他サイトに載せていない、マレウス×エース作品の寄せ集め。
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目次
どっちがいい?
暗い洞窟の中。黒いドラゴンが、口をモゴモゴとしている。
やがて地面に向かって口を開く。出した舌の上には、全裸のエースがいた。
苔のじゅうたんの上に、そっと乗せられるエース。唾液でびしょ濡れの裸体をひくつかせている。
「また僕の口の中でしゃぶられるか」
ドラゴン形態のマレウスは、解放したばかりのエースの全身をべろりと舐める。
やわらかい刺激だけで果てるエース。
「んあ、あ」
「それともこうして外で舐められるか」
マレウスは果てた証ごと、ぺちゃぺちゃとエースを舐め続ける。
「どっちがいい?」
舐めない選択肢はない。
ドラゴンの愛情表現は、舌を使うものだから。
ウソつき彼氏
「最近、トラッポラが性行為を痛がるようになってきている。気持ちよくさせようと努力しているのだが、それでもまだ痛いらしい。あまりにも痛がるから、中断せざるを得ないのだが……どうすれば痛くさせずに済むのか。リリアよ、知恵をかしてくれ」
「安心せえ! それ、気持ちよすぎてつらいから、途中でやめさせるために、ウソをついとるだけじゃ! 本当はこれっぽっちも痛くなっとらん!」
「なんだと!? それは本当か!?」
「セベクに愚痴っとったのを聞いたから本当じゃ! わしに聞かれるかもしれんのに、エースは詰めが甘いのう」
「この僕に、ウソをついていたとは……!」
「これこれ、怒るでない。もうウソをつけさせんようにすればよいだけじゃ」
「……そうだな。もう途中でやめなければいいだけだ。いままでわざと痛がっていた罰として、泣いても叫んでも、やめてやらん」
「くふふふふ。そうじゃ、遠慮はいらんぞ、マレウスよ。引いてきてばかりだったいまこそ、押して押して押しまくるのじゃ!」
エースはマレウスの弱点を知っている
二人そろってベッドの中で横たわれば、身長差は関係ない。復活したエースはマレウスの頭を抱えこんだ。
汗で張り付く額をかき上げる。あらわになったツノの付け根に舌をゆっくりと這わせる。腕の中にいるマレウスがひくりと反応した。
「トラッポラ、そこは」
「気持ちいいでしょ?」
「うん……」
舐めている間にも左手でツノの先端をしごき、右手で太い尻尾の付け根をなぞる。
「あ……」
マレウスの声が心地よい。
エースはこの後も、思う存分マレウスをよがらせるつもりだ。
先ほどまで好き放題されたのだ。今度はこちらの番だ。
事後
「おはよー、監督生……」
朝の廊下でエースと出くわした監督生は驚いた。
気だるそうに、ポヤポヤとしているエースの姿。これは……。
「まだ調子が戻っていないのに、無防備に出歩くな」
いつの間にかマレウスがエースに寄り添っている。
エースはむくれながら「こうなったのアンタのせいじゃん」と答えた。
──間違いない。これは……事後というやつだ!
