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【第1話】ターゲットが同業者だった。
※若干のBL要素があります。(全体的な空気感、匂わせ程度)
俺は、世界一の殺し屋と名高い男・阿部。
仕留め損ねたターゲットはいないし、それ故任務成功率も100%。
殺し屋といえば俺と言われるほどの評判だった。
速い(殺害が)安い(価格が)うまい(殺害が)をモットーにしているため、
一般人でも俺に依頼ができるというのもいいところらしい。
そんな俺に今回依頼をしてきたのは、初老の上品な男性。
こんな人でも殺したいやつはいるもんなんだな、という印象。
ターゲットはコンビニの店員。
...コンビニの店員????????????
自分で殺せよ。いやそれ言ったら俺の商売は終わりか。
受け取った写真に映るコンビニ店員は、パッと見普通の男。
前髪を正面で分けていて、色も相まって絹のようにも見える髪の毛。
タレ目かつジト目で、無気力そうにも見える目元だが、
きりっと吊り上がった眉毛が、意思の強さを感じさせる。
まあ...普通より少し容姿がいいだけの一般人だ。
色白で細そうだし、多分小難しいことしなくても首絞めて殺せる。
しかし、この男がなぜこの男性の恨みを買ったのか...
「あのー、野暮なこと聞くようですが。
この男はなにか、あなたの気に障ることをしたんですか?」
「......どうやってとろろ蕎麦を箸無しで食えというのか」
「...はい?」
要するに、とろろ蕎麦を買ったときに
箸をつけてもらえなかったというのが、
この依頼をするに至った原因らしい。短気な爺さんもいたもんだ。
まあ、依頼されたからには完璧にこなす。
それがこの俺のモットーだった。
深夜、件のコンビニに足を運んだ。
リサーチ通りなら、あのコンビニ店員がひとりでいるはずだ。
「らっしゃっせー」
自動ドアをくぐり、響く入店音と同時に、
無気力で少し雑な挨拶が聞こえてくる。
見ると、写真通りの容姿の男がそこにいた。
生で見てみると、本当に弱そうに見える。
こいつを殺して金をもらえるなら、ボーナスステージのようなものだ。
調べどおり、他に店員もいないようだった。
店中の監視カメラは、すでに相方がジャックしてくれている。
あとは俺が万引きをすれば、あいつにバックヤードへ連れて行かれる。
そこで殺せばバレにくい。完璧だ。
そう考えながら、チョコレートをポケットに滑り込ませる。
瞬間、背後から気配を感じた。コンビニ店員だ。
そんな馬鹿な、さっきまでレジにいたではないか。
動いたのなら物音がするはずだ。
計画通りだとはいえ、この身のこなしはなんだろう。
「お客さん、ポケットにチョコレート入れましたよね」
「入れてないっす」
「ビターチョコ入れてましたよね」
「入れてないっす」
「カカオ60%の」
何者だこの店員、あのレジから見ただけじゃ
そんなに細かいことは分からなかったはずだ。
だが俺が万引きしたのは確かにカカオ60%のビターチョコ。
視力が良いというレベルではない気がする。
しかもここはあそこのレジからは若干の死角になっている。
「...やりました」
「とりあえず裏来てもらえますか」
少しの敗北感と一抹の不安を胸に、
俺はバックヤードへと連れて行かれた。
ここまで来たらもういいだろう。さっさと終わらせたいと思い、
店員の細くて白い首に手を伸ばした。
すると、絶妙なタイミングで店員が振り返ってきた。
「...なんですか?」
「え、ああ!あはは...服にゴミついてますよ」
「......どうも」
こちらの様子をうかがうような、疑うような表情で見つめてきた。
お互い一歩前に出た瞬間、また店員が振り返った。
今度はなにか、そう思い身構えるも、バックヤードの扉の鍵を閉めただけだった。
なんだ驚かせやがって、そう安堵したものの
違和感に気がついた。
普通こういう時は、すぐ助けを求めれるように鍵は閉めない。
何かあってもいいように、だ。
なのにこいつは鍵を閉めた...気付いたときには遅かった。
店員が握ったアイスピックが、首元を狙って振り下ろされる。
すんでのところで避け、驚いた俺は問いかけた。
「ちょちょ!どういうつもりだあんた!」
「お前、殺し屋の阿部で間違いないよな。わたしはお前が殺したやつの
遺族から依頼をもらった殺し屋だ。何か知らないが、都合よく
のこのこ来てもらって助かったよ」
「はぁ!?」
まさかターゲットが同業者だったとは、
ガンジーも驚いて人を殴るレベルの想定外の事態だ。
俺もここまで想定して仕事をやっているわけじゃない。
さて、どうするべきか....
考えていると、店員のスマホに通知が入ったようだ。
スマホを取り出し、なにやら画面を穴が開くほど見つめている。
すると突然、アイスピックを仕舞いバックヤードの鍵を開け、
そのまま歩いていってしまった。
「おい!どういうつもりだ!」
「彼氏からLINE来たんだよ。帰らないと。
またお互い、すぐ会えるだろ?大方、お前のターゲットがわたしだった、とか。
そういうことなんだろうしな」
「うぐ...やっぱりバレるか...」
そのまま帰ろうとする店員だが、何かを思い出したように振り返り
俺の方へ走り寄ってきた。今度は何だというんだ、自然に身構える。
「一応LINE交換しとくか?」
「は?」
そうして、俺はターゲットと連絡先を交換した。
登場人物紹介
【阿部】
なんやかんや言ってこの仕事に誇りを持っている。
もちろん戦闘能力は非常に高いものの、それ故油断が多く、
その油断を突かれると反応が遅れるのが欠点。
【橘(コンビニ店員)】
とろろ蕎麦に箸をつけず、ミニトマトをレンジでチンする。
その所業から恨みを買っており、クビにされたバイトは数知れず。
実は殺し屋。まあまあ強い。彼氏がおり、連絡が来ると
店にいるのが自分一人でも帰る。社会不適合者。