「約束」の呪いにかかっていますが、使うべきでしょうか? 一章
編集者:ことり
わたくしはクラン・ヒマリア。「約束」の呪いもどきの祝福を与えられた者。この呪い、事情に便利なのですけど、面倒くさいので使いたくないのよね…
けれど、使ってしまう。すべては平凡な一日を守るため!
しかし…
あら?なんでわたくしは話しかけられているのでしょう?
まあ、処世術を見られてしまったわ。ほっ大事にはならなかったようね。
推定討伐人数100人の魔物?えぇ、もちろん倒したわよ?
わたくしの存在が…何ですって?
(基本的に月、水、金に更新します。)
ときどき矛盾とかもあるかもしれないけれど、今のところ最高傑作です!
現在2章を執筆中!応援よろしくお願いします!
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目次
1.日常
シリーズまたまた始めました。
学園で授業を受けながら、わたくしはぼーっと窓の外の景色を見ていた。
授業なんてつまらないものよね。教科書を読んだら分かることを長々と説明されるだけじゃないの。
わたくしは公爵令嬢クラン・ヒマリア。
だけど、公爵令嬢らしきことはしていない。
学園でも人と話すことは稀。時々は、取り入ろうと考えているのか、おかしな子たちがやってくることもあるけれど、それとも喋らないようにしている。
その点は公爵令嬢の役割に即しているかもしれないわね。取り入ろうとする人に取り入れられないのが公爵なのだから。
しかし、そのせいでついたあだ名が「孤高の公爵令嬢」。
…事実ではあるけど…ひどい話よね。
あぁ、涙が出そうになったわ。
まったく、最近の貴族は礼がなっていないんじゃないかしら?
わたくしの家は公爵だというのに。
お兄様達が見逃しているのなら、多分大丈夫でしょうけど。
いつの間にか、授業は終わっていた。
今日もあてられずに済んだと一安心する。
さあ、家に帰りましょう!
今日は週末だから、寮ではなく、家に帰ることができるのだ。
「お嬢様、お待ちしておりました。」
執事のカナンが馬車を準備して待っていた。
「ありがとう、カナン。」
いそいそと馬車に乗る。あとは小一時間揺られればヒマリア公爵家に到着。
「ただ今戻りました。」
お父様、つまり現公爵のユシエル・ヒマリアに挨拶をする。
「おかえり。クラン。」
優しいのでお父様は大好きだ。
「今週も何も予定は入っていませんよね?」
「入れていないよ。いつも通り過ごしなさい。」
ほら、お父様は優しい。
「…お母様は?」
「ミリネアは領地を見に行ってくれている。」
ミリネア・ヒマリアというのがお母様の名前だ。
公爵の次の位、侯爵から嫁入りした。貴族にしては珍しい恋愛結婚だったらしいわ。
「分かりました。ありがとうございます。」
「クランは気にしなくていいよ。」
退室する。お父様の仕事を長々と邪魔するわけにもいかないしね。
さあて、今週末は何をしようかしら?
魔法薬をまた作ってみる…本を読みまくる…動物たちと遊ぶ…護衛を連れて狩りに行く…。うーん‥どれもしっくりこないわね。どうしようかしら?
多分、結構な間考えていたんでしょうね。
ーコンコン。
誰かしら?というかもう夕方?えぇぇ??早いわね。
「…どなた?」
「公爵様です。」
メイドが教えてくれた。お父様が?なぜ?
「通してちょうだい。」
「かしこまりました。」
「失礼するよ。」
「どうされました?」
「クラン、さっきは何も予定を入れていないと言ったが、訂正する。日曜日の夜、パーティーに参加しなさい」
「…なぜ?」
「エステルもユーリも用事が入ってしまい、同伴者がいないのだ。」
ちなみに、エルテルが長男、ユーリが次男だ。
「あぁ、お母様がいませんものね。」
「分かっているじゃないか」
「お断りします。」
「…なぜ?」
「そういう場には出たくありません。」
だって、喋らなければならないじゃない。特に好きでもない人と。
「どうにかならないか?」
「申し訳ありません。できれば行きたいのですが、もうやることを決めてしまったので…」
「…そうか。無理を言って済まなかった。」
そう言って父は出ていった。
無理を言っているのはわたくしの方なのだから、お父様が気にすることは無いというのに。
理由を言うわけにはいかないから、行くことになっていたかもしれない…けど行くことはできないから、早々に引いてくれて助かったわ。
それにしても、お父様は急にどうしたのだろう?
今まではああいう状況になってもわたくしの意思を尊重して、尋ねてくることはなかったのに。
これが一時的なものだといいけれど…
少しの不安が残った。
夕食を食べに行ったが、お父様はいなかった。きっと忙しいのね。
さっきはせっかく忙しい中来てくれたのに…
ついていくことを承諾すれば、お父様の心労も軽くなったりするかしら?
試そうとは…思わないわね。じゃあやらなくて正解だわ。あの一瞬で正解を選び取ったわたくしは優秀ね。そう思い、気分が良くなるのだった。
食べながら考えた。今週末は何をするか。
そうね…狩り…が多分久しぶりよね?うん、先週は魔法薬で先々週が読書だったはずよ。
じゃあ狩りにしましょう。
あ!狩りだったら、疲れているからという理由でお父様の誘いを避けた理由にも繋がるわ!最高ね!
どんどん愉快になっていった。
さあ、明日も頑張りましょう!
多分、お父様からはもう誘われることはないだろうけど、その時でも断れるくらいには疲れるのが目標よ!
明るい気分は、その後、寝るまで続いたのであった。
どんな展開になっていくんでしょう?プロットも何もなく、成り行きに任せた物語ですが、是非読んでください!
2.週末1
朝になった。
気分が良かったからか、ぐっすり眠れた。
あぁ〜気分がいいわ!今日の狩りは楽しくなりそう!
「お嬢様、今日は何をされるので?」
メイドが聞いてきた。
「久しぶりに狩りにいこうと考えているわ。護衛は…ケルートだけでいいわ。準備を伝えといてくださる?」
「かしこまりました。」
さあ、今のうちに着替えとくとしましょうか。
メイドの子ってわたくしが少人数で狩りに行くときに着る、平民に溶け込むためのちょっとみすぼらしめの服を嫌っているのよね。
安いし便利だと思うのだけれど。
公爵令嬢がこんなものを着てはいけないと思うにしろ、これは公爵令嬢であることを隠すために来ているわけで、至って問題は無いはずよ。
というか、これを着ないで少人数で狩りに行くほうが危険なのだけれど…
ふむ、どうやら見解に齟齬がありそうだわ。今度、じっくり話し合ってきてもいいかもしれないわね。
…あら?これって前にも考えたことがあるような…気の所為よね。わたくしが同じことを二度も考えることなど、そして一度思ったことを実行しないなどある訳がないわ。
深く考えるのはやめましょう。
朝食を食べに行くと、ユーリお兄様がいた。
「お兄様、昨日お父様がわたくしをパーティーに誘ってきたのですが、その理由がどちらのお兄様も予定が入っているということでしたの。ユーリお兄様は何の予定があるのですか?」
「クラン!?えーっと…何だったかな?何か重要なものが入っていたような気がするんだけど…」
怪しい…
思わずじとーっと見てしまった。
貴族にあるまじき行為なのは理解しているけど許してもらおう。これはあちらが悪いもの。不可抗力だわ。
「そうなんですねー」
棒読みで言ってみた。すると、
「え?__棒読みで今喋ったよね?怖い怖い。まさかバレて…いやさっきジト目で見られたぞ。うわぁぁぁぁ……………__」
どうしたのかしら?早口で何かをまくし立てているようだけど。
えっと…これは棒読みに反応したと考えてもいいのかしら?
うーん…分からないわ。
普通嘘を付くときって自然になるようにするわよね?
昨日のわたくしは自然になるように嘘を言って、父もそれを信じたから…うん、あれが本当の嘘のつき方よね。けれど…そうなると嘘かどうかがわからないわ。どうやって嘘と本当のことを見分ければいいのかしら?
あとで経験豊富そうなカナンに聞いてみましょう。
…今からわたくしは狩りに行くのよね。その間にカナンに聞くことを忘れ…ないわよね!さっきのは気の所為にしたんだから!大丈夫に決まっているわ!
つつがなく食事を終え、狩りに行くことにした。
「ケルート、準備は大丈夫?」
「問題ないです。」
「では行きましょう。」
せっかくの少人数なのだからと馬車を使った。もちろん家紋がついていないやつよ。じゃないと平民が着ているような服を着る意味がないもの。
「それにしてもお嬢様、二人で狩りとは大丈夫なのですか?」
「あら?ケルートはまだわたくしの実力を理解していないのかしら?」
言っておくけど、わたくしの魔術は強いのよ。公爵の血筋のお陰でしょうけど。
「そこは理解しています。しかし…__いや…こっちの理由はお嬢様には理解できないだろう__あの森はまあまあ強い魔物が多いのです。」
「知っているわよ?」
「そこに二人で入るとなると、逆に目立つのではないでしょうか?」
なるほど。そういう考え方もあるのね。
「今までは何も言わなかったのはどうして?」
「どうしてって…お嬢様、お嬢様が2人で狩りに行くのは今回が初めてです。」
あらら?そうだったかしら…
記憶を辿ってみる。
「そういえばそうだった気もするわ!そんなことまで覚えているなんてケルートは優秀ね。」
学園では優秀なわたくしより細かく覚えているなんて…平民出身も侮れないわ。さすが公爵家の護衛に選ばれるだけあって、学も武も優秀なのね!
「護衛任務の内容はあとで当主様に報告しなければならないので。」
なるほど。確かに報告する立場ともなれば覚えるわね。
「…。え?報告?いつもしているの??」
「そうですよ。…よく今まで気付かないで生活できましたね。」
うわーん!耳が痛いわ…
そうなのね。みんなきっともっと早く気づいているのでしょうね。
悲しい事実を知ってしまったわ。
しばらく立ち直れないかも…。
ちょうどその時森についた。
「ありがとうございました。」
えっと…帰りは…どうしましょう?
「ケルート、帰りは馬車?徒歩?どちらがいい?」
「…。俺の立場も考えてくださいよ。」
どういうこと?
「わからないんですね。まあ俺はどっちでもいいですよ。」
棘があるように聞こえるのは気のせいかしら?
「そう。じゃあ、夕方の1時間前くらいからここで待っててもらいましょう。」
「かしこまりました。」
御者に人が返事をしてくれた。
あら?直接言ったわけではなかったのに、そういうことにされたわ。
本当に私の周りにいる人々は皆優秀ね!
まさか森につくまでに1話行くとは…今までとは段違いに書きやすいです!
応援よろしくお願いします!
3.週末2
森についた。
「さあ、楽しみましょう!」
ずんずん歩く。
「そんなにさっさといかないでくださいよ。俺は安全面で気を配らなきゃいけないんですから。」
「わかったわよ。」
少し駆け足になっていたみたい。ケルートの忠告を参考に、少し遅くする。
「このくらい?」
「そのくらいなら問題ないです。」
「あ!」
「どうされました?なにか忘れ物で…」
途中…というか終わりで言葉を止めた。どうやら気づいたみたいだ。
さっきまでは優秀と思っていたけど、まだ鍛え足りないところはあるじゃないの。お父様に報告して、鍛えさせようかしら。
「忘れ物ってひどいわね」
「イメージがそんな感じだったんですよ。」
まあ!わたくしにそんなイメージがついているの!?
それは困ったわね…そんなに忘れ物をした記憶…あったわ。何回かなら…あったかもしれないわね。
「わたくしは狩りに行くときに必要なものを忘れたことはないわ。」
「いや、忘れ物は何回もしていましたよね。」
「ケルート、ちゃんと聞いてた?わたくしは必要なものを忘れたことはないとは言ったけど、忘れ物をしていないとは言っていないわよ。」
ふふん、賢いケルートでも騙されることはあるのね。
「はあ…そうですか…余裕そうですね。」
あら?急に話が変わったわ…って、
ーブルルッ。
「あ、そうだったわ。魔物がいたんだった。」
わたくしは確かそれに気づいて「あ!」と言ったはずよ。
えぇっと…なんて名前でしたっけ?
コンクール…コンクルー…あぁ!コンクルートだわ!
そういえば…ケルートと最後のほうが似ているわね。こんな偶然もあるのね。
コンクルートは…まあまあ強い部類に入る魔物よね? 一般には…冒険者10人くらいで倒すものでしたっけ?まあわたくしにとっては弱い部類よ。
あとは…、たしか火に弱かった気がするわ。
「…忘れてたんですか?」
「まさか。忘れるわけはないわ!ただ…ちょっと頭の隅に置いていただけよ。」
「それを忘れたと言います。」
そうとも言うかもしれないわね。
というか、そもそもはケルートが魔物に気づくのが遅くてわたくしの驚きに変なもので返してきたのが悪いと思うのよね。
よって、わたくしは何も悪くない。証明完了ね。もし報告されてもこれでお父様は説得できるわ。
「ケルート、下がりなさい。」
何も言わずに下がってくれた。あら?気が利くこと。
「火」
せいやぁ!
「よし、倒れたわね。簡単簡単。」
「流石です。お嬢様。」
悪い気はしないわね。最近ではこれが当たり前になっちゃってるもの。褒められるのは久しぶりかもしれないわ。
「雑魚だしもう少し入ってもいいかしら?」
「そうですね…大丈夫でしょう。ただ、ゆっくり歩いてくださいね。」
「了解。」
その後、昼食を食べて、また狩りに戻った。
「水」
やぁ!
「風」
せいやぁ!
あぁつまらない。どの魔物も一発で死んじゃうじゃないの。
「それはお嬢様だけですよ。」
「あら?声に出してたのかしら?」
「はい。けれど、お嬢様なら大抵表情で分かりますね。」
そんなにわかりやすいかしら?
らしくない公爵令嬢とは言え、気をつけるべきね。ポーカーフェイスポーカーフェイス。
「あぁ!」
こんなところに高価な薬草が!しかもたくさん!
なにこれ!夢かしら?
「痛っ」
頬をつねったら痛みを感じたわ。
ふむ、夢ではなさそうだわ。じゃあ持って帰りましょう。
「一人で何をやっているんですか…」
呆れられた気がするわ。けど何故でしょう?わたくしは薬草を摘もうとしているだけなのに。世の中は理不尽ね。
「お嬢様!」
「ん?」
まあ!これまた高級素材の宝庫ね。ドラゴンだわ。
わたくしは何と運がよいのでしょう!
「お嬢様、普通の人は、これを見たら絶望するのですよ。」
「何故?竜の中でも弱いほうじゃない。」
「竜自体を恐れるんですよ。」
「まあ、こんなに高級素材ばかりの生き物を恐れるの?悲しい人生ね。」
「俺にはお嬢様のほうが悲しい人生を送りそうに見えます。」
何故かしら?
今もこんなに満足いく人生を…ってさっき確か「つまらない」と思ったかもしれないわ。
それだったら確かに悲しい人生に入るかもしれないわね。
「これは、風属性よね。」
「ですね」
「ケルート、わたくしが攻撃は止めるのであなたが攻撃しなさい。できるわね?」
「__何故できる前提なんだ。反論の余地が欲しいよ…__出来ます…」
「そう、じゃあ頼んだわ。風!」
ふうむ、これはなかなか魔力と精神力を使うわね。
「早く!」
「分かってますよ!」
あら、分かっているなら結構。さっさとしてちょうだい。
そんなことが通じて…いないようね。仕方がないわ。
「解除。そして風」
ドラゴンの羽を落としちゃった。
「感謝します。」
もっと感謝しなさい。
「解除、そして風。」
もう一度ドラゴンの攻撃の妨害…いや、相殺にかかる。
やっとケルートが1撃を入れた。
「解除。ケルート、遅かったじゃないの。」
「仕方がないじゃないですか。竜ですよ!?」
「あら?わたくしは羽を簡単に落とせたのですが…」
「それはお嬢様がおかしいだけです。」
おかしい?それはまたひどい言い草ね。
「わたくしの何がおかしいのかしら?」
少し詰め寄ってみる。案の定、少し引いた。これは、怖がってくれている…ということよね。やってみたかいあって満足だわ。
「…。__まあいいや。どうせ言っても理解しないだろうし。__」
「何か?」
「なんでもないです。それより素材を取らないんですか?」
あぁ〜!忘れてた!
「教えてくれてありがとう!」
「__忘れてたんだ…__」
またケルートがなにか言っているわ。けれど、これは聞いても教えてくれないやつよね。学習したわ。
いそいそと素材採集に行く。
「大満足よ!」
「それは良かったです。では戻りましょう。ドラゴンのせいで結構長居してしまったので。」
「それはあなたの攻撃のタイミングが遅いからよね。わたくしに責任はないはずだけれど?」
「すみませんでした。遅くて。けど、2人で倒したのなら上出来なんですからね。」
「ふうん。そうなのね。」
帰りは特に問題は起こらなかった。
ドラゴンが弱い…これ以上に強い動物…何か作らなければならない…
お読みいただきありがとうございました!
4.娘の現状 1
公爵様目線です。
私には自慢の娘がいる。クラン・ヒマリア。
なんでもそきなくこなす、公爵令嬢の名に恥じない娘だ。
昨日の話になる。
先日、私は学園に所要があって行ったのだ。
ついでにクラン、エステル、ユーリの様子も見て行こうと思い立って、見に行ったのだ。
まずはクランを見に行ったのだが…
おや?一人でいるではないか。娘は内向的なのか?しかし、思いとどまる。
いや、休日は護衛を連れて森まで狩りに行っているのだ。内向的ではないだろう。しかも娘には天賦の才がある。誰からも話しかけられないということはあるまい。偶然一人でいたところを見ただけだ。そう思うことにした。
次に、ユーリを見に行った。
ユーリは、剣の才能が人以上にある。
タイミングが良かったようで、模擬戦をしていた。
いけー!ユーリ!
大人気なく心の中とはいえ応援してしまった。
しかし、ユーリは応援のしがいもなく余裕で勝っていた。
最後に、エステルを見に行った。休み時間にいけたのだろう。少し話すことにした。
エステルは学問に才がある。
私は運が良い。長男に学の才があるなんて。ほかの家では次男に学の才があって、どちらを継がせるか迷う、そんなところもあった。
「ところで、さっき、クランを見に行ったのだが…」
エステルは続きを察したようだ。
「クランなら一人でいたでしょう?」
「その通りだ。あれで…クランは大丈夫なのだろうか?」
「少なくとも、クランは好きで一人でいるように見えます。そのままでも大丈夫かと。」
好きで一人でいるのか…。不思議な子だ。
「クランについて悪い噂はないんだよな?」
「そうですね…あぁ、けど、一つそれらしきものがあるかもしれないです。クランにあだ名が付いていて、それが『孤高の公爵令嬢』というものです。私は特に何も思わないのですが、知らない人が聞いたら侮蔑に聞こえるかもしれませんね。」
そうなのか。ただ、私には侮蔑には聞こえない。きっと、娘の優しさを知っているからだろう。
娘が自分の意思で、孤独でいると聞いて安心したが…やはり公爵令嬢としては少し疑問が残る。
本来、公爵令嬢は、下の立場とも等しく接し、みんなを助ける存在なのではないだろうか?少なくとも私の代の公爵令嬢はそうだった。…一人を除いて。
クランの孤高の態度は、下の立場とも等しく接する、それには準じている。ただ、あのままでは他の者を引っ張っていけないだろう。
娘は人と接しなければならないときにどうするのだろうか?少し楽しそうに思えたので、試してみることにした。
そしてその晩。
ーコンコン
娘の部屋に行くことにした。
しばらくして返事が来た。
「入っても良いそうです。」
「失礼するよ。」
「どうされました?」
「クラン、さっきは何も予定を入れていないと言ったが、訂正する。日曜日の夜、パーティーに参加しなさい」
「…なぜ?」
「エステルもユーリも用事が入ってしまい、同伴者がいないのだ。」
これは嘘だ。二人とも予定は空いている。ただ、クランを試すためにも必要なことなのだ。
「あぁ、お母様がいませんものね。」
「分かっているじゃないか」
なら、賛成してくれるだろう。学校ではあんなふうに一人でいても、クランは公爵令嬢だという自分の立場を分かっている。
「お断りします。」
…え?これは想定外だった。娘は立場を自覚してる…そうするように育てた。多分、その理解は今も残っているはずだ。
しかし、それでも断ってきた。
これには…なにか信念があるのかもしれない。
「…なぜ?」
「そういう場には出たくありません。」
そういう場に出たくない?公爵令嬢ともあろうものが?ただ、娘は本当に困っているように見える。これでは理由が聞けないではないか!
せっかく信念があるのなら…言わない方がいい時もあるな。じゃあやめよう。
まったく、親に優しくない娘だ。可愛いけれど。
「どうにかならないか?」
一応粘ってみた。まあ断られるだろうな、とはもう勘付いている。
「申し訳ありません。できれば行きたいのですが、もうやることを決めてしまったので…」
「…そうか。無理を言って済まなかった。」
もうやることを決めた…ね。パーティーは夜だから予定が入っていようが開けることは出来そうだけど…
娘には嫌われたくないよねぇ。
娘は頑なにそういう場に行きたくない理由を話さなかった。深く聞いたら答えてくれるかもしれないけれど、それはやりたくない。
これにはなにかあるのだと思うのだけれど…全く検討がついていないのだ。今度妻と話し合ってみようか。
うん、意外といい意見が出てくるかもしれない。
楽しみが一つ増えた。
さて、娘についた嘘を、二人をパーティーに誘うことで本当に変え、嘘じゃないようにしてしまうか。いや、まだ先の話だし、明日の朝にしよう。
今日は、あまり仕事に手がつかなかった…
また、パーティーに誘うことを後回しにしたことで、ユーリが一瞬危機に陥るのを、ユシエルは知らない。
クランが少し可哀想です。
これからもよろしくお願いします!
5.週末 3
一面に花が咲いた場所。そこで、わたくしは誰かと話していた。
楽しい会話…深刻な会話‥いろんなことを話した男の子。この時は…何を話していたのでしょう?
目が覚めた。何か、懐かしい夢を見ていた気がする。
どこかきれいな場所。…神殿かしら?
古い胸の傷が|疼《うず》く。
着替えながら、今日は何をしようか考えた。
せっかく上級素材があるのだし…薬でも作ろうかしら?
うん、素材に鮮度は必要だものね!最高よ!
ふっふ〜ん。
「お嬢様、今日は何をするのですか?」
「今日は家で魔法薬を作っておくわ。」
「かしこまりました。では髪はくくっていたほうがよろしいですね。」
あら、気が利くこと。
「助かるわ。」
それから1分もしないうちに髪の毛は完成。朝食を食べて…今日は誰もいなかった…さあ!楽しみましょう!
昼食後、わたくしは読書にいそしんでいた。
飽きたわけではないわ。思ったより調合に失敗してしまって、材料がなくなってしまったのよ。公爵令嬢としてももっと腕に磨きをかけておかないと。あぁ…落ち込んでしまうわ。貴重な素材を無駄にしてしまったんだもの。
そんなふうにずっと引きずってしまっている。
…これは、なにか楽しいことがないとずっと考えたままになるわ。
そう思い、気分転換に読書をしているのだ。
ふと手に取った本は《呪い》の本。
いい加減、これにも 向きわないといけないのよね…
わたくしの呪いは「約束」だ。ただ、それを考えてしまったせいで…より落ち込みは増したように思える。
気分転換、気分転換をするのよ。
そう思っても、何故か呪い…魔術…薬…そんなものばかり手に取っている。
諦めて、《呪い》の本を潔く読みましょう。
ふと、とある記述が目に入った。
『呪いとは、祝福と紙一重である。』
そうかもしれないわね。《《ふ》》に落ちるものがあった。
わたくしの呪いも、きっと祝福に思える人もいるのでしょう。
…この本、興味深いわね。先ほどまでより、真剣に読んでみる。
『呪術師と呼ばれるものは、未だ神以外見つかっていない。また、呪いのようでも、本人がそれを認めない事例も多く見つかっており、どのようにしてその事象が起こっているのかは、未解明のままである。』
分厚くはない本。だけど、気が付いたら夕方だった。
一言一言に思い当たるものがあったからか、今までの読書より学べている気がする。
不思議なこともあるのね。今まで図書室には何度も出入りしているのに、この本の存在に気が付かなかった。こんなに分かりやすいところにおいてあるのに。小人さんでもいるのかもしれないわ。
やっと、明るい気持ちになれたのだった。
「あら?誰もいないのね…」
そうだった。今日はわたくし以外全員用事があるのだった。
そういえば、ユーリお兄様の用事は一体何だったのでしょう?