「いや違うわ!」
監督生の心の中を読んだエースは抗議した。続けて説明する。
「これは『累計一時間キスしないと出られない部屋』に閉じ込められて……たまたま一緒にいたマレウス先輩と、しないといけなくなったやつで……」
おかしい。
「ツノ太郎にかかれば、そんな部屋ぶち壊せそうだけど?」
二人そろって、不自然に顔をそらす。
「やっぱり違わないじゃん! 事後じゃん! どうせその部屋、ツノ太郎の部屋でしょ!」
思わず監督生は突っ込んだ。
妖精族は浮気を許さない
大好きなマレウスとの、初めての性行為。
絶対に失敗したくなかっただけなのに。
「これはどういうことだ……?」
静かな口調だが、マレウスは間違いなく怒り心頭に発している。
組み敷かれながら恐怖に震えているエースに、変わらずマレウスは詰問を続ける。
「こんなにもほぐれているなんて……直前まで相手がいたとしか思えない。僕を、裏切ったのか、トラッポラ」
「待って。これは──」
自分でやっただけ。その一言さえ続ければ、また状況は変われたのに。
「もういい。聞きたくない」
エースののどが魔法で張りつく。声が出なくなった。
マレウスとスムーズに事を進めたくて、自分で事前に慣らしただけで、ここまで最悪な状況を作れるのかと、感心さえ覚えた。ただの現実逃避である。
一方的な捕食が、もうすぐ始まる。
窓の外の雷雨は激しさを増すばかり。
地下牢で逆さ吊り・1
茨の谷の王城に軟禁されたエースは脱走を図ったが、見張りに見つかってしまい、連れ戻された。
脱走未遂の罰として、エースは地下牢に閉じ込められる。
全裸で、Yの字型に、逆さ吊りにされて。
※頭に血が上るとかの、肉体的な損傷はありません。
まだ刑務所がなかった時代の名残が、現代の王城の地下にある。もう使われていないはずのそこは、いまは一人の人間のために存在している。
唯一、使用中の地下牢の中に、マレウスは入った。
あらゆる種族が入れるようにと設計された牢の天井は五メートルほど。両足を限界まで広げたYの字に、天井に逆さ吊りにされているエースがいた。服は剥ぎ取られており、裸体を惜しみなくさらしている。
両足首を拘束している枷の間に鉄棒が通してあるせいで、足は閉じられない。その足枷の鎖を、マレウスは魔法でゆるめる。ジャラジャラと音を立てて、天井からゆっくりと下ろされていくエースの裸体は、マレウスの魔法のおかげで、吊るしたての時と変わらず健康体のままだ。頭に血は上っていないし、全体重をかけている両足も鬱血していない。
けれど丸一日、一人きりで逆さ吊りにされていた事実は、確実に精神を磨耗させていた。証拠に、マレウスの目線の高さにまで下げられたエースの顔は、涙とよだれと汗と恐怖でびしょ濡れになっている。
床に向かってぶら下がっていた両手で、エースは逆さまに見えているマレウスの肩に必死にしがみつく。冷めたマレウスの目を見ながら謝罪する。
「先輩、ごめんなさい! もう逃げないから! もう下ろして! もう吊るさないで!」
「反省しているのなら、相応の誠意を見せろ」
互いのくちびるの高さをそろえる。意図を汲んだエースはすぐにマレウスに口づけた。汚く濡れた自身の顔をぬぐう発想がないようだ。王族の顔に体液を付着させる愚行を犯しているが、あえてマレウスは許した。逆さまに与えられる口づけは新鮮で楽しくて、それ以上に愛おしい。
口の中で舌を絡めて、ゆがんだ愛を確かめ合う。二人きりの行為を先に止めたのはマレウスだった。
くちびるを離して、一言。
「次」
エースはあっけにとられる。おそるおそる問いかける。
「次……? なんの?」
「次の誠意を見せろ」
マレウスは魔法でスツールを出す。王族が腰かけるにはずいぶんと質素なスツールを、エースのほぼ真下に設置。そこにマレウスは足を開いて座った。
天井の鎖が更に下がっていく。
「むぐ」
エースの顔がマレウスの股間に埋もれたところで、鎖が止まった。
まだ興奮していないのか、服越しの股間は静まったまま。しかしペニスのやわらかい感触はエースの口元に伝わっている。鼻の穴も埋もれて、息苦しい。
マレウスはエースの後頭部に左手をそえて、エースの顔面をグリグリと股間に押しつける。
「むぐううううっ」
息ができないエースはたまらずマレウスの背中を両手でたたく。
「最低限の呼吸はちゃんとさせてやる。気をやるな」
