強がり少女は夢喰い王子と恋をする
編集者:ぱるしい@低浮上だお
今まで一度も夢を見たことがなく強がりなJKと『夢喰いの一族』という他人の夢に干渉しその夢を排除するのを生業とする一族の青年のお話です。
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目次
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 1話
登場人物
夢見 冴(ゆめみ さえ)
今まで寝てる間にも夢を見たことが無く、将来の夢なども抱いたことがない。無口で本を愛する17歳。基本何事にも興味がないが、社会の裏側の仕事(スパイや殺し屋)には興味を抱いている。怪我をしていてもすぐ治ると言ったり、体調を崩して黙っていたのがバレた時には「言うほどのことじゃない。」と言うなど人に弱みを見せたくない強がり。
納夢 奏真(のうゆめ そうま)
『夢喰いの一族』という他人の夢に干渉しその夢を排除するのを生業とする一族の長男。弟が一人いるが、弟は他人の夢に干渉する術を持たない一般人。19歳で、殿茶色の瞳と鉄紺色の肩までの長い髪を持つ美青年。『夢喰い』として人の夢を排除しているが命懸けで夢を奪うという『夢喰い』の職業に嫌悪感を抱いている。真面目で健気だが『夢喰い』という職業の関係で昼夜逆転しており若干寝不足。
私は夢見冴。17歳のJK2年生。人生で一度も寝ている時に夢を見たことがない。将来の夢も、やりたいことも何も無いのだ。
「ねえ、ねーえ!冴聞いてる?」
「え、ごめん聞いてなかった。」
「だと思ったよ。私さ、なんか急に将来に失望しちゃったんだよね……」
「は?」
「なんか、色んな事にやる気湧かないし、教師とかよくよく考えたら別になりたくなかったなーって。」
私の唯一の親友である理衣は教師を目指していた。まずは大学の教育学部に入るため、行きたい大学のことについてイキイキと話していたはずなのに。どうしたんだろう。
「そもそもさ、今日夜に変な夢見たんだよ。ものすごいイケメンが私の前にいて、よくわかんない呪文唱えててさ、その人が『さよなら。』って言って水晶握り潰した瞬間に私、目覚めたんだよね。」
「何それ。」
「こっちが聞きたいよ。」
そもそも水晶みたいな固いもの握り潰せないと思うんだけどなあ……
「どうしよう。これからやりたい事無くなっちゃったよ。」
「今から探せば。」
「私はいいけど、アンタもちゃんと夢見つけなさいよ。」
「はいはい。」
*
理衣と遊んだ帰り、夢….夢……夢ってそもそも何なんだろうと考えていた。興味がある事と言ったら国の諜報員とか、犯罪だけど殺し屋とかかっこいいからやってみたいな〜。
「あ、すみません………」
ボーッと歩いていたら誰かにぶつかってしまった。だけど、謝罪の言葉はそこで途切れた。その人が、あまりにも美しかったから。殿茶色の瞳と、鉄紺色の肩ほどまである男の人にしては長い髪。美男。すんごい美男。
「あ、危ない。」
「え?」
車が後ろを通り過ぎる音がして、気づくと私はその人に抱きしめられていた。
「君、車に轢かれるとこだったよ。じゃあね、気をつけて。」
「え、あ、はい。」
あんなナチュラルにハグする人いる?守ってくれたのは感謝なんだけど……一瞬のことすぎてよくわからなかったし………でもなんだろう、胸がドキドキする。
*
「あ〜〜、寝れねえ。」
夜中。私は一人部屋のベッドに寝っ転がっていた。もう冬休みだし、別に徹夜しても朝寝ればいいかな…でも昼夜逆転したらガチで廃人になりそうだから、寝よう。
「っしょ。あれ、電気ついてる……」
「あ、アンタ!」
「ちょ、シーっ。親起きちゃったらどーすんの!」
部屋の窓からいきなり中に入ってきたのは……昼間のあの人だった。
課金したいなーぱるしいです。新シリーズです。このお話はちゃーんと結末まで考えてます。偉いぞ自分。これからどんどん更新していきますのでよろしくお願いします。
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 2話
「てか不法侵入じゃん!バカか!」
「いやこれ仕事だし。てかなんで高校生がこんな時間に起きてんの。」
「仕事って何すか!とりあえず一から説明してください。」
私とその人は小声で喧嘩する。
「とりあえず座っていい?飛んできたから疲れちゃったんだよね。」
いや自由すぎでしょ。私は渋々自室のベットに座ってもらう。
「汚さないならいいけど。」
マジで誰。てか名乗って欲しいよまず。そもそもなんで飛べるんだよ。
「俺は納夢奏真。『夢喰い』っていう他人の夢に干渉してその人の夢を排除するのを生業にする一族の長男。あ、19歳ね。」
この大人っぽい見た目で19は信じられないな。
「夢見冴。17歳のJK2年。今まで寝てる時に夢を見たことがないし将来の夢とかも抱いたことない。」
「んー、でもリストには載ってるんだよな…」
リスト…とは?てか夢喰いって何なの結局。夢って食べ物だっけ?
「さっきも言ったけど、『夢喰い』っていうのは他人の夢に干渉してその人の夢を奪うこと。」
うっわ、最低じゃん。
「一応聞きますけど、その奪った夢はどうなるんですか?」
「俺達夢喰いの一族の者には未来予知ができてね、奪った人の夢は将来叶わないものだっていうのを予知で見て奪ってる。その代わりに、他の人から奪った夢を予知で見たその人が将来叶う夢として入れてるんだ。リストっていうのは叶わない夢を持ってる人のことだよ。」
「最っ低ですね。」
「え?」
いつのまにか本音を漏らしていた。
「叶わないからって人の夢って奪っていいもんじゃないと思うんですけど。ていうかなんで、私がリストに入ってるんですか。」
「君がリストに入ってるのはよくわからないけど……俺だってやりたくてやってる訳じゃないからさ。」
「なんで、やりたくも無いことをわざわざやってるんですか?」
私の問いに、綺麗な横顔に陰が落ちる。
「さっきも言った通り、俺の一族は夢喰いを生業としている。俺の弟は夢喰いの素質がない一般人だから普通に暮らしているけど、俺や俺の両親みたいな夢喰いの素質があるものは必ず夢喰いの仕事をしなければならない、っていうルールが一族にはあるんだ。」
「逆らったら?」
「自分の夢を奪われる。」
怖っ。同じ一族でもそこら辺はなんか、仲悪そう。てか夢喰いの素質って何なんだろう。
「だから、やるしかない。自分が生きていくために、人の夢を奪ってる。心底嫌だよ。しかも夢喰いって結構命懸けだし。」
「命懸け?」
「夢喰いの手順としては、まずは自分が夢を奪う人の側に立つ。そうしたら実体は置いたままで手足の感覚と五感をその人の脳内に持っていく。そこでその人の夢、大体の人脳内は水晶みたいな感じで夢があるんだけどそれに手を当てて呪文を唱える。できたら、その水晶を握り潰す。基本、水晶になっている夢は脆いから簡単に潰せるんだ。その砕いたカスを回収して、手足の感覚とかをまた実体に戻して終わり。手足の感覚を戻す時の手順を間違えると、段々感覚が無くなっていって実体も消え去ってしまうんだ。だから、命懸け。」
「うわ……」
なんか、怖いな。私だったら絶対やりたくない。でもそれをやってるって…すごいな。
「あー、疲れた。ちょっとここで寝てもいい?」
「なんでそうなるんですか。」
「最近、ていうか俺いつも睡眠不足だし。家帰りたくないし。」
「なんで帰りたくないんですか?」
仰向けに私のベットに寝転がった奏真さんに私は問いかける。
「逆らったら夢を奪われる、って言ったでしょ?俺親からいっつも監視されてる感じするし、家帰ってもどうせ話し相手いないし。」
「弟さんは?一緒に暮らしてないんですか?」
「ううん。素質が無いものは役立たず的な感じで家を追い出されて、別のところで暮らすんだ。」
「役立たず…ですか。」
ひどい……
「素質があっても地獄、無くても地獄、嫌な一族だよねー。ごめんね、暗い話しちゃって。帰るね。」
「………ませんか。」
「え?」
「ウチに住みませんか!」
このシリーズ割と短くなるかもしれないですね。
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 3話
「住まないか……って、なんで?」
「私は父親が社長ですし、家はそれなりに広さがあります。衣食住の衣のとこさえ用意してくれれば、多分住めます。帰りたくないなら、帰らなければいいんです。」
私は何言ってんだ。勢いでこんな……
「でもな、住むにしても理由が無いとダメじゃない?社長って、どこの会社?何をしてるの?」
「ドリームフォト、って知ってますか?」
「え、ちょっと待て君のお父さんドリームフォトの社長なの?てことは|夢見映司《ゆめみえいじ》さん?すっごいじゃんマジで?」
いやこんなに反応するとは……あ、ドリームフォトっていうのは私の親が経営している会社のこと。成人式や七五三の写真撮影や、時々自治体とかの宣伝動画を作ったりもしていてかなりの業界大手。お父さんは昔フリーの写真家として活動していて32歳で会社を設立して、一番初期の社員としてきたお母さんに一目惚れして結婚。会社を設立して15年、業界トップクラスの規模と五つ星の評判で日本一とも名高い。会社名に反応したってことは奏真さんは写真を撮ったりするのが好きなのかな。
「俺、カメラマン目指せる大学通っててさ、写真家目指してるんだ。親には内緒にしてるんだけどね。夢見映司、ってその界隈じゃすごく有名人で憧れてるんだ〜。」
親には内緒……あ、そうかできれば内緒にしないとか。いざという時奪われちゃうかもんね。
「ここに住んだらいつでもプロの手法教えてもらえるってことかな、ありがとう!冴さん!」
「あ、え、はい……とりあえずまた明日の朝来てくれますか?夜にいきなり来て朝突如知らない人が家にいたら親混乱するんで。」
「了解。準備してまた来るね。おやすみなさい。また明日。」
「また明日。」
*
「あのー、すみません。」
「はーい。仕事の話なら家じゃ無く店舗か会社に……」
「あ、いえそういう用事では無くて。」
次の日。というかあの時0時過ぎてたから実質今日。奏真さんがたくさんの荷物を持ちやってきた。
「はじめまして。納夢奏真といいます。19歳の大学生で今カメラマンを目指せる大学に通っています。お願いです、ここに住まわせてもらえませんか?」
「え?住むって…そもそもどこから俺の家知ったんだ?」
「お宅の冴さんと共通の知り合いがいまして。実は最近バイト先のお店が潰れてしまって、学費はなんとかなるんですが住んでいたマンションの家賃が払えなくなり……その知り合いの家に住まわせてもらっていたのですが、ずっといるのも申し訳なくてどこか紹介してくれないかと言ったらこちらを紹介されまして。」
いや嘘‼︎めっちゃ大嘘‼︎
「でもウチの会社に写真家育成コースというのがあるし、わざわざ家に来なくても……そうか、金が無いんだったな。冴はどう思う?」
「私はいいと思うけどね。お父さん面接の時「志を持った若者は大歓迎だ‼︎」ってのが決め台詞でしょ?技術を学ぼうとする姿勢とか、学ぶために社長の家に来るっていう勇気とか評価するべきなんじゃない?」
「冴には敵わんな〜………よし、しばらくの間ウチに住むことを許可しよう!なんでも教えてやるぞ!」
