毎週水曜日16時投稿。
教師ものBLです。
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目次
 
    
        ガラスのような貴方 第1話
        
        
        「おはようございます」
「おはようございます。福田先生、朝早いですよね」
「朝練ありますからね」
朝7時の職員室には、俺、|本間拓巳《ほんまたくみ》と俺の意中の相手________|福田真也《ふくだしんや》先生しかいない。
「なるほど。朝から大変ですね」
「まあ、私はそんなに動かないので。本間先生はなんでこんな早いんですか?剣道部って朝練ないですよね」
「今日の授業で使う道具の準備がまだ終わってないんです。昨日のうちに終わらせたかったんですけど、うっかり部活の指導長引いちゃって。まだ半分残ってます」
「そちらの方が大変そうですね」
俺が苦笑いしながら零すと、福田先生は少し笑ってそう言った。
ちなみに俺は技術担当で、剣道部の顧問をしている。福田先生は理科担当で、男女のバレー部の副顧問をしている。部活では指導をするというより生徒たちを見守ったり大会の手続きなど事務作業が多いみたいだが、本人がそのことに関して愚痴をこぼしているのを俺は聞いたことがない。授業も面白く親しみやすいので、生徒からもほかの先生からも人気である。
「じゃ、俺は木工室行ってきます」
「準備、授業までに終わるといいですね。私は体育館行ってきます」
「はい。また会議の時に」
8時15分から先生は会議があるため、それまではお互いのやるべきことをやる。朝の職員室で2人、こうやってどうでもいい会話をするのが俺のちょっとした楽しみだ。俺は鍵を取り職員室を出て、階段を降り木工室へと向かう。うちの中学校では、技術の授業は基本ここで行なっている。今日は2年生のはんだ付けの授業と1年生がノコギリを使う授業をするのではんだごての数とノコギリの数を確認して、各グループごとに使う工具箱の中身をチェックするという作業がある。あとついでに、プリントを列の人数分まとめておこう。少し暑くなり始めた季節だが、朝は窓から入る風が心地いい。1時間と少し後の会議を楽しみに、俺ははんだごてを数え始めた。
---
「おはようございます」
『おはようございます』
8時15分、先生が皆出勤して校長先生の挨拶で毎朝恒例の職員会議が始まった。
「今日は平常日課で時間割の変更はなし。風が強いみたいなので体育の授業は少し気をつけましょう。戸締まりの担当は川口先生ですね。放課後、お願いします。何か連絡のある先生はいますか?」
話を聞かなければならないのはわかっているが、ついつい福田先生の方を見てしまう。スッと通った鼻筋に切れ長の目をしていて、背はあまり高くないけれど筋肉のついた体。うん、好きだ。
『………』
「ないみたいですね。今日も一日よろしくお願いします。では、解散」
『はい』
職員会議が終わると、クラスを受け持っている先生はそれぞれの教室へ行き、副担任の先生は職員室に残っていた。俺は2年生のクラスの担任をしているため、手帳やらなんやかんやを持って教室へ向かう。とその前に、福田先生に挨拶をしておく。
「じゃあ、また休み時間にでも」
「はい。では、失礼します」
軽く言葉を交わし、俺は自分の教室がある4階へ、福田先生は自らが受け持つクラスがある3階へそれぞれへ向かった。
        
    
     
