両親を交通事故で失った少女・セラ。
そして、彼女のもとに現れた異形の怪物・イヴ。
種を超えた愛情、そしてそれを阻む者たち。
はたしてセラは、イヴを故郷に帰せるのか?
--本作は、未完結で終わる可能性の高い作品です--
続きを読む
読み方
1話ずつ表示します。
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
【エデンの園:第1話】未知との遭遇
幸せは、螺旋階段のように続いていく。
ずっとぐるぐる、ゆっくり上がっていって、
落ちてしまったとしても、またぐるぐると上がっていけば、
いつしか元の水準に戻れるもの。
...というのは、幼い頃の私が抱いていた夢幻のおはなし。
実際は螺旋階段なんて、根本を壊せばすべて崩れ落ちる。
大きな音を立てて、”崩れた”という事実を嫌というほど思い知らせながら。
私を一番愛してくれて、私が一番愛した両親は、
不慮の交通事故で死んでしまった。トラックに轢かれた。
トラックの運転手が、脳卒中で死亡していたのだ。
誰も悪くない、だからやるせない...
行き場を失った怒りと悲しみ、それを包みこんでくれた子がいた。
その子の名前はイヴ。突然私の前に現れた、異形の怪物。
怪物といっても見た目だけで、話は通じるし、とても賢い女の子。
ヘビのような出で立ちで、コウモリのような翼を持っていた。
頭部はタールのようなもので覆われていて、
その隙間からは、黄色に光る4つの目が覗いている。
イヴは純粋で、かわいい。
いつも私のことを気にかけてくれて、性格は妹っぽいけれど
実際は姉のような感覚だった。
両親を失い、姉も妹もいなかった私には
どちらにせよとても嬉しかった。
だが、そんな時だった。
「パノプティコン連邦政府だ!!扉を開けろ!!」
政府の犬が、私の家の扉をけたたましく叩いた。
私はすぐに裏口から外に出て、近くの森の中に身を隠した。
もちろん、イヴも一緒だ...
おそらく、政府の狙いはイヴだからだ。
それ以外に、思い当たる節がなかった。
イヴが政府に捕まってしまえば、きっとひどい実験をされる。
それだけは避けたかった。
彼女を抱きしめた瞬間、ある話をされた。
『あのネ...ワタシの故郷の話してもいいかナ』
「うん、話してほしいわ」
彼女の故郷は、遠い空の彼方にあるのだそうだ。
そこには彼女のように、異形の姿で知性を持った生物が住んでいるのだという。
彼女はそこから落ちてきてしまい、たまたま私と出会ったのだという。
それを聞いたとき、私はハッとした。
空...それは、連邦政府によって禁じられたもののひとつ。
空を飛ぶことを禁止する法令が、5年前に発令されたのだ。
もしかして連邦政府は、空にそれがあることを知っていて...?
なら、どうしてそんなことを?
「...イヴ、故郷に帰りたい?」
『できれば!』
「できるわ、私が帰してあげるもの」
これが、私が政府に追われるようになった最初の日の出来事。
この日から、私は政府の陰謀を暴くため旅をし始めた。
全ては彼女を...元いた場所に帰すために。
---
「起きろセラ、明日は早いって言ったのお前だろ!」
低い声で名前を呼ばれ、私は目を覚ました。
視界に写ったのは、赤毛でショートボブの少女...ではなく、
ひどく女顔の青年。名前はヴォルケ。
彼とは利害が一致し、旅を共にすることになったのだ。
そういえば、と思い出した。
明日は早いと言った理由。それは、サーカスに行くからだ。
もちろん遊びに行くわけではない。団員になるために行くのだ。
それは、政府の目をだまくらかすためだ。
サーカスにいれば、政府も下手に私たちに手を出せないだろう。
それに、私たちが入ろうとしているのは移動サーカス団。
各地を巡ってサーカスをするのだったら、
情報も集めやすいだろう。格好の隠れ家だ。
「さぁ、早く行くわよ」
「ちっ、お寝坊の分際でよく言うさ!」
『喧嘩はだめー!』
私たちの間に、イヴが飛び出した。
そうだ...イヴを見世物にされたくはない。
どうしたものか、そう思っていると、捨てられている大きなバッグが目に入った。
私はすかさずそれを手にとって、中を見てみる。
かなり広いスペースがありそうだ...
