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目次
本編1
唐突だが、オレはいじめられている
つい最近、カッターキャー…?とかいうものをされた
屋上に呼ばれ、なんやかんやあって人に裏切られて…
んで、今に至るってわけだ
ショーキャストのバイトはやめてない
あの場にいるのはすごく辛いが、金稼ぎのためだ
---
「…今日も練習か」
スケジュールを確認し、制服に腕を通す
「朝ごはんは…いらない、な。お腹空いてないし」
一人言を呟きながら、学校の準備をする
この時間が大嫌いだ
「今日もやられるだろうな…」
教室に入ったら水をかけられ、
放課後になると屋上に呼び出され、殴られる
そしてショーの練習に遅れて、また怒られる
1日の流れは大体こんな感じだ
「…とりあえず、行こう」
ほんっっっとに行きたくないが、
不登校にでもなったら成績がやばい
ある程度の授業には出なければいけない
「…はぁ」
ため息をついて、オレは|学校《地獄》へと向かった
本編2
「………痛い」
今日の暴力はすごかった
30分は殴られたか…?
しかも人数多かったし
「どうし、よう…」
「練習…遅れる…」
足…すごく痛い。どうなってるのかはわからない
歩けそうにない
でも、助けてくれる人はいない
「…ッ…いった…」
足を引き摺りながら歩くしかないか、
---
彰人side
「ったく、練習終わったばっかって言うのに…絵名の奴、また俺をパシリにしやがって…」
「はぁ…疲れた、とっとと家帰ってシャワー…ん?」
あれ…あの金髪…見覚えが…
「…司センパイ?」
「…………」
だめだ、こっちには気づいてない
それに結構距離が…
「…!?あの人、今倒れっ…!?」
---
「つ、司センパイ!」
「……………」
「ッ…なんでこんなボロボロなんだよ…」
傷だらけで、痛々しぃものだった
「…人の目気になるけど…仕方ねぇ…」
とりあえずセンパイを抱えて、家へ向かった
何か事情がありそうだったし、
ここから近いのはセンパイの家じゃなく、俺の家だからな
「……軽いなこいつ」
---
「っただいま…」
「あ、彰人!遅かったじゃない、チーズケーキは…って…」
「だ、誰…?この人…すっごいボロボロだけど…」
「い、いいから!早く救急箱持って来い!!」
「え、あ、うん…!」
「……とりあえず手当は終わったけど…」
「ねぇ、ほんとに誰なの?何があったの…?」
「…センパイだ。3年の天馬司って人」
「あぁ…聞いたことある…気がする」
「こいつが道端で倒れてたから、連れて来たってわけだ」
「ふーん…そうなんだ…」
「それに、足めっちゃ腫れてるし」
「は!?こ、骨折してんの…?」
「…それはわかんねぇよ」
「…ま、今日は泊まらせて、明日病院連れて行く」
「そっか…わかった」
---
司side
「ん…」
あれ…ここ、どこだ?
明らかにオレの家ではないし、外でもない
「!センパイ!!」
「…彰人?」
「よかった…大丈夫ですか?その…足とか…」
「足…あぁ、大丈夫だ」
…あ、足腫れてる。
たしかに少し痛むな
「…手当はしたんで…今は安静にしててください」
「いや、オレはなんとも…というか申し訳ないんだが…」
「いいんすよ、つか、こんなに傷だらけなんだし…」
「…………」
「…何があったのか、聞かせてもらってもいいですか…?」
「…嗚呼」
本編3
センパイから聞いた話は、すごく辛いものだった
理不尽にいじめられ、殴られ、
挙げ句の果てには仲間からも見捨てられる
こんな苦しいことはあるだろうか
「……そう、だったんですね」
「…すまん、いろいろ愚痴を言ってしまって…気分を悪くさせたよな」
「いえ、俺は全然…寧ろ、話してくれたのが嬉しかったというか…」
今まで気づけなかった自分に、いらいらする
「……その、彰人…?」
「あ…な、なんすか?」
「冬弥も…オレの事情、知ってるのだろうか…」
「…………それは…」
多分、知らないだろう
真っ先に俺に相談してくるはずだからな
『司先輩がいじめられてるらしい』…って
「…知らないと、思います」
「そうなのか…」
とにかく今は、司センパイが心配だ
うちに寝泊まりすること自体は大丈夫…でも…
何かの病気だったら…とか
もし、この人が死んでしまったら…とか
いろいろ考えて…分からなくなってくる
「彰人?大丈夫か?」
「あ…す、すみません…えっと…飯、食べます?」
「…いいのか?」
「はい。母さんにも話しておいたし…」
「ありがとう…じゃあ…」
「ん、肩貸しますよ」
---
すごく、申し訳ない
ご飯も食べさせてもらって、
寝泊まりも、させてもらえて、
嬉しいけど…やっぱり罪悪感がすごい
…類達、怒ってるだろうな
結局ショーの練習、参加できなかったし…
「…はぁ」
風呂は控えた方がいいだろう
足の腫れが酷くなったら…まぁ、やばいだろうし
「…明日は休みか…」
病院、行かないとな
---
「あ、天馬さん…だっけ?」
「…え、と…そうですけど…」
「寝る時は彰人の部屋貸してもらってね。遠慮しなくていいから!」
「…ありがとう、ございます!」
「ん、しっかり休んでね〜」
「…?あの人、どこかで見たことあるような…」
「まぁ、いいか」
本編4
「ん……ふぁ…」
…いつのまにか、眠っていた
ベッド、使わせてもらったけど…
「彰人、床で寝させてしまったな」
…背中痛そう
「というか…今何時…」
4時55分…もうすぐで5時か
「ってことは、彰人ももうすぐ起きるのか、?」
今日は…病院行くのか
「保険証…鞄にあったっけ…」
---
「よかったっすね、少しひびがはいってるだけで」
「嗚呼…すぐ治るだろう」
「んじゃ、今日はどうします?」
「え…どうって…家に帰るが…」
「いやだめだろ、しばらくうちにいろって」
「………いいのか?」
「だめな理由ないっすよ」
「…ありがとう」
「ん、俺今日練習あるんで」
「わかった」
---
「…あ、えっと…司、今大丈夫?」
「…東雲さん?」
「あ、いいよ絵名で。同い年でしょ?」
「…絵名さん」
「ん、ねぇ、一緒にチーズケーキ食べない?」
「え…な、なんで…」
「なんでって…なんとなく?あ、彰人には内緒ね!」
「…じゃあ、食べる」
「やった…!私の部屋きて!持ってくるから!」
「…ありがたいな」
こんなに気にかけてもらっていいのだろうか
罪悪感すごいぞ
すごい申し訳ないんだが
---
ガチャッ
「…お邪魔します」
「はい、どーぞ。この店のチーズケーキほんっと美味しいんだよね〜!」
「へぇ……」
「…ん?壁にある絵…」
「あ…!き、気にしないで!これはその…えっと…」
「……すごく、綺麗な絵…」
「…えっ?」
「あ、す、すまん…!勝手に見てしまって…」
「…ううん、大丈夫…!あ、そうだ…」
「…?」
絵名さんから聞かされたのは
『モデルになってほしい』というものだった
いやいや急展開すぎないか???
