時は50xx年____
特異体質を持つという人がこの世に生まれるようになり、化け物が姿を現すようになった。
特異体質持ちは生まれてから、『保護施設』に引き取られ、化け物と命をかけて戦う兵器に育て上げられる。
そんな中、主人公(特異体質持ち)は特異体質で不死になっている少年をバディにすることに...
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目次
ep.1 心では馬鹿にしている早熟な子供。
パァーン、パァン、パン____
訓練場に、銃声が響き渡る。
そこでは、沢田凛都が銃の訓練をしていた。
「朝から殊勝なことだな。」
よく通る声が凛都の耳に届く。
そこにいたのは、凛都の先輩_佐々木明日花だった。
「リン、お前に話がある。面倒を見てほしい奴がいる。おい、こっちに来い。」
明日花の背後から小さな子供が姿を現した。
歳は、小学五年生だろうか。
金髪碧眼のハーフのような見た目だった。
「こんにちは。沢田凛都さん。お初にお目にかかります。シアンと申します。お話があり、お伺いに参りました。」
その子供はシアンといい、少し、いや大分、大人びた子供だった。
「初めまして。シアン。話ってなにかな?」
凛都は微笑み話しかける。
「子供扱いしないでください。僕はそこらへんのガキとは違うんですから。」
シアンはあからさまに不機嫌になる。
よほど、子供扱いされたくないのだろうか。
可愛げのない、生意気なガキだ。
「シアン。人の厚意を無下にするもんじゃねぇぞ。」
凛都は威圧をシアンに向ける。
「えぇ、何ですか?その目。怖いですねぇ。てゆうか、厚意ではなく、お節介ですよ。迷惑だと言っているんです。オブラートにつつんだのですが...ご理解いただけませんでしたか...空気が読めないんですかね??」
丁寧な言葉遣いだが、凛都を馬鹿にしているのが見てわかる。顔こそ微笑んでいるが、目の奥底では完全に笑っている。
「2人とも落ち着けー。仲がいいのはいいことだが、一旦話を聞け。」
「仲良くない!!!」「仲良くねぇ!」
明日花が2人仲介へと入った。
2人は一旦、散らしていた火花を収める。
「単刀直入に言う。2人にはバディになってもらう。そして、一緒の部屋に住んでもらうことになった。上からの命令だ。」
「「は?」」
2人は驚き、口が半開きの状態だ。
「そんなの、聞いてませんよ!」
先に口を開いたのは、シアンだった。
「バディになることは知っていましたけど、同部屋だなんて聞いてません!なんでですか!こんな奴と一緒になんて住めません!」
シアンは怒りで明日花を捲し立てる。
明日花は飽きたのか、タバコを取り出して一服しようとしている。
「上からの命令だっつってんだろ。一回じゃ分かんなかったのか?」
明日花は咥えタバコをしながら、呑気に答える。
「上には逆らえねぇんだよ。殺されるぞ?それでも、いいんだったら凸ってこい。健闘を祈ってるぞー。」
「どうしてそんな他人事何ですか?あぁ、もう頭が痛い...仕方がありません。非常に不服ですが、あなたと同部屋になりましょう。本当はとても嫌ですがね!」
こうして、凛都とシアンの生活が始まっていくのだった____
ぜひ、続きを読んでくださると嬉しいです。
※複数の小説コンテストに応募している作品です。
作品名作者名ともに記載okです。
ep.2 生活能力ゼロの戦闘狂。
「ここが俺の部屋だ。」
凛都はシアンを自分の寮部屋に招き入れる。
「お邪魔します。...うっわ、何ですか。この汚部屋は!片付けもろくにできていないじゃないですか!これだから、同部屋は嫌なんですよ!」
シアンは部屋に入るなり、凛都を罵る。
今回ばかりは、言い返せない。なぜなら、凛都の部屋はゴミこそ落ちていないが、服や本からあらゆるものが散乱しているのだ。
「もうっ。仕方がありませんね。エプロンと髪ゴムを貸してください。これから住む場所が汚部屋では、嫌ですからね。あなたのためではなく、僕のためですからね!勘違いしないでくださいね!」
シアンは髪を結び、エプロンを身につけてせっせと片付けを始める。
その手捌きはスムーズなもので、するすると部屋が片付いていく。
「俺もなんか手伝えることはないか?」
凛都が声をかけると、シアンは振り返り、子供を見るような目で微笑む。
