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#4 こちら側へ
--- ー花漣視点ー ---
「ねえ、ねえ?」
花漣の体を誰かが揺する。ゆっくりと瞼を開くと、目に飛び込んできたのは真っ赤な目。それと鼻筋に垂れる黒い髪。体を起こすと、改めて顔を覗き込む。
「唯………?じゃ、ないよね?」
どうにも感じる違和感を素直に声にすると、唯は口角を上げた。両腕で大きな円を作る。
「ピンポーン、大正解。」
何を考えているのかが読めず、花漣は立ち上がり後ずさる。得体の知れない化け物と対面してるような気持ちだ。こめかみから汗が吹き出る。
「貴方は、誰?」
「俺?俺は、まあ、秋の音、|秋音《あきね》とでも名乗っておこうか。」
唯__秋音は手のひらで何かを転がす。覗いてみると、それは黄色い勾玉だった。透き通った勾玉はこの世のものとは思えないほど美しく、息を忘れてしまうほどだった。秋音がそれをポケットに仕舞うと、花漣はハッとした。
「唯は?秋音と唯の関係はなに?」
花漣は睨みつけながら問う。すると、秋音はがっくりと肩を下げた。
「ど、どうしたの?」
「いや。いきなり呼び捨てかよ……………。俺、年上なのにさあ。」
思った以上に人間味の強い秋音。なぜか笑いがこみ上げてきて、気がつくと笑っていた。秋音はそれを見ると、更にがっくりとうなだれた。ひとしきり笑い終わるとまた真顔に戻る。
「唯はどこ?」
「ここ。」
花漣の問いに、秋音は親指で自分の心臓を指した。秋音が笑みを深くすると、風が彼の髪を巻き上げた。心臓__心、つまり彼は唯のもう一人の人格なのだろうか。いや、それほど単純な関係じゃない気がする。花漣の目に映る秋音はまるで唯とは違う異様な怖さを含んでいる。違う、逆に《《静かすぎる》》んだ。頭では彼を人じゃないと分かっているのに、自分は彼を人として認識している。その人間らしさが逆に怖い。
「あ、後ね。俺とユイの関係って言ったよね?俺さ、肉体を隠されちゃったから借りてんだ。」
爽やかな笑顔で肉体を借りているという秋音。それは静かな時間だった。時も感情も風も全てが一瞬静止して、また動き出す。汗が伝い落ち、始めて心臓が動き出す。
「どういう、こと?」
震える声で聞くと、秋音はケロッとした顔で首を傾げた。可愛らしい動作もなぜか今は怖く感じた。
「だ、か、ら、肉体借りてんだって。分かんない?」
「分かるわけないでしょっ!!いや、分かる奴いたらすごいと思うよ!?」
秋音の声に花漣は大声でツッコミを入れる。肉体を借りるなんてどうやっているんだ?肉体が隠された。秋音は一体何なのだ?そんな花漣の気持ちも知らずに気持ちよさそうに伸びをする秋音。その時、おもむろに秋音が言った。
「確かに人間ならそれも分かんないか~。」
「そうですよ!」
秋音はその答えに鋭い目線をこちらに向けた。その視線は蛇のように絡みつき、花漣を動けなくした。真っ赤な目の瞳孔が細くなり、爛々と光る。それは昔、絵本で見た龍の目に似ていて、でも神々しさよりも精神に入り込み恐怖を植え付けるような目だった。
「でもさあ、君、人じゃないよね?」
その言葉は花漣の精神を抉った。前ならきっとこんな風には感じなかった。でも、少女との戦いで分かった。自分は、人間じゃないんだって。でも、頭がおいていかれている。急に突き付けられた現実を瞬時に理解はできなかった。認めたくない、自分は人間だって思いたかった。秋音がこちらに歩いて来て、肩を掴む。残酷で狂気に満ちた笑みが目の前に来る。花漣の手が震え始める。目をそらしたいのにそらせない。これが、本当の恐怖__。
「さて、君がこちら側に墜ちるのはいつかな?」
耳元でゆっくりと囁かれたその言葉に花漣の頭は冷静になった。そうか、彼はこちら側に来てしまったのか。だから、こっちに誘ってる。寂しいから、一人は嫌だから。