宣言通り、鼻の穴だけは、少しだけ股間からずらされた。けれど鼻呼吸しかできない。マレウスの匂いから逃げられない。
「むう! む! むー!」
「そうだ。そのまま僕を感じていろ」
眼前にあるエースの、Yの字に開かれたままの剥き出しの股間を見ながら、マレウスは命令した。
身長差が激しい分、胴体はマレウスのほうが若干長い。自身のペニスをエースの顔に押しつけても、自身はエースのペニスのすぐ目の前にあるわけではない。二つの袋が目線のやや下にあるくらいだ。
マレウスはエースの後頭部をつかんでいない右手を上げて、二つの袋を手中に収める。コロコロと転がして刺激を与えて、精液を作らせる。あまった親指で会陰をグリグリと押し込み、ときおりカリカリと引っかく。
エースの内股がピクピクと震えている。
「んん! んぐ! んうぅううう!」
マレウスの開いた内股が湿ってきた。エースの涙だ。
「もう感じているのか? まだ誠意を見せきっていないのに?」
マレウスは舌を伸ばす。勃起を始めていたエースのペニスに絡みつき、二股の舌先で亀頭を舐める。尿道口を中心にチロチロとくすぐれば、エースの悲鳴と体の震えが増す。
「むうううーーっ!!」
──イきそうか。だがイけないな。竿をしごいてやらねば、お前はいつまで経ってもイけず、苦しむだけ。
「ふーっ! ふーっ! ふーっ!」
──ふふふ。鼻息がくすぐったい。……ああ。汁が出てきた。苦いが、悪くない。もう少し出してもいいぞ。
「むう、う! んあああああっ!」
──こら、勝手に顔をずらすな。
マレウスはエースの後頭部を掴みなおし、顔面をふたたび股間に押しつける。もう離れてしまわないように、しっかりと。
袋と会陰から指を離して、次は竿をくすぐる。しごかずに、指先でタップするように。裏筋とカリ首を重点的にくすぐれば、尿道口からにじみ出ている苦い汁の量が増えた。
エースの涙混じりのくぐもった悲鳴がマレウスのペニスに伝わって、心地よい。だがまだ勃起するほどではない。妖精族は人間ほど性欲が発達しておらず、機能するのが遅い。
だからマレウスはエースに命じたのだ。
──妖精族の僕が達するまで、人間のお前に付き合ってもらう。
──ほんのひとときだ。半日もかからないだろう。人間のお前にとっては、長いかもしれないが。
──耐えろ。耐えられなくても、続けてやろう。
──僕の部屋から勝手に出ていかないという誠意を見せろ。
地下牢で逆さ吊り・2
「……よし。もういい」
「はーー……はーー……」
エースの顔がマレウスの股間から離された。
こうしてマレウスが勃起して、股間をくつろげるまでに、実際はどれほどの時が経ったのか。達せないまま苦しむエースには数えられなかった。
自身から出ていた先走り液と、マレウスの舌先からしたたり落ちていた唾液と、新しい汗や鼻水などで、またエースの顔面が濡れている。あまった体液が髪を伝いおりて、スツールの座面を濡らす。マレウスにしがみつく体力もなくなり、垂れ下がった両手の指先からもポタポタと床に落ちていく。
服から解放されたペニスがエースの頬をたたく。
「くわえろ」
マレウスに命令されたとおりに、エースは口を大きく開く。吊るされて自分からは動けないエースのために、マレウスが自ら口内に入れていく。
のどの奥を、ぐーーーー……と押し込まれたエースの体が震える。窒息する前に、ペニスがのどから離れた。
「ごふっ。ごほっ。ごほっ」
口内に居座ったままのペニスの先端に、エースのむせた息がまともにかかった。
生暖かい息を感じて、マレウスはくつくつと笑う。
「気持ちいいな、エース」
「ご、ぼ」
また奥に押し込まれたエース。窒息寸前に離されて、押し込まれてを繰り返される。
六回目を始める直前で、エースはペニスを吐き出して、泣き声をあげた。
「ううぅ〜〜っ! もうやだあ。お願いだからっ。ベッドで! ベッドでやるからあ! もう吊るすのやめてよおおっ」
「床ではなく、ベッドと来たか」
「床! 床でやるからあ……! うえええええ……」
エースは子どものように泣きじゃくる。マレウスは少しひるむ。
「……わかった。これが終わったらベッドに連れていってやる」
「う、ううっ、うえええ……」
「もう二度と僕に逆らわないと誓えるな?」
「誓う。誓うから。もう家に帰れなくてもいいから」
「……言ったな?」
思わぬ副産物を得られた。