    
        ガラスのような貴方 第2話
        
        
        「こんにちはー」
「こんにちは。いいところに来ましたね」
昼休み、福田先生に会いたくなって理科準備室に行くと、やけにニコニコした福田先生がいた。と言っても、この先生の真顔をほとんど見たことが無いぐらいにこの人はいつもニコニコだ。
「いいところとは?」
「机の片付け、手伝ってくれますか?」
そう言って先生が指差した先を見ると、机の上に様々な問題集や印刷されたプリント、ペンなどが散らばっていた。
「さっきまでここでうちのクラスの子と面談してたんですけど、この机を見て爆笑されまして。私自身も使いづらいですし、手伝ってくれませんか?」
「わかりました。にしても、どうしたらこんな散らかるんですか?」
「先日、中間テストがあったでしょう?その問題を作るために色々な問題集漁ったり入試問題から厳選してたんですけど、丸つけに追われて片付けが後回しになってたんですよ」
「なるほど」
うちの学校の中間テストは主要5教科しかないため、俺の役目は期末テストだけだ。その期末テストも、大体の問題はそれほど難易度を高くしていないので問題作りもそう大変ではない。ただ、その分提出物も評価材料として大きく関わっているから生徒達には提出物の呼び掛けはよくしている。
「このペンはどうしますか?インク、もうあんまりなさそうですが」
「ではこちらのゴミ箱へ」
「この問題集は?」
「そちらにある青いボックスにお願いします」
机の上にある物を先生に見せては捨てたりしまったりしていると、昼休みの15分はあっという間に過ぎチャイムが鳴った。あと5分で授業が始まるから、俺もそろそろ行かないと。
「ありがとうございました。もし良ければ明日も手伝いに来てくれますか?」
俺が準備室を出ようとすると、後ろから福田先生にそう聞かれた。
「……はい!ぜひ、手伝わせてください」
これで毎日会う口実ができた。正直めちゃくちゃ嬉しい。
「助かります。午後からも頑張りましょうね」
「はい。では、失礼します」
俺は一礼して準備室を出て、木工室へと向かった。
---
「先生、なんか機嫌いいですね」
「え、そう?」
放課後、剣道部の練習を見ていると生徒にそう言われた。
「先生いつも特にテンションの乱高下はないけど、今日はニコニコしてますよ」
「マジか」
完全に無意識だった。まさか、見抜かれてたとは。
「いいことでもあったんですか?」
「あったと言えば、あったかも?」
「だってさ。皆ー!問い詰めよー!」
「いややめて?」
ちょうど休憩に入ったところだった皆に囲まれ、質問攻めにあう。
「好きな人でもできたんですか?」
「教師は忙しいから恋愛してる暇ないね」
というのは嘘だが。普通に結婚してる先生もいるし。
「車のローンの返済が終わったとか」
「やけにリアルだけどまだ残ってる」
「プロポーズ成功?」
「恋愛してないって」
中学生はどうしてこうも恋バナが好きなんだ、と心の中で突っ込むが、男子校出身の俺には少し眩しく感じる。
「ガチャでSSR引けたんですか?」
「ノーマルかSRしか出てこなかった」
「弟が布団で勝手にヘビ飼ってた?」
「それ昔の話だし全く嬉しくなかったよ。あと俺一人暮らし」
3年生の女子が、俺が少し前の授業で話したことを覚えていたみたいだ。昔弟が俺の布団で勝手にヘビの卵孵して飼い始めて、殴り合いの喧嘩になったのだ。
「はい、休憩終わり。大会近いし、練習戻りな」
『え〜』
「早く早く!」
その日はそんなどうでもいい会話をして、部活が終わった。
---
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
部活の指導が終わり、剣道場の戸締まりをして職員室に戻ると福田先生に声をかけられた。
「何か盛り上がってたんですか?笑い声、校舎の廊下でも少し聞こえましたよ」
「ああ、生徒たちに質問攻めされてたんですよ。今日、先生機嫌いいですよねって言われて」
「なるほど。で、なんかいいことあったんですか?」
福田先生は納得したような顔をしてから、すぐニコニコに切り替わった。
「特に何も」
「夕飯のメニューが決まったとか」
「決まってないですね。なんかいいアイデアあります?」
先生にこんなことを聞くのも変な話だが、決まっていないのは事実なのだ。一応インスタントのものはストックしているが、そういうのは金曜の夜とか土曜の夜とかに食べたい。
「肉と魚だったらどっちの気分ですか?」
「どちらかと言えば、肉?」
「回鍋肉とか」
「キャベツあったかな」
肉はあるから、キャベツがあれば素を買って帰れば作れる。
「あとは便利なのは鍋じゃないですか?野菜切ったりがめんどくさいですけど、今夜作れば明日の朝も食べれますよ。私はいっつもシメに麺入れて、夜はそれ食べて余ったスープを翌朝雑炊にしてます」
「あ、いいですねそれ。今日それにします」
「ぜひぜひ。明日感想聞かせてくださいね」 
「はい!」
その日の俺は、ウキウキで野菜を買って家に帰った。
        