「ありがとうございます!」
すごい勢いで深くお辞儀をする奏真さん。よし、第一段階クリア。いやそんな段階いつ出来たんだ。とにかく、事がプラスの方向に進んでるからいいことだ。
あとがきを書くのすら面倒くさくなってきました。末期症状ですよね。
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 4話
「こっちがトイレで、こっちがお風呂。ここが父親の部屋で、ここが母親の部屋。一番奥が、私の部屋です。」
お父さんの了承を得た私は、奏真さんに家の中を案内していた。
「なんか…思ってる以上に広い。」
「そうですか?まあ3階建てなのに横幅もありますからね。あ、ここが自宅スタジオです。」
「自宅スタジオ?」
「本物の店と同じようにカメラとかをセットして、家でも写真が撮れるようにしてあるんです。実際、私の七五三の写真とかはここで撮ってます。見ます?」
「えーとアルバム…七五三……あ、これです。」
私はラックに置いてあったアルバムを出すと、7歳の頃のページを開いた。そこにはもう10年も前の、まだあどけなくて髪も長い淡いピンクと紅色の着物を来た私の写真があった。
「可愛い。映司さんはすごいね、家なのにこんな写真が撮れるなんて。」
しれっと可愛いとか言うなよ照れるじゃんか……
「この時の髪型と今の髪型結構違うけど、なんで?」
七五三の時のロングヘアでハーフアップの私の写真と、今のボブヘアの私を見比べながら奏真さんは言った。
「ああ……ヘアドネーションってわかります?」
「あのー、あれでしょ?髪切って寄付するやつ。」
「まあそんな感じですね。当時の私見ての通り髪めっちゃ長くて。小3の終わりから小5になるまでずーっと伸ばしてて小5の夏に切りました。そしたら短いのに慣れちゃって。その時はミディアム……肩上ぐらいの長さでずっとやってたんですけど中学入って気分変えよって思って切ってからはずっとボブです。」
「そっか〜。冴さんって女の子にしては珍しく俺より髪短いけどそういうルーツがあったんだね。」
「女の子にしては、とか今時コンプラ的にダメですよ。ていうか、奏真さんが普通より長いだけです。」
「普通、も今時ダメじゃない?」
イタズラっぽく笑う奏真さん。この顔なら許せるわ。
「別に、俺の理由なんてどうでもいいでしょ。」
「言いたくないんですね。」
「なんでわかるの。」
「さて、何故でしょう。」
なんとなく、そんな気がしただけ。
「あの、それより今度というか冬休み中ならいつでもいいんですけど……奏真さんのお仕事を見せていただけないでしょうか。」
私は聞いてみる。
「え、俺の仕事を?夢喰いのところを見たいの?」
「はい。」
一度は見ておきたい、命懸けの仕事を。私が興味を持つ、人が見ていない裏でやっている仕事。
「でも、それなりにというかかなり危険が伴う仕事だからね。一般人の、さらに女の子なんて連れて行けない。」
「一般人、とか女の子なんて、とか今時ダメなんじゃ無かったんでしたっけ?」
「冴さんは口喧嘩強いね……わかった。善は急げって言うし、今晩見せてあげるよ。」
「やった。ありがとうございます。」
危険っていうのはよくわからないけど……別に今、命なんて惜しくないし。
新シリーズ3つとか無理じゃね?
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 5話
「さ、じゃあ行くよ!」
「はい!」
夜。私は奏真さんに言われた通りに暖かい服装になった。
「窓開けたら音でバレるから、透過するね。」
「はい?」
奏真さんが窓に触れると、そのまま奏真さんは窓を通り抜けてベランダに出た。
「来ていいよ。」
「あっ、はい。」
私も通ることができた。多分、見た目はちゃんと窓としてあるんだけど実体が無いってことかな。
「手、繋いで。」
「はっ⁉︎」
「じゃないと飛べないでしょ。」
うわ家族以外の人と手繋ぐのとか初めてだよ……
「あのー……飛ぶ、というのは一体?」
「んー、そのまま。空中散歩みたいなものだよ。」
いやわからんて。
「じゃ、飛ぶね。」
奏真さんがベランダの柵の上に立ち、柵を蹴ると私の体がふわりと持ち上がった。
「わっ。」
「手、離さないでね。落ちるから。」
「は、はい。」
そのまま歩くようにして進んで行くと、奏真さんは一棟のマンションの前で足を止めた。そして、外の廊下のところへ降りる。
「今日はここみたいだね。」
ドアに手を当て、そのまま中に入る。私も一緒に。
「寝室…はこっちか。」
適当に色んな部屋のドアを開け、無事その人の寝室を見つけた。
「この人……家ここだったんだ。」
「え、知り合い?」
「愛川舞衣……去年の私の担任です。」
のうのうと寝ている愛川を見つめ、少し腹が立つ。今学校内ですれ違っても私はこの人に挨拶もしていない。
「とりあえず中入らないとね。手、握ったままにしといて。ポベートール。」
愛川の額に手を当てそう呟くと、私は見たことない世界にいた。辺りは真っ白で、空だけが奇妙にピンクっぽい。私と奏真さんはフワフワした雲のようなものの上に乗っている。
「今のって…」
「夢の中に入るための言葉。悪夢の神をポベートールっていうんだよ。それよりこれ見て、これがこの人の夢。」
私は奏真さんが指差した透明な球体を見つめた。確かに水晶っぽいな。
「じっと見つめると、この球体にその人の夢が浮かんでくるんだ。」
私は言われたとおりにじっと見てみる。が、よく見えない。まあ私一般人だから見えるわけないか。
「ここからが大事だから、ちゃんと聞いてて。」
そう言って奏真さんは水晶の上に手を乗せる。
「深き闇夜の|月読命《ツクヨミ》様よ、無限に続く|彼《か》の夢よ。夜を統べたり月|司《つかさど》り、彼方の夢へ|誘《いざな》い|給《たま》え‼︎」
奏真さんは呪文を唱えると、自分の手元にあった水晶を握り潰した。
「はい、回収完了。」
奏真さんはどこからか袋を取り出すと、そこに砕いた夢のカスを回収して入れた。
「じゃ、帰るよ。また手握って。」
「はい。」
「パンタソス。」
そう言うと、またさっきの愛川の寝室に戻っていた。
「これが一連の流れ。帰ろう。眠いでしょ?」
「はい。眠いっす。」
*
私たちは帰りも空中散歩していた。
「見学の感想。どうだった?」
「すごいなって思いました。あの呪文とか……愛川の叶わない夢は回収したからいいとして、何か叶う夢を入れることはしないんですか?」
「いいんだ。予知を使っても、あの人はこれから何の夢も叶わないみたいだから。」
え、残酷。まあ私は愛川のこと嫌いだから叶わない方がいいけど。
「早く帰って寝ようか。」
「そうですね。」
おはこんにちばんはぱるしいです。このお話は頑張りました。呪文は1ヶ月前からずぅーっと考えててリア友にも手伝ってもらいました。ありがとう。月読命は夜の神様で夜を統べているだとか月を司っているだとかそんな役割らしいです。その役割を呪文にぶち込みました。パンタソスは現実的な夢を見せる神様とかそんな感じらしいです。これもリア友が入れたら?って提案してくれました。ありがたやありがたや。
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 6話
「奏真さーん。起きてくださーい。」
「ん………」
朝。私たちは帰って上着を脱ぐと、速攻で寝た。私が床に布団を敷き、奏真さんが私のベッドで寝ることになった。一緒に寝るのは狭い、冴さんベッドでいいよ、いや私寝相悪いんで。などなど話し、結局私が布団。
「あれ、ていうか奏真さん………寝相すご。」
奏真さんの姿が見えないのでどうしたものかというところで、枕の位置に足があって普段足があるところに頭があるから寝ているうちにひっくり返ったやつだな。私もこういうことあったけどにしてもすごい。
「朝ごはん食べましょ。お母さんが用意してくれてるんで。」
「休みだからいいじゃん………」
「小学生みたいなこと言わないでください。毛布ひっぺがしますよ。」
私は奏真さんがかけていた毛布を剥がし、頬をペチペチと叩いた。
「痛い……」
「じゃあ起きてください‼︎」
*
『いただきまーす。』
なんとか奏真さんをベッドから下ろし、今は2人で朝ごはんを食べている。
「そういえば、昨日の朝映司さんが言ってたから写真家育成コースって何?」
「ああ、写真家を目指す人向けにドリームフォトが始めたやつです。2年制のインターンみたいな感じですかね。寮で寝泊まりして3食ちゃんとついてますよ。で、コースに参加する人たちが払う金額は年に80万ってとこですかね。」
「結構高いんだね。」
まあ家賃とか含めたら安い方な気がするけどね。私は。
「今日は何するの?」
「宿題はほぼ終わってるし……することないですね。」
テレビも大して面白くないしな………
「どこか出かける?俺の弟の家とか。」
「弟さんの家?」
「うん。他の夢喰いをしてない親戚たちと暮らしてるんだ。」
奏真さんはスマホを取り出すと、誰かに電話をかけ始めた。
「もしもし?久しぶり。元気?うん、そうそう。あのさ、今から家行っていい?あ、いい?ありがとう。俺ともう1人行くんだけど大丈夫?ありがと。歩いて行くから20分ぐらいしたら着くと思う。うん。また後でね。てことで、アポ取れたよ。」
「ありがとうございます。」
早業すぎる……
*
「冴さん、この間の夢喰いの時あの愛川舞衣って人に嫌悪感示してる感じだったけど、あの人と何かあったの?」
「それは………内緒です。」
私は作り笑いで答えた。
「本人がそう言うなら無理に追求はしないよ。それより、着いたよ。」
奏真さんが指差した先には、白くてお洒落な外壁の二階建ての一軒家だった。
「あ、お兄。」
インターホンを鳴らすと、奏真さんと同じ目と髪色で、マッシュウルフヘアの男の人だった。年は私と同じくらいか、それよりちょっと下っぽい。
「冴さん、紹介するね。俺の弟の納夢|真琴《まこと》。今高1で16歳。」
「納夢真琴です。はじめまして。真琴って呼んでください。」
「夢見冴です。高2で17歳です。呼び方はなんでもいいので。」
真琴は物腰が柔らかい感じで、結構穏やかで優しそうな感じ。
「冴さんは真琴と話してて。俺、親戚の子達見てるから。」
「了解です。」
ダイニングの椅子に座り、向かい合う。
「ここにいる子って……」
「大体がいとこです。叔母と一緒に暮らしてるので。」
真琴も含めると大体5人ぐらい。真琴以外は中学生や小学生で、4歳ぐらいの子もいる。
「奏真さんのこと、お兄って呼んでるんですね。」
「僕が小学校に入る時から、別々に暮らしてるんです。なかなか会えないので、会える時には親しみを込めて呼びたいなーって。兄弟ですから。」
いいなあ……私は一人っ子だからなあ……
「あ、お兄!せっかく来たならお昼ご飯作ってくんない?」
真琴は親戚の子たちをカメラで撮っていた奏真さんの背中にそう呼びかけた。
「ええ……叔母さんがなんか作っておいてくれてないの?」
「あるもの適当に食べてって。みんな、お兄のご飯久々に食べたいよねー?」
「うんっ!」
「奏真兄に会えるの久しぶりだもん!」
愛されてんなー奏真さんは。ていうか自分以外の子の声も利用するとは、真琴なかなかやり手だなw