妖精の国で暮らす報告のために、一度は家に帰すつもりだったのに、それをエース自らつぶしたのだ。
これまでの失態を帳消しにしてもいいと思えるほどの宣誓だった。
「あと一回で終わらせてやろう。そのときに──」
わざと言葉を区切り、エースの爆発寸前のペニスに触れる。不意打ちを食らったエースは「いひっ」とよがった。
さすさすと竿を軽くなぞりながら、マレウスは続きを言う。
「ここを、果てさせる」
マレウスは自身のペニスをエースの口の中に突っ込む。同時に背を曲げて、エースのペニスの半分を口の中に含んだ。
「ごぶううっ」
真下で聞こえてきたエースのうめき声をよそに、マレウスは口に入れていない根元を、指の輪っかでぎゅうと強めにしぼる。ぎゅちぎゅち、と半分の竿にそって激しくしごく。口の中にあるもう半分は、丸い先端ごと、舌で絡めてやわらかくしごく。
急に強くなった刺激に、エースは目を白黒させる。
「おごっ。おごおっ! あが……ごぼっ」
のどの締まりがよくなり、マレウスのペニスもますます膨れる。後頭部を強くわしづかまれて、奥をガンガン突かれて、エースはまた泣きだす。もう止めてはくれない。
エースの体が大きく跳ねて、天井の鎖がガチャンと揺れた。
マレウスが射精する前に、エースがマレウスの口内で射精した。
どぷどぷとあふれてくる精液を、マレウスは飲んでいく。のどに引っかかる感覚も、ストレスを与えられてまた苦くなった味も、あますことなく。その間、マレウスはずっと、エースののどの奥をペニスでふさいでいた。
達している最中に呼吸を制限されて、深い快楽に堕とされたエースは白目を剥いている。ガクンガクンと全身をけいれんさせた後、ふつりと脱力した。
「はああぁ……」
大きくため息をつきながら、マレウスはペニスをエースの口から抜く。ペニスはまだ勃起したまま。達する前に気絶されたのだ。
「僕がまだなんだが……ベッドで起こせばいいか」
スツールから立ち上がる。スツールを消してから、乱れた衣服をかんたんに直す。エースの両足から枷を取る。自由になったエースの体を横抱きにしたマレウスは、自室に転移した。
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数時間後。マレウスにとっては程よい時間に、マレウスも無事、エースの口の中で射精した。
ベッドの中でのシックスナインはたいそう気持ちよくて、仕置きなど関係なく、数日後にまたやりたいとマレウスは思った。
「は……ふ……っ。もう……むり……」
追加で数回、マレウスの口内で射精させられたエースの心を置いて。
泉で水浴び
精霊に守られている泉は、直射日光を浴びても水温は冷たいまま。とても暑い日が続く中での水浴びは気持ちよかった。
けれど長く浸かっていると、熱かった体も冷えてくる。水着すら着ていなかったため、余計に。
くしゃみをすれば、遠くからマレウスの声がする。
「そろそろあがれ」
「はーい」
返事をしたエースは全裸のまま泉から出た。ペタペタと足音を鳴らしながら、木陰の中にいるマレウスに近づく。
木陰の中は生ぬるい。いまのエースにはちょうどよい気温。
マレウスはエースを抱きしめた。
裸体についた水滴が、マレウスの服に染みていく。
「あったけー」
また暑くなるまでの、ほんのひととき。抱擁の温もりをエースは噛みしめた。
雪と暖炉
エースは薪を大きくくべた。暖炉の火が勢いを増し、パチパチと音を立てる。先程よりも少しだけ、室内が暖かくなった気がした。
「雪はまだ止みそうにないな」
──先輩が降らせてるくせに。
エースを帰したくない魂胆が見え見えである。けれど、あえてエースは乗った。
「まぁね。でも先輩の部屋ってあったかいし、大丈夫でしょ」
知らないフリをしたエースも共犯だ。
共犯者同士、くすくすと笑い合う。
「近くに寄っても良いか?」
「なんで?」
「暖を取りたい」
「しょうがないなあ」
エースは遠慮なくマレウスに身を寄せる。マレウスはエースの肩をそっと抱く。
二人の体温が、静かに合わさっていく。
「紅茶も淹れたげよっか?」
「あとでな」
暖炉の火が、二人の姿をやさしく照らしていた。
ゴーストの抱卵
一つの卵が安置されている室内。マレウスを含む一部の者しか入れないそこには、常にゴーストが一体、卵のそばにいる。
