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生まれてから死ぬまでのカウントダウン二話
Aki🧣
--- 第二話:灰色の世界に、君が触れた ---
【00年 02月 13日 08:15:32】
翌朝、目が覚めて最初に視界に入ったのは、昨日より確実に減っている自分の数字だった。
あと、二ヶ月と、あと十三日。
(……夢じゃ、なかったんだ)
昨日の放課後、一ノ瀬春馬に手を握られて言われた言葉が、ずっと頭から離れない。
『その最後の時間、僕に預けてくれない?』
思い出すだけで、心臓の奥がトクンと跳ねる。人からそんな風に求められたことなんて、生まれてから一度もなかったから。
でも、いつものように重い足取りで学校へ向かい、教室の席につくと、すぐに現実へ引き戻された。
春馬はいつものように、クラスの中心で黒崎結愛たちと楽しそうに笑い合っている。彼の周りにはいつも、たくさんの人が集まる。
やっぱり、昨日のことは何かの間違いか、ただの気まぐれだったんだ。私みたいな暗い人間が、彼に関わっていいはずがない。
そう思って、私はまた透明人間になるように、机に突っ伏して気配を消した。
キーンコーンカーンコーン――。
お昼休みを告げるチャイムが鳴った瞬間だった。
「天野さん、いこ」
突然、頭上から声が降ってきた。
びっくりして顔を上げると、そこにはお弁当箱を持った春馬が立っていた。クラス中の視線が、一斉に私たちに集まるのがわかった。結愛たちが「え、なんで?」という顔をしてこちらを見ている。
「え、あ、どこに……?」
「いいから、お弁当持って。お勧めのお昼寝スポットがあるんだ」
戸惑う私を置いて、春馬は私の手首をそっと掴むと、そのまま教室の外へと連れ出した。
彼に引かれるままに辿り着いたのは、普段は鍵がかかっているはずの、古い旧校舎の屋上だった。
「ここ、先生たち滅多に来ないから静かでいいんだよね」
春馬は風に髪を揺らしながら、気持ち良さそうに背伸びをした。
私は、錆びついたフェンスに背中を預け、恐る恐る彼を見つめる。
「あの……一ノ瀬くん。なんで私なんかを……。クラスのみんなも、変な目で見てたし……」
「『なんか』って言わないの。あと、僕のことは春馬でいいよ」
春馬は私の隣に歩み寄ると、地べたにパタンと座り込んだ。そして、自分の頭上を指さす。そこには【62年 08月 11日】という、途方もなく長い数字がのんびりと刻まれていた。
「僕にはね、生まれた時から他人のカウントダウンが見えるんだ。だから、みんながどれだけ未来を楽観視してるかも、どれだけ時間を無駄にしてるかも、全部わかっちゃう」
春馬は少しだけ寂しそうに笑った。
「でもね、雫ちゃんの数字を見た時、胸が苦しくなった。こんなに早く進む時計を背負いながら、君は毎日、一人で耐えてるんだなって。だから……君が世界を嫌いになって消えちゃう前に、楽しいことをいっぱい教えたいって思ったんだ」
「春馬、くん……」
私は言葉に詰まった。
私の腕のあざのことも、家でのことも、彼は詳しくは知らないはずだ。なのに、私の孤独を全部見抜いているような、そんな優しい声だった。
「ほら、お弁当食べよ。あ、それ僕の卵焼きと交換ね」
春馬は私のお弁当箱から勝手にウインナーを奪うと、代わりに自分の綺麗な卵焼きを私のスペースにぽんと置いた。
口に運ぶと、じわりと甘い味が広がった。
「……美味しい」
「でしょ? 雫ちゃん、笑うと可愛いじゃん」
悪戯っぽく笑う春馬の顔を見て、胸の奥がキュンと痛む。
こんなに優しい人がいるなんて、知らなかった。世界がこんなに温かいなんて、知らなかった。
けれど、彼の笑顔が眩しければ眩しいほど、私の視界の端でカチカチと進む、赤いデジタル数字が嫌でも目に入る。
【00年 02月 13日 12:40:05】
【00年 02月 13日 12:40:04】
生きたい。
初めて、そう思ってしまった。
この人と、もっと一緒にいたい。明日も、明後日も、来年も。
でも、私の時計は止まらない。
幸せを知ってしまった私の心に、残酷なカウントダウンの音が、昨日よりも大きく響き始めていた。
(第二話・終わり)
第二話、いかがでしょうか❣️
お昼休みに強引に連れ出す春馬のカッコよさと、初めて「生きたい」と願ってしまった雫の切なさが混ざり合う、エモい展開にしてみました。
一話、二話と来て、ここから二人の期限付きのデートや、親・クラスメイトとの葛藤が始まっていきます‼️
お楽しみに❣️