なんかいろんな綺麗な花を題材にして話を書くよ🌷
一番見てほしいのはサンカヨウの花!まじで調べて見てみて!惚れるから!
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目次
サンカヨウの花
いぇい
静かな小屋に、灯る赤い明かり。その部屋には、痩せた肌の白い一人の女、杏が住んでいた。ガタガタとなる椅子の足に布を敷き、段をなくして静かにする。
梅雨の季節に入ったことで、もとより雨の降りやすいこの山は一層湿った空気に包まれていた。
杏が窓の外を覗くと、ねずみ色に染まった空が涙を流している。
この小屋は木で出来ているため、ぴしょりぴしょりと、雨が独特のリズムを刻みながら家に入り込んでいた。
山の動物はすっかりいなくなっている。家族のいる家でゆったりと涼んでいるのだろう。
杏はふわりと微笑み、小屋の窓をキィと開けた。
入ってくる大粒の雨水に手をかざす。雨水はぷわと浮かんで弾けた。シャボン玉のようだった。浮かんでは、弾けて、浮かんでは、弾けて。杏があそんでいると、一つ、弾けない水のたまができた。
水のたまは雨音が激しくなった外へ出ていく。杏は窓を飛び越え追いかけた。
水のたまはスピードを増していく。病弱で運動などすることが出来なかった杏は、すぐに息を切らしてしまった。が、走り続ける。水のたまを見失わないように。
その追いかけっこが突然終わった。水のたまが弾けたのだ。どこまで来たのだろうかと見渡すと、そこには透明な花が並んでいた。
この時期に、花がこんなに咲いているなんて。目を疑うほど儚く、切なく、美しかった。
そこに、どこからか少年が現れた。
少年は、濡れた白い髪を手櫛でとかして、杏を見た。杏も踵を返した。
「お姉さん、どうしてここに来たの」
「どうしてかしらね」
少年も、その花のように儚かった。触ったら弾けてしまう気がした。少年の肌は白く、杏と同じく|病弱である《よわい》ことが分かった。
「きみも、どうしてこんなところに」
「さあ、わかんない」
曖昧な返事に、杏は思った。
この花と、何か関係しているんじゃないかな。
直感だったし、なんでそう感じたのかもわからないけれど、この花と少年は一心同体のように見えたから。
「この花の名前、わかる?」
「サンカヨウ。濡れたら花弁が透明になる、この世のものとは思えない花さ。」
「あなたとサンカヨウ、なんだか似てる」
「…そうかな」
少年は少し寂しそうに言った。目は翡翠色で、橙色のような色も混ざっている。少年こそ、この世のものとは思えないほど、ひどく美しかった。
そのとき、《《突然》》雨がやんだ。さっきまで大きな雨音を立ててザバザバ降っていた雨が、弾けて急にやんだのだ。
周辺の変わり様も凄まじい勢いだった。
小鳥はすぐに歌い出し、樹の葉も深緑色に茂り、蒼い空には太陽に照らされて虹ができた。
少年、と、杏が言いかけると、彼はもういなかった。
戸惑う杏のそばで、サンカヨウの花が、白く、雨露を垂らして光っていた。
私は今メッセージ性というやつを考えないようにしています。
まじで何が伝えたいのかわからんよね。うん私も。
蓮の花
蓮の花あんまりよくよく見たことなかったけど、結構綺麗よね
田舎生まれ都会育ち、都会のうるさい人混みが大嫌いな私。会社に行きたくない理由は、道中にある某交差点がとにかくうるさくて嫌いだから。同僚には、よくそんなんでやってこれたね、って言われた。
私は、この都会で夫を見つけた。
人混みに酔って気分が悪くなった私を精一杯支えてくれた通りすがりの男。それが夫だった。その後は合コンで出くわしたり、また助けられたり、助けたりして、互いに惹かれ合った。
でもこの頃、彼の様子がおかしい。
結婚3年目。続かない人達は長くてもここで終わってしまう。私達も、続かない人たちなのかな。
彼の不倫は見え見えだった。
---
「早苗、旦那さんに突き詰めてみたら?不倫してるんじゃないの?って。で、慰謝料たんまりもらって別れてやればいい!」
同僚の雪が言う。
雪は、中学からの大親友で、惚れっぽい性格をしていた。彼女に理性というやつがなければ、誰彼と不倫しまくっていただろう。
相手が既婚者であれど、恋の気持ちは止められない、だそうだ。
「いや、雪みたいに惚れやすくないから、流石にこの年からの再婚は無理だよ。」
