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目次
月下人狼能力パロ 第一話「rror?」
レイト視点
あれから3時間ほど経った
クーくんは怪我を見てもらうために病院にまっきーと猫丸で連れて行った
俺は汚れた武器を大きな平原の小さい小川で綺麗に洗う
2日に一回の夜はまだ来ない
「レイト〜」
「できたよ〜」
「今行きます!」
今は湖の帰りに見つけたトトちゃんとみんなでご飯を作っているのだ
トトちゃんはいつもこんな風に過ごしているのだろうか
みんなが明るい太陽の下で焚き火を焚いている
今が夜なら綺麗だっただろう
焚き火の周りに自分も並ぶ
「はーいどうぞー」
トトちゃんが両手にスープが並々と入った木の器を持ってくる
作っている時から漂っていた芋類がとろける甘い匂いが濃くなる
「ありがとう」
両手でスプーンとスープを受け取る
器越しにスープの温かさが伝わってくる
濃いクリーム色をしたスープは少し揺れると大きく湯気を吹き出す
全員分配り終えるとトトちゃんが言う
「どぞどぞ、召し上がれ!」
トトちゃんに促され左手でスープを持って右手に握ったスプーンですくってみる
とろとろとスプーンから溢れたスープがたぷんと音を立て落ちる
まずは一口食べてみる
スープの持つ芋の甘みと温度が口の中に広がる
「…おいしい!」
「ほんとー?良かったぁ」
全員スープをすくうスプーンを急がせながら食べている
おいしいね、おいしいねと言いながらトトちゃんと笑っている
本当においしい
「トトちゃん、これ何で作ったの?」
かえでが目をキラキラと光らせながらトトちゃんに問いかける
「温泉地帯で採れた甘いお芋だよ〜」
「さつまいもって言うんだよ」
食べたことある味だと思っていたら、まさかのさつまいも
元の世界の食材と名前も味もまんまだ
本当にここがどこなのか分からなくなってくる
「さつまいも…」
「すごく甘いお芋だね!」
記憶を消されているだけあるのか
さつまいもを知らないらしい
かえで達も俺がいた元の世界からやって来て記憶を消されてしまったことが考えられる
本人に聞いても何も分からなそうだけれど
食べ終わるとトトちゃんが全員分の器を片付ける
トトちゃんは手早く器を袋に入れながら言う
「洗い物もしなきゃいけないし、君たちも暇だと思うからさ」
「うちの店、来る?」
そういうことで街まで歩いてトトちゃんの店まで来た
トトちゃんがパチパチと音を立てて店の電気を点ける
以前来た時とは少し品揃えが変わっている
「ここは商品を売るようなんだけどねぇ〜」
「こっちきて」
トトちゃんがお会計の隣のドアを開けて奥へと進んでいく
それを追いかける
閉まりかけたドアを開けて部屋を覗く
「わぁ…」
beriのその言葉を表情に表したのかのようにくろむもぽかんと口を開けている
色んな種類の武器に怪しい光を放つものや、防具もたくさんかけてある
「ここも半分倉庫なんだけどね」
「洗い物済ませちゃうから色々見てていいよ〜」
大きなリュックを下ろしながらそう言って奥のキッチンらしき場所へ歩いていく
色々と言ってもたくさんものがありすぎる
とりあえず端から順番に見てみることにした
「かえでの鞭壊しちゃったし、私が払うからさ」
「かえでいいやつ選んでいいよ」
敵対してた時の話なのに優しい
鞭がまとめて置いてある場所でしゃがみ込んでかえでが物色している
「私もまともな武器ないんだけどねぇ」
「新しく買うのも勿体無いしこれ強化してもらお」
くろむのナイフだ
あまり強そうには見えないが強化すればまだ使えるのかもしれない
俺は射影刀があるから全然大丈夫なんだがな
翡翠強化はどんなものなのか知りたいところである
トトちゃんの店裏はよく見てみると明らかに武器や防具の類ではないものが置いてある
壁に掛けてある赤い宝石と青い宝石の嵌め込まれたネックレスが目に止まる
赤い宝石は燃えるように赤く輝き
青い宝石は静かに透き通り綺麗にカットされた面を光らせている
ぼーっとその綺麗な宝石に目を惹かれていると洗い物を済ませたトトちゃんがやってきた
「終わったよ〜」
「それでそれで、アライモメ倒したんだよね?」
「その素材で武器強化していきますかー!?」
「はぁーいっ!!」
くろむのナイフを上に掲げてberiが大きく返事をする
アライモメの鱗を数枚取り出してトトちゃんに手渡す
トトちゃんがどんなふうに武器を強化しているのか気になるところだ
トトちゃんと作業場へ行くberiに俺もついて行った
俺の鎌もと言わんばかりにくろむも遅れてついてくる
「ここで武器作ってるんだぁ…」
とても暑そうな窯のそばに金床が置いてある
金床の上に置いてあった金槌をトトちゃんがひょいと持ち上げてみせる
「まずは誰からですかね〜」
beriがくろむのナイフを取り出し手渡す
その短剣を受け取るとまた別の部屋に行ってしまった
「俺の短剣なんか強化するなら新しいやつ買った方がいいんじゃね」
「新しいの買うのもったいないし、あんまり武器は使わないからさ」
「ふーん」
それだけ物を大事にできるならとてもいいことだと思う
そんな会話をしているうちに刀身の紫色に光った短剣を持って部屋を出てくる
「あっついよー!」
静かに金床の上に短剣を置いて金槌で叩き始める
カンカンと気持ちのいい音が響く
トトちゃんはアライモメの水色の鱗を刀身に直接乗っける
「えっ、そうやってやるんだ」
くろむも驚きのあまり声が出てしまっている
紫色に光る刀身は鱗を飲み込むように金槌に叩かれる
最初の形を維持したまま鱗だけが刀身に沈み込んでいく
すごい技術だ
何度も金槌で打ちつけるとだんだん紫色の光が薄くなってくる
水にナイフを付けるとじゅっと音が鳴り刀身が元の色に戻っていく
月下人狼能力パロ 第二話「2人の復活者」
レイト視点
くろむのナイフの後に鎌も強化してもらいかえでの鞭も購入した
今は俺の射影刀の翡翠強化をやってもらっている
「うーんこれは時間かかりそう」
アライモメの翡翠は青色の手のひらサイズの石のようだ
それを粉々に砕いて刀身に溶け込ませていくらしい
俺が元いた世界では到底理解できない
「おい!なにやってんだ!急げ!!」
「?」
外でずっと待っていたみんとが急にドアを押し開けてそう言う
「やばいぞ!?」
相変わらず主語がない
「なにが?」
「じゃあお前らが自分の目で見たらいいよ」
「なんか2人暴れてる」
そのときだ
パァンと少し低い銃声が響く
途中で離せないからと先に外に出るよういうトトちゃん
射影刀がないのも少し心許ないが言われるがままトトちゃんを置いて外を出た
「おいフレア!そっちの奴ら逃げてるぞ!」
「分かってるってぇ…」
---
かえで視点
外に出るとそこにはフレアとモロトフがいた
ずっとどうしてたのだろうと思っていたが街の人たちを…そんな…
モロトフが大きな銃を構えて慌てふためく人混みの中に打ち込む
紅色の花火が上がる
店から出てただ呆然とそれを見つめる
どうしてこんなことになったのだろう
「何突っ立ってんだよ!?!?」
「助けられないなら俺たちだけでも逃げるぞ」
「そんな…」
いくら無縁な人達とは言えど許し難い
クーくん達はどうしただろうか
ちゃんと生きているだろうか
今どこにいるのだろうか
心配で溢れるその気持ちを抑えつけながら私は言う
「戦いましょう」
「あ?なんだそこにもいるのかって…」
「かえで」
「お前は早くあっちにいけ」
「恩があるのにそれを仇で返すことなんて俺にはできないぞ」
「なんでこんなことするの!」
「…」
変わり果てた街の姿
あの賑やかな人たちはどこへ行ってしまった?
質問の返事は返ってこない
鞭を取り出して一度地面に打ちつける
「どうしてだって!言ってるじゃん!」
銃を床に落とすモロトフに向かって鞭を振るう
「ちょっと待って!」
トトちゃんの声だ
ゆっくり店のほうを見るとトトちゃんが手元を光らせながらこちらを見ている
「かえでずれて!」
左側にでんぐり返ししてトトちゃんの放つ紫色の光をかわす
紫色の光の弾はモロトフに命中する
フレアがそれを庇うようにしてモロトフに覆い被さる
「やめてください…」
トトちゃんに撃っている弾にダメージがあるようには見えない
フレアの反対を無視してトトちゃんはフレアにも撃ち込む
フレアはそっと倒れる
モロトフもとなりで倒れている
次々と起こる不可解には脳みそが処理を放棄している
トトちゃんの方を見上げると少し涙ぐんだきらきらした目が見える
「トトちゃん、何したの…?」
フェンリルが何か知っていそうな雰囲気でそう聞く
「そうか…ちょっと手伝ってくれるかな」
トトちゃんはフェンリルを連れて2人をフェンリルの背中に乗せる
一瞬何も思わなかったが、よく考えてみると1人でそれはだいぶ力持ちだ
店裏に戻ってモロトフとフレアをソファーに寝かせる
こんどはみんとも一緒についてきた
「ちょっとね、この2人は危険だから」
「かえでなら分かるだろう?塔に封印されていたはずだよ」
「ちょっと長くなるけど、聞いてもらえるかな…」
第1形態フェンリル(作者作)
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月下人狼能力パロ 第三話「過去か未来か」
かえで視点
モロトフとフレアの眠るソファーと対になったソファーにそっと座る
「モロトフとフレアが封印されていたのはもちろん知ってるよね」
「その封印を解いてしまったかえでにまずお説教をしたいところ」
「ごめんなさぁい…」
あれは何しても無理だった感を否めない
一応謝っておく
「封印!?」
「人間が!?」
あぁそうか
beriさん達は何も知らないんだ
「僕は封術師っていう封印を守る仕事をしてたんだけど」
「その時に僕が守ってた塔に封印されてたのがモロトフとフレアなの」
「まっきーもそうだね」
「へぇ……」
僕も何が封印されているのか知ってやっていたわけではない
謎は多い
「モロトフとフレアが封印されていた理由はちゃんとあるよ」
「私がやったからね…」
その言葉に衝撃を受ける
トトちゃんがいなければあの苦痛の日々がなかったのかという感情と
こんな危険な人を封印してくれてありがとうという感情が混ざり合う
「かえでにはごめんね」
「今まで大変だったのは知ってる」
「うん…」
汗ばむ手を強くを握りしめる
少し泣きそうになってしまう
ただちゃんとした理由があるはずだ
「理由っていうのは…?」
「あぁ、モロトフとフレアを封印したのはもう何年も前のことだったかな」
「モロトフとフレアが世界に来た時だったかな」
「今で言う10大ボスの出現、この世界の来訪者の急増、モンスターの活性化」
「これら全てが同時に起こった」
「シャンバニア王国やガルジオン王国は急増した来訪者によるもの」
「王国の建設は私も関与しているが、寄生虫や城下町などは勝手にやっている」
トトちゃんが王国に関与している…?
大事なところだけ少しぼかすのが気になる
「この世界にはこの世界の存在を維持するための強大なモンスターがいる」
「それは存在のみが知らされている」
「何年もこの世界にいる私さえ見たことない」
「そいつを倒すために、私が君たちをこの世界に呼んだんだよ」
「?」
明らかに話の流れについていけていないberiさん達
みんとが少し嫌な顔をしてトトちゃんを睨んでいる
「私が意図的に連れてきた人もいれば、私と同じように何故かしらこの世界に迷い込む人もいる」
「私もそうやって来たし、まっきーとかえでは私が連れて来てないからね」
「beri、レイト、くろむ」
「この3人だよ」
トトちゃんもこの世界に迷い込んできた人なのか
なのにどうしてみんなと違う雰囲気を纏っているのだろう
トトちゃんは前世界のことについて何か知っているだろうか
「トトちゃんも記憶がないの?」
「あるよ」
「かえでやまっきーの記憶を消しているのは私だから」
「私の記憶は消えない」
「えっ…」
記憶を消しているのが、トトちゃん?
何を言っているのだろう
「この世界はデスゲームのようなものだよ」
「私とかえで達は同じ状況に置かれているようで少し違う」
「そして君たちが前世界に生きて帰るための方法」
「それがこの世界の存在を維持するためのモンスター」
「コアを倒すことなんだよ」
「私はそのコアを倒すため主になって行動しているだけだ」
「何故かは知らないけど、私の攻撃は届かないからね」
トトちゃんですら倒せないモンスター
でも、それを倒すために前世界から人を呼ぶことすらしているのか
beriさん達が少し可哀想な気もして来た
「でも、それを倒すために俺たち呼んだってことは」
「俺とばっちり受けてるだけでは…?」
「君たちだって無縁じゃないよ」
「なにせコアを誕生させた要因は君たちにあるんだから」
「今はまだ言えないけどね」
コアを誕生させた?
トトちゃんは私と同じ方法でこの世界にやって来たはずなのに
どうしてこんなにいろんなことを知っているのだろうか
「トトちゃんはどうして記憶を消すの…?」
「かえでみたいに勝手に来た人は消さないとめちゃくちゃになるんだよ」
「私の手で管理できる人数にも限りがある」
「だから前世界の記憶を消して、完全にこの世界を思い込ませるんだ」
「まだ記憶を消していなかったときの話」
「勝手に来た人たちでチームを作ってコアを倒しに行った記録がある」
「その結果全員がコアにやられて」
「絶望の道を辿ることになった」
「…二度とそんなことさせない」
「だから私が呼んだ人たち以外は、前世界に戻りたくならないように記憶をけすようにしているんだけど」
「最近それでも戻るために10大ボス討伐のアライモメを倒した人たちが出て来たよ」
「かえで」
「まっきー」
「クーくん」
「猫丸」
「この四人だ」
月下人狼能力パロ 第四話「最後の希望」
かえで視点
「本当にこの四人には参ったよ」
「記憶を返すのはコアを倒してから」
「約束だよ」
「…はい!」
私が今ここにいることに意味がある
訳のわからないものに命をかけて封印していた頃と比べると、それだけでもずいぶん身が軽かった
トトちゃんに奪われた過去の私
これを取り戻すためならなんだってやってやる
この世界のために
今の自分のために
「あの…トトちゃん?」
「モロトフとフレア起きないけど、大丈夫?」
フェンリルが心配そうにフレアの頭を揺らしながら言う
「あぁ、こいつらも一応記憶消しておくかな…」
「これ以上封術師に迷惑かけちゃダメだね」
「え、どうして消すの…?」
レイトさんがそう聞くとトトちゃんはゆっくりと立ち上がって言う
「この世界にやって来た人の中で」
「封印した人間はこの2人だけ」
「私の力でも制御できないほど強いんだから、この人たち」
「記憶消してもそれは一時的な効果に過ぎなんだけど…」
「…じゃあやるいみないか!」
昔からトトちゃんの後先考えないですぐ行動しようとするところは変わっていなかった
少し安心しながらもそんなモロトフとフレアをどうするか迷う
なかなか話について行けていないberiさん達がぽかんとしている
「えぇっと…?」
「つまり…?」
くろむさんがさっきまでの話をまるで聞いていなかったようだ
「とりあえずコアってやつを倒しに行けばいいんだよね?」
「で、どこにいんのそれ」
「あと消えた瞬間移動取り戻したいんだけど」
「コアがそんなすぐ倒せるならトトちゃんが既に倒してるでしょーが!」
「みんとより強い人なんて沢山いるんだから、トトちゃんの攻撃が効かなくてもそういうことだよ」
「俺より強いやつがいるって?あ?」
絶対そこ引っかかる場所じゃない
「レイトの言う通りだね」
「私の攻撃が届かないと言えど、それにさえ意味がある」
「君たちの実力じゃ相手にもならないよ」
「でも君たちにかかってるからね」
「この世界を守って元の世界に戻ることができるか」
「私はそれを助けるために商業を営んでるから」
「がんばってね!」
私たちにかかってる、か
知らない間に裏では何やら色々行われていたらしい
しかも色んな人達を巻き込んで
話の展開が急すぎる
これに尽きる
「私は全て知ってるわけではないんだけどね」
「でも知っている全ては間違いだった」
「正解はないよ」
「ただ、間違いだけはあるんだ」
何を言っているのかあまり頭に入ってこない
これもいつかわかる日が来るのだろうか
私たちはただ、目の前の目標に突き進む
与えられた使命を果たすのみ
その命の、続く限り…
月下人狼能力パロ 第五話「巨大建造物」
beri視点
「とりあえず、君たちは今のまま10大ボス討伐を続けてくれればいいよ」
「アライモメを倒せる実力があるのなら、一度魔術を教えてくれる人がいるんだけどそこに行ってみては?」
「確か名前はメルアとかなんとか」
「この人は私がこの世界に来てから少し経って来た人だから長いよ」
「しかも私が記憶を消していない人だからね」
「魔術!?」
レイトが急に目を丸くしてトトちゃんを見つめる
「場所は確かねぇ、ここから泉の途中にある森にいたはずなんだけど」
「泉からフェアチオンで飛んだら早いよ」
「じゃあよろしくたのみますねん」
トトちゃんの言うメルアという人物に会いに行くために泉から森に行くことにした
アライモメの素材を売って手に入れたお金で美味しいご飯を食べて出発することになった
途中で病院に行ってクーくんと猫丸とまっきーと合流した時だった
ゴゴゴゴゴゴっと低い音が響く
同時に地面も小刻みに震え始める
落ちていた石が跳ねている
「なにこれ?」
だんだん音は大きくなっていき、地面の揺れも激しくなる
トトちゃんが店から出て来てこちらに走ってくる
「しゃがんで!!」
「え?」
音がうるさくて何を言っているのかよくわからない
何回かトトちゃんが話した後にやっと聞き取れた
全員が小さくしゃがみ込む
前の世界なら緊急地震速報の音が鳴り響いている様子が想像できる
「うわっ!!」
地面が音に負けたように裂ける
裂けたところから白いコンクリートのような柱がしゅるしゅると伸びてくる
ここだけじゃない
街中から伸び始めている
少し遠くから伸びている柱も見える
その柱は全て一直線上に伸びている
私たちの真ん中にも柱が通って伸びているのだ
せめて全員同じ場所に移動しようとする
数人がその柱を挟んで入れ違いになる
「あわわ」
私が反対側にいるレイトをこちら側に引くために手を伸ばした時だ
ずっと鳴り響いていた低音がさらに大きくなり柱の部分から地面が割れ始める
柱と柱、ずっと続く柱が交互になって左右に動いて2つの地面を引き離す
距離がどんどん広がっていく
陸と陸の間には白くぶあつい雲が顔を出す
レイトとまっきー、かえでにみんととわんこが反対側に残ったままだ
フェンリルが空を飛んで助けようとした時だ
空からも白い柱のようなものが雲を突き破って下に降りていく
この世界は2つに分断されてしまった
---
6年前
トトちゃん視点
図書館はやはり面白い
誰が書いたのかこの世界の過去記録がたくさん載っている
その中でも気になる本を見つけてきた
「天空國存在説」
私はこの本に記されていることの半分は間違いだと思う
行方不明者関連は本当のことだと私は考える
そしてさらに気になるのが最後のページ
時の塔のついてだ
この場所に最初に辿り着いた者が真実を知り、永遠に続く使命に囚われ続ける
かっこよく書かなくていいからわかりやすくして欲しいものだ
時の塔に行けばこの世界についても少しわかるかもしれない
その後に起きる、△※など知らずに……。
月下人狼能力パロ 第六話「過去の記録」
第五話の続きのトトちゃんの過去視点になります
6年前
トトちゃん視点
そして私は時の塔に向かうことにした
時の塔に行くまでに色んな人に会った
この世界にも色んな人が毎日を生きている
そんなことを実感した
この世界から抜け出そうとする自分のような人もいる
その一方で完全に慣れてそのまま住もうとする人もいた
どちらが正しいのか、私には分からない
時の塔はここからすごく遠い場所にあった
中央の街から1ヶ月ほど歩いて行った
ただ、歩いて2週間とすこし
塔の姿が見えた
とても大きな塔だった
とても高い山の上から見たはずなのに、雲の天井を突き破って伸びる塔
見えていてもそこから5日ほどかかったのだ
塔の真下に来た時
その威圧感は半端なかった
白い塔の先は見えない
宇宙まで届いているのだろうか?
塔に近づくと、自動ドアのように何もないように見えたところがパックリと左右に開く
導かれるように塔の中へと入っていく
中心には紫色の光を放つ手のひらサイズの水晶玉のようなものが浮いている
水晶玉以外には何もないので、触ってみることにした
優しく触れるとだんだん光を失っていく
離すすとまた輝きを取り戻す
今度は長く振れてみる
じっくり、ゆっくり
光が完全に消えた時
水晶玉はころんと床に落ちる
光を失った水晶玉がこちらを見つめている気がする
水晶玉にはどこからか差し込んできた光が反射している
自分の顔が少し映っている
その水晶玉に映った目は水晶玉と同じ色をしていた
---
問題は帰りに起きた
急な地震の後に地面から白い柱のようなものが生えてきた
地形がそれぞれ分断されてしまいどうにも通りにくくなってしまった
それを街の人たちと一緒に吊り橋をかける作業も手伝った
この世界の謎は多い
自分1人で探しに行こう
そして私は絶対に
元の世界に変えるんだ
時の塔は自分である程度整備し、もう少し近い場所に建て直した
水晶玉と塔の建材をそのまま持ってきただけだが機能しているのでまぁいいだろう
それより私と同時期に来たメルアが心配になる
森の吊り橋をかけるついでに寄ってみることにした
---
現在
かえで視点
地面が、割れていく
beriさんたちが必死になって手を伸ばそうとしてくれる
どんどん境目が開けていく
こんな大きな場所もあっという間だ
フェンリルが急いでこっちに飛び立とうとした時
下から勢いよく伸びてきた柱に阻まれてしまった
そのままberiさん達の姿は完全に見えなくなってしまった
白い柱に押されている感覚だけが残る
一緒にこっち側にいる人がいるだけまだいいけれど
一体どこまで行くのだろう
ほんの少しだけ残った街の地面
周りは一面白い壁
「この壁破壊できたりしないかな」
みんとが剣を抜き出しながらそう言う
わんこがうそでしょ!?なんて言ってみんとを止めている
「逆にこれ以外何ができるって言うんだよ!」
みんとが剣を振るうとドンッと鈍い音が響く
剣で壁が切れる方がおかしい
「あれ?この中誰かいるの〜?」
壁越しにぼやけたトトちゃんの声がする
全員がハモって、いるよー!と言うとトトちゃんの声は聞こえなくなった
「危ないから端っこに寄っててねぇ〜」
トトちゃんもしかして…
この壁を!?