「私、手伝いますよ。」
流石に何もしないのは申し訳ない。
「じゃあいっか。わかった、作るよ。」
「やったー!」
*
「いただきまーす!ん、美味しい!」
「琴葉……ソースこぼれてるよ。服汚れるから気をつけて。これ制服だったら大変なことになるからね?」
お昼ご飯は、私が麺をゆで奏真さんがソースを作ったスパゲッティのミートソースになった。私も食べさせてもらってるけど、結構美味しい。
「奏真、真琴、琴葉って……なんか字に関係ありそうですね。」
「そう。我が家は名前がしりとりみたいになってるんだよ。」
「面白いよね。まあお父さんは名前に奏って付かないけど。」
こう見ると、奏真さんと真琴は結構似てる。2人共美男だ。すごく。別々に暮らしているけど、仲はいいんだね。
*
雑談をしていると、外は暗くなってきていた。
「ごめんね。せっかくのイブにお邪魔しちゃって。」
「ううん。お兄に会えたしよかった。冴さんも、また来て。」
「もちろん。」
真琴の家を出、自分の家まで歩く。スマホの時計を確認すると、『17:34』と表示されていた。
「冴さん、今日は映司さんたちの帰り遅いんだよね?夕飯はどうするの?」
「カレー作ってあるから食べてってメール来てたので、それですね。牛タンカレーですって。」
「え、牛タン?高くない?」
「ふるさと納税の返礼品的な感じらしいですよ。早く帰って食べましょう。」
「そうだね。」
どうもこんにちはぱるしいです。昨日出す予定が眠気に襲われて書ききれず出せませんでした。
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 7話
「おはよーございまーす。」
クリスマスの朝。昨日に引き続きすごい寝相の奏真さんをベッドから引きずり出し、半ば強制的に朝ごはんの匂いに包まれるリビングに連れて行く。
「冴さんクリスマスプレゼント来た?」
「はい。なんか置いてありました。」
この年になってサンタが来るのは驚きだけど、もらえるのは純粋に嬉しい。まだ包みは開けずに、今は置いてある。
「映司さんたち、今日も仕事なんだね。」
「一応社長ですから。夜にはケーキ買ってきてくれるらしいんで、一緒に食べましょ。」
「………うん。」
*
それから、クリスマスの昼間は何事も無く過ぎて行った。ちなみに、サンタからのプレゼントの中身は本棚(組み立て式のやつ)とマウスパッドで、奏真さんにも手伝ってもらい本棚は組み立てて部屋に置いた。最近自分の本が増えて、置き場に迷っていたから丁度いい。3年前パソコンを買ったと同時に近くの100均で買ったマウスパッドも、だいぶボロボロだったのでありがたい。
「冴さん、本が好きなの?」
「まあ…小説は読むのも書くのも好きです。」
「え、そうなの?書けるんだ。すごい。」
「別に、小説なんて登場人物考えてストーリーなんとなく組み立てれば書けますけどね。」
「それが普通の人は簡単にできないんだよ。」
んー、私自身書くの結構簡単だけどな……まあ、書くのそんな上手くないから簡単に感じるんだ。
「冴さんの書いた小説、読ませてくれないかな。」
「そんな上手いもんじゃないですよ。………仕方ないですね、いいですよ。」
「やったー。」
私はパソコンを立ち上げ、Wordを開く。個人的に一番上手く書けているやつを画面に表示させる。
「これが個人的にお気に入りです。これ以外読まないでくださいね。」
「ありがとう。」
*
「冴さん。」
「あ、読み終わりました?」
30分ほどして、奏真さんがパソコンに釘付けになっていた視線を私の方に向けた。
「すっごい面白かった。キャラの心情とか、情景描写とか、世の中の作家さんと比べても遜色無いぐらい。」
「そんな……こと、無いです。私なんて、まだまだです。」
「冴さんは、自己肯定感が低すぎるよ。」
「……何をいきなり。事実を述べたまでです。」
自分でも驚くほど、事務的な口調で答える。
「冴さん。君は、もっと自分を評価してあげていいと思う。まだ、出会って4日目の俺なんかに言われても嬉しくないと思うけど………普通の人にできないことを、これほどまでの完成度で。…………冴さん?」
「あっ、いえなんでも無いです……」
ここまで自分の趣味について褒められたことが無いから、嬉しくて涙が滲んでいたことに気づいた。
「これからも、面白いものを書いてね。冴さん。」
「…………はい!」
小説ではお久しぶりですぱるしいです。遅くなりました!すいませんでした!どのシリーズを優先すべきか自分でもわからずボーッと放置していたら約一週間経っていました……マジデスミマセンデシタ
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 8話
『メリークリスマース!』
夜。クリスマスパーティーとして美味しいものを食べ、話し、笑い、すごく充実していた。このまま、何もしないで良いのだろうか。自分が励まされるばかりで、自分のやっていることに悩んでいる奏真さんに、何も手を差し伸べないで。奏真さんはいつも笑顔で、色んな話をしてくれて、出会って数日の私にだって、すごく優しくて。………寝起きでもいつでもかっこいいし。あれ待って、私今なんて?かっこいい?奏真さんがかっこいいのはおそらく全人類共通の認識だけど、何で私はこんなに奏真さんのことを考えてるんだろう。
「あのー、奏真さん。」
「何?」
「奏真さんの夢ってなんですか?」
「写真家になりたい.....って言わなかったけ?w」
苦笑いで奏真さんが言う。それはそうなんだけど.....うん。
「家業を終わらせたい。」
「家業って......夢喰いのことですか。」
「うん。両親に従うばかりの自分が嫌なんだ。これは両親との戦いでもあり、自分との戦いだから。......冴さん?」
「あの、私も、夢喰いをやってみたいです!」
「え?」
そりゃそんな反応するよね。
「夢を奪いたい相手がいるんです!どうか....教えてください。私に、夢喰いのことを。」
「冴さん。夢喰いは私怨だけじゃできない。冴さんはうちの一族じゃないから、空中も歩けないし、窓から家の中にも入れない。わかるよね。」
「でも、できますよね。その......ブレスレットがあれば。真琴から聞きました。」
私は奏真さんの手首のあたりを指さして言った。
「ったく真琴も何言ってくれてるんだか......わかった、教えるよ。」
奏真さんはそう言って、着ていたニットカーディガンの袖をまくった。顔は美人だけど、その腕は男性らしくガッチリしていた。袖に隠れていた|逞しい《たくましい》腕の手首には、ブレスレットがついている。青の水晶と透明な水晶が一つずつ、革の紐に通されていた。
「この青い水晶が、夢の結晶。透明な水晶が、記憶の結晶。このブレスレットを付けると、そのブレスレットを付けた主の夢と記憶がこの結晶に宿る。つまり.....」
「水晶が壊れたら、夢と記憶が消える。」
「そういうこと。このブレスレットは付ければ夢喰いの能力が使えるけど、壊れたら夢と記憶が消えるというリスクも背負っている。夢喰いをする者にとって記憶が消えるのは死ぬと同義。命懸けっていうのは、そういう意味も兼ねてるんだよ。」
「そうですか......」
普通に怖いのだが。
「どうする?これでもまだ、夢喰いをやりたい?」
「もちろんです。ここまで聞いて、退くことなんてできない。」
「わかった。その決意に応えられるように、俺もなんとかする。年明けに一度、実家に行ってブレスレットを取ってくるから、それまで待ってね。」
「わかりました。」
一ヶ月以上もこのお話更新してなかったんですね。
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 9話
「あけましておめでとうございます。」
「あけましておめでとう。」
新年。新しい1年が始まった。4月から私は高3。受験生になる。
「冴、奏真くん、おはよう。あけましておめでとう。」
年末年始は両親共に仕事は休み。まあ三が日が過ぎたら2人とも仕事だし、私も1月10から学校だし。
「そういえば、シーズンモールの近くの美術館あるだろう?そこで1月6日から僕の個展があるんだよね。冴と奏真くんで今度行ってきたら?」
朝ごはんの雑煮を食べながら、お父さんが言った。ちなみにシーズンモールとは我が家から車で15分くらいのところにある大きくて広いショッピングモールのこと。
「えっ!?ホントですか!?」
わお、奏真さんの目がキラキラしとる。
「流石にこんな嘘はつかないよw入場料も無料だし、行くついでにシーズンモールに寄って昼ごはんでも食べたらどうだ?」
「行きたい……冴さん、付き合ってくれる?」
「まあちょうど本屋行きたいって思ってたとこだし、行きますか。」
新年早々いい予定が決まったな。知り合いに会わないといいけど………
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「じゃ、行こうか。」
当日。私は我が家の車の助手席に座っていた。運転席には奏真さんが座っている。
「免許持ってたんですね。」
「写真撮る時遠いところ行ったりするし、運転するの結構好きなんだよね。」
「なるほど。あ、音楽流していいですか?」
私は車の充電コードにスマホを繋ぎ、アプリを開く。
「別にいいけど、何の曲?」
「んー、これですね。」
私は自分のプレイリストの3番目の曲をタップした。
「これ、アニソンだよね。冴さんアニメ好きなの?」
車を運転しながら奏真さんが私に聞いた。
「時々見ますよ。オタクってほどではないですけど。小説書く時の参考がてら見るんですよね。そうしたら曲にもハマったんですよ。」
「ふーん。いいね、この曲。」
などと話しているうちに、美術館に着いた。が、美術館に駐車場が無いのでシーズンモールに車を停める。車を降りると、冬の冷たい風が吹いていた。
「あ、今日この後俺の家まで行ってブレスレット取りに行くけどいい?」
「はい。わざわざありがとうございます。」
とりあえず最初は美術館へ。奏真さんは目を輝かせながら写真に魅入っている。私はというとぼーっと周りの人を見ていた。ふむ、やはり大人が多い。確かにお父さん写真撮るの上手いから見たくなるのはわかる。うん。興味無いけど。
---
「いやー素晴らしかったー。映司さんの撮る写真ってホントよなあ……次、俺の家行こうか。ここから歩いて行けるからそれでいい?」
「どうぞどうぞ。」
奏真さんの両親ってどんな感じなんだろう……怖い人かな?意外とそうでも……いやでも逆らったら実の息子でも夢を奪おうとする人らしいし、怖くなくてもヤバそう。
「着いたよ。」
モヤモヤと考え事をしているうちに奏真さんの実家に着いた。
「いや、え、デカくないすか……?」
横浜の赤レンガ倉庫を小さくして屋根付けた感じの外観で、なんかオシャレ。
「そうかな?とりあえず入ろうか。」
ビターチョコレートみたいな色のドアを開け、中に入る。めっちゃ洋風の家だな。
「ブレスレットは確か父の書斎のほうにあるんだよね……ちょっと見てくるからここで待ってて。」
リビングのふかふかの革のソファに身を沈め、奏真さんを待つ。
「誰かいるのか?」
「知らない靴よね。これ。」
えっ……今の声……奏真さんの両親帰ってきちゃった?
