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目次
Q & Q
(ばっきゅーん!)
拝啓 昨夜のワタシ
ちゃんと髪乾かしてから寝てくださいよ!
頭沸いてるんですか!?
いえ、正しくは爆発してるんですが
あーはいはいわかりましたあーわかりましたってわかりましたよ
とりまやっちゃってください
(オーケイ!)
♪♪♪
心臓アメムチ打っちゃって 早鐘打っちゃって
心臓ばっきゅん撃っちゃって 飛ぶ鳥撃っちゃって
ハイYES or GO!
HIGH and LOW!
ブチかましちゃってばたんQQQQQQQQQQQQQ
♪♪♪
伝えきれない? 伝う涙と辛いの波が?
若いですねえ
まー風情だ風情だ風情だ風情だうぜえわ
もうトばしてええええ!?
心臓買い取り売っちゃって 安価で売っちゃって
心臓ばっきゅん討っちゃって あの恋討っちゃって
YES and HIGHでいっちゃいましょう!
ほーら
ばっきゅんばっきゅんばっきゅん
ばっきゅんばっきゅんばっきゅんばっQQQQQQQQQQQQQQQQQん!!
♪♪♪
敬具 今朝のワタシ
微笑
「__つうかさあ」
彼女は言った。
「斎藤マジウザくね? ふぁい|華月《かづき》すわんプリント配ってくだしゃ〜い、って」
ブッサイクな顔をして、彼女は言う。
「ぶはは、それ物真似? めっちゃ似てる」
「ねえ。ほんとそれ、ほんとウザい」
彼女の友達は下品な笑い方で爆笑していた。
私は心底楽しそうに「あはは」と笑う。
「ていうかさ、明日の英語ってどこ?」
「えっとね、次の単元って言ってた」
彼女の質問に、友達を代表して私が答える。
「嘘じゃん!」
__あ。知ってる。この流れ、知ってる。
彼女は「ヤバい、本文訳してない〜」とどこかわざとらしく頭を抱えた。
そして、言った。
「ごめん、ちょっと写させてくんない?」
ぱんっと手を合わせ、私を拝むようにして彼女は言った。
__ああ、まただ。
「えぇ、華月、こないだも私の写したじゃん〜」
私は嫌の色が柔らかい、これは友達同士のじゃれ合いですという声音を選び、ジト目を向ける。
「ごめんって、これが最後!」
__それ、前もその前ももっと前も言ってたよね。
私は便利な道具じゃない。私はお前らなんて嫌いだ。
お前らは私に何も与えないくせに、〈友達〉だなんて馬鹿らしい。
さっさと消えてくれ__
「__全く、しょうがないなぁ」
私は友達に頼りにされて嬉しいというように、笑った。
けれど、奥底では、自分を嘲るように。
微笑した。
朧月夜
わたしの両親は、仲が悪い。
それはもうとても、致命的に仲が悪い。
〈人類みな兄弟〉と言った人は、きっと家族と仲が良かったんだろうと思う。
そういうのほほんとした考えは、のほほんとしたいい家庭にいないと、出てこないと思うから。
わたしは、きっと何千回と生まれ変わっても、そうは思えない。
そんな気がする。
夜だった。
少し肌寒かったけれど、わたしはそれでも家を抜け出した。
一秒でもいいから、家にいる時間を短くしたかった。
いつも通りぼんやりと歩いて、公園へ辿り着く。
俯いた桜の木がわたしを迎えた。
「……はあ」
しんど。
桜……まだ、咲いてないんだ。
いつ咲くのかな。
あぁ。家、戻りたくないなあ。
「__え。|進藤《しんどう》さん?」
不意に背後から声をかけられ、わたしは目を見開いた。
咄嗟にばっと振り向き、距離を取ろうとする。
が、
「……|烏野《からすの》くん?」
その人物の正体に気づき、名前を呼んだ。
そして、ゆっくり肩の力を抜く。
烏野くん。クラスメイト。小中と同じではあったけど、それ以上にはならなかった、ただのクラスメイト。
「な、なんで? なんでこんな時間に、烏野くんが、ここにいるワケ?」
わたしはまくし立てるように訊いた。
烏野くんは目をぱちくりさせてから、言った。
「__いや、それはこっちのセリフなんだけど」
---
「ふうん。……烏野くんちも、仲、悪いんだ」
わたしは、少しだけ安堵が混じった声で感想を言う。
「わたしだけじゃなかったんだね。ひとりぼっちなのって」
「まあ、そうだね」
烏野くんはそっぽを向いて、気まずそうに返事をした。
「進藤さんっていつも学校だと明るいから、まさか僕と似た環境にいるなんて思いもしなかったよ」
「それこそこっちのセリフだよ! 『あの烏野|霞《かすみ》くんのおうちがサイアク? ありえない!』って思ったもん」
そう勢いよく返すと、彼はおかしくなったのか小さく吹き出す。