    
     
    
        ガラスのような貴方 第3話
        
        
        「そろそろ体育祭の時期ですね」
「ああ、そういえば……」
運動部の3年生にとっては最後の大会にあたる学校総合体育大会(通称:学総)が近づいてきた5月末の朝、福田先生がどこか遠くを見つめながら言った。
「憂鬱なんですか?」
「まあ、暑いですし」
「それはそうですね」
昨年までは9月中旬に体育祭をやっていたが、暑さ対策と称して6月下旬にやるらしい。俺としては、6月下旬はほぼ7月だし9月中旬はほぼ8月だから大差ないだろ、というのが本音だ。
「全クラス分、テント用意することになったじゃないですか」
「谷口先生が言ってたやつですか」
谷口先生というのは3年生の体育の担当&学年主任をしている先生で、今回の体育祭の責任者的なポジションである。うちの学校の体育祭はクラス対抗で、縦割りでクラス席の位置が決まっている。簡単に言うと、あそこのゾーンは1〜3年生の1組、こっちは1〜3年生からの2組、って感じ。今までは3学年で1つのテントをクラス席からは少し離れた場所に置き、暑さに耐えられなくなったら一時的にそこに行く、という方法だった。が、今年は流石に暑すぎるため1クラス1つのテントで、生徒たちの椅子もそのテントの下に置くことになったのだ。だがしかし……
「テント、借りてこないとですよね……」
「それです」
うちの学校は1学年6クラス、それが3学年あるため全18クラス。それとは別で放送担当の生徒用のテントや救護テント、先生達の待機用テントなどかなりの数のテントが必要になる。そのため、別の学校からも借りる必要がある。貸してくれる学校が2つ決まっているので、あとは体育祭が近くなったら借りに行けばいいだけなのだが……
「遠いですよね」
「ですね」
片方は歩いて30分、車なら10分かかるかかからないかぐらい。もう片方は歩くと35分ちょい、車ならこちらも10分かかるかかからないか、といったところだ。
「暑い中テント持って歩くのは厳しいですし、やっぱ車ですよね」
「てことは、絶対俺必要ですね」
俺は車通勤、福田先生は電車通勤で駅から歩きだ。
「まあ俺の車シート倒せば結構荷物入りますし、構いませんけどね。テント運ぶために誰か手伝って欲しいところではありますけど」
「あ、じゃあ私手伝いましょうか?」
「え、マジすか?」
なんてリアクションをしているが、俺はさっきから心のどこかで福田先生一緒に来てくれないかなーと思っていたので、めちゃくちゃ嬉しい。
「助かります。頑張りましょ」
「ええ。お願いします。今度の会議の時は私から言いますね」
「本当にありがとうございます。その時はよろしくお願いします」
ああ、俺はこの人の、こういう優しいところが本当に好きだ。胸にじわりと温かさが広がり、口角が緩む。
「なんか、本間先生嬉しそうですね」
「手伝ってくれる人早めに決まってよかったなーって思ってただけですよ。ほら、手止まってますよ。プリントの評価つけなくていいんですか?」
「そうでした。じゃあ、一旦集中しましょうか」
そこで会話は終わり、お互い自分の作業に集中し始めた。
---
「………あ、そういえばこの間先生に教えてもらったやり方で夕飯に鍋食べたんですけど、美味しかったです」
10分ほど経ち、俺の方から口を開いた。
「それはよかった。鍋のつゆの味によってどの麺が合うかとか違いあるので、色々試して見ると面白いですよ。どんなつゆでやりましたか?」
「焼きあご出汁?みたいなやつでやりました。まずうどん入れて、次の日の朝雑炊にするって感じで」
「1番シンプルで美味しいやつですね、それ」
うんうんと俺は頷く。朝ごはんに消化の良いものを食べるとお腹が空くのは早いものの胃もたれの心配がないため、胃の弱い俺には結構嬉しい。
「これから週一くらいの頻度で鍋やろうかな」
「いいですね。鍋なら野菜も肉もとれるし、つゆを変えたり具も時々変えれば飽きないですし」
「夏休みとか、お互い空いてる時俺の家で鍋パでもしますか?」
その場のノリでそう聞いてみると、
「いいんですか?ぜひ行かせてください」
と嬉しそうに言ってくれた。
「部活の予定とか出たら日にち決めましょ」
「ですね」
まだ5月だから2ヶ月ほど先の話だが、1つ楽しみができた。気分が上がったおかげか、授業で使うパワーポイントが無事完成した。
        