少年の姿をしたゴーストは卵を愛おしげに撫でて、ときどきキスを贈っている。卵が未練のもとなのは明らかだ。
だからマレウスは願ってしまう。
どうかいつまでも孵らず、いつまでも帰らないでいてくれと。
卵を産んですぐに命を落とした少年の左手の薬指には、黒色のリングがはまっていた。
そしてマレウスの左手の薬指にも、同じものが。
お気に入りの肖像画
マレウスの部屋に遊びに来たエースの目に、真っ先に飛び込んできた肖像画。
「なにあれ」
「自分の顔がわからないとは……」
本気で心配そうにしているマレウスには悪いが、本気で脳が理解を拒んだのだ。
いつ描いたのか、誰に描かせたのか、いつから飾っていたのか、そもそもこの画を描くための見本はどうやって手に入れたのか、聞きたいことは山ほどある。あり過ぎて、どこから聞けばいいのかわからない。
だからエースは、目撃してすぐに思いついた疑問を大声でぶつける。
「なんでオレの顔が飾ってあるんだああああ!?」
しかもマレウスにしか見せないような、甘い笑顔の。
きらきら星
空の上は、プラネタリウムよりもダイナミックで、宝石のように輝いていた。
「すげえ……」
マレウスの腕の中にいるエースは、幼子のように単純な感想しか言えないようだ。
星空に夢中になっているエースの瞳を、マレウスは覗き込む。
星々に負けず劣らず、キラキラと輝いていた。
「お前と見る星空は、すべてが輝いて見える」
「大げさだな」
エースは照れ隠しのように笑う。その笑顔を直視したマレウスの心にも、一つのあわい輝きを灯した。
借りてきた猫のようだった
外泊届を出した瞬間から、覚悟はしていた。
夜。エースはガチガチに緊張した表情で、マレウスのベッドに腰かけた。
まるで借りてきた猫のようなエースの肩を、マレウスは抱く。
「トラッポラ、そんなに固くなるな。夜をともに過ごすだけだ」
「でも、でもさ、マレウス先輩の部屋に、しかもベッドに座るなんて、普通に緊張するでしょ」
「……ならば、床に座るか?」
マレウスなりの冗談だったが、エースはそう取らなかった。
正常な判断を失ったエースはマレウスから離れる。ベッドに腰かけたままのマレウスの足元の床に、素直に座った。
長い足に抱きつくように、ぺたりともたれかかる。
マレウスは驚く。マレウスの足におとなしく懐くエースの姿を凝視する。
「……いい」
「新しい扉開こうとすんな!」
不穏なつぶやきを聞いたエースは正気にもどり、あわててマレウスの足からも離れた。
添い寝
広いベッドの中で、二人はシーツに沈んだ。
エースは甘えるように、自身をマレウスに寄せる。マレウスもゆっくりとエースの背中に腕を回す。
「マレウス先輩、あったかい。いつもは冷たいのに」
「風呂上がりだからだ。お前も温かい」
エースは「ふふ」と小さく笑った。続けて言う。
「マレウス先輩といっしょにいると、なんか安心する」
「僕もトラッポラといると、心が安らぐ」
しばしの静寂。二人は目をつむり、互いの温もりを感じながら、少しずつ深くなっていく夜を共有する。
マレウスの胸元で、エースはつぶやく。
「オレ、眠くなってきたかも」
「このまま夢の中に行こう」
「うん」
おやすみ、とあいさつを交わして、二人は意識を沈めていく。おだやかな寝息を先に立てたのはどちらなのか、誰も知らない。
鼻が効く二匹の獣
レオナはグリムをめんどうそうに見る。
「エースにつがいができただあ?」
「間違いないんだゾ。爬虫類っぽい匂いがプンプンするんだゾ。でも人間のつがいは人間なはずのに、爬虫類だなんておかしいんだゾ?」
レオナは「はっ」と鼻で笑った。
「心当たりがあるぜ。それをリリアに言ってみな。おもしろいもんが見れるぜ」
「見るよりツナ缶が食べたいんだゾ」
「口止めにもらえるかもなあ?」
「もらえるのか!? リリアのとこに行ってくるんだゾー!」
一時間後。ツナ缶を大量に持って、オンボロ寮に帰っていくグリムの姿があったそうな。
僕の心の闇
マレウスはエースを抱きしめる。
「少しだけ、このままでいさせてくれ」
いつになく弱い言葉だった。
突然のことにエースはとまどう。背中に回された腕の震えを感じて、何も言えない。
マレウスは言葉をつむいでいく。
「いまのお前は、まるで光のようだ。僕の心の闇を、少しだけ照らしてくれる」
「闇、ね……」
聞いているこちらが小っ恥ずかしくなる言葉だった。しかしマレウスが言うと、やけに似合う。