「あなたが手伝ったら効率が悪いですし、何より片付けができると思えませんしね。」
またもや、凛都を馬鹿にする。でも、その通り凛都は大人しく座っておく。
数分後には、前の部屋とは大違いな綺麗な部屋が完成していた。
「とりあえず、片付きました。これからは僕も住むんですから、きちんと片付けは行なってください。使わなくなったものは捨てて、出したもは元の場所にしまってください。それくらいはできますよね?凛都さん?」
「馬鹿にしてんのか?それくらいはできる。」
「馬鹿にしてませんよ。センパイ?じゃあ、今まで片付いていないのが、ほんと不思議ですねー。嘘は吐かない方がいいと思いますけどね。」
「ウゼェ。クソガキが。」
---
あれから、数時間が過ぎて夜になった。
シアンが何かゴソゴソとしている。
「何してんのか?めぼしいものはねぇよ。」
シアンは振り返り、顔を真っ赤にさせる。
「なっ...!そんな人を泥棒みたいに言わないでください!それより、あなたの家は食料品の1つもないじゃないですか!一体どういう生活を送ってきたんですか!」
凛都の部屋の冷蔵庫には当然、空であり、寂しくお茶のペットボトルが転がっている。
「あぁ。最近は自炊してなかったな。Uberで頼んでた。」
凛都がそう言うと、シアンは驚きで目を見開く。
「そんな、勿体無い!このご時世、何が起こるかわからないので、お金を貯めることと自炊能力ぐらいは身につけましょう。今日からはよっぽどのことがない限り、Uber禁止です。毎日自炊しましょう。1日交代でしますが、明日あなたの番だと、キッチンを燃やしかねないので、少しずつ教えますね。」
馬鹿にされている気がすると凛都は思う。
でも、シアンの言っていることは一理あるので素直に従っておく。
---
「ご飯できましたよ。」
シアンの声が部屋に響き渡る。
「どうぞ。お召し上がりください。」
机の上に並べてある料理を見て凛都は思わず息を呑む。
「いただきます。」
凛都は料理を口にする。
どれも、想像を絶するほどの美味しさだ。
勿体無い。凛都はそう思い、ゆっくりと咀嚼する。
思わず
「美味い。」
と口にすると、
シアンはパァァと顔を輝かせ、ニコニコと微笑む。それは、いつもの早熟な感じと違い、年相応の少年の微笑みだった。____
すみません。
少し長くなってしまいました。
戦闘シーンはまだ程遠いかもしれませんが、ゆっくりとお付き合いしていただけると嬉しいです。
よければ、ファンレターを送ってくれると、嬉しいです。
ep.3 それぞれの特異体質。
「ところで、凛都さんの特異体質って何ですか?教えてもらっていないので気になります。」
食事の途中でそう切り出された。
確かにどちらも情報がなく、バディになったから気になるものだろう。
「俺の特異体質は、狂人。」
「へぇ。一時的に身体能力が劇的に向上する能力ですね。」
何故か、シアンは詳しい。
「なぜ、お前は詳しいんだ?」
謎に思い、凛都は問い詰める。
シアンはやれやれとばかりに答える。
「そういうのに詳しい所で育ってきたんですよ。それ以上は秘密です。」
凛都は納得がいかなかったが、隠したがっているので、これ以上の詮索はやめておく。
「そういうお前の特異体質は何なんだ?教えてもらってないぞ。」
シアンはあぁ、とポンと手を打ち、答える。
「僕はですね。前代未聞なんですよ。なんたって、2つも特異体質があるんですよ。ほら、見てください。『異端印』が2つもあるんですよ。」
『異端印』とは、特異体質を持つ者に現れるバーコード形のアザのことだ。ある意味、神からの生体番号とも言える。
シアンは首元と腹にあり、凛都は二の腕にある。
「やっぱり、僕って神に選ばれた天才なんですよー」
シアンはへらへらと笑って言う。
「1つは異常回復。撃たれても殴られても回復します。不死と言っても過言ではないでしょう。2つ目は無痛。僕、痛覚がないんですよ。無痛症かと思ったんですが、生まれつきではないですし、後天性の特異体質かと。最強の組み合わせですよね。」
聞いたことがない。特異体質2つ持ちの人間は。
「まぁ、相性はいいんじゃないですか。あなたが戦って、僕が盾になりますよ。どうせ、死なないんですから。」
シアンは自虐のように言う。
この特異体質で苦しめられてきたのだろうか。
「お前の過去に何かがあったのか?」
凛都は心配で質問する。
