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耳順の空手道⑦
ハイリスクレッド
耳順の空手道 ❨ じじゅんのからてみち ❩
Episode 望まぬ戦
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戦わない空手、闘う空手道
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60歳から始めよう、戦わない空手、闘う空手道。
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩
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耳順(じじゅん)
六十而耳順・論語
六十にして耳順い、六十歳にもなれば何を聞いても表、裏や真相、本質が自然に理解できるようになると言う。
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晴沢 秋桜 (ハルサワ トキオ) 当年62歳。
現在、信州の美ヶ原高原の里の辺りに暮らしています。
ただいま、無色(無職)透明、所属も役職も競り合いもしがらみも無しの日々を過ごしています。
やることは、美味い野菜を食うためと良く寝るための日々の散歩と公園道場での健康空手道であります。(週2回は正式道場で少々)
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩のメンバーとしてもそろそろ2年くらいになります。
それに加えて正式道場で空手着を着ているおかげか、最近はさらに野菜の美味さが増してきている。
☆
この年も、師走になり20日がこの年の練習納めの日となった。いつもの練習メニューを半分で終えて、佳乃さん文美さんの心遣いで、若先生と直子さんも交えて野点を模様していただいた。
メンバー皆さん、それぞれに互いに労いの言葉を交わして笑顔で、新年の10日が練習始めの日として確認し合って散開となった。
私と由紀子さんは、翌日の21日の正式道場の練習納めにも参加した。
24日には、私は愛車の助手席に由紀子さん乗せ買い物に出かけた。1時間と30分程走らせオープン2周年の大型ショッピングモールへ。
居住エリアにもショッピングモールは有るのだがなんとなく顔見知りに会うことが気恥ずかしくて、ちょっとドライブがてらと言い訳し、1時間と30分程。
この日の夕食の食材と、お揃いのスウェット上下セットを買い揃えランチを食して由紀子さんの自宅へ帰り着く。
3時のティータイムを過ごし、夕食の仕込みに2人並んでキッチンを右往左往して笑いあう。
夕食前にほんの少しだけ、信州ワインで乾杯する。
メリー・クリスマス、夕食を済ませ、シャワーを済ませ、濃厚に激しく強く奥の奥まで求め合う夜と早朝と朝めし後。
朝めし後の余韻のあと、私はいつも通りに、昼過ぎに由紀子さんの自宅を後にした。次に会えるのは新年の3日の夜と指切りげんまんである。
帰宅後は、熱いシャワーを浴びて翼をさずけるエナジードリンクを飲み干しトランクスだけでベッドへ倒れ込み睡眠をとる。
私の寝ている間にいつも通りに、玄関チャイムが鳴る、玄関ドアの鍵が開けられ、琴音が入ってくる。
こんにちは〜、琴音でぇす~。
いつもより大きめの手持ちの箱を冷蔵庫に入れると、バスルーム、トイレ、リビング等の掃除片付け整理整頓がテキパキと終わらせいそいそとベッドルームへと入っていく。
琴音が私の寝顔を覗き込み、にゃりとすると躊躇いもなく衣服を脱ぎ捨てベッドへと潜り込んで、トランクスを脱がし後はお口に頬張りもて遊び必要な大きさになった私の一部分を自分の中に挿し入れて雄のエキス搾取して完了した。
午後3時のエリーゼの…メロディでティータイムが始まる、いつもより大きめの箱から真っ白なワンホールケーキがあらわれる。
メリー・クリスマス。
ティータイムを終えて衣服を身に着け帰り支度を済ませた、琴音とディープな口吻をし見送りをする。
新年からもよろしくお願いします。ありがとうね琴音。
は〜い。こちらこそよろしくお願いします。じゃまたね、コスモスさん。
☆
新年、10日、練習始めの日。メンバー互いに口々に新年の挨拶を交わしながら、リーダー役の善治郎さんの掛け声に合わせて輪になって柔軟体操から始まった。
その場基本、移動基本、形をふたつ、合間合間にひと休みを入れながら進んでゆき、基本の約束組手の隊形に声掛け合って並びを整えていく。
そこへあの男性が男子を連れて現れ、ズカズカと近づいて来た。
それを見止めた、美代子さんが善治郎さんに声を掛けた。
ちょっとちょっとまた来たわよあの男性。
はぁ〜?と首をひねりながら善治郎さんが向き合いに行く。
あの男性とは、岩谷益男で、付き添の男子は孫である。
岩谷益男と向き合う善治郎さん。
岩谷益男が何やら大きな声で一方的にまくしたてている。
まくしたてが終わると善治郎さんが浮かぬ顔で私の元へやって来て話し始める。
話しの内容は、先日の形試合のリベンジを申し込むと、次は自由組手だと。ワシ(善治郎さん)でなくても構わん、メンバーの誰かなら構わんと。
なにを言わんや、勝手に勝負だとか、リベンジだとか、困った男だと私は頭を振りながら善治郎さんに代わって岩谷益男へと近づいた。
そんな私の後ろをぶつぶつと怒りの文句を言いながら男性メンバー全員がついてくる。
こんにちは、お久しぶりです、なにやらお元気な申し入れをされた様ですね?