ふと、わたしは何かを思いついたように目線を上げた。
「ねえ、わたしたち、これからもたまに会わない? 夜、たまに家を抜け出して、ここで会おうよ」
と提案した。
烏野くんは意外そうに目を瞬かせてから、「最高だね」と笑った。
わたしはその笑顔を、彼の背後で爛々と輝く、月のようだなと思った。
---
そしてわたしたちは、それからもこの公園で不定期に会っては話をしていた。
ある日はわたしが泣きついたり、
「聞いてよー! 母親が『|閑《しずか》ちゃんはどっちの味方するの?』って、オエェ」
「あはは……、僕もそれこの間言われたなぁ」
ある日は彼のほうが落ち込んでいたり。
「『産まなければよかったって』言われた……。ここまで言われんの初めて……病む……」
「ちょ、早まらないで、わたしを置いていくつもり!?」
どうしようもなく息のしやすい場所に、なっていった。
---
「……あれっ、烏野くん、いたの。今日は雨だから流石にいないと思ったのに」
「それ、僕のセリフだって。進藤さんこそ、わざわざレインコート着て来たんだね」
ある日は、雨が降っていた。
彼は傘をさして、ベンチに座っていた。
私も隣に座る。
「で、どうしたの。またなんかあった?」
「いや、別に、そういうわけじゃないんだけどねえ」
烏野くんの問いに、わたしは歯切れの悪い返事をする。
怪訝そうにしている彼を横目に、わたしは呟いた。
「雨、止みそうにないね」
「……そうだね。まだ続きそうだ」
彼はその意図を察してか、本当はどうかわからないが、そう返した。
---
それからも、夜、ときどき烏野くんと公園で喋る、日記に記すまでもない日々は、続いていった。
けれど。
それは少し冷え込む日だった。最初に彼と公園で出会った、あの日のような。
「やっほー、烏野くん。今日も暇だね」
いつも通りベンチに座って俯いていた彼に近づき、ぽんっと肩を叩く。
彼は振り向いて、「やっほ、進藤さん」と返す。
が、わたしは彼の目尻が赤いことに、気づいてしまっていた。
「……なんかあった?」
わたしは控えめにそう訊く。
彼はきまりが悪そうに「いや……」と口を開いた。
「実はさ。……両親が、離婚したんだ」
わたしは「へえ」とだけまず言った。
「……あんまり、嬉しくなさそうだね」
続けて、烏野くんの顔色を窺いながら呟く。
彼は何かを話そうとしたのか、また口を開いたが、ふと夜空を見上げて止まった。
私もつられて上を見る。
そこには、雲に隠れてぼんやりと光る、月があった。
わたしは思わず、「わあ」と明るい声を漏らす。
「〈朧月〉って、言うんだって。ああいう、霞んでいる月のことを」
口もとを緩めて、「ちなみに、春の季語らしい。今の季節にぴったりだ」烏野くんは言った。
「__僕、それに合わせて、引っ越すことになった。だから必然的に、転校することになる」
咄嗟に理解できなかったが、彼はどうやらさっき飲み込んだ話の続きをしているらしかった。
「だから今日で最後。ここに、来れるのも」
「……え、待って。烏野くんて、そんな冗談言う人だったっけ? キツいんだけど……」
わたしは必死で目を逸らそうとして__やめた。
そんな真似したくない。
目を細めて、なんとか口角を上げる。
「そうなんだ。もう、最後」
烏野くんはこくりと、ひとつだけ頷いた。
「__すっごい不謹慎なこと言うけど、僕さ、結構楽しかったんだよね」
彼はどこか吹っ切れたような笑みを浮かべていた。
「親がクソなのも、たまにはいいなって思った。__ありがと」
言葉に詰まる。数秒使って、やっと心を落ち着かせて、わたしは今度こそちゃんと笑った。
「だから、それ、わたしのセリフだってば」
ぽつぽつと咲き始めていた桜が、頭上で小さく揺れた。
---
「__っていうことがあってね、彼、元気してるかなぁ」
私はぼんやりと壁を__相談室の壁を、見つめる。
私はあれから、スクールカウンセラーになっていた。
〈烏野くん〉みたいな人や、〈わたし〉みたいな人の話を聞く、そんな仕事がしたかった。
話し相手がいるだけで変わることもあるって、教えてあげたかったから。
そして目の前の子供のほうを見て、
「君もさ、辛いんだよね。痛いよね。わからないけど、知ってる。小さい頃、私もそんな感じだった。__けど、話すだけで楽になることもあるからさ」
語りかけるように優しく言った。
「だからさ、おねーさんに話してみてよ」
「……でも、おれの話、つまんないってみんな言うから」
自分の爪を見つめて不安げに言った子供に、私は「そんなのどうでもいいよ」と笑いかける。
「なんでもいい。君の話を聞かせて」