あれです。
分かる人にはわかる。
500字以内でポンポン投げます
かるーい気持ちで読んでくだされば幸いです。
星座創作とかタグつけてますけど主人公が主人公なので星座ほとんど出番ないっすね…ははは
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目次
1.はじまり
これは遥か昔、とある一等星のお話。
目が覚めた。目の前は静かで、誰もいなかった。
ふと、体を起こす。頭上で瞬く星たちは美しく、自分を見下ろしているようだった。
そんなこんなで今日という一日が始まる。
ここは誰もいない場所。広く狭い個人スペース。白い壁と、荘厳さを感じる柱が立った不思議な宮殿である。一人で使うにはあまりにも広く、何故誰もいないのか不思議であった。
先日、このだだっ広い空間に出口を見つけた。その先には不思議と行ってはいけないような気がして、少々億劫だった。
だが幼き好奇心は止められない。今日はこの先へ行くと心に決めている。
小さな体には重たすぎる白い扉をぐっと、開いた。
そこには一面緑の草原が広がっていた。
足元をくすぐる生い茂った草と、髪をなで吹き抜ける風。そして降り注ぐ太陽の光。全てが真新しく、物珍しいものだった。
しばらく、空を行く鳥を追いかけて遊んでいたら疲れてしまった。近くの木の枝に腰掛け、遠くを見渡していた。
すると、遠くに立派な城があることに気付いた…
多分まだ続きます
初めてなので、下手なのは許してやってください。
2.道を往く
大きな城の門の前に着いた。
無駄に豪華な装飾と、大きな城の壁がこちらを見下ろしている。
この中には何があるのだろうと、覗きに行ってみようと思ったが……生憎、真実を知ることはなかった。
衛兵に追い出されてしまったのだ。
仕方なく、別の場所へ当たってみることとした。
まずは山を訪れた。
小さな体では登るのも一苦労であったが、苦難の末山頂にたどり着いた。
山からの眺めは一見の価値ありである。
その甲斐あってか、城とは別の方向に町があるのが見えた。
今度はそこへ向かった。
町に到着した。
町人は忙しなく働いている。皆、あの城に住む者の民なのだろうか。
汗ばむ町人の顔は疲れているのか元気がなかった。しっかり休んでほしいものだ。
しばらく町を散策して、日が暮れる頃に帰ろうと思った時だ。
少しばかり、トラブルに見舞われた…
3.邂逅?
痛い。
通りすがり、人とぶつかった。
しかしまあおかしな事に特に不注意はなかった。人がいたなら必ず気付くはずだが。
あたかも、そこに急に現れたかのような…
「だ、大丈夫かしら?」
一見華奢に見える少女は転んだ自分にそう言って手を差しのべた。
彼女の手を取って立ち上がる。
「怪我とかはないかしら?良かった…ごめんなさいね。少し、急いでいたもので。」
彼女の格好に目をやる。気付いた。
ボロボロな服を着て、足枷がついている。
これは…諸に囚人であることを指している。
不躾だが聞いてみた。
「あら…気付いてしまった?そうなの、|私《わたくし》は色々あって囚われの身なの。でも気にしないで。大丈夫だから。」
しばらく、不思議な少女と会話した。
時間はあっという間に過ぎて行った。
「あら、そろそろ戻らなきゃね…今日は楽しかったわ、ありがとう!ごきげんよう。」
そう言ってふと、虚空へ消えていった。
彼女がここに残したのは静寂だけである…
4.新世界
ひとまず、その場を後にして元の場所へ帰ることとした。
今日はもう遅い。明日の冒険に備えて寝よう。
…目が覚めた。今日は、別の入り口へ行ってみようと思う。
この宮殿には、いくつかの扉がある。思うに、それぞれ別の場所に繋がっているはず。