こわばっていたマレウスの腕が、徐々にゆるんでいく。エースの温かさに安らぎを得ているようだが、それにエースは気づかない。
「礼を言おう、トラッポラ」
「そこは『ありがとう』って言ってくださいよ」
「ありがとう」
素直な言葉に、今度こそエースは照れた。
花嫁は買収済みです
「アズール先輩! 助けてください!」
「ご結婚おめでとうございます」
「一瞬で見捨てられた!?」
即答した理由はある。アズールはすでにマレウスに買収されているからだ。
アズールは嬉々として契約書を取り出す。
「結婚は契約そのもの。まずはこちらに目を通してください」
「マジかよ……」
エースはがっくりとうなだれた。
これがもし同意のないものであれば、さすがのアズールも、買収を断っていた。ビジネスは金持ちのためにあるものではない。金の無い者を一方的に足蹴にしてはならない。
エースからの婚姻の同意もあったからこそ、アズールは心置きなく契約書を用意できたのだ。
「そもそもあなたも、付き合うときにマレウスさんに言われていたでしょう。結婚前提だと」
エースはもごもごと言い訳をする。
「あんなの、告白を盛り上げるための演出だと思うじゃん」
「僕まで立ち合わせておいて、よくも演出だとほざけましたね。僕もひまではないんですよ?」
「弱みをにぎるために居たと思うじゃん!」
「何はともあれ、ドラコニア家の花嫁になる道からは逃れられませんよ」
「オレが嫁かよ!?」
改めてアズールは契約書をエースに突きつける。
「さあ、サインを!」
婚姻をより強力なものにするための、契約書を。
謎解きゲーム
主人公が石壁を手で撫でたり、叩いたりして、仕掛けを探している。すると石壁の模様が画面にアップで映った。色が濃いだけだと思われた模様は、よく見たらへこんでいた。
コントローラーを操っていたエースは一人納得する。
「ははん。なるほど。ここにアイテムをはめれば、どっかの扉が開くってわけね」
エースの隣でゲーム画面を眺めていたマレウスが問いかける。
「なぜアイテムとやらを穴にはめるだけで扉が開くとわかる?」
「そういうセオリーなの」
「なんて都合のいい世界だ」
たかがゲームにいちいち突っ込むマレウスを、エースは嫌がらない。
あれでもゲームを楽しんでいるのだと、エースにはお見通しなのだ。
エースの予想は三度外れる
あらすじでは、もっとマイルドなものだと思っていた。だがその予想は外れていた。
そのレンタルDVDは、ふたを開けてみればグロテスクなものだった。
モンスターに襲われて逃げまどう人族たち。なすすべなく食われていく。作りものだと理解しても、忌避感はどうしても出てくる。
「うーわ。けっこうグロい。見るのやめますか?」
そう提案しながら、エースは同じソファで隣に座っているマレウスを見る。
マレウスも同じく引いているとエースは思っていた。だがまたもやその予想は外れた。
目を輝かせながらグロテスクなシーンに魅入っているマレウスがいたのだ。
──もしかしてマレウス先輩って、こういう趣味もってんの?
もしその趣味を、こちらに向けられる日が来てしまったら……。
勝手に予想して、恐怖で震えるエースに気づかないまま、マレウスはモンスターに見とれ続けている。
ガーゴイルを忠実に再現した、美しいモンスターだけに。
ツノを触りたかっただけ
エースは手をあげて、マレウスのツノに触れる。率直な感想をマレウスに伝える。
「冷たいような、温かいような、不思議な感じ」
マレウスはエースの瞳を、上目遣いで覗き込む。
「特に変わり映えのない瞳の色だが、不思議と惹き込まれる」
「オレのことはどうでもいいじゃないですか!」
エースはあわててマレウスから離れた。
いまさら照れているエースの様子を、マレウスは疑問に思う。
ツノを触るためだけに、マレウスに屈むように頼んだあげく、屈んだマレウスの頭部に腕を回したくせに、なにをいまさら照れているのか。
愛らしいピエロだった
魔法で温度管理されているバスタブの中は、熱すぎず、ぬるすぎず、ちょうど良い。
居心地も良くて、エースは深く息をはいた。
背もたれに使われているマレウスは、片腕でエースをゆるく抱きしめる。もう片方の腕を水面からあげて、指先に泡を一つ生み出す。その泡を、エースの鼻頭にちょんと付けた。
「うわ。なに?」