モデルとかやったことないんだが
え…???
---
「……んで、絵名と一緒に過ごしたってわけか」
「嗚呼…なんか、疲れた」
「…楽しかったですか?」
「え…あ、まぁ…悪くなかった、と思う」
「…そうっすか、よかったですね」
「……あ、彰人…チーズケーキ食べたこと、怒ってるのか?」
「……………」
「…別に、怒ってないですよ」
絶対怒ってるなこれ
分かりやすすぎだろ
今度パンケーキ作ってやろうかな
というかなんでチーズケーキ食べたことバレてるんだよ
本編5
「…今日は…日曜日か」
特に予定もない為、すごく暇だ
セカイに行くか?いや、あいつらがいるかもしれん
外…散歩とかか…?
いやだめだ。足があれだから歩きづらい
「…スマホ、どこ置いたっけな」
「あった…」
オレは、スマホに入ってるメモアプリを使って、簡単な絵を描き始めた
ストレスが溜まった時、絵を描くとすっきりすると聞いたことがある
「楽しいから、もう少し描いていよう…」
あ…絵名さんに、絵の描き方教えてもらおうかな…
…また今度でいいか
---
「なぁセンパイ…最近顔色悪くね?」
「え…あ、そうか?」
「…ま、話したくなったら話してくださいね」
「…嗚呼、ありがとう」
「それで…足はどうですか?」
「昨日より、痛くはないが…歩きづらいな」
「そっすか、んじゃ今日は…」
「…パンケーキ」
「…え?」
「パンケーキ、作ってやる」
「え、な、なんで…」
「この前絵名さんとチーズケーキ食べたこと、怒ってただろ」
「あー、お詫び?みたいなやつだ」
「…!いいんですか…?」
めっちゃ顔明るくなったな
やっぱり分かりやすい…
「嗚呼、キッチン借りてもいいなら…」
「ありがとう、ございます…じゃあ付いてきてください」
「ん…」
---
「…うっま」
「司センパイ天才ですか…?」
「いや別に…そんなこだわってないが…」
「…店出せるレベル」
「大袈裟だな」
「あっ!彰人!何食べてんの!?」
「うわ…」
「うわって何よ!…って、このパンケーキなに?」
「あ…オレが作ったやつで…」
「え、これ…!?お店出せるんじゃない…??」
彰人と同じこと言ってる…
この2人、すごく仲が良いのでは…
「私も食べていい?」
「嗚呼、口に合わないかもしれないが…」
「…!めっちゃ美味しい…!!」
「え…あ、ありがとう…」
「ふふっ、美味しい物食べれたし、私は部屋に戻ろっかな〜」
「…食うだけ食いやがって…」
「別にいいだろ。ほら、早く食べないと冷めるぞ」
「センパイってお母さんかなんかですか???」
本編6
1週間以上、彰人の家に泊まらせてもらった
足の腫れも治ってきたし、大丈夫だろう
「…お世話になりました」
「ううん、またいつでも来てよ」
「そっすよ、がちで心配なんで…」
「まぁ…迷惑かけない程度に、頼らせてもらう」
「ん、じゃあまたね」
「ありがとうございました」
---
親には連絡されていたようで、特に何も質問はされなかった
自室に戻ってベッドに寝転び、スマホを開く
「…うわ、不在着信すご」
履歴がとんでもないことになっていた
そういえば、練習全く参加してなかったな
怪我してたからしょうがないと思うけど
「とりあえず…明日から学校だし、準備しよう」
---
「…久しぶりの教室…嫌だな」
「あ…屋上…」
そういえば、昼休み以外に行ったことなかったな
「…もういいや、サボろう」
なんとなく全てが嫌になって、逃げようと思った
大丈夫。オレは今まで頑張ってきたから
少しサボるくらい…大丈夫
…成績には影響するだろうな
「というか、先客がいないといいんだが…」
少し緊張しながら、屋上の扉を開けた
---
「…誰もいない」
暁山でもいるかと思ったが、誰もいなかった
まぁ、1人になりたかったから好都合だけど
「…涼しい」
風が心地良い
とても、気持ちがいい
嫌なことなんか、忘れてしまいそう
「…それにしても、高いな」
ここから落ちたらどうなるんだ?
死ぬ?それともただ怪我するだけ?
なんてことを考えながら、1人の時間を過ごした
---
「…あ、もう昼休みか」
類達が来るかもしれないという恐怖
不在着信の事も聞かれるだろう
いつかあいつらにも殴られそうで怖い
仲間だったのに
「オレらの絆って、こんな脆い物だったんだな」
…もう関係ないか
今日、ショーキャストをやめる
もっと早く決断していればよかったな
「…足音」
今は誰にも会いたくないし、隠れていよう
本編7
オレの予感は的中。
やはりあいつらが来た
「誰もいないね、じゃあ早速台本の確認を…」
「うんっ☆今回のお話はどんなのかな〜!」
「…ねぇ類…あそこ…」
「え?」
「…ッ…」
「…うわ、《《天馬さん》》…」
「なんでそこで隠れてるんだい?出てきなよ」
「……」
そう言われ、一応素直に従っておこうと思った
類達に近づき、一言こう言われた
「どうして練習に来なかったのかな?説明してくれるかい?」
「…言わない」
怪我のこと言っても、言い訳だって責められるだけ
…どうすればいいんだろう
「ちょっと、なんか言ったらどうなの?」
「はぁ…放っておいてくれよ」
「…え?」
「あ、ぇ…」
やば、声に出てた…
「人切っておいてよくそんな態度していられるね?」
「は?オレはやってないんだが?」
「とぼけないで、あんた、人殴ったりもしたんでしょ?」
オレが殴られた側なんだけどな…
「司くん、最低だね…あたし見損なっちゃった」
「こんな人とショーやってたとか信じられない…」
オレだって信じたくない
こんな奴らと一緒に過ごしてたとか。
「ねぇ天馬さん?今日の放課後、屋上来てくれないかな?」
「…嫌だ」
「拒否権ないから。絶対来てよ?」
「嫌だと言ってるだろ。日本語わからないのか?」
「は…?うっざ、いいから従ってよ。いじめっ子さん?」
「…はぁ…わかった」
「あたしも行っていい!?楽しそう!」
「勿論だよ。それじゃあ…覚悟していてね?」
「………」
最悪だ
どんな事されるんだろ
殴られる?蹴られる?
