源氏物語を平安時代の紫式部が書いたということしか知らない紫の物書きしか共通部分がない人が
源氏物語というタイトルと帖のタイトルだけを頼りに
源氏物語を絶対違うふうに書いてみた
※源氏物語のネタバレは絶っっ対にお控えください!!企画が破綻するんです!!
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目次
桐壺
「ひゅえっくしょっ!」
春は少し寒い。馴染めるかどうかわからない環境から離脱して、今はいつもの帰路についている。小学校のときと同じだ。家と中学校の間に、小学校がある。
「いらっしゃいませー、桐の壺ですよ!」
「うわ…」
菖蒲色の絨毯をひいて、正座している。フリーマーケットとかはこんな感じなのかな。その横には、ずらり、壺、壺、壺。
壺と聞いたら、なんとなく怪しい印象しかない。少し遠めに歩いていく。でもなんとなく面白そうだから、少しだけ遠めに歩く。
「あ、そこの奥さん!」
普通の、お母さんぐらいの年齢の中年女性が呼び止める。彼女が壺を売っているらしく、正座している。呼び止められたのは、中年女性よりも若めの人だ。
「わたしはマリといいまして…貴方の御名前は?ああ、別にいいですね。突然ですが」
マリという女性は、若い人を口説き始める。新品のスクールバッグの中を探って、暇を持て余す。あのターゲットはもぞもぞとしていて、いっこうに行動しようとしない。そんなふうには見えた。
「えぇ、あぁ、壺?壺はべつに…」
「いえいえ、この壺、桐の壺なんです!桐ってわかります?日本を示すような木なんです。非常に高価な桐をふんだんに使って、お値段なんと100万円!」
オカルト的なあれではなさそう。セールスマンとしてもその値段は高すぎる。とくに、彼女はまだ新米カップルの1人のような感じがする。
「いえとんでもない!買わなきゃ損ですよ!」
「桐って…」
壺。普通の、茶色い壺。桐の壺は、あんまり高そうには見えない。桐は高いんだろうけれど、桐かどうかは不明だ。証明するものが何もない。
「キリ…どんな木ですか?」
「えぇ?あぁ…高くて優れている日本の木なんですよ!」
「どんなところがですか?」
形勢逆転の匂いがした。
「と、とにかく!買ってみたらわかります!」
「そんなに桐を勧めるのですから」
「いえいえ、えぇ…手入れ要らずなんです!」
若い女性の顔が、一気にゆがむ。歪むのが、後ろ姿でもわかった。
「桐は軽くて断熱性能があり、軽くて加工しやすいものです。しかし、高価で水に弱く、変色しやすく、そして何より《《メンテナンスが必要》》なのがデメリットです」
「え!?あぁ、そうでした、すっかり別の木と勘違いを…」
愚かだなぁ。それも、とんでもなく。
この小芝居はもういいや。わたしは再び帰路につく。
1発目…
帚木
帚木、という言葉を聞いたことがあるだろうか。
遠くからは見える。しかし近づいてみると見えなくなる不思議な木。そんな伝説に由来して、人の気持ちの移り変わりや、会えそうで会えない人、の例えになっている。
「紫〜!」
「あ…清美」
登校時、幼馴染の|納本清美《のうもときよみ》が声をかけてきた。以前はぴりついた雰囲気だったものの、今は普通に仲が良い。
「おはよっ」
「おはよう」
清美は明るくて、ずばっと物事を言うタイプの性格だ。
それに比べ、わたし・|阿部紫《あべゆかり》は内向的なタイプで、真反対。
「そういえば、あの子はどうなったの?」
「あの子…ああ」
あの子は、確か数日前、図書室のときに出会った。
---
何を借りようか。純文学もいいし、ライトノベルでもいい。そう思いながら吟味していると、何か本を読む女子が目にとまった。
2年生だろうか、それとも3年生か。何やら楽しそうに本を読んでいたので、思わず声をかけたくなった。その本は何か。お気に入りの作者は誰か。下の方にお団子を結んでいる彼女を見ていた。
