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朝、バスの中
日常かきたかったので。
2026/04/04 朝、バスの中
ピンポーン。チャイムの音がリビングに響いて、朝食を食べていた私は反射的に時計を見た。7時35分。慌てて立ち上がり、玄関へ向かう。ドアを開けながら「ごめーん。」と声を上げた。立っているのは当然、幼馴染の柏木さくらだ。「ちょっとだけ! 待ってて。」
そう言うと、彼女はツインテールを揺らして首を傾げ、肩をすくめた。「早くしてねー。」了解と答えリビングに駆け、少し残っている食パンを口に詰めて、今度は自分の部屋に向かう。通学カバンを手に取り、玄関に戻った。靴を履いてドアを開けた。食パンのせいで話せないので、ジェスチャーでさくらに行こうと伝えると、彼女は呆れたように眉尻を下げた。
通学路を歩く。食パンを飲み込んでから私は口を開いた。
「いま何時?」「7時38分だよ、まあバスには間に合うと思うけど。ていうか歯磨いてないよね絶対?」「朝起きてすぐ磨いたからセーフ。」「そのあと朝ごはん食べたなら意味なくない。」「いや1番細菌が多いの起きてすぐだから。」「納得できないけど、そういえば、朝の占い見た?」「え、それ本当に見てる人いるの?」「牡牛座1位だったんだよねーあと血液型でもB型1位だった! ダブル1位ってすごくない、私?」「さくらって牡牛座なの?」「まさか幼馴染の誕生日知らないの?」「知ってるよ、4月でしょ。4月って牡牛座なんだー。」「あ、南は12位だったよ。」「うそ! 水瓶座?」「うん。」「血液型は? 何位だった?」「さあ、南って何型なの?」「え、わかんない。」
話していると、バス停に着いた。すでに何人かの人が並んでいて、私たちは1番後ろに立った。会話が途切れたので、私はなんとなく通学カバンからスマホを取り出した。ニュースアプリを開いた。さくらがそれを覗き込んでくる。共有するようにスマホを彼女から見やすいよう動かす。
「なんかいいのある?」「いいの…? いいのって何?」「面白そうなの。」「ないなあー。」さくらが指を伸ばして、勝手にスマホをスクロールした。知らない芸能人、政治、健康、そんなさして興味のない記事で溢れかえっていた。その中のどれが彼女の目に飛び込んで行ったのかはわからないが、彼女はそういえば、という様子で口を開いた。「早生まれって損だよね。」「え、急に何。」「まあ私は早生まれじゃないから別にいいんだけどね。」「私は早生まれなんだけど。」私の誕生日は2月上旬である。さくらと私にはほぼ1年の差があるんだな、と思う。
バスがやってきた。スマホを通学カバンにしまうと、さくらはあぁ、と声を出した。それからバスの存在に気がついたようで、通学カバンにキーホルダーのようにつけている定期券を手に取った。停車したバスのドアが開き、列が動き出した。乗り込み、定期券をピッと当てながらバスの中を軽く見回す。いつものことだが、朝のバスはほとんど満員だ。座るところなんてない。私の隣に立ち吊り革を持って、さくらは口を開いた。バスの中なので声量は抑え気味。
「今日って英語の小テストあったよね?」バスが動き出し、少し揺れた。私はさくらの方に視線をやりながら、同じように小声で返した。
「そうだね。勉強した?」「いや、やってない。それでテストって朝礼の時にやるっけ、授業だっけ?」「金曜だから授業中。」「あ、そうなの。じゃあ勉強時間あるか。助かった。」「そんなやばいなら今から単語帳めくったら?」「うーん。片手だと不安定だし。」「何が。」「ほら、バスが揺れた時。」「まあでも、いけるでしょ。」「えー、バスの中はそういうんじゃないじゃん。おしゃべりする時間じゃん。別の話しよ。」「別の話? なんだろー。来年の担任誰がいい?」「怖くない先生がいいな。」「それはそうだよね。谷先生とかだとちょっと嫌かも。」「てか、持ち上がりなんじゃないの? 去年そうだったし。」「あーそうかもしれないけど。持ち上がりって正直つまんないし。1人くらいは変わって欲しい。」「いやむしろ持ち上がりの方がいいでしょー、嫌な先生に当たりたくないし。」「てか持ち上がりって最初から嫌な先生だった場合、最悪すぎない?」「あはは確かに。ドンマイって感じ。」
バスが停車した。ドアが開き、人が入ってくる。誰も出て行かない。つまりただ狭くなっただけ。さくらがこちらに詰めてきたので私も詰める。隣に立っている人も詰める。多分、その隣の人もそんな感じだろう。上から見たらドミノみたいになってるのかな、と思う。でも倒れてるわけじゃないからドミノじゃないか。じゃあなんだろう。さくらとの会話が途切れてから私はそんなことをぼんやり考えていた。いつの間にかさくらは、体の前に抱えた通学カバンを机に単語帳を開いていて、なんだ、おしゃべりする時間とか言ってたのに、とおかしくなる。彼女は、私が見つめてきていることに気がついたのか顔を上げ、不思議そうに、どこか訝しげに私に訊いた。
「何、その笑顔。」「別に。」
説明するほどのことでもない。私がバスの外の景色に目をやると、さくらも再び単語帳に視線を落としていた。
朝、揺れるバスの中。
主人公は朝はNHKのニュースしか見ないので、、、