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二頁 友達
なびきとくだらないやりとりをしながら、階段を上り、教室に辿り着いた。
入口の真上に引っかけられている『3-B』という板が、窓から入り込んだ風に揺れた。
入ると、まともに座っているのは三分の一くらいだった。僕はそのことに少し安心する。
なびきは黒板に描かれた桜の絵を眺めてから、
「お、よがりん、座席表あるよ」
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四番 |遠藤《えんどう》えとみ
十二番 |烏野《からすの》|霞《かすみ》
十三番 |中下《なかした》なびき
二十九番 |染井《そめい》|園乃《そのの》
三十四番 |由良《ゆら》|夢見《ゆめみ》
三十五番 |吉野《よしの》よがり
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座席表に自分の名前を見つけ、離席してまで喋る人などいないので、大人しく席に座り筆箱を取り出す。
一番後ろの席なので、教室の中の様子がよく見渡せた。
ふと、前の席の女子が振り向いて、僕に笑いかける。
「あ、うち、由良夢見いいます。よく『夢見由良ちゃんやないの?』って言われるんですけど、『由良』が名字で『夢見』が名前」
関西のなまりのあるイントネーションで、彼女__由良夢見が話しかけてきた。
「僕は吉野よがりです。よがりは平仮名。たまに『え、女じゃなかったの?』って言われるんですが、見ての通り男です」
僕がそんな風に返すと、由良さんは小さく笑った。
「よがりくんな。よろしゅう」
「よろしくお願いします」
いきなり名前で呼ばれて照れかけたが、『よがり』を強調するような自己紹介をしたので当然かと思い直す。
教室の対角にいるなびきの方をを見てみると、あっちはあっちで前後の席で喋っているようだった。
さっき見た座席表の記憶を頼る限り、あそこの彼は、烏野霞だろう。
__「ところでかすみん、趣味とかある?」__
__「え、趣味かあ……あんまりないな。けど、料理とか得意だよ。手先だけは器用で。中下さんは?」__
__「んにゃ、僕はアニメとか色々……オタクな感じ。ていうか、僕の幼馴染も手先器用なんだけどさ、今度会わせてもいい? 気が合うかも。あいつ、友達僕しかいないからさ、仲良くしてやってよ」__
__「へえ、幼馴染いるんだ。……いいなあ」__
……自分の耳の良さが今だけは恨めしかった。
「ふふっ、あの子、彼女さん? 仲いいんやねえ」
「ただの幼馴染ですよ」
そう言いつつも、幼馴染が僕のことを自慢げに話しているのを見て、顔がどうしても緩んでしまう僕だった。