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#5 記憶の欠片
--- ー花漣視点ー ---
「じゃあ、そろそろまたね、ハナレちゃん♪」
秋音は笑みを浮かべたままそう言うと、手を振る。数秒後、手と首がだらりと垂れ下がる。心配して声をかけようと思うと、また顔を上げた。顔が近くで思わず赤面になる。美しい唇が目の前に。その唇と自分の唇の間に花漣は手を入れる。
「花漣………?」
「おはよう、唯。」
太陽が姿を表し、辺りを照らした。花漣の頬笑みはまるでそんな日光のように温かく優しかった。唯の顔が少し赤くなった、気がする。無意識にガッツポーズをした。
「なにしてんだ?」
唯に首を傾げながら聞かれ、花漣は我に返る。そして、顔を茹で蛸のように真っ赤にさせた。な、なにしてるんだ自分!唯の顔が赤くなったからってガッツポーズする理由はなくて、そもそも唯は何時間か前に会った初対面男子。しかも、初対面は女子と間違えて………。そこまで考えた花漣はふと、唯の髪を見た。
「ねえ、唯って男だよね?」
「…………ようやく分かってくれたんだな。」
唯の答えに花漣は手を合わせて深く頭を下げて謝る。すると、唯はプッと吹き出した。花漣は唯の肩をポコポコと叩き始めた。唯はその手をものともせずに笑い続ける。
「で、それがどうしたんだ?」
「えぇっと、その髪だと分かりにくいから、髪切ってあげるって言いたかったの!!」
花漣は切れ気味に伝える。本当はもうちょっと怒ってやりたかったが、まあこんくらいで許してやろう。全く、男ってどうしてこうなのかな。男__男……………。花漣の目にはある一人の男の顔が浮かんでいた。拳を振り上げる男に花漣は為すすべもなく………。恐怖で見開かれた目の先で男はにやけ顔を見せる。
「花漣?」
唯に名前を呼ばれ、花漣は大丈夫と伝えようとした。その時、唯の指が花漣の髪に触れた。風が吹き、花漣の顔が露わになる。その頬は桜色に染まっていた。唯の真っ赤な目は怖いというよりか美しかった。まるで、昔見たルビーのような色合い。
「綺麗…………。」
思わず息を忘れるような美しさ。人の心を掴んで離さない。やっぱり、私、唯のことが…………。
「茹でタコみたいな顔だぞ?」
その気持ちは唯の一言でかき消された。うん、こんな最低男好きになるわけない。女の子に向かって茹でタコなんて言う男がこの世にいるとは思わなかった。やっぱりある意味人間じゃない。
「………とっとと髪切るよ!」
花漣は唯の背中を思いっきり叩いて椅子のある場所を指差す。座れってことは通じたみたいだ。花漣はハサミを取り出すと、唯の長い髪を切った。
「いった!ハサミ切れ味悪すぎだろ!」
確かに、花漣の使ったハサミは錆々だ。しかし、そんなことを気にする花漣ではなく、構わずに唯の髪を切っていく。唯は悲鳴のような声を上げる。花漣は器用に手を動かして髪を切る。
「あ、襟足残す?」
「任せる。」
「じゃあ、残しとくね。」
花漣は最後に髪を梳くと、ハサミを元の場所に仕舞い、掃除機を持ってきた。稼働させると、掃除機は床に落ちた唯の髪を吸っていく。全て吸い終わると、ゴミ箱に髪を捨てた。
「どう?」
「見えないから分からない。」
世話の焼ける年上の男だ。花漣は鏡を持ってくると、唯に持たせた。唯は見てもぼんやりとした無表情だった。何を考えているか分からない。怖い__そう思った。すると、唯はふっと笑った。嫌らしくも優しくも面白そうでもなく、ただただ笑った。
「ありがとう。」
「………どういたしまして!」
花漣も釣られて笑顔を見せた。明るい太陽のような笑顔。唯の顔がまた少し赤くなった気がした。
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--- ー唯視点ー ---
花漣は何を思っているのだろうか。こんな明るい笑みを浮かべて、自分は人間じゃないって分かったところなのに。進んでなった自分とは違い、急にその事実を告げられた花漣は怖いだろうに。唯は花漣を見ると、頬笑んだ。頭に手を置く。
「ありがとな。」
花漣は目を伏せる。引き結ばれた唇は何かを言おうとしていた。これからどうするのだろうか。花漣は唯と同じ道を歩むと言った。だとすれば、本部に連れて行くべきだろうか。
「なあ、花漣。どう、したい?」
永雷ノ巫女との戦いで遮られた言葉。花漣は伏せていた目を上げて、真っ直ぐ唯の目を見た。目なんて血のような赤で怖いだろうに。
「私は……………………お花見行きたい!」
「へ?」
花漣の子供っぽい声に対して唯は間抜けな声を出す。お花見、今は四月の後半だからもうほとんど葉桜なんじゃ?