今日は昨日の扉の隣を開いてみた。
重たい音を立てながら新世界が開ける…
いきなり熱風が押し寄せた。どうやらここは砂漠のようだ。
昨日とは打って変わり、生命が住まうには厳しすぎる熱と乾燥。
足元には身を焦がすような熱さの砂。
一度立ち止まるだけで全身から汗が吹き出すようだ。
ふと、近くを通りすがるキャラバンが見えた。
少し彼らの後をつけてみることにした。
しばらく歩くとやはり町が見える。
しかし昨日草原で見たものとは違い、また別の雰囲気を感じる建物が並んでいる。
奥には、大きな宮殿が建っている。
ここにはどうやら指導者が住んでいるようだ。
砂の民たちは賑やかに何かを語りあっている。
ここにも、冒険の予感がした…
5.星座
小高い場所から周りを見渡した。
一面砂だらけであまり違いのない風景が写っている。
よく目を凝らしてみると、遥か遠くに何か建物があることに気付いた。傾いて、半分埋まってはいるが。
気になりはするが、あそこはどうも遠くて行くことが叶わない。残念だがまたの機会にした。
暇なので町を散策してみたら、不思議な人に出会った。
「あら貴方。見慣れない方ね」
長い髪に長い杖を持った女性。そして何より町人とは雰囲気が違う。これは…
「申し遅れたわね。私は天秤座。ここで裁判官をしている者です。」
驚いた。どうやら星座だったらしい。
職業があるのなら忙しくないのか、と聞いてみたら
「ええ、いつもは忙しいの。でも今日はどうやら|暇《いとま》ができたみたいで。こうして散歩に来ていたのよ」
大人でも、たまには暇らしい。
ちょっとばかし話に付き合ってあげた。
6.雑談
「貴方、何てお名前なの?」
話はそこから始まった。
名前…考えてみれば自分を指す名称なんて考えたことなかった。ましてや、今までそれが必要になった場面などなかったのだから。
「あら…お名前が分からないのかしら。困ったわね…何と呼ぼうかしらね…」
天秤座と名乗った女性は困り果てている。
自分からすれば大した問題ではない。適当に呼んでくれと言った。
「じゃあ貴方をバツちゃんって呼ぶわね!」
バツ…ちゃん…?変な名前だ…
この人の感性には頼らない方が良いかもしれない…
「それでバツちゃん、貴方はどこから来たのかしら?」
そのまま話を進める気か。まああまり気にはしないのでとりあえず説明した。
物心ついた頃には誰もいない、常に星空が見える場所にいたこと。そこには不思議な扉があって、それを通ってここへ来たこと。
天秤座は怪訝そうに首を傾げる。
「そんな場所、私は知らないわね…。それにしても幻想的ね。常に星空が見えるなんて、ロマンチックだわ。」
それはそうかもしれない。とっくに見慣れたが。
この人との会話は、なんだか飽きなかった。
あっという間に1日が過ぎて、元の場所に帰ることにした…
7.歩み
あれから数日が経った。
今日もまた、新しい扉を開いて冒険に出るつもりだ。
そういえばこの扉はいくつかあるのだが、そのどれもがバラバラの場所に行くわけでもないらしい。
この前は、見たことない場所を訪れた。異国情緒溢れる島国だったようで、話す言葉も違っていた。
その次の日は、なんだか既視感を感じるような場所だった。案の定、前に来た草原に近い所だったようで、少しがっかりした。
ある日は遠くに見えていた雪山にも行った。
灼熱の砂漠とは違ってとても寒かった。
またある日は、建設中の新しい町を見かけた。通りすぎるとお伽噺みたいな城があったりもした。
ここのところ色んな場所へ旅をした。1日だけという制限を自分で設けてはいるが、意欲は満たされていた。
最後の扉を開く。
また外れだ。なんだか見たことある風景にたどり着いた。
