まわりから読書家と呼ばれる本本良美。
図書館の本に飽き飽きしていたところ、ありとあらゆる本が置かれている「境界の図書館」にたどり着いて…
そこには自称・図書館の番人兼司書のフークと、助手のコンピュータログがいた。
この本たちに入れることがわかって、良美は本の中のトラブルを解決するためにいろいろと動いていくけれど…
フーク→https://picrew.me/ja/image_maker/2307052/complete?cd=wibiBZIGbS
良美→https://picrew.me/ja/image_maker/2307052/complete?cd=yUmIv5wO3M
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目次
出会いの本と境界の図書館 前編
|本本良美《ほんもとよみ》__学校でのあだ名はテンドク__とはわたしのことだ。あだ名の由来は、「|典《テン》」形的な「|読《ドク》」書家だかららしい。
そりゃ、そうだと思う。
まず、朝休みに図書室に行き、借りている本を返す。そして本を借りる。
20分休み、30分休みは図書室へ行き、べつの本を読む。
つまり、ずっと本を読んでいるということ。それに斜めがけバッグに豆本のキーホルダーをつけてるし。
でも、そんなふうにずっと読んでいたら図書室も、まちの図書館にも飽き飽きしてしまった。
何かいい図書館はないか…たくさんの、今までの比じゃないくらいの本があるところは…
そんな時、わたしは見つけてしまった。
---
「あら、今日は200年ぶりの来客ね」
「正確ニハ219年5ヶ月34日ブリダ」
「そんな堅苦しいこと言ってたらせっかくの来客も帰っちゃうわよ、ログ?」
外見は高い高いツリーハウス。その中は広々としていて、びっしりと本が置かれている。
奥にあるカウンター__普通の図書館で返却・貸出手続きされるような__には、ひとりの少女が本を読んだり、食事したりしていた。時々、しゃべってもいた。
話し相手はコンピュータのログ。本当は貸出・返却履歴を見ることができる。
そんな静まり返った図書館。その手前にある、ほこりをかぶった扉から光がもれた。
---
「わああっ!」
わたしは、目を輝かせた。何かの運命ってやつなのかな?とにかく、びっしりと本が並べてあった。
しぶそうな、古そうな昔な感じの本。ぱきっとした、新しそうな本。
本、本、本!
「あら、こんにちは。わたしはフーク。この図書館の主人よ。図書館の番人兼司書。よろしくね」
「ログダ。フークノ助手ダ、ヨロシクナ」
機械的な声だ。
それと、和服にフリルとレースを縫い付けた、和風メイドっぽい、わたしと同じくらいの子。
「まあ、まずは本を読もう?このエレベーターに乗って」
目の前にはツタと蔓草とがからみついている木製の箱。弱々しくも力強いツタで高い高い天井(あるのかもわからないくらい高い)につるされていた。
「こっちじゃダメなの?」
わたしは螺旋階段を指差す。ゆったりとした階段。はばは広めだが、両隣に本棚があるため、せまくみえる。
「そっち?そっちは『伝記螺旋』。ありとあらゆる人の伝記があるのよ。そっちからは行けない。ここをのぼった先とエレベーターの到着地は境界で分けられているの」
「…??」
「まあ、そっちでたどり着く天井とこっちでたどり着く天井は違うってわけ」
納得できないまま、わたしはエレベーターに乗り込んだ。
出会いの本と境界の図書館 中編
前編を読んでから読んでください!