私惚れやすくなんかないよ!と雪が膨れる。さらに彼女はいい方法がないかと悩み、それからピンときた顔をした。
「田舎に帰ってやる!とかは?」
なるほど。
おバカな雪にしては名案だ。ただ、向こうが考えた末離婚しようなんて言ってきたら…。保留にしとこう、と言おうとしたのを見計らったように、雪は続けた。
「離婚しようって言われた時はそん時に考える!そんなの時間の問題だもん。いつまでもうじうじしてちゃ、何もできないよ!」
楽観的な思考の雪は、手をぱんぱんと鳴らしながら言った。それもそっか…、まあ、何とかなるでしょう。雪は興奮してうるさくなり、人が集まってきてしまったので一旦話題を止めた。
---
私が田舎に帰ると言った時、夫は何を察してか花をくれた。蓮の花だ。どういう意図だろうか。
「気づいてたんだな。早苗。」
「止めないのね。」
「…一人になって、よく考えよう。」
私が田舎に発つとき、彼は見送りにも来なかった。
---
家は書院造りの昔ながらの屋敷だった。家のそばには池があり、蓮の花が皮肉にもいくつか浮いていた。
母親は老人ホームへ行き、父親は入院していたので、だれもいないだろうと屋敷の中に入った。でも、そこに人影はあったのだ。
「誰ですか?」
「あれ、早苗姉、どうしてここへ?」
従弟の由くんだった。10歳も離れた弟みたいな男の子。相も変わらず綺麗な顔をしていた。高く通った鼻筋、切れ長の目、やや童顔の彼は、実年齢より3歳ほど若く見られることが多かった。20歳の−3はでかい。
居間まで通してもらって、話をした。
「由くん、お久しぶり。旦那が浮気してるっぽくて、帰ってきちゃった…」
「…離婚は?」
「まだ。」
「その、手に持ってる花、何?」
「蓮の花よ。帰ると言ったら、旦那に渡された。そういえば、由くんって花に詳しかったでしょう?…花言葉、知ってる?」
最後の言葉は、声が震えた。
大体はわかっていた。別れに関することがつけてあるんだろう。
由くんが心配そうに私を見る。
「大丈夫?」
「大丈夫!」
蓮の花をそっと机に置く。由くんには、笑いかけてみせた。が、きっとそれも、引き攣っているんだろうな。
「清らかな心、神聖、休養、雄弁、沈着…離れゆく、愛。」
「っ…」
「でも、旦那さんも、まだ早苗姉に気はあると思うんだ。
蓮の花にはね、他にも、花言葉があって。」
「…うん。」
正直、聞きたくなかった。きっと、言い訳のような言葉が…
「『助けてください。』」
由くんの声に、旦那の声が重なった。
「考え過ぎかもしれない。でも、きっと…不倫を、強要されたとか、脅されたとか。あるのかもしれない。話し合ってみてよ、そして、信じなよ、彼のこと。」
泣きそうになったけど、情けなくて泣けない。でも由くんは、気づいてくれた。
「泣いてもいいよ」
震える私の肩を抱く彼の体は、何故か、どうしようもなく切なかった。
気づくと、彼も泣いていた。
「どうしたの?」
「…たったさっき、好きな人の恋を、応援しちゃったんだ。苦しいや。叶わない恋って。」
---
あれから1週間。都会に帰ってきた。
今日からは、みっちり話し合ってやるんだ。夫は、助けてほしいのかもしれない。ホントは不倫なんてしたくないのかもしれない。
私はいつものうるさい交差点に紛れていった。
花シリーズ展開でーす🌸
一応伏線あり、気づいたかな(笑)
紫のフリージア
新学期になって、宮日(みやび)は憂鬱な気分を抱いていた。何故かというと、新学期早々隣の人がお休み。しかも、HRによりその人は不治の病で入院してる身らしいのだ。
「なんだよ、陰鬱なカンジ」
幼馴染の原(はら)は、宮日の前の席。長いポニーテールをゆらしながらつんつんと宮日をつつく。
「あれ、宮日の隣の人って…あの、何たら病の人か。」
「なんだっけな」
宮日には、不治の病に嫌な思い出がある。小さい頃のことだからうろ覚えなのだが…
---
小さい頃、宮日の一番の親友は原ではなかった。一つ上の村江(むらえ)という、男子がいたのだ。彼は、ライソゾーム病という不治の病にかかっていた。かかってしまったら完治させる方法はなく、乳児期から幼少期に死亡してしまうものだった。
その頃の宮日は村江に憧れていた。それは、村江が才能マンだったから。絵も上手、字も上手、でんぐり返しもできて、落着きがあった。
でも、村江は大きくなるに連れてどんどん幼稚園に来なくなっていった。
あとから、母親に、村江ちゃんは死んだと伝えられた。
---