「過去についてはいつかお話ししますよ。なんたって、バディですからね。まぁ、1つ言うとすると、特殊な所で育ちましたよ。"保護施設"ではない所でね。これ以上詮索はしないでください。」
納得がいかず凛都がむすっとすると、シアンはけらけらと笑う。
「そんなに僕のこと知りたいんですか。可愛いところもあるんですね。」
凛都はあからさまに不機嫌になり、それもシアンはそれさえも愛おしく感じて、笑う。
「図星ですかー?えぇ、僕のこと好きになっちゃった??」
「もう、いい。俺は寝る。」
ほんわかとした空気が漂い、激動の今日は幕を閉じた____
ep.4 初任務は危険な化け物を。
凛都とシアンがバディになり、1週間が過ぎようとしていた____
2人はなんやかんやでうまく生活をしていた。
この1週間は模擬戦闘をしたり、訓練場で銃の練習をしたりしていた。
---
「緊急放送。ただいま、旧東京都渋谷区____ゲシュタルト保護区にて化け物『番号#010』が出没しました。直ちに戦闘要員は現場に向かってください。」
緊急連絡用のインカムからうるさいくらいに放送が鳴り響く。
その音で部屋にいたシアンも心配そうに見つめてくる。
凛都は腹を括り、シアンに喝入れる。
「行くぞ。仕事だ。」
---
ゲシュタルト保護区に着くと、先に着いた戦闘要員たちによる避難誘導が行われていた。
「皆さん、落ち着いて避難してください。避難用シェルターはあちらです!」
先輩の明日花を見つけ、声をかける。
「明日花先輩。避難状況と詳細を。」
「よぉ、リン。住民の避難はちょうど終わった。これから、敵を迎え撃つ。って、シアン。お前も来たのか。初めてだから、お前は後方の支援に回れ。リン、お前は私と前線に出るぞ。」
どうやら、今回の任務の指揮官は明日花だろう。指示に従い、凛都は前線へ。シアンは後方へ足を運ぶ。
---
凛都のいる前線。そこには、ボスと思える
化け物がいた。
世界中の悪という悪を煮詰めて、溶かしたような見た目をしたヤツがそこにいた。
臭くはないが、ものすごく不快な匂いがする。
本能的に、喰われるという感情が身体に沁み渡る。
パァン____
先陣を切ったのは明日花の銃声だった。
銃弾はヤツの頭部に掠る。
ヤツは怒り狂い、こちらに向かって一心不乱に走ってくる。
それを見かねて、2人で一斉に銃弾を浴びせる。
パァン、パーン____
頭部に脚部に腹部にあらゆるところ銃弾がに掠る。
だが、岩なのかというくらい頑丈で、一向にヤツを撃ち抜けない。
ヤツの人殺しの手が凛都を襲う。凛都は宙返りをし、間一髪で避ける。その時、制服のマントが翻る。
化け物との一進一退の攻防を繰り広げる。
ヤツの攻撃が凛都の腕に当たり、傷口から鮮血がぼたぼたと滴る。
止血している暇もなく、ヤツが情けをかけず攻撃をしてくる。
明日花が敵を引きつけている間に、凛都は自分の愛銃にマグナムを装填する。
そしてよく狙いを定める。
バァン____
勢いよく引き金を引く。
銃弾は化け物の頭部を撃ち抜く。
化け物はひくひくと痙攣をし、その場に倒れ込んだ。
やったか____そう思った。
だが、2人はこの『#010』の最大的な特徴を忘れていた。
それは...
ヤツは死んだ時の保険のために分裂を起こし、近くにいる人間に自爆を仕掛けるのだ。
それを2人はすっかり忘れていた。
「討伐お疲れ様でした。油断は禁物です。『#010』は自爆を起こします。直ちに後方に戻ってください!」
『#010』を殺せるのは最後に本体を殺した人間だけだ。
2人はすぐさま駆け出し、後方へ急いだ。
---
後方の雑魚敵も片付き、シアンはみんなは休憩をしていた。
そんな中、インカムが任務の終わりを告げる。
「『#010』の討伐が完了しました。」
みんなほっとしたのも束の間、またインカムが鳴り響く。
「緊急。緊急。『#010』が分裂を起こし、こちらは急激な速度で向かっております。直ちに避難をしてください。」
その瞬間、
ギュルギュル____
と『#010』が旋回をしてこちらに向かって突っ込んでくる。
--- 危ない! ---
シアンは咄嗟に自分の体を盾にし、他のみんなを守る。
バン____!!!
シアンの身体が弾け飛ぶ。
鮮血が飛び散る。
悲鳴が聞こえる。
シアンの意識が段々と遠のいていった。
ep.5 初任務後にはブラックコーヒーを。
表現が微グロかもです!
すみません...