取り敢えず本だけ借りておこうと思った。夏目漱石の『こころ』でも借りようか。お気に入りの作者のイチオシをまた読んでもいい。
結局、目についた新しい本を借りることにした。友人がお勧めしていたものだ。カウンターで貸出手続きを行ったあと、辺りを見回した。彼女はいなかった。
図書室は入口以外に、出る手段がない。探してみても、彼女はいなかった。カウンターは入口のすぐとなりだから、出ていったとも考えにくかった。
---
「未だ会えてない。昨日は見たけれど、また駄目だった」
「借りる前にさっさと声かけたら?」
「でも、なんかいなくなってるの」
「へ〜…都市伝説?七不思議?」
「さあ?」
|安野中学校《あんのちゅうがっこう》の七不思議なんて聞いたこともないし、あんまり怖さや恐ろしさはない。
「わかんないよ」
「…へぇ」
うだうだ喋っている間に、学校が近くなる。クラスは別々だから、ここでわかれることになった。
「今日、いっしょに図書室行ってよ。わかるから」
「えぇ?まあいいけど…」
そう約束を交わして、わたしはクラスへと入っていった。
夏目が出てる時点で平安時代ではないんだよ
空蝉
ぼうっとしていたらいつの間にかホームルームが終わっていて、数学の授業に入っていた。あんまり数学は得意ではなく、さあっと流れていく様子を、ただ見ているだけだった。
〝へ〜…都市伝説?七不思議?〟
さっきの清美のことを思いだす。
都市伝説といったら、大抵幽霊だ。ある日ひょっこり現れて、そのまますうっと去ってゆく。そう考えたら彼女に当てはまりすぎて、本当にこの世のものなのかと疑う。
今日の昼休みは、清美といくことになる。いつもがらがらの図書室に、1人増えることになった。
---
図書室は案の定すいていて、本が見える。むしろ、本と棚ぐらいしか見えない。
「こんなところだったっけ。なんか、狭い」
「そうかな」
小学校の図書室と比べたら、確かにぎちぎちに本が挟まっている。読むスペースも限られているし、棚に窮屈そうに本がおさまっている。通路も狭い。
そんな狭いところに、彼女は座っている。
「あの子」
小声で言う。あんまりおもしろくなかった本を返すと、「へぇ、あの子が」という清美の呑気な声が返ってきた。
「2年生かな」
「かもね」
そう言って、わたしは新しい本を吟味する。
「清美は何借りるの?」
「借りないけど…ま、いいのがあったら。児童文学でもいいから貸してよ」
「あ…」
小5のときによく読んだ本を指さすと、素直に取り出した。
「面白い?」
「うん」
面白いに決まってんでしょ、という言葉は嫌われるのでどっかに吐き出す。
「声かけてみる」
そう清美の顔を見て、彼女の方を見る。
「あ…?」
いなかった。
お団子ヘアの女子なんて、いない。
「いないでしょ」
「え?ほんとだ。なんでだろう」
何故かを知れるのならば知りたい。
「…いたよね」
「うん。いた」
不思議だ。本当に不思議だ。
「あのぅ」
借りるついでに、カウンターの図書委員に声をかけた。
「はい?」
「いましたよね、お団子の女子…2年生の子…」
「え…?ああ、いました。帰ったんですかね、わたし、本読んでたから」
まぁ、図書委員の暇つぶしといえば読書以外にないだろう。そうすれば本に夢中になって、周りなんて見えやしない。
「あの子って、知ってます?」
「いえ、知りません。時々見かけるんですけど…」
「あの子を探してるんです。読んでる本とか、好きな作者とか聞きたくて。何組かとかも知りませんか?」
「全然。まあ、わたしは1年生なんだけど、見たことないし。ほら、わたし、安野小から来たから」
1年生だと知った瞬間、途端に敬語がするりと抜ける。