カッターで切り付けられたりとか…?
まぁ殺されはしないだろうな、多分
---
「…来たぞ」
「おっそい。股下10㎝?」
時間通りに来たはずなんだけどな…
「…何、するんだ?」
「殴るに決まってるだろう?」
「ッ…え」
…やっぱり、痛めつけられるんだ
嫌だ…痛いのは…嫌だ
苦しいのも痛いのも全部嫌だ…
「やめ、やめて…くれ…」
そんなオレの声は、あいつらに届かなかった
---
「ッはぁ…ッゴホッケホッ」
「うわ、血吐いてんだけど…」
「汚いよー!ちゃんと掃除しておいてねー?」
「はい…グスッ」
「何泣いてるんだい?」
「ごめ、なさっ…」
「…もう帰ろ。暗くなってきたし」
「うんっ!楽しかったね〜!」
「ストレス発散にもなったよ。ありがとうね」
「…………」
すごく痛かった
仲間だった奴に、こんなに殴られて
吐血するまで、痛めつけられて
なんでオレがこんなに苦しまないといけないんだ…?
オレが何したっていうんだ…
「もう、いやだ、ッ…」
声を押し殺して、涙を流す
「う"ッ、ふぅ"…ッポロポロ」
カッター…なかったっけ
もうどうでもいい。死んでも死ななくても。どっちでもいい
ザクッ…シューーザクッ…ザクッ
乱暴に腕を傷つける
赤色の液体が、綺麗に見えた
「…もっと、見たい」
思いっきり…力強く…
右腕も左腕も、線だらけにする
「あ…やば、切りすぎた」
どろどろと出てくる血を見てると、なんだか落ち着く
なぜかは分からない
「…帰ろ」
掃除して、帰る準備をした
側から見たら、相当やばい人なんだろうな
喉の辺りがぐるぐるする
ほんとに、気持ち悪い
本編8
「ッ…!もう、辛いッポロポロ」
オレは何もしていない
これは紛れもない事実
でもあいつらは信じてくれなかった
「…誰も信じられない」
無意識に…そんな言葉を口に出した
そうか、オレ、裏切られたんだ
みんなで頑張ろうって、何があっても仲間だって
言ってたのに
「あ…ぁぁ…!!」
何かする気力もない
眠れる気がしない
「…無理だ」
オール…しようかな
---
「…学校…行きたくない」
…サボろ
これ以上、壊れたくないし
どうしようかな…家にいてもする事ない…
「…寝よう」
眠気とか全くないが、とりあえず横になる
目瞑っていればいつか眠れるだろ…
---
「…ん」
「……1時間しか寝れなかった」
さてどうしようか…
「あ…今日、ショーキャストやめるか」
なんで今までやめなかったんだろう
少し後悔しながら、紙とペンを探す
「…あった」
「退職届で…いいんだよな」
すらすらとペンを動かし、無心で文章を綴る
「…できた」
封筒に入れ、学校が終わる頃に持っていく
平日の昼間に高校生が遊園地にいるとか…なんか嫌だからな
「…勉強しよ」
なんとなく勉強が遅れてる気がした
これ以外なにもする事ないし、まぁいいか
---
「…本当にいいんですね」
「はい、もう決めた事なので」
「…お嬢様達には話したんですか?」
「いえ、自分から話すつもりはないです」
「そうですか…私から言っておきましょう」
「ありがとうございます」
「着ぐるみさんも…今までお世話になりました」
「はい…」
「では、さようなら」
これでいいんだ、オレが決めた道だから。
もうあいつらと関わることはない
「…セカイ、どうしようかな」
“セカイはまだ始まってすらいない”
「……放置でいいか」
1回消そうとも思った
でも、ミク達のことがどうしても気になって、削除できなかった
「これはオレのセカイだからな…」
消したら、ミク達の存在も消えるだろう
それは…なんとなく嫌だった
セカイは、オレの居場所なんじゃないかって思ったから。
「…考えるのはやめよう」
帰り道、夕日と雲がとても綺麗だった。
本編9
「…自殺、か…」
だんだん限界を感じてきた
飛び降りちゃえば、全部終わる?
痛みとかあるのだろうか、それとも一瞬?
「…はは、もう死んでもいいよな」
オレが死んだところで誰も悲しまないだろ
ただ地球上から、『天馬司』という存在が消えるだけ。
社会問題にもならない。
「…………」
「どんな感じで…最期を迎えようか…」
もう全部どうでもよくなって、自殺計画を立ててみた
・オレの事を裏切ってきたやつと縁を切る
「これは…達成したか」
ワンダショも抜けた
もうあいつらと会うことはない
というか、会うつもりない
・学校をやめる
あとで先生に退学届出しに行くか…めんどくさいな
でも、これでいじめてくる奴らとも会わずに済む。
見て見ぬふりしてた奴も絶対に許さない。
・やり残したこと全てやる
これはおまけみたいなものだ
成仏できなかったら…なんか嫌だから
…やり残したこと、なんだろう…
「こんなもんか…えっと、退学届…」
「…行こう」
---
「んー…っ!はぁ、退学完了…さて、何しようか…」
「…いいや、帰ろ…」
「………」
「…!…司センパイ!!」
聞き覚えのある声
聞くと安心できる声
この人だけは信用できるって、思える。
助けてくれた
オレの事を助けてくれた人
どうして…
「彰人がここに…」
本編10
彰人 side
見てしまった
司センパイが学校から出て行くところを。
今日は休日。ランニングをしてた時、偶々見つけただけ。
なのに、無意識に話しかけていた
心配だから
少しでも放っておいたら消えてしまうんじゃないかって。
それほど心配だった
怖かった
「…何しに行ってたんすか」
「…退学届を出しに行ったんだ」
「は…?」
「…じゃあな、オレはもう家に_」
「待てって、!!」
「っ…」
「…すみません、」
「でも…どうしても納得できないんです…」
「ショーキャストをやめたって話を聞いた時も、学校を退学するって聞いた時も…」
「まるで…今すぐにでも死ぬ準備をしてるというか…」
「………」
「…そんなわけないだろう?」
「え…、?」
「学校は…たしかにやめる。どーせ行かないんだしな」
「ショーも同じだ。あんなところにいてもオレが笑顔になれない」
「…死ぬとか消えるとか、そんなこと思うわけないじゃないか」
「で、でも…っ」
「それにまだ…やり残したこともあるんだし、簡単には死なん」
「…そう、ですか」
「変なこと聞いて…すみません」
「オレはもう帰る。それでいいな?」
「はい…」
ほんとにそうなのか?