凛都の目の前でシアンが弾け飛んだ____
シアンの鮮血と身体の数々が凛都の頭上に降り注ぐ。
--- 遅かった。 ---
後一歩速ければ、シアンは弾け飛ばずに済んだのか。
いや、おそらく凛都が追いついても、シアンは自分の意思で肉壁となっただろう。不死に等しい身体と頭ではわかっていても、身体が追いつかない。
血の匂いが鼻腔をくすぐり、目の前にあるシアンの腕が脳内を刺激する。
突如、シアンの下半身と思えるものから、ぐちぐちとお腹が腕が頭が、身体が生えてくる。
それは想像を絶するもので、少なからずもショックを受けるものだった。
周りには異臭が漂い、その匂いと光景で吐き気を催す。
気持ち悪い____そう思ってはいけないが、反射的に身体が嫌悪感を抱く。
そして、シアンが復活を果たした。もちろん、服は破れたので上半身は半裸になっていた。
シアンは微笑み、凛都に声をかける。
「大丈夫でしたか?服が破けていますね。お見苦しいものをお見せしました。死人は出ていませんか?」
シアンは掠れた声ながらも、他の人の心配をしている。自分が犠牲となって倒れたのに嫌悪感を抱いてしまった。そのことに凛都は罪悪感に駆られる。凛都は震える声で答えた。
「死人は出てない。0だ。」
そう言うとシアンはヘニャっと微笑み、
「そうですか、ならよかったです。」
シアンは眠るように倒れた。
---
シアンは病院に運ばれて、様子見のため1週間の入院することとなった。
原因は特異体質だ。あれだけの回復をすると、強制的に意識がシャットアウトすると特異体質専門医からそう教えられた。
凛都はお見舞いに行くことにした。
シアンの入院している個室に入ると、シアンは点滴につながれていた。
「わざわざご足労いただき、ありがとうございます。大丈夫ですか?ちゃんと自炊とか片付けとかしてますか?」
シアンは相変わらずだった。
「ちゃんとやれてる。俺は子供じゃないんだぞ。少なくとも、お前よりは年上だ。それよりか自分の心配をしろよ。病状はどうなんだ?退院はできそうか?」
「そうですね。少し外で話しませんか?」
シアンは落ち着いた声色でそう答える。
---
凛都とシアンは談話室へと足を運ぶ。
「僕のいる部屋少し薄暗くてですね。ここの談話室に時々日向ぼっこに来るんですよ。ほら、ここです。僕のお気に入りの席です。」
シアンが指した席は観葉植物の置いてある、空に近い、日当たりの良い席だった。凛都とシアンはソファに座り、シアンは穏やかな声で話し始める。
「回復しているところ見ました?」
凛都は思わず息を呑み、そっと目を逸らす。シアンは鋭い目を凛都に向け、冷酷な声で話す。
「無反応は肯定と受け取りますよ。」
凛都は黙っているより素直に言う方がいいと感じた。シアンを傷つけないために。
「......すまない、見た。」
そう言うと、シアンは顔を曇らせる。やはり、アレはシアンにとって辛いものだったのだろうか。
「本当にお見苦しいものをお見せしました。気持ち悪かったですよね。自分でも分かっています。あんなの人間じゃないって...。本当に、ごっ...ごめんなさい。」
シアンは顔を覆い、ガグガクと震え、許しを懇願しているように見えた。人を危険から守ったのに。なぜ、謝るのだろう。一体、何がシアンをそうさせるのだろう。
「そんなことない。お前は人を危険から守ったんだ。そのために特異体質を使ったことを謝る必要はない。おかげで、お前も他の戦闘要員が誰1人死ななくてよかった。こちらこそ、すまない。後方への配慮が足りず、お前に苦しい思いをさせてしまった。本当にすまない。」
シアンはそう言うとホッとしたような顔になり、にこりと微笑む。シアンの目には少しの涙が日光に反射し、きらりと光っている。それは、嬉し涙なのか悲しみの涙なのか凛都にはわからない。
「お互い様ですね。正直、びっくりしました。気持ち悪いって言われることを覚悟していたのですが...。あなたは他の人と違って優しいですね。」
悲しそうな表情をしながら微笑み、そう言う。
まただ。また、あの時のような表情をする。
それを見た凛都は自販機へと足を運び、1つの缶コーヒーを買う。それをシアンへ投げ、シアンはキャッチする。シアンは不思議そうに凛都と缶コーヒーを交互に見つめる。
「どうしたんですか?急に。」
「やる。感謝の気持ちだ。俺からの厚意だ。ありがたく受け取っておけ。この前みたいに拒否すんなよ?」
シアンはこくりと頷き、嬉しそうに微笑むと、缶をあける。
プシュと缶が音を鳴らせ、シアンがそれを飲む。
「...**ふぇ!?**何これにっが!?ってこれブラックコーヒーじゃないですか!何するんですか!感心した僕がバカでした...」
シアンは顔を真っ赤にさせ、ぷりぷりと怒る。それを見た凛都は面白おかしく笑う。