「…ねえ、このエレベーターって、何?」
「ん?」
木製の小箱に、わたしたちが格納されたみたいだ。
「コレハ『図書室移動エレベーター』。フロアゴトニ置カレテイル本ガチガウ」
「ログ!?」
小さめのラジオにベルトコンベヤーをつけたみたいな格好だ。
「ログはこうやって移動するの」
「そうなんだ」
ブウウン…チーン。プシュー。
「ごほっ、ごほっ…」
フロアに着いた合図のように、一面けむたくなる。
「ここは?」
「分かんないや。まあ、このエレベーターの紹介をしたかっただけ。さ、降りよう」
「…あ、うん」
よく見ると、ボタンが栞になっていた。
---
「さ、着いた」
「わ…」
何回見ても、広い。
「じゃ、説明するから。
1階はここ、ロビー。さっき言った本が置かれているわ。
2階は恋愛系、3階は感動系。4階はホラー、5階はミステリー、6階はエッセイや詩。7階はノンジャンル。8階はコメディ、9階はノートや教科書、参考書…まあ、ここまででいいかしらね…まあ、分かれているの」
「…そうなんだ」
あの伝記螺旋とか、エレベーターのツタを見る限り、多分、1フロアずつが高いのだろう。膨大な数の本を、本棚に入れるのはいくら広くても無理だろうから。
「じゃあ、あなたにとっておきの1冊」
そう手渡されたのは、「この世界でわたしは」という本。普通の児童書だけど、見たことない。
「…これって?」
「借りていいからね」
そう押し付けられた。
最後のページを見てみる。
《1980年3月15日 第1版発行》
かなり昔の本みたいだ。でも、色あせてない。新品だ。
「いいよ、べつに。それ、興味そそられないし」
「いいから、読んでって!」
そうフークに押し付けると、本はほこりをかぶり、色あせて、ぼろぼろになった。
「えっ!?」
「ここの本には『いつまでも新品術』がかかっているの。読むときにはいつも新品で読めるのだけれど、古い感じもいいでしょ?だから、読まないときは古くなるの」
「へんなの」
とにかく、フークの言うことだ。信じていいのか分からない。
「これ、3階の本」
「恋愛系は、興味ないしっ」
「感動系だけど?」
「うっ…」
借りざるを得ない。
「あ、そうそう」
「どうしたの?」
「うち、セキュリティ厳しいんだ?だから、これつけて」
そのネームプレートみたいなものには、『本本良美 境界の図書館来訪許可証』とあった。
「じゃあね、帰るときは念じて。帰りたいって。行くときもね」
「う、うん」
帰りたいっ…!
出会いの本と境界の図書館 後編
「わあっ!」
どすんっ。
自分の部屋だ。帰りたいって念じたから…?
夢だったのか、ネームプレートが消えていた。はずした覚えもないのに。
でも夢だと信じられないことが起こった。
「この世界でわたしは」が、新品であった。
「きゃあああっ!?」
おぞましくなって、本を投げ出してしまった。するととたんに古くなっていった。
「…夢じゃなかったの…」
じゃあ、行きたいってねんじてみる?
行きたいっ…!
…できないじゃん!じゃ、ダメだな。夢だったんだ。
何、信じてたんだろ?
ぱらん。
「え?」
ネームプレートだ。
『本本良美 境界の図書館来訪許可証』
「夢じゃなかったのかな?」
それは中の紙が取り出せるようになっていた。紙は折りたたまれていた。
---
--- 境界の図書館来訪ルール ---
・1日1時間、1回だけ来訪できるが、来なくても良い。
・朝7時から夜8時まで空いているが、それ以外の時間帯は来ないこと。
・本を傷つけないこと。
・境界を捻じ曲げないこと。
・自然の摂理を覆さないこと。
---
「…あ、そっかあ…」
最後は分からなかったけど、少し安堵した。
「…読んでみるか」
---
ほんとうに、ついていないな。
そう思った。
---
そんな書き出し。
内容自体はまあまあ。
主人公が不登校になってしまい、そんな中奇妙な病にかかってしまう。闘病生活を送る中、主人公は自分の存在意義を考える…という感じ。
でもなんでこの本をおすすめしたのかは、分からない。
でも、フークがおすすめしたのだから、きっと意味があるはず。
明日、図書館に行ってみよう。
自室の本棚に、古くも新しくみえる本を入れた。
境界線と思い出の絵本 前編
「また来たの」
フークが言った。今日は春の日、もうすぐゴールデンウイーク。
「これ、返却するから」
「読んでくれたの?」
しんと静まり返った図書館の中で、フークとわたしの声が響く。
「読んだ。あのさ、わたし、昔に好きだった絵本があるの。それを借りたいの」
「いいよ、なんていうタイトル?」
「…それが、分からないの」
「どんな話だったかは?イラストのタッチとか」
その絵本は、引っ越しの時の断捨離で捨ててしまったもの。
「ふんわり優しいタッチ。絵本で、えっと…。果物の、ぶどうやパパイヤ、バナナを、もぎとるみたいな…」
「なるほどね、ログ、イメージ検索」
イメージ検索?