---
「あ、すみません勝手にお邪魔して。ドリームフォトの社長の娘の夢見冴といいます。」
「ああ、奏真が世話になってます。納夢敦貴です。奏真の父です。」
「奏真の母の、納夢美夜子です。」
ふむ……奏真さんは母親似だな……
「あの……素敵なお家ですね。今着てらっしゃるスーツもシックでお似合いですよ。」
お父さん直伝、交渉スマイルでなんとか取り繕う。これでごまかせないかな……色々と。
「ああ、アンティークが好きなもんで。このスーツは、うちのブランドのものなんですよ。」
「うちのブランド?」
「|adolescence《アドレセンス》ってブランド知ってますか?実は、僕がそこの経営をしていまして。」
「どうりで。adolescenceのスーツ、うちの父もよく着ていますよ。」
うん。これは事実。
「それは嬉しいですね。ありがとうございます。ところで……奏真はどこかな?」
「ああ、父さん母さんおかえり。」
「久しぶりだな。年末年始も顔を見せなかったじゃないか?」
その一言で、空気がピリッと冷える。
「色々と忙しかったんだよ。大学生舐めないでくれる?」
「それは悪かったな。」
「じゃ、俺もう行くから。冴さん、行こう。」
---
なんとなく、奏真さんの顔が険しい気がする。と気づいたのは、さっき本屋で買い物をしていた時だった。奏真さんの家を出てから、今の昼ごはんの時間に至るまで奏真さんはほとんど喋っていない。
「大丈夫……ですか?」
「ああ、ごめん。」
私が声を掛けるまで無言で生姜焼き定食を食べていた奏真さんが顔を上げた。
「はあ……やっぱ父さん母さんに会うと緊張するな……」
「なんか……すいません。」
「いいんだよ冴さん。別に気にしなくても。」
今度は私が無言になり、醤油ラーメンをすする。なんか、空気が重い。
---
昼ごはんを食べ終わると、服屋を見たりクレーンゲームを見たりとわりと楽しかった。
「冴さーん、次どこ行きたい………って、どうしたの?冴さん。」
いきなり黙った私に、奏真さんが心配そうな顔をしている。
「あの、すみません。今日はもう帰りましょう。」
私は奏真さんの左手首を引き、早足で歩く。
「え、どうしたのホントに。」
「ちょっと……会いたくない相手が見えたので。」
私は、嫌に早い鼓動の心臓を落ち着けながら、逃げるように歩いた。
どうもぱるしいです。投稿頻度については黙っててくれるとありがたいです。
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 10話
「はあー.......」
私は大きなため息をつきながら、学校への道を歩いていた。すごく気が重い。始業式めんどくさいな.....よりにもよって会いたくないヤツ見かけちゃったし.....昇降口で外履きのスニーカーを脱ぎ、上履きに履き替える。スニーカー、25.5だとキツくなってきたな.....中学入ってから今に至るまで身長は7センチぐらい伸びたけど足に関してはほとんど成長してなかった気がする。まあいっか。階段を上り、自分の2年B年組の教室に無言で入る。クラス、というか学校の友達は理衣だけだから、みんな大して挨拶もしてこない。まあ、そのぐらいが丁度いいんだけど。
「冴、あけおめ!今年もよろしく!」
「おはよ。今年もよろしく。」
夢喰いのせいで、夢がなくなってしまってるけど、本人は大丈夫そう。
---
「久しぶり。駄作作家さん。」
帰り際。あの愛川舞衣よりも大嫌いで、今一番会いたくない人に声を掛けられた。
「クラス変わってから全然会わなかったよね。一年半ぶりぐらい?ちゃーんと学校来てるんだ。」
田川渚沙。この、なにかをあざ笑うような、なにかを見下しているような、コイツの喋り方が私は大嫌いだ。
「用がねえならさっさと立ち去れ。」
「怖いな〜。あの時はアタシになーんも言い返せなかったくせに。あ、そうそう。この間シーズンモールでアンタのこと見かけたよ。」
そう言って田川が見せてきた写真には、シーズンモールで写真に肩を並べて歩く私と奏真さんの姿が写っていた。
「この人誰?彼氏?アンタなんかにこんなイケメンの彼氏なんてできないと思うけどね。」
「|違ぇよ《ちげえよ》。」
「だよね〜。だったら何なの?」
「ただの知り合いだよ。」
「アンタみたいなクソ陰キャがどこでこんな人と知り合えるの?ねえねえ、紹介してよ。」
うるさい。黙れ。その言葉が、喉の奥に引っかかって出てこない。
「嫌だよ。」
「あ?」
「嫌だつってんだよ。聞こえてねえのか?あ、高2にもなって身勝手なことしてる時点で相当ボケてんだね。ババアにはわかんねえか。ははっ。」
あえて罵倒せず、煽ってみる。
「アタシにそんな口利いていいと思ってんの?いい加減にしないと殺すわよ。」
「いい加減?テメエを殴り飛ばしてない時点でだいぶ加減してるよ。それに、お前みたいな陰湿ナメクジ野郎が面と向かって誰かを殺すなんてできる訳ねえだろ。」
私はそう吐き捨てると、田川に背を向けて歩き出した。
---
「洗濯物、終わりました。」
「ありがとう。奏真くんが来てくれてから家事とか助かるわ。」
「冴さんは手伝ったりしないんですか?」
「普段は私たち家を空けることが多いし、手伝うというよりいつもやってるのよ。さ、疲れたし休みましょうか。テーブル、拭いておいてくれる?」
「わかりました。」
冴さんもなかなか苦労してるんだな……
---
「お母さんにとって、冴さんはどういう娘ですか?」
休憩中、なんとなく聞いてみた。
「えっ?そうねえ……強がり、かな。」
「強がり?」
「冴が小6ぐらいの時かな〜。階段でコケたらしくて、捻挫してスネにアザできてたのよ。冴は隠してたみたいだけど、お風呂上がりにアザ見えちゃって、本人に聞いてみたのよ。そしたら、言うほどのことじゃないと思った、なんて言うんだもん。コケた時点で心配なのに、ねえw」
「はははw」
でもなんか納得かもしれない。
「そういう感じで、どんな時でも自分は後回しで、助けてほしい時に助けてが言えないし、強がりも困るわよねえ……」
「助けてが言えない?」
「冴ね、高1のとき学校に行ってなかった……というか、行けてなかったの。クラスの子とトラブルになって、精神的にしんどくなっちゃったみたいでね。………ここから先は、私が話さない方がいいかも。奏真くんが、冴の口から聞いてみて。」
「答えてくれますかね……」
「それはわかんないかもw」
高1の時……か。あの、愛川舞衣って人が去年の担任って言ってた……何か、関係あるのかな。
最近は模写を頑張っています
2023/04/08追記 ごっそり抜けてた部分を書き足しました。文字数増えました。マジですみませんでした。
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 11話
「…………ただいま。」
「冴さんおかえり。何か、あった?」
「いや、大丈夫です。」
私は幽霊のような声でただいまを言い、帰宅した。
「奏真さん、夢喰いって今日してもいいですか?」
「あー、うん。冴さんがそうしたいならいいよ。」
「ありがとうございます。」
田川渚沙、アイツの住所はどこだったかな。
---
夜。私は暖かい格好をして、ブレスレットを付けるとベランダから飛び出した。紙にメモした住所に向かい、空中を歩く。後ろには、心配そうな顔の奏真さんが着いてきている。流石に1人で行かせるのは心配だから、と母親みたいな感じで来てくれた。二階建ての一軒家の窓からこっそりと入り、田川を見つける。夢喰いの仕事は、ここからが大事だ。私は、気合いを入れて、呪文を唱えた。
---
「冴さん、どうだった?」
帰り道、空中を歩きながら奏真さんが聞いてきた。
「意外といけるなーって思いました。」
「………そう。」
ふっと、奏真さんの顔が暗く沈んだ気がしたのは気のせいだろうか。
---
次の日は嬉しい事に土曜日だった。朝早くから両親は1週間の出張に行き、しばらくの間私と奏真さんの2人だ。でもやっぱり、夜から奏真さんの暗い表情は変わらない。
「奏真さん、どうしたんですか?」
「冴さん、ちょっと聞いて。」
いつになく真剣な表情と声の奏真さんに、私は身構える。
「俺は今から、夢も記憶も失う。」
「は?え、何言ってるん……ですか。」
「おそらく昨日、見られていたんだ。うちの両親に。冴さんが、夢喰いをしていたところを。」
「えっ?」
全く気づかなかった……
「俺はルールを破った。ブレスレットを盗んで、冴さんに渡した。ごめんね、冴さん。俺がもっと気をつけていれば。」
「何、どういう、こと、ですか。」
「いけないことをしたのがバレたから、一族の掟に乗っ取って、俺はきっと夢も記憶も奪われるんだよ。」
どういうこと?今、まさに奏真さんの両親のどっちかが夢を奪おうとしているってこと?