左側にできるだけ寄ると次の瞬間右側の白い壁が破壊される
その強さに呆然としているとトトちゃんが言う
「beri達がどこの壁にいるか知らないよね?」
「めんどくさ…」
外に出てみると周りにもたくさんの壁に囲まれ小さく分かれた地面がたくさんあった
大陸と言っていいのだろうか
これでは小陸だ
「これ、過去にもあったんだよね」
「だからところどころ吊り橋になってるんだけど」
割れ目を覗いてみると分厚い霧のようなもので下は見ることができなかった
確かに吊り橋と同じ光景がそこにはあった
「ここら辺だけで良かったよ本当に」
「だってこれ全部に吊り橋かけたら…想像するだけでもごめんだよ」
フェンリルがここにいれば良かったなとふと思う
わんこを投げても飛べないだろう
僕が今乗っている陸地は他と比べるとまぁまぁ広く、トトちゃんの店も半分程度残っている
もう半分はどこへ行ったのやら
「こんなところもうどうしようもないから別の街に避難しよう」
「ここから12キロ」
「歩ける?」
「えぇっ…12キロも歩かせるのかよ」
「フェアチオンは使えないみたいだな…」
全員の視線がわんこに集まる
「え!?嘘でしょ…」
月下人狼能力パロ 第七話「わんこ号」
フェンリル視点
なんとラッキーなことだろうか
白い柱に横40cm縦50cmほどの隙間ができていた
僕はもちろんこの姿で通ることはできない
人間型になるってもギリギリ通れないだろう
全員で会議が始まった
「この中で1番小柄な猫丸に行ってもらおうか」
「え、ちょっとまってよクーくん」
「僕外に出られても何もできないよ?」
確かにそれはそうだ
外に出ることができてもそこから全員を出す方法を見つけてもらわなければならない
「じゃあ、beriとか?」
「え!私!?」
「くろむのほうがまだ役に立つんじゃない?」
「だってほら、脱水症状で倒れたら終わりだよ?()」
くろむもなかなかに細身で通れそうな気がする
詰まったら蹴るだけ
極悪だ
「行ってくれるよね?」
「行かないと乗り物にするよ?」
猫丸が訳のわからないことを言って圧をかけている
「えぇ…俺1人…?」
「僕は通れないから除外してね」
そうなるとサイズ的に猫丸とberiのみになる
「しょうがないなぁ…」
beriが解けかけた髪を高めのポニーテイルに縛り直す
ふわっとシャンプー甘い香りと共に冷気も鼻に届く
結局くろむとberiで外の調査に行くことになった
---
レイト視点
全員がわんこに乗って移動する気満々である
「そんなに歩きたくないの〜」
「しょうがないなぁ、ちょっと待っててね」
トトちゃんが半壊した店に向かって行く
帰ってきたトトちゃんはなにやら馬車のようなものを引いている
わんこが一歩後退りをする
「これ、引いてもらおーかなー?」
まるでわんこを馬みたいにしてベルトを首や頭にかけて行く
なんだか少しかわいそうな気がしてきた
わんこがガクガク震えている
トトちゃんが馬車のドアを開く
「どうぞ〜」
みんとから一番乗りで中に入って行く
流石にこのままではかわいそうなのでわんこにスピードのポーションを投げておいた
一応力のポーションも渡しておいた
「これすごいや!」
「なんか行ける気がする!」
トトちゃんが隣の陸地に大きな板をかける
わんこがうーうー唸りながら馬車を引く
車輪はゆっくりと回り始め勢いをつける
板に差し掛かるとカタカタと音を出しながらも進んでいく
トトちゃんは板を何枚か取り出してきて馬車に積んだ
これなら楽ちんだ
「わんこ号しゅっぱーつ!!!」
いつのまにかみんとがわんこの綱を握っていた
王国の兵士のくせにいいご身分だ
かえでがくすくすと笑っている
その時だけは今起きている不幸さえ幸せに思えた
かたんことんと音を立てて走る馬車はまるでゆりかごのよう
かえでも俺もすぐに眠ってしまった
月下人狼能力パロ 第八話「雑魚とは」
くろむ視点
beriと全員を助けるために何か探してくるのはいいんだが
さっきからフィーロンとやらに噛まれた左足が痛む
少し引き摺って歩くしかないがberiに迷惑をかけるわけにもいかない
できるだけ見つからないように少しberiより後ろを歩く
はやく何か見つかればいいけど…
「何かって言っても、どうすれば全員出られるかな」
「あの白い壁を壊せるくらいの武器とか?」
「くろむは何がいいと思う?」
「…」
beriが何か言っている
もうすでに普段の会話にも集中できなくなっていた
少し時間が経ってから返事をする
「あ、うん…」
「…?」
「あー武器ってこと?」
「何かあるかなぁ」
「トトちゃんとも別れちゃったし、うーん…」
足の痛みと同時に頭まで痛くなってきた
一瞬視界がぼやける
明らかにおかしい歩き方になってしまうのでberiの真後ろにつくことにした
「おーい?」
beriが後ろを向く
クラッと脳の命令が途切れたかのように左足から崩れ落ちる
その場で少しうつ伏せのような形で倒れてしまった
「え?大丈夫?」
「大丈夫なはずないか」
「レイトがいればよかったー!」
うっすらとそんな声が聞こえた
そこから先は一切覚えていない
---
beri視点
本当に困った奴だ
体調悪いなら行けないと言ってくれればよかったのに
ここの陸地に渡ってくるために置いた氷の板はもう溶けてしまっているだろう
これ以上能力を使ったら私まで危ない
とりあえずくろむは放置して自分だけなんとか帰るか
それとも一旦別の場所に移動して助けを待つか
この陸地の端にギリギリ生えている木のそばまで移動させることにした
半ば転がすようにして木の根元付近までくろむを移動させると誰かの声が聞こえてきた
「そこの旅人さん」
「トトちゃんという人を見てないですか?」
その声は優しく語りかける
私はそっと後ろを振り返る
そこには灰色の肩まである髪をさっとかきあげてこちらを向いている人がいた
女性とも男性とも言えない服装で、魔法使いみたいな帽子をかぶっている
「トトちゃんですか」
「この地割れで離れ離れになってしまって…」
「あなたは誰ですか?」
「私の名前はメルア」
「トトちゃんに呼ばれてきたんです」
「それよりそこの少年大丈夫ですかね」
「ちょっといいですか」
メルアと名乗る人物は明らかに顔色の悪いくろむを上向けにする
かぶっていた帽子のふちをを右手で掴んで言う
「これは…トトちゃんと合流するほかないですね」
「フィーロンの長にでも噛まれたのでしょうか」
「だいぶ毒が回ってるので私の呪文なんかじゃ無理ですね…」
メルアさんはくろむの上で手をくるくると回し始めた
緑色のエフェクトが弾ける
くろむのフェアチオンの数値が動くのが見えた
「応急処置くらいしか出来ないですがトトちゃんのところまで移動しましょう」
メルアざんが腕を振り上げると白い光線のようなものが奥の陸地へと伸びていった
メルアさんの能力なのだろうか
「トトちゃんはこっちですね」
白く伸びた方向にメルアさんが指を指す
くろむを頑張って歩かせながら向かうことにした
月下人狼能力パロ 第九話「残された者」
猫丸視点
beriさんとくろむさんは行ってしまった
白い壁の中の小さな陸地の中に居ることしかできないのだろうか
みんなもすっかり静まり返ってしまっている
沈黙の数十秒を切り裂くそれは急だった
小さな陸地に亀裂が入ったのだ
先程のようなことにはさせまいと人数が少ない方が多い方の陸地に乗り込む
割れた小さい方の陸地は下へと落ちていく
落ちて行った陸地の部分だけぽっかりと穴が開き下を覆う雲が露出する
下を見ている間にも自分たちが乗っている部分も傾き始めた
「これやばくね」
翼を広げるフェンリルの上に急いで乗る
僕とクーくんが乗ったフェンリルは狭い空間の中で羽ばたく
今さっきいたはずの陸地はボロボロと崩れ落ちていく
もう地面がないと思うと急に怖くなってきた
フェンリルの背中から届きそうなところにberiさんとくろむさんが出て行った隙間がある
僕だけでも隙間から脱出しようかとも思ったが、自分だけという訳にもいかない
そんな間にも陸地は減っていきあっという間に周りを覆う白い柱だけになってしまう
もう降りる地は見えない
どうしよう、どうしようと痺れた空気が伝ってくる
冷や汗が額を流れる
「ずっとは無理だよ…っ」
狭い空間で小さく羽ばたくフェンリルがだんだん下に下がっていく
クーくんは剣を壁に突き刺してなんとか自分の分の体重を浮かそうとする
フェンリルの尻尾が雲に触れる
クーくんも涙目になりながら剣を立てるが意味を成していない
何かがぷつんと途切れるように僕達は落ちてしまう
雲の中には何もなかった
分厚い、分厚い雲の中をひたすらに落ちていく
少しは広い空間に出たならばフェンリルがまだ羽ばたけたが白い壁は続いていた
肌にぶつかる初めての感覚に慣れた頃だ
下に水がキラキラと反射したのが見えた
「僕の上に寄って!」
フェンリルが穴の中心で一生懸命に翼を広げている
落ちながらもなんとか壁を蹴る
ザッパーーーーーーーン
僕達はまるでダストシュートに飛び込むように水に落ちる
大きな水飛沫が舞う
あまりの勢いにフェンリルは水中に沈んでいた
フェンリルのもふもふクッションのおかげで僕とクーくんは無事だ
「うぶぶっどっどいてっ」
フェンリルの上からどくと水面を覆っていた翼が青い光となって消えた
それどころか狼の姿から人間の姿に変わる
「え…?」
「あれ、おかしいな。変えてないはずなのに」
この水に浸かっていると変な気持ちがする
何かが体から抜けていくような感覚だ
少し身が軽くなったようにも捉えられる
「この水何かおかしい…」
「急いで出よう」
月下人狼能力パロ 第十話「地下層」
猫丸視点
周りには何もないが上を見上げると白い柱が空中から上へと伸びている
おかしな話だ
「とりあえず移動しよう」
僕がそう言うとクーくんとフェンリルが僕の後ろについてくる
クーくんは金属の鎧を着ているせいでものすごく動きが遅い
フェンリルは狼になろうとしてもここではなれないらしい
人間の姿のままクーくんをなんとか引っ張るフェンリルが見える
「鎧ここで置いてっちゃだめかな…」
「すごい重いんだよね…」
この先に何かあったら大変だがここで時間を食うのも如何なものか
「一応着ておいたら?」
「肩車するよ」
それでもかなり細身なフェンリルはクーくんをひょいと持ち上げる
フェンリルがクーくんを肩車…
なんとも萌えしか生まれないその絵面にしばらく目を釘付けにされていた
フェンリルは人間になっても乗り物になる運命らしい
そのまましばらく進んでいくとやっと陸が見えた
後ろからはフェンリルがはぁはぁ言っている
クーくんがなんとも申し訳なさそうにあと少しだからと言って降りる
水から上がるとやっと地に足をついた感覚を取り戻す
地面は固まった土で出来ておりその奥には木の家が立っている
「フェンリルありがとう」
「重かったよねごめん」
「全然大丈夫!」
「というかここでは狼になれるんだ」
フェンリルが狼の姿になってみせると尻尾をパタパタと振った
こんな大きな狼でもかわいいんだなとberiさんの気持ちが少し分かったような気がする
「あの家行ってみる?」
「なんか煙突から煙出てるし誰かいるんじゃないかな」
水を吸い込んで少しぐちゃぐちゃいう土を踏みながら家へと向かう
びしょ濡れになって少し寒いから少し入れてもらおうかななんて考えていたのも束の間
どうやら向こうから歓迎会を開いてくれるようだ
斧と小さな木の盾を持ったTHE野蛮人のようなものが出てくる
人というよりは肌は緑色でツノが生えているのでゴブリンに近いかもしれない
「おいおいテメェら何してんだよ?」
「オレサマオマエマルカジリ」
「ここは俺たちの場所だぞ」
「ゴミ人間どもは上に上がれよ」
3人のゴブリンはどうやら大層豪華な歓迎会を開いてくれるようで花火(爆弾)も持っている
真ん中に立ったゴブリンがシュッとマッチを擦り花火に点火してこちらへ投げてくる
クーくんがその爆弾の近くに寄り鎧に溜まった水をかける
ゴブリン達はなにあいつみたいな目でじっと見ている
「こんなもんですか?」
「串刺しになりたいのならこちらにどうぞ」
クーくんが剣を引き抜きゴブリン達へと向ける
「ひ、ひえぇえ」
「こいつら俺たちより頭いいぞ…」
「す、すみませんでしたぁあああ」
「スミマセンデシタァ」
3人のゴブリンは僕達の横を通り過ぎると水に飛び込んだ
その先はどうでもいいので家にお邪魔することにした
「流石だねクーくん!」
「あったまいい!」
「シャンバニアの王国は教育にも手を入れてたからね」
「そういえばフェンリルってどこ出身?」
「前世界じゃなくてこの世界で」
「それがよくわかんないんだよね」
「まぁ知らなくても大丈夫だろ」
「この世界で生きていけるほど強いんだから!」
全員で笑ってその日は過ごす
家の中の3つのベットをお借りしてそれぞれ眠りについた
月下人狼能力パロ 第十一話「新しい街」
神視点(誰の視点でもないただ状況を説明するだけの視点)
クーくん達はその後木の家にあったハシゴを組み合わせて地上への脱出に成功
位置的にはberi達よりトトちゃんと近い場所に出る
beri達は順調にトトちゃんの方向へと進んでいる
わんこ号はそろそろ街に到着予定
---
トトちゃん視点
ストックしておいた板も無くなってきたがやはりここら辺の地面は無事だ
もうひとつの街が見えてきた
わんこもそろそろ限界だろうし宿屋の予約を取っておいて良かった
イタリアのような街並みとは変わってオーストラリアのような、少し近未来的な建物も見える
今回は少しだけお高い宿だ
宿というよりホテルといった方がイメージが合うだろうか
ゆっくりと沈みかけた太陽が夕暮れ色に輝く
透明なガラスに反射する夕暮れが眩しい
ギイギイと音を鳴らしながら回る車輪を照らす
街の中へ入る前に馬車は停めておいてわんこのベルトを外す
「やっと着いた…」
わんこがその場で寝っ転がり大きく息を吐く
馬車の揺れが止まりかえでとレイトも出てくる
大きく伸びをした後街の中へ入っていく
いろんなところにある階段が上がり下がりしていてまるで迷路のようだ
入ってすぐのガラス張りになった高いタワーに入る
外はそこまで暑くはないけれどエアコンがかかっている
私の知らない間にここまで発展している街があったらしい
この世界も何千年と前からあるので元の世界より発展していてもおかしくはないわけだが
「ここが宿?」
「めっちゃおしゃれ…」
かえでがガラス張りになった壁から外を見つめている
「宿というよりホテルじゃね?」
「…ん?でも違いわかんねぇ」
「宿は和式でホテルは洋式なんだろ」
「だからここは多分ホテル」
レイトは要らないことばかり知っている
でもたまに役立つことも覚えてるからやっぱり記憶消さなくてよかったなと思うこともある
すぐに受付を済ませて部屋の鍵をもらう
「うーわエレベーターまで透明かよ」
「マジでやめてくれ…」
みんとはしゃがんでエレベーターに乗った
男のくせに情けない
レイトとかえででみんとを散々罵倒しながら部屋にたどり着く
カード式の鍵を隙間に通すと自動でドアが開く
初めて見る光景にわぁ…と子供みたいな声が出てしまう
壁にはハンガーがあったり真っ白で綺麗な洗面台や風呂が用意されていた
ベットもちゃんと4つある
よくよく考えてみればわんこの分を数えていなかったがなんとかなるだろう
今から移動するのも疲れるのでホテルのバイキングで食事を済ませることに
バイキングではポテトサラダやナポリタンなどおしゃれなものからプリンやケーキなどのデザートまであった
かえでは甘党なのかデザートをひたすらに盛っていたりみんとは麺類が好きなのかナポリタンに色んな種類のソースをかけて食べている
私とレイトは比較的バランスよく食べていた
食事だけでも個性全開で面白かった
その日はすぐ風呂に入って眠ることにした
月下人狼能力パロ 第十二話「独り」
まっきー視点
ぬるい風が頬を撫でる
太陽が沈みかけている
「ん…?」
起き上がると同時に何かに頭をぶつける
白い柱が曲がって伸びていたようだ
「そうだ、みんなが閉じ込められた時に俺だけ抜け出したんだ」
辺りを見渡しても人の姿はない
置いて行かれてしまったのだろうか
陸地と陸地の間に板がところどころ置いてある
これを通って先に進んでいったことは間違いないだろう
このまま1人でいるわけにもいかないので置かれた板の上を渡っていくことにした
---
レイト視点
ホテルで食事を済ますと終わった人から部屋の風呂に入っていく
「トトちゃん出たよー」
ほぼデザートしか食べてなかったかえでが1番早かった
まだみんととわんこは食べているようで一向に帰ってこない
俺は疲れ果ててもうすでにベットに横になっている
トトちゃんがはーいと返事をして風呂場まで歩いていく
「たっだいまぁ〜」
みんととわんこが帰ってくる
わんこのためのペットフードまで用意されていてよかった
みんとが風呂場に入っていく
「あっみんと」
「スゥゥゥゥゥゥゥ」
ドアを開けてそっと閉める
すりガラスになっているドアにばしゃっと水がかかる
これはだいぶお怒りだ
「みーんーとー???」
かえでがみんとのほっぺたをつねって部屋まで引っ張っていく
いたいいたい言って抵抗するみんとをゆっくり押しているわんこも面白い
その後トトちゃんにど叱られながらも全員風呂に入った
「そういえばわんこに聞きたいことがあるんだけど」
ふたつの向かい合ったソファに全員座った
トトちゃんとわんこを囲むようにして覗き込む
やることがないのは同じらしい
「聞きたいことって?」
「なんで絢爛の宝珠の存在を知ってたか気になるんだけど」
「まず記憶消してるのは私だから絢爛の宝珠を壊しても何もならないんだけど…」
「私もガルジオンの兵士から聞いた話だからよく分からないんだよね」
「トトちゃんは何か心当たりあるの?」
「あの絢爛の宝珠はコアの体の一部のようなもので、あれを全て破壊すると弱体化できるらしい」
「でもそれをガルジオンの兵士が守ってる理由がよくわからない」
半自動的にわんことトトちゃんはみんとの方向を向く
「え?俺?何も知らないんだけど」
「役立たずめ…」
「あれはごめんって」
トトちゃんは少し残念そうに電気のボタンをぽちぽち押す
「明日の朝は早いからね」
「おやすみ〜」
それぞれベットの場所に移動する
だがわんこの分が明らかにないのだ
わんこは仕方なくかえでの横で丸くなって寝ている
かえでがそんなわんこを抱き寄せてもふもふしてるのが羨ましい
とってもあったかそうな抱き枕だ
月下人狼能力パロ 第十三話「狂」
beri視点
「あの街のホテルに泊まってるのでしょうか…」
「方向的にかなり都市化の進んだ最先端の街がある方向なんですよね」
「そこならくろむさんもしっかり治せる病院くらいあるだろうと思いますよ」
くろむはメルアさんと両方から支えながらなんとか歩かせている
ほぼくろむは浮いたような状態で歩いているがだいぶ具合は悪そうだ
正直言ってさっきから何かおかしい
くろむが肩を掴む力がだんだんと強くなっていってる気がする
急に体重をグッとかけられたりしてよろめくことすらある
「ゔ…ゔぅ…」
「?」
狼のような唸り声が聞こえる
くろむが言っているのだろうか
「ゔゔ…ゔぅゔ…」
だんだん声は大きくなっていく
メルアさんも不信感を抱き始めくろむを横目に見ながら進む
するとメルアさんが地面の出っ張りに足を引っ掛けてしまいくろむから腕が離れる
メルアさんが地面に手をつく
「ゔゔぁぁあああ」
その瞬間
くろむはメルアさんの右肩に思い切り噛みついた
しかも陸地ギリギリだ
あと少しずれていたら下に落ちてしまうだろう
急いでメルアさんを反対側に引っ張る
噛みついたままのくろむの目からは光が消えていた
死んだ魚の目という表現が1番あっている気がする
メルアさんがくろむをなんとか振り払う
「どうしたんでしょう…」
くろむは噛みついた時の体制のままその場にとどまっている
たまに唸り声を上げながら噛みついてくるくろむ
メルアさんと街にたどり着く前に何かあったら…
その状態のくろむを引いて街に行くのも大変だろう
少し落ち着いているうちにくろむを担いで移動する
「はぁ…はぁ…」
暴れるくろむを抑えながら移動するのには相当な労力が必要だ
息を切らしながら移動する
心なしかくろむも苦しそうにしている
「見えました、あそこの街です」
だいぶ近未来的な建物が見えてくる
もうあたりは真っ暗だ
くろむは疲れ果てて全体重をメルアさんと私に託してくる
重すぎて置いていってやろうかなんてことも思ったくらいだ
メルアさんの案内で病院まで歩いていく
通りすがる人たちに変な目で見らる
病院の中はかなり涼しく疲れた体をすっと冷やしてくれる
くろむを診察させて無事入院させることに成功したのでとりあえずこの街に来ているトトちゃんと合流しなければならなかった
「ホテルとかで泊まってるんでしょうね」
「くろむさんはお医者様に任せてホテルを見に行きましょう」
朝になれば透き通ったガラスは綺麗に映えるんだろうなと思いながら辺りの建物を見つめる
ここだけ別の空間みたい、時間がここだけ早くすぎていっているのかというくらいには異様な風景だったのだ
ホテルに到着して受付さんにトトちゃんと言う人物が来ていないか尋ねる
「トトちゃんさんなら503号のお部屋にいらっしゃいます」
「今確認をとりますね」
敬称をつけるとトトちゃんさんって呼ぶらしい
確認をとってもらってる間に少し休憩することにした
月下人狼能力パロ 第十四話「絶対足りてない」
beri視点
「許可をもらいましたのでこちらの鍵をお渡ししますね」
受付さんからカードのようなものを受け取ってエレベーターに乗る
メルアさんも疲れているようでエレベーター内では無言の時間が続いた
ドアの開く音が目立つ
「503号はあちらですね」
「にしてもこのホテル豪華だよね…」
「トトちゃん金持ち〜」
「あれだけ商売やってればおかしくないですもんね」
ドアの前に立った時だ
ゆっくりドアが開く
「あ!!!beriさん!!!」
「え?」
わんこが一生懸命に後ろ足で立ってドアノブを掴んでいる
トトちゃんが急いでこちらに走ってくる
「メルア!あれ持ってきた?」
「も、もちろん」
「相変わらず元気ですね…」
「とりあえず入ろ?」
ホテルなので靴はそのままで上がる
カーペットを靴で踏むのには少し罪悪感が生まれるのは私だけだろうか
みんなはもう寝ようとしていたらしく、ベッドに入っていた
「今いないのはフェンリル猫丸クーくんにまっきーかな?」
「とりあえず座って座って」
メルアさんは背中に背負っていた鞄を二つのついになったソファの間にテーブルに置く
私には分からないような言葉をトトちゃんとメルアさんは唱えていた
この世界の謎は深すぎる
しばらくはそのままで待っているとトトちゃんが話を振ってきた
「今ベット4つしかないんだけどメルア達どうする?」
「今満室らしいから別のとこ行く?」
「ここでなんとか寝れるなら全然それでいいんだけど」
トトちゃんがわざとベッドで待機している人たちに聞こえるような声で言う
レイトとわんことかえでとみんとがそっと上半身だけ起き上がる
「私はトトちゃんの隣お邪魔しようかな」
メルアさんはトトちゃんと長い付き合いらしいしそれはいいと思う
だが問題は自分だ
かえではわんこがいるし3人はきつそうだ
そうなるとみんととレイトのどちらかとなる
「あーソファで寝ようかなぁ()」
寝れないこともないだろう
足を伸ばしてもちゃんと眠れそうだ
「俺のとこ来る?」
みんとが満面の笑みでそう言う
みんとの隣なんかで寝たら次の日には蹴飛ばされて床で寝てそうだ
あいつ絶対寝相悪いにきまっている
必死に頭を左右に振って否定する
「じゃあ俺は?」
レイトは一瞬ありかなと思った
だが問題はこいつの起きる時間にある
4時なんかに起こされてたまるものか
そしてなんともレンコンの匂いがしそうである
全くしないが
結局はわんこがソファに行ってかえでの隣で寝ることにした
やっぱり女の子なだけあって臭くもないし寝相だっていい
案の定レイトは早起きすぎるしみんとは毛布をめちゃめちゃにして枕に足が乗っかっていた
本当にかえででよかった
メルアさんとトトちゃんは店に行っておにぎりでも買ってきてくれるらしい
そんなに休んでいる暇はない
フェンリル達はそのままだし、まっきーの居場所は見当もつかない
くろむだって心配だ
顔を洗って布団を適当に整えておく
トトちゃんの小説(?)を宣伝いたします
https://tanpen.net/novel/series/c86f9cb1-04f7-44c5-8323-740883dd1114/
くだらなすぎて面白い話がたくさんです
短くて読みやすいし投稿頻度も高いのでおすすめでございまし
まっきーのも宣伝しておきます
https://tanpen.net/novel/series/bf7e0f14-d4cb-4722-9617-f91ad353289f/
私には難しくてよく分からないんですが
第二章まで行ったらしいので理解できた方教えてください
月下人狼能力パロ 第十五話「エクスタシー」
beri視点
「トトちゃん達遅いね〜」
「10時までだっけ?」
「もう9時半なんだけど間に合うかなぁ」
「おにぎりはホテルで食べれなそうだね」
「みんと見に行ってきたら?」
「なんで俺なんだ殺すぞ」
みんとがレイトを睨みつけながら言う
「まぁまぁ…」
仲介のわんこも自分が非常食にならないか心配だろう
わんこ肉も美味しそうではある
ホテルの人に焼肉セットがないか聞いてこなければ
「俺見に行ってくるわ」
「ホテルのとこで買ってるよね」
レイトはそう言って部屋を出て行った
私たちもあと30分で出なければいけない
「beriさんどうする?」
「もうちょっと寝とく?」
かえでがわんこをもふっている
もう少し寝るにしても中途半端だ
「かえで眠いなら寝てていいよ」
「はぁい」
ばっちり起きているわんこを抱きしめながらかえではベッドに入った
助けを求めるかのようにわんこはこちらを見てくる
ソファに座ってそれを見ている
すると急にドアが開いた
「くろむが!!」
「はやく来てくれ!」
レイトが息を切らしながら叫ぶ
かえでも飛び起きて一緒に外を出る
ホテルを出るとそれはもうひどかった
くろむが病院から抜け出してしまったのか
道路の真ん中で車を立ち往生させている
その目はもう生きている人間の目ではなくなっていた
くろむはその場をずっと動かない
全力で走ってくろむの元へ行く
階段を飛ばし手すりを滑り降りて、まさに都会の迷路を潜り抜ける
トトちゃんとメルアさんはくろむのいる道路の上にある橋の上にいる
くろむがいきなりこちらを向く
口を大きく開いて飛びかかってくる
「ひゃぁっ」
そのまま突き飛ばされまたひとつ下に落ちる
メルアさんがかっこよく着地を決めてくろむを取り押さえる
そんなメルアさんの抵抗も虚しく振り放されてしまう
その時だ
「…!?」
吸い込んだ空気が喉を通らない
げほげほと咳き込んでしまう
咳き込む息も出ないほどだ
胸が苦しい
半自動的に首に喉を当てる
くろむは私に向かって手をかざしている
呼吸器官停止…
絶対日常生活で使わないこの言葉が頭に浮かんだ
くろむの能力も使い方を誤れば危険だ
視界が掠れてくる
消えゆく意識の中
そんなことを思っていた…
---
メルア視点
駄目だ間に合わない
能力を発動するまでの時間が早すぎる
beriさんが苦しんで倒れ込んでいる
「植物系魔法発動」
「離れて!」
トトちゃんをその場から移動させてアスファルト下の地面を隆起させる
勢いよくツルを伸ばしくろむの腕と足に絡みつく
「メルアさん!後ろ!」
黒光りしたSF的鎌が後ろで構えていた
すぐにしゃがんでかわす
「あーもう!私の攻撃なんで届かないの!」
トトちゃんが最強と名高い(自称)自慢の剣で必死にくろむに突き立てている
全てくろむの前で紋章を写し出し跳ね返している
正直言ってトトちゃんの攻撃が敵に効いているのを見たことがない
どうなってしまうのだろう
今人型フェンリルをアナログからデジタルに映す作業をしておりますので少々お待ちください
制作予定
人型フェンリル 現在進行形
↓
まっきー
↓
猫丸&クーくん
↓
メルア
トトちゃんはトトちゃんが頑張ってくれているのでこちらもお待ちください
月下人狼能力パロ 第十六話「刺客」
レイト視点
メルアさんとトトちゃんが必死になって攻撃を仕掛けている
メルアさん植物魔法使えたんだ、と声の混じった吐息を吐き出す
ホテル前の道路もくろむの攻撃による建物崩壊のせいで全く通れなくなっており低い車のエンジン音やクラクションの音は絶えず鳴り響いている
今こんな時にフェンリルがいればあそこまでひとっ飛びなのになと思いながら順番に階段を登ってメルアさんのところまで移動する
「メルアさん!後ろ!」
くろむが黒光りする鎌をメルアさんの後ろに構えていた
いつの間にそんな技を覚えたのか…
トトちゃんがくろむに刃を立てると全て弾かれているのも不思議だ
俺もくろむに一髪入れてやろうとメルアさんが動きを止めているくろむに斬りかかろうとする
くろむも仲間だ
一瞬心が痛む
たとえ殺すまではしないとしても一般人のメンタルには重いものが確かにあった
くろむからの反撃を受け付けないように回復のポーションを自分の少し前に投げる
割れたポーションのパーティクルを切り裂いてくろむを斬る
自分は回復するが相手は大ダメージをあたえられる強い技だと思っている
射影刀の攻撃力は本物で、くろむが膝をついている
それどころかメルアさんの出したツルまで一緒に切ってしまったくらいだ
「みんと!これ頼んだ」
beriをひょいと持ち上げて下にいるみんととかえでに投げる
ちゃんと受け取ってくれてよかった
だが
「え…息してない…」
「うそだろ」
「おいカス死ねよ」
「いや死ぬな生きろよ」
トトちゃんが下を覗き込む
「くろむの能力じゃない?」
「レイト翡翠使ってみて」
そう言われて随分と前に手に入れたが一度も使わなかったセルペスの翡翠を取り出す
beriにかざすと粉々に砕け粉となり消えた
「セルペスくらいならいいね」
「翡翠は他の能力と重複しないから元の能力を打ち消すんだ」
「問題はセルペスの能力使っちゃったからその支障も出るってこと」
「セルペスの能力は確か熱気だから熱出るかもしれないけど」
「病院連れてくほどの能力の大きさじゃないと思うからなんとかなる」
「つまりしばらくは起きてこないね」
トトちゃんの高速解説に全員が口をぽかんと開けている
俺だけじゃなくてよかったという安心感すら込み上げてくる
よかったぁとかえでが胸を撫で下ろしているのも束の間
新たな刺客が現れる
「生きてたのかよお前めんど…」
「封印したはずじゃなかったんですか…」
「かえでが今ここにいる時点で察しろ」
「アッ」
メルアさんの反応を楽しんでいるとどんどん近づいてくる二つの影
モロトフとフレアだ
一体何人を撃ち殺してきたかというほど返り血を浴びているのが恐ろしい斧に
新品のように光り輝いている大きなライオットガン
「久しぶりだな」
「トトちゃん」
「お前は久しぶりだね言われたくない人物TOP3には入るから帰れ」
「って言って素直に帰ればいいものを」
「私に勝てないことを承知で何しに来た」
「お前の被害者を増やしたくないものでね」
「こっちも必死なんですよ」
月下人狼能力パロ 第十八話「トトちゃん旅日記2」
前回の第一章でのトトちゃん旅日記の続きとなっております
本編とは違う感覚でご覧ください
野宿のやり方。
平らな場所を探します。
危険じゃないか確認します。
危険じゃなかったらそこにテントを立てましょう。
というわけで、平らで危険じゃない場所を見つけました。
どうせならテントを立てたいです。
最悪木の上、洞穴、洞窟、どこでも寝ようと思えば寝れますが、寝心地大事。
ロングスリーパーに寝不足は天敵です。
朝リュックに詰めたテントを引っ張り出すために荷物を下ろします。
荷物を下ろすときには、コツがいります。
スクワットの要領で、荷物を地面につけ、肩からリュックを下ろします。
本当に、足がつります。
リュックにくくりつけた棚たちを分解しつつ、テントを引っ張り出します。
野宿歴は長いんだ。なめるなよ!