「クラン!」
エステルお兄様がいた。
「どうされました?今日は用事があるのでは…」
「用事はあるが!その前にお前に言いたいことがある!」
「何でしょう?」
「なぜ父上に誘われたとき、パーティーを断ったのだ!?」
「どうしてと言われましても…わたくし、以前、お父様とああいう場にはついていかないと約束したのですよ。だから、それを守るためにも、行かないのです。」
「そんなものを守る意味がどこにある!?お前は公爵令嬢だぞ!?」
「それがどうしました?わたくしは公爵家の名に恥じぬよう、魔術を磨いたり、自分の価値を高めたりしていますわ。公爵令嬢ならば、約束も守るべきでしょう。一体何に対して文句を言われなければならないのでしょうか?」
「いつ、そんな約束をしていたのだ?」
お兄様の勢いが少し弱くなったわね。これなら嘘をつかずに説得することもできるのではないかしら?
「わたくしが神殿から帰ってきてすぐの事ですね。」
強引に約束させてもらったわ。たしか。
「父上は、そのことを覚えているのだろうか?」
「多分忘れているでしょう。今までは…まぁ避けることはできてましたが、今回お父様がその提案を持ってきたことからして、多分忘れているでしょう。」
「お前は…それを思い出してもらわなくていいのか?」
「別に構わないわ。わたくしが断り続ければ、約束を守ることにはなりますから。」
「そうか…急にすまなかった。」
「いいえ。」
一体何の用で来たのでしょう?こんな簡単に説得できるようではこれが本題だとは思えませんわ。
「一つだけ伝言を伝えるぞ。魔物には先に気づくのに、その存在を忘れるのはやめてほしい、だそうだ。」
そう言って、行ってしまった。そんなに急いで、一体今から何の用事があるのでしょう?
ユーリお兄様もエステルお兄様も結局教えてくれなかったわね。わたくしは仲間はずれにされているのかしら。
そしてこの伝言…間違いなくケルートからね。もうお父様に報告したのかしら?早いわね。しかし、なぜそれがエステルお兄様に伝わるのでしょう?理解できませんわ。
それにしてもまあまあ核心に近づいたことを喋ってしまったわ。やっぱり嘘をついたほうが良かったかもしれないわね。きっとまだまだ経験が足りないのでしょう。
ふう…いきなり呪いの本をクランが見つけてしまうから…内容考えるのが大変でしたw
6.娘の現状 2
そして話は今日に戻る。
夜、ケルートから報告が来た。
今日は、ケルートしか護衛を付けなかったらしい。これは、どんどん娘が内向的になっているということか…?
否が応でも危機感が増してくる。
「今日の狩りではドラゴンにあったのですが…」
ドラゴン!? ドラゴンはここら辺は出ないはずだが…。
「本当か!?」
「疑いたい気持ちはわかりますが、本当です。」
そうなのか…では、報告をしておいたほうがいいだろう。話を聞くに一頭だけだったようだが、元気な竜だったと言っているように思える。なぜ…出てくるのだろうか?仕事が増えた…が…被害がほとんど出なかったのは幸いというべきだろう。
「して、どうなった。元気そうな様子を見ると、無事倒せたのか?」
「そうです。お嬢様が両翼を落とされ、最後は私が入れました…が、お嬢様一人でも倒せたと思います。」
「強さは?」
「弱めですね。ただ、それでも風だったので本来は100人程度で倒すものでもおかしくないかと。」
「娘はどうやって戦ったのだ?」
「同じく風を行使して威力を相殺していました。」
なるほど。効率の良い考え方だ。しかもそれだと周りに影響は来ない。よくできた娘だ。そこは公爵令嬢に恥じない…
「そうか。さすがとしか言えん。ところで、娘の話になるが、あれは内向的なのだろうか?」
「馬車や森でもまあまあ口を開いていましたし、内向的ではないのではないかと。ただ、自分がしたことのすごさを全く理解していないので、そういう意味では内向的とも言えるでしょう。」
よく喋っているのか。ますます娘がよくわからない。しかも、ドラゴンを二人で倒したことのすごさをわかっていないということだよな?普通は無理に決まっているだろうに。
「あ、あとお嬢様に是非伝えてほしいことが。」
「何だ?」
「魔物に早く気づいたのに、その存在を忘れるのはやめてほしい。と、伝えてください。」
つまり、娘がそういうことをしたのだな?ははは、傑作だ!
「確かに聞いた。」
「ありがとうございます。」
考える。娘はどうやら世間を理解していないようだ。だったら、人と関わりをもたせたほうがいいだろう。ふむ、一つ面白い考えが浮かんだ。これをすれば娘に嫌われるかもしれないが…致し方ない。娘の内向さが酷いならば、こうしよう。
楽しさを感じたまま、眠りについた。
「ご当主様、少しよろしいでしょうか。」
朝起きたら、いきなりこうだった。切羽詰まっている…というわけではなさそうだ。落ち着こう。
「どうした?」
「奥方様が帰ってきました。」
「そうか。すぐ行く。今ミリアネはどこにいる?」
「応接室におります」
「分かった。」
何かあったのか?いや、切羽詰まってはいなさそうだった。だったら、予定が早く終わっただけか。それならちょうどいい、クランのことでも話そう。
「まあ、早かったのね。急いでくれたのかしら?」
「もちろんだよ。元気な様子を見れて安心した。」
「うふふ、予定が早く終わったので、ちょっと繰り上げて帰ってきたの。せっかくだし娘や息子にも会いたいしね。」
よかった。予想通り、予定が早く終わっただけだった。
「そのクランのことだが…」
「あら?クランがどうかしたの?珍しいわね。」
「いや、どうもしたわけではない、私が急に気にしだしただけだ。」
「どういうことかしら?説明してちょうだい。」
学園でのクランの様子、そしてケルートからのクランの話を説明した。
「確かにクランはなにか考えていそうね。けど、別にクランから実力行使されたと言うわけではないんでしょう?」
「そうだ。」
「だったらまだ気にしないでいいんじゃないかしら?もしそれでも気になるようだったら…何かもう考えているようね。じゃあそこに関してはいいわ。他に何が聞きたいの?」
「クランの信念が何かを聞こうと思ってたんだが…まだ気にすることはないんだろう?」
「あら、旦那からのお願いとなれば別よ。考えてほしい?」
「考えたい。」
「相変わらず真面目だこと。うーん…信念ねぇ。まずその信念が自分から来たものか仕方なくそれを信念にしているかよね。」
「確かになぁ。自分からだったらいいが…仕方なくそうなっているならば助けたいなぁ。」
「確認するけど、そういうふうな信念が芽生えそうな心当たりはないのよね?」
「あぁ…ない…と思う。」
「だったら、たぶん神殿での1年間に何かあったんでしょう。今度聞いてみるわね。」
「え?クランに?」
それはやめといたほうがいいと思うが…
「違うわよ。神殿に、ね。」
「あぁ、それはいい考えだ。じゃあ頼むぞ。」
「任されました。」
さすが我が妻。考えていたよりもはるかに有意義な話し合いになった。
神殿…か…。
私も1年間あそこにいたが、不思議な場所だった。あそこなら…クランが何か信念をつくるような出来事が起きてもおかしくない。
取り敢えず、発布してみるか。ニヤリ
その日、伝令が走り回った。
「公爵令嬢、クラン・ヒマリアの心を開いた者1人に、金貨1000枚の報奨をやる。」
ちなみに…金貨1000枚は、それだけあれば、一生過ごすことが出来る。《《ただし》》、公爵家から見たら、微々たる金額でもある。
お金の価値観って面倒くさいですよねー。
一生生活できるのだから1億くらいでしょうか?
となると金貨1枚が10万円…恐ろしいな…
これからもこのシリーズをよろしくお願いします!
7.法令発布1
今日は月曜日。また、いつもの変哲のない日常が戻ってきた…
ガヤガヤ。
あら?教室が騒がしいわね。今日は何かあったかしら?…いや、何もなかったはずよね。ではなぜこんなに騒がしいのでしょう?
「「「クラン様、おはようございます!」」」
…。
なぜ、わたくしは大勢に挨拶されているんでしょう?というか…クラスにいる人ほぼ全員が今、話しかけてきたわよね。しかも全員の声が揃っているわ。皆さんタイミングでも計っていたんでしょうか?いったい何のためなのでしょうか?媚び売りが妥当…よね?
「__おはようございます?__」
これで挨拶を返したことにはなるわよね?というかそうなって!あまり人と喋りたくはないのよ!
「まぁ!クラン様が返してくれたわ!」
「本当だ。あの方、喋らないというわけではないんだ…」
今の男性、あなた、それ、悪口と受け取られてもおかしくないわよ。
まあ、実際はそう思っても喋ることはない。
だってわたくしは公爵令嬢。
変に価値を落とす必要はないわ。お父様のためにも。そして、自分の信念を守るためにも。さらには、呪いを発動させないためにも。…これ、主にわたくしのためになっているわね。間違っていないけど。
それにしても、わたくしが喋るだけでこんなに反応が返ってくるなんて…今まで考えもしなかったわ。これだったら少しは喋ってもいいかもしれ…なくないわ。さっき価値を落とすわけにはいかないと思ったはずよ。
さあ、しっかりしましょう!
「クラン様、今日も相変わらず綺麗ですね!」
「そう。」
また取り入りに来たのかしら…いい加減疲れるのだけど…
そう思いつつその女の子を見てみる。
あら?この子見覚えが…きっと、今までも取り入りに来たことがあるのでしょう。けれど…笑顔が可愛いわ。これが嘘だったら、演技力を天才と言わざるを得ないかも。
「何でそんなに薄い反応なんですかー?」
また話しかけてきた。何でそんなに薄い反応かって?けれど、その前に、あなたがなぜわたくしに話しかけてくるのかを説明すべきだと思うわよ。どうせ取り入るためでしょうけど。しかも言葉が軽いわ。品性を持って話すことを覚えなさい。
「これが普通だもの。」
まあこれが無難ね。さっさと立ち去ってくれないかしら。
「絶対違うと思います!クラン様は、もっと明るいお方です!」
それ…本人の前で言うかしら?
「そう、ではそう思っていればいいわ。けれど、これがわたくしよ。明るというのは幻想でも見ているのよ。少し冷静になりなさい。」
「__そんなことないのに…クラン様は、もっと明るかった。忘れてしまったのか、本当に変わってしまったのか…__」
何かを呟いているようだけど、取り敢えず立ち去ってくれた。
「クラン様。今度出かける際にご一緒にさせてもらえませんか?」
今度は男性ね。
何でしょう?出かける際に同伴したい?つまり、わたくしに娶られたいのかしら?けど、公爵家はエステルお兄様が継ぐはずよね。ではわたくしを嫁がせたいのかしら?けれど…侯爵ならまだしも、それ以下のように見えるわ。となると、わたくしが嫁ぐことが出来ないのは分かりきっていることよね。
でしたら………。思いつかないわね。
「クラン様?」
考えすぎてしまったみたい、訝しまれてしまった。
「無理よ。」
「それはどうしてでしょう?」
「公爵令嬢として、よく分からない者を連れて出かけることは出来ないわ。分からないかしら?」
少し威圧感を与えるように言ってみた。
「いや、分かります。えっと…その…急に突拍子もない事を言ってしまい、申し訳ありませんでした!」
あらら。勢いよく謝られてしまったわ。そんなに威圧できたのかしら?だとしたらまた特技が増えたわ!
「今回は許します。」
取り敢えず許してやろう。許さないと後々めんどくさいことになるし。というか、この場合、《《今回》》をつけなければならないのよね。わたくしの場合は。ただ許すだけだったら、未来永劫許すことになってしまうもの。やはり、人と話すのは嫌いよ。
宣言でも、ただの許可でも、何ととられるのか分からない。
約束をしなくても、これだけで呪いの効果が出てしまったら…そう思うと、少し身震いが出てくる。まだ、この感覚には慣れることができないでいる。
「…!ありがとうございます。2度とこんなふうに突拍子もない事はしません…!」
あらら、感激されてしまったわ。
それにしても…今回、と言ったせいで何やら怖い印象がついてしまったかもしれないわ。そう考えると…さっきのは失敗だったかもしれないわね。
けれど…やっぱり「今回」はつけておかなくては呪いが勝手に誤解してしまうはずよ。それはわたくしは望んでいない。それなら、「今回」はつけるべきね。となると…悪いのは、やっぱり話しかけてきた男性になるわ。
次こんなふうになっても、公爵令嬢の風評を悪くしたとかで、許さなくてもいいのかもしれないわ。
そんなことを思った。
まだまだ授業が始まるまでの時間はたっぷりある。
8.法令発布2
同じ番号は同じ人物の発言です。
「クラン様、先日ドラゴンを倒したと拝聴しました。一体どうやって、倒したのか、教えて欲しいです!」1
「あぁ!それ、わたくしも気になってたわ!」2
「私も興味がありますね。」3
今度は男性二人、女性一人ね。想像するに、戦闘能力が強い人達か、とてつもなく弱い人達かの2択な気がするわ。けれど、最後の|方《かた》は学者肌という感じもするわ。ふふっ、一体どれが正解でしょうね。
「翼を切って、急所を護衛に刺させただけよ?」
「翼を切る?」1
「クラン様、一体どういうことですの?」2
なぜこんなに簡単なことが分からないのかしら?きっと、この人たちはとてつもなく弱いのね。
「だから、風魔術で両翼を切ったのよ。弱い竜だったしね。」
分からない人たちね。理解力は大丈夫かしら?あぁいや、弱い方たちだと考えるなら…自分とできることがかけ離れていて、理解ができないのかもしれないわ。うん、それなら納得よ。
「竜が弱い…」3
弱い竜は弱いわよね?つまり、この方達は竜を強いと思っていた。イコール弱い。そう考えていいのよね?予想が当たったわ!最高ね!気分がいいわ!久しぶりに高揚してきたわ!あぁ、なんて清々しいんでしょう!
「すまん、私も理解できないのだが…」1
「ドラゴンの攻撃はどうやって止めたんですか?」2
話を変えてくれるなんて、気の利いた子もちゃんといるのね。今日やっと一瞬とはいえほっとできたわ。全員こうだったらいいのだけど…
「風魔術を使って相殺させたのよ。」
「魔術で相殺する…つまり、攻撃を事前に読み取って、それと同等の力で防御したということだよな?」3
「そういうことだと思うけど…信じられないな。」1
「討伐にはどれぐらいかかったんですか?」2
あら、またこの子が話題を変えてくれたわ。どんどん好印象を持ってしまう…名前を後でこの子だけは確認しておこうかしら?覚えていたらだけど。けど…わたくしの記憶によるとまあまあ地位は高めだった気がするのよ…侯爵かその一個下の伯爵でしょうね。公爵だったらこのようにわたくしを立てるような言い方はしないはずよ。
「両翼を削ぐのは一瞬でしたが…護衛が30分かけたのよ…」
お陰で魔術の腕がまた上がったわ。
というより、皆さんわたくしがドラゴンを倒したことを知っているのでしょうか?わたくし普段はあまり実力を見せないようにしていましたのに。今までの努力が水の泡よ。誰かしら?広めたのは。
「30分間も相殺し続けたのか…」1
「授業ではそんなふうに見えなかったのに…」3
「クラン様にはわたくしたちには分からないような崇高な考え方がきっとあるのよ!」2
「かもしれないな。」3
何故か呆れられた気もするのだけど…どうしてでしょう?
「答えてくださってありがとうございました。」2
「そう、それは良かったわ。」
少し微笑んだ。別に「約束」に関わらなければ人と話すのは嫌いではないもの。そう思い、少し喋りすぎたわ、と反省する。
「クラン様は、普段、どんなことをしているんですか?」
「見ての通り、あまりなにかしているとは言えないわよ。」
「クラン様、今度授業の際にお手合わせを」
「遠慮するわ。」
本気なんぞ出したくもないし、厄介事に巻き込まれる予感しかないわ。いえ…もう巻き込まれているのだけど。
「クラン様って何でもできてすごいのね。」
はぁ?みんなもできることじゃないかしら?
「クラン様はどんなことが好きなんですか?」
読書…よね?
「クラン様、今度魔法を教えてください。」
嫌よ。
「クラン様、」「クラン様」「クラン様」
あぁ…もううるさいわね。
疲れた…。やっと終わったわ。会話って疲れるものだったのね。もう二度とこんなに絡まれたくないわ。
そう…さっき、何で急に絡まれるようになったか考えていたわよね。
一体何人の方にに話しかけられたのでしょう?そう思い、「誰に話しかけられたかしら?」と考えながら教室を見渡す。あの人、あの人、あの人…あら?全員かしら?……あ!2人絡んでこなかった人がいたわ!あの二人は気が利くわね!
男女一人ずつ、見覚えのない人がいた。その人達には話しかけられてないということでいいと思う。つまり、それ以外の人はみんな絡んで来たのだ。人数換算すると…30人クラスだから27人?多すぎるわ!これは疲れるはずよ。ふだんは誰とも喋らないのだし…
そういえばあの二人…何か見覚えがあるような気がするのだけれど…なんだったかしら?
まあ、多少覚えていなくても許してもらえるでしょう。まだ学園に入ってから半年ほどしか経っていないのだから。
あらら…少し短くなってしまいました。まあ大して変わらないしいいでしょう。読んでくれてありがとうございました!
9.困惑
クラン様のお心を開いたら金貨百枚の報奨…!
この知らせは、今までの報われなかった努力をもう一度しようと思えるほどには私に影響を与えてきた。
私はノア。平民出身。そして自称クラン様の信者。
今日は月曜日。あの法令が発布されてから初の学校がある日だ。
「ねえ、聞いた?」
「もちろん!私、クラン様にもう一度アタックしてみようと思いたったの!」
「えぇ…ノア、よくやるわね…」
「そりゃもう!私はクラン様のファンだから!」
「あぁ…自称のね。」
彼女はクリーナ。同じく平民出身だ…が、家は商人と、裕福めな暮らしをしていたそう。
私たちと同じように、今日の教室は騒がしい。理由は…あ!
「「「クラン様、おはようございます!」」」
ちょうどその原因であるクラン様がやってきた。正確にはそのお父様だけど。
「__おはようございます?__」
「ねえ、聞いた?クリーナ。クラン様が挨拶を返してくれたよ!」
「まぁ!クラン様が返してくれたわ!」
「本当だ。あの方、喋らないというわけではないんだ…」
他の人も似たりよったりの反応だ。むぅ。私だけで目立ってまたクラン様に話しかけるチャンスを…っと狙っていたのに。しかし、席についたクラン様に、誰も話しかける素振りを見せない。
チャンスだ!
「クラン様、今日も相変わらず綺麗ですね!」
「そう。」
「何でそんなに薄い反応なんですかー?」
ううぅ…私、嫌われているのかなぁ。嫌われることはしてないと思うけど…まあ言っていることが他の人も言いそうなものだし…当たり前と言えば当たり前か。
「これが普通だもの。」
「絶対違うと思います!クラン様は、もっと明るいお方です!」
だって…!
「そう、ではそう思っていればいいわ。けれど、これがわたくしよ。明るというのは幻想でも見ているのよ。少し冷静になりなさい。」
「__そんなことないのに…クラン様は、もっと明るかった。忘れてしまったのか、本当に変わってしまったのか…__」
あわよくばクラン様に聞こえてくれていないかな。
神殿でのクラン様は、もっと明るかった。私には気づいてくれていないけれど、それでも過去の自分を隠す必要なんてなさそうなのに…いや、これは私本位の考えだ。公爵令嬢であるクラン様は違う考えをお持ちかもしれない。
けれど…明るいクラン様をまた見てみたい。そりゃあ今のクラン様も好きだけど。
「公爵令嬢として、よく分からない者を連れて出かけることは出来ないわ。分からないかしら?」
あぁ…クラン様が絡まれてる。あれ?私も他の人から見たらあんな感じなのかな?それだったら嫌われるのも分かるかもしれない。
「いや、分かります。えっと…その…急に突拍子もない事を言ってしまい、申し訳ありませんでした!」
「今回は許します。」
一瞬で周りが静かになった。それほどまでに発言には威厳があった。
《《今回は》》許します、かぁ。今後は許さないつもりなんだ。はっきりしているところも相変わらず素晴らしい…!
「…!ありがとうございます。このような…。」
「クラン様、先日ドラゴンを倒したと拝聴しました。一体どうやって、倒したのか、教えて欲しいです!」1
「あぁ!それ、わたくしも気になってたわ!」2
「私も興味がありますね。」3
今度は魔術が強い3人がクラン様がドラゴンを2人で倒したことについて聞いている。ドラゴン…この街の近くには出ないはずなんだけれどな。それが出てきて、さらに普通どおりに戦えちゃうところとかも、尊敬の対象だ。
「翼を切って、急所を護衛に刺させただけよ?」
「翼を切る?」1
よくぞ代弁してくれた。竜の翼は硬いと聞いたことが私でさえある。そんな簡単に済む話であるはずがない。
「クラン様、一体どういうことですの?」2
「だから、風魔術で両翼を切ったのよ。弱い竜だったしね。」
「竜が弱い…」3
「すまん、私も理解できないのだが…」1
竜は弱くないですよ!兵士が100人集まってやっと倒せるんだもん!
「ドラゴンの攻撃はどうやって止めたんですか?」2
「風魔術を使って、相殺させたのよ。」
「魔術で相殺する…つまり、攻撃を事前に読み取って、それと同等の力で防御したということだよな?」3
なるほど…って、え?そんなことできるの?人間の能力超えていない?少なくとも、学生の能力は超えているね。うん。
「そういうことだと思うけど…信じられないな。」1
「討伐にはどれぐらいかかったんですか?」2
「両翼を削ぐのは一瞬だったんだけどね…はぁ…護衛が急所を狙うだけに30分かけたのよ。おかげで魔術の腕…あぁ、なんでもないわ。」
「30分間も相殺し続けたのか…」1
「授業ではそんなふうに見えなかったのに…」3
本当そう。授業では本気じゃなかったってことだよね?30分も使える魔術があるのなら、王直属の護衛にもなれるよ。けど、今までそんなことにはなっていないという事は、隠しているっていうこと?
「クラン様にはわたくしたちには分からないような崇高な考え方がきっとあるのよ!」2
「かもしれないな。」3
そうかも知れない。今、この場で共通認識ができた。クラン様のこの実力は、クラン様の許可なしには多言しない。みんなきっと、そう思っている。
「答えてくださってありがとうございました。」2
「そう、それは良かったわ。」
そう言ってクラン様は少し微笑んだ。
「…はぁ…。」
見惚れちゃうよ…。あぁ…やはりクラン様は最高の御方だ。
10.法令発布3
先生がやってきた。やっと授業が始まるのね。
…。
あぁ、暇だわ。
先生たちには異常は見られないということだしい良いのだけど。
…と思っていたら。
「クラン・ヒマリア。」
唐突に名前を呼ばれた。確か今は歴史の時間。先生は…伯爵家出身だと思うのだけれど…。わたくしを呼び捨てにしてしまって大丈夫かしら。
「クラン・ヒマリア、返事をしなさい。」
高圧的な方ですね。あまり好きになれなさそうな方ですわ。
「…何でしょうか?」
「我が国が誇る英雄を答えなさい。また、彼が成し遂げた偉業も答えなさい。」
英雄とは、預言者によってその存在が決められる。そして、
「ナルート・アンザス。大神殿を攻撃から守ったときの最功労者として、英雄に選ばれた。」
「そうだ。彼は何故かよくわからない言語しか喋れなかった。それを補助したのがエンラート・ヒマリアだ。彼は…」
あぁ、なぜ当てられたかが分かりました。
エンラート・ヒマリアを祀り上げることによって、わたくしに取り入ろうという魂胆ですね。そんなものに流されるなどありえないと分かるでしょうに。…いえ、分からなさそうですね。ですからこんなことをやっているのでしょう。なんとつまらないことか。もう少し知恵を絞ってみてはは如何でしょう?