「絵本、優しいタッチ、フルーツ、パパイヤ、ふどう、バナナ、もぎとる」
「了解ダ」
「イメージ検索って?」
「こういう感じの本だった、でもタイトルが分からないみたいな本を探す機能。絞り込み検索よりももっとたどり着きやすいものなの」
ログには、いろんな機能が備わっているのだなと改めて感心した。
「ソレハ『おいしいフルーツやさん』ジャナイカ?作者ハキノシタユズコ」
「…?」
「まあ、一度、その絵本に触れてみましょう?」
「分かった」
『図書室移動エレベーター』で移動する。
「さて」
フークがつぶやく。
「『おいしいフルーツやさん』、キノシタユズコ」
「フーク、なにそれ」
「これは『本探知機』。タイトルと作者を吹き込むだけで本を持ってきてくれるの」
演台みたいなのにマイクが置かれている。
ひゅるひゅると、優雅なカーブを描いて、『この世界でわたしは』よりも新しめの絵本が飛んできた。
「なつっ…!」
懐かしい!小さな女の子が、病気のお母さんのためにフルーツやさんを営業する…
「ありがとう…それにしても、イラストっぽいタッチを残しつつ、リアルなフルーツってすごいよね」
「食べてみたい?」
「まあ」
「じゃあ、食べよう!」
「えっ!?」
フークはふっと微笑む。
「そのネームプレートには本の中に1日1回入ることのできる力もあるの。絵本の中とここの境界線をぼやかしていったら、入れるの。さ!行こう!」
「あ、分かったっ…」
フークは絵本を広げ、ローファーを履いた足を乗せる。
「こうやって、破れない、痛めつけない程度に力を入れるの、ずるっていくから、あとはそのまんま流れるようにいくの」
そして、ローファーが絵本のなかに飲み込まれていった。まわりはどろっとした油みたいなの。綺麗なグラデーションをえがいていた。
「さ、良美もいこう!」
「分かったっ…!」
フークがいったのを確認して、わたしは絵本に足を乗せる。
「きゃあっ…!」
飲み込まれていく。それは、少しくすぐったい。
おもしろ、と思うつかの間、ずるりと皮がむけるみたいに絵本の中に飲み込まれて…
境界線と思い出の絵本 後編
「きゃっ」
どすん、としりもちをつく。
柔らかなタッチ、えんぴつのデッサンのような温かみ。
これは、あの絵本の作者『キノシタユズコ』さんのタッチ?ほんとに入っちゃったの?
「おいしそう…」
主人公のメリィがフルーツをもぐところだ。静止画みたいにかたまってる。
「フーク!」
「あ、良美。このぶどう、すっごく美味しいわよ」
「た、食べちゃっていいの!?メリィが困っちゃう…」
メリィの裏の家にはフルーツの森があって、そこでメリィはフルーツをもぎとって売っている。それで稼いだお金で生活し、病気のお母さんの手当をしている物語。最後は友達のリアリがフルーツを使ったタルトをつくり、病気のお母さんを治すという物語だ。
「大丈夫。物語とは関係がないから。物語に干渉しない、って言ったほうがいい?ここには境界線がはられていて、一定のラインを超えると過干渉とみなされて吸い込まれちゃうけど」
「そ、そうなんだ。その過干渉になるっていうのが、『本あらし』?」
「まー、そうかな。ひみつの方法でそのバグに入り込み、みなされないときがあるからそれを悪用してるって感じ」
難しい話だな。
「まあ、これは練習みたいなものよ。次はいよいよ『本あらし』を捕まえるわ。まあ、ここでは思う存分楽しむのが良いと思う」
「へ、え…。分かった」
「分かってくれた?助かるわ」
ふふっととらえどころのない微笑みを、フークがこぼす。
「そうしたら、覚悟はできてるわよね?」
「え?」
「どこにいようとも、問答無用で『本あらし』を捕まえてもらうわ。暇でしょ?」
え、ちょっと待って…
「あなたは『ブックパトロール』よ。その都度仕事は教えていくから、よろしくね」
「ちょっと、あまりにも強引…」
「強引?なんのことかしら」
もう、なんなんだ。もう、なんなんだ。
「あ゙!?というか、わたし、暇じゃないの!時間の都合もあるってば!」
「大丈夫。ここは時間を超越した図書館。全然準備もしないでやすやすと誘うわけないじゃない。時間を止める、というか、ここで時間を加速させることだって可能よ」
「なら、いつもそうしてよ!」
「あら、そしたら体内時計が狂っちゃうわ。さすがに、そこまでは無理よ。だから、非常時や『ブックパトロール』活動時しかだめ」
もぉおおお!勝手な行動しやがってぇえぇ!!