無事にテントを立てたところで、晩御飯を食べたいと思います。
私まだまだ若いので、自分の好きなもの食べましょう。
そう、肉!肉大事!タンパク質命!
今日手に入れたイエローボアの肉で、ステーキを作っていこうと思います。
別に料理苦手で、お肉を焼くことしかできないなんてことはありません。
素材回収にて手に入れた香辛料を使ってソースも作ります。
焚火で焼く肉はおいしい。素敵。
「いただきまーす」
虫の声とともに食べる肉はおいしいですね。
さて、明日はどうしましょうか。
なんでも、何とか山のほうに素敵な鉱物が眠ってるらしいですよ。
風の知らせで聞きました。
裏の仕事もあって耳はいいほうです。
「ごちそうさまでしたー」
お皿を洗う魔法ってありませんかね。
後片付けをして、明日の準備をしましょう。
こうやって準備をする時間が一番大好きです。
手に入れた素材の整理もします。
面倒くさがりなので、素材は布袋の中に詰め込んでいます。
今日はこの植物を乾かしてから寝ようかな。
ひもで結んでテントの上にくくりつけます。
準備完璧。おやすみなさい。
夢を見るのが大好きです。
今日はお気に入りのキーホルダーが丘の上で発狂する夢を見ました。
かわいいですね…
こんな毎日が続けばいいのに…。
トトちゃん(ご本人)によるトトちゃんの背負っている荷物のイメージイラストがご到着しました
https://s3.arkjp.net/misskey/261fdbac-efd9-4d8b-836b-0171a69042e2.jpg
https://s3.arkjp.net/misskey/ecef0efb-425d-4d40-8758-0ec03290ac7d.jpg
https://s3.arkjp.net/misskey/88334c23-9074-443a-8bf4-6166c3765418.jpg
https://s3.arkjp.net/misskey/db5549af-496c-4c3a-b012-a141b3aca0d0.jpg
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https://s3.arkjp.net/misskey/2ebb90ff-4531-4a6d-aeed-984fc72d0529.jpg
https://s3.arkjp.net/misskey/261fdbac-efd9-4d8b-836b-0171a69042e2.jpg
https://s3.arkjp.net/misskey/4d05775d-5ec3-4eb0-8bf5-0b866689139d.png
https://s3.arkjp.net/misskey/0ebae821-92f0-4853-adc2-c751e765d6f0.png
原文 トトちゃん
ほんのちょびぃっっっと改変 beri
月下人狼能力パロ 第十九話「絆」
レイト視点
あのモロトフとフレアだ
ゆっくりゆっくりこちらに向かって歩いてくる
フレアはもうすでに血塗れになった斧をトトちゃんに向けている
モロトフがフレアに右手を伸ばして少しフレアを後ろに下げる
「君は気づいていないなんて言わせないよ」
「あの日のこと、フレアと一緒に見てたからしょうがないんだ」
「許しておくれ」
何も言わないトトちゃんの顔を見つめてみる
綺麗な紫色の瞳には涙が浮かんでいる
過去にあった壮大な出来事を映し出している涙のようにも見えた(俺は何も知らないが)
モロトフがゆっくり背中に担いだ大きな銃を下ろす
「え…」
命の危険を感じ思わず声に出てしまう
モロトフは銃を手に持ったままトトちゃんの方へ近づく
そして銃口をトトちゃんの腹に押し当て言う
さらに涙が溢れ出している
地面にポタポタと垂れて色を変える
モロトフはどこか無慈悲で、慈愛に満ちた笑みを浮かべる
「じゃあね」
「モンスター」
「…そんなこと!」
少し遠くにいたメルアさんが足を思い切り振り上げ銃口を上へと向ける
パァンと空に大きな銃弾が飛んでいく
あれにもし当たっていたらと言うことを考えたら…
「なんだてめぇら?縛り殺しますよ」
あんなに穏やかで優しそうな口調だったメルアさんが目をガン開く
メルアさんとトトちゃんは相当な付き合いだったのだろうか
メルアさんが腕を振り上げるとそれに比例して地面からツルがどんどん伸びていく
俺はトトちゃんと一緒に持ち上がっていくアスファルトの一部に乗った
素早くうねりモロトフとフレアを縛り上げるツルの動きが動物らしい
ツルに蹴られた空気が頬を撫でる
「モロトフこれは一旦退避が妥当じゃないか」
ところどころ詰まったような言い方をしている
「だろうな…」
斧を持った右手を必死に振るってツルを切り落とす
フレアがぴゅーっと口笛を鳴らす
「頑張ってきてくれよな…」
モロトフもツルから抜け出した
メルアさんが俺とトトちゃんが乗ったツルをメルアさんの近くの地面にそっと下ろす
「大丈夫だった?急にごめんね」
「う、うん…」
「俺よりトトちゃん大丈夫かな…」
「平気平気」
「何回あんなことされてるかってとこよ」
濡れた頬を袖で拭きながらトトちゃんはそう言う
かえでとわんこの看病でberiは目を覚まし顔色の悪かったくろむもすっかり元気になっている
大きな影が頭上を通過する
モロトフとフレアのところまで巨大なドラゴンが飛んでいく
その足に捕まってモロトフとフレアはどこか飛んでいってしまった
まるでボコボコにやられた悪役の帰りみたいだ
ひと段落ついて辺りを気にする余裕が出てきた頃だ
車のクラクション音と同時に工事用の巨大な作業車、人だかりも出来ている
「離れましょうか…」
まっきーとクーくん、猫丸にフェンリルの合流も目指しあの地面の割れた地帯へ戻ることに
不幸中の幸いわんこ号は無事で、またわんこを馬にした
みんな馬車の中ではトトちゃんのことについて触れなかった
「ここら辺から割れてるね」
「一応降りて移動するか」
俺が率先して馬車から降りる
珍しいったらありゃしないと、明日は雨だの大雪だの言っている
川が途中で割れて下へ滝のようになっているところで休憩を挟んだ
やはりトトちゃんの作る料理は美味しい
ちょっとドジして具材をこぼしたりするのは許容範囲である
月下人狼能力パロ 第二十話「動物愛護」
まっきー視点
なんとかクーくん達と合流することができた
ここまで歩いてくる最中には渡れるように板がたくさん掛けてあった
でもなんとも不思議なことにこの板を置いて行ったのはクーくん達じゃないらしい
つまりこの板を進んでいけばクーくん達以外の人、トトちゃん達がいるに違いない
「まっきーどこから来た?」
「どっち方向の板に進んでったか知りたいんだけど」
フェンリルが高く飛んで辺りを見渡しながら言う
色んなところに板が置いてあるせいで方向がいまいち分からないのだ
「えっとぉ…こっち…かな?」
「多分」
「心配なんですけど」
「まぁいいか」
クーくんと猫丸はちゃっかりフェンリルの上に乗ってお昼寝している
お昼というよりちゃんと夜、というか夜明け
2日にいっぺんしか夜が来ないせいでとても分かりにくい
そんなフェンリルたちを眺めながら歩く
しばらく歩いているとやたらと見覚えのあるものが増えてきた
「あれ、ここ来たことあるぞ()」
「なんだよおい…」
「誰かいるよ!」
何やら馬車が遠くの方で走っている
でも明らかに身長が馬ではない
「あれは…わんこ?」
よく目を凝らしてみる
あの茶色いモフはわんこしかいないはずだ
「にくぅ!!!」
「ままぁ!!!」
「ひゃっはー!!」
みんなふざけながらも馬車のある陸地への板を踏みながら近づく
向こうも気づいたのか進行方向をこちらへ変える
「まっきー達がいる!」
わんこと繋がれた綱をぐいぐいみんとが引っ張るのがみえる
わんこより体の大きなみんとがわんこに馬車を引かせている絵面がまたなんとも言えない
1匹の犬に引かせる大きさの馬車じゃないことだけは確かだ
これは動物愛護団体に叱られるべきである
お互いできるだけ近い位置まできたが板がかかっておらず反対側にはいけない
3mほどの隙間越しに会話する
「トトちゃん板積んでないのー?」
「もう使い切っちゃったー!」
「どっか別のところの板持ってくるか、beriに頼むしか」
「お願いしてもらっても〜」
「あーい…」
トトちゃんが馬車に戻って扉を開ける
くたくたに疲れたくろむを横目にberiが出てくる
何があったのか分からないが俺たちが迷子になってる間も大変だったんだろう
分厚い氷の板を生成してかけてくれる
かける時の勢いがドッヂボールのボールを投げるみたいにして勢いよく倒したが割れていない
氷って思ったより丈夫なのかも知れない
「あ」
「俺飛べるやん」
フェンリルがberiの掛けた橋の上をすーっと飛んでいく
絶対フェンリルがみんな乗せて飛んだ方が良かった
beriも少し呆れたような顔をしている
「あ、ありがとう」
俺は氷の橋をちゃんと渡った
氷に亀裂は入らなかったが、フェンリルとberiの信頼関係には亀裂が入ったかも知れない
フェンリルはわんこと変わって馬車を引いている
馬車というより動物園とか何かのサーカスみたいだ
月下人狼能力パロ 第二十一話「効率厨」
トトちゃん視点
馬車内
がたんがたんと揺れる馬車
目指すべきは10大ボスのうちの1匹
巨悪人アギラスの討伐だ
だが今まで倒してきたボスはセルペスとアライモメのみ
この調子だとあまりに時間がかかりすぎてこの世界がもたない
中心部の街の陸地はこんなにも割れてしまっているのに残り8匹倒すうちには粉々になっているだろう
そこで天才商人、トトちゃんが考えた作戦はこれだ!
「残り8匹を倒すのに時間がかかりすぎるから、この人数を生かしてバラバラに行動しない?」
「何人かでチーム作ろうよ」
「おーいいね!賛成!」
「どうやって決めるの?」
「偏った編成だと逆に非効率的だよ」
「じゃあみんなフェアチオンのステータス画面見せて〜」
beri 体力49、魔力36、攻撃力41、能力レベル7、防御力45
くろむ 体力56、魔力52、攻撃力40、能力レベル4、防御力68
レイト 体力45、魔力69、攻撃力29、能力レベル9、防御力50
フェンリル 体力78、魔力72、攻撃力68、能力無し 、防御力67
みんと 体力71、魔力56、攻撃力81、能力なし 、防御力54
かえで 体力50、魔力45、攻撃力23、能力レベル1、防御力67
まっきー 体力24、魔力31、攻撃力7 、能力レベル14、防御力37
わんこ 体力58、魔力45、攻撃力67、能力レベル8、防御力42
猫丸 体力41、魔力12、攻撃力32、能力レベル25、防御力46
クーくん 体力64、魔力39、攻撃力59、能力レベル5、防御力64
トトちゃん 全ての項目において「???」
「トトちゃんフェアチオン機能してなくて草」
「なんでだろうね、いつもこうなんだよ」
「じゃあみんなの能力が平均的になるようにとりあえず3つチーム作るね」
「能力も考慮して考えるわ」
Aチーム
beri、フェンリル、くろむ、トトちゃん
Bチーム
レイト、かえで、みんと
Cチーム
クーくん、猫丸、まっきー、わんこ
「おいまて俺のチームだけ3人じゃねぇかよ」
「私はいてもいないようなものだからねぇ…」
「モンスターに攻撃効かないし!」
「文句言わなーい!」
「なんだよレンコン俺に文句あんのか?あ?」
「トトちゃん僕この2人の面倒見なきゃいけないの…」
口論を繰り広げるみんととレイトを目の前にしてかえでが絶望している
「バランス取るならこれなんだよなぁ…」
「納得いかないから説明よろしく」
「こんなやつ無理…」
「へいへい」
Aチーム
回復&補助的、くろむ
火力ソース、beri
ふとん、フェンリル
(トトちゃん)
Bチーム
回復&補助的、レイト
火力ソース、みんと
仲介、かえで
Cチーム
回復&補助的、猫丸
火力ソース、クーくん、わんこ
なんか適当にやる、まっきー
「適当!?余り物みたいじゃん!」
「ふとんってなんだよ!ふとんって!!!」
「仲介させられる運命なのか…」
「ごめんて()」
なんとかこのまま押し通した
うまくいけばいいな…
月下人狼能力パロ 第二十二話「分散」
beri視点
なんだかんだあってAチームはアギラスを倒しに行くことになった
BチームCチームはこのまま馬車に乗って別のやつを倒しに行くらしい
みんととわんこでそれぞれ詳しい人を乗せるトトちゃんの配役もなかなかだ
うまくいけば3体一斉におしばきできるわけである
「ここからは歩いて行ったほうがいいね」
「降りるわー」
トトちゃんが馬車から降りてフェンリルの綱を解いてわんこに付ける
「わんこがんばれよー」
「はぁい…」
わんこに縄をつけ終わるとかえでにその縄を握らせる
「いってくるね〜!」
「いってらっしゃい!」
「がんばってね〜!!」
自由になったフェンリルをすぐに捕まえて上に乗ろうとする
「だーめ」
すぐに人間の姿に変えられてしまう
前まではあんなに恥ずかしがっていたのに今ではもう平気だ
「フェンリル達は私たちに会うまで何してたの?」
目的地に着くまで暇だろうから話題提供を心がける
くろむは落ちていた石を蹴り飛ばして遊んでいる
「なんか、閉じ込められてたところの地面が崩れて下に落ちて…」
「え?地下層に行ったの?」
トトちゃんが地獄に行って帰ってきたみたいな雰囲気でそう聞く
「う、うん」
「よく帰ってきたね…」
「地下層って危ないの?」
「危ないどころの話じゃないね」
「地下層には特殊な水が溜まってるんだけど、触れると初期症状としては能力無効化、そしてだんだんと症状は進行してって最後には存在まで消えるよ」
「存在!?」
「死ぬってこと?」
「うーん半分正解」
半分…
死ぬけど、死なない?
頭の中にはてなマークが浮かんでしまっている
少しの空白を破ったのはくろむだった
「いって…」
蹴ってた石に躓いて転んでいるくろむを見てトトちゃんがくすっと笑っている
くろむも最初からこれを狙っていたかのような転びっぷりだ
にしてもさっきから石が多くなってきた気がする
周りには大きい石ではなく岩に分類されそうなものも落ちている
先を見てみれば岩だらけでくろむがもっと転びそうだ
「この先にいるの…?」
「うん」
「大丈夫、アライモメよりも強いよ」
「何も大丈夫じゃないんですけど」
トトちゃんがいるからいいかと思いきやトトちゃんの攻撃はモンスターに効かない
実質3人での討伐になってしまうわけである
「アギラスってどんな奴なの?」
くろむがずっと閉じていた口をやっと開く
「でーっかい巨人だねぇ」
「木をそのまま引っこ抜いたような棍棒持ってるよ」
「当たったらひとたまりもないね」
「うわぁ…」
全員の顔が一気に暗くなる
それでもこんなところでくたばってたまるものかとトトちゃんの横顔が少しカッコよく見えた
カバンにぶら下げられたてるてる坊主のようなキーホルダーがにこにこ笑っている
そのキーホルダーを見て私は気づいた
トトちゃんいれば回復薬が無限なのではないかということだ
「トトちゃん?いつも売ってた商品って今どうなってるの?」
「あー地形破壊された時に店も半壊してたからほぼだめだね」
「残念」
これは泣いた
確かにトトちゃんが全商品をいつも担いで歩いているわけがないのだ
人型のフェンリルの肩に手をついてよいこらしょとよじ登る
肩車の完成である
「草」
「フェンリル何があっても乗り物にされるのかよ」
「えへへぇ」
「別にいいけど…」
実は石が多くなってきてくろむみたいに転ぶのが嫌だったから乗ったなんていうことは秘密である
月下人狼能力パロ 二十三話「かにで」
わんこ視点
トトちゃん達が行ってしまった
かえでさんが後ろについて綱を握っている
「今からどこに行くの?」
「ここから1番近いところかなぁ」
「そこの隣にはちょっとした集落があるからそこで休憩していこうか」
「Bグループの人たちもそこで別れればいいよ」
「はーい」
トトちゃんの匙加減により今残っている10大ボスの中ではまだ弱い部類に入るモンスターの方向に向かわせてもらっている
それでも噂によれば10大ボスなだけあって弱くはないらしい
そんなことを考えると馬車を引く足が緩む
ゆっくりしてたらかえでさんに鞭でも打たれてしまうかもしれない
ちゃんと一歩一歩を踏み締めて重い重い馬車を引く
「そういえばまっきーだけステータス異様に低かったんだけどなんかあった?」
「すべての値において低かった気がするんだけど」
「能力レベルは高かったけどね」
「あぁそうか」
まっきーさんは確か小さい頃に何かのモンスターにやられて一度ステータスが0にされたことがあるらしい
その影響で今も低くなっていると考えるのが妥当かな
「秘密」
「大丈夫だよ」
「へぇ…」
「僕くらい教えてもらってもいいじゃん!長い付き合いでしょー?」
「チーム違うし」
「…」
確かにかえではレイトとみんとのBチームである
正直このBチームが1番不安だとトトちゃんは言っていた
中でもこの3人の能力があまりにも偏りすぎているからとか
回復がまともにできるのはレイトだけだし、みんとしか攻撃力が高くなかったり
そこの2人が喧嘩すると手がつけられなくなるかえでが可哀想すぎるのだ
かえでじゃなくて私が入ったほうがよかったのかもなともう遅いことを考えている
誰か途中で加入してBチームに入ればよかったのに
メルアさんを入れようとしてたらしいが途中で家まで帰ってしまったので今更連れ戻すのも野暮である
「そろそろだよ〜」
「荷物のお忘れ物がないように〜っ」
バスや電車でありそうな(乗ったことはない)アナウンスを口に出してみる
もう一つのくろむやレイトが来た世界のことについては本でしか知らないが、私が元いたところだ
興味しかない
かえでに縄を解いてもらい馬車をとりあえず隅っこの方に置いておく
小さくて、少ししょぼい民宿に予約を入れる
そういえばずっと何かしらの宿に泊まっているせいでそろそろ金銭的問題も出てくるころだ
戦うのは次の目的地に向かうまでの間にある鉱山で採集してからにしよう
---
「はー疲れたぁ…」
しょぼい民宿のくせにこの辺では温泉が有名だからか風呂場だけはしっかりしている
水温の異常な熱さと温泉特有のぬるぬるしたお湯がなぜか旅の疲れを癒す気がした
かえでが湯船に口までつけてぶくぶくしている
男湯と女湯で別れた時にお前男だろとかみんとに言われたのが気に食わないらしい
「ぶー!」
「ぶくぶくぶく」
まるで海辺を歩いてるカニみたいである
月下人狼能力パロ 第二十四話「高速カウント」
みんと視点
人が少なく観光地もないど田舎の温泉はほぼ貸切状態
猫丸はなぜか温泉に入らず真っ先にサウナへ行ってしまった
レイトとクーくんと熱いお湯の中にどれだけ長く入れるかチャレンジをしている
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10!」
「熱い風呂から出る時のカウント早すぎん?」
「かくれんぼで草」
「いいの!」
クーくんは足を真っ赤にして水風呂に飛び込む
今更すぎるがいい年して何やってんだと思う
何してもお湯に浸からないレイトにクーくんがおけいっぱい水を汲んでぶっかける
弾けた水滴がこちらにも少しかかる
「つめった!」
「なにしてくれんだよ!」
「俺じゃねぇよ◯ね」
「誰がみんとなんて言ったんだよ」
レイトがやっと湯船に浸かったと思いきやあまりの熱さに半分叫ぶような声をあげて飛び出る
そこにクーくんがまた水をかける
熱いし冷たいしそれはもう地獄だっただろう
このあとサウナから出てきた猫丸が平気そうに湯に浸かってたけど
---
この後は民宿の本日のおすすめと書いてあった海鮮丼を食べる
ここの近くの洞窟に溜まった水がでっかい海みたいになっていてそこで獲れた魚だとおばちゃんが話していた
赤身や白身、軟体動物のような生き物の切り身も一緒にご飯に乗っており、洞窟の様子が全く想像つかない
本で知ったがレイトたちの来た世界、俺も元いた世界には海というものがあるらしい
いつか行ってみたいものだ
「ごちそうさまでした!」
タンスから敷布団を引っ張り出して畳の床に敷く
いつもベッドで寝ていたから少し寝心地が悪く感じるが仕方ない
オレンジ色の赤みを帯びた電球の電源を消すとまるで線香花火の火種のように灯りが消える
「おやすみなさーい」
「おやすみー」
「明日は何時起きかな」
「4時なんかに起きるなよ」
「えー」
「じゃあおやすみ」
「おやすみ」
敷布団の配置
みんと わんこ
レイト かえで
クーくん猫丸
「…」
「…」
「おいレイト」
「なに」
「◯ね」
「おやすみ」
「永眠ですか」
「◯ね」
「おやすみ」
「…」
「…」
「うるせぇなぁ!?」
「捻り潰すぞ」
かえでがレイトの足を踏みながら怒鳴りたてている
「いだい!いだいいだい!」
「じぬじぬじぬじぬ」
「◯んどけかす」
「うるさぁい…」
クーくんもお怒りのようだ
寝る前に何やってるのやら…←張本人
---
深夜2時
レイト視点
こっそり起きて足音を立てないように外に出る
バレなければ何も問題ない
みんなが起き始めるであろう6時までに帰ってこられれば尚更だ
今から俺は一人で鉱山に向かう
そろそろポーションを作る材料がなくなってきたからだ
俺一人のために迷惑かけるわけにはいかない
俺なりにいい考えだと思う
月下人狼能力パロ 第二十五話「思ったんと違う」
レイト視点
できるだけ足音を立てないように
まだ薄暗く足元も見にくい状態で外に出る
太陽はずっと遠くの方でまだ眠っている
沈みかけの半透明な月が|人気《ひとけ》の少ない田舎道に立っている俺だけを見つめる
まだ来たことのない場所だが鉱山はなんともう見えている
この道をずっと行ったところからうねうねと曲がった道が山に沿って伸びている
きっとこの先だと俺の勘が言っている
素直に一緒に行けばいいと後から思ったりもしたがここまで来たしもういいだろう
思いついたことを後先考えずすぐに行動する
これが俺主義だ
早朝は太陽が上るのが異常に早い
鉱山の入り口に着く頃には太陽の頭が少し見えている
昨日までは誰かが作業していたのか、木の箱にはたくさんの石炭や鉱石が入って積まれている
勝手に誰か来ていいものかとも思ったが奥は何も置いておらず、荒れた洞窟が続いている
壁の松明も途切れている
人の手が入っているのもここまでのようだ
1番近くの火が消えてしまった松明に魔法で着火する
それに連動してフェアチオンの数値が動く
今は魔力を回復させてくれるフェンリルがいないから使い方には十分気をつけなければ詰むだろう
魔力64という数字を見つめ洞窟の奥と照らし合わせる
赤い炎とほのかな温度を上げる松明を右手に奥へ進む
左手には馬車になぜか積んであったピッケルを握る
どこからどう見ても登山用にしか見えないが、試しに壁をガリガリやってみたところちゃんと掘れたので大丈夫だろう
人の手が入っていたところからだいぶ離れた場所で、壁を掘ってみる
松明を地面に置き両手でピッケルを握りしめて大きく振りかぶる
カッキーンという高い音が響き渡る
掘れた壁を見つめてみる
「…なにもない」
もう一度同じ場所を掘ってみたがまた何もない
何もないというより、同じ模様の石が続いているだけであった
もっとカラフルで綺麗な石みたいなのは買うしかないのだろうか
洞窟は思ったより短く、この先はもう明るくなっている
思ってみれば入り口はたくさんあったので、こんなような洞窟がたくさんあるのかもしれない
「いや待てよ…?外が明るい…?」
急いで外に出てみる
太陽が完全に見える
終わった
絶対に6時は過ぎている
まさかここまできて少し掘るだけなのに2時間もかかるとは思わない
来た道を走って戻る
「うわっ!」
小さな石の出っ張りに躓いて転んでしまう
そういえば少し前にもこんなことをしている奴がいたような気もする
洞窟の出口に着くまでには汗だくになっていた
息が上がって肺が勝手に喘いでいる
少し高いところから宿を見下ろすとそこにはわんこたちの姿が
何やらあたりをきょろきょろしている
絶対に俺を探している
説教覚悟で洞窟を飛び出し宿へとまた走った
なんか音楽を流しながら小説を読むと雰囲気がいい感じになると思うんですよ
なので大事な場面とかに取り入れてみようと思うんですけど
どうですかね(他力本願)
月下人狼能力パロ 第二十六話「火山地帯へ」
レイト視点
「ごめん!遅れた!」
一生懸命にほぼ空気のような声を吐き出す
それでもわんこは気づいてくれた
「レイトいたっ!?」
「どこ行ってたの!」
「ちょっと鉱山の方に先回りして…」
「勝手に行っちゃダメ!いい?」
「うん…」
みんとが呆れたような顔をしてこちらを見てくる
その醜いものを見るような目なのが地味に傷つく
「じゃあレイトも鉱石欲しいみたいだし、もっかい洞窟行ってからにする?」
「次のボスは鹿みたいなやつらしいんだけど、ここから結構移動するんだよね」
「洞窟行ってくれるの?」
「行ってからにする!」
ここでかえでとみんとと俺のBチームとわんこ達のCチームは別れた
みんととかえでには悪いがしばらく洞窟探検に付き合ってもらった
結局採れたのは鉄鉱石のようなものと少し白い石くらいだ
名前もわからないようなものでポーションを作るのは少し不安が残る
---
ここで試しに音楽を導入してみたいと思います
ニーアオートマタより「遺サレタ場所/斜光」
この曲を流しながら続きをどうぞ
---
わんこがいないので馬車もないから、比較的近い方のボスを任された
と言っても随分と歩くらしい
しかもだだっ広い平原を
全く風景の変化がないと、歩いているだけでも飽きてしまう
また何か喧嘩してもかえでに迷惑だろうなと思いながらもみんとに話しかける
「そういえば次に戦うボスについて何も聞いてないんだけど」
「俺達だけで倒せるようなやつなの?」
少しの間を置いてからみんとが口を開く
「次のやつはねぇ、熱いよ」
「めっちゃ」
「熱い…」
重度のコミュ障なのかなと言ってやりたいくらい会話が成立してない気がする
直接言わなかった自分を褒めたい
予想外の回答にかえでも同じ種類の草しか生えていない地面を踏んで眺めている
「…」
「で、俺たちで倒せるの?」
「俺だけなら余裕」
「お前らが足を引っ張らなければだけどな」
「💢」
かえでの眉間にシワがよる
かえでの歩くスピードが遅くなったと思えばみんとのすぐ後ろにスタンバって俺に必死に視線を送っている
