【中古本】現代人の考える未来とは「予定された未来」

時間と空間は、ヒトの意識とは無関係に、宇宙の始まりからあった。そう考えられてしまうと、私の議論は意味をなさなくなる。 そうではなくて、ヒトが時空に気づいたのは、現在のホモ・サピエンスの意識が発生してからでしょ、と言いたいのである。 そもそも意識がなかったら、時空もないのは当然である。しかし仮に初めから時空が存在したとしても、それにヒトの意識がどう「気づいたか」は問題になるはずである。 　 （中略） 　 現にわれわれが生きている時間とはなにか。 それは一期一会であろう。 ただいま現在である。 過去はすでに済んでしまっているし、未来はまだ来ていない。確実な時とは、ただいま現在しかない。 　 現代人の考える未来とは「予定された未来」すなわち手帳の中身のことだと、かつて述べたことがある。 明日の予定が決まっていれば、それはただいま現在を拘束する。 明日名古屋で講演の約束があれば、今日ハワイに行ってしまうわけにはいかない。それなら未来の予定は現在の私を拘束している。 　 過去も同じように現在の私を拘束する。 三十年前から勤めてるんだから、いまさら仕方がないだろ、ということになる。それならその三十年は現在というしかない。現在の私を拘束しない過去と未来は存在しない。意識はそういうものがあると主張して、だから歴史の勉強をしなければならないし、約束は守らなければならないという。 私の知り合いの虫屋は「靖国神社は戦後にできたんですか」と私に聞いた。五十代で、（その人の）子どもたちはもう大学を卒業している人ですよ。靖国神社がいつできたのか、そんなことは彼の意識にはない。彼の人生になんの関係もないからである。 　 われわれが保有している時間は、ただいま現在だけだが、意識は偉いから、過去も未来も存在するという。それはどこにあるかって、頭の中にあるとしか言いようがない。それが現在を拘束するときにだけ、過去も未来もただいま現在に顔を出す。