書きたいものを思いのままに書いていきます!!
基本的には、このシリーズで一話完結を書きます。
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目次
薬局の何気ない日常
「朱里。鈴木さん家に電話掛けてくれない」
「鈴木さん家ね。わかったー!」
東京港区・渋谷区の松濤。渋谷駅から徒歩圏内という立地にもかかわらず、一歩足を踏み入れると喧騒とは無縁の静寂な邸宅街が広がっている。広い敷地面積の建築協定により、豪邸が立ち並ぶ景観が保たれている。政治家や大手企業の経営者が多く住んでいる街でもある。
そんな街の少し外れた小道で薬局を構えている花宮薬局は、近くの街の都合でご尊人や地域住民など薬を出すことが多いにも関わらず、薬包紙を素早く手で包む職人技や様々な色の薬液を調合する様子から称賛の声が上がる。
(鈴木さん家は薬局から遠いのよね)
鈴木さん家は、邸宅街に位置する。薬を運びに行くには少し遠いため、電話をかけて取りに来てもらおうとしているのだ。
電話帳のすの段を指でなぞり、鈴木は複数名いるため住所を見ながら、電話番号をみつける。
花柄の洋服のようなものを着せている電話機にダイヤルを指に引っ掻けて電話帳にのっている電話番号を間違えないように数字のところまでまわしていく作業を繰り返し電話を掛ける。
しばらく待っても繋がらないので、受話器を朱里は一旦元の位置に戻す。
「姉さん!鈴木さん家、電話でなかったんだけど!」
「困ったわねぇ。父から留守番中に鈴木さん家に薬を渡してほしいと言われていたのだけど」
今朝薬局に訪れたが、父が他の人の薬を調合していたため、急いでいた鈴木さんは、明日に予約だけをして薬局から出たのだという。他の人の薬の調合を終えた父からは、「鈴木さんもう行ってしまったのか。調合済みのものがあったんだがな」と言い、鈴木さんに渡してほしいと姉に伝言されたそうだ。
「もう、渡さなくてもいいんじゃないかしら!でなかったのは鈴木さんの方だし」
「朱里。それは、違うんじゃないかしら。鈴木さんは忙しいから家の固定電話には出られなかったのかもしれないし」
「奥さんが出ればいいじゃない!」
「鈴木さんの奥さんだって、私たちの母みたいに買い物に行っているかもしれないでしょ」
花宮家の家族構成は、薬剤師の父と大手企業の娘である母。子供は、姉の花宮雪と妹の花宮朱里となっている。花宮家は、裕福な家であるため、なに不自由のない生活をおくっている。
姉の雪は、穏やかな性格でで滅多に怒らず背は、この年の他の女性と比べ高い方であった。なにより、その顔は街でも美人と言われるほどで睫毛が長く鼻筋が通っており、一際魅力を放っていた。
妹の朱里は、短気な性格なため怒りっぽくはあるが、笑えば可愛いと言われるくらいには顔も整っている。姉と並ぶと背の低さが際立つが、平均的な身長だ。
「姉さんは、朱里には笑ってて欲しいな!」
「じゃあ、どうするのよ!」
「そうねぇ」
姉は手を頬の近くにおき首をすこし傾けている。こういった動作から姉の性格や人格が出ているな、と朱里は思う。
「丁度最近、自転車を買って貰ったし、それで直接届けに行きましょうか!」
(確かにそうね。自転車があるじゃない!流石だわ!)