「難しいことはさ、後で考えよう。」
花漣は目を細めて笑った。やっぱり、何で笑えるんだろう。恐怖、絶叫、死、無感情、慈悲なんて無かった。そんなことばかり体験してきた唯とはやはり違うのかもしれない。人は簡単に死ぬ、裏切る。なら、神様ならどうだろうか。唯と一緒にいてくれるだろうか。
「ほら、そうと決めたら行こ!近くに遅咲きの桜並木があるんだ!」
花漣は唯の手を掴むと、引っ張る。鼻歌交じりの声は平和の象徴のようだった。
「近くでお団子でも買ってさ~。」
「花漣。」
唯はほぼ無意識に花漣の名前を呼んだ。花漣が止まって振り返る。唯はしばらく口をパクパクさせて、笑った。
「やっぱ、何でもない。」
「えっ!?気になる。」
「ほら、早く花見行こうぜ。」
「え、あ、ちょっ!」
唯が駆け出すと、花漣も付いて来る。玄関の扉を閉めた頃に唯は立ち止まった。花漣は鍵をかけるのに苦戦している。
「ふぅ~。どうしたの?」
「道、分かんない。」
花漣は苦笑して、また手を掴んだ。離したくなったが、花漣の手の力は思った以上に強かった。それは、唯に縋るような感じだった。この手を離したら、花漣と唯はお別れ__。そう思った唯は花漣の手を強く握り返した。
「そう言えば、俺が気絶してる時に別の奴が現れなかったか?」
「………秋音のこと?」
秋音__と言われてピンと来なかった。なぜなら、《《彼の名前は秋音ではないから》》だ。なぜ偽名を使ったのだろう。秋音と花漣には何か関係が?いや、彼のことだし単なる遊び心だろう。
「で、何かされたか?」
「うーん、突き飛ばされたけど、それは私に原因がありそうだからな。あっ、唯。肉体を隠されたって言ってたけど、あれどういうこと?」
「肉体を…………隠された………?」
確かに、彼は急に唯と契約を結びたがった。しかし、それで肉体を捨てただけで、隠されたとは聞いていない。どっちが本当のことなのだろうか。彼は唯に嘘をついていた?なぜ、何のために。目的が分からない。
「何か、秋音って可哀想だよね。」
不意に花漣がもらした一言は唯が始めて秋音に会った時に思ったことだった。今はそうは思わないが、花漣はそう思ったのか。唯は震える声で聞く。
「どんなとこが?」
「一人なとこ、かな?」
唯の頭の中にはある一つの記憶が蘇っていた。
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『誰だ、お前。』
あの日はそう、雨が降っていた。唸る彼に俺は手を差し伸べる。
『大丈夫だよ。さみしくない。』
今知っている最大限の言葉で励ましたんだ。すると、彼は黙って俺の手を取ったんだ。彼は立ち上がるとテレビで見た俳優のような顔と体型だった。
『お前、名前は?』
『ユイ。イケメンさんは?』
『イケメンさんって、俺のことか?』
『うん。』
彼は顔をほころばせて、名前を口にした。美しく凛々しい名前。何でだろう。
___思い出せない。
おまけ
作者「秋音君の名前早く出したい!!」
秋音「あ~あ、ユイにバレちゃった?」
唯「秋音の名前何だっけ?」
秋音「思いだせないでしょ?」
作者「作者は思い出せますy((((殴」
花漣「ネタバレ禁止。ハイ、レツゴー!」
作者「まだあとがき終わってな………。」
作者「ふぅ~帰って来れた。三人は偶然出会った。そこの関係は誰よりも複雑。正直、作者もこんがらがり始めてます(汗)いよいよ、お花見お花見!!では、良いお花見を!」