やっぱりおかしい、何かがおかしい
俺は知ってる、司センパイがどれだけ辛いか。苦しいか。
なのに、なんでわからない?
もうすぐで死ぬかもしれないんだぞ?
どうして話を終わらせた?
もう少し話していれば、何か分かったかもしれない
あの人が今、何をしようとしてるのか
何を考えているのか
知ることができたかもしれないのに
「…くそ…っ!」
情け無い自分に、腹が立った
---
司 side
最低すぎるだろ、オレ
あれだけ気にかけてもらったのに
心配してくれてるのに
助けてもらったのに
どうしてあんなに冷たくしてしまったんだ
「嫌われたよなぁ… (笑」
言えるわけないじゃないか
『死のうと思ってる』だなんて。
…まぁ、彰人には全部お見通し、だと思うがな
「…とりあえず、これで退学は完了…」
「やり残したこと…か」
何も思い浮かばない…
…まぁ、まだ時間はあるし、ゆっくり考えればいいか
・オレの事を裏切ってきたやつと縁を切る✔︎
・学校をやめる✔︎
本編11
『天翔けるペガサスと書き、天馬!』
『世界を司ると書き、司!』
『その名も__天馬司!』
『スターになるべく生まれた男!』
---
…スターに…なる…
世界中の人を笑顔にする……
この夢も…あいつらのせいで壊されたんだ…
ならばオレの…今やりたいことは…?
「オレのやり残したことは…?」
「…………」
もう、何も考えなくていいや
やりたいことなんて…ない
「やめだやめだ…」
「気晴らしに散歩でも…」
「…いや……知り合いに会うかもしれな…」
ピコンッ
「…ん…?」
「LINE……誰…」
「……暁山…?」
本編12
<「司せんぱーい!今時間ありますか?」
「どうした?お前から連絡なんて珍しいな」>
<「そーかな?まぁそれはちょっと置いといて…」
<「先輩、今週の土曜日空いてる?」
「土曜日…?一応予定はないが…」>
<「ほんとっ!?じゃあその日、一緒に出かけようよー!」
「いいのか?」>
<「もっっちろん!!わーい!久しぶりに先輩と遊べるのすっごく楽しみ!!」
<「じゃあお昼に、『carino/carina』ってとこ集合で!」
「あぁ、分かった」>
---
「…流れでOKしたが…大丈夫だよな…」
「でも暁山はオレの事情…あんまりよく知らないし…」
「……carino/carina…って…咲希のバイト先のカフェだよな」
少し、楽しみだな
---
「…喉乾いた」
下まで取りに行くの面倒だな…
「はぁ…仕方ない…」
トンットンットンッ……
「あっ!お兄ちゃん!」
「っさ、咲希…?」
「今帰ってきたのか、今日は…どうだった?学校は楽しかったか?」
「すっごく楽しかったよ!今日も昼休みにいっちゃんと曲を作っててね…」
咲希が元気そうで…よかった
「…お兄ちゃん?大丈夫?」
「え、あっ…だ、大丈夫だ…!」
「…オレ、部屋に戻るな」
「あ……うん…」
「お兄ちゃん…なんか変…?」
本編13
「…意外と早く着いてしまったな」
今日は暁山と約束していた日。
太陽の光が結構強い、目潰れそう
「にしても人多いな…なんか疲れてきた…」
「あっ、司先輩!」
「…!おぉ!暁山!誘ってくれてありがとうな、!」
「いえいえー!…今日は少し話したいこともあったし…」
「ん?今何か言ったか?」
「ううん!ほらほら早く行こっ!」
---
「やっぱいつ来ても落ち着くなぁ…♪」
「よく来てるのか?」
「んー、時間がある日とかはたまに来てるかな…」
「へぇ……」
温かい紅茶を飲みながら思った
少し気まずい。
というか暁山と2人で出かけたことなんて一度もなかったし…
そもそもなんでオレを誘ったのか意図が読めないし…
「あははっ…ちょっと気まずいね…(笑」
「…そうだな…」
「………ねぇ司先輩」
「ちょっと聞きたいことがあるだけど…」
「な、なんだ、?」
「…こんなところでこんな話するのも…少し気が引けるけど、」
「先輩、何か悩んでる事とか…ある?」
「…っ…!?」
「なんで…」
「その…最近学校であんまり見かけないし…類に聞いても話逸らされて…何も教えてくれなくて…」
「あ…」
「別に言いたくなかったら言わなくていいけどね…?」
「…少し、心配だなぁって思ってさ」
「……………」
暁山だったら…大丈夫だろうか
全部、受け止めてくれるのか…?
…きっと大丈夫だ
こんなに心配してくれてるなら…オレは…
「…今から話す事…信じてくれるか…?」
「…!うん、ゆっくりで大丈夫だよ」
「嗚呼…」
本編14
「…なるほどね…」
「………気分、悪くさせたよな……」
「え、なんで?ボクが聞かせてって言ったんだよ?」
「気分悪くなるどころか…むしろすっきりした?とゆーか…」
「…そうか」
「うん!だから気にしないでっ!」
「…ほんと、優しいな」
「ふふーん、それほどでもー?」
どうして、こんなに気にしてくれるんだろうか
申し訳なくなってきた
「……ねぇ、司先輩」
「先輩は…どうしたいの?」
「…っえ」
「あーいや、責めるつもりなんて全然ないよ!?」
「ただ…これからどうするのかなーって…」
「…これから……か…」
「ボクは…全部受け止めるつもりだよ」
「………………」
「まだ、あんまり考えてない……」
「ん、そっか!」
「じゃー今日はボクの奢り!なんか甘いものでも食べて気分転換しよ!」
「何にしよっかな〜♪」
「…ありがとな、暁山」
---
「またね!司先輩!」
「あぁ、また……」
また…?
また、なんて…来るのか?
もしかしたら…もう2度とこんなふうに遊べなく…
「……………」
「?司先輩?」
「あっ…なんでもない、またな」
先のことは…後で考えよう
本編15
「…疲れたな」
久しぶりに人と話して、出かけて、楽しかった
…だが、
「これからどうするか…か」
死ぬことしか考えてなかった
このくだらない人生を終わりにしたかった
早く、早く早く早く、今すぐにでも、
「誰も知らないところで…」
「1人で静かに…消えたい」
---
「……………」
「ん………」
いつのまにか寝てた…?