安野中学校は、主に安野小学校と|三田井小学校《みたいしょうがっこう》から構成される。三田井小は、安野小と比べれば小さい。
「あー…まぁ、また探してみる」
「そうしてみたら」
そう言って、わたしと清美で本を借りた。
図書室最高
夕顔
「あっ」
声を漏らす。
6限目の終わりがけ、気づいた。ティッシュがない。ポケットから滑り落ちたのかな。
廊下をたどってみてもないから、やっぱり図書室なのかもしれない。重要度は低いけど、なんとなく罪悪感が蔓延っている。図書室にいくことにした。
1階の突き当りにある図書室に、帰り際行く。図書委員の彼女が、鍵をしめようとしていた。
「あ、待って!」
「え?」
慌てて走って、彼女の手を止める。
「ごめんなさい、ティッシュを落としちゃったのかもで…」
「そうなんだ。あ、これかも」
透明な袋の中の白いティッシュは、無記名でもわたしのものらしい。
「ありがとう。わたし、1年2組の阿部紫です」
「アベユカリ…わたしは1年1組の|藤原美千花《ふじわらみちか》」
フジワラミチカ。藤原…わかんないや。
そう思いながら、図書室をふと眺める。
「あっ、あの子」
指さす。美千花も振り向いた。
「あ、あのお団子」
急いでドアを開ける。楽しそうにページをめくる彼女から目を離さずに。
「あのお団子っ」
ちゃんと見えた。声をかける。
「す、すみませんっ」
「何ですか?」
ページに栞をはさみ、わたしの言葉に応じる。お団子は意外と小さく、目立たない。
「わたし、1年2組の阿部紫です。貴方の名前って何ですか?」
「わたし?|源優華《みなもとゆうか》。2年3組だけど…何?」
ぶっきらぼうではなく、ゆっくり諭すような言い方だった。
「その本って何ですか?」
「ああ、これ?」
古い本で、自分の家から持ってきた、と言い、優華は窓を見た。夕暮れ時になっている。
「わあ、もう帰らなくちゃ」
「あっ、待って」
待てという言葉には、応じなかった。そのまま姿をくらましていた。
「紫…あっ、違う、阿部さん」
「あ…まぁここではいいと思うけど。誰だったんだろうね」
小学生のときの名残で、苗字のところを名前で呼んでしまう。
オレンジ色の光。あれ、夕暮れが早い。でも、時計はちゃあんと夕暮れ時を指し示している。ゆっくりのんびりしすぎたのかもしれない。
「じゃあ、またね」
「うん」
そう言って、靴を履いた。
時間がバグってる
若紫
帰路につきながら、今日は壺女はいないのかと思う。どうでもいいが。
源優華。源といえば、源頼朝とか、源義経とか。そういうのを思い浮かべる。
ああ、あと源氏物語。
1年前の苦い記憶が蘇ってきた。
---
その日、歴史の授業があった。可もなく不可もなくの授業。とりわけ好きな授業もなかったし、とりわけ嫌いな授業もなかった。ある意味、何も恐れていなかった。
前日の復習だった。黒板に問題が白いチョークで書かれる。コツコツと、黒板にチョークが当たる音が響いた。
源氏物語を書いたのは誰か、という問題だった。普通に紫式部と答えた。そうしたら清少納言派とわかれ、あっという間に紫式部と答えるのはわたしのみになった。絶対に合っているから、変えない。
正解は勿論紫式部で、わたしのみが正解した。当たり前だ。枕草子というエッセイのようなものを書いたのが清少納言、源氏物語という小説を書いたのが紫式部。
そこで素直にいけばよかったんだ。素直にすごいね、じゃあ次いこうって。
〝絶対答え見たんだろ!それしかねぇよ!〟
記憶の中の男子が言い放つ。
〝確かに〟
〝そうだそうだっ〟
わたしのクラスは、全員馬鹿だった。馬鹿の集まり。馬鹿の集会。1人の馬鹿が馬鹿なことをでっち上げて、それに馬鹿が全員便乗する。馬鹿な担任の男性教師は、一切対応をしなかった。ほら、静かにしろよ。そう言って、笑っていた。負の連鎖が連なっていき、最終的にどうなったのか覚えていない。