「その英雄が平民出身だったおかげで、平民もこの学園に通えるようになった。そして彼が活躍できたのはエンラート・ヒマリアによるものだ。だから、平民出身者はヒマリア家に感謝しなければならない。」
…。はぁ!?想像の斜め上を言ってくれたわね!想定していたものよりもはるかに愚かだったわ。そんなに下劣なことをしてまでわたくしに取り入れたいのかしら?後でお父様に報告しましょ…あぁ!お父様はこういう取り入るやつを探すために何かやって、その結果わたくしが被害を被っているのではないかしら?だったらお兄様達も同じ目にあっているのよね。安心したわ。
そして、次の魔物学の授業。
「クラン・ヒマリア。」
あぁ…また呼ばれてしまったわ。
「何でしょう?」
本当なら返事は「はい。」なのだけど、許してほしいわね。
「そなたは…先日竜を殺したそうだな。」
「はい。」
どうせ倒し方を聞いてくるんでしょう?飽きましたわ。
「場所はどこだ?」
あら?真新しい質問ね。
「実家のそばのリルトーニア林の中です。」
リルトーニアは王家の名字。その名を冠した森は広い。だから、実家のそばと言うことで具体的な場所も教えた。これで沈黙を貫いてもいいわよね…?
「さて…スターチェ・カンザス。ドラゴンは…どこに生息している?」
「…一般に、我が国には生息しないとされています。」
スターチェ・カンザス。確かヒマリア家と同じ公爵家令嬢。そして…今気付いたけれど、さっきわたくしに話しかけてこなかった少女。
そうと分かれば納得できる。同じ公爵令嬢だもの。媚びる必要はないわね。
「そうだ。つまり…これは何者かの手によって起こったと考えられる。」
それがどうしたのかしら?何者かの手によって普通はありえないようなことが起こる。それが当たり前じゃない。ドラゴンはやりすぎかもしれないけれど。
「私は…神の仕業だと考えている。神は飽いている。飢えを癒やす一環としてそれを行ったとしても…何ら疑問はない。」
あら、少し見直したかも。そういうのもあるかもしれないわね。
そもそも、わたくしの呪いも神々の飽きを癒やす一環だったもの。神官がわたくしに説明してくれたけれど、あれは「神々のいたずら」。また、わたくしはちょっかいをかけられたのかもしれない。
けど…見なさい。生徒はみんな呆れているわよ。わたくし…いや、神殿は「神々のいたずら」を隠している。それを知らない者は、なぜこんなただの令嬢に神々がちょっかいをかけるかが分からないはずよ。
「さて…魔物学の教師としては、どうやってそなたが竜を倒したのかに非常に興味があると言っても過言ではない。よろしければ…説明してもらえないだろうか?」
あぁ…せっかく好印象をもてたのに落とさないでほしいわ。
結局、この先生も他の人と一緒なのね。
「よろしければ」説明してほしい。なら、説明はしなくていいでしょう。
「お断りします。」
「何故だ?」
「このクラスの者にはどうやってわたくしがドラゴンを倒したかを知っています。もう一度言う必要はないでしょう。知りたければ、彼らに聞くのがよいでしょう。」
「確かに…私はそなたに意思を確認した。そなたはそれに答えただけだな…なら良い。他のものに聞くとしよう。」
あら、また好感度が上がったわ。好感度を上げては下げて、また上げて…忙しい方ね。いや、これも取り入るためかしら?
「ふむ…翼を風魔術で切って、攻撃は風魔術で相殺して、護衛が30分かけたというのにそれを続けたと…素晴らしい!」
褒められてしまったわ。これは確定で媚を売るためね。こんな当たり前のことで褒められる謂れはないはずだもの。
「他の者もわかったか?ドラゴンに接触したら、まずは羽を切るのだ。」
「分かりません。羽は硬いはずだ。できるはずがない。」
「はじめは敬語だったのだから、最後まで敬語は使うように。シリル・カーソン。」
シリル・カーソン…あぁ、ドラゴンの話題を最初に振ってきた者ね。カーソン家…あまり聞かないわね。下級貴族か平民でしょう。弱いし…平民かしら?けど、先生にあの態度…貴族な感じがするわ。貴族全員をまだ覚えられていないとは…まだまだね。もっと精進しなくちゃ。
…もうあてられることはなさそうね。そう感じ取って、いつも通りぼんやりするのであった。
魔物学の先生を書くのめっちゃ楽しかった!媚び売ってるのは最低だけど
他の小説にもこの口調使ってみようかな?w
11.法令発布4
次は魔法学の時間。
魔法学って何だか座学みたいに聞こえるけど、実際は普通に魔法の練習よ。魔物学は座学だけだけど、魔法学は大抵魔物学のあとにあって、魔物と戦わされる。分かるのよ、魔物と戦うのが一番魔法の行使になれられるのは。けれど、面倒くさいのよね。
「明後日は課外授業だ。しっかり励むように。」
今日は、魔物との実戦ね。雑魚中の雑魚とわざわざ戦わされるなんて苦痛でしかないわ。
ふぅ。今日も剣だけで乗り切れたわ。剣に魔法をかけているから、魔法学の授業内容にも適しているでしょう。
「クラン・ヒマリア」
「何でしょうか?」
…また、呼ばれてしまったわ。何もなく終わるかと思ったのに。これで3時間連続よ!?おかしなことが起こるのは。朝も入れたら今日はずっと変ことが起こっていると言えるわ!
次は昼休みだし…お兄様達に会いに行ってみようかしら?
「特別に魔物を用意した。戦ってみよ。」
はぁ!?なぜ準備をしたのがコンクルートなのでしょう?何が特別なのでしょう?
「どうした?戦えるだろ?」
「戦えますけど…なぜ用意したのがコンクルートなのですか?こんなの一瞬ではないですか。」
「そうなのか!?それでは、今度からはもっと強いものを用意できるように頑張ってみよう」
「ありがとうございます。できればドラゴンよりも強いものでお願いします。火」
はい、瞬殺。
あぁ、これが媚びでなかったら最高のご褒美なのに。もったいないわ。
「みんな、すまんな。参考にならないよな…」
どこがでしょう?
あら?なぜ皆さんは頷いているのでしょう?これくらい強い人には当たり前にできることではないですか。
「まあクラン・ヒマリアが使った通り、コンクルートは火に弱い。こんな一瞬でたおれるほどには。それはわかっておいてほしい。」
「「「はい。」」」
「じゃあ授業を終わる。課外授業は学校の近くのリルトーニア林で行う。大人数だし、きっと安全だ。安心して来るがいい。…ただし、不注意に来るものは落第だ。」
さぁ、お兄様達の様子を見に行きましょう。
まずは、やっぱりエステルお兄様よね。
あ、いたわ。
「お兄様!」
「まあ、あれがエステル様ご自慢の妹さん?かわいいわね」
「孤高の公爵令嬢が何のようだ?」
何故か黄色い声をあげる人もいた、他には警戒するような人もいた。どっちかと言えば、絶対後者のほうがいそうですよね?なぜ、前者のほうが多くいるように見えるのでしょう?
ーパチパチ。
目を瞬いてみても変わらないわね。わたくしの目が壊れたのかと一瞬思ってしまったわ。
「どうしたのか?クラン。珍しいな。」
「それが…今日はやけに話しかけられるのです。授業でも何回もあてられてしまい…お兄様はどうしてか知っていますか?」
「クランはどう思った?」
「お父様が媚びを売る人と売らない人を見分けるためになにか仕組んだのかと考えたのですが…お兄様の周りは特に変わっているようには見えませんね。なぜ、わたくしの周りだけおかしいのでしょう?」
「うーん…私には答えられないなぁ。」
「どうしてですか?何かを知っているのですよね?」
「父上を裏切れないからだよ。…そうだ、王族に聞いてみればいいんじゃないか?王族ならば公爵の権力も気にならないだろう。」
「…つまり、お父様が、公爵家の権力を使って何かをしたということですね。それもわたくしだけに。そこまで確証を取ることができました。ありがとうございます、お兄様。」
そう言って教室から出た。
予想通りエステルお兄様はいろいろ教えてくれたわ。これには感謝してもしきれないわ。
その後ろで、
「かっこいいな、エステルの妹は。」
「聡い妹さんなのね。」
「エステル様も大変なんですね。」
クランに憧憬の眼差しが、エステルに同情の眼差しが来ていたことには、クランはもちろん気づいていない。
さて、どこかでお父様を問い詰めなくてはならないわ。
せっかく今日は来たばかりですけど、今夜は実家に帰りましょうか。
執事のカナンに準備をお願いしておく。
…今のうちに寮に届け出を出してきましょう。
次の時間は体術学。
ただ、運動するだけの時間だ。
食後にこれがあるため、太ることを心配しなくていい、と週に3回ある昼食後の体術学の授業は女子生徒に人気だ。
「クラン・ヒマリア」
まただわ…
「何でしょうか?」
「私と練習試合をしなさい」
「__はぁ…__分かりました。」
取り敢えずいつも通りやってみた。
今まで不真面目に受けていたもの。先生の実力なんて知らないわよ。
勝ってしまったわ…どうしましょう?目立たないで過ごそうと思っていたのに。これは…絶対に目立っているわよね?おそるおそる周りを見ると、みんなの視線がわたくしを向いていた。
ひぃぃ…。目立ってる…。最悪だわ。
あぁ…帰りましょう。
精神的に今日はかなり疲れた1日だったわ。けれど、この後もまだお父様に会うのよね。わたくしの精神力…持つかしら?
12.法令発布5
「カナン、待たせたわね。」
「いえいえ、それが仕事ですから。」
校門に行くと、カナンがいつも通り待っていた。
それが仕事…待っていることは否定しないのね。
「では、よろしくね。」
御者の人に挨拶する。
こうするといつも恐縮されるのよね。公爵令嬢としてお礼も言わないなんて、出来ないわ!
「カナン、お父様は今日は屋敷にいるのかしら?」
「王城に行く予定は無さそうだと聞いております。たぶんお屋敷にいらっしゃるでしょう。」
「お母様は?」
「奥様も、多分おられることでしょう。」
え?いつの間に帰ったのかしら?日曜にはまだ帰っていなかったと思うのだけれど…
これは後で聞くことにしましょう。
「ただいま〜」
「え?」
使用人に驚かれた。大丈夫かしら?この家。使用人が敬うべき貴族にタメ口を使っているのよ。
「カナンから聞いていない?今日は帰ると伝えてもらったはずだけど…」
ちらりとカナンを見る。
カナンは自信ありげに頷いた。うん、大丈夫、連絡は行われているはずだわ。そうなると…この使用人かしら?問題は。それとも連絡に不備がある我が家の支配体制?
「あぁ…!申し訳ございませんでした!!」
「謝罪は聞いていないわ。理由を答えて。」
「今日は平日なので、お帰りは遅くなるのだと勝手に考えていました!」
「そう、学園はどの日もタイムスケジュールは変わらないわ。今度からは気を付けることね。」
「…いいのですか?」
「何が?」
「私は…お嬢様に無礼を働いてしまいました。」
「今度からは気を付けるのでしょう。なら問題ないわ。」
わたくしが「許す」と言わないようにしてくださらないかしら?それも「約束」になったら大変なのよ。
「…! ありがとうございますっ!」
「お父様は?」
「執務室におられます。」
「そう、ありがとう。」
ーコンコン
「どうぞ、とのことです。」
「執務中失礼します。」
「どうした?」
「お父様に聞きたいことがあって来ました。」
お父様の表情が読めないわ。けれど…今、肩が跳ねたわよね?
「なんだ?」
「今日、わたくしは大勢の人に話しかけられ、授業でもあてられ、目立たせられ、大変な迷惑を被ったのですが…お兄様達は何も変わっていませんでした。わたくしは、お父様が媚びを売る人と売らない人を見分けるために何かをしたのかと考えたのですが、違いそうです。お父様、一体何をしたのですか?そして、何故、わたくしだけなのでしょうか?お答えください。」
「私は何もしていないぞ。なぜ、私がしたと考える?」
「では、質問を変えましょう。先に言っておきますと、このようなことをしそうなのはお父様だけなのですし、お兄様にもお父様が原因だと確認を取ってはいるのですが…お父様は何か知っていますよね?」
「約束」使ってみようかしら?
「さぁな。」
「あくまで|嘯《うそぶ》くつもりですね?でしたら、わたくしと約束してください。今から十分間、嘘は言わない、と。その代わりわたくしも嘘は言いません。」
何も知らないなら約束できますよね?という目でお父様を見つめる。
「分かった。約束しよう。」
これで「約束」は出来た。これによりわたくしもお父様も神々によって嘘がつけなくなる。
「では、質問します。お父様は最後の金曜日から、本日にかけて、何かしましたか?」
ー30秒
「さぁ」
「はい、か、いいえ、でお答えください。」
ー1分
「はい…」
「何をしましたか?誤魔化しても聞き出すだけです。話された方がいいと思いますよ?」
ー2分
「法令を発布した。」
「それの内容は?」
「…。」
ー4分
一体お父様は何秒沈黙すればいいのでしょう?
「沈黙で答えないでください。そうですね…まあ後ろめたいことがまさかあるわけ無いでしょうし、30以内に答え始め、30秒以内で答えられますよね?」
「あぁ。」
あら、また「約束」してくれたわ。やっぱりお父様は優しいわね。
ー5分
「では、内容をお応えください。」
「…。公爵令嬢、クラン・ヒマリアの心を開いた者1人に、金貨100枚の報奨をやる。」
お父様…ギリギリまで粘ったわね。意味はないというのに。
ー6分
「なぜ、そのような法令を?あぁ…早く答えていただいて、時間が余りましたらわたくしもお父様のの質問に答えますわよ?」
「クランが学校に一人でいるから。公爵令嬢として心配になった。」
ー7分
「なるほど…分かりました。心配してくれてありがとうございます。お父様が沈黙したせいで、もうあと3分くらいしか時間がありませんね。何か質問がありましたら、わたくしも嘘は言えませんし、答えますが?」
お父様は、何かを迷った末に口を開いた。
「何故、私は今嘘をつけない?」
お父様…それは、一回はわたくしとの約束を破って嘘を言おうとした、ということですよね?
ー8分
「それはですね、わたくしと『約束』したからですよ。」
ー9分
ー10分
「時間ですね。お答えいただき誠にありがとうございました。」
やはり、お父様が関わっていた。
わたくしの心を開いたら金貨100枚ですって?確かにそれなら皆さん取り入ろうとするはずですわ。納得しました。
「お父様、迷惑ですのでそれはなくしていただけませんか?でないと…そうですね。お父様がわたくしに永遠に嘘を言わないことを『約束』してもらいましょうかね?」
「…分かった!廃止する!」
「そう、それは良かったです。お父様が、わたくしとの約束を破ろうとしたことがあるともわかったので、これからはお父様には注意するようにしておきますわ。」
なんか…クラン・ヒマリアが悪役令嬢みたいになっていない?気のせいかな?
書くのとても楽しかったです!
13.娘の脅し
ーコンコン
「娘か?」
「そうです。」
「入れと伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
娘がやってきた。十中八九あの法令のことだろう。どこまで理解しているのか、そして何故私のところまでやってきたのか。楽しみだ。
「執務中失礼します。」
「どうした?」
取り敢えず知らないフリをする。
「お父様に聞きたいことがあって来ました。」
ピクリ。やはりか…。
「なんだ?」
「今日、わたくしは大勢の人に話しかけられ、授業でもあてられ、目立たせられ、大変な迷惑を被ったのですが…お兄様達は何も変わっていませんでした。わたくしは、お父様が媚びを売る人と売らない人を見分けるために何かをしたのかと考えたのですが、違いそうです。お父様、一体何をしたのですか?そして、何故、わたくしだけなのでしょうか?お答えください。」
なるほど…媚びを売る人と売らない人を見分けるために…ねぇ。確かにいいかもしれないな。
「私は何もしていないぞ。なぜ、私がしたと考える?」
完全に嘘だ。
「では、質問を変えましょう。先に言っておきますと、このようなことをしそうなのはお父様だけなのですし、お兄様にもお父様が原因だと確認を取ってはいるのですが…お父様は何か知っていますよね?」
「さぁな。」
もう確認を取っているのか…恐ろしい娘だ。
「あくまで|嘯《うそぶ》くつもりですね?でしたら、わたくしと約束してください。今から十分間、嘘は言わない、と。その代わりわたくしも嘘は言いません。」
何も知らないなら約束できますよね?という目で私を見つめてきた。
なんというか…私は娘のこの目には弱いのだ。クランが私が約束する前提でこんな目をしているのだろうが…。娘の信頼に答えたくなってしまう。
「分かった。約束しよう。」
約束したところで、誤魔化すことは簡単にできる…私はそう思っていた。
「では、質問します。お父様は最後の金曜日から、本日にかけて、何かしましたか?」
できるだけ時間を稼ぐのだ。いくら兄に聞いていようがここで答えてはいけない。
「してない。」と答えようとしたが、口が開かなかった。
「さぁ」
「はい、か、いいえ、でお答えください。」
うぅ…信頼が…辛い。
「はい…」
「何をしましたか?誤魔化しても聞き出すだけです。話された方がいいと思いますよ?」
誤魔化しても聞き出す?どうやって?と思ったが、娘がこんなに自信満々なのだ。何か策があるに違いない
「法令を発布した。」
「それの内容は?」
「…。」
答えられるわけがないだろう!
「沈黙で答えないでください。そうですね…まあ後ろめたいことがまさかあるわけ無いでしょうし、30以内に答え始め、30秒以内で答えられますよね?」
「あぁ。」
やっぱり娘の信頼に…私は…弱い…。
「では、内容をお応えください。」
30秒、何も言わなければいいのだ。ところが、30秒立つ直前に勝手に口が動き出した。せめて、ゆっくり言おうとしたが…時間が来ているのか、早口になってしまった。
「…。公爵令嬢、クラン・ヒマリアの心を開いた者1人に、金貨100枚の報奨をやる。」
「なぜ、そのような法令を?あぁ…早く答えていただいて、時間が余りましたらわたくしもお父様のの質問に答えますわよ?」
なぬ!?そういやクランも嘘はつかないのだったな!これはチャンスだ!急いで答えよう。
「クランが学校に一人でいるから。公爵令嬢として心配になった。」
「なるほど…分かりました。心配してくれてありがとうございます。お父様が沈黙したせいで、もうあと3分くらいしか時間がありませんね。何か質問がありましたら、わたくしも嘘は言えませんし、答えますが?」
何を質問すべきだろう?焦って、逆に何も思いつかない。
「何故、私は今嘘をつけない?」
「それはですね、わたくしと『約束』したからですよ。」
約束したから、嘘をつけなくなった?約束とはそんなに強制力のあるものではなかったはずだ。どういうことだ?
頭の中でぐるぐる考えている間に時間が来てしまった。
「時間ですね。お答えいただき誠にありがとうございました。…お父様、迷惑ですのでそれはなくしていただけませんか?でないと…そうですね。お父様がわたくしに永遠に嘘を言わないことを『約束』してもらいましょうかね?」
それはやめてほしい!
「…分かった!廃止する!」
「そう、それは良かったです。お父様が、わたくしとの約束を破ろうとしたことがあるともわかったので、これからはお父様には注意するようにしておきますわ。」
そう言ってクランはにこりと微笑んだ。
あぁ…そういえばさっきの質問で嘘をつこうとしたことがバレたのか…
娘に脅され、娘の信頼も失った…。
というか…娘に脅された父親…。最低だな。
これからは娘の信頼を取り戻すためにより頑張らないといけないのか。
忙しいなぁ。
思わず現実逃避してしまったのも致し方ないと思う
14.法令発布6
次の日の朝、お父様を見かけて声をかけた。
それにしても、わたくしは学校に行くため休みの時より早く起きているのですけど…それでもお父様の方が起きるのが早いのね。
「お父様。おはようございます。」
「あぁ、クランか。おはよう。」
「ところで、一つ質問があるのですが…」
「なんだ?」
「その前に、嘘をつかないと宣言してください。」
「…それは、約束に入るのか?」
多分、入ってしまうでしょうね。
「分かりませんわ。なんなら『約束』してもらってもいいんですよ?」
「いや、やめておく。」
「でしたら、宣言してください。」
「そうじゃない、クランの質問に答えるのをやめておくんだ。」
「何故ですか?…時間がありません。早く宣言してください。でないと、本当にお父様を信用できないのです。」
早くやってくれないかしら?お父様にはこれが効果的だと思うし、これで大丈夫だと思うけれど…
「__くぅ…そう来たか…__分かった。その質問に対して嘘はつかない。」
あ…助かったわ。さっき言った時に「その質問に対して」と言っていなかったわね。お父様が言ってくれて助かったわ。同時に、いかにお父様が嘘をつこうとしているかも分かったわ…。
思わず呆れてしまう。
「ありがとうございます。では、質問してもよろしいでしょうか?お父様は、法令を廃止…は実際にしたのでしょうが、それはいつ伝わるのでしょうか?」
「…明日だ。」
「遅いですね。公爵なのだからもっと早く伝えることもできるでしょうに。」
絶対お父様は少しでも伝わるのが遅くなるように計らった。でないと、土日から月曜日で一気に広まっていたわけがないでしょう?
「それはすまなかった。ただ、一つ言っておくが、これの元凶は、クランが公爵令嬢に関わらず、人と交流を持っていないのが悪い。そのことは覚えておいてほしい。」
「では、わたくしからも一つ。先ほどは宣言も約束に入りました。会話することでそのようなことが増えるのはわたくしも望んでおりません。」
「ぁ…今度からはそれも考慮する。ただ、昨日みたいに有意義にもっと使ってくれるといいと思う。」
「まぁ!わたくしはお父様を脅したのよ?それを有意義だと言ってしまっていいのかしら?」
「クランの正義感を信用しているからな。」
なるほど。お父様はわたくしが必要ないときにこれを使うとは思っていないのね。逆に、わたくしが必要だと思えば、これを使ってもいい。なんと…素晴らしい保証でしょう!
「ありがとうございます。」
「なぜ、そうなるのかは教えてくれないのだな…」
「もちろんです。すべてを知ることが良いこととは限りませんし、深入りは身を滅ぼしますもの。なにより、そうされるのはわたくしが望んでいません。」
まぁ、そもそもそれも「約束」しているのだけれど。だから、わたくしもそれは破れない。
学校についた。
「「「おはようございます!」」」
「__おはようございます。__」
あぁ…そうでした。今日はまだ取り消しの旨が伝わっていないのでしたね。
「クラン様!」
「何でしょうか?あの法令なら明日にはなくなっていますわよ?」
教室に緊張が走った…ような気がしたわ。
「あんな法令関係ないです!私はクラン様とただ喋りたいだけ…」
「ノア、クラン様が困っているよ。すみません、クラン様。昨日も止められればよかったんですけど。結局は私も話してしまいました。」
「クリーナ、邪魔しないでよ!」
クリーナと言うのね。昨日もわたくしに話しかけているそうですが…一言二言だった気がするわ。マシな部類ね。そして今の態度。今のところ嫌う要素がないわ。
「ノア、あんたがクラン様と無理に話すことでクラン様が困っているのよ。」
「だって…クラン様は昔は私にもよく喋ってくれていたんだもん。」
…え?
「あなた、今、何とおっしゃいました?」
「昔は私ともよく喋っていてくれた…でいいんですか?」
「いつの話かしら?」
「神殿です。」
確か、この子の名前はノアと言った。
…まだ思い出せないわ。しかも、なんだか気分も悪くなってきた。
本で読んだことがある。こういうふうに何かを思い出そうとして、気分が悪くなったのなら、そこにはトラウマか何かがある。それを思い出すと、更に成長できる、と。
「少し救護室に行ってくるわ。先生が来たらそう伝えといてくださる?」
「分かりました!」
良かった。だれもついてこない。
神殿でノアという女の子と喋っていた?わたくしが?神殿では1年過ごした。そういうこともあってもおかしくないかもしれない。けれど、わたくしの記憶は「神々にいたずら」以降が主で、それ以外はぼんやりとしている。確かに、それまでは、ふつうに喋っていたと思うのだけれど…その中に、あんな女の子、いたかしら?あんなふうにわたくしをキラキラ見てくる女の子なんて、いた気がしないわ
気づけば、救護室についていた。
「すみません。気分が悪くて…ベットをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「いいわよ。クラン・ヒマリアね。1年生よね?」
「はい。」
私は、ベットに横になり、あの暮らしを思い出していた。
15.神殿1
すこしグロテスク描写あり
わたくしが11歳になる年のはじめ、わたくしは通例通り神殿に1年間住むことになった。
はじめのころは…
この世界の神々…5柱のことを説明され、お祈りし、自らの手で作業をして過ごした。
どんな内容でしたっけ…
この世界は5柱の神々が暇に飽きて、気まぐれに作った。だから、楽しませるために「神々のいたずら」を起こす…いや、これはわたくしがいたずらをされた時に説明されたこと。あとは…神々のおかげで魔法が使えること。心の神は例外で、魔法ではなく呪いをつくる。
神殿は、神々が気まぐれでつくったこの世界を神々の気まぐれによって壊さないことを祈り、感謝を伝えるために存在する。
神殿で育てている作物は神々に供えられ、神々が気まぐれで作った聖女を守る。
それくらいだったかしら?
