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わたしとおねえちゃん
いじめあり
2026/04/14
わたしのおねえちゃんはいつも可哀想です。
9月4日
天気:晴れ
今日、わたしのおねえちゃんは全身びしょ濡れの状態で帰ってきました。新学期そうそう、こうなるんですね。おねえちゃんはどうやら学校でいじめられているようで、1学期とかは毎朝暗い顔をして学校に行って、午後4時ごろに朝より顔を伏せて帰ってきます。2学期も同じようになりそうです。おねえちゃんをいじめている子は、おねえちゃんと同じクラスの安藤さんです。わたしの友達が安藤さんと同じ部活だから、それを伝ってわたしの元に情報が入ってきます。
おねえちゃんは不憫です。小学校でもいじめられて、だからわざわざ中学受験したのにそこでもいじめられるなんて。
9月5日
天気:曇り
今日の朝、おねえちゃんは泣いていました。学校に行きたくないと妹の前でも気にせず叫ぶようにしていました。ママは対応に困っているようで「大丈夫!ナナコならいけるよ。」って励ましていました。ママはおねえちゃんが学校でいじめられてることを知ってるのかな?知っていないと不自然だとわたしは思います。でも、ママのことだからきっと見て見ぬ振りだよね。
わたしは先に家を出ました。
午後3時45分、家に帰りました。おねえちゃんはリビングにもトイレにもキッチンにも、当然わたしの部屋にもいませんでした。おねえちゃんの部屋の前で耳を澄ませてみましたが、中から音はきこえてきませんでした。ただこの情報はほとんど役に立ちません。おねえちゃんはいてもいなくてもほとんど音は出さない人間だからです。
ママは鼻歌を歌いながら食器を洗っていました。おねえちゃんは結局学校に行ったの?と訊こうとしましたがやめました。どうせもうすぐわかることでした。
4時になっても5時になっても家のドアは開きませんでした。だからおねえちゃんは家にいるのかなと思いました。
9月10日
天気:晴れ
おねえちゃんはここ数日、学校に行っていません。朝ご飯は一緒に食べるけど、話しかけても返事はくれません。そして食べたらすぐに自分の部屋に引っ込んでいってしまいます。わたしがおねえちゃんの前で学校に行く準備をすると、スッと視線を逸らされるのは、多分気のせいではありません。相当、気が滅入ってるのかもしれません。ママはおねえちゃんにもわたしにも何も言いませんでした。わたしは朝のニュース番組をちょっと眺めましたが、虐待みたいな話題が出てて、つまらなかったから朝ご飯に集中しました。ブルーベリージャムをたくさん塗ったパンは美味しかったけど甘すぎたし、手が汚れました。
学校で友達から聞きました。安藤さんは部活でもつまんなそうにしているらしいです。わたしは少し嬉しかったけど、次に不安になりました。安藤さんがこのまま別の人間をいじめるようになったらおねえちゃんの存在価値ってなんなの?ああ、おねえちゃん、どうか学校に復帰してください。
9月14日
天気:晴れ
朝、おねえちゃんが制服に身を包んでいました。ママが言いました。「おねえちゃんは今日からまた学校に行くんだって。」平常運転のママに、もっと嬉しそうにするものなんじゃないかなって思いました。わたしだけ手放しに喜ぶのもあれだから、わたしも「そうなんだ。」と無表情で返しました。おねえちゃんは無言で教科書をリュックに詰めていました。そういえば、勉強は大丈夫なの?という言葉が出かかったけど抑えました。おねえちゃんは勉強が苦手でいつも補習にかかっています。休みという遅れもあるのについていけるのかな。この問いに意味はありません。わたしのなかではもう答えが出ているから。
9月16日
天気:曇り
最近、雨が降らなくて、水不足が脳をよぎったりします。
それはそうと、おねえちゃんは今日、学校を早退したらしいです。また行かなくなるのかな、って焦ります。そうなればせめて、おねえちゃんのそれに病名がつくことを願います。
9月20日
天気:雨
雨が降ってよかったです。
最近友達に別の友達ができました。クラスメイトの川崎さんです。それで、わたしとはあんまり話してくれなくなりました。どうして川崎さんなんだろう?と疑問を抱きます。川崎さんは1年生のときにはぶられていた子です。声は小さいし、授業でも寝ることが多くて、彼女のせいで先生が怒って、授業が滞ったりします。それよりは優秀なわたしの方がいいんじゃないかって、わたしは心の底から思います。
でも他人のことはわかんないです。友達が何を考えているのか知ることもできません。
おねえちゃんは学校を休んだらしいです。
9月23日
天気:雨
今日、わたしはお昼にひとりでした。友達は川崎さんと食べたらしいです。残されたわたしは別のグループに入っていく気にもならなくて自分の席にすわって食べました。おねえちゃんの教室にでも行こうかな?という考えが浮かばなかったわけではないですが、おねえちゃんが今日登校してきてるのかもわからないし、行くのも面倒くさかった。
家に帰るとおねえちゃんはリビングでアイスを食べていました。やっぱり、休んだらしいです。
10月17日
天気:曇り
中間テストの結果が返ってきました。英語はなんとかなったけど、数学は44点で、補習でした。補習は来週の火曜日からです。いままで頭いいっていうイメージでやってきてたのに、指名補習の教室にいるわたしを見た他のクラスメイトは、わたしをどう思うだろうか。
最悪でした。
ママに成績を見せたら、何も言われませんでした。
おねえちゃんはやっぱり学校に行っていません。最近ちょっと口数が増えてる気がします。
なにもかも最悪です。
10月21日
天気:雨
わたしは全身びしょ濡れで家に帰りました。傘を忘れました。
お風呂から出たらキッチンでおねえちゃんが洗い物をしていました。わたしを見て、おねえちゃんは情けない笑顔を浮かべました。言いました。「数学の補習だったんでしょ? 教えてあげようか。」わたしはおねえちゃんに数学を教えてもらうほど落ちぶれてしまいました。
首を横に振ってリビングを出ました。途中、ふらつき壁に手をつきました。
ああ、わたしも誰かに水をかけられたい。そうしないと何もかもがだめになる気がするのです。