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どうすればよかったのか、未だわからなかった。あの時「違う」と否定する勇気なんてなかったし、先生に言いつけようにも、先生はそっけなく対応するだけだった。親に言うほどの|大事《おおごと》でもなかったし、友達に愚痴を言おうにも言えなかった。
昔のわたしはどうすればよかったのか。
オレンジの空に、涙ぐむ紫の姿がフラッシュバックした。
トラウマは怖い。
末摘花
情報網とは恐ろしいもので、源優華の噂はあっという間に校内に広まっていた。とくに騒いでいたのは2年3組で、源優華という生徒はいなかった。
「紫…」
「うん、どうしよう。どうしたらいいんだろう。どうしたら良かったんだろう」
放課後に、優華に謝りに行こう。こんな騒ぎになって、申し訳ありませんでした。何か差し入れでも持っていったほうがいいのだろうか。お腹が重いまま、放課後を迎えた。
---
放課後の図書室は、いつもにも増してしいんとしているはずだ。
「ったあ!」
「わ!?」
手短に済ませようと腹をくくった手前、べたん!と倒れ込む1年生の姿があった。
「えーと…大丈夫ですか?」
「うん大丈夫!あはは、また転んじゃった。あっ、阿部さんじゃん!」
わたしの名前知ってるっけ?
丸い童顔を見ると、なんとなく名前がリンクしてくる。
「あ…|赤井瑛菜《あかいえいな》さん」
「うん、赤井瑛菜だよー。なんか暇で図書委員なったけど、やっぱり無理だなぁ」
えへへ、とお尻をさする瑛菜は、美千花と同じ所属だとは思えなかった。
「あの、お団子の子っている?」
「えー?ああ、あの子?いないんだよね、今日。というか、さっきまでいたんだけど…知り合い?」
「いや、知り合いではないんだけど…」
絶妙に噛み合わない会話が続く。
「源優華さん。2年3組の」
「有名な子でしょ?あの都市伝説の。お団子ヘアで、見つかって、その前で本を破いたら食べられちゃうっていう…」
ソースを知りたい。どこから来たんだ、その情報源は。ちっとも正確性がない。お団子ヘアということしかあっていない。
「誰か来た?源優華さんを探しに」
「いや〜、来てないよ。みんな忙しいんだろうなぁ。じゃ、もうすぐ図書室しめちゃうから、バイバイ!」
「ああ、うん…」
瑛菜に押され、仕方なくわたしは帰路についた。
結局、源優華という女子は本当にいるのだろうか。幽霊?精霊?守り神?UMA?よくわからない。だからみんなが探そうとする。わたしもその1人だ。
なら、ある意味わたしも馬鹿かもしれない。
平安時代にUMAはいないよ…
紅葉賀
すっかり源優華の話題でもちきりだったのが、5月になるとあっという間にべつの話題へと移行していく。あのアイドルが、あの子が、あの曲が、あの動画が。相変わらず下等連中がワアワア騒いでいるものに、愚か者らはワアワアと騒ぐ。騒いでいるものが違うだけで、本質は同じだ。
5月1日。わたしはいつものように図書室へと足を運んだ。馬鹿な連中らと同じように、次第に源優華への興味も、少しずつ薄れていくのが否めなかった。
「返します」
カウンターに本を置いて、バーコードを読み取ってもらう。安野中学校は、バーコードで貸出手続きが完了するタイプの学校だ。小学校のときの、貸出カードに書いていくという面倒くさい手続きがないのは快感だ。
ピッ、という音とともに、もといた場所へと本を返す。
「あ、清美」
「紫〜」
図書室と清美は不釣り合いな感じがした。染めていなくても色素が抜けて明るい癖っ毛と、しんとしている図書室。どちらかというと、黒が強い髪をボブにしているわたしのほうが似合っている。
「いるんだ」
「うん。前紫が勧めてくれたやつ、けっこう面白くてさ。だから読もうって」