「クククッ。お前はそこら辺の"ガキ"とは違うんじゃなかったのか?あぁ、"ガキ"だから、ブラックコーヒーも飲めないのか。それじゃあ、オトナになれないな?子猫ちゃん?」
シアンは顔を真っ赤にし、悔しそうに歪める。
「ふんっ。バカにしないでください。これくらい、一気に飲めますよ!__うぅ、やっぱり苦い__」
そう言いつつも、勢いよくしっかりと飲み干す。そんな可愛い姿を見て、凛都は微笑ましく思う。
「ぷはぁ。どうですか!全部飲みましたよ!これで僕はガキではないんですよ!」
「クッ。**アハハッハーッ!**」
凛都はひいひいと大声で笑い始める。シアンは真っ赤に顔を染め上げ、目に悔し涙を浮かべる。
「なっ、何がおかしいんですか!笑わないでください!」
そう言い、凛都をぽかすかと叩き始める。力もあまり入っておらず、ぽこぽこと効果音がついているようだった。
それさえも凛都は愛おしく、笑いが抑えきれない。
「もぅっ!やめてくださいよ!」
2人の間には、穏やかな空気が流れていた____
ep.6 先輩と模擬戦闘と。(前半)
長くなりそうでしたので、前半と後半に分けようと思います。
無事にシアンは退院をし、元の生活が戻ってきた。
「こら!どうして、お菓子の袋をそのままにするんですか!ちゃんと封をしてここにしまってください!あと、もうすぐご飯なんですから食べないでください!夜ご飯食べれなくなりますよ。」
シアンは相変わらずお母さんのように口うるさい。凛都も凛都で面倒くさがりなところは変わっていないようだ。2人は少しばかり気を許せるようになっていた。
---
「シアンに会いたい奴がいるってよ。」
今日はオフなのでシアンと凛都は明日花と一緒にカフェにいる。
明日花はオレンジジュースを、凛都はアイスコーヒーを、シアンはクリームソーダを頼む。
「で、シアンに会いたい奴って誰ですか。」
凛都は明日花に問い詰める。
一方、明日花はオレンジジュースをちまちまと飲んでいる。呑気なところは今だに健在なようだ。
「ん?あぁ、鈴代と橘だよ。悪い奴ではないから安心しろ。」
明日花はタバコを取り出して吸おうとする。
「ちょ、明日花さん。ここでタバコはダメですよ。」
シアンは別で頼んだ苺パフェで頬をいっぱいにしながら、明日花を宥める。明日花はシアンに問いかけた。
「シアン、会いたいって先輩がいるけど会ってみるか?悪い奴じゃあないぞ。あの時の、お兄さんとお姉さんだ。」
「あぁ。『あの時の』ですね。もちろんいいですよ。」
シアンは凛都にはわからないような意地悪い言い方をする。凛都はそれを聞いて、少し寂しい気持ちになる。
「おい、あの時にって何だ。また隠し事か?」
凛都がアイスコーヒー啜りながら、むくれている。
「いつか話しますよ。そんなに拗ねなくてもいいですよ。」
またもや、シアンは凛都を子供を見るような目で微笑む。最近、シアンはこの目をすることが本当に増えたと思う。
(どっちが子供だよ...)
と凛都は心の底で思う。
「んじゃ、あいつらに連絡しとく。詳しい日時はまた今度教える。」
今日はそれで一旦解散した。
---
2人は保護施設の訓練場で先輩たちを待っていた。すると、糸目で豊満な胸のお姉さんと糸目で美形のお兄さんがこちらに向かってきた。
「わぁ!来てくれてありがとうねぇ。嬉しいわぁ。」
可愛らしい豊満な胸のお姉さん___鈴代穂花は頬に手を当てながら凛都たちに声をかける。そして、穂花がシアンを抱きしめ、その豊満な胸で窒息しそうになっている。
「ほの、やめたげてぇや。えらい苦しがっとーよ、シアン君。」
糸目で美形のお兄さん___橘晴日が穂花を関西弁で嗜める。
「ほんまかんにんなぁ。シアン君。こいつ自分のサイズ分かっとらんねん。」
「まぁ。そんなこと言う?今の時代はセクハラよ?セ・ク・ハ・ラ」
2人は冷ややかな目で睨み合う。仲がいいのか悪いのか。
「まぁ。今回のセクハラは私の寛大な心に免じて水に流してあげるわ。リンちゃんも久しぶりやねぇ。元気にしとった?中学生の頃が懐かしいわぁ。」
穂花は凛都の手をつかみ、ぎゅっと恋人繋ぎをする。それを見たシアンは少し怪訝な目を向ける。凛都は恋人繋ぎを素早く柔らかい手つきで振り払い、穂花に問いかけた。
「久しぶりですね。って、用事って何ですか?それで呼んだんですよね?」
穂花と晴日は目を合わせ、くすくすと笑い合う。
「リン君、せっかちさんはモテへんでぇ。」
晴日が凛都をニヤニヤと笑い、そう揶揄う。
「もぉ。そんなことないよー、ハル。リンちゃんはちょっと愛想が悪いだけよ?」
穂花がフォローになってないフォローを入れる。
うふふ、あはは、と会うといつも話が脱線し、凛都の頭の痛みが最高潮に達する。
「んで、用事って何ですか?話が色々だ脱線しすぎてるんですよ!」
穂花はのほほんと笑い、晴日はケラケラと笑う。