    
     
    
        ガラスのような貴方 第4話
        
        
        「じゃ、行きましょうか」
「お願いします」
体育祭予行2日前の放課後。俺は愛車の助手席に福田先生を乗せて、ハンドルを握っていた。
「まずは本崎中、次に木谷中ですね。どちらも2個ずつ貸して下さるそうです」
「本当ありがたいですよね」
予行は明後日、明日は予行準備だから行く暇はない。すなわち、今日行くのがベストなのだ。車内は空調をつけているが、日の光が入ってくるため少々暑い。特に信号待ちの時間。
「今日の給食、美味しかったですね」
無言だと気まずい、なんてことはないが、BGMも何もない車内では会話が弾む。
「ああ、キムチチャーハンですよね。俺、おかわりしちゃいました」
「私、いつもやりとり帳のチェックに時間かかりすぎて食べる時間あんまないんですよね。おかわりする余裕がなかったです」
「それは残念」
やりとり帳の言うのはうちの学校で生徒一人一人に配る手帳×日記みたいなもので、時間割を書いたり一言日記を書いたりして、それを担任に毎朝提出するのだ。と言っても出さないやつも多いが。
「でも、俺の部活の福田先生のクラスの子から聞きましたよ、先生いっつもやりとり帳の日記にすごいコメント書いてくれるって。それをクラスの少なくとも20人以上の分やってるんでしょう?すごいと思いますよ。俺はいつも一言コメント書くだけで終わりですから」
「中学だと担任と生徒の関わりって小学校と比べたら結構少ないじゃないですか。だから生徒に何があったとか共有してもらうの嬉しくて、私あんまり要領良くないんですけど、ついつい色々書いちゃうんですよね」
「いい先生ですよ。福田先生が人気な理由が分かります」
生徒思いで優しくて、話しかけやすい。中学生の目には大人が敵に映ることもあるだろうが、そういう尖ってる生徒も福田先生は敵に見えないだろう。俺もあんまり反抗はされたことないけど。
「そうですか?それは嬉しい」
「でも、先生って職員室じゃあんま喋りませんよね。無口だけど仕事はしっかりしてるって感じ」
「本間先生とは喋りますけどね」
「確かに」
でも他の先生とは日常会話?というか学習関係以外のことを話している様子を見たことがない。俺が見てないだけで話してるかもしれないけど。
「本間先生は話しやすいので」
「んー、そんなのどの先生も同じじゃないですか?」
「いやいや、先生は特別ですよ」
「はい!?」
ちょっと待ってちょっと待って急に何!?特別とは何を根拠にして言ってるんだ!?
「あ、もうすぐじゃないですか?」
「ほんとだ」
ナビを見ると、あと少しで本崎中に到着するようだった。福田先生の発言が気になるが、一旦頭を仕事モードに切り替えた。
---
「無事に借りられましたね」
「やりとりもスムーズでしたね」
無事に2つの学校からテントを借り終え、学校に戻るためにまた車に乗った。
「よし、帰りましょうか。福田先生はもう期末テスト出来てますか?」
「実は、まだなんですよ」
「じゃあ頑張らないとですね」
なんと、今回の期末テストは体育祭のほぼ1週間後にあるのだ。厳密に言うと1週間もないけど。
「本間先生は出来ましたか?」
「1、2年生の分は出来てます」
「あ、そうか3学年分あるんですよね。大変そう」
そう、俺は全学年全クラスの授業を担当しているため3学年分のテストを作らなければならない。ただ、50点満点だしマークシートだから作るのは比較的楽。俺は毎回テストの度に同じ学年の国語担当の先生がに大変そうに問題を作っているのを眺めながら模範解答を作っている。
「あ、先生」
「なんでしょう」
俺は車のルームミラーを見てあることに気づき、信号待ちのタイミングで福田先生の方に手を伸ばす。
「ネクタイ、緩んでましたよ」
「……………ああ、どうも」
俺は先生のネクタイを直し、信号が青になったので走り出した。恥ずかしくて先生の顔は見れなかったが、俺の心臓は自分で音が聞こえそうなほどバクバクしていた。
---
「おかえりなさーい。あ、テントありがとうございます。こっちに置いておいてもらえます?」
学校に着くと、体育の先生たちに迎え入れられてテントを校庭の方まで抱えて運ぶ。
「なんか本間先生も福田先生も顔赤くないですか?熱中症とかなってないですか?水分補給ちゃんとしてくださいね」
俺の顔が赤いのはなんとなくわかっていたが、福田先生も赤くなっていたとは。非常に声をかけづらい。
「あとはこっちでやっておくので大丈夫ですよ。お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
俺と福田先生はほぼ同時に体育の先生たちに頭を下げ、俺は早歩きで職員室へと戻った。
        