岩谷益男は、私を見るなり後退りおどおどと言い返してくる。
な、何で?ここに居る?
はい〜?私はここの、60 or older Clubのメンバーで、皆さんと練習中ですから。
メ、メン、メンバー?五段なのにか?あんたが指導しとんかい?
いえ、私は皆さんと同等に健康空手道に取り組んでいますよ。指導は正式道場から来られる若先生ですから。
すると付き添いの男子が口を挟む。
やっぱなぁ、メンバー同士の審判でそっちのじいさんを勝たせて、うちのじっちゃんに恥かかせたんだ!
その言葉に私はさらに頭を左右に振りながら、馬鹿馬鹿しいにも程がある、と吐き捨てる。
それで、申し入れに関してはどうしたいのですか?
おぅ、といきなりふんぞり返って岩谷益男が要求を語り出す。
自由組手で勝負だ。出来んとは言わさん出来る奴が代表で勝負しろ!
それで、そちらは岩谷さんがお相手をされるのですか?
いや、ワシの孫じや、孫の益也が代表で勝負じや!
ほう、なるほど、君は、益也くんは空手をやってるのか?
あぁ、新強拳会館カラテで黒帯になった。ドヤ顔で答えた。
どうじや、この秋の審査で黒帯になったんじゃ、たいしたもんじやろ。とふんぞり返って補足する岩谷益男だった。
やれやれと気が滅入るばかりだったが、一応、聞いてみる。
やらないで良いと言う選択肢は無いのですか?
無い!即答で岩谷益男が言い切る。
なんなら全員相手でもかまわねぇぞ、オレ1人で充分だ。益也が意気がって言い放つ。
そうですか、なら、止む得ません私がお相手をいたします。但し私は、スポーツ選手でもアスリートでも無いので、スポーツカラテのポイントゲームのルール通りには戦えません、それでも、よろしいですね!?
かぁ~?スポーツカラテ?ポイントゲーム?って、ルール通りって、ルールなんかいらねぇよヤッてやんよ!
一段と意気がる益也。
そして益也と益男が何やらごちゃごちゃと話し合いを始める。
私と善治郎さんを始めとする男性メンバー達も何を言い出すかと固唾をのんで待った。
話し合いが終わり岩谷益男がもう一段ふんぞり返って言い放つ。
時間無制限、ノックアウトかギブアップのみで決着とする、こちらの立会人は、ワシじや、そちらの立会人を出してもらおうか?