「リンちゃんごめんねぇ。さ、みんなで向こう行こ。」
---
「これから、模擬戦闘を始めますぅー!」
ぱちぱちと穂花が拍手をする。
「理由としては、シアン君。あなた死にかけたってね。あなたが不死に等しい身体ってわかっててもこっちは流石に驚くわよ。だからね、盾になる以外にも学んだ方がいいと思うの。」
そう、穂花は穏やかな声ながらも真剣な目つきでシアンを諭す。
「だからね、私とハルvsリンちゃんとシアン君で模擬戦闘を行います。ルールは簡単。それぞれの持ち武器を模した簡易麻酔銃を使って敵チームに当てる。武器によるけど、何発か当たったら身体が痺れて動けなくなるの。敵チーム全員が動けない状態になったら勝ちね。他に何かあるかしら?」
シアンがおずおずと手を挙げる。
「あの、持ち武器がわからないんですが...どうしたらいいですか?」
穂花は考えるポーズをし、思いついたかのようにポンと手を打つ。
「好きなの使いなさい。何でもいいわよ。これがいいって思うのを選べばいいと思うわ。」
シアンはこくりと頷く。
「それじゃあ、各更衣室に移動して、着替えて、所定の位置についてね」
---
「凛都さんは穂花さんのようなお姉さんが好きなんですか?」
更衣室でシアンにそう問いかけられ、凛都は危うく咳き込みそうになった。凛都は落ち着き払った声で答える。
「そんなことはない。」
「そんなことはないって。恋人繋ぎされた時、嬉しそうにしてたじゃないですか。」
シアンはそうぷくりとむくれる。凛都はその姿が少し愛らしいと思った。凛都はシアンの頭をくしゃりと撫で、リボルバー型のハンドガンを手に取る。
「シアン。お前はどれにするんだ?」
シアンは悩みに悩んだ結果、半自動型のアサルトライフルを手に取る。
2人は銃を手に、訓練場へと足を運ぶ。
---
「これから模擬戦闘を始めます。被験者は所定の位置についてください。」
2人は所定の位置に着き、最終確認を行う。
「それでは両者揃ったようなので、始めます。よーい、始め!」
ピーっとホイッスルが会場に鳴り響き、2人は一斉に駆け出す。
パァン____
どこからか銃弾が飛んでくる。すんでのところで凛都は銃弾を避ける。
「あら、外しちゃったかしら。惜しかったわぁ。」
そう呟いたのは、近くの高台にいる穂花だった。穂花の持ち武器はそう|狙撃銃《スナイパーライフル》だ。
「最近、任務がなくて腕が鈍ってるんじゃないですか?」
凛都は不敵に微笑み、穂花を挑発する。
「リンちゃん。生意気になったものねぇ。そんな防戦だけじゃあ体力が削れていくんじゃなくって?」
パン、パァン____
明日花の放つ弾が凛都を襲う。穂花は意外と脳筋のようで数撃ちゃ当たる戦法をとってくる。しかし、どの弾も緻密に計算されたように精密で正確で凛都には避けるのが精一杯だった。
すると、つまらないのか一緒にいたシアンに標的を変える。
パァン____
一発の銃弾がシアンに飛んでくる。それを凛都が庇おうとすると、穂花の怒声が響く。
「そんなことしてたら、シアン君のためになりません。そんなことさせるために呼んだわけではないのですよ。そこのとこをきちんと理解してください。」
その言葉を聞き、咄嗟にシアンから離れる。
それを見たシアンは銃弾を避けようとするが、髪に掠り、穴があいた。
「初めてにしては上出来なんじゃないの。」
そう微笑んで、どこかへ飛び去ってしまった。
まさかの新キャラですね!
後半に続きますので、しばしばお待ちください!
ep.6 先輩と模擬戦闘と。(後半)
後半です。前回を見てない人はそちらから。
「行っちゃいましたね。しかし、穂花さんの『空中移動』はすごいですね。」
シアンは穂花の去っていった方を見つめる。
穂花の特異体質は『空中移動』。その名の通り、空中に空気を圧縮した見えない足場を作り出し、それを乗って移動するものだ。好きなところに足場を作り出せ、慣れていないものはよく落ちるそうだ。そんな難しい特異体質を穂花は難なく使いこなす。そこには血の滲むような努力があってこそのものなのだろう。
「ほのの特異体質すごいやろ。俺の自慢の幼馴染なんやで。」
振り返ると、そこには晴日がいた。
ひゅっと息が詰まる。そこに至るまでの気配がなく、恐ろしく不気味だった。
パァン____
何の前触れもなく銃弾を発射してきた。
その弾が凛都の腕に直撃する。一瞬腕に痛みが走るが、何とか立て直す。
「油断は禁物やで。これが本当の任務やったら、致命傷になりうるで。」
晴日は冷ややかな目で言う。晴日は持ち武器の二丁拳銃のハンドガンを構え、こちらを見定める。静寂な空気に包まれた中でカチリと引き金を構える音が響く。
パァン____
先に引き金を引いたのはシアンだった。
シアンが放った銃弾は初めにしてはあまりにも的確で、まるでどこかで習ったことがあるかのように計算され尽くしていた。