怒りがすごい。
のほほんとフルーツを食べるフークを、睨みつけた。ちょっとわくわくしていた自分を、おい、とつっこんだ。
ショートショートとかたっぽの手袋 前編
雨が降ると、じめじめして、嫌だ。
それは本好きのわたしだってそう。せっかくの本がかびたり、湿気でだめになってしまう。
傘をさして、一人道をゆく。こういうときは境界の図書館に行くに限る。あんなにたくさんの本が置かれているところが、たとえ茨だらけでも嫌いになるはずなんてない。
帰ってランドセルを放り投げ、境界の図書館へ行きたいと念じる。
「危ないっ」
危うく借りてた絵本を忘れるとこだった。
「じゃ、改めまして…」
わたしは念じる。境界の図書館へ行きたいと___
---
「来たの、良美」
「フーク、ログ、これ返すわ」
返却手続きを終えた本は、ふわふわと元の場所へ戻っていくらしい。
「良美、来てくれない?」
「どうしたの、フーク」
「『本あらし』が来たの。本に入り込むことのできる性質を利用して、物語を改変したり、物語中のお金を持ち去って不正に利用する犯罪よ。これは『全世界共通境界図書館法』に違反する、最も重い罪。でも、なかなか発見しづらいの。能力を持つ本に入り込めば、能力をコピーして不正に利用することができるから。そういう『本あらし』から図書館を、利用者を、本を守るのが図書館の番人兼司書の役割なの」
「そうなんだ」
それより、全世界にこの不思議な図書館があるのが驚きだ。
「この図書館、全世界にあるんだ」
「そうよ。1000万は超えているかな、わかんないけど」
「1032万4302件ダナ」
すかさずログが訂正した。
「サッキフークガイッタ犯罪ハ『全世界共通境界図書館法』第29法ニ違反スル罪ダ」
「そんなにあるの」
「モットシリタケレバコノ『境界図書館全書』ヲ読メ」
「へえ」
重そうで分厚そうな本。
「その『本あらし』はどこにいるの?」
「被害が出たのはこの『激選ショートショート 冬の冷たい物語』の『第10話 冷えたかたっぽ手袋』。ネタバレはいいかしら?」
「いいよ」
その本は読んだことがある。
「|木葉《このは》が落としたかたっぽの手袋を、想い人である|真《まこと》が拾って展開される恋物語。でも、別の人に拾われているの」
「ええ!でも、なんで今すぐ対処しなきゃいけないの?」
「ほうっておくと現実世界にもこういう影響が出るから」
「へえ」
「さあ!行くわよ!」
「え!?」
テンポよく、フークは飛び込んだ。わたしも飛び込んでみる。
そこは、一面の銀世界。
ショートショートとかたっぽの手袋 後編
「あ、あれ…?」
木葉らしき人物が、積もった雪をかき分けてなにか探している。まあ、正確には止まっているけど。
「いい?『ブックパトロール』は自然に。あんまり干渉しないこと」
「分かったよ」
「さて、どうしようかしら?」
考えてなかったのかよ、とつっこみを入れる。
「手袋がどこにあるか、っていう問題よね」
「うーん。確か、この物語には他に登場人物はいないはず。…あ、でも、女の子がいたっけ」
女の子、とは木葉のおとなりさんだ。特に重要な役割は担っておらず、一緒に遊ぶのが日常と描いているだけ。
「女の子がかっさらってったとかはないの?」
「まあ、探してみようかしらね。でも、突然なくなったらびっくりしちゃうわ」
「手紙を添えたらいいよ、さ、行こっ!」
赤い屋根の家が木葉の家。その隣は2つあるけれど、広い庭がある家が女の子の家だから、こっちか。
「どんな手袋?」
