ある日彼氏に捨てられ、借金取りに追っかけ回されることになった綾瀬…
借金取りから逃げてる途中曲がり角で長身イケメンとゴッツンコ⭐︎
ひょんなことから始まる普通の恋愛小説と言うにはビターすぎるお話
「キスで私を狂わせて」
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目次
キスで私を狂わせて
「ごめんだけど別れてくんないかな?」
「……は?」
突然の事に驚いて私はフリーズしてしまう
今日で同棲し始めてから丁度4年経つ彼氏から言われた言葉は衝撃的過ぎて…
「もう出て行くね」
そう言って鞄を持って出て行く彼を私は見過ごせなくて
急いで鞄を引っ掴んで玄関から飛び出した
彼は家を出たばかりなので私はすぐに見つける事が出来た
「|翔琉《かける》!」
そう叫んだ私の声に気づいて彼…翔琉は走った
しかしこう見えて私は中高時代元バスケ部キャプテンなので余裕で追いつく事が出来た
「翔琉!」
再度そう言い彼の腕を掴む
「さわんじゃねぇよ、!俺とお前はもう赤の他人だろ!!」
そうやって叫んで私の手を振り解く彼に私は悲しむ様子もなく冷静に尋ねる
「どうして?どうしていきなり別れるなんて言うの?私何かしちゃった?それに出て行くって…これから翔琉はどーするの?何処か行く宛でもあるの?」
「ッ…それは」
翔琉とは大学の頃から付き合い始め、大学を卒業し2人の職が決まった所で同棲を始めた
しかし彼はついた職を1年も経たずして辞め今は職なし。いわばニートだ
そんな彼には何処かに行く宛の人脈も財力もないと分かりきっている私はあえてその質問をする
「もう今日は遅いしさ、家に帰ってゆっくりしてまた明日2人で話し合お?ね?」
そう言って彼に近づき手を差し出す
周りの方からよく言われる「そんなクズ彼氏やめといた方がいい」と言う言葉
耳にタコが出来るほど聞いた
しかし私がいつも仕事から帰ってくると「おかえり!今日もお疲れ様、ご飯作っておいたよ!」と可愛らしく迎えてくれる彼を私は簡単に手放す事が出来ないくらい依存していた
ダメだって分かってる、実際時期が来たら私も別れるつもりだった
でも毎日私を頼ってくれる彼が愛おしくて「あと1日だけ…」といつまで経っても離れる事が出来なかった
実際に今日あのまま別れてしまえばよかったのにやっぱりまだ離れたくないとこうして彼を追いかけてしまっている私はとんでもなくバカなのかもしれない
私の差し出した手に翔琉がそっと触れようとしたその時だった
「小林 翔琉ってお前で合ってる?」
背後から聞いたことのない男の声がした
翔琉はその男の顔を見るなり走り出した
「おいっ待て!」
そう叫び男も翔琉を追いかける
なんだかよく分からないが取り敢えず翔琉が危険だと言う事は分かった
その事に気づいた私はさっき翔琉を追いかけて行った男を追いかける事にした
「おい待て!」
「翔琉待って!」
大柄な男とヒールを履いた女が1人の男を追いかけている
その光景は側から見れば訳の分からない光景だ
すると翔琉は走るのを辞めて
「今まで借りた金はそこの女が…綾が払います!だからどうか命だけは…」
そう言って土下座し命乞いを始める
今まで借りた金、とは何の事だろうか?
大学を卒業してから翔琉がついた職業、それはアイドルだった
メンバーと揉めたらしく翔琉は1年も経たずして脱退した
翔琉はその当時からお金に興味はなかった
その翔琉が借りたお金って…?