    
     
    
        ガラスのような貴方 第5話
        
        
        「………はあ」
職員室に戻り、俺は思わずため息をついた。
『ネクタイ、緩んでますよ』
そう言って俺のネクタイを直してくれた本間先生の顔が、頭から離れない。鼻が高くて、切れ長な目。ポロシャツから見える、筋肉質だけど色白な腕。
「福田先生、疲れてます?」
頭を抱えて下を向いていると、向かい側のデスクに座っていた美術担当の三井先生から声をかけられた。
「教師は、いつでも疲れてますよ」
「確かに。最近暑いし、先生テント運んできたところだから余計疲れてますよね。無理しないでくださいね」
「ありがとうございます」
本間先生のことが気になるが、まだ期末テストの問題を作り終わっていないため早急に完成させねば。俺は気持ちを切り替えて、パソコンを開いた。
---
日曜日。部活の指導もないため、今日は一日中暇だ。ほぼ毎日外に出ているのでたまには家でゆっくり過ごす時間も悪くはないが、大してすることもない。早起きの癖がついているせいか、気持ちは昼まで寝れそうなのに朝8時に起きてしまった。とりあえず朝ごはんを食べて、スマホを開いて連絡がなにか来ていないかチェックする。
………まあ、何もないよな。
昼ごはんぐらいは外に食べに行ってもいいかな、とは思うが日曜の外、しかも6月中旬なんて暑すぎて面倒臭い。連絡すれば会ってくれる友達もいるが、当日に言うのは如何なものか。と思い悩んでいると、
「ん?」
手に持っていたスマホが震えた。見てみると、本間先生からLINEが来たようだった。
『おはようございます。急なお誘いで申し訳ないのですが、今日のお昼ご飯良ければ一緒にどうですか?暑いですし、住所教えていただければ俺の車で送り迎えします。難しかったらまた別の機会でも大丈夫です。』
なんと、いいタイミングなんだ。俺はすぐさま既読をつけ、返信のメッセージを打ち始めた。
---
「おはようございます……じゃないか。こんにちは?には少し早いですよね」
「どっちでもいいんじゃないですか?とりあえず、おはようございます」
「それもそうですね。おはようございます」
12時頃、俺の住むマンションの前まで本間先生が車で来てくれた。
「あ、そういえばどこで食べるか決めてませんでしたね。どうしますか?」
「ファミレスでもいいですし、ショッピングモールのフードコートでも。本間先生は何が食べたいとかあります?」
「うーん……海鮮系かなあ」
「じゃあ回転寿司とか」
この時間に行ったらだいぶ混んでそうだが、値段も高すぎないしいいのではないだろうか。
「いいですね回転寿司。回転寿司行きましょう」
「じゃあ、運転お願いします」
「任せてください」
そう言って本間先生はドヤ顔で親指を立て、車は走り出した。車内には本間先生チョイスのBGMが流れているのだが、俺の知らない曲が多い。
「先生ってどんな音楽聴くんですか?」
走り出して3分ほど経つと、本間先生にそんなことを聞かれた。
「洋楽が多いかもしれないですね。流行りのJ-popはあまり知らないんですよ」
「えっ、じゃあ英語わかるんですか?」
「単語の意味だけ、少しならわかります。文となると全くできませんね」