わけもわからずこくりと頷く
かえでも満面の笑みで頷いて少し後ずさる
そしてみんとの足の間に右足を置く
「ん?どうかした?」
「自分の無力さに嘆くのは今じゃなくていいよ?」
かえでが今だと言わんばかりにみんとが話し終わった直後足を高く振り上げる
どうなったかはご察しの通りだ
ざまあみろ
「ごめんって!!!もう言わないから!!」
いつもこんなくだらない小3レベルの喧嘩をしている気がする
かえでごめんの一言である
その後なんとかみんとにボスの情報を聞き出した
名前はチェルブス
でっかい鹿のような見た目でツノは空洞になっており、そこから炎を吹き出すとかなんとか
思ったのは炎の魔法しか覚えていない俺が役に立てないのではないかということ
そういえばかえでも炎の魔法を使っていた気がする
俺とみんとを入れるし、炎の魔法使いを2人も入れるしでトトちゃんチーム配役を間違えすぎ
それにしてもどれだけ感情が変化しようとも周りは変化しないのである
みんとが言う火山の面影なんて見えない
ただずっと緑色の平原が続くその様子に、なぜか懐かしさすら感じる
そうだ
それは俺がこの世界に来た時のことだ
あの時はまだ何も分からなくて、行く果てもわからず彷徨い続けていたはずなのに
1ヶ月も経たないうちにこんなに馴染んでしまうだなんて
今までの俺からしたら全く想像もつかないのだ
それに共感するかのようにそっと風が頬を撫でる
時とは恐ろしいものである
「みんと本当にこっちであってるの?」
「なーんにもないんだけど」
少し前までは背中に見えていたあの田舎の住宅地も何も見えなくなっている
本当にどこを見ても緑
奥が見えないものかとジャンプして飛んでみても緑
こうも何も見えないともう嫌になってくる
「急かすなよ、もう時期見えるんだから」
本当かなぁと思っていたのも束の間
辺りに灰色の粉が舞い始める
「ほら」
「言ったろ?」
ずっと奥に黒い岩が塔のようになっているものが立っている
辺りに赤いドロドロしたものが流れている
溶岩だろうか
「この先が火山地帯だ」
流れ出て固まった溶岩のせいでそこだけ異質な雰囲気を放っている
さっきからうざったいほどに生えていた緑色の草も先端が枯れ始め、数も少なくなっていく
少し先には何も生えていない荒れた土が広がっている
その先が火山なのだろう
最後の方もしかしたら音楽合わないかもしれませんね…
ぴったりなやつ探せるようになります
月下人狼能力パロ 第二十七話「巨悪人、アギラス」
<かなしいおしらせ>
前のやつで質問があったんですが
音楽の著作権大丈夫なんですかねと
自分はなんか加工してたり歌詞を書いてたりとかしてないので(現に歌詞を元にした小説はたくさん上がっている)
URLで飛んでもらうだけだし大丈夫かなと思ってたんですが
正直よくわからないところもあるのとあんまりこれが原因で騒ぎたくないので(え
曲名を乗せて雰囲気も楽しみたい人は自分で流してもらう感じに変更しました
(一応公式のものに限りYouTubeからURLを貼っつけるのはOKらしいのでそちらも考えています)
これからも平和に続けていけるように努力していきます
注意くれたかたありがとうございました
お手数ですがよろしくお願いします
(わざわざ調べてまでして聞く人少なそうだなと予想する、ちゃんと流してる人いるのだろうか)
いたら教えてください
<いいおしらせ>
いつの間にかファンレターが150通来ておりました
毎回のように送ってくれる方、ありがとうございます
やる気につながります
たまに長文送ってくれる方
長いのも嬉しいです
こんな小説なんかに長文ありがとうございます
送ってくれない方
読んでくれるだけでうぇるかむです
いつもありがとうございます
ではちょっと長くなっちゃいましたが本編どうぞ(こんな言い方したの初めてだな)
フェンリル視点
「そういえばトトちゃん」
「アギラスって結構そこら辺歩き回ってるイメージあるんだけどさ」
「こんな格好で堂々と歩いて大丈夫?」
「倒すんだから向こうから来てくれた方が楽じゃん」
「あとあいつ頭悪いから見つけられないよ」
そういう問題じゃない
先手取られてまずいのはわかってくれ
「急に来られても対応できないでしょ」
「特にそこの体力ぺらぺらのくろむとか言うやつ」
「体力ぺらぺらでごめんなさいねー」
「防御力【だけ】は高いんじゃないっけ?」
「うるせぇだまれかす」
くろむがberiに向けて暴言を吐き終わった頃だ
ドシンドシンと言う音と同時に地面が多少揺れる
「アギラスってどれくらい大きい?」
「んーberiの10倍」
「じゃあこれ…アギラスじゃないの…」
岩場をジャリジャリ音を立てながら歩いていると、突然後ろが涼しくなる
空に雲でもかかったのだろうか
ろくなことでもないだろうから後ろを振り返りたくもない
トトちゃんはフラグ回収の神か何かか
後ろには確かにアギラスの気配があった
誰も振り向かない
振り向いたら殺される
だんだんと早歩きになる
目の前が真っ白になって倒れてしまいそうな感覚に襲われる
その時だ
バッコーンと隣にあった大きな岩が割れ、砕け散る
木の棍棒が視界に入る
太く低い、大きな咆哮が響くと全員が後ろを向き戦闘体制に入る
---
ぜひこの曲を流しながらどうぞ
モンスターハンターライズサンブレイクより
攻防自在、乱戦必至の城塞
---
大きな棍棒と己の身のみで戦う完全な脳筋物理野郎
凄まじい攻撃力と体力で相手をねじ伏せる
10大ボスの中ではTOP3に入るほど高い体力で、消耗戦を強いられるときもあるらしい
そんなやつが今、目の前にいる
緑色の肌はゴブリンを連想させる
ボロボロの布を纏っており、非常に汚らしい
典型的な巨人モンスターと言えるだろう
動きは比較的遅いのでこのメンツには合っている
「くろむ乗って!能力発動しようぜ!」
そう言って飛行形態に移行する
形態変化の消費魔力は凄まじいがなんとかなるだろう
「乗ったよ!」
襲いかかる棍棒を足場にし空中へと飛び上がる
空中からの攻撃の対処方法なんて持っていないだろう
くろむの慣れた能力発動で相手の動きを鈍らせることに成功する
beriが散らばった石を集めて氷で固め、アギラスに投げつけている
意味があるようにはとても見えない
普通に殴ってくれと言いたかったその瞬間
アギラスが落ちている岩を軽々と持ち上げ、空中に投げてきた
急いで急上昇してかわす
もしかしてこいつ、beriのを真似したのではなかろうか
「ごめーん!下手なことしなけりゃよかった!」
トトちゃんが何やらビンを持って走っている
アギラスの腕が下がり棍棒が地面についた時だ
急に棍棒に火がつき燃え始める
「直接攻撃が効かないならこうすればいいんだよ!」
得意げに息を切らしながらそう言い放つが俺たちには棍棒に火が付いて強化されているようにしか見えない
火の粉を飛ばしながら空にいる俺たちにも棍棒が飛んでくる
届かなくても火の粉が熱い
下の奴らは戦犯しかしないのか
「あ、ごめん」
「絶対燃やさない方が良かった」
「もういいから普通に殴ってくれ!」
能力を発動し終えたくろむを乗せて地上に降りる
アギラスがそれを待ってくれるはずもなく棍棒がくろむに命中する
くろむの叫びを俺は背中で聞いた
「くろむ!」
魔力が持たないと判断した俺は人間形態に戻り浮いた棍棒の下からくろむを引き摺り出す
頭から血を流しているくろむを背負ってなんとか立たせる
「大丈夫、ごめん」
すぐにくろむは背中に背負っていた鎌を手に取って相手の様子を伺っている
アギラスは殴った反動で少し怯んでいる
相手の隙に飛びかかり鎌で足首を切るくろむを見て気が付いた
くろむのフェアチオンが赤く点滅している
フェアチオンの点滅はHP3分の1以下を示す
「くろむだめだ!引け!」
それを聞いたberiがなんとかくろむを押し返す
トトちゃんはあるだけの回復薬を両手に握ってくろむに投げつけた
点滅が治ると同時にまた棍棒が飛んでくる
くろむを押し飛ばし何とかギリギリで避ける
こいつ、同じ攻撃しかしてこないくせに一撃が重いから厄介だ
「棍棒さえ手放せれば楽なのになぁ…」
「ア!」
beriが氷で細長い槍を作ってアギラスの腕に突き刺す
アギラスは叫びながら棍棒を手放し暴れる
その巨体が暴れると踏みつけられただけでも即死しそうなほどの地響きが鳴る
おっさんが風呂に入る時の声みたいに叫んで左手で槍を抜く
辺りに真紅が舞う
くろむがそれを切り裂くようにして鎌を振り回しアギラスの腹あたりを切りつける
10大ボスだってトトちゃんの一流武器にかかれば攻撃力が死んでいてもなんとかなるらしい
非力すぎるくろむもしっかりダメージを与える
アギラスも無抵抗ではない
切られた腹の傷を押さえるように足を上げてくろむ目掛けて踏みつける
そのゆっくりとした動作をちゃんと見切り避ける
この調子なら勝てる
月下人狼能力パロ 第二十八話「トドメはいつも」
音楽はYouTubeに共有という機能があることからもYouTubeのURLを貼ることにします
よろしくお願いします
フェンリル視点
思ったより強くないなと思った頃だ
アギラスが地面を強く殴りつける
地面が凹む
すると周囲の岩や、小さな石も小さく震えカタカタ音を出し始める
その石たちがアギラスに吸い寄せられるように集まる
やがてアギラスの姿は完全に見えないほどに石に埋め尽くされる
大きな岩がアギラスの腕にゴロゴロとくっついている
まるで磁石のようだ
「これやばくね…」
石のせいでさっきの2倍ほどの大きさはある
つまり俺たちの20倍だ
あまりの巨体に歩けば地形をも揺るがす
ここからが本番だ
巨悪人、アギラス
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YouTubeのURL失礼します
この曲を聴きながらぜひ
https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwj3le3Oq-n_AhVD-mEKHZcaB-YQwqsBegQIDRAE&url=https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3DyIWAp-ZueyY&usg=AOvVaw2Prh-TEbOL-hYuPZSh-XqH&opi=89978449
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beri視点
「うわぁあ!?」
どしんどしんと大きな音を立てながら巨体が動く
動きはさらにのろくなっている
棍棒を持つことさえ諦めたのか、黒く焦げついた棍棒は放置されている
腕に纏った岩をこちらに向けて打ち付けてくる
大きく振りかぶった隙に全員で反対側に移動する
相手の隙を見切ってくろむが鎌でアラギスを切っても鈍い音を立てて弾き返されてしまう
「石を切ろうとするのは炭の人だけでいいんだぞ」
フェンリルは高く飛び上がり空中で形態変化を行う
フェンリル第二形態
天高く掲げたその角に雷を宿して
雲を駆け巡る雷を岩の巨人に浴びせる
ゴォオンと低い音が響き渡りアラギスの全身の岩が弾け飛ぶ
「今だ!殴れ殴れ!」
露出した緑色の肌
新しく作った槍をこれでもかというほど差し込む
そこにくろむが鎌を振るいまるで釘を打つように氷の槍を差し込む
トトちゃんは少し離れた場所で
その勇姿を唖然として見つめていた
目も釘付けにされたらしい
力を使い果たしたかのように地上へ降りるフェンリルを横目にまた石がアラギスへと向かっていく
流石にもう雷は打てないだろう
くろむと目が合う
考えていることが脳の奥で一致する
刺した槍を引き抜きまた一度突き刺す
そして怯んだ隙にくろむが能力を発動する
強く伸ばした右手は希望に溢れていた
外から見たらくろむは魂が抜けてただその場に立っているだけ
だが能力が効いたのはすぐにわかった
石の動きが急にぴたりと止まる
くろむが帰ってくる
もう終わりだ
くろむが巨人を駆け上がり
首に鎌をかける
少し微笑んでいるようにも見えるその姿は
その姿は、まるで死神のようだった…
月下人狼能力パロ 二十九話「計画性を」
投稿遅れてすみません
ニーアレプリカントやってたからとかそんなこと…
レイト視点
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この曲と共にどうぞ…
https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwjQt5WV5ez_AhWVPHAKHXeCDosQtwJ6BAgREAI&url=https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3DO7dy3cKt1e0&usg=AOvVaw1cs25bQRRey_hNbkTirWGN&opi=89978449
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足元は溶岩が流れたような形のまま固まっている火成岩を踏む
そのまま時間を閉じ込めたようだ
すぐ隣を流れる溶岩がまだこの火山の生命活動を思わせる
みんとを突き落としたらどうなるだろうか
かえでは手でぱたぱたと仰ぎながら暑い暑い言っている
あまり風が起きる仰ぎ方じゃないのに強風のようになっているのは衝撃波のせいだろうか
攻撃手段も便利に使えるらしい
たまに溶岩が溜まったような場所から気泡が上がりはじける
その勢いで火の粉が飛んで肌を軽く焼き付ける
足元からじわじわとその地面が持つ熱が伝わってくる
この下にも溶岩が流れているのだろうか
しばらく何も変わらない背景のまま歩き続ける
そして、溶岩が壁のように固まっているところで全員が立ち止まる
「ここからが大変なんだよ」
「この迷路がね…」
端の方で崩れた壁の隙間から壁を抜けるとそれはもう地獄だった
自分たちが今立っている高台から、果てしなく迷路が続いている
どこからどう見ても人工物にしか見えないくらい完璧な迷路に違和感を覚える
乾き切った空気に焼き付けるような風が吹く
少し階段のようになった坂を降りて迷路の入り口とでもあおう場所に立つ
目の前には三つに分かれた道が続く
「俺この先来たことないからわからないんだけど、めっちゃ長いことだけはわかるよ?」
「3人別れた方がいいんじゃね」
「だって長い間迷路にいるとヤツくるし」
「ヤツ?」
「雑魚どもだよ」
「雑魚ども雑魚でいいのに群れると厄介だから」
「できるだけ早く突破したいところなんだよね」
「えぇ…」
「てことで」
「いってこーい!!」
俺をかえでの背中をドンと押し、反対側の道へと促す
みんとは堂々と真ん中の道を突っ切っていくのを俺は左目で見た
かえでが後ずさって俺が先に進むのを確認してからちゃんと入って行った
黒いごつごつした壁に囲まれる
道幅はあまりなく、片腕を伸ばすくらいの広さしかない
とりあえず、曲がれる道は全て曲がることにした
さっき上から見た時と同じで、ただずっとカクカク曲がった壁が伸びている
しばらく歩くと行き止まりがあった
壁にはレバーのようなものが付いている
怪しく輝く鉄製のレバーは少し錆びついている
先端についた赤い宝石を優しく握って下へと下ろす
カタンと初めからここにあったように、レバーは動きを止める
遠くで何かが擦れる音が聞こえる
壁に反響して低い音だけが耳に届く
「どこか開いたのかな…」
どこか不気味な空気が漂ったまま、来た道を戻ることにした
月下人狼能力パロ 第三十話「流れ行く」
かえで視点
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この曲を添えて…(前回と同じです)
https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwjQt5WV5ez_AhWVPHAKHXeCDosQtwJ6BAgREAI&url=https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3DO7dy3cKt1e0&usg=AOvVaw1cs25bQRRey_hNbkTirWGN&opi=89978449
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1人、心細く、黒い迷路の奥へと呑まれていく
そんな時
重い扉が開くような音が聞こえた
それに共鳴するように、背中が明るく照らされる
「はっ…」
開いたのはすぐ後ろの扉だった
扉というより、壁が割れて開いたような感じだ
扉が開けたところの下は、川みたいに水が通っている
奇妙なことに誰も乗っていないボートが定期的に流れているらしい
少し奥を覗き込むと止まったボートがガタガタひしめき合っているのが分かった
「これ乗ったほうがいいのかな…」
私のところの扉が開いたのもきっと私に行けと神様が言っているんだろう
だいぶ勇気がいるが、2m少しくらいの高さからボートまで飛び降りる
ボートはばしゃりと少し下に沈み、またすぐに浮かび上がる
服が少し濡れる程度の被害で済んでよかった
濡れた袖口を軽く絞りながらボートは流れる
どうやら覗き込んで見えたボートの溜まり場は一時的なものに過ぎなかったようだ
一部のボートが壁の突起に突っかかっているだけだった
突起に近づいた頃の思いっきり蹴ってなんとか自分の乗ったボートは何事もなかったかのように流れ始める
それにしても不気味だ
ただゆらりゆらりと黒い壁に囲まれた水路を流れるボート
一体誰がこんなことをしたんだろう
そして僕はどこへ辿り着いてしまうのだろう
流れに身を任せるとはまさにこのことか
ボートの流れに身を任せてどんどん奥へと進んでいく
定期的にある突起を蹴ってボートを安全に流し、また進む
たまに壁にボートの橋が当たってかたんかたんと音を立てる
やけにその音だけが反響する
ボートはなんの意思もないような
自我も全てを捨て去ったような
亡骸になったようにただ進む
黒い雲がかかって光が遮られた空を遠く眺める
ぼーっとそれを眺めているとトンネルに差し掛かる
空が見えなくなる
トンネルというより、黒い壁の延長みたいな感じで空を覆っている
あたりが暗くなりゆらりゆらりと揺れるボートはまるでゆりかごのようだった
僕はすぐに眠りについてしまった
月下人狼能力パロ 第三十一話「眠気を誘う船旅は」
みんと視点
黒い壁がひたすらに続く迷路かと思っていた
ただそれは少し間違っていた
下に伸びる階段を素早く降りる
そこには比較的透き通った綺麗な水の流れる水路のようなものがあった
なぜか定期的に流れているボートにタイミングを合わせて乗り込む
少し沈み込んでまた浮き上がる
乗った時の振動でボートが壁にこつんとぶつかる
少し壁をずりながらもなんとか中心に戻る
途中で何回もボートが溜まっているところがあった
そりゃあこれだけ流れていれば途中で詰まってもおかしくない
詰まったボートの1番向こう側まで他のボートを足場にして向かう
何度も何度も壁を蹴ってそのひとつを送り出す
するとどこかで音が聞こえる
黒い壁がずりずりと移動するような
そんな音があたりの壁に反響した
そして少し経ったくらいに水のばしゃんと言う音が聞こえた
遠くで聞こえた
誰かがボートに飛び込んだのだろうか
ずっとボートに乗っている俺はよくわからないけど他の2人も頑張ってくれているようではある
するとこのボートの行き先がかなり重要になってきそうだ
途中で見つけたオールでさらにボートを加速させる
もし本当に誰かがボートに乗っていて俺より先にいるなら到着地点は同じになるはずだ
そこでうまく会えるようにしなければならない
「誰か来てるー?」
水の音が聞こえるなら自分の声も聞こえるかもしれない
もっと早く気づけばよかったが、かなり大きめに声を出して呼んでみる
返事はなかった
「誰もいないのかな…」
ずっといると思っていたのが少し恥ずかしい
誰もいないことを確信してボートを漕ぐ手を止める
上を向いて寝っ転がって少し休憩する
しばらくすると黒い壁で覆われたトンネルに差し掛かり少し暗くなる
流れる水の音とぶつかり合うボートの音が響いている
急な睡魔に襲われて俺は眠りについた
---
かえで視点
「むにゃぁ…」
ボートがたどり着いた先は迷路を通り越しその先のちょっとした陸地だった
奥には島が見える
重い体を起こして陸地に上がる
今まで流れていたボートも同じようにここに溜まっている
誰かが戻したりしないのだろうか
何百という数のボートで形成された島のようになっている
ボートからボートへ、そしてまたボートへ飛び移り陸地に足をつける
ここは迷路のゴールらしく、水路はショートカットだったようだ
みんなより先に着いてしまった
ゴールから入ってみんなをここまで導いたら楽だろうかとか
なにかを使って僕がゴールしたことを伝えようかとか
寝起きのまだ働かない頭を使って考えた
「ゴールから入ったら確実に道忘れて迷子になるだけかな…」
ということで僕がゴールしたことを伝えることにした
空に何か打ち上げたら気付いてくれるだろうか
思いっきり鞭を空に向かって叩いてみる
能力も発動して衝撃波が空に伸びる…というか空気が動く程度
想像していたあのかっこいいものは僕にはまだできなかった
少し萎えていた頃だ
またひとつ、そしてまたひとつ流れ着くボートに人影が見えた
「みんとだ!?」
そこのボートまでたくさんのボートを踏みながら辿り着く
みんとは寝ている
やっぱりボートの揺れる感じと水の音は眠気を誘うのかもしれない
それがとても気持ちよさそうに眠っているので起こすのも少し迷ったくらいだ
レイトを待つ少しの間、みんとの隣にいることにした
月下人狼能力パロ 第三十二話「居眠り組」
???視点
「よっこいしょ」
これで今日のノルマは達成だ
150艘全て流した
薄暗い火成岩の橋の下を通る
今日も誰か来たみたいだ
俺の存在意義がちゃんとあってよかった
こんなことをいちいち考えるのもどうかしてるがな
金属の蓋をくるくると回し瓶の中身を覗く
ふわっと鼻の奥をつくような匂いが漂う
「今日も買ってくか…」
---
レイト視点
何やら誰かの話し声が聞こえる
少し進んできて妙に目立った橋の上に俺は立っている
下は水路になっている
水路の端を紫色の服を着た男が通っていく
手には茶色の一升瓶を持っている
不気味だ
水路の奥を見てみるとボートが一艘浮かんでいるのが見えた
あそこならさっきいた場所から追いつけるかもしれない
急いで走って別の水路から回り込む
ボートが目の前に見える
あと一歩足らず水路にどぼんしてしまったがなんとかよじ登ることができた
びしょびしょに濡れた上着を脱いで雑巾みたいに絞る
水がぽたぽたとボートの上に落ちる
そして今思った
「俺なんでボートの上でやってんだ」
小さな水たまりを見つめながら
俺は自然と眠りについていた
カタン
水路の端にぶつかった時とは少し違う音がする
誰かの声が聞こえる
「レイトー!」
「おはよぉおおおおおお」
目を閉じたままでもかえでが叫ぶ姿が容易に想像できるのも面白い
少し不安を覚えながらも目を開く
俺がずっといた迷路のゴールと、みんと、かえでがいた
「おはよう」
「君もやっぱ寝るんだね」
「みんとも僕も寝てたよ」
かえでがくすくすと笑いながら楽しそうに話しかける
みんととじゃあ苦痛だったのかもしれない
かえでの手を借りてボートから起き上がる
「みんとどれくらい前からいた?」
「さっきだよね?」
「あ?」
「結構前からいたけど」
「おまえが馬鹿すぎるせいで遅いんだー」
「なんで俺が一番遅いんだよ…」
「そういえばボート流してる人知らない?」
「それっぽい人見たんだけど」
「知らないなぁ」
「あれ人がやってんの」
まだ少し眠たい目をこすりながら思い出す
かえでは遠くの島を見つめている
「あそこにいる気がするんだよねー」
「ボートで行ったら絶対正規ルートじゃないけど」
「それしかないよね?」
「あるものは全て使おうぜ」
みんとがそういうと一番近くのボートの橋を引っ張って陸まであげる
3m弱の小さいボートは言いなりになってずるずると上がる
「これに3人で乗るか、一人一人で乗るか」
「俺みんとと乗るのお断りなんだけど…」
「じゃあ自分のは自分で引き上げやがれ」
そう言われたので次に近いボートをみんとみたいに引っ張る
それがとても重い
握った手が赤く模様付いている
全体重を反対側に倒す勢いで引っ張ったら少しずつ動き出す
みんとの力の強さに圧巻された
月下人狼能力パロ 第三十三話「猛炎の幻獣」
これからもサボってきた分を取り返すべく投稿していきます
次サボってたら叱ってください()
レイト視点
かえでと一緒にかえでの分のボートもなんとか引き上げる
みんとはさっさとボートを反対側の島の見える方へ浮かべている
水路の延長というべきか
それとも湖や海なんて広大なもので言い表すべきか
そのどちらともを兼ねたそれは溶岩に照らされ怪しく光る
かえでと2人で協力して水面にボートを落とす
波紋がみんとのボートまで広がっていくのをただ見つめる
「何してんだよ」
「早くいくぞ」
「あっうん」
みんとがボートの横についていたオールを取り出してボートを進める
みんとなんかに遅れまいとかえでも漕ぎ始める
一生懸命に漕いでいてもやはりみんとのバカ力には勝てなかった
「おい速くしろよ」
あのみんとが待ってくれている
対応の振れ幅でシャトルランができそうだ
ずっとひたすらにオールを動かし腕が疲れてきた頃
島が目の前に見えてみんとはもう島に上がっていた
「なにかいる?」
「いや、なにも…」
少し引っ掛かるような言い方だ
「敵はいないとだけ言っておこうか?」
「いいから来いよ」
「見ればわかるさ」
みんとに促されて急いで島に上がる
そこにはとても受け入れ難い光景が広がっていた
大量の…死体
たくさんの武器や防具が散乱しており、ここで起きた悲劇を伝える
「これって…」
確実に何かいた
しかも死体は全て焼死体
みんとの言っていたやつで間違いないだろう
「ラヴァチェル」
「俺たちの目的だな」
足の下を溶岩がまるで血液が流れるように移動する
ここで亡くなってしまった人たちの意思がここにはある
その人たちも同じだろう
元の世界に、帰る
そのたったひとつの願いのために
この人たちは犠牲になったのだろうか?
