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目次
無題
ファストフード店店員の不動と身体を売ってる風丸の話
未完 気が向いたら続き書く
ああ、退屈だ。労働というものは何でこんなに退屈なんだろう。
俺は冴えないファストフード店の店員で、店の時計はもうすぐ日付を変えようとしていた。あと10分くらい。片付けが終わったら帰れる。翌日の昼まで泥のように眠ろう。どうせ明日は大学も行かなくていい。
しかし、今日はスムーズに帰ることはできなそうだった。店の奥のテーブルに1人の客が突っ伏しているのだ。そいつの他にはもう誰もいない。ジュースとナゲットがどことなく寂しげにトレイに載っかっている。注文したんなら食えよ。
心の中で悪態をつきながら客に近寄る。髪が長くて青い。派手な色に染めたものだ。やはり寝ているようで、規則的な寝息が微かに聞こえる。クソ、俺も早く寝たいんだわ。起きろよ。
あと男か女かも分からない。男なら容赦なく揺り起こすが、女の客に触れるのは憚られる。
「お客さん、起きて下さい」
「…」
「お客さんお客さん、困りますよ。もうすぐ閉店時間なんで」
「ん…」
意外にも声を掛けただけで反応があった。思ったよりも低い声で、というか完全に男のそれだった。細い首が持ち上がる。
俺を見上げた顔を見てちょっと混乱した。小さな卵形の顔は10代の娘のようで、とても男には見えない。しかし声は確かに男だったのだ。
いやこれどっちだ。
「あー…閉店?もう?」
「あと10分くらいっすね。ラストオーダー過ぎてるけどまぁ、俺も声掛けてなかったんで承りますよ。どうします?」
「いいです大丈夫です、もう出ます」
ふらつきもせずに彼(彼女?)は立ち上がった。酒の匂いがしない。酔っているわけではなさそうだ。酔っ払いとシラフだとそれだけで面倒さが違うからありがたい。会計を済ませると同時に彼の携帯が鳴ったので、「ありがとうございました、またお越し下さい」の決まり文句は言わず、頭を下げるに留める。
「もしもし、ああ田中さん!はい、はい、そうです。…じゃあ結構近くにいる感じかな?あははそっかぁ…え今から?うーん俺はいいですけど、今の時間で予約取れます?うんうん、じゃちょっと確認してみて下さい、はーいじゃまた」
営業的な高い声で通話を終えると小さくため息を吐いた。今の通話で大体彼が何の職についているかは想像に易い。この街では珍しくも何ともないことだ。
家に帰って調べてみると、やはりその手の店の男だった。源氏名は「いっくん」で、緩いパーカーを羽織っている写真が載っていた。口元をピースで隠し、コメントに「SM以外なら何でもおーけー。気軽にTELしてください」と書いている。俺は少し迷って、コメントの下の番号に電話をかけた。
予約が取れたのはそれから3日後のことで、「いっくん」は俺の部屋に来てくれるらしかった。
約束の時間ほぼぴったりにいっくんはインターホンを押した。相変わらずパーカー姿だった。
俺が先日のファストフード店の店員だとは気づいていないようだった。そりゃあそうだろう。店にたまたま居合わせた人間のことなんか、普通覚えちゃいない。いっくんは玄関に立ち尽くしたまま言った。
「えっと。一人称俺でいい?敬語はいる?呼び方はどうする?」
「好きにしろよ」
いっくんは驚いた顔をした。
「…変わってるなぁ!俺コスプレとかもOKしてるぜ?まぁ今日はもう来ちゃったから無理だけど。あーもしかして家に揃ってる系?」
「ねぇよ」
話しながらベッドを示すと、彼は俺の隣に横座りした。細い綺麗な髪から甘い水の匂いがする。隠しきれない精と飾りの匂い。そして押しつけがましくない程度の媚び。
「俺のこと、覚えてたりしない?」
「え?いやえーっと、初めてだよな?あ、いや待って、」
いっくんは上目遣いで俺を見上げた。あ、なんかよく見たらめっちゃタイプかも。
「…この前の店員さん?閉店10分前ーって」
「当たり。よく分かったね」
「おにーさんイケメンだから」
彼は事もなげに言った。血がとろけたような赤い瞳が俺を覗きこんでいる。
ああ、当たりだな。すげぇタイプ。