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目次
女子生徒A 第一話
生きて行くのに、どこか一つ欠けているんです。足りないんです。———太宰治「斜陽」より引用
兄貴が死んだという電話が入った。
暴走したトラックが兄貴を巻き込みながらガソリンスタンドへ突っ込んでいったらしい。
私は制服のまま、家のドアを開けたところまでは理性があった。
途中、今日がエイプリル・フールであることを理由に、誤報を祈った。
通じないお願いがあることを忘れていた。
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私はもう私ではなくなっていた。千代田ういなんていう女の子は死んだ。いなくなったのだ。
じゃあ私は誰なんだろう。
今パソコンの画面を流れる、人、人、人。
それぞれ個性があって、帰ってくるとおかえりを言ってくれる人がいて、それで…
私はひとりぼっち。どれだけ泣いても。
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もう一週間経つのに、立ち直ることができない。
帰ってくる時テレビの音がしていないのが耐えられない。
なぜか人の数倍疲れてる気がする。
人は身内が死ぬとこんなにも辛いんだ。どこかでは2秒に1人が死んでいっているというのに。
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死のう。
私は死ななきゃいけない。死にたいんじゃない。そういう義務があるんだ。
天国はどこにあるんだろう。パスポートはいるのだろうか。
それに、普通の死に方じゃ駄目だ。それを見た誰もが、一生記憶に残って、思い出すたびに死にたくなるような、死に様じゃなければいけない。
女子生徒A 第二話
五月になった。
私はやはり耐えられない。何故こうなったのだろう。
なんで神様は私を殺さなかったのだろうか。なんで私が死ぬんじゃなくて兄貴が死ぬことが、私にとって一番傷つくことと気づいたんだろう。
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学校に行った。
高校生にとって一番大切なのは友達作りである。ただ、私にはそれができなかった。
相手から拒絶されたらどうしよう、気持ち悪がられたらどうしよう。そんな気持ちがあった。
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私がお弁当を食べ終わると、クラスの乾清吾という男子が近づいてきた。
彼は大丈夫だったか、気の毒に思っていたということを明るい口調で話した。
私は適当に返事をして、机に突っ伏し、寝た。
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私の唯一の友達であるピンクのMacBookには銃器が写っていた。
私は銃で死のうと思う。
日本で銃身自殺する人はほとんど前例がないと思う。
私はこれを誰かに見せようと思う。
これは、ほかの人たちに対する八つ当たりだ。
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狙いは8月、夏休み明けの全校集会に定めた。
まずそのためには銃を手に入れなければいけない。
さてどうしようかと思った矢先、いつか見た裏掲示板サイトを思い出した。
私はレッドブルを片手に、エンターキーを押した。
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スクロールすること一時間弱、ようやく目的のものを見つけ出した。
なんでも、直接会って売ってくれるらしい。
私はそのユーザに指示され、顔写真、名前、電話番号を伝えた。
女子生徒A 第三話
いよいよ銃が手に入れられると思っていた。
銃を売るユーザから新たなメールが届いていた。
そこにはどのような銃が良いかという質問だった。
私は少しだけ考えると返信し、眠りについた。
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夜中、目が覚めた。小さい頃から夜中咳き込みながら起きることが多かった。
私は銃のことについてよく考えるべきではないか。
私は自分が死ぬ時を想像した。
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日曜という名がついている割には雲が立ち込めた朝であった。
私はネットで様々な動画を見て、自分にはどれが似合うかを考えた。
スペクター567。
イギリス製であり、角張ったデザインと小型という点が気に入った。
私はメールを開き、ユーザにそれを伝えた。
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もう一つ考えなくてはいけないことがある。
それは代金のことだ。それもメールで聞かなきゃ。