そういえば…わたくしは自らの手で作業することは嫌いだったわね。
なぜでしたっけ?
確か…汚れるのが嫌いで、神々が嫌いで、そのためにしなければならないことも嫌いだったのでしょう。
神々が嫌いなのは今もだけど、汚れるのが嫌いなのはくだらなかったわ。もう少しマシな理由もあったでしょうに、なぜかこれを他の人に言っていたのよね。
他のことは、あんまり覚えていない。
これも「神々のいたずら」のせいなのか、はたまたわたくしが覚えていないだけなのかは分からない。
仲がいい子…そんなのいたかしら?
確か、神殿で一緒に過ごしていた子たちとは関わっていない気がするのよね。
でしたら、神殿で一緒に住んでいるわけではない子かしら?
神殿では…森に行くとき、孤児を保護するとき、など、外に出かける機会はあった。そこで出会ったのかしら?
あの様子だと、何回もあったことがありそう…孤児?
あぁ…思い出してしまったわ…。
孤児とは何回も喋ったことがあったはずよ。
公爵令嬢として、不自由のない暮らしをしていたからかしら?彼らのことが気になり、孤児院には何回も遊びに行った。
…けれど、彼女はきっといなかった。あんな純粋な少女は、いなかった…はず。まだ思い出せてないからかもしれないけれど。
「クラン様、今日も一緒に遊ぶ?」
「いいわよ。何をしたい?」
「私はね、鬼ごっこ!」
問いかけると、また別の子が答えてくれる。
「じゃあわたくしが鬼になるわ。10,9,8…」
あぁ、大人げないこと。孤児にまでわたくしと言い、クラン《《様》》と敬称をつけさせている。
孤児に…彼らとわたくしは、少なくともあの時は、対等だったはずなのに…
そう、ある日、大人が孤児院を襲ってきた。
「孤児にお金を使うな!」
「そうだそうだ!」
「俺達が稼いだお金が入っているんだぞ!」
「どうして…?」
「なんだこの女。こいつも孤児か?」
「あなた達が親に無償で育てられているのと一緒じゃない!なぜ、彼らだけが救われないの!?」
無我夢中で叫んだのだと思う。
けれど、大人たちは襲撃をやめなかった。
「孤児を殺せ!」
「神殿に無駄なお金を使わせるな!」
「どうして!ここは神殿よ!神々が見ておられるわ!その面前で神殿の行いを…神々へのお礼を…否定するの!?神々への冒涜じゃないの!?」
もう、何もかも無我夢中だった。
大人たちは、一瞬勢いが弱まったように見えた。安心した。
「けっ、神々などいるわけねーだろ。」
「あんなもん、神殿が金稼ぎのために言っている戯言だ。」
「あんなもん信じるな。」
どうして…どうして…!
神殿は、不思議な場所だった。神々の存在を証明してくれた場所だった。
なのに…!なぜあの大人たちは、信じないのよ!信じれないのよ!
「それはね、彼らには余裕がないからよ。」
巫女さんが教えてくれたわ。
「そっか、わたくしたち貴族とは、やはり違うのですね…。」
「あなたは貴族。しくみを変えることができる者。もし、将来、この経験を悔やむことがあったら、民に余裕がある政治を行いなさい。」
「そっか…ありがとうございます、頑張りますね。」
何で、忘れていたんだろう。
彼らは…孤児たちは、あの後、
「やめなさい!」
「うるせえなぁ。」
その一言に、我を忘れてしまった。
「風!」
暴れた。大人たちの皮膚を、切った。
人殺しは…怖い。だから、表面を何回も切った。
あたりには…血が散らばった…。
「ごめんなさい…。」
「いいのよ。クランはみんなを助けるために立ち上がったのよね。片付けもクランがやってくれた。それなのに、なぜ、謝るの?」
「だって…みんなを…助けられなかったわ!」
「クランが何もしなかったらみんな助からなかった。十分よ。」
「もっと早く自分が力を使っていれば良かった!そしたらみんな…!」
「クラン、もう気にするのはやめなさい。」
「無理よ!」
「ここは神殿、懺悔する気持ちがあるなら、神々に祈りなさい。」
目の前が明るくなった気がした。
さてと、少しずつ過去を解明していきます。
ファンレター、ぜひぜひ下さい!
17.神殿3
祈祷室に行ったわ。一生懸命、彼女たちが救われるように祈った。自分の罪が軽くなるように祈った。
あぁ…わたくしは彼女たちを救えなかった。彼女たちとともにありながら、彼女を救えなかった。
そして、人を傷つけた。人を殺す覚悟が…わたくしにはなかった。だから、被害も増えた。そうやって、被害を増やしてしまった自分が、憎い。
どうか、救えなかった彼女たちに救いあれ。
わたくしの罪を軽くしてほしい。許してほしい。
そう願い、気付いたら、寝ていた。
そして、知らないところにいた。
目の前に男の子がいた。
「大丈夫?」
「ここは…どこかしら?」
「ここは、僕達の楽園だよ。ようこそ。クラン・ヒマリア。歓迎するよ。」
「なぜ、名前を知っているの?」
「僕がここに君を呼んだから。君のことは把握しているよ。」
どういうことでしょう?
「あなたは、誰?」
「僕は…なんて呼ばれてもいいよ。」
「他の人には何て呼ばれているのかしら?」
「そうだね。心、って呼ばれているよ。」
「そう、心ね!よろしく。歓迎してくれてありがとうございます。」
心、心の神。呪いを司る神。
わたくしは、それにまだ気づいていなかった。
「一緒に遊ぼうよ!」
「いいわね!何をしましょう?」
「そうだなぁ、鬼ごっことか?」
あぁ…孤児たちと一緒だ。
「いいわよ。じゃあはじめはわたくしが鬼になるわ!10,9,8…」
心はどこかに消えていた。
かくれんぼではない。鬼ごっこだ。さっきまで、心の方をずっと見ていた。
それが、一瞬にして消えた。
「やってやろうじゃないの。かくれんぼも入れてくるなんて…!」
あちこち走り回った。
食べ物は、神殿の生活に慣れたのか、気になっているものを食べた。
…これ、よく怒られなかったわね。かってに人の楽園のものを食べたというのに。
川も、滝も、崖も、山も、森も、いろんな物があった。
飽きなかった。だから、眠くはならなかった。ずっと探した。
孤児たちなら…木の上、水の中、穴の中、いろんなところに隠れる。わたくしが見つけられなかったこともざらだ。
だから、心のこともまだ探せていないところがあるはず。
4日目。
ふと、違和感を感じた。影に。
しゃがんで触ってみる。何も以上なんてあるわけが…ない…わよね。
「触られちゃった。」
心が影から出てきた。
「どういうことなの?心。しかもあなのお友達も見つからなかったのよ」
訴えたわ。
「自己紹介をもう一度するね。僕は心、神の一柱だ。」
「えぇぇ!」
驚いたわ。
「気づかなかったの?」
「えぇ。」
「そうなんだ。」
「ねぇ心、鬼ごっこがまだ続いている中悪いんだけど、寝てもいいかしら。」
「いいよ。クランは寝ないで探してくれたんだもん。鬼ごっこも一旦終わろうか。」
「ありがとう…」
気づけばさっきまで起きていられたのが嘘のように眠くなっていた。そして、眠りに落ちた。
「おやすみ。」
そう言った心は、独り言を呟く。
「寝ないで探してくれたのは、探すことを諦めなかったのは、君が初めてだよ。僕を…最期まで探してくれて…見つけてくれてありがとう。」
そう言った心の顔は晴れやかだった。
「あなたには…そうだなぁ、祝福になるものをあげよう。最終日が、楽しみだ。」
そう言って、彼もクラン・ヒマリアの横で眠った。
5日目。
目が覚めた。昼に寝たのに、今も昼だった。
わたくしったら、24時間も寝ていたのかしら…?恥ずかしいわ。
そう言って隣を見ると、心がいた。
こうしてじっくりと見ると、可愛らしい顔をしている。
「楽園に呼んでくれて、ありがとう。おかげで、あなたを探している間は、あのことを忘れられた。」
そう囁いた。
心が起きた。
心とは、色んな話をした。楽しい話、怖い話。
心は、神様として見てきたいろんな人の生涯を教えてくれた。
神殿を守り抜いた男。実力に囚われすぎて破滅した男。みんなを救った女。
いろんな話があり、楽しかった。
7日目。
今日が、心いわくお別れの日だそう。
最後に、餞別をもらった。
わたくしへの餞別は、「約束」の呪い。
「呪いが餞別なの?」
「そう、それがここの決まり。今までの人はみんな僕を探すのを諦めちゃったからあんまりいい呪いをあげてはないけど…クランは特別。僕を見つけてくれた。だから『約束』。これは、約束したことは絶対に守れる呪い。ねえ、約束しよう。ここでのことは絶対にしゃべらないって。」
「約束したらどうなるの?」
「絶対にここでのことを言えなくなる。ここの事自体は言えるけど…内容は言えないから言わない方がいいと思うよ。」
「ならいいわ。『約束』しましょう。あなたもいえなくなるの?」
「僕は…別枠だよ。ありがとう、クラン。」
「楽しかったわ。」
「最後にもう一つ餞別を考えてきたんだけど…」
心が言いにくそうに言った。
「何かしら?」
「クラン…この前、嫌なことがあったでしょう?それの記憶をなくしてあげようかな…って」
「いらないわ!」
「…どうして?」
いけない、強くいい過ぎでしまった。
「あの子達のことは忘れたらいけないのよ、きっと。」
「そっか、けどそのままで戻っても嫌な思いをするだけだよ?」
図星だった。
「だったらどうなの?」
「クランが忘れたい時に忘れ、思い出したい時に思い出せるようにする。」
「…!そんな事ができるの?」
「そうだよ。神様だもん。」
「お願いしてもいいかしら?」
「うん」
そうして、私は神殿の自室に戻ったのだった。
夢の伏線回収完了!
16.神殿2
グロテスク描写あり
私は神殿の巫女。フルーエ。
「孤児院が襲撃を受けた!急ぎ連絡を!」
そう言われて私は迷わず孤児院に向かった。その先で見たのは…
神殿が預かっている女の子の一人であり公爵令嬢でもあるクラン・ヒマリアが、立ち向かっている様子だった。
「孤児にお金を使うな!」
「そうだそうだ!」
「俺達が稼いだお金が入っているんだぞ!」
`「どうして…?」`
「なんだこの女。こいつも孤児か?」
`「あなた達が親に無償で育てられているのと一緒じゃない!なぜ、彼らだけが救われないの!?」`
「孤児を殺せ!」
「神殿に無駄なお金を使わせるな!」
`「どうして!ここは神殿よ!神々が見ておられるわ!その面前で神殿の行いを…神々へのお礼を…否定するの!?神々への冒涜じゃないの!?」`
「けっ、神々などいるわけねーだろ。」
「あんなもん、神殿が金稼ぎのために言っている戯言だ。」
「あんなもん信じるな。」
`「やめなさい!」`
「うるせえなぁ。」
彼女がしていた反論は、大人とも渡り合えるほどだった。
そして、神殿の巫女、神官、私たちが思っていることと同じことを言ってくれた。
そして…
`「風!」`
魔術を使ってくれた。
私たち神殿しか今まで救ってこなかった孤児たちに、彼女が力を使ってくれた。
大人の皮膚を切り、血があたりに散らばる。
けれど、彼女は殺しはしなかった。
大人が戦意を喪失させたと見ると、あたりを一瞬で浄化してくれた。
それが、私には眩しかった。
私にはあんな力はない。
だから、孤児たちを救えた彼女が羨ましかった。
死者、3名。被害がたったの1割で済んだことに、感謝すべきだった。
神殿は、無力だ。
孤児院は、義務でやっているだけ。
誰も、救おうとはしなかった。
唯一、孤児たちを救ってくれたのは、神殿の者ではない。ましてや孤児でもない。ただ、一緒に過ごしていた少女だった。
「ごめんなさい…。」
あぁ、彼女にもこんな面があったのね。
「いいのよ。クランはみんなを助けるために立ち上がったのよね。片付けもクランがやってくれた。それなのに、なぜ、謝るの?」
「だって…みんなを…助けられなかったわ!」
分かってる。
「クランが何もしなかったらみんな助からなかった。十分よ。」
「もっと早く自分が力を使っていれば良かった!そしたらみんな…!」
分かってる。
「クラン、もう気にするのはやめなさい。」
「無理よ!」
分かってる。
「ここは神殿、懺悔する気持ちがあるなら、神々に祈りなさい。」
彼女が全員を救えなかったと悔やむ気持ちが本当によく分かる。
あぁ、五柱の神々よ。
孤児たち救ってくれた彼女を救えなかった私を、孤児を救うことすらできなかった私を、許してください。
3人。私がはたから見るだけではなく、ちゃんと参加していたら…救えたのだろうか…?
どうか、シイ、ナユ、ケミに救いがあらんことを。
生まれてから今までを、孤児として過ごすことになり、最期は孤児だったせいで死んでしまった。孤児だったせいで一人以外から救いを差し伸べられなかった。
私も、救えなかった。
無力だ。
祈祷室を見に行った。きっと、クラン・ヒマリアがいるだろう。
「え?」
いなかった。他の部屋に行った?自分の部屋にいるの?頭が混乱する。
あちこち探し回った。
…どこにも、いなかった。
私は、この現象を知っていた。
「神々のいたずら」、神隠し。いろんな呼ばれ方がある。神殿が採用しているのは、「神々のいたずら」。
実際に、彼らは神々に会って帰ってくる。
その身に呪いを受けて。
駄目よ。クラン・ヒマリアは、「神々のいたずら」にあったと知られてほしくない。
それを知られては、あの子が、心優しいクラン・ヒマリアが、神殿にいいように使われてしまう。
私は、虚偽の報告をした。
「クラン・ヒマリアは、子どもたちを助けたあと、子どもたちを救えなかったことを悔やみ、出ていってしまいました。彼女は、必ず戻ると言っていました。心配することはありません。彼女は、強い。たとえ、一人であろうと無事に帰ってこれるでしょう。」
「それで帰ってこなかったらどうするのだ!?」
「出ていったのは彼女。しかし、それを止められなかったのは私です。私が全責任を負いましょう。」
「覚悟はちゃんとある、と。」
「はい、もちろんです。代わりと言ってはなんですが、一応は危険にさらしてしまったので…無事に帰ってきたのなら公爵家への報告をやめてほしいです。」
「それは我らも一緒だ。よい、では、万が一の際の全責任はそなたが負うとして、公爵家には内密にしよう。」
「ありがとうございます!」
これで、純粋なあの子は守られる。
まあ全然進んでいないですね。お気になさらず。
これからもこのシリーズをよろしくお願いします。
ファンレターありがとうございました!励みになります!
18.神殿4
「クラン!帰ってきたのね!」
巫女のフルーエが出迎えてくれた。
「ここ…わたくしの部屋よね?」
「そうよ。クランが『神々のいたずら』にあっちゃうものだから、1週間後の今日、ここでずっと待っていたの。」
「『神々のいたずら』?」
「そう、あなた、神々の楽園に行ってきたでしょう?」
「そうよ。」
「それを私たちは『神々のいたずら』と呼んでいるの。」
そうなのね。そういえば、1週間もあちらにいたんだもの。普通なら大事態だわ。
「どんな人がそれに遭うの?」
「優秀な人よ。」
「優秀?」
「そう、この前のあなたは、とても優秀だった。私は近くで見てたのに何も手を出せなかったもの。だから…あなたが羨ましかった。そんなふうに、役に立ったのだからそれはもう、優秀と神々に思われても仕方がないと思うわ。」
フルーエがわたくしを羨ましいと思った…
「クラン、呪いは何だった?」
「言えないわ。」
「そっか…普通はそうよね。じゃあいいわ。こっちであったことを説明するね。」
教えてもらったことはこんなことよ。
・孤児院を襲撃した人たちは皆無事に捕まった。
・わたくしはいたずらではなく、自分で一旦出ていったことになっている。
・公爵家には伝えていない。
「なぜ伝えなかったの?」
「ごめんね。クランは孤児のためにも頑張れる優しい女の子だから…いたずらに遭ったのがバレて、いいように使われるのを見たくなかったのよ。」
そこからはすこしショックのある話だった。
いたずらは神殿にいる時に起こりやすい。だから、いたずらはたいてい発覚する。そして、神殿は優秀な人材を見つけられる。そして、将来のその子を神殿に取り込んでいく…
「だから、クランがいたずらに遭ったっていうのがバレてほしくないの。」
フルーエが、わたくしのことを考えてやってくれたのが嬉しくて…頷いた。口裏を合わせることにした。
「ねえ、フルーエ。わたくし、孤児たちとの記憶を一旦消そうと思うの。今、話せることを話しましょう?」
「どうして…あぁ、そういうことね。いいわよ。」
神のお陰だと察してくれたみたい。
「彼らを、救えなかった。」
「私は、手を出すこともできなかった。」
「人を傷つける覚悟がなかった。」
「実力がなかった。」
ひたすらフルーエと懺悔し合い、孤児たちとの思い出を語り合い。日暮れ近くまで経っていた。そして、忘れたい、そう願った。
「クラン・ヒマリア。ただ今戻りましたわ。お騒がせさせてしまい、申し訳ありません。」
神官長に挨拶をしにいった。
「いや、無事に帰ってきたのならいい。それよりも、そなたは襲撃から孤児を守ってくれたのだな。」
「はい。」
「ありがとう。」
「え?」
神官長が、ありがとう?誰も手伝いにこなかったのに!?
「光栄です。」
「孤児は、孤独だ。」
「はい。」
「そなたが、孤児の心の支えとなってくれて、救ってくれて、本当に嬉しかった。今回のことは、こちらの非が大きい。これからは、これを改善していこうと思う。」
そうか…これからは神官長がやってくれるんだ…安心だ。
安心?何に対して?わたくしは、何を今思ったのだろう?
「その瞳…すべてを吹っ切った目だ。ときにはそういうことも必要だ。よい、必要な時に、彼らのことを思い出してやれ。」
彼らって誰?神官長は何のことを言っているのかしら?
どんどん頭が混乱してくる。
「いや、すまない。いまのは忘れてくれ。」
「はい。」
言われなくても…あんなよく分からないもの、覚えていれるわけがないわ。
「これからは、そなたの神殿からの外出を、制限する。代わりに、習いたいものがあったら、言うが良い。教えてやろう。」
「口を挟むことをお許しください。先ほど、彼女は剣も魔術も強くなりたいと申しておりました。そのこともぜひ頭の中に入れておいてください。」
「良かろう。」
フルーエは一体何の会話をしているの?わたくしが剣も魔術も強くなりたい。などと、いつ言ったのでしょう?
しかし、思い当たるフシはなかったが、心が、確かに習いたいと言っているような気がした。
「よろしくお願いします。」
「いい顔じゃ。その決意を忘れるでない。」
神殿での生活は、わたくしだけ変わった。
剣術も魔術も習い、暇なときにはいろんなことを教えてもらった。
そして、あっという間に神殿からでる日が来た。
「今まで、本当にありがとうございました!」
感謝のこととともに、わたくしは神殿を去った。
また、神殿に寄ることを誓って。
ここまでが神殿の思い出です。如何でしたでしょうか?
面白いと思っていただければ幸いです。
19.法令発布7
思い出したわ。神殿で、わたくしが忘れたいと願った出来事を。
それは、トラウマだった。それは、心との思い出だった。それは、懐かしい友達だった孤児たちだった。
思い出せて良かったわ。
心にも感謝ね。あの子のお陰で今までわたくしは過去にとらわれずに生きていけた。
そして、腑に落ちた。だから、わたくしは剣も魔術も磨いたのね。
忘れたいと思った気持ちは分かる。だけど、もうこれは二度と忘れさせない。これが、忘れてはいてもわたくしを作ってくれていた。ならば、生かさないと。
今は、きっと人も殺せる。その覚悟は付いた。
剣も魔術も磨いた。あの頃のような過ちはもうしないわ。
けれど…あの子は、ノアという子はどこにもいない。
もう、あの子のことは考えるのをやめましょう。
「あのー、クラン様?」
ノアがいた。
「何でしょう?」
「私のせいですよね?気分が悪くなったのは…すみませんでした!」
「いえ、そこはいいのよ。それよりも、あなた、なぜわたくしの神殿のときを知っているの?」
「私は、孤児だったんです。」
「わたくしが知っている孤児にあなたはいなかった。」
「私は、孤児でしたが、孤児院にいくのは怖かった。だから、孤児院の様子をずっと見ていたんです。バレないように。だから、クラン様を知っています。あの頃の明るかったクラン様を。」
まあ、あの頃が明るいだなんて。確かに今と比べたらはるかに楽しい毎日を送っていたかもしれないけれど…そこまで言われるほどではないと思うわ。
「つまり、わたくしたちに面識はなかったのね?」
「そうです。ただ!クラン様はもっと明るかった。それだけを伝えたかったんです。」
良かった。さっき思い出したものの中にさらに思い出せていないものがあるなどと思って、さらに混乱してしまうところだったわ。
「今は…まだ朝?」
あれからまだそんなに時間が経っていないのね。
さっきの記憶。あれは1年分だったというのに。結局、あれの鍵は…孤児だったのかしら。
「そうですよ。もうすぐで授業が始まります。今からだったらそこまで話しかけられはさないと思いますが…体調は大丈夫ですか?」
「えぇ。もう元気よ。」
「(元気になってくれて)良かった…」
安心されてしまった。別にわたくしの気分が悪くなったのはあなたのせいではないのだから、心配しなくともよいというのに。
「わたくしは実験室に行きます。あなたも早く行きなさい。」
「あ、はい。ちゃんと行きます。」
「では、今日は簡単な治療薬を作ります。明日は課外授業なので、必要ならば、持っていっても構いません。」
なるほど…よく考えられているわね。これは暗に明日持っていけ、と言っているわ。そういうふうに実際に使わせようとするところが学園のいいところね。
「材料は…」
あぁ、かなり簡単なやつだわ。これなら作ったことがある。余裕ね。
「クラン・ヒマリア」
あぁ…また…。呼び捨ての件はもう諦めました…。
一応学園は身分関係なしを謳っているので、そういうことにしておきましょう。
「何でしょうか?お父様のアレなら明日には消えていますが…」
「__それは残念だけど…__それはどうでもいいの。お手本を見せてくれない?」
「なぜわたくしに?」
「クランさんがこの前活躍したとお聞きし、今までの魔法薬のやつを見たらどれも本当に平均値でしたの。」
それをここで言わないでくださらないかしら?
わざと手を抜いていたのがバレたのね。
「分かりました。普通に作ればいいのですね?」
「理解してくれて嬉しいわぁ。」
これは脅しに入るわよね?
「しかし、今度からはそれは脅しとみなしてもよろしいでしょうか?」
親切にも皆には聞こえないようにしてあげた。
「もちろん違うわよ?」
「どこがですか?生徒の個人情報をバラすなど、先生としても問題がありますよね?」
「聡い子はこれだから嫌いよ。分かった。これから、あなたが手を抜かないのなら、当てないわ。」
それはそれであてられそうで怖いわね。
「はぁ…そもそも手を抜いているのはわたくしの勝手。それを…」
「公爵令嬢なのだからしっかりしなさい。いいじゃない、普通に過ごすだけで、一回もこれから当てられずに済むのよ?」
面倒くさいわ、この先生。一旦ここで引いておきましょう。
「分かりました。」
「あらぁ、ありがとう。さて、材料をクランさんのように…」
「うん、いい治療薬が作れたわね。これからもその調子でよろしくね?」
はぁ…最悪だわ。
朝は、過去を思い出し疲れ、授業では、当てられて疲れる。
もうずっとも疲れっぱなしということになるじゃないの!
いったん落ち着いた…と見せかけて、次は校外学習について書きます。
お読みいただきありがとうございました!