その時はもう小1。
死ぬという言葉のニュアンスはなんとなくわかっていた。絶望と、恐怖。その場に崩れてしまったほどだった。
「あぁ、いま、村江ちゃんのこと思い浮かべたでしょ。」
「お前もかよ」
二人が気まずくなったところで、一校時の始まりを告げるチャイムがなった。
---
「「「ありがとうございました」」」
帰ろうとバックを持つと、宮日は先生に止められた。
「なんですか」
「ごめんね、あの子の分も、持っていってほしくって。」
そう言うと先生は行事表を手渡した。皆もらった手紙だった。行事の表を学校に来れない人に見せるなんて、逆に酷じゃないのか。という言葉を、宮日は飲み込んだ。
「彼って、病院なんですよね。家に持っていきますか」
「まさか!行ってもらいますよ。貴方に持っていってもらえると、彼も喜ぶだろうし。」
先生の満面の笑みを見て、何も言い返せなかった。
---
宮日は、渡された病院名のメモを見て、病院へ来た。思いの外大きく、ここでいいんだよなと恐る恐る入っていく。病室の番号を受付にて聞いて、その番号の場所へと向かった。
コンコン
「失礼しまーす」
ドアをガラガラっと開けた先、彼は上体を起こして本を読んでいた。ふわりと金木犀らしき匂いがする。その方向を見ると、見たことあるようなないような紫色の花が挿してあった。その匂いは強く、病室に置いてあって良いのかと思ったほどだった。
「誰…?」
彼の怯えたような目を見て、村江の顔がよぎった。あの自信に満ちた村江とは正反対のはずなのだが、彼と村江とはとても似ているような気がした。
「えっと、今日から同じクラスになった宮日…っていいます。ちょうど、君の隣の席だから、行事予定表を持ってけって頼まれて…」
「ああ、そう。ごめんね、ここまでくるの、面倒だっただろ」
「いや…」
そんなことないよ、とは言い切れなかった。バカ正直な自分の性格に、宮日はうんざりした。
「ウソつけないんだね」
「あの、君は、どんな病気なんだ?」
彼は少し黙った。それから、振り絞るように言った。
「ライソゾーム病…っていうんだ。」
ぞっとした。HRで聞いていたと思うのだが、その時は覚えていなかった。村江とどこか似ていたのは、こういうことだったんだ。
「オレ、軽症とかじゃないんだ。ライソゾーム病って、普通幼児期には死ぬんだよ、軽症じゃない限り。だけどね、オレは、何故か生きてるの。いつ死ぬかわからない。でも、こんなとこで一生過ごすなら、いつ死んでも構わない。」
彼の顔は、晴れ晴れとしていた。紫の花は、何かを訴えかけているように揺れたけど。
「…ねえ、その花、なんていう花?」
苦し紛れにそう聞いた。
彼は少し生き生きとした顔をして、「こいつか?」と言った。
「こいつは、フリージア。綺麗だろ?」
「この花、誰から貰ったんだよ」
「自分で買った。なんか、惹かれて。」
フリージアの話をする時、彼の目元は緩んでいた。予定表は、ベッドの上でクシャッとなっていた。
「綺麗…あれ、オレ、どっかでこれのバッジ見た。今度買ってくる」
「まじか!?もしかして、お前いいやつ?」
「クスッ…そうかもね」
---
「…ということで、彼は、亡くなりました。」
朝、何となく重い空気だった。一週間前まで楽しそうに話していた、あいつが死んだ?
あれから宮日は、彼の病室へ通っていた。でもここ一週間、面会謝絶だった。ああ、そういう意味だったのか。自分は無慈悲なのだろうかと宮日は思った。不思議とショックは小さかった。
「死んだんだな、あいつ《《も》》」
いつかは自分たちも死ぬから、きっとまた会える。宮日は何故だかそう確信していた。
---
葬式には、クラスのみんな参加した。みんなは、顔すら、声すら知らない人の葬式だというのに、泣いていた。宮日は、逆に失礼だろと思った。
彼のお母さんが宮日のところへ来た。宮日が何日も通うので、お母さんとは顔見知りになっていた。
「宮日くん、これ、あの子から。宮日に手紙を渡して欲しいって、亡くなる間際に泣きながら渡してくれたわ。あの子、滅多に涙を流さない子だったんだけどね…」
手紙は涙のシミが多かった。彼が、泣きながら書いたんだろう。力のない弱々しい字で、紙面にはこう書かれていた。
[宮日へ
宮日、これが届いてる頃には、オレは多分死んでるよな。
初めて会った日にさ、いつ死ぬかわからないけど、いつ死んでも構わない、みたいな事言ってたでしょ?