でもそれより、翔琉がお金を借りていたと言う事実より
私のことを"彼女"じゃなくて"そこの女"と呼んだ事実の方に私はショックを受けた
「へぇーそう、金はその綾って言うこの女が払うんだな?」
「…はい」
「じゃあお前はとっとと失せるんだな」
そう言われて翔琉は一目散に駆け出した
…裏切られた?…
キスで私を狂わせて
翔琉が去ったあとこの大柄の男のターゲットは私に変わった
「お嬢ちゃんさ、大人しく着いてきたら痛い事しないで俺が責任持ってお世話してあげるからさこっち来なよ」
こんな事言われて大人しく着いて行くバカがいるなら教えて欲しい
気づいた時には自分が今ヒールだと言う事も忘れて無我夢中に走っていた
「あ、おい待て」
どれぐらい走っただろう
だんだん息が苦しくなって足の回転が遅くなってきた
それでも走り続けなければいけない
捕まってしまえば一環の終わりだ
お世話…と言うのも遊郭とかキャバクラなどそーいう所に飛ばされ、借金が返せるまで休みなしで働かせられるという事で…
その時、曲がり角で誰かとぶつかってしまった。
「痛…」
ぶつかった拍子に腰を強打する
ここが少女漫画の世界だったら今ので恋が始まるのだろう
だがここは少女漫画の世界じゃない
彼氏に捨てられ、借金取りに追いかけ回された挙句人にぶつかり腰を強打すると言う
ヒロインと呼ぶには哀れすぎる女だった
そう思ってぶつかった人の顔を見上げると
「…!」
凄いイケメンだった
街灯に照らされたその顔は1つ1つのパーツが完璧な形で完璧な位置に配置されている
髪はオールバックにされ常人より長い手足には似合いすぎるくらい似合ってるスーツが身に纏われていて…
思わず見惚れてしまった
「おーい綾ちゃん…待ってくれよ」
その声と同時に迫ってくる足音によって私は現実に引き戻される
ハッとした私は何を言っているのか
「助けてください…!」
と今ぶつかった男に助けを求めた
「今彼氏の借金取りに追われてて…」
私は目に涙を溜めながらぶつかった男に訴えるとその男は事を一瞬で理解したみたいで
「俺から離れんなよ」
と自分が来ていたスーツのジャケットを私に着せ、背中の後ろに私を隠した
今思う事ではないのだろうけどその声はとてもかっこよくて聞き惚れてしまった
「おいそこの男。その後ろにいる女、綾をこちらに渡してもらおうか?」
さっきまで追いかけてきた借金取りが追いついてそう言い放った
怖過ぎて私は目の前にある大きな背中に抱きついた
でもその男は慌てる様子もなく
「綾はうちの姫だから渡す事が出来ねぇ」
とドスの聞いた声で言った
するとさっきまで威勢の良かった借金取りが急に怖気付いて
「その声…まさか」
と言った
「あぁ、そのまさかの|式神龍之助《しきがみりゅうのすけ》だよ」
そう男が言うと借金取りが逃げ出そうとした
その腕を彼は素早く掴んで
「誰の女に手出してんだよ、次やったらただじゃおかねぇからな」
とさっきよりドスを聞かせて言った
そして借金取りの腕を掴んだまま私に
「ちょっと待ってろ、話つけてくる」
と言って曲がり角の向こうに消えて行った
2分くらいして彼が戻ってきたが借金取りはいなかった
「あの…借金取りは、?」
「あぁ、ちょっと痛めつけさしてもらった。そんでお前に2度と近づく事がないように釘刺しといたったよ」
「でも、私借金返して…」
「元はお前の借金じゃないんだろ?お前3000万とか言う金額を今すぐ用意しろって言われて用意できるか?」
3000万…翔琉が借りた金額だろうか?
「無理、です」
「だろーな、だからお前の代わりに俺が3000万肩代わりしてやったんだよ」
「え?」
「聞こえなかったか?もっかい言うぞ、お前の代わりに俺が3000万肩代わりしたんだよ」
キスで私を狂わせて
2回聞いても理解できなかった
「あの…肩代わりしたってどうして?」
「お前が助けを求めたんだろ?」
それはそうだがそう言う意味ではなくてあの男を追い払う為に助けて欲しいと言う意味で…
大体、「助けて」と言われて見ず知らずの人間の借金を肩代わりする人間がいるのだろうか
思った事が顔に出ていたのか先程龍之助と名乗った男は小さくため息をついた
「まぁ何でお前の借金を肩代わりしたかと言うと…」
何だろう、もしかして今のうちに恩を作っておいて後からこき使ってやろうとか…?
