まわりから読書家と呼ばれる本本良美。
図書館の本に飽き飽きしていたところ、ありとあらゆる本が置かれている「境界の図書館」にたどり着いて…
そこには自称・図書館の番人兼司書のフークと、助手のコンピュータログがいた。
この本たちに入れることがわかって、良美は本の中のトラブルを解決するためにいろいろと動いていくけれど…
フーク→https://picrew.me/ja/image_maker/2307052/complete?cd=wibiBZIGbS
良美→https://picrew.me/ja/image_maker/2307052/complete?cd=yUmIv5wO3M
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目次
出会いの本と境界の図書館 中編
前編を読んでから読んでください!
「…ねえ、このエレベーターって、何?」
「ん?」
木製の小箱に、わたしたちが格納されたみたいだ。
「コレハ『図書室移動エレベーター』。フロアゴトニ置カレテイル本ガチガウ」
「ログ!?」
小さめのラジオにベルトコンベヤーをつけたみたいな格好だ。
「ログはこうやって移動するの」
「そうなんだ」
ブウウン…チーン。プシュー。
「ごほっ、ごほっ…」
フロアに着いた合図のように、一面けむたくなる。
「ここは?」
「分かんないや。まあ、このエレベーターの紹介をしたかっただけ。さ、降りよう」
「…あ、うん」
よく見ると、ボタンが栞になっていた。
---
「さ、着いた」
「わ…」
何回見ても、広い。
「じゃ、説明するから。
1階はここ、ロビー。さっき言った本が置かれているわ。
2階は恋愛系、3階は感動系。4階はホラー、5階はミステリー、6階はエッセイや詩。7階はノンジャンル。8階はコメディ、9階はノートや教科書、参考書…まあ、ここまででいいかしらね…まあ、分かれているの」
「…そうなんだ」
あの伝記螺旋とか、エレベーターのツタを見る限り、多分、1フロアずつが高いのだろう。膨大な数の本を、本棚に入れるのはいくら広くても無理だろうから。
「じゃあ、あなたにとっておきの1冊」
そう手渡されたのは、「この世界でわたしは」という本。普通の児童書だけど、見たことない。
「…これって?」
「借りていいからね」
そう押し付けられた。
最後のページを見てみる。
《1980年3月15日 第1版発行》
かなり昔の本みたいだ。でも、色あせてない。新品だ。
「いいよ、べつに。それ、興味そそられないし」
「いいから、読んでって!」
そうフークに押し付けると、本はほこりをかぶり、色あせて、ぼろぼろになった。
「えっ!?」
「ここの本には『いつまでも新品術』がかかっているの。読むときにはいつも新品で読めるのだけれど、古い感じもいいでしょ?だから、読まないときは古くなるの」
「へんなの」
とにかく、フークの言うことだ。信じていいのか分からない。
「これ、3階の本」
「恋愛系は、興味ないしっ」
「感動系だけど?」
「うっ…」
借りざるを得ない。
「あ、そうそう」
「どうしたの?」
「うち、セキュリティ厳しいんだ?だから、これつけて」
そのネームプレートみたいなものには、『本本良美 境界の図書館来訪許可証』とあった。
「じゃあね、帰るときは念じて。帰りたいって。行くときもね」
「う、うん」
帰りたいっ…!
出会いの本と境界の図書館 後編
「わあっ!」
どすんっ。
自分の部屋だ。帰りたいって念じたから…?
夢だったのか、ネームプレートが消えていた。はずした覚えもないのに。
でも夢だと信じられないことが起こった。
「この世界でわたしは」が、新品であった。
「きゃあああっ!?」
おぞましくなって、本を投げ出してしまった。するととたんに古くなっていった。
「…夢じゃなかったの…」
じゃあ、行きたいってねんじてみる?
行きたいっ…!
…できないじゃん!じゃ、ダメだな。夢だったんだ。
何、信じてたんだろ?
ぱらん。
「え?」
ネームプレートだ。
『本本良美 境界の図書館来訪許可証』
「夢じゃなかったのかな?」
それは中の紙が取り出せるようになっていた。紙は折りたたまれていた。
---
--- 境界の図書館来訪ルール ---
・1日1時間、1回だけ来訪できるが、来なくても良い。
・朝7時から夜8時まで空いているが、それ以外の時間帯は来ないこと。
・本を傷つけないこと。
・境界を捻じ曲げないこと。
・自然の摂理を覆さないこと。
---
「…あ、そっかあ…」
最後は分からなかったけど、少し安堵した。
「…読んでみるか」
---
ほんとうに、ついていないな。
そう思った。
---
そんな書き出し。
内容自体はまあまあ。
主人公が不登校になってしまい、そんな中奇妙な病にかかってしまう。闘病生活を送る中、主人公は自分の存在意義を考える…という感じ。
でもなんでこの本をおすすめしたのかは、分からない。
でも、フークがおすすめしたのだから、きっと意味があるはず。
明日、図書館に行ってみよう。
自室の本棚に、古くも新しくみえる本を入れた。
境界線と思い出の絵本 前編
「また来たの」
フークが言った。今日は春の日、もうすぐゴールデンウイーク。
「これ、返却するから」
「読んでくれたの?」
しんと静まり返った図書館の中で、フークとわたしの声が響く。
「読んだ。あのさ、わたし、昔に好きだった絵本があるの。それを借りたいの」
「いいよ、なんていうタイトル?」
「…それが、分からないの」
「どんな話だったかは?イラストのタッチとか」
その絵本は、引っ越しの時の断捨離で捨ててしまったもの。
「ふんわり優しいタッチ。絵本で、えっと…。果物の、ぶどうやパパイヤ、バナナを、もぎとるみたいな…」
「なるほどね、ログ、イメージ検索」
イメージ検索?