平原の辺りはもう来たことあるのだから、まだ見たことのない場所へ行きたかったのだが。
まあでもたまにはそんな日があってもいい。
とりあえず、目の前の森へ歩きだした…
8.危機一髪
深い森だ。
草木を分けて進めど進めど、同じような光景ばかりが見えてくる。
周りが全く見渡せないせいか異世界に紛れ込んだような気分だった。知ってた世界の近くにこんな場所があったとは。灯台もと暗しとはこのことか。
途中で色んなものを見かけた。光るキノコだとか、森の動物だとか。全部初めて見たものだ。
気になったものは持ち帰って飾ることにした。光るキノコを数個と、森の木の実を少し拾った。
その時、後ろから感じたことのない気配を察した。
それは穏便ではなく、危険を感じる…
危なかった。反応するのが一歩遅かったら死んでいたかもしれない。
巨大な獣に襲われたのだ。
ゴワゴワの毛皮、軽く自分2.5人分はありそうな背丈、頑丈で鋭い爪。
間一髪、引っ掻きを躱したことで事なきを得た。が、逃げているだけなので当然後ろをつけてきている。
元々運動はしていない訳ではないが、とりわけ体力があるわけでもない。すぐに息が上がってきた。後少し、振りかぶられたところで…
「危ない!」
自分は助かったのだ。
9.宿泊
疲れた。
ずっと走って来て、流石に疲労が溜まっている。
「大丈夫かい、君。とりあえず無事なようで何よりだよ」
そう語りかける男は下半身が獣であった。
いわゆる、ケンタウロス。
「あの獣、ずっと昔からこの森にいてね…見境なく襲いかかる狂暴な熊なんだ」
あの獣は熊って言うのか。覚えておこう。
それにしても、何故あんな森の深くで襲われていることに気付けたのか。
耳がいいんだろうか。おかげで助かった。
「そういえば君、こんな深い森になんの用だい?普通なら、道を辿って来るだろう?」
…え。
そんなもの、辺りには見つからなかったが…
「ほら、草原の方の町。あそこからここまで直通の街道があるじゃないか」
…道理でだ。反対側にいたからなのか見つかりもしなかった。
その旨を説明すると
「え!?君、だいぶ変わり者なんだねぇ…」
と困られた。困ってるのはこっちなんだが…
「とりあえず今日はここに泊まって行かないかい?明日にでも出発して、案内してあげよう」
なんか迷子と間違えられている気がする。ともかく、この日は初めての宿泊ということになった。
10.祝い
辺り一面草木の匂いがする。
ここは、ケンタウロスが暮らす町なんだそうだ。
案内してくれたのは若い男のケンタウロス。
その手には弓が握られている。
宿を紹介された。広いとも狭いとも言えないワンルーム。
寝床は藁でできている。いつも硬い床で寝ているのでカサカサした藁でも柔らかく感じるものだ。
窓からは神秘的な森の日差しが溢れてきている。
一旦寝転んで、天井を眺める。
さっきまでの疲れがどっと来たのか、あっけなく眠りに落ちた……
…目が覚めた。なんだか外が賑やかだ。
窓からの光はなく、どうやら夜に目が覚めたらしい。
少し様子を見てみることにした。
木製のドアを開ける。
どうやら狩りに出かけていたケンタウロスの群れが帰ってきたらしい。
たくさんの獲物を担いでいた。
獲物の1つを、姿焼きにして皆で分かち合っている。
自分も少し分けてもらった。味が濃厚で塩味がよく効いて美味かった。美味しいものを食べたのは久しぶりかもしれない…。
その日の収穫は、自分も一緒に感謝した。
明日はここを発つ。
その準備だけしてもう一度寝ることにした。
11.朝散歩
「おはよう。君は朝早いんだねぇ」
起きて外に出た時に、昨日町まで案内してくれたケンタウロスの若者にそう声をかけられた。
いつもの感覚で起きているから早いとか分からなかった。彼らからすれば、自分はどうも早起きらしい。
