私の友達だいこんちゃんの「『消えたい私は夢を見る』サブキャラ募集!」に出した山根華心の物語です!
良ければ参加してみてください!
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
苺の赤は、幸せの赤。*1 君が死んだ横断歩道で
注
「山根華心」は私のキャラクターで、また「『消えたい私は夢を見る』サブキャラ募集!」という自主企画にも出してる子です。どっちかがパクリというわけじゃないのでご了承を(?)
あと何度も言うけど参加してみてください自主企画!(宣伝が通りますご注意ください)
「行ってきます」
私はドアを開けた。
今日は中学校の入学式だ。
坂を下りながら、その先を見る。
中学校は目と鼻の先にある。その手前に、横断歩道がある。
あそこは――弟が、|流星《りゅうせい》が死んだ横断歩道だ。
目の前で、2歳くらいの女の子が赤信号の横断歩道に取り残されていた。
それを見て、帰り道だった流星は、ランドセルを捨てて飛び出した。
今思えば、優しい彼なりの、幸せな自殺だったんだと思う。
いじめられていたけど優しすぎて、私にも言えなかった彼なりの、最高の死だったんだと。
さいごに発した一言は、うまく聞き取れなかった。女の子が、周りを染めていく赤がどんなに恐ろしい色かも知らずに、轢かれそうになった恐怖ただそれだけを見て、流星の腕の中で泣きじゃくっていたからだった。
女の子はかすり傷だけで助かった。流星は、しばらく意識があったけど、眠ってから意識が戻ることなく1日で亡くなった。
事故は、女の子が飼い犬を追いかけて飛び出したのと、トラックの運転手の居眠り運転が原因だった。しかも、女の子の母親はもう1人の赤ん坊の世話で目が離せなかったうえに、そのトラック運転手は気づかないうちに手を骨折していて、ただの打撲だと思ってそのまま運転していたという。
怒りと悲しみをぶつけるところがなかった。大切な人の死が、ただ、小学生の私の目の前で、ぐるぐる廻っていた。
そんな、悔しさの漂う横断歩道を、私はこれから毎日渡らなければいけない。
本当だったら、2人で毎日渡るはずだった横断歩道――。
今でも花が供えられている。
私はそこにしゃがみ込んで手を合わせた。
会いたかった。
会いたかった。
会いたい。会いたい。会いたい――。
涙が、落ちた。
それを、2粒目は堪えて、学校の方を、横断歩道の対岸を見た。
……目を疑った。
流星がいた。
あのときの服のまま、こっちを見ていた。
目があっていた。
そして、流星は、諦めのような表情を浮かべ、赤信号を渡ってきた。車が何度も突っ込んだけど、それはすべて貫通し、何ごともなかったように走り去った。
そして、私の目の前に立って、言った。
「驚かないで。きっと消えてるけど」
そう言って、すっと消えた。
その間に流星が笑うことは、1度もなかった。
入学式もぼんやりしながら過ごして、お母さんと家に帰った。
その道中で、お母さんに言った。
「今日ね、ここで流星を見たんだ」
お母さんは、そう言うと、不思議な顔をした。
そこまでは予想できたけど、私が思考停止したのはそのあとだった。
「昼なのに?」
「……え?」
その言葉の意味を理解したのは、家に帰ってからだった。
|仏壇が、なかった《・・・ ・・・・》。
じ しゅ き か く や っ て ちょ(しつこい)。
苺の赤は、幸せの赤。*2 君が消えた世界で
なんで?
なんで、仏壇が消えたの?あんなに大きいものを、お母さん1人で動かせるわけないのに。
私は混乱した。
そして、“ある言葉”を思い出した。
もしも、あれが本当に起きているのなら――。
私は、必死に掘り出した記憶を頼りに、アルバムを探した。
――あぁ。信じたくない……嫌だ。
2人で撮った写真が、全部、私だけの写真になっている。1枚も、流星の写真はない。
流星が、この世界から消えた。存在ごと――。
私は、そっとアルバムを戻した。
そしてゆっくり息を吸って、吐いた。
「お母さん……お昼食べたら友達の家行ってくる」
「え?今日入学式なのに、もう友達できたの?」
「小学校の友達っ」
雑に答えて、着替えも兼ねて部屋に籠った。
消えてる。
流星の言ってたのはそういうことだったんだ。
でも、なんで?
一体、何があってこんなことに?
ぶかぶかの制服を脱いで、キャミのまま考える。
神隠し……ではないか。写真からも消えちゃってるわけだし。
じゃあ、一体なんでなんだろう。
「なんで」
それだけが、私の中をぐるぐる廻った。
ちょっと肌寒くなって、シャツを着た。
いじめは、流星が亡くなってからすぐ発覚した。
クラスが遠かったから気づけなかった、というのは、身勝手な言い訳だろうか……?