--- 「お前の見た目が好みだったから」 ---
「…はい?」
予想外の理由に度肝を抜かれた
いや見ず知らずの人間の借金を肩代わりする理由なんてどんな理由でもぶっ飛んでると思うがこれはかなり衝撃だった
「綾って言ったけ…?お前どうして借金取りになんか追われてんだよ?」
初対面の、しかも自分より何倍も大きな男にこの話をするのは危険だと思う
でも今私を助けてくれた彼に頼るのもいいのかもしれない
そう思って私は事の経緯を話した
話終わった後私は泣いてる事に気づいた
「おいおい、泣くんじゃねーよ。そんなに好きだったのか?そのクズ彼氏の事」
やっぱり翔琉はどんな人からしてもクズだと思われるらしい
でも今は翔琉に振られた事で泣いてるんじゃない
そう意思表示する為私は首を左右にゆっくりと振る
「じゃあ何だよ。やっぱり怖かったか…?さっきの」
「借金取り」とハッキリ名を出さないのは彼なりの気遣いだろう
確かに怖かった、でもそれも今私が泣いてる理由ではない
私はもう一度左右に首を振る
「本当に何なんだよ、これじゃお前の事慰めたくても慰めれねーだろ」
そうため息を吐きながら彼が言う
私が泣いている理由、それはこうやって話を聞いてくれる彼が優しいと思ったから
その優しさで泣いているんだ
そう思っても口に出せない
そんな私を呆れたと言う様な顔で見た彼が私を優しく抱きしめて背中をさすってくれた
更に涙が溢れ出す
こうしてしばらく私は泣いていた
「…すみません、ご迷惑をお掛けしてしまって」
そう言うまでに何分かかっただろう
「いーよ、別に俺何もしてないし」
何もしていない訳がないだろう
見ず知らずの私の借金を肩代わりし、話を聞いてくれる
充分に迷惑をかけた
「そんな事よりお前、これからどーすんの?家とか、生活とか」
そう聞かれ私の頭は働き出した
ついさっきまで翔琉と住んでいた家、彼と別れた今あそこに住む事は出来ないだろう
生活については翔琉は働いていなかった為、私の給料だけで私たちの生活を支える必要があった
その為翔琉と別れた今、自分1人の生活さえ支えられらばいいので以前より多少は余裕が出来る
それでも新しいアパートやマンションに住むにはお金が足りないだろう
「どうしよう…」
そう言ってまた泣きそうになる私を彼は再度抱きしめてくれる
「困ってんならさ、これから先のお前の未来、俺が保証してやろうか?」
普通ならこの誘いに答えるのも可笑しいし、危ないと思う
それでも私の窮地を救ってくれた彼を信じたいと思って私は彼の腕の中でそっと頷いた
キスで私を狂わせて
「じゃあ取り敢えずお前離れろ」
そう言って彼は私を強引に引き離す
もう一度彼の顔をじっと見る
「何だよ…もしかして俺に惚れたか?」
そんなはずない、さっき最愛の人に振られたばかりで誰かを好きになれるはずがない
それなのに
この人の顔を見ているとこんなに胸が痛くなるのは何故だろう
「じゃあ綾、一旦お前の家戻るか?」
「…綾瀬成美です」
「ん?」
「|綾瀬成美《あやせなるみ》です」
「お前ぜんぜん名前違うじゃねーか、何で綾なんだよ」
「分かんないです」
「はぁー」
この人、龍之助さん?はよくため息をつく人なのだろうか
「あの、貴方の事は何とお呼びすれば…?」
「龍之助でいいよ」
「分かりました、龍之助さん」
「ん」
私がそう言うと龍之助さんは満足そうに笑い私の頭に手を置いた
「そんな事より、俺はお前の未来を保証する。だからお前もある程度俺の言う事は聞いてもらわなくちゃいけないってワケね」
「覚悟は出来てます」
見ず知らずの私を助けてくれた人だ、少し可笑しな事を言われてもこの人の為に出来る事があるなら私は何でもしたい
「覚悟を決めるほどの物ってワケじゃないけど…まず1つ目ね、俺の家に今日からお前も住む事」
「え」
そんな事でいいのだろうか?むしろ私にとってはありがたい事だ
「2つ目、何かあったらすぐに俺に知らせる事。そして最後3つ目だけど、俺を癒す事。どう?悪くない?」
悪くないどころか…私には有り難すぎる条件でしかなくて
最後の龍之助さんを癒すって事だけはどうしても理解できなかったのだけど
「全然有り難いのですが…龍之助さんを癒やすとはどう言う事でしょうか」
「あぁー…俺さ?この外見のせいで色んな女が寄ってくるんだよ」
普通の男がこれを言ったら「うわっ」とドン引きするだけだが…顔のいい男って言うのは得だ
それに寄ってくるのはその外見のせいだけでは無いと思うが…
「でもさ俺自分の好みの女以外興味ないワケ、つまり興味ないヤツの相手すんのは嫌なんだよ、分かる?」
そうやってしれっとクズ発言する龍之助さん。それでも翔琉よりマシだと思った
「どんな女の人がタイプなんですか?」
「タレ目で目と乳がデカい女」
えっとつまりそれは私がそれに該当すると言う事だろうか…?