「可哀想…………。」
「ん?」
花漣は怖かったはずの秋音の目を真っ直ぐ覗き込んだ。秋音の目の奥には震える子供が浮かんでいた、気がした。本当かは分からない。でも、この子供が寂しくないようにしないと。花漣は秋音に抱きつく。秋音は意外そうな顔をした。
「大丈夫、寂しくないよ。」
すると、秋音は苦しそうに顔を歪めた。花漣が顔を見ようとすると、突き飛ばされた。かなり強い力で突き飛ばされ、花漣は床に倒れ込む。花漣が倒れたのを見ると、秋音はハッとしたような顔で駆け寄って来た。
「ごめんごめん。危害を加える気はなかったんだけど。ちょっと怖がらせすぎちゃったね。」
秋音は普通の笑みを浮かべて、手を差し伸べた。普通の笑み__秋音は普通の笑みなんてしない。そう思ってしまった。作り笑いの裏には、秋音は何を考えているんだろう。
「そろそろ起こそっか?」
秋音の問いの意味が花漣は分からなかった。訳が分からないので訪ねる。
「誰を?」
「ユイ。」
唯が出てくる。そうすると、秋音はいなくなってしまう。ようやく秋音のことを少し分かったのに。いや、分かってないのかもしれない。花漣はまだまだ底が知れない秋音の横顔を見ていた。
「まだ、いいや。」
「そう。じゃあいいや。」
謎の沈黙が二人を襲う。その沈黙に耐えきれずに花漣は聞く。
「肉体を隠されたって何があったの?」
秋音は目を細めた。どこか遠くを見るような目。悲しみと嬉しさの混ざったような目を見てられず、花漣は目を背ける。
「俺はさ、嫌われちゃったんだ。でもいいんだ。先に裏切ったのは俺だから。」
その目は酷く寂しげで悲しそうで、ちょっぴり怖がるようなそんな目だった。裏切られた、秋音が誰に?分かることは、その人物は人間ではないということ。もう少しだけ知りたい。秋音はどうしてそうなってしまったのか。
「それってどういう…………。」
「そう言えば、ハナレちゃん。」
花漣の声は秋音の声に上書きされた。秋音の顔がイタズラを起こす前の悪ガキの顔になる。嫌な予感がして花漣は後退さる。
「ハナレちゃん、ユイのことイケメンだと思ったでしょ?」
「ソ、ソンナコトナイヨ!?」
思わぬ言葉に花漣の言葉がカタカナになる。顔を真っ赤に染めながら、言い訳するももう遅い。秋音は嫌らしい笑みを浮かべる。
「ふ~ん。いいこと聞いちゃったぁ?」
花漣は秋音の肩を叩き始める。やっぱり唯を起こした方が良かったかもしれない。
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--- ー秋音視点ー ---
俺はハナレの顔を見る。彼女に似ているな。俺は空を見上げた。真っ青な空は彼女のように澄んでいた。彼女は、今どうしているだろうか。俺の人生を変えてくれた彼女。いつかまた会えた時にハナレの話をしてやろう。君と似た少女が人間にいたよって。きっと君は言うんだろうないつも通りの笑顔で。
「私も会ってみたいな」って。君はいつもそうやって明るく振る舞ってくれる。俺はそんな君がいたから今の俺になれたんだ。
「ありがとな。」
「え?」
いつの間にか口からもれていた感謝はハナレの耳に届いていた。俺は彼女に見せるような優しい笑顔で言う。君もきっとそう言うんだろうな。俺は目を伏せた。
「なんでもない。」
おまけ
作者「秋音くん登場おめでとう!!」
花漣「なんでそんなハイテンション?」
作者「だって、秋音くんは作者の好きなキャラの一人なんだから!!今日は盛大にお祝い………。」
秋音「へぇ~?」
作者「は!秋音くん!?」
秋音「良いこと聞いちゃったぁ?」
作者「アァァァァァア!って、消えてるぅ!?」
作者「彼は知らない。全ては交わっているんだよ。勘の良い読者の皆さんはもう気づいているのでしょうか。少々ヒントを出しすぎた気もしますね。じゃあ、川のどこかでまた。」