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二話「迷いの中で、私は___」
ペンナ山中腹に戻ると、私はソウから下りる。ソウはブルブルと毛を震わせた。はらはらと毛が舞い落ち、私は毛だらけになってしまった。私はソウを真顔で見つめる。
ソキウス「す、すまん………。」
気まずそうにソウは謝った。私はふんと鼻を鳴らす。許すということだ。気を取り直して私はにっこり笑うと、バッグからブラシを取り出した。ソウの目が少し輝いたように見えた。私はソウの体をブラシで撫でる。ソウは気持ちよさそうに目を閉じ、喉を鳴らした。その声に私も嬉しくなる。最後に耳の裏を手で撫でる。ソウはごろんと横になってお腹を見せた。ソウは耳の裏を撫でられると無力化する。私はソウの横に大の字で寝転がる。
セレ「ちょっとお昼寝しよっか………。」
私は目を閉じた。すぐさま夢の中への道が開ける。私はうとうとしながら寝息をたて始めた。ソウが寄り添って来てくれたことを感じると、安心して眠りについた。
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広い草原を私はソウと駆け回った。笑い声が草原に響き渡る。ふと、ソウが立ち止まり、私も立ち止まる。
ソキウス「セレ、なんか聞きたいこと、あるだろ?」
ソウの言葉に、私はコクリと頷く。
セレ「なんでソウは私を選んだの?」
ソウ「それは_____。」
その答えに私は微笑んだ。そんな夢を見て、起きたのは十一時半頃。他は鮮明に思い出せるのに、ソウの答えだけが思い出せない。もやがかかっている。私は怒り顔でソウを見る。その顔にソウは驚いている、というか恐がってる。
ソキウス「セ、セレ?悪夢でも見たのか?」
私は話そうと思って、口を開けて、噤んだ。私はそっぽを向いて、首を横に振る。
セレ「なんでも、ない。」
ソキウス「そうか。」
ソウはやたらに詮索しない。それが、心地よく、少し寂しい。ソウが再び驚いた。
ソキウス「セレ!?」
セレ「え………?」
その時、頬を水が伝った。私は泣いていた。
ミナリカ「セレ~?」
茶髪の女性がこちらに向かって来る。リライナのママ友のミナリカさんだ。ミナリカさんは私を見るとぎょっとした。
ミナリカ「セレ!?」
私は慌てて服の袖で目を乱暴に擦り、笑顔を作った。目の端が若干赤いだろう。
ミナリカ「狩り、やめとく?」
私はそろそろ狩りの時間であることを思い出す。私は少し迷った挙げ句、結局行くことにした。
セレ「ちょっと、弓矢取ってくるから先にアルクスの森で待ってて!」
私は走り出す。ソウが察して、駆け寄ってきてくれる。私は走りながらソウの首根っこの毛を掴み、飛び乗る。ソウの翼が開く。それはまるで、銀を辺りに散りばめたようだった。何度も見たそれが、今日はなんだか特別だった。ソウが後ろ足で地面を蹴って宙を舞う。このまま宇宙へ行けるのかもと思う。でも、私が行きたいのは違う。昼の日に照らされ、私はペンナ山の反対側の山、リュコス山へ向かった。ペンナ山は私とアルスが交わる場所。アーラ峡谷の裂け目は私達が住む場所。リュコス山はアルスが住む場所。武器はアルスに管理してもらう。だから、いちいちリュコス山に向かうのだ。面倒だが、伝統なので仕方がないと私は諦めた。
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私はアルクスの森の中でミナリカさんと鳥を伐ち落とそうとしていた。木々の間に隠れ、息を潜め獲物を待つ時も夢の中のソウの答えのことが頭の中をぐるぐる回っていた。思い出せない歯がゆさの裏で、思い出したくないと思う自分もいる。それが、腹立たしかった。
セレ「ソウと私って…………何なんだろう。」
その呟きはミナリカさんには聞こえなかったみたいだ。ミナリカさんは無言で空を指差した。そこには空を舞う鳥がいた。私は弓の弦を引く。ソウのことが頭を回る。手が震える。矢が空を突き抜け、鳥へ飛ぶ。鳥が避ける。矢がスピードを落として地へ落ちる。
セレ「あ…………。」
ミナリカさんが怪訝な顔をして、言った。
ミナリカ「ねぇ、セレ、今日はやめといたら?何か考えてるでしょ?」
セレ「………はい。」
私は渋々ソウとアルクスの森を離れ、家へ向かった。
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オリバー「セレ?聞いてる?」
セレ「へ?」
私は夕食の席でオリバーに呼ばれ慌てて返事をする。リライナが心配そうな顔で私を見る。
リライナ「セレ、大丈夫?」
セレ「う、うん平気平気。大丈夫…………。」
私は引きつった笑みを浮かべながらビーフシチューを喉に流し込む。やっぱりオリバーの料理は美味しい。
リライナ「何でも吐き出しなさいよ。あ、吐くのは禁止!」
オリバー「掃除が大変なんだから。」
セレ「分かってる分かってる。」
私は苦笑いしながら言う。心の底から笑えない。
今、悩んでいることはなんだろうか?私は木のスプーンを置くと、口を開く。自然と言葉が出てきた。これが、嘘偽りのない私の本心。
セレ「私は、外の世界へと行きたい。」
あとがき
いい物語は「この物語がどこかの世界で本当に起きている」と感じる物語。
私はそれが創りたい。
みんなにできているそれをしたい。
セレは実在するかもって思わせたい。
それだけです。