「絵本、優しいタッチ、フルーツ、パパイヤ、ふどう、バナナ、もぎとる」
「了解ダ」
「イメージ検索って?」
「こういう感じの本だった、でもタイトルが分からないみたいな本を探す機能。絞り込み検索よりももっとたどり着きやすいものなの」
ログには、いろんな機能が備わっているのだなと改めて感心した。
「ソレハ『おいしいフルーツやさん』ジャナイカ?作者ハキノシタユズコ」
「…?」
「まあ、一度、その絵本に触れてみましょう?」
「分かった」
『図書室移動エレベーター』で移動する。
「さて」
フークがつぶやく。
「『おいしいフルーツやさん』、キノシタユズコ」
「フーク、なにそれ」
「これは『本探知機』。タイトルと作者を吹き込むだけで本を持ってきてくれるの」
演台みたいなのにマイクが置かれている。
ひゅるひゅると、優雅なカーブを描いて、『この世界でわたしは』よりも新しめの絵本が飛んできた。
「なつっ…!」
懐かしい!小さな女の子が、病気のお母さんのためにフルーツやさんを営業する…
「ありがとう…それにしても、イラストっぽいタッチを残しつつ、リアルなフルーツってすごいよね」
「食べてみたい?」
「まあ」
「じゃあ、食べよう!」
「えっ!?」
フークはふっと微笑む。
「そのネームプレートには本の中に1日1回入ることのできる力もあるの。絵本の中とここの境界線をぼやかしていったら、入れるの。さ!行こう!」
「あ、分かったっ…」
フークは絵本を広げ、ローファーを履いた足を乗せる。
「こうやって、破れない、痛めつけない程度に力を入れるの、ずるっていくから、あとはそのまんま流れるようにいくの」
そして、ローファーが絵本のなかに飲み込まれていった。まわりはどろっとした油みたいなの。綺麗なグラデーションをえがいていた。
「さ、良美もいこう!」
「分かったっ…!」
フークがいったのを確認して、わたしは絵本に足を乗せる。
「きゃあっ…!」
飲み込まれていく。それは、少しくすぐったい。
おもしろ、と思うつかの間、ずるりと皮がむけるみたいに絵本の中に飲み込まれて…
境界線と思い出の絵本 後編
「きゃっ」
どすん、としりもちをつく。
柔らかなタッチ、えんぴつのデッサンのような温かみ。
これは、あの絵本の作者『キノシタユズコ』さんのタッチ?ほんとに入っちゃったの?
「おいしそう…」
主人公のメリィがフルーツをもぐところだ。静止画みたいにかたまってる。
「フーク!」
「あ、良美。このぶどう、すっごく美味しいわよ」
「た、食べちゃっていいの!?メリィが困っちゃう…」
メリィの裏の家にはフルーツの森があって、そこでメリィはフルーツをもぎとって売っている。それで稼いだお金で生活し、病気のお母さんの手当をしている物語。最後は友達のリアリがフルーツを使ったタルトをつくり、病気のお母さんを治すという物語だ。
「大丈夫。物語とは関係がないから。物語に干渉しない、って言ったほうがいい?ここには境界線がはられていて、一定のラインを超えると過干渉とみなされて吸い込まれちゃうけど」
「そ、そうなんだ。その過干渉になるっていうのが、『本あらし』?」
「まー、そうかな。ひみつの方法でそのバグに入り込み、みなされないときがあるからそれを悪用してるって感じ」
難しい話だな。
「まあ、これは練習みたいなものよ。次はいよいよ『本あらし』を捕まえるわ。まあ、ここでは思う存分楽しむのが良いと思う」
「へ、え…。分かった」
「分かってくれた?助かるわ」
ふふっととらえどころのない微笑みを、フークがこぼす。
「そうしたら、覚悟はできてるわよね?」
「え?」
「どこにいようとも、問答無用で『本あらし』を捕まえてもらうわ。暇でしょ?」
え、ちょっと待って…
「あなたは『ブックパトロール』よ。その都度仕事は教えていくから、よろしくね」
「ちょっと、あまりにも強引…」
「強引?なんのことかしら」
もう、なんなんだ。もう、なんなんだ。
「あ゙!?というか、わたし、暇じゃないの!時間の都合もあるってば!」
「大丈夫。ここは時間を超越した図書館。全然準備もしないでやすやすと誘うわけないじゃない。時間を止める、というか、ここで時間を加速させることだって可能よ」
「なら、いつもそうしてよ!」
「あら、そしたら体内時計が狂っちゃうわ。さすがに、そこまでは無理よ。だから、非常時や『ブックパトロール』活動時しかだめ」
もぉおおお!勝手な行動しやがってぇえぇ!!