20.課外授業1
さっきの先生からか、クラスメイトからか、もう噂が回ってくれたのだろう。次からの授業では、先生たちにはいつも通り、当てられずに済んだ。誰だか知らないけれど、噂を回してくれた人に感謝するわ。
そして、放課後。
わたくしは、教室から出ると、リルトーニア林の学園から一番近いところに向かった。下見だ。
わたくしは、別に明日の課外授業を楽しみにしているわけではない。
ただ、この前、あの先生の言い分を認めるのなら、神々のせいとなるけども、一般的には危険と呼ばれている目に合いかけたのよね。
リルトーニア林は、一般的には強いと言われている魔物も多くいる。だから、危険なものに逢うかもしれない。けれど、あのクラスにそこまで強そうな人はいなかったような気がするのよね。だから、下見に来てみた。
この前、わたくしが行ったときは強めの魔物に多くあっていたのかもしれない…考えてみれば、という感じだけれども。
剣も準備した。危険なものがいたらすぐに排除できるはずだわ。
「やぁ、クラン・ヒマリア。」
「誰ですか?」
「あぁ、そうだったね。俺が一方的に知っているだけだった」
最近、一歩的に知られているのが多いわね。どうしてか不愉快に感じるわ。
「俺はここくんの友達。土と呼ばれている。」
「ここくん?」
「心だよ。俺はそう呼んでるんだ。」
あぁ…神様なのね。
「あなた達って地上に降りれるの?」
「俺は降りれるぞ。」
「そう、それで何の用かしら?そういえば、先生が予想していたけれど、ドラゴンはあなたが寄越したの?」
確かに土の神は生と死を司ったりもするくらい、生き物にも関わってくる。別に関わっていてもおかしくないように思えるわ。
「そうだ。」
「ありがとう。」
「え?」
何を驚いているのかしら?ドラゴンなんて貴重なものを贈ってくれて感謝しないわけがないじゃない!
「お陰で貴重な素材が手に入ったわ。」
「あれ?俺は喜ばれるためにあれを贈ったわけではないのだが…まあ喜んでくれたのならそれでいい。今度、また強いのも贈ってやる。」
「いいの!?」
「なぜ、そこで喜ぶんだ?」
「だって…飽きてたんだもの。み~んな一撃で死んじゃってつまらない。」
「そうか…どうしようか…贈るのやめようかな…」
「え!?」
ちょっと!?そんな悲しいことしないでほしいわ!
神だからって自由すぎるし酷いわよ!
「うん、贈るのはやめよう。贈ってしまう動物に申し訳ない。」
「…神々って無慈悲だと思っていたけれど、申し訳ないとかは感じるのね。」
「当たり前だろう!」
「なんか安心したわ!」
ふふふ…と笑うことはできず、あっはっは、と口を大きく開けて笑ってしまった。
「ごめんなさい。この笑い方は見逃して。」
「別に俺は貴族ではない。気にするな。それに…これのほうが楽しい。暇つぶしになる。」
「暇つぶし…神々は本当に暇つぶしでこの世界を作ったのね!」
また笑ってしまった。
「あ、土。」
「なんだい、俺を呼び捨てにする失礼な人間。」
「あら、ごめんなさい。明日、多分この森に来るんだけど、そのときは何も贈り物をしないでね。」
「それ、俺達の性格を知ったうえで言っているのか?」
「あぁ…そうだったわね。…けど!わたくしには心からの呪いがある。だから『約束』してくれれば大丈夫よ。」
「するわけ無いじゃんか。」
「えぇ…じゃあちょっかい出すなら今にしてくれる?」
「ヤダ。」
あら、これは「約束」かしら?
「あ、今というのは今から24時間以内のことね。約束してくれてありがとう。」
これで土は明日のこの時間までちょっかいをかけてこないことが確定したわ。安心して挑めるわね。
「この俺を…引っ掛けるとはいい度胸だな。」
「ふふっ。褒め言葉として受け取っておきますわ。」
「また会いに来るね。」
あら?あらら?
「あなた神じゃないの!?そんな簡単に人間に接触して言い訳がないでしょう!?神聖さも糞もないわよ!」
「いやぁ、もともと俺達には神聖さなんてないからな。」
「あら…そうなのね。かわいそう。」
「ちょっと!?なぜ俺が憐れみを向けられているんだ!?」
「ではまた、土の神。お気をつけて。」
土の神は、帰るとき、
「クラン・ヒマリア。君のことが気に入った。」
そう、呟いたのは、神々しか知らない。
疲れた…。
さぁ、さっそと討伐して帰りましょう。
まったく、土の神め。あなたのせいで時間を結構使ってしまったじゃないの。
急いで討伐にかかる。
強めの動物は…一体いた。まぁこれも一撃なんだけれど。
これが明日出ていたらわたくしまで仕事が回ってくるところでしたわ。
「クラン様!」
「ノア!?なぜあなたがここにいるの!?一応危険な森なのよ、ここは。」
なぜかノアがいた。神出鬼没な子ね。
「皆のために、先に安全を作っておくとは…流石です!」
あら、処世術を見られてしまったわね。そして、何か勘違いされているわ。
「わたくしは明日わたくしが動かなくてもいいようにやっているだけよ、それに、本当にみんなのことを思うのなら、魔物は残しておくべきよ。」
説得出来た…はずよね?
さすがにそこまで物わかりは悪くはないだろうと思い、ノアは置いて、帰ることにした。
いかがでしょうかねーちょっとは意外に感じていただければ嬉しいです。
21.課外授業2
あら?そういえば、土の神と話しているところも見られてしまったかしら?それは危険ね。気軽に動きすぎたわ。これからはもう少し周りにも気を配っていかないと。
そう気づいたのは、もう夜遅くだった。
懐かしい場所を歩いていた。花がいっぱい咲いている。
楽園だわ。5人の人がいる。
間にあるのは…池かしら?
みんなでそこを覗いて、みんなで笑っている。
ーきっと、人間を観察しているんでしょうね。
そう思って納得した。
場面は変わり、わたくしは心と喋っていた。
何の話かは分からない。
わたくしも、心も笑っていた。
目が覚めた。
また、懐かしい夢を見た気がする。この感覚にももう慣れてきた。今まで一体何回同じ夢を見ているんでしょう?
「さぁ、今日は課外授業よ。何もしなくても終わる日よ!頑張りましょう!」
メイドが来る前に着替えて、だけれど文句を言われてしまうから髪の毛は任せる。それが、わたくしとメイドのお決まりのやり取りとなっていた。
「動きやすいものでお願いね。」
「かしこまりました。」
何も出てこない何も出てこない。そう祈って…
「さぁ、着いたぞ。グループで行動すること。これと、先生から見えることろ、これが条件だ。けっして先生が見えるところ、ではない。」
何の違いがあるのでしょう?
「グループとは、いつ決められたのでしょうか?」
「今からだ。最低5人、最高10人。好きなやつと組め。」
あぁ…せっかく今日から法令が廃止されたというのに…また人とかかわらなければならないのですか…悟りを開きたい気分だわ。最悪よ。
「クラン様、ぜひ私と!」1
「わたくしもご一緒させて下さい!」2
「私も連れて行ってくれませんか?」3
はじめに声をかけてきたのがたしかシリル・カーソン。それ以外の名前は…まだ聞いたことがないわね。
「わたくし、攻撃をする予定は作っていないのですが、それでもいいのですか?」
「ぜひ!」2
「だったら私も入れて下さい!」
ノアがやってきた。となると…
「申し訳ないのですが、私もいれてもらいたいですね。」
クリーナもやってきた。
「まあ、仕方ないといえば仕方ありません。入ることを許しましょう。」
順調だった。順調だったと思う。昼食も食べた。
その時だ…
ラーネカウティスクがやってきた。
ラーネカウティスクはリルトーニア林の固有種。弱いドラゴンには匹敵する強さの持ち主。しかし…こんなに森の入り口の方では目撃されたことはなかったはずだ。別名、深奥の黒い嵐。水に強く、火に弱い。しかし、火は火力が必要とされる。想定討伐人数、200人。
あの土の神め、何かやったのでしょうか?
しかし、呪いの効果はきっと神々にも…あぁ…。ないかもしれない。
そう思い、絶望感に浸った。
わたくしは心と約束した。その時に心は言っていた。僕は別枠だと。
なんて愚かだったんでしょう。神にも呪いは効くと勘違いして慢心して、安心していた。そんなわたくしは、さぞ神々の暇つぶしになったことでしょう。
悔しいわ。
ラーネカウティスクは木を貫通する勢いを持った水を飛ばしている。
「火」
取り敢えずラーネカウティスクの口元に火を浮かべ、水を蒸発…はせず勢いを殺すだけになった。
「さがりなさい。」
「クラン様。まさか一人で…?」
「当たり前じゃない。あなた達は弱いわ。あれを相手にできるわけがないじゃない。わたくしなら…さすがにこのレベルは一瞬とは言えないけれど、すぐ戦いを終えることができる。ならばわたくしが行くべきでしょう。」
あなた達は邪魔よ、そう伝わるように言った。
「火」
魔術は非常に便利なものよ。神殿で、その最前線の情報を仕入れている神官長に教わったんだもの。きっと攻撃は通じるでしょう。
すこし、安直に考えていたかもしれない。回復力が、強かった。
「解除。火、風。」
純粋な火だけでは火力が足りなかったのだろう。風を入れたらそれまでの劣勢が一瞬にしてなくなった。まだ、焼けるまでには時間がかかりそうね。
「まあこんなものでしょう。」
やはり推定人数は的を突いているわね。この前の100人よりかは今回の200人のほうが手間がかかった。しかも時間がかかる。水に強い魔物とは本当に厄介なものね。
「大丈夫か!?」
先生がやってきた。
「えぇ。」
「ラーネカウティスクが出たんじゃないのか!?」
「えぇ、出ましたよ。燃えているあれですね。」
「ラーネカウティスクが、燃えている!?」
「はい。」
「誰だ!…ってクラン・ヒマリア以外にこんなことができる人がいるわけないな。」
あら、正解されてしまったわ。授業では本気を見せていないのに、なぜバレてしまったのでしょう?
「まあ無事だったのなら問題ない。後片付けをしたら戻ってくるように。」
「分かりました。」
先生が行ったのを見届ける。
「解除、そして水」
一瞬で火が消える。
どうやらノアのお陰で火は燃え広がらずに済んだみたいね。
「ノア、ありがとう。」
もう帰りましょう。
感想くれるとことりはとっても喜びます。
これからもこのシリーズをよろしくお願いします!
22.課外授業3
ノア視点
放課後、クラン様が、一人で出かけていくのを見た。
何をしているんだろう?と興味を持ったので、ついて行ってみた。
クラン様は、リルトーニア林に行っていた。明日の校外学習で行くところだ。
バレないかな?おそるおそる覗いてみると、突然男の子が出てきた。
クラン様も最初は警戒していたようだが、その後は口を開けて笑うなどと、とても楽しそうだった。
気づけば、その男の子は一瞬のうちに消えていた。そういう仕組みなんだろう?
いいなぁ。私もあんなふうにクラン様と喋りたい。
その後、クラン様は魔物をどんどん討伐していた。
「クラン様!」
すごいなぁ。その気持ちのせいでつい、話しかけてしまった。
「ノア!?なぜあなたがここにいるの!?一応危険な森なのよ、ここは。」
名前を覚えててくれたんだ!無性に嬉しくなった。
「皆のために、先に安全を作っておくとは…流石です!」
「わたくしは明日わたくしが動かなくてもいいようにやっているだけよ、それに、本当にみんなのことを思うのなら、魔物は残しておくべきよ。」
それでもみんなを守ることにつながっているはず。だから、クラン様は尊敬できる。
翌朝。リルトーニア森に到着。
「さぁ、着いたぞ。グループで行動すること。それと、先生からみえることろ、これが条件だ。けっして先生が見えるところ、ではない。」
「グループとは、いつ決められたのでしょうか?」
「今からだ。最低5人、最高10人。好きなやつと組め。」
選べるの!ならクラン様と!
「クリーナ、クラン様と組みたいんだけど、いい?」
「やっぱりか…いいよ。」
「さすが!大好き!」
「クラン様、ぜひ私と!」1
「わたくしもご一緒させて下さい!」2
「私も連れて行ってくれませんか?」3
「わたくし、攻撃をする予定は作っていないのですが、それでもいいのですか?」
「ぜひ!」2
クラン様はもう誘われていた。急がないと。
「だったら私も入れて下さい!」
「申し訳ないのですが、私もいれてもらいたいですね。」
「まあ、仕方ないといえば仕方ありません。入ることを許しましょう。」
やった!
順調だった。クラン様が何もしなくてもはじめに声をかけていた貴族3人が倒してくれる。私も…正直あんまり役には立っていない。
昼食を食べ、しばらくしたとき。
黒く大きい魔物がやってきた。
「あれは何の魔物?」
「ラーネカウティスクだよ。別名深奥の黒い嵐。」3
あ!それなら聞いたことがある!
たしか…推定討伐人数200人。
「火」
そう言って、クラン様は攻撃を弱めてくれた。
「さがりなさい。」
「クラン様。まさか一人で…?」
クリーナが進言するも、一蹴される。
「当たり前じゃない。あなた達は弱いわ。あれを相手にできるわけがないじゃない。わたくしなら…さすがにこのレベルは一瞬とは言えないけれど、すぐ戦いを終えることができる。ならばわたくしが行くべきでしょう。」
あなた達は邪魔よ、そう言われた気がした。
クラン様には嫌われたくない。だから下がった。
「火」
一瞬で魔物に火がついた。確か水に強い魔物だったはず。だから火はより勢いがついてなければならない。私から見ると、十分に勢いはあった…気がした。
だけど、足りなかったのだろう。
魔物は焼かれながらも回復し、今もなお暴れている。火のおかげか攻撃は飛んでこない。けれど、魔物を直接燃やしているから、木々に火が少し移っている。…人に危害が出るよりはいいんだけど。
せめて私ができることとして、消火活動に勤しむことにした。
「水」
私の一番得意な属性。魔物を攻撃している火を邪魔しないように、丁寧に消していく。
「解除。火、風。」
クラン様を見て驚いた。2つの属性を併用している。
そして、魔物はより暴れ狂っている。
そんなものも数分たてば収まり、あとは燃えるのを待つのみになった。
「まあこんなものでしょう。」
こんなもの…って…十分すごいんですけど…
「大丈夫か!?」
先生がやってきた。
「えぇ。」
「ラーネカウティスクが出たんじゃないのか!?」
「えぇ、出ましたよ。燃えているあれですね。」
「ラーネカウティスクが、燃えている!?」
「はい。」
「誰だ!…ってクラン・ヒマリア以外にこんなことができる人がいるわけないな。」
そのとおりです!
「まあ無事だったのなら問題ない。後片付けをしたら戻ってくるように。」
「分かりました。」
「解除、そして水」
一瞬で火が消えた。
え?もう火消して良かったの?というかあの火を一瞬で消した…これまでの私の努力は何だったんだろう。
「ノア、ありがとう。」
え!?気づいてくれてた!優しいなぁ。
そんなところにも気を配れるなんて…!やはりクラン様は尊敬に値するお方だ。
「良かったじゃん。」
クリーナに喜んでいることに気づかれた。
深奥の黒い嵐。なぜこんなところにやってきたのかは分からない。きっと…原因はクラン様にあるんだろうなぁ。
クラン様の今後の大変さを思い、目が遠くなるのだった。
お読みいただきありがとうございました!
23.課外授業4
帰りたい。心からそう思うのだけれど、今帰るわけには行かない。きっと学園長やら何やらがわたくしに質問してきて、ゆっくりできないに決まっているもの。
「今日はお疲れ様。途中ハプニングもあったが、無事に終わって良かったと思う。今日はゆっくり休め。では戻るぞ。」
「先生。」
「何だ?クラン・ヒマリア」
「ここに残っていてもよろしいでしょうか?もう少し狩りをしてから帰りたいのですが…」
「自由にしろ。」
遠い目をされた気がするわ。
それから10分。完全に見えなくなったのを確認してからわたくしは叫んだ。
「つーちー!!」
「うるさい。そして呼び捨てするな。」
「あ、来てくれたわ。」
来てくれなかったら、鬱憤晴らしとして使おうと思ってたのよ。
「そりゃあ面白いものを見せてもらったからね。あんなに魔力を無駄に使っておきながら切れないなんて…!」
土め。笑っているわ。しかも魔力の無駄ですって?聞き捨てならないわね。
「やっぱりあなたがしたの?」
「違うよ!『約束』しただろ!」
「後から考えてみたら神様には効かないんじゃないかって思ったのよ。」
「効かないのはここくんだけだよ!」
「あら?そうなの?それは良かったわ。ではなぜあれが出てきたのでしょう?」
「知るか!?お前に何か原因があるんじゃないのか!?」
土の神がそう言うということは…わたくしにはなにかがあるのでしょう。
「ねえ、教えてくれない?わたくしに何かあるの?」
「教えるわけがないだろ!」
ありがとう。肯定してくれたのね。
「そう…それは残念ね。あ…一つ聞いてもいいかしら?」
「何だ?」
「わたくし、あれを一瞬で倒せる気がしたのだけど実際は時間がかかってしまったのよね。何か原因知らない?」
「お前が他の人に、『一瞬ではない』と『約束』したからだろ!」
あぁ…なるほど。それも約束に入ってしまうのね。
「ちょっと…これ、便利すぎないかしら?」
「便利に決まってんだろ!今更かよ!」
困ったわね。これの正しい使い方を誰かに教えてもらいたいわ。
神様は…つまらないからといって教えてくれなさそうだし…どうしようかしら?神様が教えてくれなかったらこれを誰に教えてもらえばよいのでしょう?「約束」のせいで誰にも言うことが出来ないのに。
「そう。教えてくれてありがとう。今度からも叫べば来てくれるのかしら?」
「そんな簡単に地上には降りねえよ!…まあ、本当に必要なときは呼べばいい。そんな機会訪れたらおもしれえだろうし。」
そう言って、土は消えていった。
取り残されたわたくしは一人、考えていた。
どうやら、皆さんの戦闘能力は全然ないらしい。うすうす気付いてはいたけど、今日で確信が持てたわ。
まあ、弱い方は弱い方でその中で過ごしていけばいい…のよね?
あとは…わたくしには何かがあるという事実。これも関係しているのでしょうか?これは…「約束」を使うことによって知ることは出来そうだけど…試してみようかしら。
それが解決したら、この呪いの使い方も考えておく必要があるわね。これも聞こうと思えば聞けるのでしょうけど…これはちゃんと自分で考えたいわ。
まずは…何のために使うか…よね?
それに関しては自分を守るため…かしら?安全に過ごす、それは目的よね。取り敢えずそれを守るためなら使ってもいいことにしましょう。
あとは…何でしょうか?大切なものを守るため…とかがありそうなものよね。わたくしの大切なもの…。家族、自分、メイド、カナン…。駄目ね。全然思い浮かばないわ。まあそれを守るためにも使ってもいいでしょう。
とりあえずはこんなものでいいかしら?
あと考える必要があることは、この状態をどう説明するべきか…くらいかしら?
学園長や、お父様。お父様はこの前大ヒントをあげたから、もう何も説明しなくてもいいでしょう。学園長には…まだよく分かっていないのを正直に説明しましょう。
思い立ったら今すぐ行動しなければ。
いそいで学園に戻る。
校門の前に、やはりと言うべきか先生が待ち構えていた。
「クラン・ヒマリア」
「何でしょう?」
あぁ…一体このやり取りを何回繰り返すのでしょうか?
「学園長がお呼びだ。」
「それで、学園長室にいけばよろしいのでしょうか?」
「そうだ。今日の件についての詳細を聞きたいそうだ。」
「分かりました。」
「失礼します。クラン・ヒマリアを連れてきました。」
「入れ。」
「失礼します。」
へぇ~。ここが学園長室なのね。初めて入るわ。なんというか…想定よりもきらびやかだったわ。
「さて、ラーネカウティスクについて聞きたい。」
「はい。」
それくらい知っているわよ。
「あなたはあれを何だと捉える?」
それはどういう意図の質問かしら?
「何だって…あれはラーネカウティスクですよね?」
「そうだ。」
「そういうものではないのですか?」
「それはそうだ。では、そういうものとは何だ?」
あら、深いところまで考えなくてはならないのかしら?
「攻撃はけして強いとは言えないが、回復力により強さを誇れている…みたいなものかしら?ドラゴンとは反対な気がしますね。」
「そういう見方もあるな。セルアン、出ていっておくれ。」
「分かりました。」
セルアンという名前だったのね。覚えておきましょう。
「儂は君が『神々のいたずら』にあったことを知っている。」
あら?どういうことでしょう?
あらら…いったいどうしてでしょうね。
お読みいただきありがとうございました!
24.課外授業5
なぜ、学園長がわたくしが「神々のいたずら」にあったことを知っているのでしょうか?
「どうして…でしょうか?」
「儂もあったんじゃよ。子供の頃に。」
まあ!なんという偶然!
「学園長は、なぜ今神殿にいないのですか?」
いたずらにあったのなら神殿に取り込まれるはずではありませんでしたっけ?フルーエが嘘でもついたのかしら?
「儂もそなたと同じじゃ。親切な人によって見逃された。」
「そうなのですね。ちなみに呪いは…?」
「知識」
知識を呪われたということですよね?覚えられなくなったということでしょうか?しかし、それなら学園長などなれるわけがないわ。どういうことでしょう?
「それはどういった呪いでしょうか?」
「知る知識を制限されるのじゃ。一週間で知識を完全に忘れる。その代わり、1日一つ、知りたいことを知れる。まったく、あの神め、忌むべき存在じゃ。」
それは…不便であり便利なものか…。心もたちが悪いなぁ。…って
「心は優しかったわよ!」
「あなたにはそうだったようじゃの。」
「なぜそれを…」
「今日知れる事実をそなたについて、としたのじゃよ。」
「…それで、私に関して何かわかりましたか?」
「呪いの内容が分かった。」
「それだけですか?」
「そうじゃ。そんなに便利なものではないのじゃよ。」
そうなのね。大変そう。よくそれで学園長をやっていてるわね。凄いわ。
「なら、協力していただけませんか?」
「いいぞ。口の堅さには忘却力と同じくらいの定評がある。」
それは都合がいいわね。
メイドに頼もうと思っていたけれど、学園長に頼も…
「やめておきますわ。学園長に手伝ってもらうなんて申し訳ないです。」
「今更じゃと思うがのう」
「そう言われてしまってはそうですが…」
「心配せんでよい。」
「じゃあ、お願いしますわ。わたくしと『約束』していただけませんか?」
「いいぞ。」
「今から言うことを教えてほしいのです。わたくしに何の原因があって、あのような魔物がやってくることになったのか、15秒以内にお答え下さい」
1,2,3,4,5,…,14,15秒!
「それはお前さんの魔力のせいじゃ。」
あぁ、納得しましたわ。わたくしの魔術の威力的に、一般よりは多く持っているはずですもの。それを狙ってやってくるとは…そんなことをしているから返り討ちにあってしまうのですわ。馬鹿な魔物ね。
「学園長、ありがとうございました。感謝いたします。」
「どういたしまして。ところで、今日の魔物の話にいったん戻るぞ。」
「はい。」
「まず確認する。来た魔物はラーネカウティスクで間違いはないのだな?」
「間違いありませんわ。水で攻撃しており、火に弱く、また回復力も強かったので。外見だけでなく能力も普通のラーネカウティスクと考えてもいいかと。」
「ラーネカウティスクが深奥から、君の魔力の多さにつられてやってきたということでいいか?」
「そうだと思われます。」
あぁ…退屈だわ。確認も重要だとは思うのだけれど…早く終わらないかしら。
「対処方法は、火で燃やした。」
「はい、仲間の方が消化してくださったので、火事には至りませんでした。」
「それをそのまま国王に伝えてもよいか?」
え?あぁ、そういう話に繋がるのね。
「できれば、魔物が来た理由は伏せたいのですが…多分それが一番伏せれない案件ですよね?」
「そうじゃ。」
「でしたら、生徒の名前を伏せていただけないでしょうか?」
「それだけでいいのか?」
「えぇ。全員が名前を言わなければ、伝わることは無いと思うので。みなさんにお願いしてみます。」
「『約束』はせんでもいいのか?」
「分かった。『約束』するなら心配ないだろう。また何かあったら来るといい。」
学園長には感謝してもしきれないわ。というか、また来ると良い…って、覚えているのは1週間なのよね?だったらこれから行くことはなさそうね。
「失礼しました。」
学園長室を出る。そこが見慣れたところで安心してしまった。
あぁ…公爵家で豪華なものは見慣れているほうだと自負していたのだけど、自信がなくなってしまったわ。
「何の話をしていたんだ?」
「ラーネカウティスクの話でしたわ。」
「そんなに長くなるわけがなかろう。」
「長くなるのです。先生、今日、わたくしが魔物を倒した生徒であることを隠すことを『約束』していただけないでしょうか?」
「そんなものでいいのか。いいぞ。言わなければいいんだな?」
「えぇ。ありがとうございます。」
良かったわ。これで一安心ね。あとはクラスメイトか…あぁ…早く口止めしておけば良かったわ。もしかしたらもう広まっているかもしれない…けど、わたくしと別のグループの人は基本的には知らないはずよね?
