかな声色で先程まで訪れていた、アパレルファッション店の店員が私を出迎え、期間限定セールを大々的に宣伝していた。
「すみません。ラフで動きやすく、きちっとした印象のパンツってありますか?」
何となく、彼女のいつも見る私服姿とは違った格好で会うことになるのだろう。と予想して、柄にもなく、店員に声をかける。
「はい!そうなりますとー、あちらの看板の下を通った先にお勧めの商品がいくつかございますー」
「では、ご案内致しますねー」
………………
「じゃあ、これとこれを試着します。」
「はい!かしこまりましたー。では女性用試着室までご案内させていただきますね」
いやに、丁寧な接客をされて少し疲れてしまう。店員の首から下がる名札にはバッチが2つほどあったので、とても仕事のできる人なんだなぁと勝手に詮索まがいな思考が働き、自己嫌悪に陥る。
それより、無自覚にも彼女との約束に舞い上がっている自分がまだ心に巣食っているこの状況が、一番怖いとさえ、思う。
私はここまで彼女を想っていたとは、付き合っていた時には気づきもしなかったというのに。