オレ、違うんだよ。
紫のフリージアの花言葉は、『憧れ』。
オレは普通に生きたかったよ。
普通に学校行って、あの予定表のことも怒られながら全部クリアしていってさ。
そんで、普通に友達作って、普通に恋をして、普通に勉強して、運動して、趣味見つけて、遊んで。
ほんとは、宮日みたいな普通に、お前に憧れてたよ。
初めてお前にあった時、オレは宮日のこと見たことあるような気がしてた。
あれ、人違いじゃないよね?
ねえ宮日、オレ、生まれ変わったら普通になれたかな。
お前と一緒に、学校に行けたかな。
村江]
ライソゾーム病は、遺伝性の病気。お母さんは悲しかっただろう。《《二度も》》こんな思いをしなきゃならなかったなんて。
宮日は、彼らが死んでから初めて涙を流した。
みんな、『君は月夜に光り輝く』っていう、佐野徹夜さんの小説を知ってるかい?それにちょっと似てるかもしれないから、読んでみて〜(^^)v
クローバーと花
今回は、柚木君ちの四兄弟的な感じのストーリーなので。
うん。心情ががらっと変わったりってことはないよ。
あと前置き長いけど、ごめんなさい
m(_ _;)m
シロツメクサがたくさん生えている庭。
その家には、四人の兄弟が住んでいた。親が外国に行っていて、長男の希(のぞみ)が下三人の面倒を見ていた。
希はまだ15歳。次男は信乃(しの)、13歳。三男が愛(めぐみ)、11歳で、四男、つまり末っ子が、幸(みゆき)、9歳だ。
名前の由来は、全て四つ葉のクローバーの花言葉からとっていた。母親は女のコが欲しかったらしいのだが、男のコしか生まれてこなかったため、みんな女っぽさがある名前である。
希の性格はハキハキしていて、信乃は少し冷静(?)なメガネっ子。愛は可愛らしい物が好きで、幸はいつもぽわぽわしていて家族を安らげる。
性格もはっきりと別れたものである。
---
朝
「おはよー」
一番に起きるのは希。
「んふぁあ、んむぅ、おはよぉ」
次に起きるのが、意外にも幸である。
「おい、起きろ」
「もう目ぇ覚めてるってば〜」
希に起こされ、すぐ起きてくるのが愛。そして難関は…
「おいっ、起きろ…!」
ジリリリリリリリリッ
「あーうるさい、こんなにうるさいのに、なんで信乃兄は起きないんだろ…」
そう、信乃である。信乃は起こされてから起きるまでに3,4時間かかる時もある。学校では一番しっかり者なのに、寝たらすごく印象が変わる。
「信乃っ、起きろっ!」
「信乃兄!うるさいよー!」
「信乃くん…起きてえ…」
ただ、幸が呼びかけると…
ガバッ
「おはよう」
幸は、いろんな人の精神を覚醒させられる(かも?)。
「愛、幸、遅刻するぞ!ほら、信乃だって余裕あるわけじゃねえだろ?」
「「ちょっと待って〜」」
「オレ、いまメガネ拭きで忙しい。」
やや反抗期気味の信乃にため息をつきながら、希は愛と幸のランドセルを持ってきた。
「準備できた?」
「待ってね、いまうさちゃんのピンつけるから。」
「幸はねぇ、おトイレ行きたい〜…あ、軍手いる…」
「軍手!?」
「待ってオレも」
幸と愛に軍手が必要なことを知り、慌てて探し出す希。それを尻目に見ながら、信乃はメガネをかけた。
「うん、クリアークリアー…。で、軍手?オレ持ってるから、貸そうか?」
「ほんとぉ?2つ持ってるぅ?」
「昔買ってもらったのが2ペア残ってたから、大丈夫。」
信乃が幸と愛に1ペアずつ渡した。
「ありがとー」
「ありがとぉ信乃くん。」
「「ヴヴッッッッッ」」
可愛すぎる弟たちの笑顔に悶える兄二人。
---
「信乃があんなに面倒見良かったなんてな」
「軍手貸しただけだろ」
相変わらず希にはそっけない態度を取る信乃。
信乃はメガネを外したらむちゃくちゃイケメンという評判。だから、女子がよく寄り付いていた。
「なんなのよあの三年」
「信乃様とお喋りなんて」
「身の程知らずも甚だしい」
悪口に耐えかねたのか、希はその場を離れようとした。すると、くいと引っ張られた。見てみると、信乃が希の袖の裾を掴んでいた。
