かつて“黄金の右手”を持つ天才ピアニストと呼ばれたヴァンサン・ド・ルヴェール。
しかし一度の爆発事故で右手を失い、音楽の世界から姿を消した。
そんな彼には1つの絶対的な確信があった。
あれは事故などでは無い、陰謀だ──。
彼は彼の持つ絶対音楽を活かし、探偵となった。、全ては事故の真相を暴くために。
そして復讐の旋律が響く、クラシック・ミステリー開幕。
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目次
 
    
        プロローグ〖マヌ・シネストラ〗
        
            探偵と音楽、私の描きたかった要素を掛け合わせて見ました。
失踪しないようにがんばります。
小説書くのは素人なのであまり凄い展開は期待しないでくださいね!!!!
        
        
         熱気が渦巻くサル・ガヴォーの大ホール。
今日は彼にとって大切な日だ。
このコンクールは世界3大ピアノコンクールに数えられるものであり、彼の師である人物があと一歩で取れなかった栄光───。
 そして、満員の観客の視線はただ一人、舞台中央の若き天才ピアニスト、ヴァンサン・ド・ルヴェールに注がれていた。
 黒の燕尾服に包まれた長身、整えられた金の髪。だが何よりも輝いていたのは、その右手だった。
 ――“黄金の右手”。
 そう呼ばれた指が、今まさに、ショパンの《エチュードop.25-11(木枯らし)》を右手の指一つ一つが意志を持っているように、それでいても指絡むことはなく、軽やかに、紡いでいる。風の暴力的な音、葉が舞う音、そして聞こえてくるのは、観客の人々の静かな熱狂。
 だが、そのすべてが、唐突に崩れ去ることになるとは、このとき誰も想像していなかった。
 最後の音を打ち終えた瞬間、会場は拍手と歓声に包まれた。
 「ブラボー!」
 舞台袖で待機していたコンクールスタッフたちも笑顔で頷く。
 だが、次の瞬間、舞台裏から不穏なざわめきが広がった。
 ――何かが燃えている。
 焦げ臭い匂い。微かな煙。観客席にはまだ届いていないが、スタッフたちの顔は青ざめていた。
 「ヴァンサン、火事だ!早く逃げなくては!」
 袖に駆け寄ったステージマネージャーが叫ぶ。しかし、ヴァンサンは首を横に振った。
 「最後の曲を弾く。それが約束だ」
 誰にも止められなかった。天才のプライドが、そうさせた。
それが、ヴァンサンの狂気的な一面だ。
音楽の為ならば、何でも投げうる危うさが、この男にはあった。
「しかし…!」
「…邪魔をするな。観客が何事かと見ている。」
「私が……ここで辞める訳には行かないんだ。絶対に。|あの人《・・・》の為にも…。」
 そう言った彼の瞳には揺るぎない決意が浮かんでいた。それに対して、ステージマネージャはこの男を、今、動かせる者はいないと悟る。
  「…わかりました。ですが、お早めに。」
 そういった後、そそくさと去っていった。
 鍵盤に指を置いた瞬間、空気が震えた。炎の赤が、舞台の影をちらつかせる。
 観客はまだ気づかない。
   彼が一音引いた時、それは起こった。
   その鍵盤がスイッチになっていたかのように、ピアノが膨れ上がって朱になる。
 ――これは爆発!!
 その一拍後、閃光と轟音が、世界を引き裂いた。
 熱い。
 目を開けたとき、視界は赤と黒に染まっていた。
 耳鳴りの中、かすかに聞こえるのは、調律の外れたピアノの音――そして、誰かの悲鳴。
 ヴァンサンは立ち上がろうとした。しかし、力が入らない。右腕に、何も感じない。
 視線を落とすと、そこにあるべきものが、なかった。
 ――右手が、ない。
 血と煙の匂いにむせながら、彼は呟いた。
 「……何故だ…。私の手が…。くっ」
彼は痛みに悶える。
 その問いに答える声はなかった。
 ただ、遠くで、冷たい笑みを含んだ誰かの声が響いた気がした。
 ――「音を奪ったのは、私だ」
 やがて闇が訪れる。
 それが、彼の“第二の人生”の始まりだった。
        
    
     