パァン____
シアンの放った銃弾を晴日は銃弾で跳ね返す。まるで神の御業のようだ。
ターン、ターン____
どこからか穂花も応戦してきて、乱戦となる。
2人vs2人でも、穂花と晴日タッグの方が一歩上手で、軽々と銃弾を避ける。
しかし、シアンの放った銃弾が晴日の横腹に直撃した。晴日は一瞬苦悩の表情を浮かべるも、すぐに体勢を立て直す。
「シアン君、意外と銃上手いねんな。どっかで習ってたん?」
晴日は不適な笑みをシアンに向け、銃弾を放つ。
「あなたも知っていると思いますよ。なんせ、あの時僕のところに来たんですからね。」
シアンはひゅっと銃弾を避けた。凛都の知らないシアンがそこにいる。そのことに不快感に覚える。なぜ、凛都には隠し、晴日は全てを知っているのだろう。
パァン____
穂花が放った銃弾が凛都の腹に直撃した。これまでに何度か銃弾が当たっていたので、ふらふらと後ずさる。そのうち、目がぐるぐると回り、その場に倒れ込んだ。
「凛都さん!?大丈夫ですか!」
(シアン、背中を見せては行けない)
意識が朦朧とする中、凛都は心の中でそう思うもシアンには届かず、シアンも銃弾で撃ち抜かれた。その瞬間シアンも倒れた。
そして、2人の負けは確定した。
---
目が覚めると、凛都と訓練場の休憩室にいた。シアンはまだ眠っているままだった。
「おはようさん。よぅ、眠っとったで。」
凛都とシアンはソファで、晴日の隣の椅子に腰掛けて眠っていたようで、ふわぁとあくびをする。
「1時間くらい寝てたで。麻酔銃やけん、大丈夫やと思うけど。一応身体に不調はないか確かめてといた方がええで。」
晴日はいつになく、優しく接してくる。気持ち悪いくらいに。
「あと、穂花はもう帰ったで。今から晴日様特製激ウマココア作ったるでー!」
晴日は大分な甘党で、吐き気がするくらい甘々なココアをいつも作る。いらないと言えば、砂糖を足してくる鬼畜なので、断らずに飲むことが最善だ。
晴日は激甘ココアの入ったマグカップをことりと机に置く。
一口、口に入れると、ねっとりとした甘みが口の中で広がる。相変わらず、甘すぎる。ココアに砂糖は|甘党《バカ》のやることだ、と凛都は思う。
「用があるから、もう帰るで。シアンくん置いていったらダメやで。」
そう晴日はほのめかし、帰っていった。
凛都はシアンの方を見ると、シアンはうなされていた。はぁ、はぁ、と息を荒らげながら、顔には涙を浮かばせる。
「母様、父様、ごめんなさい....出来損ないでごめんなさい...」
悪魔を見ているのだろうか。凛都はシアンのことをまだ何も知らない。知っているつもりだった。
凛都はシアンの前髪に触れると少しばかり落ち着きを取り戻す。そのうち、すぅすぅと寝息を立ててぐっすりと眠りにつくだろう。
素性も不明で何も知らないシアンを凛都はいつしか守りたいと、一緒にいたいと思い始めるのであった。
幕開け 不穏な空気が街を蝕む。
トントントン____
シアンはいつものように昼ごはんを作っていた。今日のご飯はオニオンスープにマカロニグラタン。喜んでくれるかな、シアンは浮かれながら、そう考えていた。
シャッ____
「っ!?」
うっかり包丁を滑らせ、手を切ってしまった。でも、そのことが問題じゃない。少しピリッとした鈍い感覚が指に走ったのだ。これは痛みだ。
久しぶりに感じる痛みだ。もう、感じることはないと思っていたのに。
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凛都は少しコンビニに行っていた。コーヒーとそのお供を買って帰ろうとしたその瞬間。
「おい。金を出せ。さもなくばこれで客全員ぶっ殺すぞ。」
店に強盗が現れ、店員に刃物を向ける。どうやら百均で売ってあるようなお粗末なナイフのようだ。悪趣味な奴だ。店員は怯えながら金をレジから取り出している。犯人は金に目が眩んでいる。その所に凛都は背後から近づき、ナイフを叩き落とす。強盗はぎょっと驚いた顔をしたが、そのマヌケな面は一瞬にして白目に変貌し、その場に倒れ込んだ。そう、凛都は腹パンを喰らわせたのだ。その後、客の1人が警察を呼んでいたみたいで、強盗は逮捕されていった。一応、ナイフは証拠として押収されていった。
「お前らが俺を捕まえても、レイさんは不滅だからなぁ。レイさんはお前たちに屈さないんだからなぁ!レイさんこそ、この世の支配者なのだぁぁぁ!」
気色の悪い笑みを浮かべながら、そう叫んだ。
レイとは何者なのか。背筋がゾクリとし、嫌な予感がした。その予感は的中するのかはまだ誰にもわからない。
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「また1人駒が減ってしまった。まぁ、いいか。あいつどうせ逮捕されそうだったし。」