「それに私が当てはまると思いませんが」
「いやいやここまでドンピシャな人逆にいないでしょ、俺初めて見たよ。こんな俺好みの女」
自分の容姿を気にして生きてきた事なんて無いがどうやらイケメンに外見を褒められる事は気分がいいらしい
私が機嫌良さそうに微笑むと彼はまた口を開く
「取り敢えず今からお前を俺の家に連れて行くワケだけど…その前に取りに行きたいもんある?」
そう聞かれて私は鞄の中身を確認した
ちょうど職場に持って行ったまま中身を放置していたので鞄の中には色んな物が入っていた
財布、スマホ、ヘアアイロン、コスメ、ヘアゴム、アクセ、日傘、日焼け止めと女子として最低限持ち合わせて置きたい物は全て入っている様だった
「特に無いです」
「なら俺の家直行だな。足りねぇもんは俺が全部買ってやるし、さっきも言ったけどお前の未来は俺が保証する。だからお前も頑張って俺を癒やせ」
「はい」
そう言われて即答してしまう私はもう彼の虜なのかもしれない
キスで私を狂わせて
「ついて来い」
私はそう言われて龍之助さんについて行く
(身長、高いな…)
それだけじゃない。私の数歩前を歩く龍之助さんはしっかりとした体格をしている
(もしかしたら鍛えられているのかもな…)
そう思っていると龍之助さんはいきなり立ち止まる
「ぐぇ」
止まると思っていなかったのでぶつかってしまった私を龍之助さんが振り返る
(やばい殺される)
そう思いダッシュで「ごめんなさい」と言おうとした時、
「乗れ」
と目の前にある車のドアを開けた
ぶつかった事に対しては何も思われていないみたいだった
内心安心しながら「失礼しまーす」と小声で言い、乗車する
そんな私を見て龍之助さんは少し微笑んだ様にして車のドアを閉めた
(そう言えば、家族以外の異性に車のドア開けてもらうのって何気初めてだな…)
何なら家族以外の異性の車に乗るのも初だ
そう思うと急に緊張しだす
(翔琉…元カレは運転免許も車も持ってなかったからな)
デートに行く際は必ず私の車で、私の運転で行っていた
それを「頼りない」と言って呆れる友人は多かった
それでも私は毎回嬉しそうに私の車に乗り律儀にお礼を言ってくれる翔琉の事が好きでたまらなかった
(…翔琉)
何で裏切ったんだろう、そう思い涙が出てくる
(緊張したり、泣いたり忙しいやつ…笑)
と我ながら呆れ苦笑を漏らす
それでも涙は止まらなかった
その内に龍之助さんが運転席に乗り出す
タバコを吸っていたのだろうか、ほのかに煙の匂いがする
(…この匂い)
元カレが…翔琉がよく吸ってたタバコと同じ匂いだった
それだけの事なのに胸が痛くなり、涙が止まらなくなる
きっと龍之助さんは私が泣いてるのに気づいてる。それでも
「着くまで時間かかるからちょっと寝てろ」
と言い気付かないフリをしてくれる
その内小さい音量でジャズが流れ出す
彼の気遣いとジャズの音が心地よくて私はいつの間にか眠っていた