「早起きは三文の徳ってことわざを知ってる?」
ことわざ?何だろう。
「早起きすれば少し得するって意味さ」
そうなのか。
まあでもいつもこのくらいに起きているから早起きではない気がするが…
「良ければこの森を案内してあげよう」
そう言って若者は背中に乗せてくれた。
若者は森の中をズンズンと進んでいく。流石暮らしているだけある。
「そういえば自己紹介が遅れたね。僕はアウストラリス。この森で弓使いをしてる。皆からは、変人って呼ばれるけどね…」
弓を使うことは変な事なのだろうか?そう聞いてみた。
「変な事ではないよ。ただ、我々ケンタウロスが使うなら、弓より斧とか棍棒みたいな近接武器の方が強いんだ。」
確かにケンタウロスは足が速い。体の大きさと速度を考えれば妥当かもしれない。
「着いた。ここだよ」
|若者《アウストラリス》に案内されて着いた場所は…
12.ハプニング
「どうだい?とても綺麗だろう?」
彼の言う通りで、目の前には綺麗なせせらぎがある。
緩やかで浅い流れ。太陽光で煌めく水面。
全てがこの場所を引き立てていた。
少し眠気にあてられていた顔をここで洗い流してみた。
ちょっとさっぱりした。
「この川は、この森の生命線なんだよ。」
水は大事だからそうなのだろう。この神秘的な場所はなくてはならないのだ。
「じゃあ次の場所に行ってみようか」
そう言って移動しようとした時だ。
ハプニングが起きた。
「…っ!?危ない!!」
後ろから何者かが奇襲してきた。びっくりして転げてしまった。
その正体は…この森に入ってきた時に襲いかかってきたあの熊だ。
「君!こいつは中々ずる賢い。距離を取るんだ!」
そう言われてもこの熊は自分を執拗に狙っている。しつこい奴だ。きっと獲物を捕まえようと必死なんだろう。
奴は立ち上がって襲いかかってくる。
「くらえッ!!」
アウストラリスは弓を放つ。だが熊の分厚い革の前では効き目は薄い。
「くそ…次は目を…ッ」
彼は弓を引き絞る。でも自分には不思議と見えている。
このままでは自分も彼も危ないと。
初めての戦闘シーンですねぇ
頑張ります
13.機転
負傷表現があります。
|奴《熊》はまた立ち上がって襲いかかろうとする。自分ばかりを狙って、見えていないかのようにアウストラリスを無視している。
「くッ…これでも…!」
彼は熊を矢で撃つが、熊の防御は攻撃を通さない。ほぼ無傷である。
「だめだ、いくら強く引き絞ろうが奴には効きっこない…」
アウストラリスは半ば心が折れている様子。
それだと被害を受けるのはこっちなんだよな…と思いつつ策を考える。
上から物を落としてみるのはどうだろう。
「なるほど、周りの環境を利用するのか…やってみよう」
自分は熊を誘導し走る。彼には特定のポイントで待機してもらっている。
熊は足が速い。最初に出くわした時もすぐに追い付かれて危なかった。
そして案の定追い付かれて振りかぶられた。
痛い。
幸い致命傷とはならなかったが傷から出血している。やはり森は薄いワンピース一枚で走り回るところではない…
決死の追いかけっ子が続いて、流れはこちらに傾いたようだ。
狙いの場所まで誘導して、アウストラリスの撃った矢が頭上の木をへし折った。
追いかけてやってきた熊は木に押し潰された…
14.絶望
「やったぞ、君!」
アウストラリスは喜んでいる。何せ、自分たちで脅威を取り払ったのだから。
「それより、君の傷を処置しなければ。出してごらん」
熊に引っ掻かれた腕を見せる。かろうじて、傷は浅い。
「うん、これくらいなら包帯は足りそうだね…」
その時だった。後ろからただならぬ殺意がした。
奴は、まだ生きていた。