あまりにも酷いその光景にかえではもう目を向けてはいられなかった
考えてはいけない
考えてはいけない
考えてはいけない
そう自分に言い聞かせる
俺はあの中の1人にはなりたくない
いや、ならない
絶対に、ラヴァチェルを撃ち倒す
一層その想いが深まる
こんなもの何度も見てきたよと言わんばかりに元兵士さんは今にも泣き出しそうなかえでを横に見ている
「さぁ、いくぞ」
吹き出す炎の中
明らかに今までの奴らとは別格の影が現れる
二つの対になった巨大なツノ
なんとも凛々しいその顔は
10大ボスと呼ばれるに相応しい
渦巻く熱風
舞う炎
猛炎の幻獣
辺りに漂う火の粉を振り払い勇ましい咆哮を上げる
「やってやる」
月下人狼能力パロ 第三十四話「応急処置もお手のもの」
なんとか今日中に公開できたので許してっぴ(現在時刻23時23分)
レイト視点
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どうぞこの曲と共に…
https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwja0Kvxifv_AhUWMd4KHUnaC0wQwqsBegQIFhAF&url=https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3DnjRe6N4Cu0M&usg=AOvVaw08GuUz3PS53cUT9wlx_RSL&opi=89978449
---
目の前の炎がたちまち消え去る
その中からラヴァチェルが現れる
ツノから勢いよく炎が吹き出している
「炎に強いやついないのか?」
残念ながら誰も炎に耐性がある人がいない
弱い人もいないが、有効な攻撃手段を持ってる人もいない
なんで本当にこのメンツで来たのかわからない
「と、とりあえず離れよう?」
頭を振るって炎を掻き立てるラヴァチェルから反対側へと急いで逃げる
ツノから勢いよく吹き出す炎は掠るだけでもひとたまりもないだろう
そしてあいつの動きと連動して地中からも溶岩が噴き出ている
「きゃあっ!」
かえでの目の前に溶岩が高く噴き出る
打ち上げられた溶岩を避けようと目を取られているかえでをラヴァチェルは見逃さなかった
尻もちを付いているかえでに頭を向けて突っ込もうと構えている
このままではかえでが…
「あぶないっ!!」
かえでを押し倒して前に飛び込む
ちょうど落下してきた溶岩が被さりそこに突進してきたラヴァチェルに追い討ちされる
「…っ!?」
---
かえで視点
尻もちをついたところにレイトさんが突っ込んでくる
少し飛ばされて、後ろを振り向くとそこには
「レイトさん!?」
溶岩が被さりその姿はやがて見えなくなる
私を庇ったがために、溶岩もラヴァチェルも全てがレイトに襲いかかる
「何やってんだ!」
「離れろ!」
みんとが近づこうとする僕を押し除けラヴァチェルのツノを両手で押さえる
あまりの力にみんとでさえ唸り声を上げながらだんだん後ろに押されていく
レイトは頭を抱えてみんとの足元でうずくまっていた
押し合うみんとの下からレイトをなんとか引きずり出す
それはもうひどい怪我をしていた
ラヴァチェルの攻撃も一瞬だったにして喰らっていたせいか、左腕から出血もしていた
「こっちは任せろ!」
「かえではレイトを…」
みんとがそう言い放つとツノから手を離して素早く回り込み剣を抜く
ラヴァチェルの背中に一撃お見舞いしレイトから注意を背けて離れていく
これなら任せられそうだなという、少し不思議な安心感を覚える
倒れ込むレイトを仰向けに寝かせ傷を押さえる
回復役を失った今、まともに体力回復を行える人はいない
トトちゃんから預かった回復薬などをとりあえず広げてみる
「痛いけどごめんね…」
「…うん」
血の色が広がった袖を上げる
悲惨な傷跡が顕になる
何をすればいいのかは一切わからないので回復薬をかけて包帯を巻いておく
すぐ治るわけではないだろうが少しは良くなるだろう
飲むタイプの回復薬の蓋をひねって瓶の口を近づけてあげる
なぜか、あーんしているような気分になって今更少し恥ずかしくなった
それでも自分にできる最低限のことはできた
レイトはなんとか立ち上がってお礼を言ってくれた
だがこれで終わりではない
こんなことになった要因がまだ残っているじゃないか
「行くよ」
月下人狼能力パロ 第三十五話「過去の」
私が小説サボりすぎて明らかにファンレターの数が減っておりますね()
大変申し訳ない
それでも送ってくれる方ありがとうございます…
みんと視点
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さぁ何人の人がこの曲を聞いているのでしょうか(((
https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwja0Kvxifv_AhUWMd4KHUnaC0wQwqsBegQIFhAF&url=https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3DnjRe6N4Cu0M&usg=AOvVaw08GuUz3PS53cUT9wlx_RSL&opi=89978449
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レイトのことはかえでに丸投げして俺はラヴァチェルの相手をする
体の大きさは俺と同じくらいの身長で、それほど大きいわけではない
なのに圧倒的な力と炎でそれさえ弱点とも言い難い
けたたましい方向と共に前足を空中に振り上げ空を掻く
地面から噴き出す溶岩をかわしながらラヴァチェルの元まで近づく
「喰らえ!」
やけに長い尻尾に向かって剣を向ける
その時だ
ラヴァチェルが頭を傾げてツノを腹に押し当ててきた
「ぐはっ!?」
そのまま高く突き上げられる
高く上がりながら血を吐き、地面にうつ伏せになって落ちてしまう
「みんとさん!」
「ごめんごめんごめん!」
レイトが急いでポーションを作っているのがだんだん曇っていく視界の中でもしっかりと見えた
その後ろで何かが蠢いている
「うし…ろ…に……」
「喋らないで!」
「レイトまだ!?」
「今急いで作ってるから、急かすなよ…」
「わっ!?」
1番ラヴァチェルから離れているはずの俺のところにまで熱風が吹き付ける
レイトの後ろで炎が伸びてきている
レイトとかえでは素早く左右に分かれてかわし、俺もなんとか横に転がって直接に炎が当たるのをなんとか防ぐ
慈悲はないものなのか
相手がどんな大ダメージを受けて倒れていたとしても続けて攻撃を仕掛けてくる
大きく鼻息を鳴らし、まるで猪のような突進がかえでの横を掠める
「回復する暇もないじゃん!どうするのこれ…」
「俺のことなんていいから…あいつにダメージを与えることを考えろ…」
「ごめんいくよ」
レイトがそういうと完成したポーションを両手で握りしめてこちらに走ってくる
投げられたそのポーションを右手で軽くキャッチして中身を飲み干す
「…ありがとう」
片膝をついてなんとか立ち上がる
その間も気を引き続けてくれたかえでに感、謝…?
かえではそこにはいなかった
俺の後ろにいる
そして倒れているラヴァチェルの周りには大きな血溜まりができている
じゃあ、目の前にいるのは…?
「子狐さん!?!?」
レイトが驚いたように大きな声を上げる
その名前を聞くとこちらの兵士側としては随分と心が痛むものである
あの兵器の材料如きがと思っていたはずなのに
今では目の前で戦っているじゃないか
その時だ
どんよりと生気を失った目でついでにと言わんばかりに睨みつけられる
「もしかして…狙いはラヴァチェルじゃないのか?」
レイトがその子狐の目から察する
その殺意はこちらに向けられる
「子狐さん!俺だよ?レンコンだって!」
そのレイトの言葉から子狐にレンコンなんて付けられたのかなど、色々考察にも満たないものが頭に浮かんだ
「もう、私は子狐なんかじゃ、ない」
「最終兵器33号」
「主人に付けてもらった大切な名だ」
「主人の命令はは全てを滅ぼし弔うこと」
「もちろんお前も対象外ではないんだよ」
「すまないな」
完全に記憶が飛ばされているとかではないみたいだが、こちらに好都合というわけでもないみたいだ
俺はそこまでの感動はなかったが、レイトの淡く光の入る緑色の瞳には涙が浮かんでいた
何度も小さく口を動かし子狐さんとその名を続けている
その言葉はまるで誰かに訴えかけているようだった
するとぱっと子狐の体勢が変わる
長く細いレイピアをすっと引き抜き正面に突き出す
月下人狼能力パロ 第三十六話「もう一度」
---
曲名オバアチャンってどんな曲やねんと思うかもしれませんが愛すぎて宙返りしそうになるのでぜひ
https://youtu.be/tDHRpWNq2-s
---
レイト視点
どうして
もうそんな言葉しか出なかった
あの人はもはや子狐さんではなくなっていた
子狐さんが前に突き出すレイピアはラヴァチェルの血で穢れていた
そっと子狐さんの視点はかえでへと向く
嫌な予感がした頃にはもう遅かった
次の瞬間子狐さんのレイピアかえでを貫いて押し倒していたのだ
1番の敵は10大ボスでも過酷なフィールド環境でもなかった
みんとがすぐにかえでに駆け寄る
「おまえ…なにしてくれてんだ!」
さっきから3人で順番に大怪我を負っている気がする
でもかえでのものは大怪我なんて言葉では言い表せなかった
もう手遅れだ
完全にかえでを貫通させていたレイピアを勢いよく引き抜き子狐さんは満足げにしている
「そいつはもう助からないぞ」
「おしまいだよ」
「お前らにはコアを倒させないし、そのうち全滅させてやる」
「覚悟しとけよ」
そう言い放つと子狐さんの首元を掴む
「子狐さん!忘れてないだろ!?」
「俺の仲間だぞ?人間だぞ?」
「この…人殺しめ!!」
子狐さんは自分のやったことに気づくのが遅すぎた
いくら命令でもそれにしか従えない機械なんかじゃ、ないはずだ
---
「かえで!」
「ねぇ返事してよ…」
穏やかな表情のままかえではただ黒い空を眺めていた
こんな死に方あってたまるかと、心の中で子狐さんのことと己の無力さを嘆き続けた
あいにくラヴァチェルはもう死んでいる
みんなと会ってどう話せばいいのだろうか
みんとは無駄だとわかっていてもトトちゃんからもらった回復セットの蓋を開けている
助かるはずがないんだ
こんな終わり方して
まともに戦えもせずに
仲間1人守れなかった
ヒーラーの役割を、果たせなかった
誰かのせいにして押し付けなければ、自分を許せなかった
かえでがそっと口を開く
「しにたく…ないなぁ……」
「れいとさん…はよく…やってくれたよ……」
だんだん声は小さくなり果てには口元も止まる
「かえで!かえで…かえで!!!」
ひたすらに取り乱す俺をみんとは抑える
ポロポロと溢れ出した涙がかえでの服の色を水玉模様に変えていく
「かえでは、まだ死んじゃいないんだ」
「泣くなよほら」
初めはそんなもの信じられなかった
何もかも
だけど、みんとの必死さが本当になってきたのだ
「俺を舐めんなよ」
「最強の脱走兵だぞ?」
「完全に死んでいなければ、戻せるんだ」
「トトちゃんなら何か知っているだろう」
「はやく素材持ってって帰るぞ」
「うん…」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を袖で拭いながら子狐さんの倒したラヴァチェルを剥ぎ取る
みんとはかえでをお姫様抱っこしてボートに乗る
ひとつ余ったかえでのボートを背中に俺たちは少しはやく集合場所へと向かっていくのであった
「誰かを失っても、世界は無慈悲に回り続けるんだ」
「そうはならないようにしないとね」
「おう」
月下人狼能力パロ 第三十七話「長い道のり」
Aチームはアギラスを、Bチームはラヴァチェルを討伐
残るはCチーム
トトちゃん視点
意外にあっさり倒すことができて困惑している
10大ボスのアギラスだってそこまで強い方じゃないらしい
なんならBチームのラヴァチェルが1番心配だったりもする
あそこのチームは一見バランスが取れているように見えるが、他チームと違って3人しかいない
火力不足のくせにラヴァチェルは攻撃力も高いし体力もかなりある
任せるやつを間違えていた
集落へ戻るまでフェアチオンをささっと操作しBチームとCチームのある程度の位置を調べる
「あれ?Bチーム…」
フェアチオンの反応はある
ただ、2つしかないのだ
「…」
それはだんだん集落へと向かっているように見えた
このまま進めば会えるだろう
「Bチームも集落向かってるみたいだから」
「多分大丈夫」
Cチームは目的地であろう雪山でしっかり4つフェンリルの反応が確認できた
あそこのチームは状態異常が強いので雪山のクレイモアだって倒せるだろう
ただ雪山はここから1番遠い場所にあるので時間はかかりそうである
---
わんこ視点
雪山を目の前にして思うことがある
この先馬車引かなくていいじゃん!?
「流石にこの先馬車入れないから置いてくよ〜」
「さっさ、おりたおりた〜」
ずっと雪の上歩いてきて冷え冷えになった足に息を吹きかける
ここから先、山を登っていかなければならない
気が遠くなりそうである
「うわーさっむ」
「わんこありがとう」
「絶対寒かったじゃん…」
まっきーがそういってひょいと私を持ち上げる
「わっ、大丈夫だよ、歩ける」
まっきーはそんな言葉を気にせずにいいからいいからと言ってそのまま抱いて歩いてくれた
イケメンかよ…
猫丸とクーくんが馬車に積んでいた荷物を下ろしている
「お弁当たーべよ!」
トトちゃんの作ってくれたサンドイッチを取り出す
なんと別の入れ物にソースまで入っている
ベーコンとレタスとトマトの挟まった定番的サンドイッチに特製ソースをかけて食べる
滴り落ちるソースが噛んだときに溢れたトマトの汁と混ざって少し不思議な味になる
ちょっぴり辛いソースが合う
「おいしいねー!」
まるで今までの道のりを共にしてきたサンドイッチは明らかにその疲れを癒してくれた
ソースが辛い理由もわかってきた気がする
この辺りはあまりにも寒すぎる
そんな中でも体の芯からぽかぽかしてくるのだ
「ごちそうさま!」
「じゃあ馬車はここに置いて行く…でいいんだよね」
「持っていけるわけないじゃん…」
みんな歩くの嫌なんだなぁと
今までずっと馬車を引いてきた私が思うのもおかしいか
まっきーに代わりに歩いてもらいながらも考えていた
月下人狼能力パロ 第三十八話「発見」
わんこ視点
「あれー?まだ馬車に乗ってるのだれ」
「ん?僕もクーくんもまっきーもいるけど」
確かに猫丸の言う通りだ
この4人しか馬車には乗っていなかった…はず
でも確かに馬車の曇ったガラスの中には誰かがいるのだ
「開けるよ…?」
何故か変な汗が出る
知らない人が勝手に乗ってたらどうしようとか
モンスターが乗っていたら殺されてしまうかもしれないとか
そんな心配は一切要らなかった
「メルアさん!?」
「んにゃぁ…」
そこにはとても気持ちよさそうに寝ているメルアさんがいた
いつの間に乗っていたんだろう
「っは!」
「あ、おはよう」
「メルアさんいつの間に乗ってたの…?」
「集落を出るときくらいから、ずっと」
「えぇ…」
馬車の中で一緒に乗っていた人でさえ気が付かなかったと言う
「私も手伝いますよ」
「クレイモア討伐」
「あ、クレイモアって言うのね」
自分が今から倒しに行く敵の名前を皆知らなかったらしい
私もだが
「じゃあさっそくいきましょー!」
「私がここの馬車に乗ってきた理由はここのCチームが1番心配だったからなんですよ」
一応ここ4人いるから3人しかいないBチームについて行かなかった
つまりは相当ここのチームは弱く見られていたのだろう
メルアさんの案内で雪山を登っていく
「なぁんでトトちゃんこのチームにクレイモア任せたんだろう」
「Aチームが1番いいとまで思ってたんですけどね」
「どうして?」
「クレイモアって今回別のチームが倒しに行った中のボスでも唯一飛べるんですよ」
「だったら空中戦のなる可能性を加味してこちらも飛べる人がいた方がいいと思ったんです」
「そっか、Aチームフェンリルいるもんね…」
「ちょっとあの人の考えよくわからないんですよ」
「そんなところもらしくていいんですけど」
メルアさんはトトちゃんとどれくらいの付き合いだったんだろう」
何年前にここにきたのかもよく知らないけれど
そんな会話ができる時点で何年も経っていそうではある
「さぁ、ここを右ですよ」
「ここまできたら結構すぐなんです」
「メルアさんここきたことあるの?」
猫丸がクーくんの肩にぶら下がりながら言う
「もちろんです」
「私、昔にいろんな10大ボスの生態を観測してたときがあるんですよ」
「少し前ははそんな余裕があったものです」
「へぇ…」
昔はそんな余裕…
ずっとここにいる私ですらその時の記憶はない
メルアさんはどういう存在なのだろう
謎が深まるばかりの会話を続けて進んでいく
月下人狼能力パロ 第三十九話「いつまでに」
メルア視点
ずっと奥へ奥へと進んでいく
深くなるほど木の本数は増え、気温も下がり寒さに厳しくなってくる
「みんな大丈夫ですか?」
「何かあったら言ってくださいね」
「さむっ…」
「さむい!いつつくの!」
「ついたとしてもクレイモアがいるのは屋外なので、寒さは変わりませんね…」
「なんならクレイモアは吹雪などの攻撃を仕掛けてくるのでもっと寒いですよ」
「最高だよ」
そんなことも言いたくなるだろう
ここの寒さを知っている私はかなり準備をしてきたのでまだ大丈夫だった
畳んでおいた分厚い毛皮の上着を寒がる猫丸にかけてあげる
「ありがとう…」
わんこを抱き抱えるまっきーもそろそろ限界が来たようだ
そっと地面にわんこを下ろす
「もう少しですからね…」
何度言った言葉だろうか
そろそろ信用を失ってくるだろう
でも、そういうしかなかった
まだまだ先だなんて、こんなに限界なメンバー達の目の前ではとても言えたものではなかった
そんなことを考えていたら、高い音が響いた
金属が打ち合うような音だった
「だれかいますね」
「ちょっとここで休憩しましょう」
「みなさんはここにいてくださいね」
そう言ってわんこ達を少し高い木の近くへ移動させる
音の鳴った方を見にいくと、やはり何者か2人が剣を交えていた
何か下手なことがあってはいけないと、すこし見えるところまで後退りする
「もうやめないか…」
「俺も疲れてきたよ」
「もーちょっと!」
「お願い」
戦っているのではなく練習をしているのだろうか
話を聞いていると、その2人の名はパラストと黒猫とかいうらしい
パラストの方はどうやら見覚えがある
あれは確か
私がラヴァチェルの生態を観測しに行ったときにいた人だ
ずっとボートを流し続けてラヴァチェルを討伐してくれる人を待ち続けていたとか
火山地帯と雪山はとても離れているのにわざわざここで何をしているのだろう
そしてこの男がここにいるということはラヴァチェルが討伐されたということも同時に察した
「メルアさんどうだった?」
「剣の練習してる人が居ただけですよ」
「大丈夫です」
「よかった…」
「では行きましょうか」
安心したような温かい息を吐くクーくんを半分無視するような形でまた進む
そんな苦しそうな声も背中で聞いて進む
討伐するまで帰るなんてできない
クレイモアだって10大ボスの半分程度の強さである
環境が過酷なだけだって
そう信じている
---
猫丸視点
寒い
寒い
ずっと寒い
もう足の感覚なんてとっくになかった
どんなに大きな石を踏んでも痛みは感じない
メルアさんがどこかへ行っているうちに靴を脱いでみたら血だらけだった
クーくんの剣に触れたらいけないよって、わんこに言われた
どうやら素手で鉄に触れるとくっついて離れなくなってしまうらしい
どこかで聞いたことがあるような気もするが、そんな気温のところまで来ていたなんて思ってもいなかった
「メルアさんまだ?」
「あとどのくらいでつきそう?」
「あとちょっとだから、頑張りましょうね」
そればっかり
あとちょっとじゃないことくらい薄々気づいていた
けれどメルアさんは強かった
通り道を邪魔するような木があればどかしてくれたし
積雪がひどく通れない時はどけてくれたりもした
しかもメルアさんの上着までもらってしまった自分がこんな弱音を吐いていていいのか
あれもこれも全て元の世界に帰って、記憶を戻してもらうため
そのためだったらなんだってする
そう決めてきたはずだったんだ
こんなにきついとは思わなかった
足の傷が開いて靴の色が変わってきた
白い雪に赤い模様がつく
「猫丸!?」
「ごめん気づいてあげられなくって」
そう言ってクーくんは回復薬をくれた
まさかクレイモア相手以外に使うなんて…
それでももったいないよなんて言えなかったのだ
「ありがとう」
そう歩いているうちにだんだんとクレイモアに対しての殺意が高まっていく
全員が意思の塊で歩いていた
「倒れてる木、多くない?」
「近いのかな」
「そうかもしれません」
「注意して歩きましょう」
やっと兆しが見えた
何時間歩き続けていたのだろう
そして同時にざくっと何かを切りつける音も、冷え切った耳がはっきりと捉えた
「伏せてください!」
そう言われて全員が頭を抱えてしゃがみ込む
頭上に何かの爪みたいなものが飛んでいく
わんこが奥を覗き込む
「クレイモアいる!」
「それと、知らない人も2人…」
「パラストさんと黒猫さんかもしれませんね」
「さっき剣の練習をしていたという人ですが」
「行きましょうか」
クーくんがやたらと不器用に剣の柄の部分を握る
「後方支援、任せてください」
「わかった」
僕は後ろからみんなをサポートするほうが得意だ
まっきーもそうなはずなんだけど、やたらと前に出たがるのはどうしてだろう
「まっきー残らなくて大丈夫?」
「うん」
少し余計なことを聞いたかもしれない
倒れた巨大な木の枝を折って、道を作る
青白い光がチラッと見える
クレイモアと目が合った気がした
文字数2000字越え!やったね!
月下人狼能力パロ 第四十話「氷の心」
クーくん視点
クレイモアの起こす吹雪が僕たちが隠れていた木がだんだん凍りついていく
「進みましょう」
目に入らないように右手で顔を覆いながらなんとかクレイモアのいる開けた場所場所までたどり着いた
クレイモアの地震が起きそうな低音と綺麗できらきらと光り輝くような高音が混ざった方向が響き渡る
ここは奇妙にふたつの山のようなものが湾曲し左右から伸びて右半分と左半分を覆っている
尖った山の先が触れ合った中心で途切れ途切れに光り輝く水滴を落としている
クレイモアの姿は圧巻だった
氷の粒を纏ったようなその翼に、長い尻尾
4本の細くも力強い足がそのスタイリッシュとも言おう体を支えている
特徴的なのは長く伸びた爪である
切りつけた先から瞬間冷凍しそうなほどの冷気を纏っている
ぞわっと寒さと同時に鳥肌が立つ
パラストと黒猫らしい人物はこちらをじっと見つめているのが分かった
次の瞬間まっきーが腰からナイフを抜いてクレイモアに走っていく
あぁこれは当たらないなと言うことを察した僕とわんことメルアさんがクレイモアの反対に回る
反対側から攻撃を仕掛けようとしたらクレイモアが高く飛び立ってしまう
「そんな攻撃で当たるわけがないだろ」
「魔法を使え」
パラストと思われる男のほうが、そう呼びかける
どうやら黒猫のほうが怪我をしたらしく、治療しているようだ
「魔法使える人いたっけ!?」
まっきーの毒も、わんこの高い攻撃力も、僕の剣技も今効かないのだ
猫丸のサポートも相手の動きを把握してから動きを抑えないといけないのでもうしばらく時間がかかりそうである
「私が使えます」
「みなさん下がって」
メルアさんの灰色の髪がたなびく
両手をクレイモアに向けて白い光を集中させ、ぶつける
「あたった!」
命中率は低い技なのだろうか
やけに喜んでいる少しレアなメルアさんを見ることができた
クレイモアが低い音を鳴らしてふらついたように地面に再び降り立つ
「行動パターン解析完了!」
「動きを封じ込めます!」
猫丸が半分叫ぶようにそう言うとクレイモアの動きが極端に少なくなった
今だとばかりにわんこが尻尾にかぶりつく
その噛みついて離れた後に剣でスパッと切る
クレイモアは叫び声をあげて離れてこちらを見つめる
尻尾が切れたのだ(どこかで見覚えがある)
切断された尻尾は痛々しいほどに溢れ出した血液すら凍らせている
どれだけの生命力かと思いきや、クレイモアが切れた尻尾と自分の尻尾を近づける
そこの間を埋めるようにして氷で繋がれていく
「自己再生氷バージョンは聞いてないって!」
まっきーはそれを掛け声にしてナイフを頭に向けて突き刺す
頭を振り上げたせいでまっきーはナイフに掴まり地面から足が離れる
「え!?」
まっきーのところまで尻尾が近づいたと思いきや氷が全て溶ける
尻尾の先端のみが飛んでいってそれにあたったまっきーは落下する
「こいつ…動きが読めねぇ…」
だいぶトリッキーな動きをするクレイモアに翻弄されていた
そぉろそぉろラヴァチェルの参考イラストが完成するんだ
あぁ次はクレイモアか…()
今後について
いつも読んでいただきありがとうございます!
月下人狼能力パロの方の話なんですが、いい感じに進んでおります
そこで月下人狼学園パロの方はどうしましょうかと今考えておりまして
能力パロのハッピーエンドから上手く繋げられたらいいなと思っております
(こう言う変な考え方するからエンディングのお話だけもう既に完成してるんですよ)
というわけで皆さんに質問が!ごーざいまし!