怒りがすごい。
のほほんとフルーツを食べるフークを、睨みつけた。ちょっとわくわくしていた自分を、おい、とつっこんだ。
ショートショートとかたっぽの手袋 前編
雨が降ると、じめじめして、嫌だ。
それは本好きのわたしだってそう。せっかくの本がかびたり、湿気でだめになってしまう。
傘をさして、一人道をゆく。こういうときは境界の図書館に行くに限る。あんなにたくさんの本が置かれているところが、たとえ茨だらけでも嫌いになるはずなんてない。
帰ってランドセルを放り投げ、境界の図書館へ行きたいと念じる。
「危ないっ」
危うく借りてた絵本を忘れるとこだった。
「じゃ、改めまして…」
わたしは念じる。境界の図書館へ行きたいと___
---
「来たの、良美」
「フーク、ログ、これ返すわ」
返却手続きを終えた本は、ふわふわと元の場所へ戻っていくらしい。
「良美、来てくれない?」
「どうしたの、フーク」
「『本あらし』が来たの。本に入り込むことのできる性質を利用して、物語を改変したり、物語中のお金を持ち去って不正に利用する犯罪よ。これは『全世界共通境界図書館法』に違反する、最も重い罪。でも、なかなか発見しづらいの。能力を持つ本に入り込めば、能力をコピーして不正に利用することができるから。そういう『本あらし』から図書館を、利用者を、本を守るのが図書館の番人兼司書の役割なの」
「そうなんだ」
それより、全世界にこの不思議な図書館があるのが驚きだ。
「この図書館、全世界にあるんだ」
「そうよ。1000万は超えているかな、わかんないけど」
「1032万4302件ダナ」
すかさずログが訂正した。
「サッキフークガイッタ犯罪ハ『全世界共通境界図書館法』第29法ニ違反スル罪ダ」
「そんなにあるの」
「モットシリタケレバコノ『境界図書館全書』ヲ読メ」
「へえ」
重そうで分厚そうな本。
「その『本あらし』はどこにいるの?」
「被害が出たのはこの『激選ショートショート 冬の冷たい物語』の『第10話 冷えたかたっぽ手袋』。ネタバレはいいかしら?」
「いいよ」
その本は読んだことがある。
「|木葉《このは》が落としたかたっぽの手袋を、想い人である|真《まこと》が拾って展開される恋物語。でも、別の人に拾われているの」
「ええ!でも、なんで今すぐ対処しなきゃいけないの?」
「ほうっておくと現実世界にもこういう影響が出るから」
「へえ」
「さあ!行くわよ!」
「え!?」
テンポよく、フークは飛び込んだ。わたしも飛び込んでみる。
そこは、一面の銀世界。
ショートショートとかたっぽの手袋 後編
「あ、あれ…?」
木葉らしき人物が、積もった雪をかき分けてなにか探している。まあ、正確には止まっているけど。
「いい?『ブックパトロール』は自然に。あんまり干渉しないこと」
「分かったよ」
「さて、どうしようかしら?」
考えてなかったのかよ、とつっこみを入れる。
「手袋がどこにあるか、っていう問題よね」
「うーん。確か、この物語には他に登場人物はいないはず。…あ、でも、女の子がいたっけ」
女の子、とは木葉のおとなりさんだ。特に重要な役割は担っておらず、一緒に遊ぶのが日常と描いているだけ。
「女の子がかっさらってったとかはないの?」
「まあ、探してみようかしらね。でも、突然なくなったらびっくりしちゃうわ」
「手紙を添えたらいいよ、さ、行こっ!」
赤い屋根の家が木葉の家。その隣は2つあるけれど、広い庭がある家が女の子の家だから、こっちか。
「どんな手袋?」
「挿絵を見るに、ポンポンがついているやつよ。灰色っぽいのがベースで、ピンクのポイントが入っているのよね。ただ、検討もつかないわ」
「玄関においてあるよ、きっと。だって家の中でしないもの」
女の子の家は真っ白だった。
「なんで真っ白なの?」
「作者が描いていないところは、真っ白なの。えーと、あった!」
真っ白だから、手袋がぽとんと落っこちているのがわかりやすくて助かる。
「あとはこれをぽとんって落としたらいいのか」
「木葉がかき分けているそばに置いておこう。雪を埋めて」
ひぃぃ、冷たっ!
『身も凍ってしまうくらい』っていうたとえどおりなの!?なんなの…
「さ、任務を終えたらすぐ戻る。いくわよ!」
ずっと上にある本のカタチに向かって、踏ん張ってみる。こうすると、自然とふわふわ浮いて本に戻れるのだ。
「初任務にちょうどよかったわね」
それって、レベルが低いこと?っていうつっこみは控えた。