「な…まだ生きていたのか…!?」
奴の目には怨念を感じる。はっきりと『殺す』という意図が見えるくらいには。
「うぅ…戦うことを想定していなかったから矢がもうない…ッ」
彼はもう弓を使って戦えない。周りに利用できそうなものも見当たらない。
正真正銘の、ピンチだ…
「に、逃げよう君!」
アウストラリスが自分を担いで逃げようとした時だ。熊がかつてないくらいの速さで逃げ道を封じてきた。
「こいつ、意図が分かってるのか…!?」
アウストラリスは若干恐怖に呑まれている。
「ああ、こうなるのなら最初から、斧の1つでも練習しておくべきだった…弓なんて所詮、おもちゃでしかなかったのか…?」
…。
15.立ち上がれ
違う。
まだ諦めるべき時じゃない。
何か、手があるはずだ。
「だが君、矢はもうないんだ…攻撃ができない…」
矢はないんだろ?なら、矢の代わりを探せばいい。
そう、例えば…
「…風」
うん。それを、矢にしよう
「待ってくれよ…僕は魔法なんて使ったことなんてないんだよ…?」
大丈夫。君には風の力を感じる。きっとできるはずだ。
時間がない。時間を稼ぐから、頼んだよ。
「ま、待って……ッ!」
…とは言ったものの、どうするか。
正直この枝一本でどうにかなる気もしない。だがとりあえずやらなければ何ともならない。
冒険とは危険が伴うもの。これは第一の試練だ。
熊の前に立ち塞がる。奴は咆哮した。周りの空気がビリビリと痺れて感じる。
でも怯まない。無茶苦茶に枝を振り回して応戦した。
奴の攻撃を受ければひとたまりもない。
できるだけ避けて、気を引く。
動き回っていたら、懐から何か落としてしまった。昨日拾った森の木の実だ。
「…!!」
熊の意識がそちらに行く。そうか、最初から狙っていたのはこっちだったのか…
この隙を見逃さない。すぐさま、攻撃に転じた。
16.逆転
弱くてもいい。
一突き、二突きと硬い枝で刺していく。
熊の毛皮は分厚く攻撃を通さない。から、守りの薄い場所…顔を狙って突く。
あわよくば目を、と思ったがやはりそこだけはどうしても奴は守ってくる。
それでも奴の攻撃を見極めて攻撃を入れる。
それはまるで、攻撃と守りのターンバトルだった。
だが体力勝負では野生の動物には敵わなかった。
奴はずる賢い。疲れて鈍くなる時を待っていた。
足元をすくわれて転んで隙を晒してしまった。
まずい。死ぬかも…
…風の音が空を切った。
頭の上から血の匂いがする。
ふと後ろを向くと、アウストラリスが弓を構えている。
「…できた。これが、風を操るということ…」
よかった。魔法を習得したらしい。
そして熊は立ち上がろうとするが、彼がそれを許さない。
「はッ!」
彼の放った風の矢は熊の分厚い装甲を貫通し、心臓を貫いた。
形勢逆転だ。
アウストラリスは熊に幾つも矢を放ち強敵を仕留めた。
「やった。君のおかげだ!」
彼は言う。でも自分は首を横に振る。
この勝利は君の勇気と誇りに捧げよう。
17.帰還
いやはや今日は既にいろいろあって疲れた。
まさかあんなに強大な敵を打ち負かすとは。
「本当に君はすごいね。おかげで僕もいい経験になったよ。」
いやまあ、戦ったことはないんだけれどな…
でもいい経験というのは否定しない。冒険には危険がつきものだ。
いつかの訓練にはなるだろう。
「そういえば、君はこれから帰るんだろう?良ければ案内しようか?」
案内なら平気だ。強いて言うなら森から出る道を教えてほしい、と頼んだ。
「!✨喜んで!」
彼の背中にまたがって出発した。
森から出た。時間はあっという間で、もう日は傾きつつあった。
「今日は本当にありがとう。また、いつかここに来てくれたら嬉しいよ」
もちろん。また来るつもりだ。