代金を持っていないがどうすればいいかという質問に対し、ユーザはいらないと言った。
女子生徒A 第四話
空白文字まみれの一学期が終わり、夏休みとなった。
売人のユーザと会うのは、来週末。
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朝7時。
母はもう家にいない。
代金はいらないと言われ、売人から乱暴されると考えた。
そこで私は自分の筆箱からカッターナイフをそっと抜き、デニムのズボンに突っ込んだ。
忘れ物がないことを確認し、家のドアを開けた。
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電車の中で考える。もし売人のところで死んだらどうなるんだろう。
私が死ぬところはそいつしか見ないし、私の死体もそいつしか見ない。
そう思うと怖いし、嫌だ。結局ゴールは同じなのに。
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新宿駅に着いた。
遠くから男2人が歩いてきた。
体格のいい男は関口と名乗り、長身の男は瀬川といった。
私はそいつらの隠れ家とやらに案内されていった。
関口は私によく喋りかけたが、私は返事をしなかった。
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雑居ビルの最上階に2人の部屋はあった。
私はソファに座らされた。そろそろ手に入れられる。そう思い私はポケットに手を——
ポケットのそれ、出せよ。
耳に入ってきた。
終わりだ。
なんでいつもこうやって
もう少しだったのに
最悪だ
女子生徒A 第五話
文字。
文字が見える。
人。
人がいっぱいいる。ここはどこだろう。
思い出した。また吐きそうになる。
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あの後私は蹴られ殴られ散々だった。小一時間ほど暴行を受け、写真を撮られた後、部屋から追い出された。
あいつらの顔はもう思い出せない。思い出したくない。
私はなぜこんな仕打ちを受けているんだろう。
私はなぜこんな思いをしなきゃならないんだろう。
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ようやっと家へ帰ってきた。
今日もおかえりはない。
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トト。子供の頃一番お気に入りだったおもちゃだ。
今でも枕元に置いて寝てる。
夜中、目が覚めて私は台所へ向かった。喉が渇いた。麦茶が飲みたい。
ここのところ何も上手くいっていない。最悪の気分だ。
私はベッドに戻ったが眠れない。誰かが話しかけてくる感じがする。世の中の全員が私を責め立てているような気がする。遠くで声が聞こえる。近くでも声が聞こえる。私は死ななきゃいけない。何もかも捨てないと、何もかも終わらせないと。トトが喋った気がした。
「ういちゃんはね」
「ういちゃんはね」
「ういちゃんはね」
「可哀想なふりしてるだけなんだよ」
「自分の個人的な悩みをね」
「お兄ちゃんが死んだことと勝手に結びつけて」
「発散したいだけなんだよ」
「ういちゃんよりもね」
「辛い人はいっぱいいるんだよ」
「ういちゃんは幸せ者なんだよ」
女子生徒A 第六話
私は朝一番に家を出た。自転車のカゴにトトを乗せて走った。
なんで私があんな事言われなくちゃいけないんだ。お前はずっと枕元で座って一日を過ごしていただけじゃないか。ろくに人と話さず、私がいないと何もできないじゃないか。
もっと早く、早く、できるだけ早くこいつから遠ざかりたい、早く。もっと、早く、もっと。もっと。もっと早く。
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痛い。
下り坂で転んでしまった。なんでこんな目に。
トトがいない。私の親友。
少し離れたところにしっかりといた。顔をこちらに向けずに、横たわって。
ぬいぐるみは生きてなんかないのに、まして生きていたら死んで欲しいなんて思っていたのに。
足から血が出ている。痛い。でもトトが。
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私は母に電話をかけ、病院まで送ってもらった。帰りは夕方になるらしい。
検査の結果、靭帯に傷がある状態だった。二ヶ月で治る。
ここから二ヶ月。夏休みは明け、九月の中旬ほどだ。
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拳銃も手に入れられていない。足も怪我している。
こんな私にこれから何ができるのだろう。
女子生徒A 第七話
学校が始まってしまった。
松葉杖を使いながら集会に参加する姿はさぞかし滑稽だろう。
私は死にたがっているはずなのに、怪我したりするのは嫌だ。
じゃあ何がいいんだ?