「イヴ、これ入れるかしら」
『えっ?どうだろうネ』
そう言いながらも、イヴはぬるりとバッグの中に滑り込んだ。
大丈夫そうだ。安心しながら、私はバッグを持って立ち上がった。
「さぁ、今度こそ行くわよ」
『えっえっ?ワタシここに入ったまま?』
イヴには申し訳ないが...心を鬼にして、
彼女の言葉が聞こえなかったふりをして歩き出した。
目的地は近くの大きな街。
今夜、アイネナハトサーカス団が来る場所だ。
---
「奴ら、どこに行くつもりなんでしょうね」
「さぁな...サーカスにでも行くんじゃないか?」
「あ?なんでそう言い切れる?」
「ちょっと兄さん...」
「ただの勘さ」
【エデンの園:第2話】一夜限りの夢
あれからしばらく歩いて、私たちは街に着いた。
今夜を含めて、アイネナハトサーカス団は3回の公演を行うらしい。
「”一夜限りの夢”っていうキャッチコピーの割には、ずいぶんと長引く夢だな」
「そうね。まあ、そちらの方が都合がいいわ」
そう言いながら、サーカスのテントの方へ向かう。
今日入って、ここでの最後の公演に出られれば上々だろうか...
出番が少しだったとしても、少しくらいは知名度を上げておいたほうが
情報収集も捗るだろうからだ。テントの近くにいた団員に声をかけ、
入団したい旨を話すと快い返事がもらえた。
「オーディションは、今日の公演後に行うよ!」
「オーディションなんてあるのか?」
「当然だろう?無闇矢鱈に受け入れるわけではないよ」
「当然ね。では、また夜に伺いますわ」
そうして、私たちは一旦街を見て回ることにした。
あの辺りでずっと待っていても、不審に思われるだけだからだ。
少し歩いて見つけた小さなレストランに、3人で入った。
うち1名は、私のバッグの中だが...
早速椅子に座って、メニュー表を眺める。
「ミートボールパスタ美味しそうだな」
「私はこのサンドイッチにするわ。イヴは...後でリンゴを買ってあげるわね」
『わぁい!りんごすきすき!!』
注文を済ませ、しばらく談笑をしていたが、
ある3人の客が入ってきた瞬間に、ヴォルケが喋らなくなった。
なにか不審な人物なのかと、少し離れた席に座った3人に目をやった。
ひとりは長身の男性。少しウェーブのかかった茶髪で、ここからは顔が見えない。
こんな暑い日だというのに、緑色のジャケットを着込んでいる。
もうひとりは銀髪の男性。センター分けで、微笑んでいるような表情に見えるが、
目の奥が笑っていないように見える...不気味だ。
さらにもうひとりも銀髪の男性。右側の前髪がオールバックになっていて、
左側の前髪は長い。アシンメトリーなヘアスタイル。
無表情で、その瞳からは感情が読み取れない...
おそらく、先程の男性とは血の繋がりがありそうだ。
一通り彼らのことを観察していると、ヴォルケが小声で話し始めた。
「あいつら、入店直後から俺等のことチラチラ見てやがる」
「それは気づかなかったけれど...あの身のこなし、素人とは思えないわね」
私たちが彼等を警戒し始めた瞬間、彼等は急に席を立った。
注文もせずにだ。明らかに様子がおかしい。
「...政府の犬かしら」
「けど、警戒だけで終わったのかもな」
とりあえず今は、彼等が去ったことを喜ぶべきだ。
ヴォルケにそう言われ、私は頷いた。
運ばれてきた料理を食べてから、外に出てまた街を歩いた。
すると、またしてもあの3人組が近くをうろついているのが見えた。
どうする?という意味も込め、ヴォルケに目配せした。
「知らねぇよ...ついでに観光でもしているんだろ」
「それなら、いいのだけれど」
先程は位置のせいで見えなかった、茶髪の男性の顔。
それを確認しておくために、私は彼等の方に視線を向けた。
すると、その男性と目がばっちり合ってしまった。
ここは逸らしてしまう方が不自然だ...そう感じ、
目をバッチリ合わせたまま数秒間耐える。
するとあちらの方が音を上げてしまったようで、
ふっと目を逸らされた。私の勝ちだ。
一部始終を見ていたらしいヴォルケにツッコまれる。
「あのな、お前馬鹿か」
「馬鹿じゃないわ。実際あのまま逸らしていたら、絶対に目をつけられていたもの」
「話したこともないやつに目をずっと合わせる時点で、お前の方が不審者だ」
それは心外だ...私はうまくやったはずだが。
そう伝えてみるものの、馬鹿だと言われるだけだった。
確かに、少しまずかったかもしれないと思っているが。
「そういえば、サーカスは見に行くのか?」
「見に行きましょう。どうせ暇だから」
「ならそろそろ行ったほうがいいんじゃないか?」
「そうね。席が埋まる前に」
そうして私たちは、サーカスのテントがある方へと戻っていった。
---
ようこそ、今宵はよく我らがサーカス団にお越し下さりました!
一夜限りの夢へ、お客様をご招待いたしましょう。
今夜ばかりは普段の生活は忘れ、我らに身を委ねてくださいますよう...