「今何時…だ…」
くらっと世界が揺れる
激しい頭痛と耳鳴り
気分が悪い
「っ…あ…」
貧血だろうか、倒れそうになって咄嗟に壁に手をついた
「…ふぅ…」
薬を飲んで、一旦落ち着く
落ち着いて、冷静になって、考える
今の自分はどういう状況なのか
自分の体に何か起こっているのか
オレは今……
---
咲希side
「お兄ちゃん、なかなか降りてこないなぁ…」
いつもならもう起きてる時間なのに…
「大丈夫かな…」
最近なんだか様子がおかしいし、何かあったのかも…
で、でもあたしの勘違いかもしれないよね…うーーん…
「どうしたらいいんだろ…」
とりあえずお兄ちゃんの部屋に…
………………
「……ん?」
「今なんか……」
上から…バタって倒れる音、みたいな…
「…!も、もしかして…っ!」
---
「お、お兄ちゃん!」
やっぱり倒れてる…!ど、どうしよう…!?
「…咲希?」
「あっ、お兄ちゃん、大丈夫!?」
「え…」
「上からバタって何か倒れる音がして、来てみたら…っ」
「あ…そう、だったのか…すまんな、咲希」
「な、なんで謝るの…?」
「ただの寝不足だ。何も心配することはないぞ」
「え…あ、お兄ちゃん…!」
「…朝ごはん、食べるんだろう?顔洗ってくるから先に行っててくれ」
「………うん」
なんで…?
なんで何も…話してくれないの…?
お兄ちゃん、すっごく顔色悪かった…隈もあったし、寝不足なのは間違いないと思うけど…
さっき部屋を出る時もふらふらしてたし、それに、いきなり倒れるって…
「……わかんないよ…」
とーやくん…何か知ってたりしないかな…
「…学校の帰り…神高に寄っていこう」
何か知ってる人がいるかもしれない…
お兄ちゃんは頑なに話してくれないし…いい、よね…
「……助けたいよ、お兄ちゃん…」
本編16
誰か
誰か
このどうしようもない気持ちを
どうしようもないオレを
「救ってくれないか」
---
「………司先輩のこと?」
「うん…最近お兄ちゃん、ずっと様子おかしくて…」
「とーやくんなら何か知ってたりしないかなって思って…」
「…ちょっと分からないですね…体調を崩してるという話も聞いてませんし…」
「そっか…そうだよね、ごめんね!急に変なこと話しちゃって…!」
「いえ、役に立てなくてすみません」
「ううん!アタシは大丈夫!」
「それじゃあ……またね…!」
「はい、また……」
………
咲希さんの様子がおかしい
焦ってるような、そんなことないような…
司先輩…
確かに最近、司先輩に関する話も聞いていない。姿すら見ていない。
昔からあの人は、よく無理をしていた
咲希さんの為に、みんなの為に、笑顔にする為に
俺は、司先輩の悩んでる姿を近くで見てきた、一緒に悩んできた。
「…心配だ」
何か情報はないのだろうか…
姿を見たという情報でも、声を聞いたという情報でもなんでもいい
先輩の現状を知れる情報を…
「冬弥!」
「…あ、彰人?」
「そんなとこでボーッとしてどうしたんだよ、今日は練習の日だろ」
「こはねと杏はもう先にセカイに行ってる。早く行くぞ」
「…そうだな」
---
「疲れたー!今日もいい感じだったね!」
「ラップもだんだん上手くなっていってるし…すごく気持ちよかった…!」
「こはね、どんどんかっこよくなっていってるんだもん!私もめっちゃドキドキした!」
「んじゃ、今日はこんくらいでやめにするか」
「……ああ」
「おい冬弥…お前、いつもよりいまいちだったぞ」
「…なんかあったのかよ」
言ってもいいのか…?
彰人は司先輩とあまり話していない、頻繁に連絡を取る方でもなかったはずだ
司先輩の情報を得たい、何か知ってないかと急に言われても困惑するだろう…
それに、変に司先輩の話を広めるのもよくない気が…
「別に言いたくないなら言わなくていい。でも、」
「相棒だろ、俺達」
「あ………」
そうだ
相棒なら、彰人なら
話しても絶対信じてくれる。くだらないなんて言うはずない。
一緒に悩んでくれる。
「………司先輩のことで…」
「………え…」
「咲希さんから聞いたんだ、司先輩の様子がおかしいと…」
「何か知ってるかと言われたが、俺には分からなくて」
「それで…少しでも司先輩の情報を得るにはどうすればいいのか…って」
「…そうか」
「彰人は何か知ってたりしないか?」
「今何をしてるのか、見かけたりしたか、些細なことでもいいんだ」
「…うちに泊めた」
「…え?」
「|ここ《セカイ》だと少し、あれだな…一旦戻るか」
「あ、ああ…」
「あれっ?彰人達もう帰るの?今からこはねとメイコさんのカフェ行こうと思ってたんだけど…」
「…すまない、今日は…」
「用事があんだよ、またな」
「じゃあ仕方ないか…残念…」
「東雲くん、青柳くん、またね!」
「ああ、また明日」
本編17
「それで、彰人…泊めたっていうのは…」
「…歩いてるところを見て、声かけようとしたんだよ」
「その時あの人、道に倒れて…運ぼうとした時に傷とか痣があるのを見つけた」
「は……っ?」
「んで…とりあえずうちに連れてって手当てして…」
「センパイの話聞いたんだ」
「……………」
「…彰人…?」
「…いじめられてるって、話」
「………え」
「神代センパイ…ショーやってる人達にも見捨てられたらしくて」
「そんな…」
「…っ司先輩は…今何を…」
「…学校は退学してて、ショーキャストのバイトもやめたって言ってた」
「俺がわかってるのはそのくらいだ…」
なんだ、それ
いじめられてる…?学校の人に?神代先輩達に?
信じられない
信じたくない
「……分かんねえことばっかだな」
「………………」
「…教えてくれてありがとう、彰人」
「おう…んで、その咲希さんって人に伝えるのか?」
「…まだ、迷っている」
「家族に知られたくないかもしれない、心配かけたくないかもしれない」
「そうやって考えてたら…どうすればいいのか…」
「…とりあえず、今日はもう暗い。早めに帰って落ち着いた方がいいな」
「…ああ、また明日」
「またな」
---
わからない
彰人の話を聞いて、一気に心臓の音が早くなった
司先輩はこれからどうなってしまうのだろう
俺はどうする?
助けたい気持ちは当たり前、でも俺は関係者じゃない
事情も詳しく知らないし、実際にいじめられてる現場を見てもいない
そんな俺が、どうやって先輩を助ける?
どうやって救う?