ケンタウロスの友達を背に歩き出した。
夜の帳が降りてきた頃、かつて訪れた草原の町の近くの扉に着いた。
今日の出来事に思いを馳せながら、重たい扉を開く。
今日はよく眠れそうだ…
18.新たなる旅路へ
あれからまた数日が経った。
あらかた扉を周り終えたので、今度は周辺を探索するなどして地形を把握してみようと思う。
とりあえず準備をして、草原の町に続く扉を開く。
溢れる光は眩しく、暖かった。
最初にここを訪れたのはまるっきり1ヶ月前になる。
あの時も今も変わらない。というより、そんな時間経ってないから変わってたらおかしい。
確かあの時ここで不思議な少女を見かけて…
「あら?呼んだかしら」
…平然といた。
今日も脱獄したのかい、君。
「だって…牢の中は退屈だもの」
囚人と思えない自由さだ。というかどうやって抜け出しているんだい君…
まあこんな事を聞いても野暮だろう。
グッと堪えて喉の奥にしまっておいた。
「今日もお話に付き合ってくれるかしら?」
まあ、特にする事もないので付き合ってあげることにした。
19.会話
「そういえばあなたの名前を聞き忘れていたわね。」
話はそこから始まった。
名前か…前もこの問題にぶち当たった。
自分を指す呼称らしきものは心当たりがない。今までにそう呼ばれたのは天秤座の「バツちゃん」くらいしか…
「あら、あなた名前がないの?困ったわ…」
そういえば君こそ名前を聞いていない。
「あ、私?私は よ。」
なんかよく聞こえなかった。名前だけノイズがかかったというか…
「やっぱり聞こえないのね。悲しいわ…」
やっぱりって。知ってたなら事前に言ってほしいものだ。
「それはそうとてあなたに名前がないのは困ってしまうわ。どこかで悩んだりしてない?」
…した。変なあだ名つけられて解決したけど。
「ふふ…なら、私があなたにピッタリな名前を考えてあげるわ。」
自分の…名前…?
いつもひとりぼっちな自分に必要あるだろうか。
その名前を呼んでくれる存在はいないはず。
「いるわよ。ここに。」
君が?
いつも会える訳ではないのに。
「あなたが会いに来る限りはいつでも会えるわ。それより、もう行かないと。次回までには考えて来るわ。じゃあね!」
そう言って再び虚空に消えた。
全くいつも振り回される…
20.前準備
まったく、出鼻を挫かれた。
とにもかくにも草原の町に出発した。
改めて見るとこの町は中々大きい。
この世界で一番大きな城に一番近いからだろうか。
相も変わらず町人は忙しく働いている。
先日ちょっとした事でもらったお小遣いでお買い物してみた。買ったものはパンだ。
外はカリカリ、中はふわふわでとても美味しい。
それ以外にも色々買って、一旦休憩する事にした。
町の中心の噴水に腰かけ武器として扱っている木の棒きれを取り出した。
よくよく考えてみればなんでこんなものを武器に旅をしていたんだろうか…
折れてもおかしくないだろうに、よくここまで持ちこたえたものだ。
その功績を称えてすこし磨いてやった。
いよいよ旅立ってみた。
買い物の時に手に入れたコンパスで方角を見ながら進む。
今回は南へ。何が見つかるだろうか。
今からでもワクワクする。
21.開拓
歩くこと数十日。ついに辿りついた。
辺り一面広い砂浜だ。
ここなら来たことがある。あの扉で出られる場所の一つだ。
こういう風に繋がっていたのか。
休憩がてら、砂浜で遊んだ。
日差しが眩しい。
しばらく遊んでからふと気になった。
この海の向こうには何があるのか。
海を渡る術があればいいんだが、生憎そんなものは持ち合わせていない。
諦めて浜辺沿いに歩いた。
歩いていたら何やら遠くに見える。何だろうか。
近づいて見てみた。
わあ。海に何かが浮かんでいる。