---
少し時間は飛び、サーカスの公演が始まったところだ。
盛大な前口上と共に、団長が姿を表した。
長髪で、声も中性的。一見性別がどちらかは分からない。
団長のフィンガースナップを皮切りに、他の団員の見世物が始まった。
まずはジャグラー。6つの玉をお手玉のように投げている。
そこまでは普通だが、なんの合図もなく玉のすべてに火がついた。
だがジャグラーは熱がることもなく、涼しい顔で芸を続けている。
そこで、ヴォルケが口を挟んだ。
「あれ、素肌に見えるけど手袋だな。耐熱加工か」
「よく分かったわね」
「分かるさ。俺は目がいいんだ」
次はタイトロープ・ウォーカー。
彼女は人気があるようで、会場中から声援が響き渡った。
高所に張られたロープの上を、バク転などの芸をしながら渡っていく。
見ているだけでもハラハラするが...タイトロープ・ウォーカーは、
やはり涼しい顔で芸をしている。あれもタネがあるのだろうか?
「あれは普通に、あいつの身体能力が高いだけっぽいな...」
「そうなの?すごいわね」
次はフライングトラピーズ。
ふたりの女性が、息ぴったりで空中ブランコでの
パフォーマンスを行った。
サーカスの花形ということもあってか、
またしても会場中からは熱い声援が響き渡った。
私も見入っていたが、ヴォルケに肩を叩かれた。
彼の目線の先には、またしても先程の3人組がいたのだ。
「...目つけられてるっぽいぞ」
「そうね」
「お前のせいだ」
「違うわ」
きっと、何をしようとも奴らには目をつけられる運命だったというわけだ。
そもそも私たちは、顔が割れているはず。
それなら彼等が、私達だけを執拗に追うのにも納得できる。
3人組への警戒を高めていると、会場から何人かの悲鳴が上がった。
ステージに視線を戻してみる。
そこには、大きなライオンと男性が立っていた。
ビーストテイマーの芸だろう。
会場中には、得も言えぬ緊張感が走った。
ビーストテイマーの男性がフープを持つと、ライオンは見事に
そこをくぐり抜けた。瞬間、会場の悲鳴は歓声に変わった。
これで今日の公演は終わりのようで、ステージ上に団員全員が集まり、
締めの挨拶とお辞儀で幕が閉じた。
だが、私たちはここからだ。ここからオーディションがある。
席を立ち、先程話した団員に待ち合わせ場所として指定された
木箱が積み上がった場所で待っている。
しかし、約束の時間になってもあの団員はこないではないか。
もしかすると、揶揄われたのかもしれないな。
そう言いながら別の団員と話をしに行こうとすると、あの団員がやってきた。
...後ろに、あの3人組を連れて。
「悪かったね君たち、他にも団員になりたいって人に声をかけられてさ」
「ああ...そうだったのか」
「貴方がたも入団希望なんですか?よろしくお願いしますね」
そうやって私たちに声をかけてきたのは、センター分けの方の銀髪。
やはりその表情からは真意や感情が読み取れない。
ただ一応話しかけられたので、軽く会釈をしておく。
団員に舞台裏の方に案内されながら、先程のセンター分けの方の銀髪の提案で、
お互いに自己紹介することになった。
これから一緒の舞台に上がるかもしれないから、ということらしいが。
「僕はテオ・アードルングです」
センター分けの方の銀髪の名前は、テオというらしい。
オーディションに落ちなければ、よろしくお願いしますね。
そうかけられた言葉の裏には、”お前らは落ちるだろうけど”のような
ニュアンスが含まれているような気がした。
明らかに私たちの方を見ながら言ったからだ。
「おれはマリー・アードルングだ」
アシンメトリーヘアの方の銀髪は、マリーという名前だそうだ。
やはりテオとは血縁関係にあるそうだが、
それよりも名前の可愛らしさに気を取られてしまう。
「オレはバーナード・ツヴァイト。よろしく頼む」
先程目が合った茶髪の男性の名前は、バーナードというそうだ。
間近で見るとやはり背が高く、180後半か190はありそうだ。
続けて私たちも、名前を名乗る...ただし、偽名で。
「私はレイよ」
「俺はシエル」
私たちの名前を聞いた瞬間、バーナードが眉間にシワを寄せた...
もしかして、すでに本名を知られていたのだろうか?
だとしたらひどい墓穴を掘ってしまった。
言ってしまったものはしょうがない...私たちは気を取り直して、
オーディションが行われるらしい場所を見渡した。
広く、様々な小道具が置いてある。
「君たちにはここで色々な芸をしてもらう。それで適性を判断しよう。
適性なしと判断された場合は、お帰りいただこうか」
団員が、にやりと不気味な笑みを浮かべた。