気づくと時計の針は1を指していた
明日も学校がある。
いつも通りに見えて、いつも通りではない
先輩がいないことを確認させられてしまう
そんな現実見たくない
「……………」
「連絡、返してくれるだろうか…」
「…司先輩………」
本編18
「はあ…」
朝、司先輩にメッセージを送ってみたが、既読にすらならない
今は昼休み。購買で買ったパンを片手に何度もLINEをチェックする
もう何時間も経ってるというのに、まだ…
「……寝てるだけかもしれないしな…」
大丈夫、と心に言い聞かせてスマホを閉じる
『ねねね、最近天馬見なくない?』
「!」
『あ〜天馬?あの人最近ずっと来てないよ』
『え、一年の時から滅多に休んでなかったのに?』
『それがさー、なんかいじめられてたらしいよ?』
『えうそ、高校でもいじめなんてあるんだ』
『ねー、しかも結構酷くてさ………』
…先輩の話、結構広まってるな
咲希さんの耳に入るのも時間の問題かもしれない
「…今日、すぐ話したほうが良さそうだ」
メッセージを送って、返事が来るのを待つ
神高も宮女も、下校時間は同じくらい…だといいが…
---
「ん、とーやくんからだ…」
<「咲希さん、司先輩のことについて少しわかったので、今日の放課後話せたりしませんか?」
「え…!?も、もうわかったの!?」
やっぱりお兄ちゃん、何かあったんだ…
少し怖いけど…お兄ちゃんのこと心配だし…
「ほんと!?今日の放課後だね!アタシ神高行くよ!校門前集合で!」>
よし…
お兄ちゃん…アタシに話せない悩み事ってなんだろう…
「うーん…ショーのことかなあ…」
---
「あっとーやくん!」
「…咲希さん、わざわざこっちに来てくれてありがとうございます」
「いえいえ!それで…お兄ちゃんのことなんだけど…」
「…っ」
「話しても…信じてくれますか」
「え?」
「こんな話、信じたくないと思います、信じられないと思います」
「信じて…くれますか?」
「う、うん…とーやくんが嘘つくなんてなかなかないし…」
「ありがとうございます」
「…………………」
「……司先輩は___」
本編19
「…え」
「あ…と、とーやくん…どういうこと…?」
「お兄ちゃんがいじめられてるって…」
「えむちゃんもるいさんも、お兄ちゃんのこと見放したって…」
「…本当なの…?」
「…はい」
「俺も昨日知ったんですが…」
「だ、だから何も言わなかったの?」
「だからお兄ちゃんは…アタシに話してくれなかったの…?」
「心配をかけたくないから…?」
「………………」
「すみません咲希さん、俺がもう少し早く気づいていれば…」
「や……とーやくんは悪くないよ…」
「アタシの方がお兄ちゃんとよく関わってたのに何も知らなくて…」
「………悔しいなぁ……」
「……とりあえず、これからどうすればいいのか考えませんか?」
「………………」
「…そう、だよね」
「アタシ達が落ち込んでてもどうしようもないよね…」
「1番辛いのはお兄ちゃんなんだから…」
「……あの…咲希さんにお願いがあるんです」
「お願い?」
「…司先輩と話をしてほしいなと」
「…えっ?」
「はい、俺達は司先輩のことを信じている、助けたい、救いたいという気持ちを伝えてほしくて…」
「それに、家族なら…咲希さんになら、司先輩もきっと話してくれると思います」
「な、なるほど…」
「もちろん…!任せて!」
「アタシにしかできない仕事だよね!頑張るよ!」
「…!ありがとうございます」
「それじゃあ…またね!とーやくん!」
「ちゃんと話せてよかった…!ありがとう!」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
…未だに信じたくない
信じたくないけど…
これが現実なら
アタシは全部受け止めて、お兄ちゃんの支えになるよ
「みんなで頑張ろうね…!」
---
「…来てない」
結局返信はこなかった
何度もスマホを見て確認をする。通知がオンになってるかも確認した。
このままずっと連絡が取れなかったら…
なんて考えるだけで怖くなる。すごく不安だ。
司先輩のことでこんなに悩んだのは初めてかもしれない
先輩の想いもわからないまま、ずっと考え込んでいてもいいのだろうか
「咲希さんからの連絡を待つしか…」
「………………」
…とりあえず練習に行こう、彰人達が待ってる
「…こんな気持ちのまま歌っても、きっといいものは作れないな」
本編20
「……ふう」
階段上がったらすぐお兄ちゃんの部屋…すぐお兄ちゃんの部屋……
や、やっぱり怖いし緊張するよ〜…
「う〜〜…」
「…咲希?」
「ひゃ!?お、お兄ちゃん…」
「どうかしたか?階段にずっと座り込んで…」
「あ、えっと…」
がんばれアタシ…!今がチャンス……!!
1つ呼吸をして、届くか分からないくらい小さく声を出す。
「…お兄ちゃん、今ちょっといいかな」
「…?ああ、かまわん、なんだ?」
「その…学校で……何かあったよね…?」
「………………」
「…なんでそう思ったんだ?」
「…っだってお兄ちゃん、最近家でもずっと暗い顔してるし、食欲もなさそうだったから…」
「友達の話も全くしないし、出かけてるとこも見てないし…」
「それに…とーやくんから聞いたの」
「冬弥から…」
「いじめられてる、って…ショーのお仕事もやめちゃったって…」
「それを…お兄ちゃんに聞いて、確認したくて…」
「…そうか」
「咲希にはバレたくなかったんだが…仕方ないな」
「……やっぱり、そうだったんだ…」
「心配かけてすまんな、でも、」
「咲希は何もしなくていい、何も気にしなくていいぞ」
「は……え…?」
「オレが1人でなんとかする」
「1人で終わりにする」
「だから大丈夫だ、咲希」
なにそれ…
そんなの…自分で首を絞めてるようなもんだよ…
苦しいんじゃないの?辛いんじゃないの?
アタシには何もできないって思ってるの?