「あんなやつら気にすんな。」
「!」
信乃、実はメガネをしていてもイケメンである。
その面でまっすぐそんなこと言われて、希は、オレはどんだけ幸せもんなんだ…と、つくづくそう思った。
いやー、信乃メインな感じでしたね(笑)
ジェイドヴァインの花
梨花は、親に期待されていた。
「梨花なら絶対に留学する」と思い込まれているのだ。
梨花は頭が良く、いろんな国を調べるのが好きだった。そんな姿を見ていた母親は、留学するためと思い込んでいるのである。
「それで、どこにするの?」
母親からそう聞かれて、どぎりとした。
梨花は留学する気なんかさらさらなかったのだ。しかし、親族がアホばっかりだったせいか、梨花に向ける期待は表面以上の気がする。
「あ、ええと…」
まさか、こんな雰囲気で行かないなど言えるものか。
「TOEICのために、フィリピンに行きたいの」
---
夏休み期間、41日間をすべて留学に充てるんでしょ。
母親に無言の圧でそう言われた気がした。
しかし梨花は、正直、フィリピンにはそこまで興味を持てなかった。
---
「無事到着…か。」
そもそも、留学なんてする気はなかったのだから、そこまでハイテンションではない。外国に来たという実感も、湧かなかった。
時差が1時間しかないのだって、異国感のないこの感じの理由の一つだろう。
さて、留学先はフィリピンと咄嗟に思いつきで言ってしまったので、フィリピノ語は少ししかわからない状態。必死にフィリピノ翻訳アプリで学習したが、未だ不安。
友人でも作っておくと便利かと思い、その辺をぶらりとすることにした。
---
クラーク空港を出て少しした先、現地民と思われる男性を見た。肌は白く、日系の顔をしている。梨花は、フィリピノ語の使い方に対する不安をふっ飛ばして近寄った。
「Medyo mas maganda?(ちょっといいですか?)」
「Oo, ano ang nangyari?(はい、どうしましたか?)」
少し低いが、まだ少年のような声で、彼は聞き返した。
その声には、どこか弟と似たところがある。弟は中2。流石に彼に失礼かと思いつつ、梨花は弟に接するように話した。
「Hindi, ako ay isang turista, ngunit nawala ako ...(いやぁ、私、観光客なんですけど、道に迷ってしまって…)」
「Oo, ang pangalan ko ay Ajorian. Ipapakita ko ba sa inyo?(そうなんだね、俺の名前はエイジョリアン。案内しようか?)」
「Naintindihan na, salamat. Pwede ba kitang tawagin na Aji(分かった、ありがと。あなたのこと、エイジって呼んでもいい?)」
梨花にしては積極的に攻めたつもりだ。早く友達になっておきたかったから。
それから一旦、近くのカフェに寄ることにした。エイジは今までずっと歩いていて、足が疲れたらしい。
やはりフィリピノ語を練習しておいて良かった。
---
「Hoy, si Aji ay half Japan at half Filipino! Galing din ako sa Japan.
(へえ、エイジって、日本とフィリピンのハーフなのね!私も日本から来たのよ。)」
「Tulad ng inaasahan? Akala ko mukha siyang lahing Hapon.(やっぱり?日系の顔だと思っていたよ。)」
エイジと梨花は話が盛り上がっていつの間にやら観光のことなど忘れてしまった。
本当は観光客じゃなく留学生である事を伝えたら、もっと盛り上がった。
そして梨花は、彼の優しく25歳とは思えない少年のような明るい性格に、いつしか惹かれだしたのだ。
---
ある日、梨花は、初めてエイジの家に遊びに行った。
「Maligayang pagdating, Rika.