「夢喰いのやり方は教えた。わからないことは真琴に聞いて。多分、夢を失っても取り戻す方法を知ってるから。」
「待ってください。なんで、」
視界が滲む。涙が勝手に出てくる。
「約束だよ、冴さん。俺の夢と記憶を、ちゃんと取り戻して。」
「待って、奏真さん。」
すると、ピシッという音と共に、奏真さんのブレスレットの水晶が砕けた。そのまま、糸が切れたように、奏真さんは意識を失った。
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 12話
嘘だ……嘘だ……ねえ……奏真さん…………
「目を覚ましてよ……」
そんな呟きも虚しく、奏真さんは眠ったままだ。私のせいだ。私のせいだ。私が……
「私なんかのせいで……」
ごめんなさい。なんて言っても、今の奏真さんには届かない。
『真琴なら、夢を取り戻す方法を知ってるかも……』
そうだ、真琴。真琴に聞こう。立ち上がれ、自分泣いてる場合じゃない。
「行かなきゃ」
私は涙を拭くと、立ち上がった。
---
「冴……さん?ですよね?あの、奏真兄は……」
突然来た私に、真琴は面食らった様子だった。
「それについては、今から話す。」
困惑しながらも、真琴は私を家の中に入れてくれた。ダイニングの椅子に座り、向かい合う。
「まず、先に謝らせて欲しい。ごめんなさい。」
「その感じだと、奏真兄は……」
「私が夢喰いをやりたいって言ったから、奏真さんは実家でブレスレットを盗んだ。そのブレスレットを盗んだことが奏真さんの両親にバレて、奏真さんは夢を奪われた。真琴なら夢を取り戻す方法を知っているかもって奏真さんに言われて、私は今ここに来た。」
淡々と、事実だけを伝える。これ以上何か言っても、現実は何も変わらない。
「そう……ですか……でも、僕知ってます。夢を、取り戻す方法を。」
「ほっ、ホント!?」
「今から言います。しっかり覚えて下さい。」
「うん。」
---
「まずは、割れた水晶の欠片を集めてください。そうしたら、それを握って、夢の中に入る時の呪文を普通に唱えます。夢の中に入ったら、奏真兄の夢の欠片が散らばっていると思います。それも集めて、夢を奪う時の呪文を唱えます。ただ『彼方の夢へ』のところを『彼方の夢を』にして唱えてください。それで、戻るはずです。」
「そう。ありがとう。」
「ただ、その様子も知られてはなりません。絶対に、僕以外の誰にも言わないでください。」
「うん。もちろん。」
私はしっかり頷いた。
「僕も、奏真兄の記憶も夢も無いままなんて嫌です。冴さん、お願いします。」
「わかった。頑張るよ。」
どうも好きな人が走ってるところはかっこいいことに気づいたぱるしいです。プライムビデオでコナンの緋色の弾丸と純黒の悪夢を見ました。赤井さんかっこよかったです。2ヶ月以上投稿してなくてすみませんでした。夏休みぐらいには完結させます。
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 13話
「ポベートール。」
夜。自分のブレスレットを着け、奏真さんのブレスレットの割れた結晶の欠片を拾い集め奏真さんの夢の中へ入った。前に奏真さんに着いて行って愛川の夢を奪った時とは違って、奏真さんの夢の中は薄暗かった。グレーの、今にも雨が降り出しそうな雲が広がっている。
「早く行かなきゃ。」
緊張で震える手をグッと握りしめ、歩く。夢の中では、温度を感じない。暑くも寒くもない。涼しいかと言われたら、そうでもない。ただひたすらに、不思議な空間だ。
「あった………」
思わず呟いた。本来は浮いている夢の結晶が、割れた下に落ちていた。それをかき集め、真琴に教えられた呪文を唱える。
「深き闇夜の月読命様よ、無限に続く彼の夢よ、夜を統べたり月司り、彼方の夢を誘いたまえ!!」
私の集めた結晶が、まばゆい光に包まれる。割れていた奏真さんのブレスレットも、形を取り戻して行く。お願い、お願い、頼む。奏真さんの夢を、記憶を元に戻して。
「冴……さん?」
聞き覚えのある耳心地のいい低い声が、わたしの耳に入ってきた。
---
「奏真……さん?え、奏真さん?本当に?」
「うん。俺だよ。冴さん、君が俺の夢と、記憶を元に戻してくれたのか?」
「あー、はい。そう、なりますね、はい。」
私はなんと言ったら良いかわからず、たどたどしく答える。
「そうか……」
そう言うと、奏真さんは笑って私の手を握った。
「ありがとう!冴さんがいなかったら、俺はきっと眠ったままだった。感謝してるよ。」
「どう……いたしまして?」
「なんで疑問形なのw 本当にありがとう!」
何度もお礼を言われるのが少し照れ臭くて、私はどうしていいのかわからなかった。でも、何もしなくても、奏真さんは気にしていないようだった。何だか少し、安心した。私と奏真さんがそうやって感動を味わっていた時、急に、景色が変わった。
---
「どこ……ですかここ!?」
そこは、周りに砕けた夢の結晶や割れたブレスレットの欠片が積もっていた。
「夢喰いの奴らの墓場だよ。」
奏真さんの声とは違う、年齢を重ねた声が聞こえてきた。慌ててそちらを見ると、あの、奏真さんの父親がいた。そして母親も。
「奏真は夢喰いの掟を破った。夢見冴、お前は夢喰いのことを知ってしまった。」
「貴方達は二人とも、ルールに違反している。私達が今から、貴方達を処分するのよ。」
処分って何?ナイフで心臓グサリ?毒?首絞め?そんなことを考えている私に反して、奏真さんの表情は見たことないほど険しくなっていた。
「何故……アンタ達がここにいる。俺が掟を破ったのは本当だ。でも……冴さんが来たことをなんで知ってるんだ!!」
「協力者がいるんだよ。ほら、出てこい。」
奏真さんの父親が声をかけると、『協力者』とやらはすぐに顔を出した。
どうも、気がついたらヴァイオレットエヴァーガーデンの9話まで見ていました、ぱるしいです。犬飼いたいです。くっそお久しぶりの更新です。果たして、このお話は私の夏休み中に完結できるのでしょうか。
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 14話
「協力者、って……」
「どうして……」
奏真さんの父親の言う協力者、というのは、真琴だった。
「夢見冴、お前が真琴に相談してくれて助かったよ。おかげで、この場で違反者を始末できる。」
「真琴……どうして……真琴!」
奏真さんの顔が焦り、感情的になっている。こんな奏真さん、初めて見た。
「奏真兄が、羨ましかったんです。素質がどうとか、それだけで家業である夢喰いができるのが。でも、奏真兄は夢喰いを辞めたかった。奏真兄には奏真兄の夢があった。だから、僕にもできることを見つけて、父さんたちに協力しました。冴さん、僕の家にいたあの親戚の子達は、将来的には僕のように夢喰いの情報収集役として仕事をしてもらうために教育してるんです。」
私は、顔が青ざめていく感覚がした。
「奏真、貴方はルールを破った。夢見冴、お前は知ってはいけないことを知った。2人とも死んで、地獄で仲良くしなさい。」
奏真さんの母親が、冷たく言い放つ。どうしよう、どうしよう……!!でも、私がどうにかするしかない!!
「自分のこと棚に上げてよくほざけるな。クソが。」
『は?』
奏真さんの両親の声が重なる。
「聞こえなかったの?自分のこと棚に上げてよくほざけるな、つったの。耳ちゃんとある?」
私は、色々な小説を読んで色々な小説を書いて培った語彙力でなんとかして煽ることにした。
「人の夢奪って、奏真さんの記憶も奪って、それを止めようとして何が悪い?私は勝手な奴が嫌いなんだ。人の心を何も考えずに踏みにじって、ずっと自分は悪くないって顔をしてる。そういう奴なんか、消えればいい。」
もう、煽りなんかじゃない。自分の想いをただぶつけるだけだ。
「私は今から、アンタら2人の夢を奪ってやる。これでもう、夢喰いはできないよな?」
「なっ……」
「何を考えてるの……?」
「奏真さん。」
「うん。わかってる。」
奏真さんの目には、強い意志が宿っていた。
『ポベートール!!』
---
私たちはそれから、奏真さんの両親の夢を奪った。あとは、真琴だけだ。
「奏真兄、」
「真琴。」
「っ!!」
奏真さんは、聞いたことがないぐらいの低い声と、冷たい瞳で真琴を見た。
「お前はもう帰れ。」
「あの、ごめんなさ、」
「帰れ。」
有無を言わせぬ奏真さんの圧に、真琴は夢から出ていった
「冴さん。」
「は、はい。」
思わず身構えてしまう。
「戻ろうか。」
さっきの奏真さんとは別人かと思うほどの優しい声を笑顔で、奏真さんは行った。
---
戻ると、そこは私の部屋で、まだ時間は夜中だった。空は暗く、窓から見える家の電気はほぼ消えていた。
「奏真さん、あの」
「どうしたの?」
私は、思い切って口を開いた。
「ごめんなさい。私が、夢喰いをやりたいなんて言ったから。私が、真琴に相談したから。こんなことになってしまって。でも、真琴に相談しなければ、奏真さんのことは、助けられなかったから。私の、せいです。本当に、ごめんなさい。」
話しながら、涙が止まらない。本当に、私はとんでもないことをしてしまったのだ。
「冴さん、顔を上げて。」
私は涙も拭けていない顔を奏真さんに向けた。温かくて、男性らしい大きな手が私の頭を撫でる。「君がいなかったら、俺はずっと記憶も夢も失ったままだった。……………君がいてくれて良かった。」
その言葉が嬉しくて、更に泣いてしまう。
「とりあえず、寝ようか。明日は休みだから、2人でどこか一緒に行こう。」
「そうですね。」
---
私のシングルベッドに、2人で横になる。なかなか寝付けない私の頭を、奏真さんが撫でてくれる。
「おやすみ、冴さん。」
その良い声に、急に眠気を誘われた。
「奏真さん、おやすみなさい。」
頑張った……頑張った。とりあえず、頑張ればあと3話か4話で完結します。
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 15話
まだ新しい年になって1ヶ月も経っていない日の朝は寒い。体の向きを変え、隣で寝ている奏真さんを見る。髪サラサラだしまつ毛長いし、ホントイケメンだな……
「ん……?あ、冴さんおはよう。」
寝起きの破壊力やばいな。まともに顔見れないや。
「おはようございます。今、朝の7時半です。」
「じゃあ起きるには丁度いいね。起きて朝ごはん食べよう。」
---
「今日、昼間何します?どっか行きます?」
「そうだな……冴さんは行きたいところとかないの?」
朝ごはんを食べ終え、 なんとなくテレビを見ながら話す。
「特にないですね……奏真さんが行きたいところあるならそこ行きます。」
「うーん……海とか?」
「寒中水泳ですか?」
奏真さんってそういうの好きなのか?
「違うよw 久しぶりに写真撮りたいなーって思ったからさ。冬の海って結構綺麗なんだよ。」
「そうなんですか。じゃあ海行きましょ。」
「決まりだね!」
---
助手席から、ナビの指示に従いながら運転する奏真さんを眺める。何をしても絵になるんだな。イケメンって。
「そういえば冴さんが学校行けなくなった時期があるってお母さんから聞いたんだけど……」
「あーそれですか。」
いつの間に話しやがってお母さんめ。
「詳しく聞きたいんだけど……いい?」
「いいですよ。いつか話す時が来るとは思ってたので。」
---
私、学校にほとんど友達いないんです。親友はいますけど、1年生の時クラスも違ったし。休み時間はずっとノートに小説書いてて。そういう習慣がついてたので、なんかトラブルが起きるとか考えたことなくて。ある日の休み時間も普通に小説書いてて、途中でトイレに行ってから戻ったら教室が騒がしかったんです。見たら、クラスの中心的な女子が、私のノートをみんなに見せびらかしてました。それを、大声で笑っていて。駄作じゃん、とかこれよりもっと上手いの私なら書けるわ、とか言ってました。怒りはものすごくありました。人の好きなこととか、一生懸命にやっていることをどうしてバカにできるんだ、って。でも、なにも言えなかった。ノートは取り返したけど、白紙のページに落書きが沢山されていて、もう使えなくなってました。それから、小説家になりたいっていう想いが消えちゃって。学校にも、行けなくなりました。怖くて。またバカにされたくなくて。高校って普通、出席日数足りなかったら退学なんです。お父さんにその連絡が来て、わざわざ学校行って先生と話してくれたんです。自分が社長をやっているうちは、行事の撮影関係は請け負うから、退学にしないでほしいって。学校に行けなくなったのは冴のせいじゃないのに、自分が来たくて来た高校を、1年も経ってないのに出て行かせるのは可哀想だし、おかしいと思う。った、言ってくれて。先生たちの計らいで、今年からその時の中心的な子と違うクラスにしてもらえて。当時の担任だけは、力になってくれなかったんですけどね。
---
「………そういうことか!」
「えっ?」
私の話を聞いた奏真さんが、突然大きな声を上げた。
「夢喰いをやる人にはね、仕事としてのターゲットの人のリストが渡されるんだ。それで俺はあの日、冴さんのところに行った。でも、君は夢なんて無いと言った。それは、自分の夢について嫌な経験をしてしまって、その夢を忘れてしまったんだと思う。」
「夢を……忘れた?」
「すごく珍しいけど、たまにいるんだ。そういう人が。」
ほええ……
「冴さんは、今は小説家になりたいとは思わない?夢に向かって頑張るのは、もう嫌?」
「私は……」
『クソ駄作じゃん!!こんなん私の方が上手いの書けるわw』
得意そうに嘲笑った、あの声を思い出す。
「嫌じゃ、ないです。奏真さんが褒めてくれたし。それに……夢を忘れずに、挫折しても諦めずに努力すれば、夢は叶うかもしれないって、学んだので。」
「へえ。誰から?」
「それは……」
うん、言いにくい。言いにくいけど。
「奏真さん……です。」
「そっかーw ありがとね。あ、そろそろ着くよ。」
駐車場に車を停めて車から降りる。少し歩くと、太陽の光を映して輝く海と、砂浜が見えた。
ぱるしいです!これを書いてるのが10月7日の夜の9時過ぎなんですが皆さんバレー見ました?パリオリンピック決定ですよ!わーい!このお話は何とかしてあと3話ぐらいで完結させます!
