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変化
歳を取る、背が伸びる。それは人間にとって避けられないもので。
「少し身長が伸びたかな..」
全身鏡に映る自分を見る。
「変わったなぁ..」
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『あんたもうそろそろ卒業でしょ?それで、就職先はどうするの?』
親が問いかける。
「どうしようかなぁ」
卒業なんて、したくない。だって
(大人になんて、なりたくない)
『どうしようかなって..ちゃんと考えなさい!』
声を張り上げられる。
「そんなこと言われてもさ」
少しの言い合いが始まる。
ダンっ!
[こっちは仕事で疲れてんだよ!勘弁してくれよ..]
父親が机を叩き、そう吐き捨てる。その目の下には、クマができていた。
(大人に近付くことの何がいいの?)
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小さい頃は、近所のケーキ屋で働いていた店員さんが憧れだった。
いつもニコニコしてて、明るくて。
でも、それすらも作ったもので。
営業終わりに、少しドキドキしながら店員さんに手紙を渡した。店員さんは嬉しそうに受け取ってくれた。私も、嬉しかった。
手紙は道路の脇に落ちていた。
その翌日に店員さんに「手紙は読んでくれた?」と聞いた。店員さんは、素敵な笑顔で『読んだよ〜!素敵なお手紙ありがとうね!』と言った。
いつのまにか憧れなんて消えていた。
大人になれば、自分が自分では無くなってしまうのだろう。
それなのに、いつの間にか店員さんのような笑顔ができるようになっていた。
(もういっそのこと、これ以上変わらないようにすればいいのかな)
時間が存在する限り、私は変わり続ける。
それなら、時間を止めて仕舞えば変わらなくて済む。
『明日一緒にケーキ買いに行くからね』
1階から母親の声が聞こえ、適当に返事をする。
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深夜0時、ドアを開ける。
変わらないままでありたいから、綺麗に保たれるよう海へと足を進める。
「遺言も書いたし、あとは変わらなくなるだけか」
しばらく歩き、段々と潮の匂いが香る。
浅瀬の方に足を踏み入れ、ちゃぷちゃぷと深い方へと進んでいく。
(昔の私だったら、自殺なんて御免だったろうな..変わっちゃったなぁ)
肌を突き刺すように冷たいはずの海水が、今は心地よい。
ふと、足が止まった。
本当に、これでいいのだろうか。結局私は変わった状態で死ぬことになる。
いつか見た、誰かの笑顔が思い浮かぶ。
それが何を意味するかなんて、私には分からない。
(でも、大人になるのは嫌だ)
足が波を掻き分ける。
今はただ、体を預けていたかった。