Salamat sa pagbisita.(ようこそ、梨花!来てくれてありがとう。)」
エイジに言われて、少し照れくさかった。
TOEICの勉強もしながら、エイジの人脈を利用して様々な人と関わった。そして、《《二人きり》》の時間は、梨花の夏休み、あと14日間の中では最後になるかもしれないことは、エイジも梨花もよく分かっていた。そのため、梨花は、プレゼントを持ってきていた。
今日は家の中でゆったり過ごすという梨花の予想に反し、彼は出掛けようと言い出した。そんな自由さも、彼の魅力の一つなのだが。
「Ang sarap pumunta sa isang lugar, pero saan pupunta
(どこかに行くのはいいけど、どこに行くの?)」
「Secret lang naman di ba(内緒に決まっているだろう?)」
---
梨花が連れてこられたのは、植物園だった。エイジが真剣な眼差しで梨花を見つめる。
「Makalipas ang 14 na araw ay wala ka na. Gusto ko na ipakita sa iyo noon.(君がいなくなるのは、14日後だったよね。それまでに君に見せたかった。)」
梨花には意味がわからなかった。なんでこの翡翠色の綺麗な花を、私に見せたかったのだろう、と。
「Ito ay isang bulaklak na tinatawag na Jade Vine. Gusto ko silang ipakita sa ligaw, pero namumulaklak sila sa rainforest.(これは、ジェイド・ヴァインっていう花さ。野生のやつを見せたかったんだけども、こいつが咲いてるのは熱帯雨林だからね。)」
そう言って、エイジは笑った。
その笑顔に引き出されるように、梨花は、素直に聞いてみた。
「Bakit mo gustong ipakita sa akin ang bulaklak na ito(どうしてこの花を私に見せたかったの?)」
エイジは一瞬キョトンとして、それからたどたどしく答えた。
「ドゥシ、て、だろうネ」
日本語を勉強していたのかもしれない。
エイジの中ではうまく言えていたようで、照れ臭そうに笑っていた。
---
留学期間はあっという間に過ぎ去った。
梨花は、帰りの飛行機をクラーク空港で待つ。
エイジも見送りに来ていた。
「Rika ay isang regalo.(梨花、プレゼントだよ。)」
エイジは、その手にジェイド・ヴァインを持っていた。
梨花は泣きそうになりながら、
「Bakit...?(どうして…?)」
と尋ねる。
今まで何度もしてきた質問だった。
そして今まで何度もはぐらかされた質問だった。
「Ang bulaklak na wika ni Jade Vine ay, "Huwag mo akong kalimutan."(ジェイド・ヴァインの花言葉はね、「私を忘れないで」。)」
梨花の瞳から、堪えていた涙が溢れ出す。
「Gusto ko po kayo. Wag mo akong kalimutan.(君の事が好きだ。忘れないで、俺を。)」
「っ…」
「大好きだよ、梨花。」
彼のその日本語は、14日前と比べ物にならないくらい流暢だった。
抱き合う二人のことを、嬉しそうにジェイド・ヴァインが見守っていた。
ふぉぉ、書き終わったぜェイ…
ナデシコと百合の花
花シリーズ、ついに完結…!
最後は、二人の女の子を花に例えたお話で終わります!
花シリーズのみんながこの話の中でみんな出てきます…( •̀ㅁ•́;)
ナデシコ目線
私は|撫子《なでしこ》って言う名前。
名前から分かるとおり、お母さんはなでしこの花が大好きだった!
無邪気な娘に育ってほしいって願いを込めて、お母さんとお父さんがつけてくれたこの名前、私はとっても気に入っている。
でも、私は今、自分のことが嫌い。
私、おかしいんだ。
女の子のことが好きになっちゃう。無邪気ってなんなのかわからないけれど、こんな変な私、無邪気じゃないのかもしれない。
親には到底話せないし、スクールカウンセラーなんて信じてないから、ネットでだけ自分が同性愛者ってことを出している。
ネットには案外そういう子が多くて、ほっとした。
でも、私は今、やばいことになっている。
隣の席の百合ちゃんに、恋をしてしまった!
「百合ちゃん、ここ、どういう…」
分からない問題を、頭の良い百合ちゃんに聞いたことがあったんだ。そしたら…
「まって、まず、勘でもいいから解いてみな。自分なりの答えを出して、私に見せて。どこが間違ってるかを教えてあげるから、そこからは自分で解きなさいね。」
甘やかされるばかりだった私は、今まで与えられるものを貰っていた。自分なり、なんて、よくわからなかった。
でも、そんな私に選択権を渡し、自分の力でやってみてという百合ちゃんに、一瞬で恋したんだ!