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 16話
「綺麗……」
気づけば、そんな言葉が勝手に口から漏れていた。海に太陽の光が反射して輝き、人が入らない冬の海は青く澄んでいて、想像以上の美しさだった。
「綺麗だね。」
私の隣でそう呟く奏真さんも、海の美しさに見とれていたようだった。そして、首からさげていた一眼レフカメラを構える。ただシャッターを切るために準備しただけなのに、それだけの動きも奏真さんがやると凄まじく絵になる。いや、この横顔を写真に納めたい。すると、奏真さんはシャッターを切った。
「よし、上手く撮れた。冴さん、そんなにずっと俺の横にいないで、好きなように歩いたりしてていいよ。」
「そ、そうですか?」
やばいやばい、見惚れてたのバレてないよな。
---
私は少し緊張しながら、海岸を歩く。お気に入りのスニーカーで、湿ったような砂を踏みしめる。柔らかくて、転ばない様に足に力を入れる。
もしかしたら、生きてきて一番、今が幸せかもしれない。
夢を見つけた。挫折していたことから立ち直れた。……………好きな人ができた。ほんの少しの付き合いなのに、ものすごく大事な人に感じる。優しくて、大人で、かっこよくて。
去年は、いや、今までは。辛いことがあっても、「助けて」が言えなかった。何度も何度も我慢して、結局自分はなにも出来なかった。人との関わりを避けていたつもりが、人との関わりで救われた。そんなことを考えていたら、後ろから奏真さんが私に声を掛けた。
「冴さん」
今までで一番優しく、一番落ち着いた声で、奏真さんは私を呼んだ。私が振り向くと、奏真さんはシャッターを切った。
「え!?え?」
あれ、今……
「撮りました!?」
「うん。」
「撮っていいって言ってないんですけど〜!」
「ダメって言われてないし。」
「子供かっ!」
奏真さんはイタズラをした子供みたいな幼い顔で、カメラに向かって飛びつこうとする私を避ける。
「あっ」
「あ、」
砂につまずいて転びそうになった私を、奏真さんが抱きとめる。…………まだ出会う前。車から私を守ってくれたあの姿を思い出す。この人は……今までずっと強がりで、素直になれなかった私を変えてくれた、
「王子だ」
---
「え、|家《ウチ》を出る!?」
帰り道の車の中で、奏真さんは驚きのことを言った。
「うん。3月末とかにするつもりだけど。」
「な、なな、なんでですか?」
動揺を隠せない。
「これ以上お世話になるのは普通に申し訳ないし、1人で生活する力もちゃんと身につけなきゃいけないし。まあ、色々とね。」
「そうなんですか……」
ショック……いつまでもいる訳じゃないって知ってるし、わかってたけど。やっぱ、うん。ショック。
「そんな落ち込まなくても、ちゃんと会いに行くよ。」
「ホントですか!?約束ですよ?約束ですからね?」
私は思わず詰め寄る。
「うん、約束ね。」
家に着いてから車を降りて、奏真さんは私に小指を差し出した。そして、指切りげんまんをする。
「残った時間、楽しもうね。」
どうも、ぱるしいです。2日連続で公開だなんて頑張ったな!自分!このお話は約20分で書き上げました(((文字数少ねえよ
いやー完結させたくない!させたくない!どうしよう!
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 17話
「本当に行っちゃうんですね……」
3月。学校の修了式も終わり、私は春休みに入っていた。今日は、奏真さんが我が家を出て行く日だ。
「いつでも遊びに来てね。またご飯でも行きましょう。」
「君が立派なカメラマンになるの、楽しみにしているよ。まあ、もし就職先に迷ったらうちの会社に来てくれ!」
お父さんもお母さんも、テンションは明るい。私なんか寂しくて昨日からずっとしょげてるけど。
---
「桜綺麗ですね〜。」
「だね。いい写真が撮れそう。」
奏真さんが家を出る1週間前、2人でお花見に行った。前みたいに奏真さんはカメラを持って、たくさん写真を撮っていた。
「ていうかこれ美味しいね。冴さんが作ったの?」
「はい。お花見といったら手作りの弁当ですからね!」
私が作った弁当を2人で食べる。なんだろう。恋人感がすごい。
「奏真さんは家を出たらどうするんですか?」
「部屋決めたから、そこに住むよ。今までにバイトしてたお金もあるし、また新しくバイトしながら大学通って、写真について学びながら写真家目指すつもり。」
「そうなんですか……」
私、普通に学校通ってて昼間は会うこと少なかったから全然知らなかった……
「新居も、引越しが終わったら遊びにおいでよ。引越しの手伝いしてもらいたいところだけど、女の子に重い荷物運びとかはさせられないし。」
「女の子に、とか今どき良くないって話、前にしましたよね?」
「ははっ。懐かしい。」
---
笑う横顔も、ただひたすらにかっこよかった。たくさん写真を撮って、枝に手を伸ばす私の写真も撮られて、楽しかった。多分、というか絶対、これは恋だ。でもこの想いを伝えるかは、迷っている。あと少しで、行ってしまうのに。
「冴は?私たちなんかより言うことたくさんあるでしょう?」
「父さんたち、またもうすぐ仕事に行かなきゃならないから、準備してるよ。」
「奏真くん、またね。いつでもいらっしゃい。泊まって行っても、ただ私や冴と話すだけでもいいから。」
「連絡先はあるんだから、写真についてのアドバイスならいつでも言えるから。好きなように連絡してくれよ。」
「はい。本当にありがとうございました。」
奏真さんが深く頭を下げると、お母さんとお父さんは玄関からリビングの方に戻って行った。
「冴さん。」
「はっ、はい。」
名前を呼ばれ、少し声が裏返ってしまう。
「大好きだよ。」
「っ!」
耳元に、奏真さんの優しい声が流れ込んでくる。抱きしめられた、と判断するのに少し時間がかかった。
「俺を助けてくれた優しいところも、努力家なところも、強がりな可愛いところも、大好きだよ。」
どうしよう。心臓が持たない。
「わ、私も、大好き、です。」
思わず言葉が途切れ途切れになってしまう。
「かっこいいところとか、寝相が意外と悪い所とか可愛いと思うし、奏真さんの撮る写真も、大好きです。」
やばい、なんか泣きそう。
「この写真、冴さんにあげる。」
「えっ?」
奏真さんから封筒を手渡される。
「海に行った時と、お花見に行った時に俺が撮った写真だよ。良ければ、どこかに飾って。」
「ありがとうございます。」
どんな写真だろう。あとで見てみよう。
「また、会いに行くよ。新居にも、片付いたら呼ぶからね。いつか、冴さんの書いた小説が出版されたら、絶対に買うね。」
「はい。楽しみにしててください。雑誌とかで、カメラマンとしていつか奏真さんの名前が乗るかもしれないですね。楽しみにしてます。」
「ありがとう。じゃあ、またね。」
最後にもう一度ハグをして、奏真さんは出て行った。奏真さんがくれた写真は、煌めく冬の海の写真と、美しく咲く桜。そして、砂浜に立つ私の後ろ姿と、桜の枝に手を伸ばす、私の写真だった。
どうも、朝の8時に起きて9時からの部活に間に合ったぱるしいです。頑張った。結構頑張った。ちなみに次回が最終話です。
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 最終話
奏真さんが家を出てから、2年が経った。私は大学生になり、もうすぐ20歳だ。大学に通いながら小説投稿サイトに投稿したり、コンテストに応募していた。今年に入ってから投稿していた小説に出版社から声がかかり、今や大学生ラノベ作家として夢を叶えている。奏真さんとは月に1回ほど連絡を取っていて、新居にも3回ほど行かせてもらった。でも今年から、連絡がつかなくなっている。高3で、この春から大学生の真琴の家にも行って聞いてみたら、奏真さんは写真撮影のためにヨーロッパのあたりなど色んな国に行っているらしい。「帰国したら一番に冴さんに会いに行くと思いますよ。」って真琴は言っていたけど、出国の時に何も言わなかった人が帰国する時一番に私に会いに来るのだろうか。真琴は、いや納夢家はあれから、夢喰いをやめたらしい。真琴は奏真さんにしっかりと謝罪をして、できる限り奪った夢を返しに行ったのだと言っていた。大学に入ると同時に一人暮らしを始めて、奏真さんのように自立すると決めたそうだ。いやー、なんか平和が戻った感じで嬉しいな。
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作業中の机の端に置いてあったスマホが鳴った。私の小説の編集の人かと思ったけど、画面に表示されているのは、懐かしいあの名前だった。
「も、もしもし?」
少し緊張しながらコールボタンを押し、声をかけてみる。
『冴さん、久しぶり。元気?連絡できてなくてごめんね。今、日本に帰ってきたところ。今から冴さんの家の方行きたいんだけど、いい?』
恥ずかしながら、私はもうすぐ20歳なのにも関わらず実家暮らしなのだ。
「はい。全然、あの、来てもらって構わないです。」
『了解。15分後にバス乗って、それから電車だから、1時間前後で着くと思う。待っててね。』
「はい。じゃあ。また後で。」
『うん。』
いやー………相変わらず声がイケメン。見た目も変わらずイケメンなんだろうなあ〜。
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ピーンポーン。電話から45分ほどで、インターホンが鳴った。慌てて玄関まで降り、ドアを開ける。
「冴さん、久しぶり。」
「お久しぶりです。」
うん。見た目も変わらずイケメンだ。
「冴さんの本、読んだよ。面白かった。」
「えっ!?読んでくれたんですか!?」
「うん。真琴が教えてくれたんだ。」
真琴め……今めっちゃ恥ずかしいよ……
「夢が叶って良かったね。応援してるよ。」
「ありがとうございます。奏真さんは、仕事の方はどんな感じなんですか?」
「出版社でバイトしながら、独立するために経験を積んでるところ。30歳までには独立したいけど、仕事が来るかわからないから最近はSNSで撮った写真上げたりして、知名度をアップしようとしてるところ。」
すご……いや計画性とか努力すごいなホントに……
「奏真さんの夢、叶うといいですね。応援してます。」
「冴さん。今日はね、冴さんに大事なことを言いに来たんだ。」
「えっ」
なんだろう……また長い間会えないとかかな。
「冴さん。俺は冴さんが好きだ。結婚を前提に、俺と付き合って欲しい。」
結婚……早い……気がするけど私ももうすぐ20歳だし、大学生での結婚もおかしくないし、私も奏真さんのこと好きだし……
「はい。よろしくお願いします。」
「お金を稼げるのは、まだ先かもしれないけど、絶対に冴さんを幸せにする。」
「私も……奏真さんと幸せに生きたいです。」
やばい、泣きそう。
「うん…………。」
あ、奏真さん、ちょっと泣いてる?私もだけど。私は、幸せを噛み締め、身長差のある奏真さんを背伸びして抱きしめた。私を抱きしめ返す奏真さんの大人っぽい香りに包まれ、私のもうひとつの夢が叶ったことを感じた。
どーうーもーぱるしいですー!!やっと!!完結した!!9ヶ月?10ヶ月?かかった!なんか!!肩の荷が下りた!!気がする!!感想とか良ければファンレターにお願いします!!