心配する必要はそこまでないでしょう。
そう、安心した。
波乱の予感がするね。どうなるかは知らないけど。
これからもこのシリーズをよろしくお願いします!
25.勧誘1
朝、寮を出て校舎に行くまでに、何度も見られた。
これは…もう歯止めがきかなくなっているかもしれないわ。手遅れかもしれない。
まあただ、視線に敏感になっているだけかもしれないけど…
もし、ここで口止めしたら…
---
「わたくしが、ラーネカウティスクを倒したことは言わないで下さい。」
全員が頷いたら、「約束」完了。
「ねね、クラン様ってすごいよね。」
クラスメイトがそんなふうに声をかけられる…かしら?
「え、そうなの?」
クラスメイトは「約束」によりとぼけることになる。
「え?ラーネカウティスクを倒したんじゃないの?」
「知らないよ。」
「…私に嘘ついた?」
こんな事になって、喧嘩でも起こるのでしょうか?
---
あぁ、いやなことを想像してしまったわ。けれど、ありそうなことよね?怒らないでほしいけど、万が一があるのなら…みんなには「約束」しないほうがよさそうね。その代わり…わたくしが広められることを好んでいないことをお伝えしておきましょう。
「「「おはようございます!」」」
挨拶をする人は減ってきた。けれど、それでもまだ挨拶をしてくる人はいる。
「__おはようございます。__」
まだ堂々と挨拶をするのは|憚《はばか》られますわ。慣れませんもの。
わたくしはわたくしがそのような器ではないことを自覚しております。
そのまま教卓に向かう。
「今日は、皆様にお願いがあります。昨日、わたくしが魔物を倒したことは、できるだけ広めないで欲しいのです。わたくしにも事情がありまして…よろしくお願いいたしますわ。」
よし、大丈夫そうね。これで安心して暮らせるわ。
ただ…学園長には一応言っておくべきかしら?どうなのでしょうね。
「クラン様ー!」
今日もノアがやってきた。
「何かしら?何も無いなら戻ってくださる?」
「話しならあります!」
なぜ、彼女はこんなにもわたくしに声をかけてくるのでしょう?昨日のグループ作りのさいは、入ってくれて確かに助かりましたけど、基本的には邪険に扱っているはずよ。
「…何ですか?」
「かっこよかったです!」
格好いい?誰に対していっているのでしょうか?…わたくししかいないので、多分わたくしに向けていっているんでしょうね。決して自意識過剰なわけではないわ。
「それは不適切ね。」
「じゃないですよ。」
あら?どうしてかしら?
そう思ったのに気づかれてしまったのか元々話す予定だったのか、ともかくノアは再び口を開いた。
「みんなが怪我をしないように、一人でラーネカウティスク?に立ち向かうんですよ!?まさに英雄の所業、かっこいいと言わないで何というのですか!?しかも、クラン様は孤児にもそのようなことをしていた過去もあり、また昨日だって私の消化にも気付いて下さって、そして、何より表には出たくない、その姿勢も素晴らしいと思います!」
ノアが急に饒舌になったわ。
「違うわよ。一人でラーネカウティスクに立ち向かったのは、一人でも余裕で勝てるから。しかも時間もかからず被害も出ないもの。楽じゃない?」
「そういうのをあの瞬間に考えているのが素晴らしいのです!」
はぁ…何を言っても駄目な気がするわ。
「ノア、落ち着きなさい。」
「落ち着いてます。」
「いいえ、あなたは落ち着いていないわ。ちゃんと客観的に見なさい。」
「クラン様が困っているよ。」
まあ!クリーナがやってきたわ。
ノアを止めてくれるなんて…ありがたいわ!
授業は、特に何もなかった。
魔法薬の授業で脅されたのが継続…あら?あれも約束したことになるのかしら?それだったらより最悪だわ。
それはともかく、他の授業も、問題はなかった。
今回問題が起こったのは放課後だ。
「クラン・ヒマリア様はいますか?」
久しぶりに名前に敬称をつけられたわ、と思わず現実逃避してしまった。
今声をかけてきた彼はサンウェン・リルトーニア。エステル兄様の同級生で、我がデルメイア王国の第一王子。悪い噂は聞かない眉目秀麗の《《生徒会長》》だ。
「生徒会長が何の御用でしょうか?」
「そう怒るな。生徒会室で話さないか?」
「遠慮いたしますわ。」
「とりあえず来い。立場はこっちが上だ。」
「はぁ…分かりました。」
「失礼します。」
「入れ。」
「で、何のようでしょうか?」
「単刀直入に言おう。生徒会に入らないか?」
「嫌です。」
「先生からの信頼も厚いぞ。やりがいもあるし。」
「やりがいなど求めていわせんわ。わたくしは普通に過ごしたいのです。何より面倒くさいですわ。余計な仕事が増えているだけじゃないの。」
「ふむ、ならばそれを改善したうえでまた勧誘しよう。」
「は?」
なぜ、そうなるのでしょう?そもそも、なぜわたくしを入れたいのでしょう?分からないことばかりですわ。
しかし、逃げるなら今がチャンスよね。
「失礼しました。」
「あ、ちょっ」
何か焦る第一王子の声が聞こえたような気がしますが気のせいでしょう。
あぁ、もう!鬱憤がたまっているわ…
屋上に行きましょう。
「わたくしに関わらないでほしいわ!なぜ、ほっといてくれないのでしょう!?」
あぁ…スッキリしたわ。明日からも…頑張れなさそうな気がするけど、あの生徒会長のせいね、頑張りましょう。
戻ろうと後ろを見たら、知らない人がいたわ。
あぁ…最悪よ…。
気がつけば、寮に帰っていて、ベットで寝るところだった。
あぁ…これってなんか第一王子と結婚しそうなパターンですね…あんまそういう展開好きではないのですが、どうなるかは分かりません。成り行きに任せます。
26.勧誘2
次の日。
学園長にはもう伝えた。
そして…
「クラン・ヒマリア様はいるか?」
「クラン様ならもう帰ったわ。」
「…そうか。また来る。」
やりましたわ。風で音を拾い、内心ガッツポーズをする。さっさと帰る作戦、有効ね。
週明けて月曜日。
今日も、さっさと帰りましょうか。そう思い、寮に向かっているときにそれは見えた。
寮の入り口に、我が学園の誇る生徒会長がいるではないですか!?
皆様から遠巻きに見られているわ。お可哀想に。
わたくしはそれを見なかったことにして、来た道を戻ろ…うとしたのだけれど、そこには何とエステルお兄様が。
「お兄様?どうしたのですか?」
「友人であるサンウェンを助けに来たのだ。」
ひぃぃ、腕をしっかりと掴まれてしまったわ…どうしましょう?
「王族を敬称なしですか?不敬ですわよ。」
「彼がいいと言っているんだ。お前は関係ない。」
「そのとおりですね。お兄様は関係ありません。帰ってくれませんか?」
「いいや、無理だ。」
まぁ、なんと酷いのでしょう。
「お兄様は自分勝手ですね。」
「違うぞ。」
別の人の声が聞こえた。まさか…おそるおそる振り返ると、予想通りというか、第一王子がいた。
「僕の勝手に付き合ってもらっているだけだ。」
「はぁ‥そうなのね。それは失礼しました。」
「そう、失礼した。だからしばらく付き合え。」
「嫌ですわ。やっぱり失礼したとは思っていませんので解放してくださる?」
「もう言質は取っている。今更覆すのは無理だ。」
「第一王子もお兄様と同じで酷い方ですのね。」
乙女の幻想を壊さないでほしいわ。
「そう思うのだったら、そう思えばいい。早くついてこい。」
あぁ…連行されてしまうわ…。
「こんなの見られたくないのでせめて手を離されては如何でしょう?」
「そうしたらお前は逃げるに決まっているだろう。」
あら、バレてしまいました。
「では、お兄様にお願いしてもらえますか?」
「エステルか…、まあいい。その代わりちゃんとついてこい。」
「分かりました…」
まあ先ほどよりかは、断然よろしいでしょう。
基準を第一王子によって壊されてしまった気もしますが、とりあえず大人しさを装いましょう。
「入れ。」
「嫌ですわ。」
「目立つぞ。」
「入ります。」
目立つのは嫌いですもの。なぜそれを第一王子が知っているのでしょうか?不思議でなりませんわ。
「座れ。」
「はぁ。」
「お前の望みは面倒くさい、普通に過ごしたい、だったな?」
「えぇ。生徒会役員で普通に生活できるはずがありませんわ。」
「普通に過ごしたいは無視することにする。」
「なぜでしょうか?」
おかしくないかしら?わたくしは普通に過ごしたいと願っているのです。生徒会ならばそれくらい保証せてくださいませ。
「生徒会役員として過ごすのが普通になれば良い。」
「嫌です。先ほどの条件に加えますわ。わたくしは生徒会自体も好きではないのです。そんなところで働くわけがありません。」
「落ち着け。お前は目立ちたくないのだよな?生徒会に入ったときの利点を教える。まず、行事は参加しなくていい。」
「それがどういう利点になるのでしょか?」
「学園内で生徒会主催で試合とかも行われたりするだろう?その時に参加しなくていいのだから、結果的には目立たなくなる。」
なるほど。魅力的な提案ですわね。
「他にはなにが利点なのでしょうか?」
「発言権が増す。」
「それは目立つということと同義ではないですか。嫌ですわ。」
「お前…確か課外授業でラーネカウティスクを倒したんだよな?そしてその噂を広げないように頼んだそうだな?」
「まあ!なぜそれを知っているのですか?」
「弟が教えてくれた。」
弟…第二王子ですわよね?なぜ第二王子に伝わったのかしら?
「弟の中でも第四王子だ。お前のクラスメイトなはずだが?」
「あぁ…第四王子でしたか!…しかし、クラスメイト…どなたでしょう?」
「嘘だろう…」
「クランはこういう子だ。」
「ちょっと!お兄様!聞き捨てならないわ!」
まあまあ、と落ち着かされる。わたくし、いいように扱われている気がしてなりませんのですけど…
「まあ、いずれわかるでしょう、続きをお願い致します。」
「話をそらしたのはお前だが…まあいい。発言権が増すと、こういう広めないでほしいという願いもクラスだけでなく全員に伝えることができる。」
ふむ、けれど…
「第一王子まで話が回っているのでしたら、それは不要ですわ。」
「…!そうか…」
「クラン、私からも提案がある。」
エステルお兄様から?一体何の提案でしょう?
27.勧誘3
「この前お前は父親のせいで大変な目にあっただろう。」
「あいましたね。」
「生徒会に入ることで、みんなと交流していると父上は錯覚してくれるぞ。」
つまり、今まで同様人とかかわらなくても、お父様が変なことをしてくることはない、と。
「魅力的ですわ。しかし、仕事は面倒くさいのではないかしら?」
「お前に入ってもらうのは書記だ。公式のときに来てくれれば、その他の仕事はあまりない。あったとしても私が終わらせる。」
さすが優秀な生徒会長。
「でしたらなぜわたくしを入れる必要があるのでしょう?仕事もしなくてよいのなら、入る意味はそちらにとってはありませんよね?」
「お前は…生徒会のことを何も知らないのか?」
「生徒会長が第一王子であることは知っています。」
「それだけなのだな…生徒会は、各学年一人ずつ在籍することになっているのだ。期限は半年。だから、私は1年生から誰かを招き入れなければならないのだ。」
「あら。存外大変な仕事ですのね。」
「もうすぐ期限である半年がやってくる。だから、お前を誘ったんだ。」
「なぜわたくしなのでしょう?生徒会ならば入りたいと望むものは多いはずですよね?」
「あぁ、確かに多い。しかし、実績を鑑みると、お前が適切だということになった。」
「実績?わたくしは何もしていませんわ。」
「しているだろう。ラーネカウティスクの単独討伐。」
「まさかそれだけで決められましたの?」
嘘じゃないの?わたくしの今まで目立たないようにとしてきた努力…。それはどこへ行ってしまったのでしょう?
「ラーネカウティスクの単独討伐だぞ?騎士でも出来るのはトップクラスだけだ。」
「そうなのですか!?迂闊でしたわ。いや…あれを先生に任せたら全滅してたわよね?仕方なしというのが妥当でしょうか?」
「面白い娘もおるのだな。」
「うん。自慢の妹だよ。」
エステルお兄様がサンウェン様となにか喋っているようですけど…聞こえませんね。残念ですわ。
「まあそれを考慮してお前が優秀だと考えた。だから、生徒会に入ってほしい。」
魅力的なものがたくさんありましたわ。けれど、
「辞退しますわ。サンウェン様がいらっしゃるときは仕事はしなくてもよいのでしょうが、このまま最高学年になったらわたくしが生徒会長になるということではなくて?」
「そうだ。」
「でしたら、いずれは仕事をしなくてはならないではないですか。そんなものに入ろうとは思いませんわ。」
「そうか…しかし、生徒会長というのは普段ならたいしてめだつものでは ないのだよ。」
少し気落ちした様子を見せながらサンウェン様は言った。
「どういうことでしょうか?」
「今年は私が生徒会長になったから目立っているだけで、実際は生徒会自体はもともと行事以外あまり使われないし、目立つものではなかったんだ。」
「つまり生徒会が目立つようになったのは、第一王子のせいということですね。流石ですわ。」
褒めたつもりなのに苦い顔をされてしまった。どうしてでしょう?
「だから、もし生徒会長になったとしても何もなければそんなに目立つことはない。逆に父親避けにも、行事での目立ちを避けることになるのだ。だから安心して入れ。」
うー…確かにメリットの方が大きい気がしてくるわ…
流石王族の方、説得がお上手だこと。
「1日…考えますわ。」
「分かった。」
そうしてやっとあの部屋から出ることが出来た。
次の日。
「クラン・ヒマリアはいるか?」
サンウェン様が教室にまでまたやってきた。まったく…昨日と同じように寮の前で待ってくださればいいものを。こちらのほうが余計に目立ちますわ。
「何でしょう?」
「返事を聞きに来た。」
「はあ…入ることにしますわ。ただ…わたくしを呼ぶときはもう少し目立たない方法でできないでしょうか?」
「うむ、考えておく。ようこそ!生徒会へ。」
「では帰りますわ。邪魔しないで下さいね。」
「おい…待て!」
次の日。
「兄上が今日は生徒会室に来いと言っていたよ。」
見るからにやる気のなさそうな子が連絡してきた。あぁ…この子、わたくしに一度も話しかけなかった子の男の方だわ。第一王子を兄と呼ぶということは…
「あぁ…第四王子でしたか。分かりました。」
そう言ったら何も言わずに戻っていった。本当にこんなので第四王子は大丈夫なのでしょうか?
「失礼します。」
「ちゃんと来たな。」
まぁ…いつもにまして生徒会室が明るい気がいたします。そして狭く感じますわ。今日は…6人…全員を揃えたということでしょうか?
「今日は全員いるのですね。」
「基本的に水曜日は全員に来てもらうことになっている。」
「話が違うではないですか!?ほとんど仕事はないのでしたよね?」
「ないぞ。それでもいつ何時問題が起こるかは分からないものだ。だから毎週1日は集まることにしている。」
「それなら抜けますわ。」と言おうとして、声が出ないのに気づいた。
…まさか…
着々進んでいってます。皆さん、最後のクランの言動のわけ、分かりましたか?
これからもこのシリーズをよろしくお願いします。
28.勧誘4
『入りますわ。』
サンウェン様に生徒会に入るかと聞かれて答えたあの言葉…あれも「約束」に入ってしまったのでしょうか?
「あぁ…だから人と会話したくはなかったのです…」
「なにか言ったか?」
「はい。けれど、あなたには関係ないことですので気にしないでいいですわ。」
「そうか…」
「それで、毎週水曜日に集められるということでいいのですね?」
「…お前!」
「えぇっと…どなたでしょうか?」
「5年の生徒会副会長のヨハン・アスタだ!私の名前も知らないとは!」
「サンウェン様…生徒会役員は別に目立つ役職というわけではないのですよね?」
「そうだ。__そこに入っている人自体は学年でも…いや学校でも目立っている者たちだが。__」
「ならあなたの名前を知っていなくてもおかしくはないでしょう。」
「おかしい!私は5年の中で一番なのだぞ!」
「そうなのですね。では以後、覚えておきますわ。」
まぁ、面倒くさい方に当たってしまったわ。これを見てから決めても良かったかもしれませんね。早まってしまいましたわ。
「そういう話ではない!…いや、それはいい。それよりも、生徒会に入るのを嫌がるとはどういうことだ!」
「わたくしの主義にあいませんもの。利点が多く、ひとまず入ることにいたしましたが、こんな話聞いていませんでしたもの。嫌がるに決まっているでしょう。」
「この…!」
「落ち着け。ヨハン。こいつは例外だと思って接すると良い。」
例外?また酷いいいがりをつけられてしまったわね。
「でも、会長…この人は、神聖なる生徒会を侮辱したのですよ!」
「気にしたら終わりだ。私も正直なぜこいつが1年生の中で一番優秀だというのに疑念はある。」
今がチャンスね!
「まあ、わたくしは優秀ではありませんわよ。今までの授業の様子から見てもそうだと思いません?」
「私は授業の様子を知らないからな。ただ、戦闘能力は本物だろう。ヨハン、お前も噂を聞いたことはないか?」
うーん‥これは言い返せないわね。この前自覚してしまったもの。
「ありますけど、まさか、あれが本当だと言うんですか!?」
「そうだ。」
「は?」
あら、口が汚いわよ。言い方にはもっと気をつけるといいでしょう。
生徒会室の空気は一瞬にして緊張状態に包まれた。
「どうしましたか?」
「こいつが、ですか?」
「そうだ。」
というか、わたくしは生徒会長にラーネカウティスクを倒したとは言っていないのだけど…なぜ生徒会長はそれを信じているのでしょうか?
それっぽいことはほのめかされたことがあるかもしれませんが…認めたはずではなかったのだと思うけれど…
「まあ生徒会長が言うならそうなのでしょう。どうぞ、お話を続けてください。」
「あぁ、助かる。クラン、取り敢えず毎週水曜日は集まりだ。忘れるな。それと、昼休みも特殊な用事がない限りここで食べろ。」
「水曜日はここに2度も顔を出さなければならないのですか?」
「そうだ。」
「…分かりましたわ…。」
きっと今は抵抗しても意味がないわ。
「それでは紹介をしよう。まず私はサンウェン・リルトーニア。6年で生徒会長だ。」
「私はヨハン・アスタ。5年で生徒会副会長だ。生徒会は素晴らしいものだ!それがわからぬ者に用はない…」
「やめろ」
「わたしはアナ・セントニアよ。4年の生徒会会計。よろしくね。クランちゃん。」
「わたくしはソラレーラ・ミアンナ。3年で生徒会書記。よろしくするわ。」
「クロバート・アングアだ。2年で生徒会書記。よろしく。」
「まあそんな感じだ。お前もやれ。」
「はぁ…。わたくしはクラン・ヒマリアよ。今日から生徒会書記らしいわ。よろしくお願いいたしますわ。」
確かにそんな感じなのだろう。このあと、サンウェン様が話題を少しだけ提供して、それについて話し合っただけで終わった。
「クランちゃん、一緒に寮まで帰らない?」
アナ・セントニアに誘われた。
「ごえんりょ…」
「帰りましょうか?」
ソラレーラ・ミアンナまで…
「はい…」
「アナ…様?でしょうか?」
「さんでいいわよ。」
「ソラレーラ様は?」
「公では様がいいですが、個人的なところではソラレーラでいいわよ。」
「あ、じゃあわたしもアナでいいわ。」
「分かりました。アナとソラレーラですわね。ですけどミアンナ家って…」
「そうよ、公爵家。けれど、あなたと同じ家位なので気にすることはないわ。」
「そうですか…」
なんかいろいろ話してくれたわ。生徒会のこと、生徒会役員のこと、そして他の学年のこと、行事のこと。
どちらの方も親切で…わたくしが「約束」したくないがために距離を取ろうと考えていることが申し訳なくなってしまったわ。
やめるつもりはないのだけれど。
「またね~」
「お気をつけて。」
「はい。」
あぁ…どうしましょう。やはり入らなかったほうが良かったわ。
今頃になって後悔が襲ってきた。いやさっきも後悔したばっかりですが。
「どうされましたか?」
メイドにも気を遣われてしまった。
「この前、少し目立ってしまい…そのせいで生徒会に入ることになってしまったのです…。」
「まあ!名誉なことですね!応援していますよ!」
「いえ…別に応援してほしいわけではないのよ。」
「そうなのですか?」
「えぇ。面倒事を背負ってしまったわ…」
「クラン様らしいですよ!」
それは褒められているのでしょうか?
ここまでは一息で書けた。
クランはラーネカウティスクの単独討伐を認めていないと言っていますが、ほぼ認めたも同然です。クランは忘れているだけなのでご注意を
29.登場人物+α
一旦落ち着いたので、設定等を紹介します。名前の隣は(一人称)です。
`クラン・ヒマリア`(わたくし)
この話の主人公。心により「約束」という祝福もどきの呪いにかかった。第一学年。剣も魔術も優秀で、勉強もできる。公爵令嬢であることを誇りに思っている。
`「約束」`
クラン・ヒマリアと「約束」したならば、それは何かの|理《ことわり》(クランは神だとおもっている)によって、必ず守らされる。「約束」らしくなくても、「許します」「入ります」だけでも「約束」は適応される。
`ユシエル・ヒマリア`(私)
公爵家当主。娘が大好き。
`ミリアネ・ヒマリア`(わたくし)
公爵の妻。一個下の位の侯爵から嫁いできた。忙しい。
`エステル・ヒマリア`(私)
ヒマリア公爵家の長男。第六学年。聡い。
賢いため、公爵家の次期継承者になるというのが予想されている。
`ユーリ・ヒマリア`(私)
ヒマリア公爵家次男。剣に強い。第4学年。
`カナン`(|私《わたくし》め)
クラン専属の執事。
`ケルート`(俺)
ヒマリア家で一番強い護衛。
`ノア`(私)
クラスメイト。自称クラン信者。もとは孤児。神殿で孤児を救うクランを見て、さらに、関わりを通してクランの信者に。クランに心を許されることを願っている。魔術は水が得意。
`クリーナ`(私)
ノアの友達。平民出身。一応は裕福な商人に生まれた。
`スターチェ・カンザス`
クラスメイト。クランに興味がない一方のうちの一人。
`シリル・カーソン`(私)
ドラゴンの話題を一番最初に振ってきた人。クラスメイト。
`サンウェン・リルトーニア`
デルメイア王国の第一王子。エステルと同じく最高学年である6年生。生徒会会長。
`ヨハン・アスタ`
生徒会副会長。5年生
`アナ・セントニア`
平民出身。4年生。生徒会副会長。
`ソラレーラ・ミアンナ`
3年生。生徒会書記。クランと同じく公爵家出身。
`クロバート・アングア`…2年生。生徒会書記
`セルアン`…先生
`英雄`
教会(神)が定める、世界的な偉業を成し遂げた人物。この国(デルメイア王国)にも1人(ナルート・アンザス)いる。その人は、平民出身。それにより、学園は平民も入れるようになった。
彼は、孤児で神殿で育った。やがて、聡明さと力を買われ、大本山へ。そこで、神殿の襲撃を防いだ。その功労が認められ、英雄へ。いたずらは言語。エンラート・ヒマリアが、通訳することで、意思疎通を図った。
`教会`
神殿を持つ。いたずらは隠している。貴族の子供は、1年間神殿に行くことになっているので、そこでいたずらにあえば、優秀だとわかる。
`神々のいたずら`
1週間程度。その間に、心の神より呪いにかかる。ひどいものから優しいものまで。それはすべて心の神の印象によって変わる。
`世界`
神々の気まぐれでできたもの。神々が飽きないように、力のあるものは呪いにかかる。その呪いは、基本的には全員が集まって決める。
`心`(僕)
男の神。そして5柱のうちの一柱。心の効果は呪い。これは、魔法ではない。
`土`(俺)
土の神。そして5柱のうちの一柱。自然から命までを司る。
30.聖女1
はぁ…生徒会長のせいで大変な目にあってしまっているわ…
あの発言…恨んでも恨みきれないわ…
そう、生徒会に正式に入ったのは昨日。そして今日の木曜日。
朝からヒソヒソヒソヒソ。まぁなんと目障りなこと。
しかもわたくしをチラチラチラチラ見てくるのよ?いったい何なんでしょうか?噂話は本人がいないところでしてほしいものよ。
そして、そのチラ見さえなければ…これはわたくしのことではないと信じることができるのにそれができないなんて…。チラ見というのは存外効果的なのかもしれないわ。今度試してみましょう。
「「おはようございます!」」
そして今日もまた、挨拶が来るのであった。
「__おはようございます。__もうお父様の法令はないのですよ?わざわざ私に挨拶する必要はありませんわ。」
明確な意思表示。これって重要なはずよね?だったら効果あるわよね?