---
百合目線
私はド陰キャの|百合《ゆり》。撫子っていう隣の席のド陽キャが、この頃絡んでくる。
私は、いつも白百合の押し花の栞を持ち歩いていた。
母や父が私にこの名前をつけたのは、「白百合のように純潔であってほしい」、それだけだった。
単に花言葉に掛けただけの名前なんだから、あまり愛せない名前だ。
あと、それから、今私には悩みがある。
私はどうやら、バイのようであった。
男子も女子も恋愛対象になり得る、らしい。
小学生の時は女子が好きで、所謂レズなのだろうと思っていた。しかし、最近男の人にキュンとくる事も増えた。
この前ネットで見かけた人も、同性愛者で悩んでるって言っていたので、異性が好きになれるだけ特別なのか。と、妙に納得していた。
「おはよー百合ちゃん!」
あぁ、来やがった…。教室のうるさい量産モンスター、陽キャのトップ、撫子…。
挨拶には適当に。話を振られにくいように…
「あれ?おはよーぅ!聞こえてる?」
「うん」
「そうそう、聞いてー!…」
私の願いも虚しく、話題が軽く4,5個爆発したところで、|制止音《チャイム》が鳴った。
撫子は大人しく席につく。助かったぜ、チャイム…!
「ねえ、百合ちゃん。」
こっそりと撫子が話しかけてきた。
無視したいが、紙切れを渡されて、無視できない。
折り曲げられた紙切れを開けると、そこにはこう書いてあった。
《今日、体調悪い?》
---
撫子目線
「おはよー百合ちゃん!」
声でかめに言ったつもりだったんだけど、百合ちゃんには聞こえなかったみたい。
朝の教室を走って、自分の席まで行った。
「おはよっおはよっ」
なんども耳元で叫んだが、百合ちゃんはぴくりともしない。
「あれ?おはよーぅ!聞こえてる?」
「うん」
やっと、おとなしいお返事が帰ってきた。
「そうそう、聞いてー!…」
水泳教室のこと、昨日の夜眠れなかったこと、家の電気が壊れたこと、お気に入りの歌のこと、大好きなアニメのこと、百合ちゃんのお友達のこと、私の友達のこと、クラスの男子のこと…8つくらい話した当たりで、チャイムが鳴った。
「やば」
席に座る。そして百合ちゃんを眺めた。
顔が青っぽい。熱?風邪かな?
そう思って、お気に入りのシャーペンでメモ帳に《今日、体調悪い?》と書いて渡した。
百合ちゃんはそれを読んでびっくりしたように顔を上げた。きっと当たってたんだ!
私の渡したメモ用紙に、百合ちゃんがネイビーのシャーペンで何か書く。
《なんで分かったの?》
字がとても綺麗で、きゅんとした。
《顔が青ざめてるかなって思って
(ヽ´ω`)》
顔文字付きで書いたけど、どうだろう…?
気持ち悪く思わないかな?
《そっか。よく気づいたね。実は朝から風邪っぽくてさ。》
先生が授業しているのに、私たちはこんな手紙を交わしてる。罪悪感と楽しさが溢れ出しそうになる…!
《休みたい?それとも、このまま授業受ける?》
《結局この手紙で先生の話聞いてないし、一緒にサボろうよ。》
百合ちゃんからそう言われて、嬉しくなった!
---
百合目線
正直、小、中、ともにサボった経験なんかなかった。でも、撫子と手紙するくらいから、私はサボっちゃいたい。と思った。
純潔、なんて、クソ喰らえだ。
先生には、
「撫子さん、きついらしいので保健室へ行かせます」
と言ったあと、
「あと、私もきついので一応熱計ってもらえますか?」
と付け加えた。私にはもちろん熱がある。撫子は、|私《優等生》が「体調悪いらしい」と言ったので大丈夫。
保健室へ行くと、いつも通り保健の先生は酒飲んで寝ていた。
保健室の窓から、私達は抜け出したのだ。栞はもう、持って行かなかった。
高揚感に包まれる、というのはこういうことなんだろう。
わくわくして、どきどきして、楽しくて。撫子と私で、ずっと笑っていた。
道端のトイレで、制服から私服に着替えた。
私服というのは、その辺で買ったものだ。
その後、私達は遊びまくった。電車でお子さん連れの夫婦らしき人を見つけたので、声をかけた。
「何ヶ月ですか?」
妻は、夫に、どこの言葉かわからない言葉で話した。
「Narinig ko ang tungkol sa batang ito, Aji. Ilang buwan kaya? kasi.
(この子のことを聞いているわ、エイジ。何ヶ月になりますか?だって。)」
すると、夫が応える。
「おーけー、この子は8ヶ月だよ。」
「あら、上手く言えたじゃない…あ、Maganda ang sinabi mo, Aji!(上手く言えたわね、エイジ!)」
「ありがとう、梨花。」
夫は日本語を聞くことはできず、しゃべることしかできないようだ。
私や撫子は、口元が緩んだ。
---
撫子目線
電車の中でほっこりする体験をした。ああいう夫婦、憧れちゃう…!
駅から出て、すぐ、四人の男の人たちを見た。学生二人と、子供が二人。その子供の中の一人が、私に寄ってきたんだ!