振り返ったエースの顔を見て、マレウスはくつくつと笑う。
「なんて愛らしいピエロだ」
すぐにエースは自分の指で、鼻頭の泡を割った。
「ピエロはお客様といっしょにお風呂なんて入りませーん」
「そうだったな。僕の恋人」
マレウスは悪びれずに訂正した。
うすい湯気の中
「こうして二人きりで風呂に浸かってんのって……なんか、いいね」
「どう『いい』と感じたか教えろ」
「ホッとするっていうか、落ち着くっていうか」
「そうだな。静かで、おだやかで、まるで僕たちしかいない世界のようだ」
「うん……」
二人のあいだに沈黙が流れる。気まずさはまったく無い、二人だけの時間。うすい湯気に包まれた、暖かくてせまくて、やさしい世界。
その世界の平和は、エースがのぼせるまで保たれた。
寿命による悩み
「オレと別れてください」
マレウスは動揺しない。うつむいているエースのあごをすくい取る。涙の跡が残っている恋人の顔を見つめながら、冷静な声色で問いかける。
「ずいぶんと一方的だな。理由を聞かせろ」
エースは言いにくそうに、けれど意を決して口を開く。
「だってマレウス先輩ってめちゃくちゃ長生きするんでしょ? オレはたったの百年しか生きられないのに。オレが死んだら、いつかオレのこと、忘れちゃうんだ。そんなの耐えらんねえよ」
予想通りの理由だった。
マレウスは吐き捨てるように言う。
「くだらない」
「『くだらない』だと!? オレは本気でイヤなんだよ!!」
「話を聞け」
なだめるために、エースの頬をなでるマレウス。エースはまた泣きそうになっている。
マレウスは続けて言う。
「トラッポラを忘れるなどありえない。お前が僕にくれた想いは、永遠に僕の中で輝き続ける」
マレウスはエースを腕の中に入れた。頭を撫でて、つむじにキスを贈る。
「僕の想いを疑うな。そんな悩み、最初から意味がない」
「先輩……!」
「そもそもお前の寿命は、すでに僕と同じになっている」
「先輩……!?」
ああ、困った
レオナはひどく顔をしかめる。
目の前にいるのは、エースに抱きつかれているマレウスの姿。
「なんだそれ」
問いかけられたマレウスは答える。
「どうやら惚れ薬をかぶってしまったようだ。まったく。この問題児には困ったものだ」
笑顔のエースを片腕で抱き寄せながら、同じくマレウスもニコニコと笑っている。
彼らに向かって、レオナは「言葉と表情がまったく合ってねえ」と吐き捨てた。
性欲は薄いけど
──ずいぶんと、なまめかしく舐めてくれる。
マレウスはそう思った。それでもマレウスのペニスは反応しない。不能だから、ではなく、長命種の妖精族は性欲が薄いからだ。
しかし萎えたままのペニスをぺろぺろと舐めて、興奮させようとしているエースの姿は、たいへん愛らしく見える。
けんめいに奉仕している恋人の姿を見ているだけで、マレウスの心は甘く溶けて、満たされていった。
記憶喪失
一年生と三年生の合同授業中に、魔法薬をかぶったマレウスが記憶喪失になった。調合に失敗した監督生をかばったせいだった。
すべてを忘れたわけではない。約一年前から現在までの期間を丸ごと忘れただけである。今期の一年生を丸ごと忘れてしまったとも言えるのだが。
「それでもツノ太郎とは、また友達でいられたよ」
そう言った監督生を、エースは心底うらやましく思った。
数日後。すっかり日常に戻ったマレウスの前に、エースは単身で立ちふさがる。
マレウスにとってはいきなり現れた一年生。マレウスは立ち止まり、確認する。
「お前は……ヒトの子の友人だったな」
「それだけじゃないです。オレは……」
ただの事故として片付けられても、マレウスの記憶喪失は続いたまま。
エースとの仲も忘れたまま。
「オレは、マレウス先輩の恋人だ」
だからエースはウソをついてしまった。
監督生とは友達だったと信じたのなら、恋人がいたことも信じてくれるのではないだろうか。
ウソがバレるまでの間だけでも、甘い顔を向けてはくれないだろうか。
そして、この片想いを葬ってほしい。
赤子と大人
年齢を知ったとき、マレウスは「まだ赤子じゃないか」と言ってしまった。
彼は呆れていたが、事実なのだ。事実を受け入れない様は、まさしく赤子だった。
だからマレウスは待った。彼が"大人"になるまで。
せめて百は超えていないと──。
「ああ……! 告白し損ねた!!」
墓の前で、マレウスは赤子のように泣いた。