中学校教師あるあるだが、自分の担当外の教科となると本当に何もわからないのだ。だから今何教科も1日に勉強して、さらにテストもある中学生は凄いなと思う。部活に入っている子も多いし。
「かっこいいですね〜。俺も授業の時横文字の用語とかちょくちょく出てくるんですけど、毎回ちょっと困りますもん」
「それは大変。理科も横文字ありますけど、大体アルファベット1文字とかそのくらいなので楽ですよ」
「いいな〜」
そんなくだらない話をしながら15分ほど経ち、無事寿司屋に着いた。お昼時だからか、やはり結構混んでいる。
「席、せっかくだしテーブル希望にしときます?時間かかるかもしれないですけど」
もちろん予約はしていないので、発券機で番号札を貰わないといけない。誘ったの俺だから、と本間先生はサクサク操作をしてくれる。
「ですね。私今日は何も予定ないので、どれだけ待っても大丈夫ですよ」
「じゃ、テーブル希望にしますね」
番号札を受け取り、待つ人用の席は埋まっていたので立って呼ばれるのを待つ。教師は授業中ずっと立っているので、このくらいの待ち時間は余裕だ。
「福田先生の好きな寿司ネタってなんですか?」
「あの、ちょっといいですか」
待ち時間、会話に花を咲かせようとしていた本間先生を遮って、俺は口を開いた。
「あ、はい。なんでしょう?」
「その……外で、先生って呼ぶのやめません?」
「えっ?」
なんでそんな事を、と言いたげな顔をする本間先生。年齢的には立派な大人だけど、今の顔はずいぶん子供っぽい。俺より年下だし。
「休日ぐらい、仕事のこと忘れたいじゃないですか」
なんてことを言っているが、本当はもっと近い距離で話したいだけだ。
「じゃあなんて呼んだらいいんだろう……福田さん?」
「どうせなら下の名前で」
「えーっと……真也、さん」
少し照れながらそう呼ばれ、自分の心臓がキュゥゥンとなるのを感じる。
「ありがとうございます。拓巳さん」
「うわ、なんか恥ずかし……」
拓巳さんがそう言って下を向いたところで、俺たちの番号が呼ばれた。
「呼ばれましたよ。行きましょう」
「あ、はい」
俺たちは恥ずかしさを振り切るように早歩きで、機械に教えられた席まで向かった。
---
「美味しかったですね」
「俺寿司食べるの超久々だったから、余計美味く感じました」
1時間半ほど寿司を食べ、割り勘で会計して店を出た。そして今は本間先生の車に乗り、俺のマンションへ向かっている。
「また、誘ってもいいですか?」
音楽を流しながら走っていると、拓巳さんがそんなことを聞いてきた。
「もちろん。今度は私から誘いますよ」
「本当ですか?楽しみにしてます」
楽しい時間ほどあっという間に過ぎるもので、あっという間に俺の家へ着いた。
「じゃあ、また明日学校で会いましょう」
「ええ。今日は丁寧に送り迎えまでありがとうございました」
「いえいえ。学校では、先生呼びでいいですか?」
少し恥ずかしそうに目を逸らして、拓巳さんがそう言う。なんだろう、すごい可愛い。
「いいですよ。名前で呼ぶのは2人きりの時だけで」
「ありがとうございます。では」
本間先生を見送り、自分の住む部屋へと戻る。寄り道は特にしていないのでまだ3時頃だが、今から明日が楽しみになった。