ただ、一台しか自転車はない。母と父は今留守にしているため、残った方が、薬局の受付をすることになる。街で評判が高いのは姉であり話しかけやすいのも姉であることを朱里は理解していた。
(ここは、私が行くべきね)
「わかった!姉さん受付してて私が届けにいくから!」
「あら、朱里届けに行ってくれるの。姉さん嬉しいわ」
でも、と雪は言葉を区切る。
「自転車私が乗る用で買ったから、朱里にはすこし大きいじゃないかしら」
「あっ」
「朱里に受付は任せるわ!すぐに戻るから安心してね」
「すぐに戻らなくても別に大丈夫だから!」
「朱里は姉さんがいないと寂しいでしょ」
ふふと姉は笑みをこぼしながら薬局の扉を開け、薬局の近くに停めてある自転車に脚を跨げる。
「いってきます朱里」
「行ってらっしゃい姉さん!本当にすぐに戻らなくても大丈夫だから!」
朱里の言葉を聞き届け姉さんは自転車のペダルに脚を乗せ自転車を漕いでいく。
(姉さんのいない間は、私が留守番よね。務まるかなぁ)
受付としては、話やすく父が帰るまでの雑談もうまい具合に盛り上げて退屈させることのない姉の方がいいだろう。
それに人が来なかった場合でも、留守番中に薬を処方することはないが、父が帰るまでの間軽く在庫管理の確認、品質確認など、留守番中に父の仕事を少し手伝うのである。
父が帰ったら、報告ともう一度父が確認するが、一度確認済みのものと一度も確認していないものでは負担が段違いである。
姉さんは父の薬剤師を継ぐため薬剤師養成課程を持つ大学の薬学部で学んでいるが、私はまだ高校生。春から大学への進学をしようと勉強はしているが、やはり大学での勉強の差は大きい。
人が来ませんようにと朱里さ念じていたが、薬局の扉は開かれる。
続きは書く予定はございませんが、改良した話を別シリーズで書きます。
似たような設定でも、同一の作者です。
|早矢《はや》の迷い ――届かない弦音――
2026年5月。連休が明けたばかりの|県立青葉高校《けんりつあおばこうこう》の弓道場は、新緑の匂いと、微かな焼香のような|松脂《まつやに》の香りに包まれていた。
「|長谷川《はせがわ》、|狙《ねら》いが浮いているぞ」
顧問の鋭い声が、静まり返った道場に響く。
|長谷川湊《はせがわみなと》は、左手に握った|弓《ゆみ》の重みに、じっとりと汗が滲むのを感じていた。
|会《かい》――矢を引き絞り、放つ直前の静止。わずか数秒のその時間が、湊には永遠の|砂時計《すなどけい》のように長く感じられる。的までは二十八メートル。その先にある白と黒の円が、今の湊には針の穴ほどに小さく見えていた。
(当てなきゃいけない。外せば、団体戦の枠から外される)
焦りが指先に伝わる。右手の||弽《ゆがけ》が弦の圧力を支えきれず、限界を迎えた。
――|離《はな》れ。
放たれた矢は、鋭い音を立てて空を切ったが、無情にも的の数センチ上を通り過ぎ、背後の|安土《あづち》の砂に虚しく突き刺さった。
「……あ」
情けない声が漏れた。背後から、女子部員たちの視線が突き刺さる。その視線の中心に、彼女――|佐倉陽葵《さくらひまり》がいることを、湊は意識せずにはいられなかった。
陽葵は、湊の幼馴染だ。そして今、この弓道部で最も「美しい射」を放つ次期部長候補でもある。
湊が弓を引くのを止め、肩を落として射場を下がると、入れ替わりで陽葵が|射位《しゃい》に立った。
彼女が弓を構えた瞬間、道場の空気が変わった。
ピンと張り詰めた静寂。陽葵の|凛《りん》とした横顔は、2026年の現代を生きる女子高生というより、古い絵巻物から抜け出してきた|女武者《おんなむしゃ》のような気高さがあった。
――|弦音《つるね》。
パァン、と高く澄んだ音が鼓膜を震わせた。
放たれた矢は、吸い込まれるように的の真ん中を|射《い》抜いた。
「よし」
陽葵は表情一つ変えず、|残心《ざんしん》――放った後の姿勢を数秒保ち、静かに弓を下ろした。その一連の動作の完璧さに、湊は胸の奥がチリチリと焼けるような、憧れと劣等感の混じった痛みを覚えた。
練習後の片付け中、湊は道場の裏手で矢を拭いていた。
「湊」
背後から声をかけられ、肩が跳ねる。陽葵だった。彼女は部活着の上からパーカーを羽織り、スマホの画面を気にしながらこちらを向いている。
「今日の射、全然ダメ。迷いすぎ」
「……わかってるよ。本番に弱いのは昔からだろ」
湊がぶっきらぼうに返すと、陽葵は溜息をつき、自販機で買ったスポーツドリンクを湊の頬に押し当てた。
「冷たっ!」
「頭冷やしなよ。湊はさ、的に当てようとしすぎ。それじゃあ、本当に大切なものは射抜けないよ」
「大切なものってなんだよ」
「それは……自分で考えなよ。鈍感」
陽葵はそれだけ言うと、ポニーテールを揺らして去っていった。
湊は、手の中の冷たいペットボトルを見つめた。
幼い頃は、一緒に木登りをして、一緒に転んで笑っていた。なのに、弓道という「道」を歩み始めた瞬間、彼女の背中は見上げるほど遠くなってしまった。
スマホの通知が鳴る。2026年、部活の連絡網もすべてSNSだ。
『来月の新人戦、団体戦メンバー発表』
そのリストの一番最後、|落《おち》――最後の一射を担うポジションに、湊の名前があった。
そのすぐ上には、陽葵の名前。
湊は、自分の震える右手をじっと見つめた。
的に当てることよりも、隣を歩く彼女の横顔を真っ直ぐ見ることの方が、ずっと難しい。
(言えないんだ、陽葵。お前の隣に立つのに、どれだけの覚悟がいるか)
夕暮れの校舎に、二度目の練習を始める部員たちの弦音が、遠く、鋭く響き渡っていた。
三話構成です!続きもお楽しみに!