「気にしないことなんてできないよ…」
「だってお兄ちゃん、いつもアタシのために頑張ってくれてたんだもん…!」
「今度はアタシがお兄ちゃんを助ける番なの!!」
「もっと頼ってよ!!!」
お兄ちゃんにこんな大きな声で怒鳴ったのは、初めてだった。
気づいたらアタシの顔はぐちゃぐちゃに濡れてて、呼吸するのも苦しくなった。
なんで泣いてるんだろう…泣きたいのはお兄ちゃんの方なのに…
「…分からない」
「…っえ?」
「オレも…どうしたらいいのか分からないんだ」
「頼ったところで、オレがしてほしいことは何もない」
「今は少し…休ませてくれないか」
「あっ…」
……………
まだお兄ちゃんの気持ち全然分かってないのに…
アタシ、助けたいとか、頼ってほしいとか…
「アタシがお兄ちゃんをこれ以上苦しめてどうするの…っ」
---
重い足取りで学校へ向かう
咲希さんは…司先輩と話ができただろうか
「…はあ」
「冬弥」
「…!彰人…おはよう」
「なあ、司センパイのこと…咲希さんに言ったのか?」
「…昨日、全部話した」
「そうか…信じてはくれたのか?」
「もちろんだ」
「なら…よかった」
「なあ、彰人」
「……神代先輩と草薙…鳳は、本当に司先輩を信じてないんだな…?」
「ああ…そうだな」
「あいつらがセンパイのことをどう思ってんのかも、何があったのかも、俺は詳しく知らねぇ」
俺と彰人は、神代先輩達の気持ちを分かっていない
正直、分かりたくない。
でも…先輩がこれ以上壊れてしまう前に、誤解を解きたい
「話を聞いた方がいいのだろうか…」
「聞く…神代センパイにか?」
「…………」
「俺は別にとめねーけど、それが原因でいじめが悪化したらどうすんだよ」
「それはっ…」
この状況で、敵が何をするかわからない
万が一、俺のせいで先輩に危険が生じたら…
「…怖い」
そんなの嫌だ
先輩が傷つく姿をみたくない…
『苦しんでる』なんて聞きたくない
「…いちかばちかだな」
「え?」
「神代センパイが、完全に司センパイのことを信じていないわけじゃないかもしれない」
「?…それって、どういう…」
「そうだな…たとえば、周りの空気に合わせてるとか」
「…!庇ったら…自分もターゲットにされかねない…」
「…そう思ってるということか?」
「わかんねぇ、たとえだからな」
可能性を考える
こうなのかもしれない、ああなのかもしれない
そうやって考えてるうちに、学校についた
「今日の昼休み…神代先輩と話をしようと思う」
「…そうか」
「俺も一緒に行く」
「こんなこと言いたくないけど…少し危ないだろ、2対1は」
「確かにそうだな…大丈夫か?」
「ああ、できることならなんでもする」
「ありがとう、彰人」
---
「…神代先輩、草薙、今いいですか?」
「おや、青柳君と東雲君じゃないか」
「話すの久しぶり…だね、どうしたの?」
「司センパイを最近見てないんです」
『任せろ』と目線で伝えてくる彰人。
真剣に、冷静に先輩に話しかけている
神代先輩と草薙は、一瞬びっくりしたような表情を見せた。
「…司くんのこと?」
「はい。2人なら何か知っていたり__」
「彼は人を切ったんだ」
「………」
「どこだったかな…ああそうだ、空き教室で女の人を切っていたんだよ」
「…そうなんですか」
……知らない
そんな話は聞いていない
彰人は知っていたんだろうか…いや、知っていたら俺に教えてくれるはずだ
先輩が人を切っただと?
神代先輩はそれを信じたのか?
「見たんですか?」
「…私達は見てない」
「司に切られたって言ってる女子から聞いたの」
「傷も見せてもらった。こんなの確定でしょ」
「………………」
あなた達は、司先輩の何を見ていたんだ
あの人はそんなことするような人じゃない
どうして信じてあげられていないんだ
ずっと隣にいた仲間より、まともに話したこともないような奴を信じたのか?
「話はそれだけかい?」
「わ、私達もう行くから…」
「…分かりました…教えていただきありがとうございます」
---
「………………」
「カッターキャーってやつか」
「実際にする奴いんだな…」
「…彰人は知らなかったのか…」
「…そうだな、このことはセンパイから聞いてない」
「俺が聞いたのは、同級生に殴られていたとか、ショーメンバーの奴らに信じてもらえなかったとかそのくらいだ」
「多分、その切りつけ事件があった次の日から、神代センパイとか草薙の態度が変わったんだな」
「…………」
もう、聞いてるだけでおかしくなりそうだった
喉に何かがつっかかってるような、ぐるぐるしてるような、
言葉で表現するのが難しい、とてつもない不快感が俺を襲った。
「大丈夫か、冬弥」
「…すまない」
「………………」
「とりあえず…また放課後話すか」
「そう、だな……じゃあまた…」
---
俺達はそのまま解散し、教室へ戻った
ま、授業内容なんて1つも頭に入ってねーけど…
……あんなに苦しそうな冬弥、久しぶりに見たかもな…
「…3年は体育か」
気を紛らわそうと景色を見ていると、持久走をしている3年生が目に入った
が、何か物足りなさを感じてすぐ黒板に目線を戻した
「はあ…」
………センパイに『会いたい』なんて思う日が来るとはな…
本編21
「…………」
いつの間にか、スマホの通知が溜まっていた
しばらく電源を落としていたからか…
ネットはすでにやめているし、ニュースもまともに見ていない
なんて言われるか怖かった
たくさんのファンの方を、不安にさせてしまった
「…よく考えたら最低じゃないか」
自分勝手だろうか
正解も不正解もわからない
「とりあえず既読だけ…」
何日かぶりにスマホを開いてメッセージをチェックする
彰人や冬弥からの通知がすごいな、電話もかかってきている…
「…冬弥も、知ったのか」
憧れの先輩がこんなになっていて、失望しただろうな
あいつが好きなのはキラキラしたオレだ、今のオレには取り繕う余裕なんてない
「どんな風に返信すればいいのだろうか…」
---
爽やかな風が吹く
蒸し暑い空気とは違い、初夏を感じられる心地いい風
「こんなんじゃ夏、思いっきり楽しめないよ…」
とーやくんから教えてもらった
お兄ちゃんが、人を切ったという話
そんなことするわけない
ましてや、お兄ちゃんがいじめられる理由なんてそう思いつかない
その女の人は何が気に入らなかったんだろう
「…わかんないなあ」
ぼーっとスマホを眺めていたら、通知が鳴った
「うわわ!?マ、マナーモードしてなかった…!」
恥ずかしい…とか思いながらアプリを開く
「……………」
「あ…話題になってたミュージカル、明後日からなんだ…」
「お兄ちゃんと…観に行きたかったな…」
今お兄ちゃんにショーやミュージカルの話をしてはいけない
きっと、思い出させてしまうから
そんなの嫌だ