「クラン様!とうとう生徒会に入られたのですね!やはりクラン様は崇拝すべきお方。最近サンウェン様がいらっしゃっていたのもクラン様を誘うため…!さすがとしか言えません!」
「ノア、しつこいわ。」
「ほら、クラン様もそう言っているじゃない。落ち着きなさい。」
あら、またクリーナが味方についてくれたわ。
「クリーナは優しいのね。」
「え?いえ…滅相もないです…!」
慌てられてしまったわ。公爵令嬢なのを忘れて普通に接してしまったからかしら?けれど、クリーナとは仲良くしたいのよね。
「いいえ、わたくしの味方についてくれるのは貴方くらいよ。」
「しかし私はノアを止めることがかなわず、ご迷惑を…」
「ここは学園よ。無礼な言葉は控えるべきでしょうけど、そんなに堅苦しくなくていいわ。」
まったくね。まあこれくらい謙虚な者はわたくし嫌いではないわ。度を過ぎていないのだし。
「それでは今度からは失礼させてもらいます。」
「また堅苦しくなっているわ。」
ふふっ。思わず笑ってしまった。
あーあ、クリーナが欲しくなってくるじゃない。わたくしの気に入る態度を無自覚にとってくるのはやめてほしいわ。
「あ…気をつけます。」
「えぇ、そうしてね。少なくとも学園では。」
これが「約束」になってはいけない、と思い、慌てて付け足す。
これで公の場では彼女は堅苦しくわたくしと接することができる…はずよね?
「ずるい!なんでクリーナが好かれてるの!?」
「ノアの態度が悪いんでしょ。」
「え〜。喋っているだけじゃん。」
「だからそれが嫌がられているんでしょ?」
ノアとクリーナは仲良しね。
そう思いつつ、話は終わったし、頭を切り替える。
今日は…たしか特別授業でしたっけ?神殿の方が来られるんでしたよね?
誰が来るのかしら?
ここは国唯一の学園だから…まあまあ地位が高い方が来られるはずですけど…
つい先週くらいにあの記憶を思い出して、急にこれがあるなんて…最近はとても忙しいわ。
1時間目。
あらら…魔法薬の授業でしたわね。確か。
あの「約束」のあと、わたくしは手を抜くことができないままになっていた。
最近、手を抜けない機会が増えているのですが…しかも、だんだんわたくしの実力がバレていません?少しだけ頑張って、隠し通していましたのに、無駄になっているわ。
返してほしいわね。わたくしの半年を。
まあそんなわけで、わたくしの作る魔法薬の質は、難しいものでなければかなり高い方ですから、手を抜けない今となっては調合後に先生に褒められ、非常にいたたまれないうえに大変目立つ時間となってしまっているのです。
だれかわたくしの事情をちゃんと考えてくれる方はいらっしゃらないのでしょうか?
早く授業終わらせて…と祈っているうちに授業は終わり、さっきの祈りがいまだ残っているのか、次の時間も早く終わった。
昼食。わたくしは忌々しい生徒会室に向かっていた。
「失礼します。」
「ほお、ちゃんと来たんだな。」
「そりゃあ来ますわ。サンウェン様に教室に来られては迷惑ですもの。」
「おい!この!」
「落ち着け。我慢ならないんだったらこいつに頑張って理解させてみろ。ちなみに私はやりたくない。それでもやるのか?」
「いや…やりません…」
サンウェン様とヨハン様が何やら話しているわ。わたくしが聞いてもいいことなのでしょうか?
「あークランちゃん!よく来たわね!」
ソラレーラだ。
「いらっしゃい!」
アナもいる。
さっきの男子軍団を見てしまったせいか思わずほっこりしてしまった。
彼女たちは親切だったもの。心を開いてもきっと害は無いはず。だけれど、半年間人を拒否してきた結果として警戒心だけが残っている。
「女の子で良かったわ〜」
「何がですか?」
わたくしのことなのでしょうか?しかし文脈が分からないわ。
「新しい役員、まあクランちゃんのことよ。これで男の子が入ってきていたら…ねえソラレーラ?」
「本当よ。気まずいことこの上なかったもの。」
「大変だったのね。」
「「そうなのよ!」」
今日は特に議題はなかったようなので、ずっとこんな感じの普通の会話をしていた。「約束」に関係することは出なかったから、密かに息をつく。
この二人といるのは、存外気が楽かもしれないわ。
今度からはもう少し歩み寄ってみようかしら?
そう思えるほどに、彼女たちはクランにとってよい仲間だったのだ。
31.聖女2
「あ!クラン様!」
またノアだわ。もっときつく接したほうがいいのでしょうか?
「何?」
「今日の特別講話の先生が、クレマラ様なんですよ!」
「クレマラ様?誰かしら?」
わたくしも知っている人なのかしら?
「神官長様です!」
言葉が足りないわよ。
「どこ神殿の神官長?」
「もちろん私がいた孤児院がある神殿です!」
「つまり、わたくしが1年いた神殿ね。」
「そうです!」
はぁ…やっと話が見えてきたわ。ノアは、クレマラ様が講演者だという情報を手に入れたために急いでここに来た、と。そして、わたくしがその神殿にいたことがあるから、知っているのではないか、と考えわたくしに教えてくれた、と。
「そう、善意には感謝するわ。」
感謝はする。事実的には、わたくしはクレマラ様から剣も魔術も習ったのだけど…そのことも今まであやふやになっていたくらいですし、ましてやどんな方だったかなんて…あまり覚えていませんわ。
「ノア、もう行きましょう。」
「うん…」
あら?さっきまでの威勢はどこへ行ったのでしょう?
「はじめましての方が多いでしょうな。私が今日の特別講師、クレマラです。普段は神官長をやっています。今日は、皆さんに神々のことを教えに来ました。どうぞよろしくお願いします。」
パチパチ。まばらに拍手が起こる。
あら?今のって拍手をする部分でしたっけ?
周りを見るとノアも拍手をしているうちの一人だった。つまり、クレマラ様に人となりをよくお知りの方々が拍手をしているということでしょうか?
そう推測する。
「まずこの世には、5柱の神々がおられる。そこの君、神々の属性を答えなさい。」
「風、光、水、土、心です。」
「そうだ。彼らは暇つぶしのためにこの世を作った。では、火は誰が司っているか…隣の君、答えなさい。」
「光です。」
「そうだ。彼らは5つという少ない数ではあるが、彼らはすべてを司っている。心は何を司っているか?横の貴方、答えなさい。」
「呪い、です。」
「そうだ。心だけは例外で魔術を扱わない。そして呪いを司る。しかし、いままで呪術者は見つかったことはない。また、呪われている人を探すのも困難だ。」
「先生!」
「なんだ?」
「呪われている人は実際にいる、と聞きました。彼らはどうやって呪いにかかっているんですか?」
「彼らはそれに関して何も言わないのだ。だから、我々は生まれつきで、神々のおみくじにでも当たったのではないかと考えている。」
まあ!大嘘を付くものね。実際は楽園でかかっていると神殿は理解しているはずだけれど…何が何でも隠すつもりなのか…
「ありがとうございました。」
「では、話に戻ろう。このように神々は、いろいろと暇つぶしを作っている。これらで神々は主に観察を行っていると考えられている…というより、そういうためだと神々が言ったらしい。」
あぁ、確かに堂々と言っていた気がするわ。誰かから聞いてもおかしく…いえ、おかしいわ。わたくしは楽園でのことを口止めされたんだもの。みんなそう…ではなさそうね。だって聖職者のなかでは楽園は真実として認められているわ。誰かが伝えないとこうはならないはずよ。
「先生、質問よろしいでしょうか?」
「何だい?クラン。」
あら?名前を覚えられているわ。そうね、よく考えてみれば半年前だものね。忘れているわたくしのほうが異常なのでしょう。
「どうやって聞いたのでしょうか?」
「いい質問だ。これらはすべて聖女様から聞いたことだ。」
聖女様…神々の遊びのうちの一つね。
「神々は、唯一、聖女様の近くでは地上に降臨なさることができる。これらは聖女様が儀式の末に神を呼び出し、聞き出したことだ。」
あら?唯一聖女様の近くには降臨できるの?けれどこの前土の神はわたくしの前にも現れたわ…
「はい。」
「どうぞ。」
「神々が聖女様の近くにだけ降臨できるというのは神々が言ったことですか?あと、どれぐらいの範囲なのでしょうか?」
わからないことだらけよ。
「あぁ、神々が言ったことだ。範囲はよく分かってはいないが、今までの儀式の結果から見るに、5m以内だろうと考えられている。」
5m以内…。あの場にはノアがいたわね。彼女が聖女様ということかしら?それらしいとはいえないけど…
「今まで、神々は、聖女様から離れていき、いつの間にか消えている…という手法を取られていた。」
なるほど。わたくしのときは普通に消えていたのだけど…いえ、考えるのは辞めましょう。取り敢えず今は話を聞くのよ。
「そもそも、聖女様とは、神々がランダムに決めているものである。その性質は、治癒が使えることが主である。主に魔術が使えないものの中から神々が選ばれるそうだ。」
あら?では私はもちろんのこと、ノアも聖女ではないわね。
「また、聖女の血は多くの魔力を含んでおり、我々人には関係がないが、魔物はそれを好んでやってくることがある。だから我々聖職者は聖女を保護し、大神殿に迎えることで守る、これも重要な役目だ。そして、神殿に仕える騎士になれば、聖女様の仕事…土地を潤したり…などの護衛も行うことができる。」
あらら?
というより男性の皆様?目が怖いわよ?
まあ聖女様がすごいのは私でも分かるわ。こんなに心当たりがなければ、純粋に騎士を目指していたかもしれないわね。
「聖女様は、現在5人しかおられない。まだ見つかっていない聖女様もいらっしゃるかもしれないが…」
「先生!」
「何だ?」
「聖女様かそうでないかはどうやって判別するんですか?」
「治癒を使えるか使えないか、だ。」
「では、そもそも聖女かもしれない人を見つけるにはどうするのですか?」
「聖女様がいらっしゃるところは実りがよくなる。そういった観点から基本は探している。」
へぇ…そうなのね。他の方が質問してくれるからありがたいわ。
「聖女様はこのように非常に優れたお方だ。この学園には優れた騎士が多いと聞く。ぜひ、神殿に仕えてほしい。」
あら、結局言いたいのはそれですか…。神殿って人不足なのでしょうか?
「話は戻るが…」
あ、まだ続くのね。そうよね、時間がまだまだあるもの。もっと話すことがたくさんあるに決まっているわ。
32.聖女3
やはり話は授業の最後まで続いた。
神殿にいたときよりも多くを今回教わっているのはなぜでしょうか?こういうものは神殿でこそ教えるべきでなくて?
疑問も多いけど、まあいい時間だった。
さて、寮に戻りましょうか。考えることがいっぱいよ。
まず、土がわたくしの目の前に現れた理由。
これはわたくしかノアかが聖女だというのが濃厚だけれど、神々は魔力を持った者に聖女の力を与えないはずよ。
つまり、土にはまだ明かされていない秘密があるのでしょう。
聖女ねぇ。
血に魔力が多く含まれているんでしたっけ?魔術は使えないのに。
そして、それを求めて魔物がやってくるのですか…
あら?
たしかラーネカウティスクが来たのは、わたくしの魔力のせいよね?
似ている気がするけど…違うわよね。
例えば、ノアが魔術を使えながらも、聖女だとしましょう。
そしたら、あの時土が降臨できたのは、ノアがいたから。
そして、ラーネカウティスクがやってきたのは、ノアの血液に含まれる魔力を狙って…
矛盾しているわ。
では、もうひとつは考えたくはないので、土が聖女から離れていても、降臨できるとしましょう。
そしたら、土が降臨できたのには理由がない。
そして、ラーネカウティスクがやってきたのは、わたくしの魔力の多さを狙って。
おかしいとは言えないけれど、それだと普段は聖女様の近くにしか降臨しない神々が、なぜわたくしの前に降りてくることにしたのかが分からないわ。
では…仕方がないわね。わたくしが聖女だった場合を考えましょう。
そしたら、土が降臨できたのは、わたくしの近くだから。
そして、ラーネカウティスクがやってきたのは、わたくしの血液中の魔力を狙って。
まぁ…おかしくはないけど…神々を呼ぶのには儀式が必要よね。ありえない…はずだわ。
はぁ…この2点だけで考えてみましたけれど、全然わからないわね。
他にも選択肢でもあるのかしら?
確か、聖女であるか聖女でないかは治癒を使えるかどうかでしたっけ?
ならば、使ってみましょう。
場所はどこがいいかしら?そうね…この前土を呼び出した森にでも行きましょうか。
「少し出かけるわ。多分、すぐに戻るはずよ。」
「かしこまりました。」
礼儀正しいメイドで助かるわ。
さて、やってきたわよ。
では、治癒を使いましょう…って、どうやって使えばいいのでしょうか?使い方を知りませんのにどうしましょう?
えーと…聖女様は見かけたことはありませんけれど、傷ついた動物とかを助けられそうなイメージがあるわ。絵本でもそんな感じの扱いだったはず。
それなら、魔物をとりあえず捕まえましょうか?
あ、いたわ。カナミエーリという小型の魔物ね。ちょうどいいんじゃないかしら?
確か弱点は、水。体は熱い。それにより敵に食べられるのを防ぐ魔物。まあまあ考えられているわね。
「水!」
あらら、もう捕まえられたわ。簡単でつまらないわ。いや、今はそれはいいわ。傷をつけて、治癒をしてみるのよね。そうかんがえるとカナミエーリはちょうどよかったわ。目立つほど治癒が得意なまっものではないもの。ラッキーね。
とりあえず、治癒はどうしましょう?いつも通り、術を想像して、唱えるだけでいいのかしら?まあわたくしに治癒能力はきっとないので全力でやってみましょう。そうしたら、少しは治癒もあるかもしれないわ。もともとの素質として。
「治癒!」
そう言ったとたんあたりが白くなった。光った。暖かい光だった。
それが明けてみると、カナミエーリの傷はすっかり消え、何故か、あたりの木々や草花も生き生きしているように見えるのだった。
まずいわね。えぇ、何が起こったのかあまり自分自身でもわかっていないのだけれど、これはまずいわ。とりあえず、治癒は使えたという事でいいかしら?よくないわね。今まで魔術を使えて治癒も使えるものもいなかったのだからいいわけがないわ。
ひとまず帰りましょう。後片づけに、わたくしは巻き込まれたくはないわ。
急いで森を出ようとする。
しかし、さっきの光は森の外までいっていたようで、外には多くの人が、野次馬として見にいらっしゃっていた。
…別のところから出ましょう。
あぁもう、なぜ最近はこんなことが起こるのですか。これ以上面倒ごとはごめんですわ。
かなり遠回りする。そう、森の中を。そして、また魔物に何度も狙われるのだった。
やっと寮に戻った時は、もうまあまあ遅い時間帯。
…あ。
外出時間思い切り過ぎているわ。どうしましょうか?
…あ。メイドに確かすぐ帰ると言ってしまったわ。多分とつけていたおかげで「約束」に至らなかったのでしょうが…。怒られるわね。これはきっと。
「お嬢様!」
中から声をかけられた。メイドだった。
「外に出てどうしたの?」
「お嬢様をお探ししていたに決まっているではないですか!」
「あら…そう。遅れたことは申し訳なかったとは思っているわ。」
「謝らないでください。しかし、あとで説教ですよ。」
メイドの立場でやるなんて…などと思わなくもないが、今回悪いのは完全にわたくしだもの。言い訳もしっかりと考えっておきましょう。
「大事にはしていないわよね?」
「はい。そこはお嬢様なので心配しなくても大丈夫だろうと皆の意見が一致しましたので。」
「そう、助かるわ。あと今日はもう帰れないから宿を取ることにするわ。」
「お金は大丈夫ですか?」
「もちろん問題ないわ。」
「ではお気をつけて。」
「えぇ、またね。」
宿をとる…ね…。面倒くさいので取らなくてもいいのではないかしら?
風呂くらいは魔術で変わりができるのだし、野宿も全く問題ないわ。まあ、ばれたらお父様にもお母様にも怒られるでしょうけど。
33.聖女4
大珍事が起きた。
教会の神官長、クェーラは驚いた。
なんと、リルトーニア森で、大規模な治癒魔術が確認されたのだ。
いままで、この王都でこのような大規模な治癒魔術など確認したことがない。
クェーラの探知に引っかかるほどの力を持った聖女など、いまこの王都にはいない。この国にもいない。みんな、総本山に引っ張られていくからだ。
そして、皆権力欲があるものが多いため、乗り気でそれについていく。だから、総本山以外にまともな聖女がいることはない。
今、王都にいる聖女も大した力はなく、総本山から返されたものである。
それなのに、大規模な治癒魔術の痕跡を発見した?いや、痕跡ではない。大規模な治癒魔術が今さっき、使われたのだ。
「騎士団を呼べ。」
クェーラはこの神殿における最高権力者だ。それが慌てるわけにはいかない。あわてて取り繕う。
「はっ。只今。」
「何の御用でしょうか?」
しばらくして騎士がやってきた。
「先ほど、大規模な治癒魔術を感知した。学園近くのリルト―ニア森である。今すぐそれを使ったと思われる人物を連れてこい。」
「かしこまりました。直ちに。」
これで大丈夫だろう。
聖女は他の魔術を使えない。だから逃げ足はそこまで速くない。仮に、他の人と一緒に行動していたとしても、重石になるだけだ。
そう安心していた。
頼まれた騎士が、部下にも状況を説明し、言われた場所に向かっていると、そこの森の手前にいたのは、多くの人々だった。急ごうにも時間がかかる。
「どいてくださーい!」
呼びかけるも、みんなどいてくれない。
焦る騎士は、それでも冷静に他の行動に移った。
「一体何があったのですか?」
「これはこれは騎士様。先ほど、ここからまばゆい光が発生しましてね。それをするには神々でなければ人が行うしかないものなので、それを発した誰かが来るのを待っているのですよ。」
騎士は納得した。
そして、部下から3人を選び、ここは任せ、別のルートを張ることにした。
「二手に別れよう。」
「はっ。では私と彼らであっちを張ります。」
「助かる。とりあえず、あっちの方向から歩いてきた女性がいたら、いかにそうじゃなく見えようが、同行してもらう事!」
「はっ!」
そして朝まで張ったり森の中に入ったりしたが、夕方だったり、夜だったりで、一人もいなかった。そして、何回も魔物に襲われた。つまり、魔物を寄せることがある聖女はもっと襲われているはずである。しかし、昼間のハンターがかった後の血などはあっても、死骸とかは見かけなかった。はずれを引いたかもしれない。
しぶしぶ帰ることにする。もちろん他の騎士とも合流して。
3人の部下曰く、みんなずっと見ていたが、姿も見なかったらしい。みんな魔物が怖くて森の中までは入らなかったから、危険もなくて、聞き込みをメインにしていたらしい。
しかし、みんな一貫して、まばゆい光を見たから、誰が原因でこうなっているのか知りたくて、来た、と言っているらしい。大勢が言っていたのだから、まあまあ信頼に値する情報だろう。
そして、もう片方に行った騎士も、聖女らしき人は見かけなかったという。しかし、魔物の死骸は転がっていたから、そちらを通った可能性が高い。しかし、一撃での致命傷だったりと、戦闘技術が高そうだった上に、魔術も使っていた。だから、強力な味方でもいるのではないかと考えた。
そして、神官長にそのとおり報告した。
神官長、クェーラは驚いた。聖女と思われる人物が、強力な味方を持っているうえに、逃げ足もずいぶん早いと見たからだ。
しかし、クェーラは楽しんでいた。
この王都にいる大勢の人々から、たった一人を探し出す。これほど面白い|遊戯《ゲーム》はないだろうと。
そして、騎士の報告は、いくつかのヒントを与えてくれた。まず戦闘能力が高いものを探し、昨日の行動を調べればいい。そして、確定したら、その人物の周りの人物を全て探せばいい。もしかしたら本人が教えてくれるかもしれない。
そんな風に、神官長の心の中は、神々と同じように、面白いものを求めて飢えていたのであった。
さすが仕えるものと、仕えられるもの。中身まで似てくるようである。
今回?少し短いよ?
ま、気にしないでね。
34.聖女5
朝になった。急がないと。
昨日は結局野宿した。そして今が朝なのですが…
まだ騒がしい気がするわ。勘ですけど。しかし、そこまで外れているような気はしないのよね。
学園に向かう。校門は開いていた。
いつもより少し遅いかしら?まあ一度支度をしに寮に戻りましょう。
「今戻りましたわ。」
「おかえりなさいませ、お嬢様。今日は家に帰るということでよろしいですか?」
家か…
そうね、問題も起こしてしまったことですし、逃れるためにも一旦は家に帰るべきでしょう。
しかし、今帰ったら…このメイドもついてくるのよね。告げ口しそうで怖いわ。
どちらを選びましょう?馬車でこってり怒られればなんとかなるかしら?
けれど家に帰って何をしましょう?
今読みたいのは神々や聖女に関する本よね。公爵家にあまり置いてあるとは思えないわ。
「そうね。今日はいいわ。明日帰ることにしますわ。」
「かしこまりました。」
了承も取れたことだし、さっそく教室に行きましょうか。
「では、行ってくるわね。」
「行ってらっしゃいませ。」
「「「おはようございます!」」」
まだこの習慣続いているのかしら?いい加減やめてほしいわ。返事をしなくてもいいんじゃないでしょうか?いえ、怒られるわね。公爵家の品位を落とすだとか何とかいわれて。
「__おはようございます。__」
そう、結局は返すほかなかった。
「クラン様!」
ノアか…じゃあ無視してもいいでしょうか?怒るわけがないわよね。
そう思い、無言でいると、
「聖女様の噂、聞きました?」
そんなことを聞いてきた。
聖女様の噂?知っているわけがないわよ。
「はぁ、知らないわよ。」
「昨日、リルト―ニア森のこの前校外学習で行ったところに、聖女様が出たんだって。」
「…。」
「街の人がね、まばゆい光を見たんだって。」
「あなた…寮暮らしよね?なぜそんな噂話をもう知っているの?」
心当たりがありすぎた。しかし、ノアがそれを知るまでの心当たりはなかった。
「もちろん、一回外に出たにきまってますよ!」
それは決まっていることなのかしら?わたくしは知らなかったのだけど?
「そう、じゃあまたね。」
「ひえぇ!何で!」
無視を貫き通した。
昼食。
生徒会室に重い足を引きずりながら行くと、もう皆さんそろっていた。
「クランか。早く座れ。」
「はい…」
「今日は面白い議題があるぞ。」
「本当か!?」
何やら楽しげにしている男たち。
そんなことよりわたくしは戦々恐々していた。サンウェン様が何やら恐ろしいことを言い出したわ…。昨日から今日で変わっていることは…あの噂しか心当たりがないんですが…。まさかそんなわけありませんよね?
「皆も噂を聞いたりしたのではないか?昨日リルト―ニア森ででた聖女様の話である。」
「聞いたことがありますが…あれって本当に聖女様の仕業なのでしょうか?」
思わず口を挟んでしまった。
「どうした?お前が噂話を知っているなんて。そして口を挟んでくるなんて。」
どうしてかと言われましても…生徒会が否定すればあれはなかったことになるのではないかと考えたからなのですが…。まあ教えませんけどね。
「わたくしもわたくしなりに伝手はあるのですよ。」
「そういえばお前。昨日は寮に帰らなかったらしいな。もしかして学園外にいたから何かを知っているとかあるのか?」
なかなか鋭いご意見だわ。的を射ているもの。
「どうでしょうね?」
「そうか、しらを切るんだな。では後で話し合いをしようか?」
「いいえ、結構です。これからは口を挟まないので話は進めていただいて結構ですわよ。」
「あやしいな。まあいい。そこで神殿から要請が来た。この学校に、魔術が優れているもののうち、昨日帰っていないものを伝えよ、と。」
なぜかサンウェン様ににらまれているわ。どうしたのでしょう?
って、サンウェン様は今なんとおっしゃりました?