|中札《なかふだ》の距離 ――重なる影――
2026年8月。|県立青葉高校《けんりつあおばこうこう》弓道部の夏合宿は、山間にある古い道場で行われていた。
標高が高いとはいえ、昼間の熱気は容赦なく体力を奪う。道場の床は、裸足で歩くと|吸《す》いつくような湿り気を帯びていた。
「湊、また手が|控《ひか》えている。もっと大きく引いて」
陽葵の声が、蝉時雨を切り裂いて響く。
湊は、|大三《だいさん》から|引《ひ》き分《わ》けへと至る動作の中で、意識を右腕に集中させた。けれど、陽葵が近くにいると思うだけで、肩の筋肉がわずかに強張る。
陽葵は、次期部長としての自覚からか、この合宿中いつになく厳しかった。彼女の射は相変わらず完璧で、放つ矢のほとんどが的の|中心《ごうしん》を射抜いている。
「……今日はもう、上がって」
夕暮れ時。部員たちが宿泊所へ戻る中、湊は一人、道場に残った。
どうしても納得がいかなかった。自分の射がなぜこうも|姑息《こそく》に小さくなってしまうのか。
夜の道場は、静まり返っている。2026年の今でも、こうした場所には古来の「|武道《ぶどう》の神」が棲んでいるような、厳かな気配が漂っていた。
「……まだやってる」
背後で声がした。振り返ると、道着を脱ぎ、Tシャツに短パンというラフな姿の陽葵が立っていた。
手には二本のスポーツドリンク。彼女はそれを湊に放り投げると、自分も道場の縁に腰を下ろした。
「陽葵。……どうして」
「湊が居残るなんて珍しいね。……見てあげるよ、一本だけ」
湊は、意を決して弓を執った。
夜の静寂。射場の灯りに照らされた的は、闇の中に浮き上がる月のように見えた。
|足踏《あしぶ》み、|胴造《どうづく》り、|弓構《ゆがまえ》。
陽葵の視線が、自分の背中に、腕に、指先に触れている。
――|離《はな》れ。
乾いた弦音が響いたが、矢は的の左側、|掃《は》き矢《や》となって砂を跳ね上げた。
「……あ」
「湊。あのさ」
陽葵が立ち上がり、湊のすぐ後ろに立った。
ふわりと、彼女の髪から夏の夜の匂い――石鹸と、少しの汗が混じった香りがした。
「そんなに私を意識してどうするの」
「っ、意識なんて……」
「嘘。湊の射、私の顔色を窺ってばかり。的に向かってない、私に向かってる」
陽葵の手が、湊の腕に重なった。
熱い。2026年の、この狂おしいほどに暑い夏の夜に、彼女の指先の体温が、湊の脳を直接麻痺させる。
「私、エースなんて呼ばれるの、本当は嫌なんだ」
陽葵が、湊の背中に額を預けるようにして、小さく呟いた。
「みんなは『当てて当たり前』って顔で見る。でも、本当は怖いよ。一射ごとに、自分が削られていくみたいで。……湊だけは、私を『エースの陽葵』じゃなくて、ただの『陽葵』として見てほしいのに」
その言葉は、湊の胸を鋭く射抜いた。
自分は、彼女に引け目を感じるあまり、彼女の孤独に気づこうともしていなかった。
湊は、震える手で陽葵の指を握り返した。
「……ごめん。俺、自分のことばっかりで」
「いいよ。……でも、次の試合、団体戦の最後の一射、湊が外したら私、怒るから」
陽葵は、少しだけ顔を赤らめて手を離した。
二人の影が、道場の板張りに長く重なっている。
12.8メートル。それは射手と中札(順番を待つ場所)の距離。
けれど今、二人の間にあるのは、手を伸ばせば触れられる、けれど「好きだ」という一言がどうしても出せない、もどかしいほどの近さだった。
「陽葵。俺、当てるよ。お前のためにじゃなくて、俺たちのために」
夜の道場に、再び弦音が響く。
今度は、迷いのない、高く澄んだ音だった。
|落矢《おちや》の決意 ――千年の後に響く音――
2026年1月。|県立青葉高校《けんりつあおばこうこう》弓道部が挑む、秋の新人戦・決勝大会の朝が来た。