なら俺だなと善治郎さんが1歩前に出た。
おう、と続けて、日時は5日後の土曜日、午後3時、場所は巌流島…
場所はここの公園でじや、首洗っとけよ。
捨て台詞まで残してそのまま岩谷益男と益也はさっさと帰り始めた。
まったくどこまでもお話しにならない男だと諦めて、少々お仕置きをして差し上げますか…
☆
私は、その日に正式道場に出向き若先生に事の詳細を話し成人の部の男性メンバーと3日間程やんわりと自由組手をやらせてもらった。
体捌き、受け流し、掛け崩し投げの動作、神技の心技体を目覚めさせていく。
正式道場成人の部男性メンバーとは言え柔術空手を初めて見る者もおり、一連の私の術の動きに目を見張り道場は沈黙の緊張感に支配されていた。
やんわりとは言えそれなりに冷たい集中力と冷たい視線で相手を射竦め鬼神の如く手玉に取る。
そんな私を見るのは初めてであった由紀子さんは直子さんに肩を抱かれ両手を祈る様に握り合わせている。
集中力を解き、ひと汗かいた頭を下げ礼を行いメンバー全員に感謝を述べた。
沈黙の緊張感が和らぎ誰からともなく言葉が発せられた。『目、怖っわ…視線だけで殺られるわ…』
止むを得ずとも、5日後、土曜日の午後3時少し前。
私は、いつも通り公園道場で健康空手道を勤しむ時と同じ様にトレーニングウェアに敢えてスニーカーを履いて待っていた。
隣には、立会人の善治郎さん、後方には、時間に都合の付いた 60 or older Clubのメンバーの皆さんと直子さんが駆けつけてくれ、今も由紀子さんに寄り添ってくれていた。
午後3時を13分程過ぎて現れる。
真っ黒なジャージの上下の岩谷益男と新強拳会館の刺繍がされている空手着を着た孫の益也。
巌流島、ムサシを気取ったのか遅れてきたことに胸を張っている益男と益也。
そこは、残念ながら私の心境は、コジロウにはなってはいなかった。
私と益也は互いに足を進め間合い2メートル程で足止め向き合った。
益男が声を出す、試合の始まりはコイントスだ、コインが地面に落ちた音が、ハジメ!だ。
これみよがしに、右手に持った、コイン(500円硬貨)を、ポ〜ンと上に投げ上げる。
チャリン!落下して音が鳴る、同時に益男の声が聞こえた、ハジメ!
は?なんと無駄なコイントス!?
善治郎さんが呆れて呟く。
益也が大きく声を出す、オッシャア!
左足を前へ出し両腕をまるでキックボクシングの構えの様にアップライトにし、ファイテングポーズをとり肩をゆさゆさと揺さぶりながら近づいてくる。
いつだったか誰かが、会館系カラテって空手着を着たキックボクシングだな、と言っていた事を思い出す。
私は、静かに冷たく相手の全身を見るとも無く見ながら、左足を肩幅ほど前へ出し、左の手を開手し指先が益也の喉元を刺す様に構え、右の手の甲を相手に向けた開手で自分の水月のやや下に添える。
肩をゆさゆさと揺さぶりながら、無作為に近づいてきて、シィッと息音と共に右のローキックから胸へ向けての左のパンチ、右のパンチ、左のパンチから右のハイキックを仕掛けてくる。
私は、ローキックを左の脚で軽くカットし、左の右の左のパンチをも軽く添えた手のひらで捌き流し躱し、ハイキックを紙一重よりも余裕を持って見切る。
おぉ~いいぞ、追い込め!益男が益也に声援の声を掛けた。
善治郎さんは、ん~~と独り言の様に唸る。
いわゆるひとつのコンビネーションと言われるパターンで相手にダメージを与えられ無ければ、元のファイテングポーズに戻る。
そしてまた益也は肩をゆさゆさと揺さぶりながら無作為に近づき同じコンビネーションを仕掛けてくる。
私は、1度目よりも当たりを強くローキックをカットし、手のひらに巻き込む様に左の右の左のパンチを受け流し躱し捌き、ハイキックを紙一重で見切る。
おぉ~し、届いとるいけるぞ!益男が益也の後押しの声を出す。
むむ、む…善治郎さんが息を呑む。
たった2度のコンビネーションの空振りで益也の息が上がってくる。
ウッシャァ〜と益也が大きく声を出し自分を鼓舞し3度目のファイテングポーズをとった。
私は、前にしていた左足を大きく後ろへ引き、右足前の構えに切り替えた。
途端に益也の顔つきに戸惑いが表れ動きが鈍る。
コンビネーションの打ったてになる右のローキックの的になる私の左脚が無くなったためである。
