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【第2話】ターゲットがバ先クビになってた。
※BL要素があります。(少しのセンシティブネタあり)
「それで、ターゲット取り逃がしたんすか?」
そう、ふてぶてしい様子で任務のことを聞いてきたのは、
相方である二川。男性くらいのショートカットで、
ボーイッシュな服装を好む少女...
...少女に見える、成人女性。
こいつは優秀なハッカーだ、前もコンビニの
監視カメラをジャックしてもらった。
そのせいで俺の醜態も、こいつに筒抜けだったらしいが。
だが、あんなことを誰が想定できるだろうか。
「うるせぇ!お前だって俺の立場になったらわかるさ。
あんなの誰にだって予測できねえよ!」
「あーそうっすね、ところでLINE返さないんですか?件の橘さんに」
「う...」
橘、というのはLINEのユーザー名から知った
あのコンビニ店員の名字だった。
そしてその橘から、LINEが来ている。
だが俺はどう返せばいいか分からず、なかなか返せずにいた。
殺し合う者同士、LINEでどう挨拶すればいいというのだ。
とりあえず、もう一度来たメッセージを見ることにしよう。
LINEを開き、トークルームを覗く。
《お世話になっております、橘と申します。
これからお互い殺し合う身として、連絡先の交換をさせて頂きました。
早速ですが、今日のご予定などありますでしょうか。》
堅っ苦しく、つらつらと並べられた文章が読み辛い。
まるで仕事上の必要事項を送るときのようだ。
いや、仕事上の必要事項を送っているのか。
最後の一文なんて、”今日お前を殺しに行くけどいいか?”という意味なのだろう。
なら、別に構わないから予定はないと伝えよう。
《こんばんは。予定ないです。今日会いたいのですがいいですか?
あのコンビニまで迎えに行くので》
(意訳:上等だこっちから殺しに行ってやるよ。お迎えは必要か?クソガキが)
これで問題ないだろう。送った瞬間、すぐ既読が付き
光の速度で返信が来た。入力速度どうなってんだ。
《大変申し訳ございません。当方、あのコンビニは解雇されました。
今再就職場所を探している最中ですので、そこに行ってもわたしはおりません。
もし迎えに来てくれるというのなら、家までお願いします。
住所→■■■■》
こいつは頭が湧いているのだろうか。
いや、頭が湧いているんだろう。一人しかシフト入ってるやつがいないのに、
職場ほっぽって彼氏に会いに行くようなやつだ。
まさか家に迎えに来い、なんて言われるとは思ってもいなかった。
だが、ここで断るのは負けた気がする。これ以上こいつに負けたくはない。
《おk》
一通りやり取りが終わり、俺はスマホの電源を落とした。
とりあえず、今から迎えに行こう。
「阿部さん、お出かけっすか?」
「あいつの家まで迎えに行くことになったんだよ...
あとで住所送るから、周辺の監視カメラはジャックしといてくれ」
「了解っす、ぱーぺきにジャックしとくっす!」
「今時古いぞぱーぺきって...」
職場兼隠れ家兼自宅であるアパートの扉を開け、外へ出る。
日はすっかり落ちており、外でドンパチやってもバレなさそうだ。
あいつ...橘の自宅は、ここからそう遠くなかった。
俺のアパートから真っ直ぐ行くと例のコンビニ、そこを右折し
しばらく歩いたところにある十字路を、さらに右折する。
そこからさらに真っ直ぐ歩けば、橘の自宅がある。
住所が示す場所には、俺が住むアパートよりも汚いボロアパート。
殺し屋ってのはこういう場所に住むものなのか...そう思いながら、
102号室のインターホンを鳴らす。
...鳴っている感触がしなかった。壊れているのだろうか?
強めにノックすると、扉が開いた。
「ああ、悪い...うちのインターホン、壊れてるんだ...」
「いや別に...それより顔赤いけど熱でもあるのか」
「熱出してるときに、お前に連絡するバカがいるか...」
玄関先でそんなことを話していると、部屋の奥から
大柄でチャラそうな男が出てきた。
「あぁん?たっちゃん、その男誰だよぉ」
「さっきも言ったでしょ、前の職場の友達だって...」
「それよりもっと遊ぼうぜぇ、夜はまだまだ長いだろぉ?」
「悪いけど、この人が先客だから...今日はもう無理」
男は大きな舌打ちをして、部屋の奥に引っ込んでいった。
こいつにも二川のように相棒がいるのかと思ったが、
どうやらそういう様子ではない...ということは、さっきのは彼氏なのだろう。
そして何より俺が腹を立てているのは、殺し合いの前だというのに
その彼氏と一緒に、随分お楽しみだったのだろうということだ。
こっちは仮にも世界一の殺し屋だというのに、まったくの無名のこいつに
舐め腐られているということが、どうにも納得いかない。
少しイライラしながらも、橘と人目につきにくい場所を探すことにした。
「あいつ、明日こそ殺してやる」
「おい、ターゲット以外を殺したら足がつくぞ」
「は?そんなの構ってられないな。殴る蹴る首締めるゴム付けない息臭い...
こんな男、生かしておく価値なんて万にひとつもない」
「なんで付き合ったんだよ」
おかしなことに、こいつは殺し屋のくせに
DV彼氏に悩まされているようだ。
まあ、今日殺してやるからもう悩むことはないだろうが。
だが、俺は心のなかで少しだけ、ほんの少しだけもやもやしていた。
別にこいつのことを心配しているなんてことは、
そんなことは月と太陽がランバダしても無い。
登場人物紹介
【二川】
プロレベルのハッキング能力を有する、ボーイッシュな少女。
...に見せかけてボーイッシュな成人女性。
エナドリが大好きで、水の代わりにエナドリで米を炊く。
阿部にはかなり不評。
ちなみに阿部のことは異性はともかく人間としてすら見ていない。
【橘の彼氏】
DV野郎。アレは結構でかいらしい。
顔は中の上くらい。