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バツはもうないよ
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2025/12/31 バツはもうないよ
朝、起きた私は、いつも通り身支度をした。7時50分に家を出た。本当は7時35分に出ないといけなかったが、親は叱ってこなかった。いつもはもっと早くに起きなさいなんてぶつぶつ言ってくる。
朝、起きたときから、違和感があった。外に出て、やっぱりおかしいことを確信した。
朝、起きたとき、音がなかった。鳥の鳴き声。車のエンジンの音。蛇口から水が流れる音。日常に溢れているはずの音が、何もなかった。
朝、起きたとき、親はいなかった。リビングもキッチンも、洗面台も、無人だった。だから叱られなかったのも、当然と言えば当然のことだった。
人が1人もいない。車も通っていない。それでも私は、学校に向かって歩いた。信号機は機能していて、私はそれが青になるのを立ち止まって待った。私の足音と息遣いが、この街を支配しているようだった。10分歩けば、学校が見えてきた。遠目には白く見えるが、近づけば少し汚れた、灰色と黄色が混じったような色をしている。
門をくぐって、下駄箱で靴を履き替えた。いつもなら靴箱には上靴と制靴が混ざっているのに、今日は私の靴箱以外の全てが上靴だった。まだ誰も登校してきていないのがわかった。私は静寂に包まれている廊下を歩き、階段を上り、また廊下を歩き、教室のドアに手をかけた。横に引く。想像通り誰もいない、薄暗い教室に入った。電気がついていないのだ。カーテンは開かれているが、窓の位置が悪いせいで光はあまり入ってこない。
電気のボタンを押す。チカチカと点滅したあと完全について、教室は見慣れた明るさになった。自分の席に座り、自習用の問題集とノートを取り出した。この調子では先生も来ないのだろうから、1時間目の理科の準備をする必要はない。ノートにシャーペンを走らせ、消しゴムで擦り、多色ボールペンの赤を出す。解答と照らし合わせながら丸付けをする。マル、マル、マル、バツ、バツ、マル、バツ。バツが多くて嫌になる。前のテストの点数も悪くて、先生にもっと頑張れよと言われた。
数十分の勉強の後、休憩をとる。癖で消しかすを床に落としてしまい、あっと声がもれたが、誰もいないことを思い出し安堵する。つい昨日、私に「こっちに消しかす飛んでくるから、やめて。」と言ってきたクラスメイトも、今はいない。そこまで考え、ふと気づく。誰もいないんだから、嫌いな勉強を頑張る必要なんてないと。
伸びをしながら、改めて教室を見回した。誰も座っていない席がたくさん並んでいることが少しおかしくて、笑いが落ちる。時計の針の動く音がやけに大きく感じる中、私は椅子を引いて、教室を出た。
屋上に続く階段を上がった。「立入禁止」と書かれた看板を横にずらす。ドアは、錆びついているせいでほとんど体当たりしないと動かなかった。ぎいいと悲鳴にも似た音を聞きながらドアを開けた。夏の匂いがする風が私のスカートを揺らした。初めて出る屋上の地面は、結構汚れてる。けれどそれ以上に爽やかで気持ちが良かった。私は柵に駆け寄り、もたれかかった。雲ひとつない空は、私の晴れやかな心を表しているようだった。
きっとこの世界には、私以外誰もいない。他の場所には誰かが当たり前みたいに生活しているかもしれないのに、私は確信していた。根拠はなかった。
バツが多い人生を送ってきた。でも、もうバツをつけてくる人はいない。親も、先生も、クラスメイトもいない。今度は私が、私に対してひたすらにマルを与え続ける。
バツが多い人生を送ってきた。←「恥の多い生涯を送ってきました」のパクリ???
まあちょっと違うしだいぶ違うし( ´Д`)y