    
        第1話〖マヌ・シネストラ〗
        
        
        プロローグを見ていない人の為の簡単なあらすじ
小さい街、モーツンベンの一角に佇むのは探偵事務所。それを営むのは、かつて天才音楽家であり、天才ピアニストであり、
あの『黄金の右手』の宿主であった__、ヴァンサン・ド・ルヴェール。
彼はあのサル・ガヴォー爆発事故により右手を失ってから、音楽界から逃げるように離れた。
彼は一つの疑念を抱いている。
いや、『確信』を抱いている。
あれは事故なんかじゃないと。
---
 白い天井を見つめる時間が、どれほど長く続いたのか。
 目を覚ましたヴァンサン・ド・ルヴェールは、最初、自分がどこにいるのか分からなかった。
 ――ここは……?
 鼻を突く薬品の匂い。機械の規則正しい電子音。
 そして、胸の奥を凍らせる空虚感。
 右腕に、何もない。
 彼はそっと、視線を動かす。
 包帯で覆われた肩口から先が、空白になっていた。
 思考が停止する。息が詰まる。
 ――これは、夢だ。悪い夢だ。目を閉じれば戻る。
 だが、現実は無慈悲だった。何度瞬きを繰り返しても、失われたものは戻らない。
 「……お目覚めですか」
 落ち着いた声が、耳に届く。
 ドアの方に目をやると、白衣を着た医師が立っていた。背後には、看護師が控えている。
 「状況は、ご理解いただけますか」
 声は優しい。だが、その奥には取り繕えない緊張があった。
 ヴァンサンは声を出そうとしたが、喉が乾いて言葉にならなかった。
 医師が言葉を選ぶように、静かに告げる。
 「――右腕は……肘から先を失いました」
 その瞬間、心臓を鷲づかみにされたような感覚が走った。
 右手。黄金の右手。世界を掴み取るはずの手。
 ――なぜだ?なぜ、俺が……。
 呼吸が荒くなる。天井が揺れる。
 「……私の……手が……!…」
 声にならない声を押し出したとき、医師はただ、痛ましげに目を伏せた。
 その後の記憶は、霞がかかったようだった。
 説明を聞いた気もする。爆発のこと、火災のこと、奇跡的に右手だけで済んで、命が助かったこと。
 ――だが、そんなことはどうでもいい。
 残ったのは、黄金の右手を失ったという事実だけ。
 ピアニストにとって、それは死刑宣告に等しい。
 夜、誰もいない病室で、ヴァンサンは何度も呟いた。
 「なぜ、なぜなのだ、私がこのような目に遭わなければならないのか…。」
 すると、その答えを知っているかのように、あの言葉が蘇る。
 ――『音を奪ったのは、私だ』
 あの日、意識を手放す直前に聞いた声。
 幻聴かもしれない。それでも、確かに耳に残っている。
  それからの数日は生きた心地がしなくて、ピアノが出来ないのなら、私にはなにも脳がない。死んでしまおうと何度思ったか分からない。
  一度、立ち入り禁止の屋上に侵入して、ここから落ちてしまおうかと思ったが、その時、屋上からある車が見えた。 
  それはヴァンサンの師であり、元世界的ピアニスト__アルベルト・ヴァ・イオールコスのものだった。
  ヴァンサンは少し、会うのが怖かった。でも、それでも会わなくてはと思い、屋上から去っていった。
「…ヴァンサン。」
   扉の向こうには、ヴァンサンの亡くなった右手や他の点々とある傷を見て、何とも痛ましそうにしているイオールコスがいた。
「先生。…」
  なにか、ヴァンサンは話そうとしたけど、何も話せなくて沈黙が流れる。
すると、ゆっくりとイオールコスは口を開く。
「痛かっただろう。」
「…。ええ。」
「あのような事故が起きなければ、お前は栄光を手にできたのにな…。」
「…大変申し訳なく思います先生。|約束《・・》をしたのに。」
「いいや。いいんだ。老いぼれの夢に付き合わせてしまってすまんね。」
「いいえ。先生なら夢ではなく、本当に栄光を取れたはずです!!…私も、あなたも、…本来ならっ…。」
「落ち着こうヴァンサン。もうその話はよそう。ピアノの話をして済まなかった。」
「何も謝ることじゃあるまい。ピアノの話もしても良いのですよ?」
「……そうなのか。てっきり、右手を失ってピアノなどもう懲り懲りかと
…。」
「……ピアノしか俺にはありません。ですが…。」
「他にやりたいことも本当にないのか?」
  その言葉を聞いて、少し、なぜか心が揺さぶられる。
「ですから、俺にはピアノしか…。」
「やりたいことと、できることは違うぞ。ヴァンサン。お前は今、ピアノという出来ることを、思い浮かべいるんじゃないかと私は思う。
やりたいことはなんだ?ピアノをまだやりたいのか?それならば、私はできる限り支援をするが…。
私はそうは見えないのだ。色々と心配なんだ。お前は、良くも悪くも、『天才』ではもうない、自由になれるのだから。」
  その言葉に、ヴァンサンは言葉がでず、放心する
  (自由ならば、やりたいことが出来るならば、俺は何をやりたいんだ…?)
「分かりません…。」
  ヴァンサンは答えが出ず、ただ戸惑う。
「…。いきなりこんなこと聞いて悪かった。お前にも心の整理の時間が必要だろう。」
  イオールコスは立ち上がり、コツコツと靴の音だけを残して病室から立ち去った。
  ヴァンサンはまだ、あの言葉を反芻して考えていた。
(やりたいこと…。 )
  答えを探すように、病室の中を見渡す。そこには、もちろんなにも答えなど書かれてはいなかった。
  けれど、ある新聞記事が目に入る。
『ピアニスト、ヴァンサン・ド・ルヴェール。|事故《・・》により、黄金の右手を失う__。』
「は?」
  その記事を見た途端。間抜けな声が漏れでる。
  ヴァンサンはこの一連の事件は、事件として処理されていると、何故かそう思い込んでいた。あの声の正体も、解明されるだろうと思っていた。
  「事故などありえない…。」
  そう呟いたヴァンサンは、一つ、言葉を思い出す。
『____お前は天才ではもう無い、自由になれるのだから。』
  ____病室に沈黙が流れる。
  しかし、一つの決意はその流れには乗らなかった。   
--- 
 数か月後。パリ、サン=ジェルマンのカフェ。
 冷たいエスプレッソを口にしながら、ヴァンサンは新聞を広げた。
 「音楽界の革命児、今度は探偵業?」
 そんな見出しが躍っている。半ば戯れとして記者が書いた記事だったが、彼はその肩書きを受け入れていた。
 ピアノを失った男に残されたのは、真実を求める指先__だけだった。
        
            次回から本格的に探偵小説ぽくなると思います。
プロローグ結構長くなってすみません( ;´꒳`;)
ご閲覧して頂いた方々、ありがとうございました!!
良かったら感想等お願いします🙏