戸惑い顔の益也に対して私は前に構えていた右手右腕を自分の顔の右側へずらし隙を作り相手の攻撃を誘う。
相対する益也からは私の顔面喉元胸部の全てが無防備に見えるはずだ。
両方の膝の重心を均等にし、益也からの仕掛けを待つ。
ハァハァ、フンフン、整わない息でファイテングポーズの肩からの揺さぶりが大きい益也。
がら空きだ、いけるぞ、いけー!益男の掛け声と同時に益也が動き出す。
ただ相変わらず無作為なのは変わり無く、左のジャブパンチから右のパンチを強引にロングストレートを私の喉元へ打ち込んでくる。
打ち込まれた右のロングストレートを喉元の手前で右の手のひらで叩き込み空かさず左手で相手の右手首を掴み関節を極める、私の方へほんの少し引き込み、右腕の肘の関節を極め、脇腹肋骨へ右裏拳を当て込む。
益也の体がやや前方へながれ重心が傾く、傾くと同時に関節を極めている右腕を下へ引き落とし手首を外側へ捻る。
捻りに合わせて、グルンと益也の体が空を舞い地面に叩きつけられる、完全に仰向けの死に体の益也の右首頸動脈へ切り込みの手刀を打ち込んだ。
止め!!そこまで!突然、声が掛かった。
晴沢殿、それ以上は無駄な所業となります。
益也の右首頸動脈に触れていた手刀を私は静かに引き収めて声の主に向って立ち上がり頭を下げた。
そこには、正式道場の師範と若先生が立っていた。
私はただただ頭を下げ感謝を述べた。突然の声が掛からなければ鬼神となり益也の頸動脈を断ち切っていたかもしれない。
ありがとうございます、師範。この様な私闘の場にまでお気遣いいただき申し訳ありません。
益也は動かない、意識を失っていた。
私は、後方に陣取っていた仲間、メンバー達に向って声を掛けた。
申し訳ありませんが何方か水を、ペットボトルで構いませんから水をお願いします。
益男がおろおろと慌てて益也に近づき絶句している。
大丈夫です、気を失っているだけですから。私は益男に声を掛けた。
益男はぶるぶると怒りの表情で私に向って声を荒げた。
か、空手じゃないだろ、これは空手じゃない!
私はやるせなく頭だけを振った。
いや、空手道ですよ、柔術空手道の見事な神技の極みを拝見させていただきました。
岩谷益男さんですね?わしは正式道場の師範です、もちろんこの公園道場もわしの道場の仲間です、これからは御不満等々は師範のわしが承ります。
は?し、師範?とは、ワシに何の不満不服も御座いません。そう言い切ってなんども深く頭を下げる岩谷益男でした。
ペットボトルの水を眉間に、ボトボトと落とし続けられた益也の意識が戻る。
益也くん、今日はゆっくり安静に休んでください、風呂はぬるま湯で、お酒は決して飲まない様に、死にたくないのならば。
私からの注意事項です。
はい。と益也くんは素直に頷き私に頭を下げ、師範と若先生に頭を下げ、公園道場のメンバー達にも頭を下げて益男さんに肩を借りこの場を後にした。
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玄木由紀子 ( 談 )
こわかったわ、秋桜さん。
まるで、鬼神が如き姿の秋桜さんを初めて見ました…60 or older Clubの皆さんの楽しみと集える場所を護る為に身を挺して戦ってくれて、まるで果たし合いの様な雰囲気で、殺気とか凄みとかってこう言う事なのねって感じたし、生半可な気持ちで術、技を乱用するもんじゃない事も肝に銘じるってこう言う事なんだって。
いつだったかの若者達との時は突然だったので、勇ましくかっこよかったと言うだけで、演武会の時は稲光が落ちたみたいで衝撃的で別次元の事だったし、形を指導されてる時は所作動作が凛とした優雅さで見惚れるばかりだし、頼もしくそれでいて普段はただただ優しくて無邪気でちょっとだけ、エッチでねとても愛おしい方です。
終了
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「身を挺して(みをていして)」とは、自分自身の危険や犠牲を顧みず、率先して困難な状況や危険な役割に立ち向かうことを意味する表現です。
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