①学園パロってなに ٩( ᐛ )و
私があんまり知らないだけですね
勉強してこようと思いますがリクエスト大募集する可能性大です
②能力パロで登場予定だった人たちを学園パロ初出場にしてもいいか
今のところ出てないのはアレス様、ururu、ですかね
多分もうちょっといた気もします
③能力パロどれくらいで終わらせたら読みやすいか
ある程度ストーリー決まってて難しいのもあるんですが
このままだと夏休み入ってしばらくくらいまではやってそうです
1番答えていただきたいのは学園パロのリクエストですね(?)
名前は伏せますがレイ◯とかレンコ◯くんが制作考えてたらしいんですけど
勝手にもらっちゃっていいのかな()
そこは本人が言っていただければ結構です
ファンレターいつもくれるかたありがとうございます!
後少しで150通です…!
リクエスト箱が過疎ってるね、うん
ファンレターでリクエストくれても全然いいんですけどねw
というわけで色々よろしくお願いします
by学校行く前の10分で全てを仕上げた人
月下人狼能力パロ 第四十一話「不遇な囮」
まっきー視点
毒を入れて仕舞えばこっちのものである
なのにブンブン尻尾を振って叩き落とされるし
掻い潜れたと思えば冷気噴射で吹っ飛んでしまう
尻尾を切ってもすぐ繋がるし
首でも切らない限り冷気は吐き続ける
何かあいつの弱点になるものを探さなければ…
「レイトを寄越せよ…」
クーくんが少し心許ない炎を剣に宿らせている
遠距離攻撃手段がメルアさんの攻撃しかないせいで、こちらはほぼ消耗戦を強いられている
空を飛び回るクレイモアにクーくんの炎の剣が当たることはほとんどない
「あのずっと垂れてる水が気になるんですけど、あれなんなんでしょうか…」
「ほら、凍らずにずっと垂れ続けてるんですよ?」
確かにそうだ
周りの水分、吐いた息の細かな水分までも一瞬にして凍りつくのに
そんな話を聞いたパラストと黒猫が注意を引いてくれる
空気が読めるいいやつだ
「あっつ!?」
その水に触ったクーくんが叫んでいる
「熱いの?」
「なんか、うんすごい」
水滴が凍らないのは温度が高いからとしてもどうしてこんなに寒い中熱いお湯が垂れているのかは謎だ
「それはお湯じゃないぞ」
「酸だ」
初めてパラストの口が開く
え、酸!?といった形でクーくんも慌てふためいている
確かにクーくんの鎧が少し変形しているようだ
「それをクレイモアに浴びせられれば強いんだけどなぁ」
「俺じゃあどうにもできん」
「このままヘイト買っといてやるから何か考えろ」
「えぇ」
メルアさんは何か思いついたのか、猫丸の元へ走って行った
「えっ?なにする気?」
猫丸が困ったような表情をしてメルアさんに両手で抱えられている
「ちょっと失礼しますよ」
メルアさんは猫丸を垂れ続ける酸の目の前に置いて、あまりのサンドイッチを持たせている
猫丸を囮にするつもりなのだろうか
サンドイッチは全く意味がない気もするが
「そろそろいいか?」
「こっちも疲れてきた」
パラストが交代を求めるのでさっそく猫丸にお手伝いしてもらうことにした
猫丸がサンドイッチを持って必死にクレイモアを引き寄せようとするがダメ
ちょっと殴ってムカつかれてもダメ
クレイモアは酸に近づこうとしない
危険だとわかっているのだろうか
「誰か上に登って雫の垂れる位置を変えることができればいいんだけどね」
「それか別のなにかを浴びせてダメージが与えられればそれでもいいんだけど…」
「俺、行ってきます」
「毒使えるし、雫の位置だって試してみます」
「じゃあ任せた」
意外と協力性のあるパラストと黒猫さん
少し不思議にも思えた
猫丸のいた倒れた巨木を右回りして、クレイモアのいる場所の上まで登ってくる
雪が積みかなさり何度も滑って登り直した
ところどころで露出している岩に足を引っ掛けて、なんとかいい位置まで来れた
そこには大きな酸の溜まり場とも言おうものがあった
湧き出ているのかは分からないが、無くなることはなさそうである
それが下に滴り落ちていたのだ
皆様もう四十一話ですよ…
第二章も五十話でおしまいです
はやいもんですな
(あーイメージイラストいい加減書かないと第三章いっちゃう)
月下人狼能力パロ 第四十二話「溶け溜まり」
まっきー視点
溜まった酸が垂れ続けている
その下でメルアさんたちがクレイモアを誘導して逃げられてを繰り返しているのが丸見えだ
俺の仕事はその動き回るクレイモアにちょうよく酸を浴びせること
「もうちょっと動き止めれなーい!?」
「絶対むりー!」
近くに落ちていた木の枝を手に取る
これで酸を一気に押し出して大量に落とせる
だが、落としたところで誰かにかかるかもしれない
動き回るクレイモアに少しでも浴びせるとはそういうことだ
「僕が動き止めるから…」
「もうちょっとだけ、待っててね…」
猫丸の能力の代償は重い
発動時自分も動けなくなることに付け足して、その後もしばらく身体能力が鈍くなったり
記憶が飛んだりすることもあるらしい
「うわっ!」
「伏せて!!」
少し考えてぼうっとしていたら急に黒猫さんがそう叫ぶ
「え?」
「いいから!」
次の瞬間クレイモアが空気を思い切り吸い込んで自分を翼で覆い隠した
その翼のカーテンの内側に冷気を吐き出し溢れ出す
キラキラと翼の氷の装飾が豪華に飾りついていく
しばらくして翼を勢いよく開いたかと思いきや、とんでもない風がこちらにまで飛んでくる
服の裾が凍りついている
まさかと思い下を覗きこむ
「…」
足元が氷で覆われて身動きが取れなくなっている最前線の黒猫さんにパラスト
その後ろのクーくんとメルアさんはまだ動く左足を巧みに動かし右足にへばりついた氷を蹴り破ろうとしている
猫丸はいまだにクレイモアの動きを止めようと行動を分析していた
新しい攻撃法に少し戸惑っている様子だ
クレイモアは硬い氷で全身を覆って近接の嫌がらせをしている
「んんぅ!!」
「やっと割れましたよ…」
「クーくんちょっと失礼しますよ」
「ありがと!」
パラストと黒猫さんの氷も2人で割る
「動き止めれます!」
「みなさんまっきーの酸が来ると思うので離れてください」
猫丸の掛け声と同時にクレイモアの動きが止まる
全員が猫丸のところへ走っていく
やっと俺の出番だ
木の棒を両手で握りしめ奥から勢いよく押し出す
酸はクレイモアの頭上に今までの雫を忘れさせるくらいの勢いで落下した
急いで猫丸のところへ降りる
「攻撃チャンスです!」
クーくんは猫丸のそばについて、俺とメルアさん
パラストと黒猫で攻撃を仕掛ける
思いっきりクレイモアの腹にナイフを突き刺す
自慢の毒をやっと喰らわせることができて満足である
「能力発動!」
クレイモアの血管という血管が紫色に浮き出る
叫ぼうにも動けず叫べない痛みが伝わってくる
「お前すげぇじゃん」
黒猫さんがそう言って褒めてくれた
初対面でも、お互い助けられたからかもう溶け込んでいる気がした
お待たせしましたクレイモアです
https://media.misskey.cloud/files/thumbnail-061b749f-b9ae-4adb-b240-b568850657ae.webp
そしてラヴァチェルです
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月下人狼能力パロ 第四十三話「磊々落々」
メルア視点
まっきーの毒がよく聞いている
纏っていた硬い氷と鉄壁の鱗を酸で溶かしたおかげで物理ダメージもよく通っているらしい
黒猫さんの斬撃が急所を突く
ヴガッ
血を吐き出したかと思えばクレイモアのその変わり果てた姿は地面に這いつくばっていた
「やったか…!?」
ヴヴヴヴヴ…
「…」
倒れていたはずのクレイモアがゆっくりゆっくりと起き上がる
フラグ回収一級をまっきーには授けたい
「誰だよやったかとか言う奴…」
「ちょっと!重い!重いって!」
わんこの声が聞こえる
そういえばずっと居なかったような…
クレイモアをみんなで一方に引っ張って見ると浮き上がっていた部分からわんこが出てくる
「なんでみんな気づいてくれなかったの!!」
どうして急にわんこがクレイモアの下から出てきたのか
というかいつから居なくなったのかすらわかっていない
ずっと気づいてもらえないくらいにみんなは集中していたのだろう
「どこに居たの…?」
「え!?」
「クレイモアに食われてて…」
クレイモアを討伐した時に吐き出されたのか、それで下敷きになっていたらしい
「ひどいよぉ…」
「あ、そういえばクレイモアのお腹の中にこんなものが」
そう言ってわんこは青白く光る宝石のような塊を差し出した
「これは…クレイモアの翡翠ですね」
「体内から直接奪ってくるなんて人初めて見ましたよ…」
「へへ」
そうしてわんこが知らない間に大活躍しながらも、なんとか討伐することができた
パラストと黒猫にはお礼を言って別れて帰った
あの2人はどうやらここら辺に住んでいるらしい
そんな2人を雪山に置き去りにして私たちは雪山を後にした
「強かったよね…」
「パラストさんと黒猫さんいなければ無理でしたね」
さっきのことなのにもうそんなことは笑話に変える
私は思ったより10大ボスをこんなにもあっさり倒せていることが不安だった
チームAもチームBも位置的にはもう倒し終わって集落で休憩をしているようだった
あのラヴァチェルが討伐されたことは特に驚きだった
「はーいわんこ首お邪魔しますよー」
「ふぇええ…」
「私の戦いはここからなのね」
わんこの首にクーくんがかちゃかちゃと金具をつけてベルトを締める
ぱしっと縄を振るうとわんこが雪に沈んだ車輪を少しずつ動かしていく
「ふぅ…やっと戻れるね!」
だいぶ意識の戻った猫丸が気持ちよさそうに伸びをしながらそう言う
まっきーは疲れ果てて眠っているようだった
だんだんと移りゆく窓の向こうの背景を横目に私も眠りについた
---
わんこ視点
何かと重役を任せられるのは少し嬉しい
みんなを乗せて長い道のりを歩くのも、だんだんと楽しくなってきたくらいだ
見慣れた平原を歩くのも、大きな馬車を引いて歩くと少し誇らしくなるものである
トトちゃん達がずっと待っているであろう集落も後少しで到着するだろう
月下人狼能力パロ 第四十四話「もはや犬車」
わんこ視点
「とうちゃく〜!」
「みんな降りるよ〜」
クーくんに首のベルトを外してもらう
馬車のドアを開けるとそこには全員ぐっすり眠っている姿があった
「いいなぁ、馬車の中って寝心地いいのかなぁ」
「みんなおはよー!!」
「あっ着いた?」
「ふわぁあ…」
「おーい猫丸も起きるよ〜」
馬車を片隅まで移動させてトトちゃんのところまで向かう
「トトちゃんはあっちですね」
「方向的に民宿のあたりかと」
「わんこお疲れ様」
「ありがとうね」
まっきーが雪山でやってくれたようにひょいっと持ち上げて抱っこしてくれる
いちいち行動がイケメンすぎるのだ
「あれレイトじゃない?」
「レイトだよ!みんないた!」
「クーくん?」
「あ、Cチーム帰ってきたよ!」
外で待機していたレイトがそう言いながら民宿の中にかけて行った
「おかえり!」
「これで全員だね!」
「全員…」
みんとがどこか引っ掛かるようにそう言う
「あと、1人だけどね」
「はやく見つけに行こう」
「何かあったの?」
「かえでがね…」
みんとに連れられて民宿の中に入ると畳の上に敷かれた布団にはかえでが眠っていた
息はしていないようだった
「…」
「トトちゃんによるとこの状態からなら蘇生できるらしい」
「まだ死んでないというか」
「そうだね」
「でもそれには生命の花弁という石の中に生える花の花弁が必要なんだよね…」
トトちゃんが空くし変色して古そうな紙を取り出して見せる
そこには灰色の背景に光り輝く白色の花が埋まっていた
こんなところに埋まった花、見つけるのも大変だろう
「クレイモアの翡翠あるんだけど、これレイト使えたりしない?」
「やってみる」
袋から溢れんばかりの光を放つ翡翠を取り出しレイトに手渡す
レイトの手に渡った瞬間その光は増しレイトの手の中で静かに消えた
「…」
前髪で半分隠れた左目が光っている
「わぁ…」
まるで翡翠の光が乗り移ったかのようだった
レイトは素早く左目を手で被せる
「見える…」
「手の向こうが見える!」
「え?」
「それとゴーグルつけたみたいに鉱石に文字が書いてある…」
「これは、レア度と種類かな?」
どうやら左目に特殊な効果が授けられたようだ
「それなら石を透視して生命の花見つけられるんじゃない!?」
「確かに!!」
残りのボスの難易度の高さからレイト、フェンリル、べりだけを生命の花の探索に行かせることになった
他の人たちは全員同じボス討伐に行くことに
「フェンリル乗せて〜」
「いいよぉ〜」
「というかどこに探しに行くの?」
「石の中だから鉱山とか?」
「そうだね、あとここには絶対ないらしいから飛んで鉱山をまた別で探さないといけない」
「了解!」
そう言ってレイトとべりを乗せたフェンリルが飛んでいった
「私たちは今から塔に行って10大ボス5連続行くつもりなんだけどいい?」
「5連続!?!?」
「10大ボスってなんだったんだ…」
「その塔5階建てなんだけど、そこの階層に1匹づついる感じ」
「つまり全階層ボスがいるね!やったね!」
「だけどこれだけの人数いるから多分なんとかなる」
「わんこにはまたお願いできるかな」
「はーい!」
そうして塔までまた馬車を引くことになった
月下人狼能力パロ 第四十五話「予定変更」
beri視点
「フェンリルなんか見える〜?」
「面白いくらい何にもなーい」
「俺もここら辺来たことないもんなぁ」
フェンリルの一人称が俺になっていることに今更気づく
「フェンリルは僕のほうがかわいーよ!」
「俺は!かわいく!ない!」
「…」
レイトが変な目でこちらを見てくる
なんだそのごみを見つめるような目は
「あそこの山じゃだめかな」
「とりあえず行ってみる?」
フェンリルはその山の頂上を駆け上がるように登ると近くの岩場に足をついた
「多分この辺でいいと思う」
「生命の花だってこの世界に一つしかないわけじゃないから」
フェンリルから降りて下を覗き込んでみる
下が入り口になっていて、この中は洞窟になっているようだ
まるであのアライモメのときのメイズマウンテンのようである
「洞窟かぁ」
「こんなところに花が咲いてる気がしないんだけどなぁ」
レイトの言う通りだ
トトちゃんから見せてもらった紙には日当たりがいい場所と書いてあったのだ
「生えてるやつとってくるんじゃなくてさ」
「景品としてもらえるやつでもいいよね」
「あのちょっと都会的な街に似合わないけど闘技場があって、そこの景品にあったはずなんだよね」
「ここまで飛んできたしあと少しで着けると思うよ」
「探さなくてもいいの!?」
「そっちがいいー!」
「俺がついてきた意味よ…」
「レイトも戦うけど?」
「はいはい…」
「はいは一回!」
「はーい」
もう一度フェンリルに乗る
3回くらいフェンリルが羽ばたいたら着くくらいの距離にはその街が見えた
あまりここは探索したことがなかったが、闘技場なんてものがあるのは初耳だ
「闘技場の前に降りるよ」
闘技場の前のおしゃれな噴水のある芝生の広場に着地した
闘技場もSF的な雰囲気を漂わせておりメタリックでところどころが青色に光っていた
「ここに集まるのは猛者ばっかりだけど、生命の花はAクラスの景品だからね」
「Sまで行かなくていいから大丈夫だよね!」
「ちょっと待ってこれって個人戦なの?」
「団体戦と個人戦の両方あるよ」
「団体戦がぶっちぎりでおすすめなんだけど」
「じゃあ団体戦にしようか」
「だって個人戦だとそこのレンコンが無能になっちゃうからね」
「なんだって?」
「攻撃能力は有しておりますが」
「君の能力どう考えてもサポートだろうよ」
「…そうだけど」
「あと君の目のこともじっくり調べたいからね」
フェンリルは言い終わると中へ入っていった
少し寒いくらいにエアコンが効いた闘技場内ではいろんな格好をした人たちが準備をしていた
いつのまにか人間の姿になったフェンリルが受付のところにいた
フェンリルがこちらを向いておいでおいでしている
「この2人も含めて3人のチームで出場します」
「了解です。」
「次は31時からとなりますのでそれまでごゆっくり」
31時と言う聞きなれない時間に一瞬戸惑うがすぐに理解した
ここは2日に一回しか夜が来ないから1日が48時間なのだ
少し奥に進んだところにある休憩所で黒い長めのソファに3人で腰掛けた
「俺何か買ってくるからさ」
「食べたいものとかある?」
「特にはないかな」
「俺サンドイッチ以外ならいいよ」
「サンドイッチ以外把握したわ」
フェンリルが少し苦笑いをして小洒落た売店へと入っていった
第二章最終話が迫ってきております
なんともう最終話書き始めております(((
私って変わった書き方しますよね🤔
月下人狼能力パロ 第四十六話「10大ボスの威厳どこ」
トトちゃん視点
「ここだね」
少し古びた小麦色をした塔が建っている
塔にしては少し太いが、それはこの塔自体がダンジョンになっているからだ
「想像よりもすっごくでかいんだけど…」
かえでを残して馬車から降りる
かえでにはきっと助かるからと、聞こえているのか聞こえていないのかよく分からない呼びかけをする
死んではいないのだ
「じゃあ、行こう」
無い扉を押し開けるような勢いで全員中に入った
「すぐボスがいるわけじゃないんだ!」
「安心した…」
「猫丸油断しちゃダメだよ」
クーくんは兵士だからここには一度きたことがあってもおかしくないだろう
「ここから右にぐるっと回っていくからね」
中心は大きく空いていて、周りの敵を全て倒すと中心部にボスが現れる
そいつを倒すと次の階への扉が開くのだ
私たちはそんな太い塔の内側を丸くなぞる長い階段を登っていく
「トトちゃん前!前!」
「へ?」
ブルーボアだ
私はなぜか敵のダメージを受けないから、攻撃されても気が付かなかった
「私なら大丈夫だからw」
「私の攻撃も敵には届かないけどね」
クーくんが1匹を切って、後ろに逃げたやつをまっきーが止めを指す
「ありがとう」
「最初の敵は簡単だからね」
「中心見てみてよ」
一応10大ボスなのでそこまでの雑魚がいくら弱くてもそれなりの強さのボスが出てくる
巨大な2本のツノを携えた化け物が地から這い出てくる
ビッグホーンだ
奇妙に細長い尻尾を鞭みたいにして叩いている
「え!?もうボス!?はやいって!!」
あのメルアでもこんなに慌てている
そこまで強い方じゃないから、早く倒したいところだ
まっきーがナイフを突き出して1番最初にそのビッグホーンの背中に突き刺す
「え?こいつ弱い!」
私的にはセルペスと同じくらいの強さだ
まっきーの強烈な毒が回ったのかとてもよくふらついている
「いただきっ」
くろむもまっきーに続いて鎌を振り下ろしながら着地する
綺麗に垂直を描いた鎌は斬撃を残しくろむの真後ろに片方のツノが落下する
ビッグホーンは片方のツノの頭をぶんぶんと振り回しただ暴れている
メルアさんのツル魔法で首を軽く締めとどめを刺した
「なぁんだこんなもんか」
「最初だからね…」
「少なくともこれより強い奴が4体はいるから」
今までの旅の成果と言うものか
最初と比べて力がついて、10大ボスに数えられるビッグホーンですらこの有様だ
ほとんど能力を使わずに1匹処理できたのは助かる
ビッグホーンの翡翠やら素材やらを剥ぎ取るうちに次の階への扉が開いた
階段の1番上の重い扉がずりずりと音を立てながら開いた
第二章最終話までにはまだイメージイラスト公開してない人たちできるようにします!
もうしばらくお待ちください!
月下人狼能力パロ 第四十七話「生命の花」
夏休み突入!
2000字!ほめて()
フェンリル視点
とりあえず焼きおにぎりを買ってきた
結構和風なものが多くて驚いていた
「おかえりふぇる」
「わー!焼きおにぎりだ!」
少し小さい拳ほどの大きさの焼きおにぎりをひとつずつ手渡す
「久しぶりだなぁ米食うの」
「そうだねぇ」
どうやらもうひとつの世界の方では米を頻繁に食べていたらしい
なぜか焼きおにぎりを買ってきた俺が褒められてあっという間に時間になった
「こちらが入場チケットになります」
「対戦するチームは闘技場内でご確認ください」
「では、いってらっしゃい!」
緑色のチケットを受け取り闘技場へと向かっていった
---
闘技場では様々なチームがもうすでに戦っていて、そこに割り込む形で入ることになっていた
つまりは最低ランクのEから始める手間が省けたのだが、問題は別にある
いきなりAランクの猛者と戦わなければいけないことと
これを逃すと生命の花の入手が困難になってしまうことだ
「Aランクのバトルが始まりまーす!!」
「出場チームは舞台へどうぞ!」
「えっ!?いきなりすぎない!?」
「が、がんばろう…?w」
ゆっくり状況把握する時間もなくすぐ出されて困惑している
とりあえず舞台と呼ばれる場所に上がるとすごく体格の良い人と見覚えのある顔の人が2人出てきた
「パラストさん?」
「黒猫さんも!」
「いやぁここで会うとは思わなかったね」
「しかも君たち割り込み参加だろ?」
「Aランクまで勝ち続きの俺たちに勝てるわけないね」
「な、アレス」
「おう」
その体格のいい男の人はアレスというらしく、当たったらひとたまりもないようなトゲのついた鉄球をぶら下げている
「おしゃべりはこれくらいにしておきましょう!」
「いよいよ始まりますよ〜!」
「レディー!!」
相手チームが武器をジャラジャラと出してきたので、こちらも構える
「ふぁいっ!!!!」
1番最初に動いたのは黒猫だった
パラストと全く同じ片手剣を握ってこちらに走ってきた
30mほどしかない距離はあっという間に詰められてしまう
その時だった
レイトが少し魔力を節約して炎の玉を放った
その炎に魔力を加えていくと、だんだん不気味に黒く光る弾ができた
レイトは闇魔法が使えたらしい
闇魔法は炎の性質を完全に変化させ闇の力を取り入れることができた場合にのみ初めて使える魔法
扱いがとても難しいだけあって、威力はそれ相応だ
いつの間にこんなものが使えるようになったのか…
ゆっくりゆらめく黒い魔力は黒猫の元へと飛んでいく
真っ直ぐこちらを切ろうとしていた黒猫の軌道がずれる
「あたった!」
「無理だと思ってたのに」
いくら喜ばしいことが起きようと相手は待ってくれない
アレスが大きな鉄球をぶんぶん振り回しながらこちらに迫ってくる
その姿は恐怖すら感じ、自然と狼の姿になり空に逃げていた
「フェンリルそれはずるいって!」
「ここから雷落とせばいいだけだから!」
「さぼるわけじゃない!」
べりが分厚い1mほどの氷の板を生成して両手で抱えている
盾のつもりなのだろうか
アレスは容赦なくべりが両手で身を守るようにして持ち上げた氷の板に鉄球を振り落とした
ドンっと鈍い音が響く
鉄球についたトゲが板に突き刺さっている
「あ?どんだけかてぇんだよ!!」
べりは氷の板で押し返し、鉄球を板ごと投げ飛ばした
場外へ飛んでいった武器は使用不可能だ
「こいつ…」
さっきからぴょんぴょん跳ねてこちらに剣を振り回しているパラストもそろそろ疲れたようだ
闇魔法を食らった黒猫がパラストの元に駆け寄る
「早いうちに降参しといたほうがいいんじゃない?」
「無理だよこんな人たち…」
「だよな…アレスの鉄球が使えないんじゃあ話にならない」
「それにずっと空にいるやつと闇魔法使いもだって?」
「無理だろ」
そうして白旗を上げたパラストたちのチームのランクはBに下がり、俺たちはちゃんとAランクに昇格した
「おめでとうございます!こちらが景品の生命の花です」
まるで美女と野獣の薔薇のように大事に保管されている薄桃色に光り輝く花を手渡される
その花は不思議にケースの中をふわふわと浮いている
「なんか…結構あっさり手に入ったね」
「しかもパラストたちともこんなところで会うなんて思わなかったよ」
「それはこっちのセリフだよ…」
「しかも会ったら会ったで君たち強すぎ」
「本当はその花だって俺たちがもらう予定だったんだし…」
その時初めて気付いた
パラストたちも何か生き返らせたい人がいるのだろうか
「パラストたちはこの花なんに使う予定だったの?」
「その花、強力な治癒能力と蘇生能力にプラスして能力強化の効果もあるんだ」
「この3人全員能力が弱いからね」
「それを強化する予定だったんだけど、君たちどうやら誰か死んだんだろうね」
勘のいいやつだ
「それならそっちの方が断然優先だよ」
「はやく行ってやりな」
「ありがとう…」
勝ったのは確かにこちらだが、明らかにいい奴だった
アレスと黒猫さんも大きく手を振ってくれた
またどこかで会えるといいな
できれば、元の世界で
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わんこ作クレイモア
いつもありがとう!
