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生まれてから死ぬまでのカウントダウン三話
Aki🧣
--- 第三話:奪われる時間 ---
【00年 01月 28日 16:10:02】
春馬と旧校舎の屋上で過ごすようになってから、二週間の月日が流れていた。
私のカウントダウンは、ついに残りの「月」の桁が『01』になった。あと一ヶ月ちょっと。信じられないスピードで、私の命は終わりへと向かっている。
けれど、私の世界は確実に変わり始めていた。
「雫ちゃん、見て。あそこの売店の新作パン、争奪戦に勝って買ってきた!」
「ふふ、すごいね春馬くん。服、ボタン外れてるよ」
「うわ、本当だ。恥ずかしい……」
放課後の屋上で、二人で他愛もない話をして笑い合う。
春馬と話している時間だけは、頭上の赤い数字のチカチカとした不快な光が、不思議と気にならなくなる。世界には、こんなに優しい色もあったんだ。生まれて初めて、明日が来るのが少しだけ楽しみになっていた。
けれど、そんな小さな幸せを、世界は簡単に許してはくれない。
次の日の朝。教室に入った瞬間、空気が凍りついたのがわかった。
私の机の上に、油性ペンで大きく殴り書きがされていた。
『気味悪いんだよ、消えろ』
『一ノ瀬くんにすり寄るな』
心臓がバクバクと嫌な音を立てる。周りを見渡すと、黒崎結愛たちがニヤニヤとした冷たい視線をこちらに送っていた。
誰も、助けてはくれない。やっぱり私は、この世界にいちゃいけない存在なんだ。昨日までの温かい時間が、まるで全部幻だったかのように、一瞬で世界が元の灰色に染まっていく。
私は逃げるように教室を飛び出し、そのまま荷物を持って学校をあとにした。
どこにも行き場なんてないのに。
夕方、トボトボと家に帰り、玄関のドアを開けた瞬間だった。
「何よ、その陰気な顔は! 見てるだけでイライラするのよ!」
リビングから飛び出してきた母親が、私の髪を乱暴に掴んで床に叩きつけた。
学校から無断で帰ってきたことが、どこからか伝わっていたらしい。容赦のない蹴りが、私のわき腹や背中に何度も突き刺さる。
「ごめんなさい……ごめんなさい……っ!」
涙が溢れて止まらない。
痛い。体が痛いんじゃない。せっかく春馬くんが「生きたい」って思わせてくれた心を、ボロボロに踏みにじられるのが、痛くて、悔しくて、たまらない。
「お前なんか、本当に生まれなきゃよかったのよ! さっさと目の前から消えなさい!」
怒鳴り声を残して、母親は激しくドアを閉めて自分の部屋にこもった。
暗いリビングの床に、私はうずくまったまま動けなかった。冷たい床に涙がこぼれ落ちる。
(もう、嫌だ……。やっぱり、早くゼロになってよ……!)
その時、ポケットの中でスマホが激しく震えた。
涙で霞む目を凝らして画面を見ると、そこには『春馬』の文字。
『雫ちゃん、今どこ!? 家にいる? 教室の机のこと、今聞いた。守れなくてごめん。今すぐ行くから!』
メッセージと一緒に、通話の着信が画面を埋め尽くす。
出てはいけない。これ以上、彼を私の泥沼みたいな人生に巻き込んじゃいけない。
けれど、震える指先は、勝手に通話ボタンをスワイプしていた。
「……もしもし、春馬くん」
『雫ちゃん!? よかった……っ! 今どこ!?』
受話器の向こうから、今にも泣きそうな、必死に走っている春馬くんの息遣いが聞こえる。
その優しさに、私の我慢は限界を迎えてしまった。
「春馬くん……助けて……。わたし、もう、一秒も耐えられないよ……っ」
声をあげて泣きじゃくる私の頭上で、無情なカウントダウンの数字が、激しく火花を散らすように点滅し始めていた。
【00年 01月 28日 19:42:15】
【00年 01月 28日 19:42:14】
(第三話・終わり)
第三話、いかがでしたでしょうか……⁉️
一気にシリアスな展開になり、雫のピンチに春馬が必死に駆けつけようとする、ハラハラが止まらない引きにしてみました。
ついにカウントダウンも一ヶ月を切り、物語は大きな転換期を迎えます❗️
お楽しみに❣️