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《改》出席番号一番 相生彩未
「結論が出たよ」
その日、私は屋上の入口に、彼女を呼び出していた。いつかと同じ場所だ。
「……ど、どうでしたか」
彼女__|相生《あいおい》|彩未《あやみ》は、躊躇いながらも真剣なまなざしをしていた。
「アンサー。|香取《かとり》|浬《かいり》は嘘の告白をしていた」
「え。あ、あぁ、やっぱりそうでしたか__」
「なあんてね」
複雑な表情をした相生さんの声を遮る。
「__え??」
相生さんは、目を見開いて、私を見ていた。
ごめんね。
内心でそう呟きながら、そんな相生さんに、私は冷たく言い放った。
「相生さんさ、ストーカーしてるでしょ」
「っ……な、なんでそうなる……」
「香取浬はスマホを持っていないようだった__今の時代、スマホなしで生きるなんて無理があるよね。なら、それ相応の理由があったと見るべきなんだ」
だから私は仮説を立てた。
__香取浬はストーカー被害に遭っていた。
脳内で|小々高《ここだか》さんの声が再生される__『そんじゃ、あとでLINEで空いてるとこ教え__いや、無理なんだっけ』、『はー、ほんとおもしろ、今の録音して送ってあげたかったわ』。
「私はこう推測した__相生彩未は香取浬に恋をした。前に相生さんが言った通りにね。そのとき、連絡先も交換した。香取浬は好意を向けられていたとは思っていなかったんじゃないかな……。だがしかし、香取浬は|潮野《しおの》|詩音《しおん》と付き合っていた__時系列はわからないけれどね。そんなこと知りもしない相生さんは無謀にもアタックし、告白する。けれど振られてしまった__理由は、彼女がいるから。でも、諦められなくて。__ストーカーと化した」
__『好きな人いるらしいよ。ショートカットの子だって』、『ワンチャン、もう付き合ってるんじゃないかな』。
「最近、香取くんは部活と嘘をついて友達と遊ぶのをやめていたらしい。それは、そのグループ内にストーカーがいるかもしれないと思ったからじゃないかな」
__『あいつ最近、部活って言ってうちらと遊ぶのやめてんの』
「すごい__大体あってます」
相生さんは壁に手をついて、苦しそうに言った。
「けど、惜しいな。浬くんは、気づいてましたよ__わたしの気持ちに。そして彼自身も、わたしのことを好いていてくれていた。絶対に、です。デートは何回もしたし、手も繋いで、それ以上のこともしていたのに__あの男、潮野に惚れやがったみたいで」
ゼエゼエと肩で息をしながら、彼女はそれでも言葉を繋げた__私には、溺れているように見えた。
「最近、髪、切ってたじゃないですか、潮野。それで、惚れちゃったみたいで__」
ああ。『最近、長かった髪の毛をばっさり切って、今は短い』__潮野さんについて、そう教えてくれたのは、|飯束《いいづか》さんだったか。
「わたしとは、ちゃんと告白して付き合ったわけじゃなかったから、浮気とかそういうんにはならないんでしょうけど。でも……それでも……本当に」
背中をさすろうとしたが、手を弾かれた。弾いたその手で、自分の髪をガッと掴む__恥じ入るように。
「そもそも、私に相談したことの発端……告白されたというのも、嘘だった?」
「はい。……ごめんなさい」
廊下を見つめ続ける相生さんに、私は独り言を装って、慰めの声をかけた。
「犯罪者が、犯行予告をする。『何月何日の何時、このビルを爆破する。止められるものなら止めてみろ』、ってね。自分が不利になるかもしれないのに、わざわざそんなことをする心理について、自己顕示欲ゆえだと、基本的には言われるんだけど__私は、本当に止めてほしいんじゃないかなって、思う。本当はこんなことやりたくなくて、止まりたいんだけど、止まれないから止めてくれ、……って」
相生さんは一粒だけ、涙を落とした。
零したくないように見えた。
本当に好きだった、あの記憶を。