「何があろうと俺がお前を守る。だから__もう大丈夫。」
それは誰の言葉だったろうか。
裏社会のとある組織__【ノクティア】に所属する一ノ瀬乃愛は、隊長_ルカ・ノワールとともに裏社会の均衡を保つ。しかし、裏社会ではさまざまな他組織があって__
乃愛は任務の中で、仲間や敵、そして自らの信念と向き合うことになる。
やがて、乃愛は知らず知らずのうちに運命の渦中に巻き込まれていく。
交差する思想と信念の先にある正義とは。そもそも守るべきものとは。
支配的な秩序、名目上の救い、倫理を超えた科学、命すら燃やす炎、そして己の過去___
すべてが、彼の選択を試す壁となる。
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ファイル名:ノクティア極秘情報
これらの情報はノクティアの情報部隊が調べ上げた極秘情報である。外部への持ち去り不可。
情報を見る場合はパスワードを入れよ。
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一ノ瀬乃愛とルカ・ノワールはそれぞれ、ちゃの様と読書が好き🍵様のキャラクターの一部をお借りしています。大変素敵なキャラを提供していただきありがとうございます!
第一話
灰色の夜空に、街の灯りが点々と瞬く。
|一ノ瀬乃愛《いちのせのあ》は薄暗い路地に身を潜め、心臓の鼓動を抑えながら息をひそめていた。
「…くそっ、はめられた。こんなところに追い込まれるなんて」
後ろから重い足音が近づく。瞬間、乃愛は思わず、笑みを浮かべてしまう。
振り向く間もなく、影が彼の前に立ちはだかる。黒い戦闘服、鋭い瞳、そして静かな威圧感。
「今です!隊長!」
その声を合図に、隊長──彼は素早く敵の前に立ち、鋭い動きで相手を押さえ込む。暗闇の中を素早く駆け抜ける姿は、まさに夜闇の豹そのものだった。
---
その後、街の片隅にある倉庫で、ルカと乃愛は静かに作戦を確認していた。
「隊長さっきの作戦上手くいきましたね。」
乃愛は少し嬉しそうにいった。
「お前、相手が弱いからって自分を囮に使うの、やめろよ。まぁ、無事でよかったわ。無茶はすんなよ。」
ルカは少し呆れたように言う。いつも明るく飄々としている隊長だが、心の中では仲間のことを心配しているのだ。
「……はい、気をつけます。…でも、!今回のは《《本当に》》弱い敵だったのでこうした方が早く終わると思ったんです。それに、間違っても《《あんな弱い敵》》に追い込まれるなんてことは《《絶対に》》ないと思います。」
「お前……本当に気をつけろよ…?」
笑い合いながら、2人は倉庫を後にし、残っている敵を片付けに行った。
「そういえば…お前がきてもう半年ちょいだな。」
「あぁ〜?、そんなに経ちましたか?」
「まぁお前、来てすぐに任務とか仕事とかちょー頑張って数ヶ月で副隊長になったもんな〜。忙しくてあっという間だったろ。」
「はい。_それにこの組織は俺にとって大切な場所なんで。」
「…そうか! それと、うちの情報部隊が今勢力が強い他組織をまとめた資料を作ったらしいから、後で確認しとけよー。」
「分かりました。…それにしても他組織はどれも謎に包まれていたり、情報が全くないことが多いのによく調べ上げましたね…。」
「あいつらすげぇからな。…あっ!確か、極秘情報だからパスワードがいるんだよな…。えっと…紙は…。」
隊長がゴソゴソとポケットの中を探す。