強がり少女は夢喰い王子と恋をする 総集編
登場人物
夢見 冴(ゆめみ さえ)
今まで寝てる間にも夢を見たことが無く、将来の夢なども抱いたことがない。無口で本を愛する17歳。基本何事にも興味がないが、社会の裏側の仕事(スパイや殺し屋)には興味を抱いている。怪我をしていてもすぐ治ると言ったり、体調を崩して黙っていたのがバレた時には「言うほどのことじゃない。」と言うなど人に弱みを見せたくない強がり。
納夢 奏真(のうゆめ そうま)
『夢喰いの一族』という他人の夢に干渉しその夢を排除するのを生業とする一族の長男。弟が一人いるが、弟は他人の夢に干渉する術を持たない一般人。19歳で、殿茶色の瞳と鉄紺色の肩までの長い髪を持つ美青年。『夢喰い』として人の夢を排除しているが命懸けで夢を奪うという『夢喰い』の職業に嫌悪感を抱いている。真面目で健気だが『夢喰い』という職業の関係で昼夜逆転しており若干寝不足。
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私は夢見冴。17歳のJK2年生。人生で一度も寝ている時に夢を見たことがない。将来の夢も、やりたいことも何も無いのだ。
「ねえ、ねーえ!冴聞いてる?」
「え、ごめん聞いてなかった。」
「だと思ったよ。私さ、なんか急に将来に失望しちゃったんだよね……」
「は?」
「なんか、色んな事にやる気湧かないし、教師とかよくよく考えたら別になりたくなかったなーって。」
私の唯一の親友である理衣は教師を目指していた。まずは大学の教育学部に入るため、行きたい大学のことについてイキイキと話していたはずなのに。どうしたんだろう。
「そもそもさ、今日夜に変な夢見たんだよ。ものすごいイケメンが私の前にいて、よくわかんない呪文唱えててさ、その人が『さよなら。』って言って水晶握り潰した瞬間に私、目覚めたんだよね。」
「何それ。」
「こっちが聞きたいよ。」
そもそも水晶みたいな固いもの握り潰せないと思うんだけどなあ……
「どうしよう。これからやりたい事無くなっちゃったよ。」
「今から探せば。」
「私はいいけど、アンタもちゃんと夢見つけなさいよ。」
「はいはい。」
*
理衣と遊んだ帰り、夢….夢……夢ってそもそも何なんだろうと考えていた。興味がある事と言ったら国の諜報員とか、犯罪だけど殺し屋とかかっこいいからやってみたいな〜。
「あ、すみません………」
ボーッと歩いていたら誰かにぶつかってしまった。だけど、謝罪の言葉はそこで途切れた。その人が、あまりにも美しかったから。殿茶色の瞳と、鉄紺色の肩ほどまである男の人にしては長い髪。美男。すんごい美男。
「あ、危ない。」
「え?」
車が後ろを通り過ぎる音がして、気づくと私はその人に抱きしめられていた。
「君、車に轢かれるとこだったよ。じゃあね、気をつけて。」
「え、あ、はい。」
あんなナチュラルにハグする人いる?守ってくれたのは感謝なんだけど……一瞬のことすぎてよくわからなかったし………でもなんだろう、胸がドキドキする。
*
「あ〜〜、寝れねえ。」
夜中。私は一人部屋のベッドに寝っ転がっていた。もう冬休みだし、別に徹夜しても朝寝ればいいかな…でも昼夜逆転したらガチで廃人になりそうだから、寝よう。
「っしょ。あれ、電気ついてる……」
「あ、アンタ!」
「ちょ、シーっ。親起きちゃったらどーすんの!」
部屋の窓からいきなり中に入ってきたのは……昼間のあの人だった。
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「てか不法侵入じゃん!バカか!」
「いやこれ仕事だし。てかなんで高校生がこんな時間に起きてんの。」
「仕事って何すか!とりあえず一から説明してください。」
私とその人は小声で喧嘩する。
「とりあえず座っていい?飛んできたから疲れちゃったんだよね。」
いや自由すぎでしょ。私は渋々自室のベットに座ってもらう。
「汚さないならいいけど。」
マジで誰。てか名乗って欲しいよまず。そもそもなんで飛べるんだよ。
「俺は納夢奏真。『夢喰い』っていう他人の夢に干渉してその人の夢を排除するのを生業にする一族の長男。あ、19歳ね。」
この大人っぽい見た目で19は信じられないな。
「夢見冴。17歳のJK2年。今まで寝てる時に夢を見たことがないし将来の夢とかも抱いたことない。」
「んー、でもリストには載ってるんだよな…」
リスト…とは?てか夢喰いって何なの結局。夢って食べ物だっけ?
「さっきも言ったけど、『夢喰い』っていうのは他人の夢に干渉してその人の夢を奪うこと。」
うっわ、最低じゃん。
「一応聞きますけど、その奪った夢はどうなるんですか?」
「俺達夢喰いの一族の者には未来予知ができてね、奪った人の夢は将来叶わないものだっていうのを予知で見て奪ってる。その代わりに、他の人から奪った夢を予知で見たその人が将来叶う夢として入れてるんだ。リストっていうのは叶わない夢を持ってる人のことだよ。」
「最っ低ですね。」
「え?」
いつのまにか本音を漏らしていた。
「叶わないからって人の夢って奪っていいもんじゃないと思うんですけど。ていうかなんで、私がリストに入ってるんですか。」
「君がリストに入ってるのはよくわからないけど……俺だってやりたくてやってる訳じゃないからさ。」
「なんで、やりたくも無いことをわざわざやってるんですか?」
私の問いに、綺麗な横顔に陰が落ちる。
「さっきも言った通り、俺の一族は夢喰いを生業としている。俺の弟は夢喰いの素質がない一般人だから普通に暮らしているけど、俺や俺の両親みたいな夢喰いの素質があるものは必ず夢喰いの仕事をしなければならない、っていうルールが一族にはあるんだ。」
「逆らったら?」
「自分の夢を奪われる。」
怖っ。同じ一族でもそこら辺はなんか、仲悪そう。てか夢喰いの素質って何なんだろう。
「だから、やるしかない。自分が生きていくために、人の夢を奪ってる。心底嫌だよ。しかも夢喰いって結構命懸けだし。」
「命懸け?」
「夢喰いの手順としては、まずは自分が夢を奪う人の側に立つ。そうしたら実体は置いたままで手足の感覚と五感をその人の脳内に持っていく。そこでその人の夢、大体の人脳内は水晶みたいな感じで夢があるんだけどそれに手を当てて呪文を唱える。できたら、その水晶を握り潰す。基本、水晶になっている夢は脆いから簡単に潰せるんだ。その砕いたカスを回収して、手足の感覚とかをまた実体に戻して終わり。手足の感覚を戻す時の手順を間違えると、段々感覚が無くなっていって実体も消え去ってしまうんだ。だから、命懸け。」
「うわ……」
なんか、怖いな。私だったら絶対やりたくない。でもそれをやってるって…すごいな。
「あー、疲れた。ちょっとここで寝てもいい?」
「なんでそうなるんですか。」
「最近、ていうか俺いつも睡眠不足だし。家帰りたくないし。」
「なんで帰りたくないんですか?」
仰向けに私のベットに寝転がった奏真さんに私は問いかける。
「逆らったら夢を奪われる、って言ったでしょ?俺親からいっつも監視されてる感じするし、家帰ってもどうせ話し相手いないし。」
「弟さんは?一緒に暮らしてないんですか?」
「ううん。素質が無いものは役立たず的な感じで家を追い出されて、別のところで暮らすんだ。」
「役立たず…ですか。」
ひどい……
「素質があっても地獄、無くても地獄、嫌な一族だよねー。ごめんね、暗い話しちゃって。帰るね。」
「………ませんか。」
「え?」
「ウチに住みませんか!」
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「住まないか……って、なんで?」
「私は父親が社長ですし、家はそれなりに広さがあります。衣食住の衣のとこさえ用意してくれれば、多分住めます。帰りたくないなら、帰らなければいいんです。」
私は何言ってんだ。勢いでこんな……
「でもな、住むにしても理由が無いとダメじゃない?社長って、どこの会社?何をしてるの?」
「ドリームフォト、って知ってますか?」
「え、ちょっと待て君のお父さんドリームフォトの社長なの?てことは|夢見映司《ゆめみえいじ》さん?すっごいじゃんマジで?」
いやこんなに反応するとは……あ、ドリームフォトっていうのは私の親が経営している会社のこと。成人式や七五三の写真撮影や、時々自治体とかの宣伝動画を作ったりもしていてかなりの業界大手。お父さんは昔フリーの写真家として活動していて32歳で会社を設立して、一番初期の社員としてきたお母さんに一目惚れして結婚。会社を設立して15年、業界トップクラスの規模と五つ星の評判で日本一とも名高い。会社名に反応したってことは奏真さんは写真を撮ったりするのが好きなのかな。
「俺、カメラマン目指せる大学通っててさ、写真家目指してるんだ。親には内緒にしてるんだけどね。夢見映司、ってその界隈じゃすごく有名人で憧れてるんだ〜。」
親には内緒……あ、そうかできれば内緒にしないとか。いざという時奪われちゃうかもんね。
「ここに住んだらいつでもプロの手法教えてもらえるってことかな、ありがとう!冴さん!」
「あ、え、はい……とりあえずまた明日の朝来てくれますか?夜にいきなり来て朝突如知らない人が家にいたら親混乱するんで。」
「了解。準備してまた来るね。おやすみなさい。また明日。」
「また明日。」
*
「あのー、すみません。」
「はーい。仕事の話なら家じゃ無く店舗か会社に……」
「あ、いえそういう用事では無くて。」
次の日。というかあの時0時過ぎてたから実質今日。奏真さんがたくさんの荷物を持ちやってきた。
「はじめまして。納夢奏真といいます。19歳の大学生で今カメラマンを目指せる大学に通っています。お願いです、ここに住まわせてもらえませんか?」
「え?住むって…そもそもどこから俺の家知ったんだ?」
「お宅の冴さんと共通の知り合いがいまして。実は最近バイト先のお店が潰れてしまって、学費はなんとかなるんですが住んでいたマンションの家賃が払えなくなり……その知り合いの家に住まわせてもらっていたのですが、ずっといるのも申し訳なくてどこか紹介してくれないかと言ったらこちらを紹介されまして。」
いや嘘‼︎めっちゃ大嘘‼︎
「でもウチの会社に写真家育成コースというのがあるし、わざわざ家に来なくても……そうか、金が無いんだったな。冴はどう思う?」