……いや、薄々気づいていたんじゃないか。
それに、流星は、絶好のターゲットだった。
アルビノ。
生まれつき、色素が薄かったり、遺伝子に色素がない、特異体質。
流星は純日本人なのに、生まれつき、肌も目も髪も雪のように真っ白だった。
だから、そんな理不尽な理由で流星は……。
父親を、右耳を、友達を、笑顔を失った。
私はシャツの上にカーディガンを羽織って、下に降りた。
「華心、お母さん急に仕事が入っちゃって。ご飯、食べといて」
お母さんが出る支度をしていた。まぁ、好都合っちゃ好都合。
「分かった」
「じゃあ、よろしく」
そう言って、本当に秒で出て行った。
……あとでいいかな。お腹空いてないし。
思って、そのお昼ご飯がにゅう麵であることに気づかないまま、お母さんの後を追った。
あの横断歩道に、歩いて向かった。
風が、顔に当たった。
“あの日”と同じような、静かなのに荒い風。
私は後悔している。
なぜ気づけなかったのか。
なぜ助けられなかったのか。
なぜ、傍にいられなかったのか――。
そして、私は疑問を持っている。
なぜ流星の存在が消えたのか。
なぜ、辛いと話してくれなかったのか――……。
姉として、その後悔と疑問が、ずっと、引っかかっている。
切り方迷走中。
苺の赤は、幸せの赤。*3 君が泣いた悪魔の姿で
今朝と同じ横断歩道で、流星は静かに立っていた。
道行く車を、感情の冷めきった、赤い瞳で見つめていた。
アルビノの瞳はいつもは白なのだが、光の角度によって、血管で赤く染まって見えることがある。
「流星」
「……あ」
死んだときでさえ私より小柄だった流星は、今や15cmは私より小さい。
「消えてた。言ってたのって、きっと、このことだよね」
「……うん。やっぱり、消えてたんだ」
「どういうことなの?」
「え……っと……」
流星は、少し言葉に詰まった。
「最近、僕の“存在”が薄れかけてたんだけど、その時にお姉ちゃんが、僕に会いたいって強く願いすぎたから、その世界中の“存在”がお姉ちゃんの僕に対する“存在”ちょうど1人分だった……らしい」
「らしい?」
「僕も、いまいち分かってない」
そう言って、目を伏せて、呟いた。
「お父さんも、僕がいなくなったから、捕まってないんだよね」
そんなことを言う流星を見て、私は心臓を縛られる感覚がした。
あぁ、この子は……あんな父親でさえ心配している。優しすぎるんだ。
「元」お父さんは、とある宗教を信仰していた。熱心すぎるほどに。
そんなお父さんが海外に出張している間に、私たちは産まれた。
その妊娠期間に、ちょっとだけお母さんとお父さんの間でいざこざがあって、お母さんが勢いで「帰ってくるまで子供は見せない」って言ったらしい。
それでも、帰ってくる数週間前にふたりは和解して、産まれて初めて写真を送った。
お父さんの帰宅は、それで2、3日遅れた。
私は当時3歳だったが、その日のことは鮮明に、いや鮮明すぎるほど覚えている。
その黒光りする銃口を。
裂けるような叫び声を。
真っ赤に染まる流星の耳と手を。
お父さんの狂ったような目を。
……お父さんはそのあと、逮捕された。
流星は、右耳の聴力を失った。歪な形になった耳をガーゼで保護して帰ってきた。
その時は、その事件の動機は誰も分からなかった。けれど、警察の調べで、3年前に発覚した。
私はそれを受けて、お父さんの部屋を探して、その宗教の本を見つけた。
『人間の世界に生まれ出でし天使と悪魔』
そう書かれた章には、このように書かれていた。
『人間の子として生まれる天使は、美しい顔立ちで、純白の身体をしており、羽が生え、光輪が輝く。その御子は、幸をもたらすため、愛される。しかし稀に、愛に飢えた悪魔が、天使の御子になりすまし生まれる。その子は幸どころか、不幸を呼び込む。天使になりすます悪魔は、似たるのは美しい純白の身体だけである。』
これだ。
お父さんが殺そうとしたのは、悪魔だった。
でも、悪魔なんて、いなかった。
記述の通りの、真っ白な身体。
陽の光にも当たれない弱い肌は、もう光を透かしている。
「……星が見たい」
顔を俯かせたまま、流星が言った。
「今日、お母さん、仕事だって。……ねぇ、あの公園に行こうよ」
私は言った。
流星は、静かに私を見た。
「……行く」
そう、掠れるような声で、呟いた。
文法=難しい。