「………ちゃんとあるんですよね?」
疑いの目を抜けながら少し不安そうに乃愛が聞く。
「あるある。絶対直した。」
ようやく隠しポケットの中から一枚の紙を取り出す。
「あった!この紙に書いてあるから、ほい、間違えずに入力しろよ〜。」
小さな紙切れを乃愛に渡す。
「パスワードって今更必要ありますか?」
乃愛が不思議そうに聞く。
「なんでもうちの組織の情報も軽くまとめてるらしい。だから万が一にも他の組織に伝わらないようにって感じらしい」
乃愛は受け取った紙を見て、ポケットの中へしまう。
「情報部隊…本当に優秀ですね。仕事しかしてないじゃないですか。」
「だからか!昨日、やっと終わった〜って喜んでるの見たわ〜。」
笑いながらもルカは立ち向かってきた敵を素早く倒していく。
「まっ|あの情報《他組織》を調べ上げるのは相当大変ですからねっ!」
乃愛は喋りながらも後ろからサポートする。すると、どこからか隠れていた敵が背後から現れた。
「おらっ!」
急な攻撃に乃愛は思わず体制を崩してしまう。
「っ!」
その拍子で先ほどまでポケットに入れたはずの紙が落ちていた。
「!」
敵はその紙に書いてある文字を見て、すぐに拾おうとした。その時、
バンッ___「うっ!…………。」
短い発砲音が響き、敵は倒れていた。
「ほら、油断大敵だろ?」
目の前にはこちらを見て笑っている隊長がいた。
「隊長…!助けてくれてありがとう、ございます…。」
乃愛は紙を拾い今度は隠しポケットの中へしまった。
気づけば、周りの敵は全て片付いていた。
「…帰るか。」
ルカのその言葉を最後に2人はその場を後にした。
---
--- 街の路地にて ---
先ほど、2人にやられたはずの敵が体を引きづらせながらどこかへ向かっていた。なんとか一命は取り留めたようだが、その姿は今にも倒れてしまいそうだった。
「はぁ、はぁ、……やっと掴んだんだ。絶対に知らせない…と、うぁっ!?」
男は自分の胸元を押さえる。男の胸元は赤色に染まっていた。
男の視界が滲む。血の赤と紙の白だけが、やけに鮮やかに見えた──。
「そ、そんな、なん……で…」
その言葉を最後に男は倒れた。ふと、男の手から紙が落ちる。
その紙には急いで書き写したように、文字が綴られていた。
___その紙には「ノクティアパスワード"LunAbyss_0fBalance"」と書いてあった。
---
プロローグ
Side|乃愛《のあ》
「お前、大丈夫か?」
誰かの声が、遠くから聞こえた。頭の中がぼんやりとしていて、視界も霞んでいる。辛うじて目を開けると、目の前には一人の青年が立っていて、心配そうにこちらを覗き込んでいた。
乃愛はかろうじてその青年を見上げるが、体が重く、声が出せない。息も荒く、胸が締め付けられるような感覚があった。それでも何とかして声を絞り出す。とっさに出てきたのは、ただの本心だった。
「________________」
その言葉を言うので、精一杯だった。青年は一瞬、息を飲み、茫然としていた。乃愛の目の前がだんだんと暗くなっていく。呼吸は一層荒くなり、今にでも倒れてしまいそうなほどの目眩に襲われる。
そこでやっと青年が我に返り、乃愛の小さな体を支える。
「おい!大丈夫か?…ぉ…!」
視界がシャットアウトする直前、視界の端に遠くから追っ手の影がかすかに見えた。もうだめだ…。そう思いながらも乃愛は完全に意識を手放した。
---
Side????