月下人狼能力パロ 第四十八話「本当の想い」
なんで更新するの忘れるんだろう🤔
beri視点
パラストたちに譲ってもらったとも言おう生命の花を抱きながら闘技場を出る
ここに来た時と同じようにフェンリルに乗ってあの集落に帰る
行きとは少し違った、どこか温かいすっと吹き抜けるような風が心地良い
「そういえば集落に戻ってるけどさ」
「トトちゃんたちずっとそこにいるかな?」
「あっ…」
「いないだろうね…」
あのトトちゃんだ
ずっと帰ってくるのを何もせずに待ってるだなんて非効率的なことするわけがない
「トトちゃんどこに行くって言ってたっけ?」
「塔だっけ?」
「あーそれだそれ」
「というか反対方向やん」
少し無駄な時間を過ごしたところでフェンリルは大きく方向転換した
向かい風が気持ち悪い
---
かえで視点
「ここは…」
「みんなは…?」
真っ暗な空間にただ1人佇む
一歩前に踏み出してみる
少し遠くに灯りが灯る
黄色を帯びたその光は優しく輝く
自然と体が光に向かって歩き始めていた
---
beri視点
巨大な塔の前に馬車を見つけた
トトちゃんたちはここで間違いない
着地して馬車の扉を開けると、そこにはかえでが置いてきぼりになっていた
「いくら動かないし死んでるからモンスターに襲われないからって置いてくのはねぇw」
ゆっくりケースの蓋をずらし花を取り出す
かえでの上にそっと桃色に光る花を置くと、まるで砂になったかのように粉々に砕けてなくなってしまった
「これで…いいのかな」
「うん、多分」
「多分って…」
しばらく待ってみてもかえでが起きることはなかった
ただずっと桃色に光り続けるだけだった
「時間経過でなんとかなる感じなのかな…?」
「トトちゃんたちも心配だし、かえではこれで生き返ると信じて行こう」
レイトもかえでの心配はしているらしいが今出来ることはほぼ0だった
「行こうか…」
そうして塔へと向かって歩いた
---
トトちゃん視点
「この先からもう音が聞こえるんだけど」
「随分と元気なボスですこと…」
剣と剣が混じり合うような鋭い音が響いた
もうすでに誰かいるのだろうか
その音を聞くなりみんとが次の階への階段を颯爽と駆け上がっていった
「子狐…」
みんとの震えるように小さな声が聞こえる
階段を一段づつ飛ばして私もみんとのそばに駆け寄る
そこには巨大な斧を持った二足歩行のドラゴン
ドレイルアックスと、格上の相手にも関わらず剣を振るう子狐の姿があった
ドラゴンは子狐の少しトリッキーな素早い動きに翻弄されひたすらに斧を地面に打ち付けていた
お互いダメージを与えられないまま少し時間が過ぎた頃だ
「たとえ子狐さんがいようと、私たちの目的は変わりませんよね」
メルアが優しくそう言う
今子狐に加勢すると、仲間を殺した奴の味方をする格好になってしまうから皆嫌ったのだろう
メルアがそう言ってもなかなか自分から行こうとする人はいなかった
その時だ
ドレイルアックスの攻撃で天井に穴が空いた
上の階層のモンスターたちがこちらに流れ込んでくる
子狐はそのモンスターを私たちのところへ向かわせまいとヘイトを買って戦っている気がした
「ごめんね子狐さん…ごめんね…」
子狐の中では二つの心が闘っていた
真の感情と、あとからやってきた主人の命令だ
今までの私の経験だとその命令を抑え込むことができたあとに、糸が切れたように取り込まれてしまう
それは自分自身でもわかっているだろう
せめて今はまだ
その時じゃないと信じたい
溢れかえりそうなほどのモンスターの死体を蹴り飛ばしながら私たちはドレイルアックスに挑んだ
月下人狼能力パロ 第四十九話「さよならは言わないで」
みんと視点
子狐の様子がおかしい
元々俺が連れて行ってからおかしいと言えばそうなのだが
寄生虫が強かったのか、はたまた今更その効果が強まったのかはわからない
もう人間ではなくなっていた
「子狐!」
雑魚からの攻撃を庇う
子狐の気持ちは俺が誰よりもよくわかっているはずだ
子狐をこんな目に遭わせたのも、俺
そして同じ境遇に遭ったのも、俺
武器で弾き返したはずの敵の攻撃は火花を散らして花が咲く
やがて子狐は倒れた
元、仲間たちを置いて
この世界の恐怖と絶望の感情を全て置き去りにして
まだ生きている
ただ、今とどめを刺さなければいけない
俺とトトちゃん、クーくん、猫丸、まっきー、くろむ
そして、子狐
今ここにいる7人で成したのはこの山積みになった死体
ドレイルアックスでさえもう息はしていない
なのに次への扉は開かない
まだ残ってる
「子狐…」
誰にもわかってもらえなかった
わかってほしくもなかった
その矛盾を一生抱えて生きていく
「もう終わりだからね…」
みんなには俺の考えていることがよくわかっているようだ
クーくんと猫丸は後ろを向いているし
くろむだって俯いて顔を手で押さえている
メルアさんとトトちゃんが、子狐さんを挟んで俺の元に近づいてくる
「君がやってくれるのなら」
「それでいいけど」
「わかってるよね」
「せめてもの罪滅ぼし…のつもりなんじゃないですか」
「トトちゃん、」
メルアさんとトトちゃんはそっと後ろに下がって、他のみんなと一緒に目を逸らしている
この中の誰かのものであろう泣き声も聞こえてくる
「今まで…」
「ありがとう」
高く振り上げた剣を思い切り突き刺す
キラキラと輝く銀色の頭身が紅に染まっていく
無慈悲にずりずりと重たい扉が開く音がした
少なくとも俺には、いつもより重く聞こえたその音を
今でも忘れることはない
「みんと…!?」
べりの声が聞こえた
何もわかっていない
最悪のタイミングだ
ふと上を見上げるとそこにはフェンリルの上にまたがったレイトとべりの姿があった
後ろにはしゃんと立ったかえでもいた
「ごめんなさい…本当に、ごめんなさい」
「俺は、ただ…」
「君との時間を…」
俺はいつのまにか、その剣を引き抜き自分の腹に刺していた
これでよかったのだ
「みんと!!」
消えゆく意識の中
うっすらと駆け寄る仲間の声が頭の中に何度も響き、聞こえた
その時は本当に幸せだった
自分の最期まで心配してくれる仲間がいる
たとえそれがどんな終わり方だろうと
俺はまだこの世界を見捨てちゃいない
他力本願にも程がある
最後の力を振り絞ってこう言う
「絶対に、終わらせるんだよ…」
月下人狼能力パロ 第二章最終話「時の旅人」
書いてる時の文字数はちゃんと20000超えてるのに外から見ると少ないのなんなん()
beri視点
「あっ!かえで!」
「やっぱり生きてたよね」
「良かったぁ」
少し気付くのが遅い気もしたがみんとのこともあって視界から外れていたのだろうか
まるで2人失って1人を得た感覚である
とりあえずかえでがちゃんと無事だったことは間違いない
だが、失ったものが大きすぎた
「みんと…」
全員声にならない叫びとなった息を吐き捨てている
まさかこんなところで2人も仲間を失うだなんてだれも思っていなかった
「どうしてっ!」
「私のせいで…」
この塔にこようと言い出したトトちゃんが、1番責任を感じているようだ
フェンリルがトトちゃんの背中を前足でとんとんとゆっくり撫でている
トトちゃんは俯いて、地面を見つめながら顔に手を当てて泣き続けている
しばらくすると背中を撫でるのをやめて、トトちゃんを開いた扉の方向に服を咥えて引っ張っている
だれも何も喋らないのもすこしの気遣いなのだろう
「ありがとう…」
「行こうか」
トトちゃんが泣き止むとクーくんとみんとで座り込んでいるトトちゃんを引き上げ、わんこが先陣を切って進み始めた
一歩一歩階段を上がっていく
次の階層のモンスターの唸り声が聞こえる
だんだん登るスピードが遅くなってきている気がするのは気のせいだろうか
そんな重たい空気を切り裂いて扉の奥に進んでいく
さっきと同じ作りの全く同じ空間
奥からどんどんモンスターが湧いてくる
「そろそろ俺たちにも仕事をくれよな」
「うん!」
少しでも場を明るくしようとしたわんことかえでがそう言う
「私なんて、助けられてばっかりだったし」
「本当に!ありがとう!」
生命の花の話だろうか
そういえばあの花を使うとたしか…
「能力発動!」
「いや扇風機は無理だってぇ…」
まっきーが何かぶつくさ文句を言っている
「突風!」
かえでが息を吸って勢いよく手をモンスターの方向に突き出す
かえでの後ろに立っていた私の腕の間を風がすっと通り過ぎていく
その風はかえでを中心にして渦を巻き、勢いよくモンスターに腕を振るった瞬間
台風の勢いで突風が巻き起こり次々と雑魚が飛んでいく
「え!?どうした扇風機」
「わ、わぁ…」
どうやら本人が1番驚いているらしい
花の噂は本当だった
かえでがまっきーの目の前でどやっている
「ワタシノシゴト…」
わんこがかえでの圧倒的な力に驚いている
だが次は違った
鉄の装甲を纏ったゴブリンのようなものが大量に出てきた
「協力だよね?」
「もっちろん!」
かえでの強風で敵がこちらにくるのを抑えながら遠距離攻撃組のメルアさんとレイトで攻撃していく
メルアさんがツルで叩いてそこで捌ききれなかった分をレイトが闇魔法で捌き切る
まるで組み立て式の自動車工場のようだ
しばらくそんなことをしているとやがて雑魚どもは来なくなった
だがしかし
メインの10大ボスが現れないのだ
どこへ消えたものか
「なんで出てこないの!?」
「雑魚全部倒し切った…よね?」
くろむとレイトが確認がてら階段の下を覗きに行った
「うわぁああ」
急にくろむの叫び声が聞こえた
すぐに駆けつけると大きな昆虫のモンスターをレイトが必死に魔法で抑えている
何よりそいつの見た目の気持ち悪さがダントツだった
なんともそのGに似た姿は確かに叫びたくなるだろう
「なんでこんなきっしょいのいるんだよ…」
「もしかしてこのきしょいやつが…ボス?」
「そんなわけないです」
「ここには2番目に強い10大ボスが設置されるはずの場所なので」
レイトとくろむでわちゃわちゃしているところにクーくんがその昆虫の脳天に剣を突き刺さす
「クーくんつよ…」
「だって倒さないと次行けないでしょ?」
クーくんがそいつを倒してもボスらしきモンスターは出てこなかった
一体どう言うことなのだろう
「あれ?なんか動いてない…?」
わんこの言う通り何か大きなものを引きずるような低い音が塔中に響いていた
「メルア…もしかして2番目に強い10大ボスって…」
「おそらくそうでしょう…」
「まさかもう戦うことになるなんて…」
トトちゃんとメルアさんは何かに気づいているようだ
私たちのいるこの党がまるで生きているかのように見えてくる
やがて塔は階層ごとにずれ始める
「やばいですねこれ、一旦外に出た方が良さげ…」
メルアさんがそう言いかけた時だ
急に何も言わなくなってメルアさんの方に振り向く
「えっ…」
見覚えのあるメルアさんのツルが、メルアさんの首を縛り上げていた
だんだん持ち上げっていくツルにメルアさんは必死に抵抗してツルを解こうとしている
「メルアさん!」
土もない人工物の床から生えてきているツルを1番近くにいたレイトが射影刀で切る
案外簡単にツルは切れて、落ちてきたメルアさんをフェンリルが背中に乗せて受け止める
「レンコンの攻撃力で切れるなんて、相当柔かったんだね」
「一言余分だわ」
「いえいえ、ありがとうございます」
少し息を上げながらメルアさんが話す
とりあえずここにずっといるのは危険らしく、2番目に強いと言うやつはこの塔自体がモンスターになっているらしいのだ
もうなんでもありな気がしてきた頃である
---
レイト視点
急いで塔の階段を降りる
塔はだんだんと傾き始め、さっきまで天井だった部分が壁になっている
すぐに浮遊のポーションを錬金してばら撒く
階段から飛び降りふわふわ浮いてなんとか入り口のところまでやってきた
今入り口の扉に頭をぶつけて飛んでいる形だ
「この状態でどうやって開けるんだよ…」
みんととクーくんが扉に剣を突き立てながら言う
扉は重力のせいで閉まる方向に引っ張られている
開けるのには相当な力がいるだろう
「あ、かえでいるじゃん」
「?」
「いるけど」
「能力出番なんじゃね」
「上に向かって突風!」
「たしかに!」
「能力発動!」
「ちょっと待てそれやると」
遅かった
かえでは頭上に突風を吹きつけなんとか扉は開いた
だがしかし浮遊のポーションの効果は終わらなかった
「…」
「これ効果切れたら切れたで悲惨だよね」
「だから言ったのに…」
生き物みたいに立ち上がる塔を目の前にふわふわと浮いている
ポーションの効果はとどめを知らずに塔が完全に立ち上がるまで効果は切れなかった
フェンリルが一生懸命効果の切れた人から地面に運んでいってなんとかなった
効果時間がバラバラでよかったと思ったのは初めてである
「なんとかなったところ申し訳ないんですが」
「まだ本題が残ってますね…」
のっしのっしとゆっくり体勢を変える塔
何を仕掛けてくるかもわからない
なんとこの塔、地下部分もあったようで塔があったはずの地面には大きな穴が空いている
そのせいで見た目の塔の倍の高さの巨大なモンスターが目の前に立っている
どうやってくっついているのか分からないが、塔の周りにあったはずの建造物が腕のようになって塔についている
「こいつ確か、腕と体で体力が別々に扱いになってたはず…」
「二手に別れよう」
トトちゃんの命令で後方支援組と近接攻撃組で別れることになった
「僕、腕の動き止められるか試してみるから任せたよ」
猫丸が俺の後ろで能力を試している
俺は止めたはずなのに近接攻撃組と一緒に行ったくろむが少し心配である
だいぶ慣れた闇魔法を塔の右腕に弾みたいにして飛ばしてみる
かなり大きな一撃を放ったからか、左手のフェアチオンの数字が大きく動くのが少し見えた
勢いよく飛んで行った黒い弾は塔と腕の付け根にしっかりぶつかる
当たった部分だけ少しひび割れて崩れるのが見えたが、消費魔力の割にダメージが少ない
崩れた塔の瓦礫が下にいた近接攻撃組に当たりそうになる
かえでの風でなんとか瓦礫の挙動を逸らし直撃は免れたようだ
「ちょっとぉ!!危ないって!!」
かえでに大きな声で怒られてしまった
「遠距離攻撃できないじゃん…」
そうしてなんとか近接攻撃組が頑張って少しずつ攻撃を仕掛け始めていた頃だ
塔の左腕が大きく上に上がり、近接攻撃組の中心を狙って勢いよく振り下ろしてきた
そしてなぜか塔から左腕が取れ、左腕だけ空中に浮いている
そういえばさっきから声がしなくなったなと猫丸の方を見てみると能力を発動したまま動かなくなっている猫丸の姿があった
どうやら成功したようだ
「猫丸さんきゅー!死ぬとこだったよ」
近接攻撃組が腕の下から移動すると猫丸は能力を停止させ腕をズドンと地面に下ろした
こんな小さい猫丸が、何十メートルもある巨大な構造物を操作できるのは普通に感動した
---
くろむ視点
猫丸の支援を見て絶対俺も後方支援に行った方が良かったと思い直した
俺の能力も使用中は全く動けなくなるからだ
腕の攻撃がきたあと、こいつは動きが遅いから次の攻撃までの時間はあるはずだ
「能力発動!」
その声をギリギリ聴いたberiがこっちに向かって走ってくる
大丈夫だと言おうとしたが視界は暗転し、いつもの能力使用中の風景になる
攻撃力ダウンの文字
なぜか溢れる緊張で手は汗でびしょびしょになっていた
最近ちゃんと使えるようになってきた鎌を両手でしっかり握りしめる
目の前に揺らぐ金色の炎
しっかり刈り取る
鎌が炎の中心を貫きすっと炎は消える
そして炎が消えると同時に左右にまた新しい炎が現れる
文字などの表示は見えない
現れた炎も右から左へ鎌を薙ぎ払い両方一気に消していく
どうして3つも炎があるのだろうか
トトちゃんの話によると俺のこの能力で出てくる炎は魂を具現化したものらしい
「魂が…3つ…?」
3人いるのだろうか
それとも塔と腕では別のモンスターの扱いなのだろうか
とりあえず全ての炎を消していつもの暗転を挟み意識を取り戻す
目を開けると俺は全く知らない場所にいた
周りを見渡すと、どうやらとても高い場所にいるようだ
何かが腕に刺さったような気がした
どうやら背の低い木の上に仰向けになっているようだ
その様子からしてどこかから落ちてきたようである
「いらっしゃい!!」
大きな声が聞こえる
何故か少し笑ってしまいそうなその声と、それに似合わない攻撃が飛んでくる
俺の顔のすぐ左に斧が突き刺さる
「失敗かよしばくぞ」
「???」
急すぎる展開に少し驚いている
斧の飛んできた方向が見えるように体を起こす
2人の男の姿が見える
しかも、見覚えのある顔
「あの時の…」
1人の男は背中に背負った大きな銃を下ろす
遠くで少し見ずらいが、おそらくモロトフだろう
もう1人のフレアと思われる男がだんだんと近づいてくる
「外したの、忘れてくれよ」
「は…はい?」
顔が近い
少し前に出たらぶつかりそうなほどの距離にまで近づいてきた
しばらくして俺の左側に刺さったままになっていた斧を抜いてモロトフのところまで戻っていく
「こいつじゃない」
「どこにいるんだろう」
「さぁ?」
「あいつは逃がしていいのか」
「おう、弱いし」
最後の言葉、少しだけ傷ついた
なんだかんだずっとそのままになっていた木の上から降りる
そしてちゃんと両足をついた時、がくっと揺れる
その時やっと気付いた
「塔の上にいるんだ…」
気がつくともうフレアとモロトフの姿はなかった
どこに消えたのやら
どうにか下に降りる方法を探す
下にはフェンリルが飛びながら戦っている姿が見える
「おーい!フェンリルー!!」
全く聞こえていないようだ
周りにはなにもない
せいぜいそこらへんに転がっている石くらいだ
「あ、そうだ」
少し悪いことを思いついてしまった
片手でその石を拾い上げる
そしてフェンリルの真上になるようにしっかり構えてその石を落とした
「いでっ!」
「だれだー!!石投げたやつー!」
フェンリルはすぐにこちらの存在に気付き上がってくる
「もーう、気付いて欲しいからってそりゃないよ」
「ごめんね、でも呼んだんだけど反応がなかったから」
フェンリルがまだぶつくさ言いながらも背中に乗せてもらった
大きな塔の周りをぐるりと円を描きながら降り、地上に足をつける
そしてフレアとモロトフのことをよく知っていそうなトトちゃんのところまで走った
「あっミタマ」
「さっき塔の攻撃で思いっきり上に吹っ飛んでったけど大丈夫?」
低木の上に乗っかっていたからだろうか
目立つ傷は見当たらないし、どこも痛くはなかった
「大丈夫」
「そんなことより塔の上にフレアとモロトフがいたんだけど…」
「あぁ、あの2人」
「あの人たちの狙いは多分私だから…」
「ごめんね迷惑かけちゃって」
そういえばフレアとモロトフはトトちゃんに攻撃を仕掛けてきたことがあった
しかもフレアとモロトフは俺が狙いじゃないみたいなことも言っていた気がする
「いやいや、全然」
「じゃあ俺は近接組の支援してくる」
「気を付けてねー!」
半分言いかけながら俺はもう足を進める
こんなやつはやく倒したい
何かと面倒ごとになりそうな気がしたからだ
トトちゃんなら大丈夫そうという謎の偏見を抱えながらも、塔と同時にフレアとモロトフの相手をするのは流石に骨が折れる
---
beri視点
「だめだ、全く効かないよ」
さっきからずっと氷の槍で塔の足に当たりそうな部分をちくちくと差し続けている
あいにく足というものはないが、それ以外に例えようがなかった
かえでの風の攻撃は大きな体の塔には全く効かず、かえではもうすっかり涙ぐんでひたすらに鞭を振るっていた
クーくんとみんとの切断武器を使う2人の攻撃は見ただけでも効く気がしなかった
これではただ動く壁を殴っている感覚と一緒である
ただひとつ希望が見えたのはレイトが闇魔法で腕の付け根を攻撃した時だ
崩れて落ちてきた瓦礫が危ないが、こちらの攻撃に意味がないなら撤退するのも手かもしれない
「みんな、攻撃全く効かないからもうレイトに任せない?」
「一旦戻ろう」
「なんにしろ私たちにできることはあんまりなさそうだよ」
ひたすらに叩いてきたことが無駄になっていたという現実を押し付けられながらも私は撤退することを提案する
レイトたちの方向を見るとくろむが一生懸命になってこちらに走ってきていた
「べり、どうしたの」
「近接の攻撃全く効かなくってね…」
「ほら」
私はそう言って長い氷の槍で塔を突き刺してみる
見えるか見えないか程度の傷をつけることくらいしかできないのだ
「だから一旦戻ろうかなって」
「そうか…」
無駄にここまで走ってきたくろむを往復させる羽目になりながらも後方支援組のところまで戻った
「トトちゃん、全く効かないから魔法の力を借りにきた」
「瓦礫が危ないけど戻ってきたからもうどんどん攻撃してもらって構わないよ」
「あら…」
「近接じゃあ歯が立たなそうな見た目してるけど、ここまでとは」
レイトが一瞬こちらを見る
少し笑って闇魔法をチャージし始めた
「私たちにできること、あるかな」
「くろむが見たっていうフレアとモロトフをなんとかしてもらいたいところなんだけどね…」
「こんなに人数いらないから、3人くらい創作の方お願いしても良いかな」
「もちろん見たっていうくろむは絶対行ってもらうけど」
「えぇ」
「じゃあ私とかえでで」
「え!?僕?」
「かっこよく活躍したいって、言ってたじゃん」
「嘘だなんて言わせないから」
「えー!!」
少し不服なかえでを連れて、くろむと一緒にフレアとモロトフの場所へ向かう
「くろむそれってどこで見たの?」
「塔の上にいた」
「多分今はいない」
「じゃあ、今向かってる場所はどこ…?」
「黙ってついて来い」
「わかった…」
私にはくろむがフレアとモロトフを倒しに行くようには見えなかった
何か別の塔を倒すための作戦を実行しているような気がしていた
聞いても答えてくれないということはつまりそうなんだなと自分の中ではもう確信していた
足を地味に引っ掻く長い草を踏みつけにし、塔の反対側までくる
ぬるい風が吹き抜ける
「ここ、塔に穴が空いてるんだけど見えるかな」
「穴?」
塔の地下部分の床に直径1m弱ほどの穴が空いているのが一瞬見える
でも塔が動くと地面に蓋をされ隠れてしまう
「くろむ」
「僕は行かないからね」
みんとは何かを察したらしい
くろむはこの穴から塔の内部に行くつもりらしいのだ
「もしかして入るつもり?」
「その通りだ」
「中には最後の10大ボスを倒すための鍵になるものが最上階にあるらしいんだ
「正直それを取ってしまえばもうこいつにようはないってわけ」
「え?でも10大ボスは倒さないといけないんじゃ…」
「その鍵が本体って、トトちゃんが言ってた」
「外部からの攻撃より中から言った方が随分といいだろう」
「え、私も行きたくない…」
そりゃあ誰だって行きたくない
いつ塞がれるかわからない穴
少しもたついたら潰されてしまう
帰って来れるかだってわからない
かえでの気持ちがよくわかった気がする
「もうこうするしかないだろ」
「というか思いつかない」
「トトちゃんやメルアにだって提案したけど、やっぱり危険だって言われてるさ」
「それなら余計行かない方がいいんじゃないの…?」
私にはくろむの考えていることがよくわからなかった
トトちゃんだけじゃなくってあのメルアさんにもやめておいた方がいいって言われるようなこと、絶対にろくなことが起きない
でもどうしてそこまでするのだろう
その先には私なんかにはきっと分からないような、強いくろむの意志を感じた
くろむのくせに珍しいだとか言ってお茶を濁すことさえやめた
「いいから…」
「俺を信じてくれ」
信じる…
たまには、そういうのもいいかもしれない
その瞬間塔が大きく前方向に動く
まるで誘い込むように穴が露出した
「わかった」
戸惑うかえでを置いて私とくろむはしゃがみながら塔の下に潜り込む
変な汗をかきながらも急いで穴の真下までくる
後ろにはくろむが待っている
高くジャンプし足をかけてその勢いで塔の中に入ることに成功する
くろむも両手で体を勢いよく持ち上げ中に入ってこれた
「かえで!」
私がそう呼んで数秒後にかえでも塔の下に入る
そしてまるでかえでを押し潰すことを狙っていたかのように塔が元に戻り始めた
「かえで!急いでっ!」
もう立ち膝もつけないくらいの高さに塔は下がってきている
かえでは地面を這いずりながらこちらに向かう
くろむがかえでに手を差し伸べ、私は巨大な氷の塊を形成して穴から落とした
その氷が少しの間塔を支えられればかえでがこちらに上がってくる時間が稼げると思ったからだ
だがそれは失敗に終わった
氷がぴったり穴に収まってしまったのだ
「えっ」
「うわあぁあやっちゃったあ」
氷のおかげでかえでが塔に潰されることはなかったが、こちらに入れなくなってしまったのだ
くろむがなにやってんのお前みたいなごみを見つめるような目でこちらを見てくる
「大きさミスったんだって!ごめんってば!」
「えぇ…」
「かえで、氷が壊れる前に塔の下から出てくれ」
「はぁい…」
曇ったかえでの声が聞こえる
結局2人で探索することになったが、帰り道はどうすればいいのか
2人だけでこなせるのかなど同時に問題が増えてしまった
とりあえずかえでには衝撃波を地面に連発して空から塔の状態を教えてもらうことにした
まさか扇風機が飛行機に進化するなど思ってもいなかった
塔にところどころ装飾として施された窓ともいえない穴からかえでに情報を伝えてもらう
「とりあえずボス倒したところまでは階段上がってくれるかな」
長い長い階段を一段飛ばして駆け上がっていく
一階上がるのまではそう大したことなかったが、だんだんと辛くなってきて息が上がる
最終的には喉の奥が少し痛くなった
「はぁ…はぁ…ついたけど…」
「かえでは空飛べていいね…げほっげほっ」
「あーいおつかれ」
「でも入口封じたの誰だっけー?」
「ごめんってぇ…」
かえでにすっかり弱みを握られてしまった
「じゃあこの先のこと話すね」
「一応見えてるのはここの一個上、最上階がなんかものすごく光ってる」
「今って扉開いてる?」
「いいや、閉まってる」
「なんかおかしな話なんだけどさ」
「外側にレバー付いてるんだよね」
「レバー?」
絶対扉を開ける仕掛けなような気もしたが、どうして外につけるんだろう
これじゃあ最上階に上がらせる気が全くないようだ
「内側は何かが光ってる」
「外と繋がって明るく見える小さな穴と、繋がってなくて暗く見える穴が並んでる」
「穴はいくつある?」
「10個」
「レバーの数と一緒だね」
「もしかして光ってるところのレバーを倒すんじゃない?」
すこし簡単すぎる仕掛けになってしまうが、とりあえず言ってみる
「わかった、光ってるところ教えて」
「右から3番目と、5番目」
「あと1番左が光ってる」
「はーい」
かえでは片方の手で衝撃波を発生させながら浮き、器用にレバーを3つがしゃりがしゃりと下げていく
だがしかし、なにも変化はなかった
「どういうことなんだろう?」
「わかんない…」
10個の穴に10個のレバー
そのうち3つの穴は光っている
「あっやばい」
考えていたらかえでがふらふらとし始める
そろそろ魔力が切れてしまうらしい
仕方なくかえでを返して、また考える
「外のレバーは本当に使うのかな?」
「内側から開けられる気がするんだけど」
「だよね」
くろむのその意見にも納得できる
だってこの塔はとても高いし内側からレバーを倒す手立てがないからだ
「この光ってるのがボタンとかじゃなくって「穴」って言うのもまた気になるよね…」
「なにか入れるのか?」
くろむの隣に不自然に、同じ大きさくらいの石が多く転がっている
光っている穴に石を投げ入れた
石は外に出ていく
そしてがしゃりとかえでがレバーを倒した時と全く同じ音がする
「あれ?もしかしてレバー動いた?」
「かも」
くろむは残り2つの穴にも石を投げる
その二つも同じようにがしゃがしゃとレバーが下がる音がした
「どこのレバーが下がってるかとか見えないかな…」
「あ、下の階から覗けばワンチャン」
ここの一つ下の階の窓が他の階と比べて少し大きくなっていることを思い出す
そこから上を見ればどこのレバーがさがっているかがわかるかもしれない
急いで階段を駆け下り窓に頭を入れて上を見る
「あ!!見える!!!」
大きな声でそう言う
「これ、光ってる穴とは反対が下がってる」
「1番右と、左から3番目と5番目」
「なるほど…」
また階段を登って戻ってくる
「でもそれがわかったところでどうしろって感じなんだよな」
「それはそう」
扉の方を少し見る
今までは気が付かなかったが、何か模様があるように見えた
扉までの階段を登り、扉に施された彫刻をよく見てみる
「あれ、ここの彫刻、数字になってるよ」
くろむも一緒に並んで彫刻を見つめる
3、2、4、
一見何の意味もないように見える
そしてその数字の横には石の枠だけをなぞったようなものもある
くろむは試しに石をふたつほど持ってきて
「この数だけ石入れてみる?」
「確かに、数字は3つで、光ってる穴も3つだね」
くろむは自販機にコインを入れるようなイメージでころころと石を入れていく
「ここは3つ、次は2つで最後に4つ」
全て入れ終わるとまたレバーが動く
「くろむ!扉が開いてく」
扉を指差す
いつも開くようにずりずりと音を立てながら扉が開く
小さい子供1人通れるか程度まで開いた時、ガコンという音が響いた
「?」
くろむは扉まで走っていく
「あ!」
「俺が持ってきた石が…」
私も跡をついていく
どうやらくろむが確認のために持ってきた石が挟まり、扉が開かなくなっていたようだ
挟まった石はもう奥まで食い込んでおりもう取ることはできないだろう
「こんなのありかよ…」
「…」
「おーーーい!」
かえでの声がした
「かえで?」
「トトちゃんに魔力分けて貰った!」
「で、扉は開いたみたいだけどなにやってるの?」
「扉が石に引っかかって動かなくなっちゃったんだけど、どうにか開けられないかなぁ」
「え?」
「引っかかった?」
「開いてるけど?」
「?」
最初かえでがなにを言っているのかよくわからなかった
けれどかえでが塔の外側を見ていることに気が付いた
外でふわふわ浮いているかえでに近づく
「ほら」
「え!?」
「いいとこ取りかよかえで…」
眩い光を放つ最上階の壁が崩れている
かえではすこし頭を下げてお先に失礼しますとも言いたげに入っていく
くろむもそれを一緒に見ている
「まじかよ…」
中に入って行ったかえでをずっと見つめる
しばらくすると崩れた壁から勢いよく風が吹き抜ける
壁はボロボロになって崩れ落ち今立っているここでさえヒビが入る
そしてそのヒビから眩しい光が溢れ始める
かえでが地上にいるのが見えた
「はやく!降りてきてー!!」
「えっえっ」
慌てる私をくろむは押しのけ鎌を取り出す
「邪魔だどけ!」
そうくろむは前に飛び込んで鎌を振るう
その斬撃は塔の壁をも破壊しその瓦礫と一緒にくろむは地上に落ちる
かえでの衝撃波で落下の衝撃を緩和し無事に着地している
「ほら!べりさんも!」
「えっ…」
「んーもう!!」
バンジージャンプはやったことがないが多分こんな気持ちなのだろう
私は何十メートルもあるような高さの場所から飛び降りた
降りる途中からふわりと体が軽くなり、一瞬浮いたような感覚になる
「おかえりべりさん」
「えへへ、ちょっと楽しかった」
どんどん崩れて元の形も無くなっていく塔を背中に、みんなの方へ走っていく
「おかえり!!」
「くろむ!?」
「なにしてたの?」
「俺はただ、トトちゃんの言ってた鍵を取りに行っただけだ」
「フレアとモロトフのことを頼んだはずだけど…」
「だけど…ありがとう」
かえでが、今も青色の眩い光を放ち続ける鍵を両手で大事そうに握る
「これで、最後の10大ボスが倒せるんだよね」
「…」
急にトトちゃんは黙り込んでしまった
なぜか他のみんなもなにも喋らない
私たちが塔に行っている間に、何かあったのだろうか
「それが…」
レイトが1番初めに口を開く
「トトちゃん…らしいんだ」
「…?」
くろむが目を大きく見開いてトトちゃんを見る
一瞬話の筋が通っていない気がしたが、話の流れを見るとトトちゃんがまるで…
まるで、最後の10大ボスと言っているようだった
「それは…?」
「うん、そのまんまだよ…」
私が間違った取り方をしているのか
それともなにか冗談を言っているのか
その時の私はそんなことしか考えていなかった
レイトの言っている通りなはず…ない
「トトちゃん…?」
「本当は、もう少し前から気付いていた人がいること」
「知ってるよ」
トトちゃんのその一言で急に辺りの空気が重くなる
「モンスターの攻撃は、お互いに効かない」
「攻撃もできないし、喰らいもしない」
「分かってるでしょ」
「で、でも…そんな…」
「もう、みんなおんなじだよ」
「元の世界に帰ることを、祈ってる」
正直トトちゃんの言う通り、疑ってはいた
気持ちの奥深くにある何かを掘り起こされる
視界が涙でぼやけてくる
「私がモンスターだって」
「フレアとモロトフは言ってたよね」
「そういうことなんだよ」
悪口みたいな雰囲気でモンスターと言ったと思っていた
まさか、まさか…
フレアとモロトフをくろむに任せたのは自分が殺されないようにするため…?