「こんにちはぁ、おねぇさん」
「こっ、こら、幸!すみません💦」
「いえー、この子、弟さんですか?」
「はい…もう9歳なんだからしっかりして欲しいんだけど…」
長男っぽい彼は、同い年らしかった。
「僕は…15歳です…中3の。」
「私ら高1の15歳ですよ!同い年じゃないですか!」
百合ちゃんは幸くんにでれってしている、ギャップにキュンときながら、長男くんの方に向き直った。
「そちらも弟さん?」
「はい…こいつらは、信乃と愛。信乃が次男で愛が三男です。大変ですよ、中3が男で一つで育てなきゃなんだから…」
長男くんは一人で三人を育てているらしい。中3って言ったら受験生、絶対大変だろう…。陽キャの底力にて、ラインをゲットして、困ったときには呼ぶように伝えた。
街路樹に手をかざす不思議な女の人にも声をかけた。
百合ちゃんと、少し不気味がりながらも勇気を振り絞って声をかけると、振り返った彼女はすっごい美人だった。
「お綺麗ですね」
百合ちゃんが率先して言った。女の人は笑って、そう?と聞き返した。
「めちゃめちゃ綺麗ですよ!美容術、教えて下さいよ!」
私が明るく言うと、彼女はもっとはにかんで言った。
「綺麗の秘密は、不思議な出来事と、不思議な花と、不思議な人に出会うことだよ。」
彼女のその魅力には、惹かれる部分があった。
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百合目線
その辺の百均に寄った。さっきのお姉さんに触発されたらしく、撫子のメイク用品を買いに来ていた。(百均のもので綺麗になれるかよ)
「あの人、悲しそうに花瓶を見てる。」
「気になるね。声をかけてみる?」
いかにも泣きそうな顔の男の人が、花瓶売り場の前で立っていた。
気になった私達は、とりあえず声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
顔を上げた男の人は、赤くなった鼻の頭を掻きながら、「はい」とだけ言った。
「なんで、花瓶の前で泣きそうになんか…」
「…学生の頃、友達を亡くしたんだ。彼の病室においてあったフリージアの花は、丁度こんな花瓶に挿してあったから、感極まっちゃって…」
撫子が、察したように、「あっ」と言う。
この人は、そっとしておいた方がいい。
「「すみません」」
私たちは二人同時に頭を下げて、
「辛いこと、話してくれてありがとうございました。失礼します。」
と、撫子が珍しくきっちりと言葉を放った。
夕暮れの中、おばあさんとおじいさんが猫と戯れているのを見かけた。
「猫、好きかい?」
じっとその様子を見つめていた私たちに、おばあさん達が声をかけてくれた。
「あっ、はい!」
撫子が元気よく返事をする。
「おばあさん達も、猫が好きなんですか?」
私が聞くと、おばあさんは、おじいさんの方を見て言った。
「この猫は…蓮の花弁を持ってきていたからねぇ…」
私たちにはよく分からなかったが、おばあさん達はすごく幸せそうな顔で微笑んでいた。
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撫子目線
「サボってみて、どうだった?」
色んな人と関わって、その後、私の家に帰った。一緒に部屋で飲み物を飲んでいる百合ちゃんに、私が聞く。
「そうねぇ…色んな人と出会えて、楽しかったわ。まあ、親には、帰ったらこっぴどく怒られるだろうけど(笑)」
私は、百合ちゃんのこんなにほぐれた表情を初めて見た。
やっぱり、無邪気がどうとかじゃない!伝えたい。今日出会った素敵な人たちに背中を押されるように、私は自然と声に出した。
「百合ちゃん、私ね、百合ちゃんのことが好きだよ。」
「…!?」
「私、レズだからさ。」
百合ちゃんの方を見れなかった。恥ずかしい。きっと私は今、真っ赤になってる。
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百合目線
流石にこの告白は予想できなかった。
でも、今までのどんなイケメンからの告白よりも、どんな可愛い娘からの告白よりも、撫子の告白は嫌じゃなかった。
私…もしかして…
恥ずかしそうに顔を赤らめる撫子を見ながら痛感する。
「私も…好きになってたんだ…」
無意識中に言葉にしてしまって、私はあたふたする。
「え」
びっくりしたように撫子は顔を上げた。
もう吹っ切ろう!
「わっ、私も好き!」
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夕陽の中で、
二人の少女の恋が、動き出した
花シリーズ、終わったぜぇーっ!
もう最後は花がほとんど関係ないよね(笑)
ま、許してな☆