任務終わりの帰り道、自分よりもまだ幼いような少年が倒れていた。最初はただの通行人かと思ったが、近づいてみると、少年の呼吸が荒く、様子がおかしい。
「こいつ死んでるんじゃないだろうな…?」そんなことがあってたまるかと、心の中で思いながら少年に声をかける。
「お前、大丈夫か?」
少年はゆっくりとこちらを見上げるが、言葉は出ない。荒く息を吐きながら、何とか口を開けている。そして、言葉を紡いだ。
「________________」
その言葉を聞いた瞬間、驚いて声も出なかった、ただ茫然と立ち尽くしていた。
少年の口から出たその言葉に、言葉を失う。自分よりも幼いであろうこの少年が、一体何を抱えているのか。
驚き、疑問、そして不安が一気に湧き上がり、やり場のない怒りに変わり、やがてそれすらも無力感に変わる。その間にも少年の呼吸は一層荒くなり、今にでも倒れてしまいそうだった。そこでやっと我に返り、少年の小さな体を支える。
「おい!大丈夫か?…おい!」
直後、何者かの足音が聞こえた。急いで少年をつれ、物陰に隠れた。
足音の主は、焦って誰かを探しているようだがその姿に心配している様子は見当たらない。その姿は探すというよりかは《《誰か》》を捕えようとしている様子だった。
…まぁ誰かと言っても見当はついていた。……十中八九、目の前で気絶しているこの少年だ。
「お前は…一体何を抱えてきたんだ?」
答えが返ってくるはずもない問いを少年にかけながら、少年を物陰に隠し、足音が遠ざかるのを確認すると、迷わず走り出す。幸いにも、今は黒いローブを身につけている。そのおかげでこの姿では何をしても周囲に自分の素性がバレることもないだろう。
………本当はあまり目立ったことはしてはいけないんだが、そんなことを気にしている場合ではない。
狭い路地を疾走し、敵の背後に周り、素早く対処する。相手が何かを言っていたが、耳を貸さず、急いで少年のもとに戻る。この少年に何も許可を取らないで申し訳ないが……、このままでは放って置けない。
…代表はなんていうだろうか。少し気が遠くなりながらも、少年を抱え、自分の組織へ向かって走り出す。その途中、また追っ手のようなものに遭遇する。
「チッ急いでるっていうのに数が多いな…!」
1人1人対処している暇もないので、そのまま真ん中を突っ切る。流石に、何人かには気づかれ、追ってこようとしたが構わず、その場を後にする。少し振り返ると、追っ手が追ってこないことを確認し、息をついた。
「ふぅ〜、なんとか振り払えたか…?」
再度周りを確認するが追っ手が来る気配はもうなかった。再び少年に目を向ける。少年は相変わらず気絶している。
「…お前に何の事情があろうと、俺には関係のないことかもしれない。__ただ、今目の前にいるお前を、俺は絶対に見捨てない。」
『何があろうと俺がお前を守る。だから__もう大丈夫。』
その言葉には、特に深い意味はない。その言葉がこの少年に届くことはきっとないだろう。しかし、意味がなくても伝えたかったのだ。否、伝えておかなければいけない気がした。それは今、この瞬間の感情に過ぎないかもしれない。でも無意識にそう言わずにはいられなかった。
---
___その言葉は妙に聞き馴染みのある言葉だった。
---
第二話
任務が終わり、乃愛とルカは、代表に任務の報告をしに行った。
コンコンコン___ ガチャ
「失礼します。代表、任務は無事完了しました。」
「そうか。ご苦労だった。休んでいいぞ。」
特徴的なシルバーグレーの髪にこちらを観察するような淡紫色の瞳、彼こそがこの【ノクティア】という組織の現代表のシオン・グレイであった。
「はい。ありがとうございます。」
「…夜闇の豹、すまないが少々話したいことがある。少しここで待っていてくれ。」
「りょーかいです。」
ルカは隊長兼副代表であり、よく2人で組織について話をしているのを見かけたりする。今回もその類だろう。
「隊長じゃあ俺、先帰ってますね。」
「おっけー。気をつけろよ〜。」
流石にこの場に居座るわけにもいかないので隊長を置いて、先に帰ることにした。
(……暇だな。)