「ごめんね」
「モンスターの攻撃は、効かないからさ」
「最後は」
「君たちの手で」
「…殺してね」
ダムが決壊するように、目元に溜まった涙が頬を伝って流れる
こんなところで泣いてちゃいけないと、必死に声を抑える
トトちゃんを挟んで反対側に人間の姿で立つフェンリルが何かいいたげに少しそっぽを向く
「その鍵は私を倒すためのもの」
「未来より飛来せし幻獣が、瑠璃色に煌る鍵を…」
「…うるさい」
「…」
フェンリルは少し口を開いてその一言だけを落とす
「今更人間の姿になって誤魔化したって無駄だからね」
「だって、もう世界中のどこを探したって、君以外はもう…」
「うるさい!うるさい!うるさい!」
「もうこれ以上、なにも喋るな…」
その、ありのままの感情を言葉にしてトトちゃんにぶつける
いつもとは全く違うフェンリルの言葉遣いに少し驚く
「でもそれが君にしか、できないだろう?」
「この世界を救うのは誰だい」
フェンリルは隣に立っていたかえでの鍵をひったくるようにして奪う
かえでは少し動揺したままフェンリルに鍵を奪われてしまう
形態変化で狼の姿になるなり口に加えられた鍵はとても大きな瑠璃色の刀身の剣へ姿を変える
そして、トトちゃんがまた何かを言おうとした瞬間
その皮肉にも綺麗な刀身が紅に染まる
「君は…」
「あり…がと…う……」
「は…?」
くろむがその重たい空気の中を必死に足掻くように、そう吐き出す
フェンリルはその大きな剣を咥えたまま地面にかぶさってしまう
自分の知らない場所で、一体なにが起きているのだろう
相変わらずメルアさんとクーくん、猫丸は何も言わずに突っ立ったままだった
メルアさんは静かにトトちゃんに近づく
「全部…時の塔のせいだよね…」
「ごめんね…ごめんね…」
「時の…塔?」
トトちゃんがいつだったかに言っていた単語だ
結局何だったのか分からずじまいになってしまうのかと思い聞いてみる
「トトちゃんはこの世界に来てすぐくらいの時に、その場所に行きました」
「そこでは、この時空から別の世界線へその世界線からまた別の場所に行けるような」
「そんな能力を手に入れました」
「ただ、その能力の代償として10大ボスと呼ばれるような強大な力を持ったモンスターに」
「その存在を操作されてしまったようなものです」
メルアさんはトトちゃんの背負っていた荷物の場所まで歩いて行き、2つのチョーカーを取り出す
赤色と青色の宝石が埋まっている、とても綺麗なチョーカーだ
「あ、トトちゃんの店の倉庫にあったやつだ」
そのチョーカーはネックレスのようで、だいぶサイズ調整が効くらしい
「トトちゃんに言われてたんです」
「これを誰か2人に渡せって」
メルアさんはそのチョーカーを両手に握ったままこちらの目をじっくり見る
「この青い方はアクアマリンの宝石がはまっています」
「あなたべりさんですよね」
「アクアマリンにはベリリウムが含まれているんですが…」
え?それ関係ある?と、少なくとも思ってしまった
「目の色似てますね、とりあえず付けてみてください」
白色のベルトのそのチョーカーを首に巻いて後ろで止める
カチャリと金属の触れる音がし、しっかりと固定される
「わぁ…似合ってますよ…」
そのトトちゃんの目の前でこんなことをするのはどうかと思ったが、トトちゃんも自分のものがちゃんと伝わって良かったのかもしれない
「こっちは…くろむさんですかね」
そう言って赤い宝石のついたチョーカーを手渡す
確かルビーにはクロムが含まれていたはずだ
トトちゃんはもしかしてそこまで考えていたりしていたのだろうか
「くろむさんも似合ってます」
「このチョーカーには能力を強化する効果があると聞いています」
「大切にしてくださいね」
この後、トトちゃんにせめてと思い倒れた塔の目の前に穴を掘った
花を置いて弔う
また自然と涙が溢れてくる
泣いていない人なんていなかったような気もするが
そして、Coreも元へと向かう
メルアさんによればあの地割れが起こった場所にCoreが出現したらしい
Coreも元々は人間だからメルアさんの能力で察知できるという少し聞きたくなかったことも聞いた
わんこの引く馬車をフェンリルが割れ先にと引っ張っている
フェンリルのほうが速いらしくわんこが引きずられている形だ
その健気ともなんとも言えない姿を見ると、フェンリルの今の心境が伺えたものである
馬車が大きくカタンと動く
車輪がどこかの段差に躓いたようだ
目の前を見るとあの地割れの場所についている
いろんなことを考えていたら、あっという間についていた
時間の経過は恐ろしいものだ
「ここのはずです」
メルアさんも含めて、全員トトちゃんのことからの切り替えが早い気がしていた
フェンリルがやったことで、あまりその話をしたくないのか
それとも子狐さんやみんとのことがあってもうみんな精神が死んでしまっているのか
それとも原因は別にあるのか
少なくとも私はフェンリルにあまり悪い思いをさせたくないから、話さない
またフェンリルの隣でゆっくり
できれば全員で眠れる日が来るといいな
「ーい」
「おーい!」
「っは!」
「ごっめんどうした?」
「ずっと声かけてても反応がないからちょっと心配しちゃった」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「かえでどうかした?」
「ここの先に行きたいんだけどお願いできる?」
「了解!」
分厚く長い氷の板を生成する
フェンリルに反対側に行って板をうまくかけてもらおうかと思ったが、フェンリルは人間の姿で下を向いている
目がすっかり隠れるほど長い前髪がフェンリルの表情を覆い隠す
自分なりに考えた結果、トトちゃんを殺した時の姿が狼だったから少しトラウマに近いものが残っているのかもしれない
かえでとクーくん、猫丸に手伝ってもらい重たい氷の板をなんとか向こう岸にかける
クーくんが1番先頭に立って渡って行く
メルアさんはちょうど渡り終わったところで立ち止まる
目を閉じている
「この辺りにいるはずなんですけど…」
「うっわあぁ」
急に地面が揺れだす
嫌な予感しかしない
ばきばきに割れた地盤は脆い
少しの振動でも崩れてしまいそうだ
その予想は的中した
足元からヒビが入り下に落ちる
かなりの長さを落ち、バッシャーンと大きな水飛沫が上がる
「え?生きてる?」
「こんなところがあったんですね…」
「僕たちはもうここに来たことあるんだけど」
「確かこの先に占領したゴブリンたちの家が…」
クーくんが猫丸をお姫様抱っこしていることにしか目がいかなくて、あまり内容が入ってこないが
とりあえずここに来たことあるらしい
「じゃあそこに行こうか…」
言いかける最中に天井を塞いでいたまだ残っている地面が全て崩れ落ちてくる
「危ない!伏せて!」
上を必死に見上げながらまだ無事そうな地面の下に移動する
泳げないレイトの手を引っ張って移動する
「げほっげほっ…」
「ありがとう…」
「え、いや、別に」
レイトの頭上に落下してきた地面が浮いている
勢いよく腕をこちら側に引っ張りなんとか回避する
「はっ!」
「ちょっとはなれて///」
「ごめん…けどありがとう」
何故か少し気まずい気がする
そして後ろからみんなの視線を感じる
「…」
「は、はやく行こう」
頭上の地面はもうすっかりなくなっており、綺麗な空が広がっていた
「ねぇみて!あっち!」
クーくんに持ち上げられた猫丸が体を揺さぶりながら空の向こう側を指差す
だんだんと黒い煙のようなものが上がってきているのが見える
「あの奥に、多分いますね」
メルアさんが空高くを見つめる
だんだんと青い空を覆い隠す黒い煙の向こうに、はるかに黒い影がある
「え?あんなに大きいなんて聞いてないけど…?」
ただひとつ気になるのは影は見えるのに、肝心の本体が見えないと言うことだ
「皆さん、気を付けてください」
「Coreには実体がありません」
「実体がない…?」
「なんと言えばいいのでしょうか…精神攻撃を仕掛けてくるようなイメージです」
「精神攻撃を?」
メルアさんが答えるたびに次々疑問が生まれる
私の質問をメルアさんが答える前にクーくんが倒れた
水の中必死に猫丸はクーくんを心配して体を起こしている
「ここでこうなったらまずいですね…」
落ちて積み重なった地面の上に移動する
やけにメルアさんはクーくんが倒れても冷静だ
もしかしてこれがCoreの…
隣にいたレイトが倒れる
目の前にいたくろむが心配して駆け寄ってくる
そんなくろむも倒れ、その間に私は意識を失った
---
今回ばかりは本当に聞いて欲しいです
曖昧ナ希望/氷雨(短かったらリピートして欲しいです)
https://youtu.be/paneqmGdM84
---
くろむ視点
「ここが…そうなのか」
メルアさんの説明にあった精神攻撃とは少し違うようだ
あの時の、beriの記憶
たしか…わんこがいた場所
俺の隣には今、まだ意識を保っているのかberiの姿がある
その姿はだんだんと落ちて行く
真っ黒だった背景は石の神殿へと移り変わる
俺の周りだけが明るく照らされる
beriは俺のナイフを持っている
「あはは…」
見たくなかった
でも、薄々気づいていた
この世界はパラレルワールドで、幾つものこの世界が存在していること
今俺が見せられているこれはまた別の世界線の話だろう
「あぁあっ…」
beriは自分にナイフを突き刺し倒れる
視点は変わり俺を後ろから写した視点になる
俺は知らないはずの、自分の記憶を見せられている
体験したこともない記憶を思い出す
「そうだ…この世界線では…この後…」
映像がぴたりと止む
【能力を発動しますか】
どういうことだろう
でも、他に選択肢はなかった
俺は目の前のその薄く光る文字に触れる
「能力…発動」
暗転を挟まなかった
変わったことと言えば、メルアさんからもらったこのチョーカーだ
今目の前にはまるで自分を表したかのように燃える炎…
いやこれは、魂
文字は、視覚機能と表示されている
これは確か
俺がこの能力を手に入れた時にberiに間違って使用してしまったときと同じだ
今俺はこれを自分に使用しようとしている
使用した場合、どうなるか
少し考えただけでもすぐにわかった
俺は見なくて済むのだ
あの悲惨な光景を
背中にあるはずの鎌を取るため背中に手を持って行く
ない
仕方なくその自分の魂に素手で触れる
押し込むと視界がぼやける
戻せば治る
本当にやってしまうのだな
俺はしっかりそれを両手で握り、潰した
視界が暗闇に包まれる
今のこの状況は音で感じるしかなくなってしなった
レイトが動かすレバーの音
エレベーターは動きだす
「…」
コツコツと、石の床を渡り歩くその音のみが聞こえる
どうやら映像に映っているらしい俺が見えなくなっているのは、beriだけらしい
なにも特に目立った音を立てぬままエレベーターが動きだす
視界が明るくなる
白い部屋
寒い
目の前にはわんこの引く馬車に乗り込む俺たちの姿があった
ちゃんと全員、いる
みんともトトちゃんもだ
そして何故かそこにないはずの子狐の姿まであった
【この世界線は如何ですか】
「?」
この世界線…?
全員が生存している世界線だろうか
そして映し出されていた映像は少し暗くなる
右側に新しく映像が映し出され、そちらが目立つように光る
俺は自然とその映像の前まで移動していた
そこにはのんびりと学校で過ごす俺の姿があった
周りには、特に目立つものもなにもない
【この世界線は如何ですか】
おそらくこの世界線は俺がそもそもここに来ていなかった世界線だろう
正直、一瞬迷った
確かにここに来ていなければ全て解決してしまうのだから
でも、それはまた違う気がした
ここでの思い出は全て本物だ
なかったことになんて、したくない
できない
映像はまた暗くなる
1番最初に見た映像の後ろが光る
少し楽しくなってきながらもまた歩く
ここは一見さっきと変わらない気がした
でも、俺が誰かと話している
茶色の髪の女の子
かえでによく似た人物だ
その後ろではフェンリルらしき人物まで見える
ここは…
【この世界線は如何ですか】
部屋のサイズ的にもうひとつ映像があるはずだ
とりあえず保留することにした
次の映像が光出す前に俺は歩く
少し待ってから映像が流れ始める
そこには、空っぽになった馬車があった
俺は察した
全員生存の世界線があるなら、そりゃあ全滅の世界線があってもおかしくない
【この世界線は如何ですか】
言い訳がない
俺はさっきの場所まで戻る
なにがどうなってこの先かえでやフェンリルに会うことになるのか
見当もつかなかった
でもこの世界線が1番平和そうに見えたのだ
【この世界線にしますか】
文字に触れる
【⚠️警告:この世界線に辿り着くまでの時間は膨大】
【そのため、辿り着くまでに別の世界線に移り変わってしまう危険性あり】
なんでだよ
どうしてだよ
そして、驚くことに
警告の下には「はい」の文字しか見当たらないのだ
まんまと引っかかってしまった
でも俺は最後まで足掻く
「能力発動!!!」
俺は警告の、時間文字の部分に能力を発動した
生物でもないものに使用するのは初めてだ
しかも、文字なんかに
それでも俺は祈った
時間の文字
成功だ
いつのまにか背中に備えられた鎌
普段の重みが背中に加わる
手に取り切り裂く
【夜が2日に1度しか来なくなりました】
「あれ…」
俺は…
もしかして俺がやっていたのか
この白い部屋は過去に俺が来たらしい
だんだんとややこしくなってくる
たくさん分岐された世界があれば俺という存在がたとえ同一人物だとしても複数いるのだろうか
わからないことはもうすでに考えることをやめていた
俺はこの先がどう変化して行くのか
それだけを知りたい
どれだけ時間がかかってもいい
この記憶を保持したままの自分がいられるのなら
白い部屋は黒く染まって行く
そういえば、他の人たちはどこへ行ったのだろうか
黒い部屋は白い部屋よりも圧倒的に広い
なにもないその部屋で、1人立ち尽くしている
1番最初にやってきたのは泣いているクーくんだった
俺の存在には気づいていない
後ろからそっと近寄る
「お疲れ」
クーくんはそっと首をこちらに回す
少し微笑み、また泣いた
「くろむも…見た?」
「パラレルワールドのこと…」
「うん」
「見たよ」
白い部屋は全員に用意されているものなのかは知らないが
辛い過去を一度見せられると言うのは共通点で間違いない気がした
クーくんは能力で解決するなどできなかったはずだ
なにを見せられていたかは別として、その辛さは俺を超えるだろう
なんとも言い難い時間が通り過ぎったその時
首元が強く光る
チョーカーが光っている
宝石部分を少し持ち上げるようにする
宝石がわずかに視界に入る
綺麗に輝く赤色の宝石は黒い部屋を赤く照らしている
少し不気味でもあるその光景に
俺とクーくんは魅了されていた
---
音楽止めていただいて結構です
---
レイト視点
「なんだあの気味の悪いものは」
全員がまるでゾンビになってしまったかのように襲いかかってくる
そんなものを見せられた
逃げ回るうちに消えてしまい、今は当たりを彷徨いている
ずっと歩き続ける
黒色の部屋はだんだんと薄くなっていき、白くなる
完全に真っ白な部屋になった頃だ
後ろを振り向くと、そこには壁があった
前を向くと、俺より先に来たberiの姿が
首に付けたチョーカーの青い宝石がキラキラと輝いている
「べり」
「あっレイト」
白い部屋を照らすその青い光
今までに見たことがないほど綺麗な光
見ているもの全てが、青色に見えたようだ
「なんでこれ、光ってるのかなぁ」
「さぁ…俺には分からん」
「あ!beriにレイト!」
「え?かえで!」
かえでがこっちに来る時だけ、部屋の壁が消えているように見えた
そしてここからは出られない
言い方は悪いがまるでゴキ◯リホイホイのようだ
「まだこの3人しかいない?」
「そうだね…私が1番最初に来てたんだけど」
beriはあまりにも眩しいチョーカーのせいで半目になって話している
でもそれのおかげで今他の人たちの姿が見えていると言っても過言ではなかった
「途中で誰か見た人とかいない?」
「あの、俺なんかゾンビを…」
「え?ゾンビ!?!?」
「ここに来る前なんだけど…ね」
「あぁ、あの変なやつなら僕も見た」
「ゾンビではなかったけど」
「私もゾンビじゃなくてなんか海の中に溺れるようなやつなら見た」
「えー?」
「僕はみんなが殺し合う変なの見た…」
「ここに来てちゃんと生きてるし安心したけどね」
「そりゃあなにより」
全員見ている内容は違うが、悪い出来事を見せられている
これだけは分かった
「これさ、全員ここに来るの待ったほうがいいかな」
「それとも脱出する方法を見つけるべき?」
「それがわかんないんだけど」
「全員揃ってから脱出できたら最高だよね」
「なるほど」
「とりあえず今のうちに探しとくか」
探しておくかとは言ってみたものの
探せるものなどひとつもなかった
白い壁と床、そして天井
何の段差もなく模様もない
何の意味があって何のために作られたのだろう
「ここって現実じゃなくて脳内だからさ」
「明晰夢みたいな感じ思ったことがそのまま出来る〜みたいなのないかな」
「そんなことできたらここに来てないよね…」
「あ、確かに」
チョーカーでberiが壊れた
正直かえでも俺もなにもすることがなくただただ白い壁を眺めるだけだった
「じゃあ現実の方は今どうなってるのかな」
「てか、もう戻ってる人とかいそうだよね」
こんな状況で明るく話してくれるのは感謝だが、今考えることはそれじゃない気がする
「とりあえずここから出る方法を探すのが最優先だから」
「beriも手伝ってよ」
「はいはーい」
「はいは一回」
「はーい」
そのあとしばらく3人で探してもなにも見つかるものはなかった
ただひとつ奇妙なことに、時折変な音が鳴るのである
重い、何か硬いものを床に叩きつけるような音だ
金属でもないし割れるような音も聞こえない
ただ微妙に場所が変わって音は鳴っている
そして音の種類の3パターンほどあるようで、その3種類を繰り返して鳴るときもあった
「なんだか息苦しいよね」
白い部屋は広さ6畳半と言ったところで狭くも広くもない気がする
でもそれが物理的な意味だと知った
急にberiが咳をし始めたのだ
「大丈夫…だから…けほっけほっ」
「チョーカー外したほうがいいんじゃないのか?」
俺がそう言うとberiは首の後ろに手をやってチョーカーを外した
あたりは暗闇に包まれあんなにうざかった白色の壁も見えないほどだ
「これじゃあ黒の部屋だよ」
かえでがそう言った時だ
壁が崩れる音がした
そして目の前が赤く光り出した
「あれ!?くろむ?」
赤色に光るチョーカー
これはくろむだ
クーくんと隣り合ってただ座っていた
「あれでも、猫丸とメルアさんとわんこにまっきー、フェンリルもいない…」
「訳がわからんね」
くろむは大きなあくびをする
「時間かぁ…」
「時間?」
「かえでたちも見てなかったんだ」
「世界線の話」
くろむからはくろむが見たと言う白い部屋の話
そこで行ったことやあったことを全て教えてもらった
本当に全員見ているものは違うらしい
なにがしたくてCoreはこんなことをしているのか
精神攻撃にしては甘く、仕掛けにしては大掛かりすぎる
ラスボスらしいと言えばそうなんだが…
「でも残りの5人を探さない限りには出ようにも出られないよね…」
「1人でも外に行ったら行ったで何か違うかもしれないけど」
「うーん」
全員が揃ってそう言う
「誰か死んでみる?」
「この意識の中で死ねば、夢が覚めたみたいに起きれるかもしれない」
beriはそう言う
「そっか、ここでなにがあろうと現実には関係なさそうだし、いいかも」
問題は誰が犠牲になるかだ
俺の脳内では自然と犠牲という文字に置き換わっていた
「俺が行くよ」
第二章完結!!!!
本当に、本当にありがとうございました
いやーお待たせしてすみません()
第三章で能力パロの方は終了する予定です
次作の学園パロまでの道のりもあと少しです!
では最終話にて公開すると言っていたまっきー、猫丸、クーくんのイメージイラストどうぞ
https://files.mattyaski.co/null/df1acf6d-b9f6-4d2c-b3de-ca7f834875aa.jpg
https://files.mattyaski.co/null/590ccf51-0c87-49b4-9de0-c1fa8e591a8a.jpg
https://files.mattyaski.co/null/9efd5958-27b5-4959-9ad6-760f1b28bdad.jpg