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最後の晩餐
「28番、昼食の時間だ」
その声は、檻の向こうに居る無精髭を生やした男に投げかけられた。
28番「もうそんな時間か」
男は生気の宿っていない目でこちらを見る。
「今夜ついに処刑だ。よかったな」
イヤミったらしく言葉を投げかける。
28番「あぁ、とても嬉しいさ」
きょとんとした顔をして、こう尋ねる。
「死ぬんだぞ?怖くないのか」
28番「そりゃ怖いさ、でも、こうやって牢獄で暮らし続けるのも、飽き飽きしてきた」
「呆れた。まぁいいさ、今晩の飯は何がいい」
28番「最後の晩餐ってやつか?」
男は少し嬉しそうにこう答える。
28番「そうだな..暖かい白米と味噌汁、塩の味がしっかりとついた魚。そしてお茶」
「..平凡だな。もっと他にないのか?例えば..」
言いかけたところで、男が静止する。
28番「俺にとっては夢にも見なかったような食事さ、これでいい」
「分かった。せめて死ぬ前に遺書くらい書いておけよ」
そう言って、檻の隙間から紙とペンを渡す。
こつこつと耳に残る音を立てながら、去っていく。
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「28番、最後の晩餐を持ってきてやったぞ」
その声は、檻の向こう側に居る腹を空かせた男に投げかけられた。
28番「遅かったな」
「死ぬ時くらい満腹で死なせてやろうと言う計らいだ。感謝するんだな」
男は少し不満そうな顔をしながらも、目の前に並べられた一般的な家庭の食事を見る。
28番「看守さんに会えるのも最後だろうし伝えておくべきか」
「なんだ、遺言か?少し早いが聞いてやる」
28番「俺はロクな人生を過ごしてこなかった。あのクソ女の口車に乗せられ、まんまと詐欺られた」
「あぁ。そのせいで捕まり、もうそろそろで処刑だもんな」
男はこう続ける。
28番「要は生きる意味を無くしたってことだ。生きる意味は無い言う奴は偶に居るが、本当は生きる意味を持っている」
28番「こんな歳なのに、迷った子供みたいに道が分からなくなってる。結局俺は何を成して、何を成したかった者なのか」
28番「せめて、俺の引導は看守さん。あんたが渡してくれ」
困惑したようにこう言う。
「何を言いたいかよくわからん。まぁどっちにしろ、今日でお前の人生は終わりだ。考える必要なんてないだろ」
フッ、と静かに笑う。
28番「そうかもな」
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今から処刑者の処刑を行う!
3人の処刑人が同時にボタンを押すと、処刑が執行される。もしその3人が押せなかったら、後ろに居る1人がレバーを引き、処刑が執行される。
(いつになっても慣れん..)
手が震える。ボタンが押せない。まるで透明な壁があるようだ。
男は椅子に座り、項垂れている。
(俺に引導を渡すほどの度胸なんてないさ)
がこん。
遺書
看守さん、俺を無事処刑できたかい?できていなかったとしても、それはそれでいいさ。
俺が君に殺してくれと頼んだのは、なんとなくさ。あんまり気負いすぎたら面倒だからな。
結局俺は何を成したかは分からない。このかた何にも考えずに生きてきたからな。
俺の最後の瞬間を見たところで、思うものは何にもないだろ?それでいい。
結局俺は、騙され何も成さずに死んでいくだけだったってだけさ。