「…我慢しないと」
---
司先輩から連絡がきた
心配かけてすまない、俺は大丈夫だ…と。
「…そんなわけがない」
学校もキャストもやめたくせに
大丈夫だなんて無理矢理すぎる
俺は何をすればいいのだろうか、司先輩は何を求めているんだろうか
もっと積極的に行動した方がいいのだろうか
「おっはよー!」
教室の扉がガラッと開く
聞き覚えのある明るい声
「暁山…?」
「あ!冬弥くん久しぶり!今日は気が向いたから学校来たんだよね〜♪」
「そうか…久しぶりだな」
「…?なんか元気なくない?大丈夫?」
「えっ、と…」
「…司先輩のことで…」
「……冬弥くんも知ってたんだ」
「ああ、つい最近教えてもらったばかりだが…」
「ボクもちょっと悩んでるんだよね〜、なんとか司先輩と会いたくてさあ…なんかイベントとかないかな?」
「……………」
「…あ、そういえば、来週駅前に新しい雑貨屋がオープンするって…」
「えっ?」
「…それじゃん!それだよ冬弥くん!司先輩と一緒に行こ!!」
「え…先輩と…?」
「あー2人っきりは緊張する?それだったらボクもついてくけど…」
「というか普通に雑貨屋さん行きたいから一緒に行くね!」
「あ、ああ…それは構わないが…」
「…そんな簡単に会ってくれるか…?」
「大丈夫大丈夫!ボクこの前司先輩とカフェ行ったし!」
「昔から仲良い冬弥くんとなら尚更来てくれるよ!」
「そう、か……」
「…わかった、俺の方から誘ってみる」
「うん…きっと大丈夫だよ、普段通りね!」
「ああ、じゃあまた後でな」
「はーい!じゃあ冬弥くん、授業頑張ってね〜♪」
授業、出ないのか…
…とりあえず、暁山もいつも通りでよかった
「あとで彰人にも話しておかないとな…」
本編22
「は?司センパイと遊びに行く?」
耳を疑った
なんで急に?遊ぶ?どういうことだ…
「センパイと遊びに行くって…今絶対そんな状況じゃねぇのに…」
「いや、遊びに行くというか…ちょっとでも息抜きになればいいと思ってな」
「…なるほどな」
「んでお前はなんでここにいんだよ」
冬弥の隣にいるピンク髪サイドテールのこいつは、なんだかすごくニコニコしている
こういう時の暁山に会うと、ろくなことがない
「ふっふっふ〜…ボクも司先輩の力になりたくてさ、いろいろ考えてたんだよね」
「それで、みんなで駅前に行こうってか?」
「んな知り合いしかいなさそうな所に行って大丈夫なのかよ?」
「それは俺も思ったんだが…」
「平日の昼間に!学校サボって行こうってわけ!」
「いやいやサボりって…できるわけねーだろ」
「えーー、じゃあ深夜…はお店開いてないよね…」
「やっぱりサボって平日昼間に行くしかないよ!ね!一生のお願い!」
なんで暁山がそんな必死なんだよ…
…まあ、俺もセンパイの様子知りたいし…あーでもな…無理に連れ回すわけには…
「司先輩からの了承は得ている。俺からも頼む、彰人」
「冬弥……」
「…ったく……仕方ねえな…」
「…!!やったー!ありがとう弟くん!」
「ありがとうな彰人…!」
「ちょ、声でけーって…」
「あ…………」
---
「はーっはっはっはー!オレのかっこいいポーズを見よ!」
「ちょ、声でかいですって!」
「ったく…いろんな人に見られてるじゃないすか…」
「みんなオレのかっこよさに見惚れているんだろう!」
「はあ………」
---
懐かしい
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう
また、もう一度、司センパイの元気な声を聞きたい
「ん?弟くん?なんかぼーっとしてるけど…大丈夫?」
「あ?あー…大丈夫だ…」
「そうか、あまり無理はするなよ」
「ああ…じゃあまた来週な」
「はーい!またね!」
…センパイ、前より悪化してないといいけど
---
「えっと…帽子と薬…ハンカチ…財布…」
久しぶりに外出するからな…万が一知り合いがいたら嫌だし、帽子だけは忘れないように…
…………
「なんだか…オレのためにここまで時間を作ってくれて…」
「…申し訳ないな」
誘われたから行くだけ…って感じだが、
それでもやっぱり暗いことを考えてしまう
こんなのいつものオレじゃな……
「……………」
「いや、これがいつも通りのオレか」
---
両親は今日、用事でいない
帰ってくるのも遅いみたいだし、これならバレずに出かけられそうだ
「…すみません父さん、母さん」
「行ってきます」
---
「は?あんた今日学校行かないの?」
「バカッ、母さんに聞こえるだろ!」
「あ、ご、ごめん…というかなんで急に?」
「…前うちに来たセンパイのことで…」
「え、つか…天馬くん?またなんかあったの?」
「あーー…まあいろいろあんだよ」
「…もしかしてさ、今日行くところって駅前の雑貨屋さんだったりする?」
「え、ああ…それがなんだよ」
「前に瑞希のこと誘ったけど先約あるからって断られたの!!」
「だからさ、お土産として何か買ってきてよ!可愛いやつ!」
「は?自分で行けばいいだろ」
「じゃあよろしくね〜いってらっしゃーい」
「ちょ…はあ……仕方ねーな…」
「…行ってきまーす」
---
「えっと…あれ、ボクが一番乗りじゃん!」
てっきり弟くんが最初に着いてるのかと思ってたけど…
「これは絵名につかまってるな〜♪」
「…暁山?」
聞き覚えのある声…
振り向くと見覚えのある顔が目に入った。
「へっ?うわああっ!!つ、司先輩!?」
「驚きすぎだろう…その、おはよう」
「お、おはよ!全然気づかなかった…」
黒い帽子に白のパーカー
目元にはクマができていて、顔色はとてもいいとは言えない
以前より痩せた気もする
「…弟くんと冬弥くん遅いね〜」
「オレらが早すぎるだけではないか…?」
「あははっ、ボクずっと楽しみにしてたからね〜!」
「バイト代入ったばっかだし、今日はいっぱい買い物するぞ〜!」
「…はは、いつも通りの暁山で安心したぞ」
……やっぱ無理してる…よね
もしかしたら同級生がいたりするかも…
うーん…ちょっと強引だったかな…
「…暁山」
「オレは別に、迷惑だとか、嫌だとか思っていない」
「…え?」
「なんなら…オレのために時間を作ってくれてありがとうな」
「誘ってくれて嬉しかったぞ」
「…!」
司先輩には全部お見通しなんだな…
ボクの考えてること、表情だけで分かっちゃうなんて
「お、もう着いてたのか」
「彰人、冬弥…久しぶり、だな…」
「…おはようございます」
「はざっす、んじゃ行きましょうか」
…なんか冬弥くん、何とも言えないような顔して……
「ほら、早く行くぞ暁山」
「楽しみにしていたんだろう?」
「あ…」
「………よーしっ!今日はいっぱい楽しもうね!」
とにかく今日は、先輩のことを少しでも笑顔にできるように…!
いっぱい楽しんで、いっぱい頑張ろう!