「挿絵を見るに、ポンポンがついているやつよ。灰色っぽいのがベースで、ピンクのポイントが入っているのよね。ただ、検討もつかないわ」
「玄関においてあるよ、きっと。だって家の中でしないもの」
女の子の家は真っ白だった。
「なんで真っ白なの?」
「作者が描いていないところは、真っ白なの。えーと、あった!」
真っ白だから、手袋がぽとんと落っこちているのがわかりやすくて助かる。
「あとはこれをぽとんって落としたらいいのか」
「木葉がかき分けているそばに置いておこう。雪を埋めて」
ひぃぃ、冷たっ!
『身も凍ってしまうくらい』っていうたとえどおりなの!?なんなの…
「さ、任務を終えたらすぐ戻る。いくわよ!」
ずっと上にある本のカタチに向かって、踏ん張ってみる。こうすると、自然とふわふわ浮いて本に戻れるのだ。
「初任務にちょうどよかったわね」
それって、レベルが低いこと?っていうつっこみは控えた。
ミステリーと潰れる舞台 前編
新作『ネカフェのシャーロック・ホームズ』第2巻。今日が発売日だ。
誰にも言えない密かな楽しみを胸に浮かべて、わたしはるんるんと歩き出す。シャーロック・ホームズみたいな日村修と、凄腕の論破店員である和戸涼が事件を解決する物語。前作は2人の出会いと事件が描かれていて、結構面白かったのだ。
「きゃっ!?」
本屋『ミヤワキ』に向かう足取りを、誰かが引っ張って邪魔する。
「良美っ!」
「フーク!ちょっと、引っ張らないでよっ」
「いいから!」
---
ったく、フークは人使いが荒いな…
境界の図書館。ここは、ありとあらゆる本が置かれている図書館だ。
「何ぃ?あ、そうだ。『ネカフェのシャーロック・ホームズ』第2巻、貸してよ」
「はあ?貸すも何も、その本で事件が起こってるのよ。正式には、第1巻で」
「え、ってことは…」
ぞぞぞ、と鳥肌が立つ。
「そうよ。『ブック・パトロール』の仕事で呼んだけど、何か?」
「嫌だぁ!だって、面倒くさいもん!」
「じゃあ、その本はもう読めなくなるわね。第1巻に異変が起こってるから」
「嫌だぁ!」
くぅぅ、あの仕事、面倒くさいのに。それに、意外とややこしいし。ましてや、ミステリーの世界でなんて…
「ログ。どういうことが起きてるの?」
「良美、久シブリダナ。舞台ノネカフェガツブレタコトニナッテイル」
「えー!?ってことは、そもそもの物語が始まらないじゃない!」
そしたら、せっかくのこの気分が台無しになっちゃう。
---
本の中に入る。そこは、空き地だった。看板には、『売地』と書かれていた。
「1ヶ月前ニツブレタトイウコトニナッテイル」
「どうやっていくの、1ヶ月前なんて」
「まあ、簡単よ。マイナス数ページに行きたいって念じながら走るの」
プラスページが、未来へ向かっている。
なら、マイナスページが過去へ向かっている。そう解釈してよさそうだ。
「どうやって、再築し直すの」
「理由を聞けば簡単よ。単に収入不足なら、手伝えばいいのよ」
「えぇ、働くの」
「そうだけど」
なんで、働かなきゃなの…。はあ。
---
いろいろ工夫して、マイナス12ページぐらい遡った。『売地』の看板はなく、『営業中』の看板がある。
「つまり、これから潰れることになる、のよね」
「収入不足ノヨウダ。ドウヤラ、日村修ガイリビタッテ、ツブレタラシイ」
「えぇ。日村修って、主人公でしょ?それに、1人が入り浸るだけで潰れるとか、どんだけ経営難なの」