何もかも嫌。
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足を怪我したからというもの、インターネットに耽っていた。
目の前を通り過ぎる光、光、光…
ツイートは一つも覚えていない。覚えようともしていない。
こんなこと考えて何になるんだろう。
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気付いたら玄関だった。
この頃、意識がないまま過ごしている感じがする。
Youtubeの10秒スキップを何度も押しているような。
そして周りが見えるようになると、夏休みにあいつらからされた事、兄が死んだ事、自分は世界で一番愚かな存在という事を思い出す。
---
夜中また目が覚めた。
私は寝ている時呼吸がうまくできない病気だ。息ができず、誰かに首を絞められている感じがする。
夜中目が覚めるとまたトトが喋りかけてくるんじゃないかと思う。でも大丈夫。一番の友達だ。
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朝学校へ行くとまた乾という生徒が話しかけてきた。私の足を心配してくれた。私はこの頃何もうまく行かなくて…それで…
彼は何か悩みがあったら自分に気兼ねなく言って欲しいと言った。私は黙って頷いた。
女子生徒A 第八話
死んだように過ごすうち、11月になった。
本当に死んだよう、意識がない、何をしていても何も感じない。
銃も手に入れられていない。
もう自殺を諦めようか。
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家のチャイムが鳴り私は対応のため家のドアを開けた。
夏に会った二人がいた。笑っていた。
よく考えれば銃を欲しがる女子高生は見たことがないと笑いながら紙箱を渡してきた。
久しぶりにありがたいと思った。また殴らせてあげたくなった。
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メリーゴーランドを模した箱を開けると私が憧れた拳銃そのものが入っていた。
綺麗。
ここ最近感じていなかったことが一気に押し寄せる。気付くと涙が出てきた。
箱の中にはその他にも弾丸、拳銃を拭くための布、そしてあの日に撮られた写真十数枚が入っていた。
痛々しい痣がついた私の腕や腹が鮮明に写っていた。
私はこれほどまでポジティブな気持ちになったことは本当に久しぶりだと思った。
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私は何かあの二人に恩返しがしたいと考えた。
彼らは私がどのように拳銃を使うか知りたいらしい。
私はそのビデオを彼らに渡すことにした。
しかし、私が死んでしまったからにはどうすうこともできない。協力してくれる人間を見つける必要がある。
私はあの、乾という男子に目をつけた。
女子生徒A 第九話
私はそれから銃を毎日磨き上げた。それからビデオカメラも購入した。
あとは彼にお願いをするだけである。拳銃に映り込む私の顔は希望に満ちていた。
とても地獄に行く人間とは思えないように、希望に満ちていた。
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放課後、乾と校舎裏で待ち合わせた。
私は担任である中村に大病の妹を嘲笑われ、復讐をしたいから中村が盗撮したように濡れ衣を着せて欲しい、と頼んだ。
本当はその写真を脅しのネタとして出そうと思った。
彼はニヤニヤしながら引き受けた。写真は彼のスマホで撮ることになった。
彼は馬鹿なんだなぁと心の中で呟いた。
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私は女子トイレの中で制服から体操着に着替えた。
彼はその様子をドアの上から撮影した。シャッター音がうるさく若干心配だった。
無事に写真を撮り終わった。不思議と不快と感じなかった。
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私は乾と一緒に帰ることにした。河川敷から降りて話をしようと言った。
私は本題を持ちかけた。
彼は怒鳴りながら私の腹を殴ってきた。痛い。
私がそれで死んだらお前が殺したことになる、そんな大声出していると道を歩いている人、釣りをしている人、テニスの練習をしている人にバレると伝えた。
彼は次第に冷静になり、泣き出した。
私はお願い事を伝え、メールを繋ぎ家路についた。
女子生徒A 第十話
私は夜遅くに彼を河川敷に呼び出した。
私はビデオカメラと手紙、住所の紙を渡し帰った。
道中誰かが叫ぶ声が聞こえた。それがうるさいほど、私は興奮していたんだろうなと思う。
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いよいよ明日が集会である。私は放課後、彼がカメラを設置するところを見届けることにした。
彼は段ボールを二箱用意し、その中にカメラを入れた。穴の中から撮影できるようにしたらしい。
私が彼を褒めると、彼は怪訝な目で見てきた。明日もこの目をしていたら、真っ先に彼を呪い殺すだろう。
女子生徒A 最終話
その日が来た。
誰もが校長の話を退屈そうに聞いていた。緊張する。
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時刻は午前9時37分、乾は不安を浮かべた顔で座っている。カメラは段ボールの隙間から録画中を知らせる赤い光を発している。
司会の教師が締めようと話を収束へ終わらせていく。
私は立ち上がった。
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ステージへ上がると全校生徒の顔が見えた。
ポケットには拳銃。451×2の眼が私を見つめる。
「さよなら」
私は引き金を、弾いた。
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その途端、まわりの音や人の動きが止まった。
私はこれで良かったのだろうか。
もっと生きなければいけなかったのではないか。
なぜ兄が死んだことが、私が自殺する理由になるのだろうか。
こんなことしない方が良かった。
今からでもやめればいいのではないのか。
なら。
私はどうなる?
死に物狂いで手に入れた拳銃は当然規制対象だ。
一年潰してそれは、あまりに酷いのではないか。
乾を脅していたことがバレたら?
瀬川と関口の2人が私のせいで捕まったら?
私はどうすればいい?
死にたくない。
引き金は引いたし、生きていてもいいことがない。
どうすれば?
なんとかここからどうにかできないか。
結論はすぐに出た。諦めるしかないのだ。
私が言いたいことを言い終わらないうちに私は死ぬだろう。
乾、騙してごめんね。
瀬川と関口の2人には感謝しても仕切れません。
兄貴、もうすぐそっち行くから、私の目につくところで待っててね。
神様お願いします、地獄ではあんまり私に酷い事し
Ending:vinyl/King Gnu
Thank you for reading.
See you.