1人の男が夕暮れの中で酒を嗜んていた。酒の名はマティーニ。
「もうそろそろ社会の犬である兵器たちが動き出す頃だろう。楽しみだなぁ。一体何人が死ぬんだろ。考えただけで興奮するよ。楽しみだ。」
男はそう言い、身を捩らせる。そして、人を呼びつけた。奥から白髪で長髪の老人が出て来た。
「もうそろそろここの拠点も奴らにバレてしまうな。新しいところ探すの面倒なんだよ。もういっそ野放しにしてくんないかな。セバスチャン。不動産屋へ行ってこい。新しい新居を探さなくてはね。」
「了解しました。坊ちゃん。をすぐに新しい拠点を支配しておきますゆえ。もうしばらくお待ちください。」
「セバスチャン。よろしく頼むよ。最高の舞台にふさわしい場所を。」
男は不敵に微笑み、グラスに残っていたマティーニを一気に飲み干し、傍に置いてあった日本刀を手に取った。
ep.7 過去に鎖のように縛りつく。
最近、化け物の動きが活発化していると連絡が入った。真夜中に呼び出されることも多々あった。
そんな中、凛都とシアンは本部へと呼ばれた。2人は電車に揺られ、本部へと向かう。駅から少し歩くと、大きなビルが顔を見せた。そう、ここが本部。
2人は中に入り、専用のカードをゲートに通した。これは特殊なカードで、戦闘用員のみに配布されるものだ。所持者の全ての|情報《データ》がこのカードのメモリに入っているそう。
ゲートはカードをスキャンし、ピロリンと電子音を鳴らした。カメラが姿を見せ、凛都の全体をまじまじと見ていく。「本人確認が完了しました。」といかにも機械らしい無機質な声でそれを告げた。シアンもそれを終え、中へと入る。本部は近未来的な作りになっており、あちこちにAIやロボットが備わっている。ガラス張りのエレベーターに乗り、待ち合わせの会議室へと向かう。中に入ると明日花が重厚な茶色の革ソファに腰掛けていた。
「よぉ。|凹凸《でこぼこ》コンビ。話があるんだ。座れよ。」
明日花の言われるがままに向かいのソファに座る。机には一つの資料が置かれていた。
「危険任務の依頼だ。」
空気が一気にひりつく。危険任務とは生きて帰って来れるかどうか怪しい任務だ。実際に危険任務で死んだ人も数多くいる。それくらい死と隣り合わせなのだ。
「任務地は旧英国街。」
シアンの目が見開かれた。その直後、椅子から崩れ落ちた。
はぁはぁと苦しそうに過呼吸をし、蹲る。
明日花はすぐさま駆け寄り、背中をさする。
凛都はその光景に驚きと混乱で身体が固まる。
「大丈夫か。シアン。落ち着いたか?」
明日花は心配そうにシアンに声をかけた。
シアンは苦しそうにこくこくと頷いた。
「大丈夫です。少し、嫌な過去を思い出しただけですから。心配ありがとうございます。僕のことはいいですから、続きを話してください。」
明日花は心配そうにシアンを見つめるが、話さないわけにもいかないので話を再開した。
「旧英国街に化け物『#005』が明日の真夜中に現れると本部に予告があったんだ。」
『#005』は化け物の中でも話が通じるものの一種で、かなりな正義感が強めなのか犯行を起こす際、予告をしてくる。一見、戦闘用員が有利に見えるが、ものすごく強い。人間のような見た目をしており、容姿は個体によって様々。普段は人間に扮して隠れている。唯一の特徴が耳がエルフのように尖っていることぐらいだ。
シアンも落ち着いたかみたいで、冷静に分析していた。
「『#005』って強いですが、危険任務に該当するほどではないですよね?過去にそういう事例はないですよね。」
シアンは謎に思ったのか、小首を傾げた。すると明日花は沈痛な面持ちでそれに答えた。
「事例がないからなんだよ。今回の個体はわざわざ本部に直接言いに来やがった。警備員で総攻撃したら、喰らわなかった。全身がバリアで覆われているような。その上、返り討ちにした。それでも攻撃した奴以外のは殺さなかった。本部はあいつは大分余裕があると見た。おそらくあれは特殊個体だろうと。」
特殊個体...。それは戦闘用員のように特異体質を持っている化け物のことを指す。上級位の化け物ほどそれを保有する確率が高い。
「そういうことでか。対策はとってあるのか?運が悪ければ全員死ぬぞ。」
凛都は脅すような口調で明日花に問いかけた。危険任務の中でもさらに危険な任務。全員死ぬで済めばいいが、民間人にも危険が及ぶ可能性がある。
「それは大丈夫だ。……だ。」
凛都とシアンは明日花に対策を教えてもらった。それなら勝ち目があるかもしれないが、危険が伴うものだった。
「わかったか?それじゃあ今日は解散だ。明日に備えてゆっくり休息を取ることが約束だ。いいな?」
凛都とシアンは力強く頷く。明日は危険な日となるであろう。また、シアンの過去が暴かれる日であることはまだ誰も知るよしもなかった。