会場となる武道館の空気は、吐く息が白く固まるほどに張り詰めている。昨夜から降り始めた粉雪が、道場の屋根を薄く化粧していた。
団体戦、予選を勝ち抜いた青葉高校は、ついに決勝の舞台に立っていた。
五人一組で挑む団体戦。その勝敗は、最後の一人――|落《おち》を務める|長谷川湊《はせがわみなと》の肩にかかっていた。
(……寒いな)
湊は|弽《ゆがけ》を差した右手を、懐で温めていた。
隣には、四番目の射手を務める|佐倉陽葵《さくらひまり》がいる。彼女はいつものように凛とした表情を崩さないが、その指先が微かに震えているのを湊は見逃さなかった。
夏合宿の夜、彼女が漏らした「エースであることの孤独」。
今、湊が彼女のためにできることは、ただ一つ。彼女が繋いだ矢を、確実に的へと届けることだ。
「青葉高校、|射位《しゃい》へ」
進行のアナウンスが響く。
湊たちは一列になり、静寂に包まれた射場へと足を踏み入れた。
二十八メートル先の的。それは、千年前から変わらない、真実を映し出す|鏡《かがみ》のようだった。
一人目、二人目……。弦音が響くたび、的中を知らせる白旗が上がる。
そして、陽葵の番が来た。
彼女は深く息を吐き、弓を押し開く。その姿は、冬の陽光を浴びて輝く氷像のように美しかった。
――パァン!
完璧な弦音。矢は的の真ん中を貫いた。陽葵は静かに|残心《ざんしん》を保ち、湊へと繋ぐ。
最後は、湊だ。
対戦相手との的中数は同点。湊が当てれば優勝。外せば、敗北。
湊は、|足踏《あしぶ》みをし、弓を構えた。
視界が狭まる。周囲の音は消え、ただ自分の心臓の音と、横で見守る陽葵の気配だけが鮮明になった。
(陽葵。俺、もう逃げないよ)
弓を引き絞り、|会《かい》に入る。
極限まで張り詰めた弦。指先にかかる強烈な圧力。
これまで「もう言えない」と閉じ込めてきた思いが、全身の血管を駆け巡る。
彼女の隣に立ちたかった。彼女に相応しい男になりたかった。好きだという言葉を、この一射に代えて、今、解き放つ。
――|離《はな》れ。
右手が、背後の闇を切り裂くように飛んだ。
放たれた矢は、鋭い一条の光となって冬の空気を切り裂き、的の中心へと吸い込まれた。
――ドォン!
重厚な的中音が武道館に響き渡る。
一瞬の静寂の後、青葉高校の応援席から大歓声が沸き起こった。
「よし……っ」
湊は震える拳を握りしめた。
射場を降りるとき、隣を歩く陽葵と目が合った。
彼女の瞳には、安堵の涙が浮かんでいた。彼女は口に出さず、ただ唇を動かして「ありがとう」と言った。
大会が終わった後の、夕暮れ時。
二人は、誰もいない道場の裏手、雪が積もるベンチに座っていた。
湊は、自販機で買ったホットレモンを陽葵に手渡した。
「湊。今日の一射、かっこよかったよ」
陽葵が、赤くなった鼻を啜りながら言った。
「……俺、あの時、考えてたんだ。この矢を外したら、一生後悔するって」
「優勝のこと?」
「違う。……陽葵に、自分の気持ちを言えなくなるのが、一番怖かったんだ」
湊は、陽葵の目を真っ直ぐに見据えた。
もはや、弓も矢も必要なかった。
2026年1月。新しい年が始まったばかりのこの空の下で、湊は千年前から続く愛の言葉よりも、もっと切実な今の思いを口にした。
「陽葵。俺、お前が好きだ。エースの陽葵じゃなくて、ただの陽葵が。隣に立たせてほしい」
雪が、二人の間に静かに舞い落ちる。
陽葵は一瞬、呆然とした顔をした後、顔を真っ赤にして俯いた。
そして、湊のパーカーの裾をギュッと掴んだ。
「……遅いよ、バカ湊。私なんて、去年の夏からずっと、あんたに向けて矢を射ってたのに」
陽葵が顔を上げ、最高の笑顔を見せた。
湊は、彼女の温かな手を握りしめた。
的に当たった矢はいつか抜かれるけれど、心に刻まれたこの瞬間は、決して消えることはない。
冬の夜空には、射手座の星々が静かに、けれど強く、二人の未来を照らし始めていた。