「そう」
なんとなく嬉しかった。昼休みは、清美と好きな本について話している間に終わっていた。
---
放課後のメンバーは図書委員と優華、それからわたしという構図が定着しつつあるのだろうか。借りた本がないことに気づき、落ち着かないので図書室へと足を運ぶ。といっても、玄関のすぐとなりにあるので、実質ついでだ。
「すみません」
鍵がかかっていなかった。奥の方に、優華がいた。
ガチャリ。開ける音が響く。
「あ、源さん…図書委員は?」
「阿部さん?ああ、図書委員の子は部活みたい。帰り際に言ってたから、今日は先生が戸締りするって」
「へぇ…あの、源さん、色々話題になってるじゃないですか」
本題に切り替える。
「ああ…なって《《た》》ね」
なってた。過去形だ。もう過ぎた話題、古いネタとしてカウントされている。
「どう思ってるんですか?あと、なんで…」
どう言えばいいんだろう。なんでいつの間にか消えちゃうの?なんで2年3組にいないの?なんとなくズレているような気がして、幾ら本を読んで語彙力をつけてるとはいえ、全然ピンとくる問いがかけられなかった。
「ああ…まぁ、普通かな。どうも思わないかな」
「そうですか…あ、本って借りれますかね」
「一応、前図書委員だから貸出手続きやろうか?」
まごついた仕草で、返すときと同じ音が響いた。ピッ、という音とともに、わたしは「ありがとうございます」と帰った。
そろそろ源氏物語ファンからキレられそうな気がする
花宴
優華に何も言えないまま1日が過ぎて、そのままゴールデウィークへと入っていった。
図書室が使えないので、安野市立図書館に行った。そういえば、好きな曲のライトノベルが数冊あったはずだ。借りに行こうと、ペダルを漕ぐ。目の前についているカゴだけでは重いし、バランスが崩れる。リュックを背負って、入れて帰ろう。
数分すれば着く。サドルから身体を離して、ヘルメットをカゴへ突っ込む。スマホカバーに図書館利用カードは挟まっている。もしカードがなくても、確か電話番号か何か言えば良かったはずだ。
うぃん、と自動ドアが開く。図書室の比じゃないほど膨大な本があるこの図書館で、のらりくらりとまわって面白そうなのを手に取るのでは、圧倒的に時間が足りない。図書館内のパソコンで、好きな曲のタイトルを打ち込む。ヒットした本の表紙をタップして、詳細情報へと向かう。なんとなくの居場所は掴んだものの、一応本に振り分けられている番号とか、色々載っているレシートのようなものを刷っておいた。
ライトノベルの棚に行って、番号を探す。見つけた。クリーム色の背表紙。そっと抜き取ると、隣にあった本が倒れた。
「あ、阿部さん」
「源さん…?」
ちゃんといつものお団子の源さんがいた。制服だった。なんとなく、部屋着のような感じで来たわたしが悪い感じがした。
「いいよね、その本」
「あ…知ってます?この原曲。わたし好きなんです」
「へぇ、どんな曲?」
「えーと、」
頑張ってイントロだけを口ずさむ。下手だ。歌詞をつけて歌ってみるも、あんまり上手いとは言えない。ボカロだし、仕方ないとは言えど。
「…テンテンって感じです」
「へぇ」
今のはただ反射的に言ったものだろう。
そういえば、優華は図書室以外にもいるんだ。当たり前だけれど。
「これ借りようと思って。源さんは?」
「わたし?」
カゴに入れた本を見せてくれた。知らない文庫本だった。ページが黄ばんでいる。余程古いものなのだろう。
「作者さんが好きなんですか?」
「そう」
例えば、と例に出てきたのは全然知らない人だった。有名よね、という付け足しを食らうと、やっぱり読書好きを名乗っちゃいけない感じがした。
「じゃあ、また学校で」
「はい」
別れを告げて、わたしはカウンターへと向かった。
ボカロが出てると余計平安ではなくなる