思っていたよりも任務を早く終わらせられたので、この後は少し暇になってしまった。
(…せっかくだし、街にでも行ってみるか。)
そう思い、乃愛は近くの街へ足を運んだ。
---
ガヤガヤガヤガヤ
昼間の街は思っていた以上に賑わっており、人の多さに乃愛は少し圧倒される。
(…気を抜いたらすぐに迷子になりそうだな。)
今回は特に連れもいないので迷子になったらどうしようもない。
(最悪の場合、|瞬間移動《テレポート》すればいいけど、)
この世界では能力を持つ者__能力者が存在する。だが、能力を持たない者の方が圧倒的に多い。能力者は、普通の人より能力がある分、その力を活かして社会で活躍することがある。
(まぁそうじゃない場合もあるけど…、)
ドンッ
「すみません。大丈夫ですか?」
考え事をしていたら、人にぶつかってしまった。
「…ッチ」
短い舌打ち。
冷たい視線を向けられ、乃愛は小さく肩を落とす。
(……ちょっと、感じ悪いな)
能力者を“普通じゃない”と蔑む者。
能力者を“便利な道具“として扱う者。
逆に“神の使い”のように崇める者。
この世界で能力者が完全に受け入れられることは、滅多にない。
(……あっそうだ!この辺りに美味しいスイーツを売っている人気なお店があるんだっけ)
( 隊長とシオンさんにも買って帰ろうかな…。)
そのお店は街の中でも特別人気で、一日五十個までのスイーツを売る超人気店。
しかも営業時間は朝から夕方まで。なので、仕事が休みの日以外にそのスイーツ屋さんのものを買うどころか、行くこともほとんどないのだ。気を取り直して乃愛は近くのスイーツ屋さんへ向かった。
スイーツ屋さんは相変わらずの人気で今日も行列ができている。
(今日はいつもほど混んでないかな?)
乃愛は運良く行列に並ぶことができた。
沈んだ気分もだんだんと戻っていき、乃愛はそのまま順番を待つ。
待っている間、乃愛は街の様子を眺めていた。
20分ほど並んでお店へ入ると、たくさんのスイーツがショーケースに並べられていた。
(俺は、抹茶ケーキで、隊長は、チョコケーキで、シオンさんはショートケーキでいいかな…?)
「お会計、合計で10000円です。」
「はい、えっと、財布…」
………ない。
……ない。
…ない。
財布がないのだ。
(来る時は持ってきてたはずなのに…!なんで!?)
脳裏に浮かぶ光景。
──さっきぶつかった、あの男。
---
ドンッ
「すみません。大丈夫ですか?」
「…ッチ」
---
(…………やられた。)
(財布、盗られた…。)
このままではスイーツを買うどころか、スイーツ泥棒として犯罪者扱いされてしまうかもしれない…。犯罪者のようなものであってはいるのだが、それとこれとでは話が違う。それに隠密部隊副隊長のくせして、財布を盗られたなんて組織に…いや隊長に知られたら…
頭に浮かぶ、隊長の顔。
「…乃愛、財布取られたのか?隠密部隊副隊長なのに?マジかよ…?……いや、笑ってないってw後輩の悲しい事件を……笑うわけ、ねぇーだろっw!」
(……屈辱だ。)
(くそっ…浮かれすぎた……。どうする?急いで財布を取り返しに行く?)
並ぶ時にそれほどまでに混んでいなかったからお店に入れたものの、今から取り返してもう一度並べば、間違えなくお店は閉まっているし、スイーツも売り切れてしまっているだろう。
(財布を盗られたと事情を説明してみる…?)
それもきっと無駄だ。一体どこの誰だったら説明して、「そうですか、なら待ちますよ。」なんてことが起こるのだ。ましてや、ここは人気店だ。1人1人に丁寧に対応するほど暇ではないだろう。
(終わった…。)
乃愛がどうしようと呆然と立ち尽くしていると、
「あの…お客様?」
(しまった…。)
気づけば乃愛の後ろには長蛇の列ができていた。
(取り合いず、スイーツを買うのは一旦諦めて、財布を取った犯人を探そう。…スイーツはまた今度買おう。)
「すみません。買うのやめます。…キャンセル、してくださ__」
「__あの、すみません。それ、僕が払います。」
「…え?」
乃愛が振り向いた先に、見知らぬ青年が立っていた。