自分よりも遥かに大きいのにどうして水に浮いているんだろう。
「やあ、小さなお客さん。」
ふと声をかけられた。振り返ると、帽子を被ったおじさんがいた。
「船に乗るのかい?乗り場なら、あっちだぞ。」
これは船って言うのか。
話に聞くとこれで海を渡れるらしい。
都合が良い。乗せてもらうことにした。
初めての、船旅だ…
22.船酔い
深い青さの海。水面に輝く陽光。頭上を飛び戯れるカモメの群れ。そして頬を撫でる潮風…
これが船旅か。波で揺られて不思議な気分だ…
………
正直酔ってしまった。船は少し苦手なのかもしれない。
へろへろになりながら甲板を歩いていたら、知っている人影が見えた。
「また会ったね、小さなお客さん。その様子だと、船酔いしたかな?」
全くもってその通り。縦にも横にも揺れるものだから朝ごはんがカムバックしそうだ。
「そんな時は深呼吸をして少し休むといい。船内にある椅子をご利用してくれよ?」
親切なおじさんだ。ありがたく使わせていただくことにした。
椅子で横になる。さっきより幾分マシになった。
外の景色も見えないとなると、退屈するのは目に見えている。
これまでの冒険を振り返ってみることにした…
23.振り返り
最初は草原。大きな城、それよりも大きな山。不思議と危険の潜む森とケンタウロスの友達。そういえば町で変な少女にも出合ったっけ…
次は砂漠。中々栄えた町で暮らす人々を見た。あんなに暑かったのによく生きていけるものだ。そういえば別日に何もない荒野に辿りついたこともあった。
その次は雪山。打って変わって寒かった。
ここで魔物を軽く狩ったら報酬金が出て初めてのお小遣いをもらった。これは今日使った。
明くる日は建設途中の町を見かけた。
皆せこせこ働いていて話す暇がなく何を作っているのかは分からなかった。仕方なく移動したら、近くに幻想的な国があることに気づいた。ここにも扉があった。
別の日には突然海の中だったこともあった。
溺れかけて大変だった。その日はたまらず別の場所に行ってみたけどそこも海(海底洞窟)で仕方なく諦めたこともあった…
そしてさっき辿り着いた砂浜も、来たことがあった。その日は軽く日焼けするまで海辺を楽しんだ。
思い返してみれば、既にたくさん冒険した。
そして思い出に浸るうちに眠りに落ちた…
24.未踏
「おーい、小さなお客さん。もうすぐ着くぞー」
親切なおじさんの声で目が覚めた。だいぶ寝てしまったみたいだ。道中の風景を見損ねた。
自分としたことが…船酔いには抗えなかった。
「ご利用いただきありがとうございます。ここが、華の街だ。」
華の街…その名の通り鮮やかで華やかな街だ。そして何よりここは12ある扉のどれを使っても辿りついたことがない場所だ。
つまり、未知の領域。
新しい冒険に心が躍る感覚がする。
おじさんに別れを告げて街へ繰り出した。
不思議な雰囲気だ。賑やかで、活気があるんだがどことなく引き込まれるような。
歩いていたらいい匂いを嗅ぎ付けた。
その正体は飯店だ。ちょうどお腹がすいていたので行ってみることにした。
見たことない料理の数々。厨房から食欲を刺激するような匂いがする。一体どんな料理が出るんだろう…
とりあえず店長のおすすめメニューを頼んでみた。
昼ご飯が楽しみだ…
25.中華飯
目の前にたくさんの料理が出てきた。
どれも熱々で食欲をそそる匂いがしている。
胃袋が叫んでいる…早く食えと…
たまらず口に入れる。熱くてむせた。
だがうまい。今まで食べたことないくらい濃厚で、刺激的な味付けがくせになる。
夢中になって箸を進めていたらあっという間になくなった。
店主に礼を言って、代金を払って店を出た。
腹も満たせたし、本格的に街を見てまわることにした。