この学校に魔術が優れているもののうち、昨日帰っていないもの?わたくしもまさか条件に当てはまったりしませんよね?
「それが聖女様と関係があるのですか?」
「そうらしい。いわく、聖女様と一緒にいた人物である可能性が高いそうだ。」
「魔術に優れているもの、ですか…具体的にはどれくらいでしょうか?」
「具体的には?コンクルートを一撃で倒せるくらいだ。そこで、お前たちの学年にそれくらい強い奴はおらんか?ちなみに私の学年では私くらいだが、私は昨日寮にいたから違う。」
コンクルート、ね。そういえば昨日倒した魔物の中にいたかもしれないわ。
「私の学年にもいないな。私は寮にいたから違う。」
「わたしもわたし以外いないわよ。寮にいたから0ね。」
「わたくしも同じですわ。」
「私も同じだな。」
「わたくしの学年はいませんわ。」
「誰もか?」
「えぇ。」
なぜサンウェン様はしつこく聞いてくるのでしょう?
「「「「「お前(あなたは)は含まれるだろ(わよね)!」」」」」
皆に文句を言われてしまったわ。
「そりゃあやろうとしたらできまますわよ。けれど普段からする必要はありませんわ。」
「はぁ…もういい。とりあえずはクランだけ伝えておく。」
あ、サンウェン様がわたくしが朝に帰ってきたのを知っていた理由がわかりましたわ。このためでしたのね。
「どうせ関係ないでしょうしご勝手にどうぞ。」
嘘をついてしまったわ。心、ごめんなさいね。
あら?いつの間にか十分な文字数を書いていたわ…
37.調査+おまけ
前半…ミリアネ
後半…クラン
土曜日。ミリアネ・ヒマリアは神殿に向かっていた。今回ようやくアポを取れたのだ。
このまえユシエルに調べると言ってから、2週間ほどが経っていた。
神官長ってそんなに忙しいのかしら?疑問に思うも、今回はこちらが受け入れてもらった側であるから何も言えない。
しかも、神殿は少し辺境にあったのだが、そこからわざわざ王都に来てもらったのだ。そこにも文句を言える要素なんて無い。だからミリアネはありがたいわねぇと思い、指定された王都の神殿に向かうのだった。
「失礼します。」
「ようこそいらっしゃいました。私がヒエミヤです。クランさんが神殿にいたときの神官長で、今現在も神官長をやらせていただいています。」
「貴方がヒエミヤね。その時がうちのクランがお世話になりました。」
「こちらこそありがとうございました。」
「それで今日はクランの神殿のときのご様子が聞きたいのでしたっけな?」
「そうですわ。お話いただけるのでしたわよね?」
「そうじゃよ。具体的にどんな事が聞きたいのかな?」
「不思議なこと…とかかしら?」
お察しだろうか?ミリアネ・ヒマリアはこのようにほんわかとした人物なのであった。
「不思議なこと…特に何もなかったぞ?」
「ではおおまかな概要でいいわ。よろしくね?」
「分かった。」
そうして、ミリアネは、クランのことについてよく知ることが出来た。
クランは孤児院の子たちと仲が良かったこと。
そして、それが襲撃された時に孤児たちを守ったこと。しかも誰も殺さず。そのあと、孤児全員を守れなかったことを悔やんで、1日何処かに行ったこと。
そして、その後は神官長…ヒエミヤに魔術、剣術を教わっていたこと。
ミリアネは、今までより遥かに多くのことを知れた。
しかし、クランが変化したことを理解できない。
それが、ミリアネを悩ませた。
鍵になりそうなのは、1日の失踪かしら?一体何をやっていたのかしら?
それとも…孤児院襲撃かしら?あれで人を信じることができなくなった?
どっちも考えられるわね。
もちろんミリアネは、神官長が嘘ついている可能性はまったく考慮していない。
そう言えば、クランは今学園にいるのよね?一緒に帰れないかしら?
よし!行ってみましょう!
今日は予定通り図書館に行った。
もちろん昨日の夜は早く寝たいという願いは叶わず、メイドに怒られたのであった。
司書は頼んでおいた通り、神々や、聖女に関する本を用意してくれた。
そして、いろいろな本を読んでいたのだが…
「クーラン♪」
この楽しげな声は…
振り返るとやはりと言うか、お母様だった。
「何でしょうか?お母様。ここは図書館ですので静かにしていただけませんか?」
「はいはい、わかったわよ。さ、帰りましょう。」
「え?わたくしはあとでちゃんと帰りますが?」
「クラン。わたくしが、あなたと一緒に帰りたいの。いいわよね?」
これは断っても無視されるやつよね。仕方ないわ。…まだまだお母様のわがままは健在なのね。
「分かりました。では帰りましょうか。」
「ありがとう♪最近はエステルもユーリもつれなくなっちゃって…。」
まあそうでしょうね。いまどきこんな母にベッタリとくっつかれているなんて…絶対ご友人にはバレたくないでしょうね。
「司書さん、片付けもよろしくお願いします。」
「かしこまりました。」
「ところでクラン、さっきはなぜあんなに神々や聖女について調べていたの?」
「お母様はまだ噂を知らないのです…」
あ…。お母様は意外と負けん気が強いのでした。それなのに煽ることを言ってしまってはお母様の対抗心に火をつけることになってしまうわ…どうしましょう?
「知らないわ。教えて?」
「…え?」
お母様が変になったわ。どうしましょう?とりあえず家に帰ったらお父様にお伝えしましょうか。
「最近…というか一昨日ですね。」
そしてお母様に噂を伝えた。
「そんな事があったのね。で、どうしてクランが調べているの?」
「お母様、わたくしは公爵令嬢です。そういう謎もできるだけ明かそうと努力するのですよ。」
ふふん、完璧な答えよね。これで文句が言われるはずがないわ。
「そうなの?クランが?でしたら今度、お茶会に誘ってもいいかしら?」
お母様…まさかこれのために負けん気を消したのですか…。
「お断りいたします。」
「そうして、そういう場は生徒会で結構です。」
「生徒会?」
あら?伝えていなかったかしら…。そうね、入ってからこれが初めての再開だものね。
「そうなのですよ。生徒会に入りました。だからそういう場は足りています。」
「そうなの?ならそんなクランを自慢したいのだけれど…」
「嫌です。やめてください。」
「まぁ、クランもつれなくなってしまって…。お母様、悲しいわ。」
そうですか、勝手に悲しくなっていればいいわ、とはもちろん言えませんわ。
その時、
「クラン様がこの馬車にいらっしゃると聞いたのですけど…」
何かの使者がやってきたわ。
35.聖女6
「失礼いたしました。あ…」
生徒会室を出ると、そこにはヒエミヤ様がいた。
「昨日ぶりじゃのう、クラン。」
「神官長。まだ王都にいらしてたいからの。」
神官長の仕事って大変そうねい?」
「クラン、君にじゃよ。」
そこはサンウェン様を言うべきでなくて?
「神官長。場所はどこがよろしいですか?」
「ここでいい。人払いをしてもらうからの。」
「そうですか…。では、サンウェン様、少し神官長と話したいので、生徒会室を使ってもよろしいでしょうか?」
「いいぞ。そんなに重要なものは回ってこないからな。ただ…扉の前でまたせてもらってもいいでしょうか?鍵は私自身でやりたいので。」
「いいそうです。どうぞ。」
「失礼するぞ。」
「早く外に出ろ!」
サンウェン様が皆さんをせかしてくれているのがわかる。ありがたいわね。
「一体なんの御用でしょうか?」
「聖女様の話についてじゃ。」
「えっ…」
「そう警戒するな。一つ言っておくと、私はクランが神隠しにあったことはもちろん知っている。」
「何ででしょうか?わたくしは伝えたことがないと思うのですが…」
「1週間の行方不明。それが表すものは神隠ししか無いからのう。」
「もしかして、報告とかされましたか?」
「いいや、しておらん。だから安心して良い。」
良かったわ。
「それで、聖女様についてとはどういうことでしょうか?」
平静を装って尋ねる。
「クラン、君が今噂の聖女様じゃろう?」
いきなり核心をついてきたわ。
「…そのようですね。」
「やはりか。」
「黙っていていただけますよね?」
「もちろんじゃ。」
「治癒を使ってみてどうだったか?」
「あんまり…魔術と変わらないような気がいたしました。」
「そうじゃろう。使い方はそれで十分じゃ。」
「他に御用でもあるのでしょうか?」
「いいや、確認したかっただけじゃ。これで帰る。あと…」
「何でしょう?」
「今度お前さんの母親に会うことになった。魔術、剣術を教えたことと、孤児院の襲撃から守ったこと、1週間いなくなったことは1日として伝えようと思うがどうじゃ?それでいいかの?」
「それでいいですわ。ご配慮、ありがとうございます。」
「そうか、ではまたな。」
扉を開けるとすぐ近くに扉の方を向いてサンウェン様が立っていた。
「今の話、聞きました?」
「あぁ…。」
どうやら聞かれてしまっていたらしい。
「サンウェン様、お話をしましょう。」
「そうだな。聞きたいことがある。」
「まず、お前はいたずらにあったのか?」
「そうですわよ。何もおかしなことはないでしょう?。それを言うならなぜサンウェン様はいたずらを知っているのですか?」
「私も遭ったからな。」
「そうなのですね。」
まあおかしくは無いだろうな。
「一体何の呪いにかかったのですか?」
「意図的に悪いことができない呪い。」
「まあ、心は優しいわね。王族にぴったしの呪いじゃないの。」
「心様だろうが。」
「え?」
心に様、をつけるのかしら?なんというか、あんな可憐な男の子には似合わない敬称ね。
「まあいい。それでお前は?」
「わたくしは教えることを禁じられていますもの。まあいずれ分かりますわよ。」
このあと分からせて上げますわよ。サンウェン様は正しいことしかできないのであれば、聞かれたらわたくしのことを答えてしまいそうで怖いもの。
「は?バカにしているのか!? いや…いい。それよりもお前が聖女だというのは本当か?」
「知りませんわ。ただ、どうやら治癒魔術は使えるようですわ。」
「やはり聖女か。」
「それで、もうよろしいでしょうか?でしたら『約束』していただきたいのですが。」
「何をだ?」
「私がいたずらにあったこと、聖女みたいな存在であることを多言しないことに決まっていますわ。」
「しかし、私は正しいことしかできないのだが…」
「大丈夫ですわよ。『約束』していただくことによって、それが正しいこと、になるのですから。」
「信用していいのか?」
「もちろんいいですわよ。」
「分かった。では『約束』する。私はクラン・ヒマリアが聖女みたいな存在であること、いたずらにあったことは多言しない。…これでいいか。」
「いいですわよ。わたくしと神々が商人です。では、また来週、お会いしましょう。」
「あぁ、またな。」
さて、サンウェン様はいつごろ「約束」の効果に気づくのかしらね。楽しみだわ。
そして、体育の授業に入ったのだった。
さらにもう1時間したあと。わたくしは寮に帰る前に図書館によることにした。
わたくしが聖女であることはまあ可能性としてあるとして、過去に似たような人物がいなかったのかを確かめるために。明日も一応行くつもりではあるけど…できるだけ楽をしたいもの。
「すみません。」
「何の御用でしょうか?」
司書に声を掛ける。
「明日までに、神々についてや、聖女に関することが書いてある本を準備しておいてくださる?」
「かしこまりました。」
「ありがとう。」
差し出された紙にクラン・ヒマリアと書く。これで大丈夫。では今日はもう寝ましょう。
36.聖女7
サンウェンは焦っていた。
ヒエミヤ様が一体クランに何の用事だろうと、興味をくすぐられて、聞いていただけだ。別に特別なことはしなくても、耳を強化すれば、こんな部屋の声、普通に聞こえてくる。
そして、聞いた話は、納得できると共に、信じられないものであった。
クランが「神々の気まぐれ」にあったのは納得できる。そう、サンウェンも神隠しにあい、そしてそれを隠してきたものだったのだ。
そしてクランが実は聖女でもあるという話。ここらへんで頭がパンクし始めた。魔術を使えるものは、治癒魔術を使えないのではないか?
そして、そんなふうに考えている間に、話は終わり、そしてサンウェンは動けないまま扉が開けられた。
「今の話、聞きました?」
これはもう逃げれないだろう。諦めて認める。
「あぁ…。」
「サンウェン様、お話をしましょう。」
クランが誘ってきた。サンウェンとしても依存はなかった。だから返事をした。
「そうだな。聞きたいことがある。」
生徒会室の中で向かい合う。
まず、一番心労にならないものから効くことにした。
「まず、お前はいたずらにあったのか?」
「そうですわよ。何もおかしなことはないでしょう?それを言うならなぜサンウェン様はいたずらを知っているのですか?」
サンウェンは納得した。確かにそこは疑問に思うべきだろう。
「私も遭ったからな。」
「そうなのですね。一体何の呪いにかかったのですか?」
「意図的に悪いことができない呪い。」
「まあ、心は優しいわね。王族にぴったしの呪いじゃないの。」
心は優しい?サンウェンは戸惑う。私の心についてか?しかし、思い出す。心の神…心様の名前を指しているのだ、と。
「心様だろうが。」
「え?」
サンウェンは心様に無礼を働かないようにクランに注意を促す。もちろん役に立たないが。
「まあいい。それでお前は?」
「わたくしは教えることを禁じられていますもの。まあいずれ分かりますわよ。」
「は?バカにしているのか!? いや…いい。それよりもお前が聖女だというのは本当か?」
サンウェンは、心労にならないと思っていた話題だったのに、心の神を呼び捨てにしている、などと心労になりそうなことが見えてきて、あわてて話題をそらす。悪い方に。もう諦めているようである。
「知りませんわ。ただ、どうやら治癒魔術は使えるようですわ。」
「やはり聖女か。」
一体どういうことだろうか?普通の魔術を使えるのに治癒魔術も使えるとは。そんな事が起こったのなら、研究者が殺到するだろう。
「それで、もうよろしいでしょうか?でしたら『約束』していただきたいのですが。」
「何をだ?」
「私がいたずらにあったこと、聖女みたいな存在であることを多言しないことに決まっていますわ。」
約束したところで何になるのだ?
「しかし、私は正しいことしかできないのだが…」
「大丈夫ですわよ。『約束』していただくことによって、それが正しいこと、になるのですから。」
どういうことだ?
「信用していいのか?」
「もちろんいいですわよ。」
即、クランから返事が返ってきた。それが効力があるのかは分からないが、クランが満足するのならしれでいいだろう。
「分かった。では『約束』する。私はクラン・ヒマリアが聖女みたいな存在であること、いたずらにあったことは多言しない。…これでいいか。」
「いいですわよ。わたくしと神々が承認です。では、また来週、お会いしましょう。」
「あぁ、またな。」
そう言ってクランは帰っていった。
サンウェンはとりあえず神官にクラン・ヒマリアだけだったと伝える。
なんだか人を売ったみたいで申し訳なく思ったりもしたが、やることは出来たので悪いことではないのだろう。ならば、仕方がないことなのだ。そう自分を納得させる。
「なにかおもしろい情報はありましたか?クラン・ヒマリアについてとか。」
いきなり聞かれてしまったか。これは答えるしか無いだろう。すまんな、「約束」は1時間も持たなかった。
そうサンウェンは思った。
しかし、口が勝手に「知りません。」と動いた。動いただけでなく、言葉も発された。
サンウェンは、驚いた。
嘘は正しくないこと。だからこれまで意図的に嘘をつくことが出来なかった。しかし、今、自分は嘘をついたのである。
なぜだかわからないがクランの顔が思い浮かんだ。
思えば、クランは始めの頃から不思議な人物であった。
大親友エステル・ヒマリアの妹であるが、半年間、名前を聞かなかった。普通の人物かと思っていたら、ドラゴンを倒したという噂が立ち、そしてそれは事実であった。また、ヒマリア公爵がよく分からない法令も発布していたりして、少しの間話題に登った。さらに、授業でラーネカウティスクを倒したとなり、一躍時の人。そして、それなら十分強いだろうと、生徒会に誘った。しかし断られた。
なんとか誘えたが、飽きない人物だった。
そして、今も飽きない。
これからも楽しくなりそうだ。そうサンウェンは思った。
38.聖女9
「クラン様がこの馬車にいらっしゃると聞いたのですけど…」
「クランはわたくしよ。何の御用かしら?」
「神官長様がお呼びです。」
「わたくし、今から公爵家に向かうのですが…」
「ご自宅でしょう。少し帰りが遅れたところで…」
「ちょっとまってね。」
そのままグダグダになりそうだったのを、お母様が止めてくれた。
「クラン、何かしたの?」
「何もしていませんわ。」
「何かしていないと神官長に呼ばれるわけ無いわよね?」
「ですからわたくしは何もしていませんよ。」
「では、一体何が何をしたのかしら?」
お母様も話を聞く気にはなってくれたようだった。
「噂が広まったからですよ。」
「噂?もしかしてさっきの聖女の噂かしら?」
さすがお母様、鋭いわね。
「あれの候補として何故かわたくしが含まれているようで…」
「なるほど。けれどクランは違うのよね?」
「もちろんです。」
あながち嘘ではないわよね。あちらが候補に入れているのは、わたくしが聖女と共に行動しいた相手ではないかと言うことで、わたくしが聖女であることではないもの。
「なんでクランが候補に入ったのかしら?」
「わたくしがその日外出していたからです。」
「魔術を使えるのに?」
「今、彼らが探しているのは、聖女と共に行動していた、有能な魔術しらしいですので。」
「あぁ…そういうことね。では行けばいいのじゃないの?」
「行きたくありませんわ。」
「我が儘ね。」
「お母様ほどでは。」
「うふふ…そうね。」
「そうですわよ。」
「使者さん、わたくしたちは今から邸宅に帰らなければならないの。月曜日にクランなら戻ってくるからその時でお願いね?」
「しかしそれでは…」
「お願いね??」
「はい…」
お母様の押しに弱い使者ね。これで仕事をちゃんといただけるのかしら?
まあわたくしが心配することではないものね。
「あぁあ。クランはやっぱり面白いことをしていたわね。」
「ところでお母様、今日はなぜこちらへ?」
「もちろんクランのお迎えよ。」
「もう一つは何が目的だったのですか?」
「ちょっと昔の話をしていただけよ。気にしないでいいわ。」
それを言われると気にしたくなるのだけど…お母様はそういう気持ちわからないのかしら?いえ、絶対分かってやっているわ。お母様だもの。
まったく…。
「お母様、ありがとうございました。」
お母様のお陰で使者を後回しにすることができたのだもの。
「お礼なんて言わなくていいわよ。」
そう言っているものの、絶対喜んでいるのよね。お母様だもの。
「ねぇ、他になにか面白いことは無いの?」
「無いわよ。」
「じゃあ生徒会について教えて?」
そうして、家につくまで、話題を提供させ続けさせられたのだった。
「ただ今帰りました。」
「ただ今ー」
「お帰りなさい。」
お父様がやってきた。
「あぁクラン、今日は別に部屋まで来なくていいよ。ミリアネに聞くから。」
そうね。あんなに話題を提供させ続けられたもの。お母様に任せましょう。
「分かりました。」
では…図書館にでも行きましょうか。
1週間ぶりね。何だか懐かしいわ。
部屋に入ったとき、不意にそう思った。何故でしょう?
まあきっと学校の図書館に行ったからでしょう。
そう思い、考えないことにした。
聖女の本、神々の本には、全然目ぼしい情報は無かった。
これはもう神に聞くしか無いわよね?明日は狩りに行きましょう!もちろん一人でないといけないわ。
森にて。
「つーちー!」
「はーい!」
「今日はやけに陽気な登場ね。」
「いやぁ楽しませて貰っているからなぁこの2週間くらい。」
「はいはい、御託はいいわ。それより質問に答えて。何故わたくしは治癒魔術を使えるのかしら?」
「それは君が聖女だからだよ。」
「そうじゃないわよ。なぜ、わたくしは普通の魔術を使えるのに、聖女になっているのか、を聞きたいの。」
「あぁ…それは…光を呼んで聞いてくれないかな?」
「じゃあ呼んで。」
「え?」
「呼んでくれるわよね?」
「はい!呼びます!」
あら?土の反応がどうも…お母様を前にした人と同じように見えるわ。どうしたのでしょう?
「光!ちょっと出てきて!」
「えぇぇ…せっかく面白そうだったのに。」
そんなことを言いながら一人の女性が出てきた。
「始めまして。貴方が光の神様?」
「…そうよ。」
あ…そう言えば光の神が聖女を司るのだったかしら?光の神は忙しそうね。
「聞いてもいいですか?わたくしは何故、魔術が使えるのに聖女なのでしょうか?」
「光、ガンバ。」
「…ごめんなさいね。手元が狂ったのよ。」
「はい?」
手元が狂ったとは想定できなかったわ。
「だから!手元が狂ったのよ!」
「あのね…クラン。光は聖女をまあ魔力を持たないものから雑に選んで決めているんだよ。」
「そう、それで?」
「ただ、クランのときは、手元が狂っていて間違ってクランを選択肢に入れてしまった上に、その子に聖女が当たっちゃったというわけ。」
なんですかその…お遊び的な感じは。わたくしたちはこの人たちに自分の運命を委ねているのね…。恐ろしいわ。
「はあ…けど変えることも出来たのではないかしら?」
「光はね、一度決めたことを変えたくないんだ。そしてね、僕達もまあ面白そうじゃんってなって、こうなっている。」
「そうでしたの…」
けど、そうなっていなければ殺されていたのよね。でしたら神々の娯楽思考少しは救われているのかもしれないわ。
「それで?魔術持ちが聖女になると、魔術も強化されるのかしら?」
「そうだよ。」
「分かったわ。教えてくれてありがとう。光、今度またお呼びしてもいいかしら?」
「え?僕は?」
「いいよ…。」
「まあ、本当に!嬉しいわ!」
そんなふうなこともあり、この日のクランはとってもごきげんなのであった。その証拠に…魔物が大量に売られたという噂が広まっている。もちろん事実だ。
プロローグ(今さら)
「なあ、楽しいことしたくねえか?」
「「したい!」」
「だよな〜。何したい?」
「そういえば、他の世界では生き物がいるらしいよ。」
「生き物?」
「そう、自分たちと似た容姿の生き物。他にもたくさんいるらしいよ。」
「そうなの?」
「面白そうじゃん!」
「じゃあ偵察行ってくるー!」
「俺もー」
「僕も行くー!」
「私も…行く!」
そんなふうにみんなが出かけた。
そして…
「なあ、やっぱこの生き物は面白いよな。」
「だよなー」
「やっぱこいつらは作るべき。」
「ねえねえ。この生き物を強いものから弱いものまで作っちゃわない?」
「ああ、いいんじゃねえか?」
「じゃあこの魔術、っていう力も与えてみようぜ!」
「それだったらこの聖女も欲しいな、俺は。」
「いいんじゃない?この2つは一緒になれないようにしようよ。」
「だな。」
「あとは、自分たちを神として祀らせていたよな、結構。」
「ああーあったあった!あれ面白そうだよな!」
「じゃあさ、少し変更して…ゴニョゴニョ」
「面白いな!」
「じゃあ俺そうなるわ。」
「え!?私もやりたい!」
「じゃあ二人な。」
「「はーい!」」
「あとさ…この世界でこれが幻獣として存在していて…」
「よし、作っちゃえ。」
「というかさ、星はどうするの?」
「面倒くさいしどっかをパクってどっかに入れこもうや。どうせ神は一つの星くらいしか見れてねえもん。」
「だよな、作るの面倒くさいもん。」
「じゃあくじで決めましょう!」
「「いいな、それ!」」
「じゃんけんしようぜ!」
「「じゃんけん?」」
「そう、グーとチョキとパーを出して、勝ち負けを決めるんだ。」
「僕が言ったところにもあった!」
「じゃあルールはある程度分かりそうだな。じゃんけん」
「「ポンッ!」」
「やったー私だー!」
「「あぁぁ…」」
「じゃあ…えいっ!この世界になったよ。」
「うん、まあいいんじゃね?」
「だな。」
「地形はどうする?」
「どうせなら立ち入れなさそうなところを作ったり?」
「良さそうだな!」
「文明は?」
「作らない作らない。人に少し大きい脳をあげればいいんじゃねえか?」
「そうか…。まあうちらが生き残れるような手助けをすればいいんだからね。」
「「だよな!」」
そんなふうに気まぐれによって、退屈しのぎで作られたのがこの世界。
そんな世界は、果たして、世界として成り立っていた。
そう、これはそんな気まぐれのけっかに 翻弄されたりする人間の話だ。