そりゃ、入り浸ったら少々赤字になる…のかもしれない。でも、それだけで潰れるのは、まずないんじゃないか。
「収入を増やせば…いいの?」
「ソウダナ」
「どうやって」
「何処かで稼いで、そのお金をここにおさめればいいのよ」
「どうやって稼ぐの」
フークはにやりと微笑み、言った。
「わたしたちが払うの」
お借りした作品:〖221B室のシャーロック・ネトゲ廃人。そして、事件〗
作・某探偵(ABC探偵)様
リンク https://tanpen.net/novel/fb10df8b-acd0-4d2c-a822-48856fa85d40/
ミステリーと潰れる舞台 中編
「わたしたちが積極的に通い詰める。ネカフェにパソコンがあるから、そこで広く宣伝をする。もうすぐ給料日だもの、多少のお金はあるし、それは本部が負担してくれるわ」
「本部!?」
境界の図書館に、本部なんてあるのか。だいたい、その本部というやつの収入源は…と言いたいところだが、今はそれどころじゃない。
ページを遡る。何やらフークがパソコンを操作し、「カチーン」という音とともに、札束が出てきた。レジのお釣りを払うときのあれみたいだ。その札束を、彼女は使い慣れたように持つ。
「札束…」
「これぐらいあればいいわ。別に特別豪華な服じゃなくてもいいの。できる限り、チップとか、お釣りはいらないとか、いろいろ誤魔化してこれぐらいを残す。大丈夫よ、本部は大金持ちだから」
「はぁ…というか、黒いセーラー服姿の少女と、メイド服にエプロン姿の少女と、謎のロボットが来店してきたら、それはそれでまずいんじゃない?」
「ああ、まあそうね。ログは…外で待っといて。わたしは貴方の服を借りるわ」
ということで、『境界の図書館』というだけあり、境界の図書館とわたしの距離の境界を操って、すぐに家につく。
うげ、めっちゃしわくちゃじゃん。これはアニオタっぽいし。これはこれで良いんだろうけど…。
「おまたせ」
「うわ、黒のジャージ?」
「何が悪いの」
学校指定の黒いジャージ。まともなのがこれしかなかったのだ。でも、三つ編みがいっぱいのおしゃれな髪型に、このジャージは不釣り合いかもしれない。
「いいからいくよっ」
そう言って、わたしは一番最初に飛び込んだ。
---
例のネカフェ。ごくよくある、ふつうのネカフェなのだろう。わたしはせいぜい、漫画喫茶ぐらいしか言ったことがないが、それと同じ類と見て良さそうだ。
「いらっしゃいませ___」
女性店員は、ハッと驚いていた。なにせ、中1ぐらいの少女ふたり(しかも、根暗そうなやつと、それに似合わない不釣り合いな格好の子だ)が初めての来店なのだ。
「初めてのご来店ですか?」
「はい、今から会員登録をするところです」
そう言って、フークは淡々と会員登録をこなした。メールアドレスは、多分捨てメアドだろう。
「では、ごゆっくり」
「ここはドリンクのサービスが別途料金タイプのやつね。これで、きちんとおさめれる」
というフーク。とにかく、わたしとフークは隣になった。できる限りパソコンを使え、と言うので、いろいろとネット小説を熟読した。とある小説投稿サイトのやつを読んでいたが、意外と面白い。素人にしては上出来だ…と言いたいところだが、自分は書けないので言えない。
お借りした作品:〖221B室のシャーロック・ネトゲ廃人。そして、事件〗
作・某探偵(ABC探偵)様
リンク https://tanpen.net/novel/fb10df8b-acd0-4d2c-a822-48856fa85d40/