よく見ると今まで見てきた国や町に比べて建物1つ1つが高い。2、3階建てなんだろう。
小さな体の自分では見上げるような高さだ。
これまで見てきた町にもちらほら高い建物は散見されてきたが、ここまで高い建物だらけなのは初めてかもしれな…いやそんなことない。自分の拠点である扉の間(仮称)は壁も建物も高かったな…
そんなことは置いておいてちょっとブラブラ歩いてみた。
気がつけば夜だ。時間はあっという間で、一時も待つことを許してくれやしない。
そしてふと気がついた。昼間のうちに宿を探すのをすっかり忘れていた…
今日は野宿だ。とぼとぼと寝れそうな場所を探した…
26.旅へ
朝早くに目が覚めた。まだ薄暗い。
路頭で寝ていたものだから、体が痛くてたまらない。
それでも出発するために起き上がった。
面倒臭がらずにちゃんと宿を探しておけば良かった…
町を散策していたら朝市を見かけた。
もう少し明るくなったら開かれるそうだ。
せっかくだから何か買っていこうと思い、少し待つことにした。
…数時間経過。朝市が始まった。
早速訪れて、装備品と食料品、それから薬等を買いそろえた。色んなところで手に入れたお金はもう手元にはなかった。
それでもまたどこかへ向かう。
次はここから西へ。
再び冒険へ繰り出した。
歩く。ひたすら歩く。
ここまでの道で色んな光景を目にした。
雲の上から落ちてくる滝や、輝く花が咲く湖、仙獣が住まうという山など。どれも幻想的だった。
だが十数日も歩いたからだろうか、そろそろ見える光景も変わってきた。
鬱蒼とした木々。空気は湿っていて暑い。
四方から動物の声が聞こえてくる。
ここは熱帯雨林。
様々な生態系が混在する生物の楽園だ。
27.川
それにしても蒸し暑い。汗をかいたところで乾かないゆえにかなり不快感がある。
これではたまったものではない。だがワンピース一枚なのでこれ以上脱ぐ服もない…
仕方なく我慢して歩き続けた。
それにしてもかなり変わった場所だ、ここは。
色とりどりの鳥がさえずり、様々な動物が息を潜めている。川は不思議と底が見えるくらい綺麗だった。覗けば、魚やらワニやらが泳いでいる。
船に乗る前の大陸では見かけられない自然がここにはあった。
ふと休憩している時、川の畔で人影を見かけた。好奇心で話しかけてみたら驚かれたのか、消えてしまった。
だがしばらくしたら川から現れた。魚を片手に。
「…」
何もしゃべらない。一体君は何を考えているんだ。
観察していると魚をくれた。ちょうど飯に困っていたので焼き魚として頂いた。悪い者ではなさそうだ。
不思議な彼女は、この川の精霊であり川そのものだそうだ。名をエリダヌス。
字に書いて教えてくれた。
ついでに、次の目的地を尋ねてみた。どこに行くべきかと。
親切な彼女は指を指し導いてくれた。
次はどこへ向かうのか。少なくとも、もうこの雨林は飽き飽きしている…
28.遭難
また何日か歩いていたらこの森の端にたどり着いたみたいだ。また大海原が見える。
この大陸での旅も大体終えたみたいだ。
休憩で川に入ってみた。ここは海と繋がっている。磯の匂いが鼻を刺激してくる。
川の水の冷たさに癒されていたら、なにやら背後から物音がした。振り向くとそこには濁流が押し寄せてきていて…
気がつけば海に放り出されていた。
…目が覚めた。ここは…どこだ…?知らない孤島に運よく漕ぎ着けたみたいだ。
それにしても九死に一生を得た。そうでなければ今頃海の藻屑となっていたであろう…
だがピンチであることに変わりはない。何せここは無人島だからだ。
何とかして方角を割り出して海を渡る方法を…
「あら?お客さんかしら?」
びっくりした。後ろから声がかかった。