「私はいいと思うけどね。お父さん面接の時「志を持った若者は大歓迎だ‼︎」ってのが決め台詞でしょ?技術を学ぼうとする姿勢とか、学ぶために社長の家に来るっていう勇気とか評価するべきなんじゃない?」
「冴には敵わんな〜………よし、しばらくの間ウチに住むことを許可しよう!なんでも教えてやるぞ!」
「ありがとうございます!」
すごい勢いで深くお辞儀をする奏真さん。よし、第一段階クリア。いやそんな段階いつ出来たんだ。とにかく、事がプラスの方向に進んでるからいいことだ。
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「こっちがトイレで、こっちがお風呂。ここが父親の部屋で、ここが母親の部屋。一番奥が、私の部屋です。」
お父さんの了承を得た私は、奏真さんに家の中を案内していた。
「なんか…思ってる以上に広い。」
「そうですか?まあ3階建てなのに横幅もありますからね。あ、ここが自宅スタジオです。」
「自宅スタジオ?」
「本物の店と同じようにカメラとかをセットして、家でも写真が撮れるようにしてあるんです。実際、私の七五三の写真とかはここで撮ってます。見ます?」
「えーとアルバム…七五三……あ、これです。」
私はラックに置いてあったアルバムを出すと、7歳の頃のページを開いた。そこにはもう10年も前の、まだあどけなくて髪も長い淡いピンクと紅色の着物を来た私の写真があった。
「可愛い。映司さんはすごいね、家なのにこんな写真が撮れるなんて。」
しれっと可愛いとか言うなよ照れるじゃんか……
「この時の髪型と今の髪型結構違うけど、なんで?」
七五三の時のロングヘアでハーフアップの私の写真と、今のボブヘアの私を見比べながら奏真さんは言った。
「ああ……ヘアドネーションってわかります?」
「あのー、あれでしょ?髪切って寄付するやつ。」
「まあそんな感じですね。当時の私見ての通り髪めっちゃ長くて。小3の終わりから小5になるまでずーっと伸ばしてて小5の夏に切りました。そしたら短いのに慣れちゃって。その時はミディアム……肩上ぐらいの長さでずっとやってたんですけど中学入って気分変えよって思って切ってからはずっとボブです。」
「そっか〜。冴さんって女の子にしては珍しく俺より髪短いけどそういうルーツがあったんだね。」
「女の子にしては、とか今時コンプラ的にダメですよ。ていうか、奏真さんが普通より長いだけです。」
「普通、も今時ダメじゃない?」
イタズラっぽく笑う奏真さん。この顔なら許せるわ。
「別に、俺の理由なんてどうでもいいでしょ。」
「言いたくないんですね。」
「なんでわかるの。」
「さて、何故でしょう。」
なんとなく、そんな気がしただけ。
「あの、それより今度というか冬休み中ならいつでもいいんですけど……奏真さんのお仕事を見せていただけないでしょうか。」
私は聞いてみる。
「え、俺の仕事を?夢喰いのところを見たいの?」
「はい。」
一度は見ておきたい、命懸けの仕事を。私が興味を持つ、人が見ていない裏でやっている仕事。
「でも、それなりにというかかなり危険が伴う仕事だからね。一般人の、さらに女の子なんて連れて行けない。」
「一般人、とか女の子なんて、とか今時ダメなんじゃ無かったんでしたっけ?」
「冴さんは口喧嘩強いね……わかった。善は急げって言うし、今晩見せてあげるよ。」
「やった。ありがとうございます。」
危険っていうのはよくわからないけど……別に今、命なんて惜しくないし。
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「さ、じゃあ行くよ!」
「はい!」
夜。私は奏真さんに言われた通りに暖かい服装になった。
「窓開けたら音でバレるから、透過するね。」
「はい?」
奏真さんが窓に触れると、そのまま奏真さんは窓を通り抜けてベランダに出た。
「来ていいよ。」
「あっ、はい。」
私も通ることができた。多分、見た目はちゃんと窓としてあるんだけど実体が無いってことかな。
「手、繋いで。」
「はっ⁉︎」
「じゃないと飛べないでしょ。」
うわ家族以外の人と手繋ぐのとか初めてだよ……
「あのー……飛ぶ、というのは一体?」
「んー、そのまま。空中散歩みたいなものだよ。」
いやわからんて。
「じゃ、飛ぶね。」
奏真さんがベランダの柵の上に立ち、柵を蹴ると私の体がふわりと持ち上がった。
「わっ。」
「手、離さないでね。落ちるから。」
「は、はい。」
そのまま歩くようにして進んで行くと、奏真さんは一棟のマンションの前で足を止めた。そして、外の廊下のところへ降りる。
「今日はここみたいだね。」
ドアに手を当て、そのまま中に入る。私も一緒に。
「寝室…はこっちか。」
適当に色んな部屋のドアを開け、無事その人の寝室を見つけた。
「この人……家ここだったんだ。」
「え、知り合い?」
「愛川舞衣……去年の私の担任です。」
のうのうと寝ている愛川を見つめ、少し腹が立つ。今学校内ですれ違っても私はこの人に挨拶もしていない。
「とりあえず中入らないとね。手、握ったままにしといて。ポベートール。」
愛川の額に手を当てそう呟くと、私は見たことない世界にいた。辺りは真っ白で、空だけが奇妙にピンクっぽい。私と奏真さんはフワフワした雲のようなものの上に乗っている。
「今のって…」
「夢の中に入るための言葉。悪夢の神をポベートールっていうんだよ。それよりこれ見て、これがこの人の夢。」
私は奏真さんが指差した透明な球体を見つめた。確かに水晶っぽいな。
「じっと見つめると、この球体にその人の夢が浮かんでくるんだ。」
私は言われたとおりにじっと見てみる。が、よく見えない。まあ私一般人だから見えるわけないか。
「ここからが大事だから、ちゃんと聞いてて。」
そう言って奏真さんは水晶の上に手を乗せる。
「深き闇夜の|月読命《ツクヨミ》様よ、無限に続く|彼《か》の夢よ。夜を統べたり月|司《つかさど》り、彼方の夢へ|誘《いざな》い|給《たま》え‼︎」
奏真さんは呪文を唱えると、自分の手元にあった水晶を握り潰した。
「はい、回収完了。」
奏真さんはどこからか袋を取り出すと、そこに砕いた夢のカスを回収して入れた。
「じゃ、帰るよ。また手握って。」
「はい。」
「パンタソス。」
そう言うと、またさっきの愛川の寝室に戻っていた。
「これが一連の流れ。帰ろう。眠いでしょ?」
「はい。眠いっす。」
*
私たちは帰りも空中散歩していた。
「見学の感想。どうだった?」
「すごいなって思いました。あの呪文とか……愛川の叶わない夢は回収したからいいとして、何か叶う夢を入れることはしないんですか?」
「いいんだ。予知を使っても、あの人はこれから何の夢も叶わないみたいだから。」
え、残酷。まあ私は愛川のこと嫌いだから叶わない方がいいけど。
「早く帰って寝ようか。」
「そうですね。」
---
「奏真さーん。起きてくださーい。」
「ん………」
朝。私たちは帰って上着を脱ぐと、速攻で寝た。私が床に布団を敷き、奏真さんが私のベッドで寝ることになった。一緒に寝るのは狭い、冴さんベッドでいいよ、いや私寝相悪いんで。などなど話し、結局私が布団。
「あれ、ていうか奏真さん………寝相すご。」
奏真さんの姿が見えないのでどうしたものかというところで、枕の位置に足があって普段足があるところに頭があるから寝ているうちにひっくり返ったやつだな。私もこういうことあったけどにしてもすごい。
「朝ごはん食べましょ。お母さんが用意してくれてるんで。」
「休みだからいいじゃん………」
「小学生みたいなこと言わないでください。毛布ひっぺがしますよ。」
私は奏真さんがかけていた毛布を剥がし、頬をペチペチと叩いた。
「痛い……」
「じゃあ起きてください‼︎」
*
『いただきまーす。』
なんとか奏真さんをベッドから下ろし、今は2人で朝ごはんを食べている。
「そういえば、昨日の朝映司さんが言ってたから写真家育成コースって何?」
「ああ、写真家を目指す人向けにドリームフォトが始めたやつです。2年制のインターンみたいな感じですかね。寮で寝泊まりして3食ちゃんとついてますよ。で、コースに参加する人たちが払う金額は年に80万ってとこですかね。」
「結構高いんだね。」
まあ家賃とか含めたら安い方な気がするけどね。私は。
「今日は何するの?」
「宿題はほぼ終わってるし……することないですね。」
テレビも大して面白くないしな………
「どこか出かける?俺の弟の家とか。」
「弟さんの家?」
「うん。他の夢喰いをしてない親戚たちと暮らしてるんだ。」
奏真さんはスマホを取り出すと、誰かに電話をかけ始めた。
「もしもし?久しぶり。元気?うん、そうそう。あのさ、今から家行っていい?あ、いい?ありがとう。俺ともう1人行くんだけど大丈夫?ありがと。歩いて行くから20分ぐらいしたら着くと思う。うん。また後でね。てことで、アポ取れたよ。」
「ありがとうございます。」
早業すぎる……
*
「冴さん、この間の夢喰いの時あの愛川舞衣って人に嫌悪感示してる感じだったけど、あの人と何かあったの?」
「それは………内緒です。」
私は作り笑いで答えた。
「本人がそう言うなら無理に追求はしないよ。それより、着いたよ。」
奏真さんが指差した先には、白くてお洒落な外壁の二階建ての一軒家だった。
「あ、お兄。」
インターホンを鳴らすと、奏真さんと同じ目と髪色で、マッシュウルフヘアの男の人だった。年は私と同じくらいか、それよりちょっと下っぽい。
「冴さん、紹介するね。俺の弟の納夢|真琴《まこと》。今高1で16歳。」
「納夢真琴です。はじめまして。真琴って呼んでください。」
「夢見冴です。高2で17歳です。呼び方はなんでもいいので。」
真琴は物腰が柔らかい感じで、結構穏やかで優しそうな感じ。
「冴さんは真琴と話してて。俺、親戚の子達見てるから。」
「了解です。」
ダイニングの椅子に座り、向かい合う。
「ここにいる子って……」
「大体がいとこです。叔母と一緒に暮らしてるので。」
真琴も含めると大体5人ぐらい。真琴以外は中学生や小学生で、4歳ぐらいの子もいる。
「奏真さんのこと、お兄って呼んでるんですね。」
「僕が小学校に入る時から、別々に暮らしてるんです。なかなか会えないので、会える時には親しみを込めて呼びたいなーって。兄弟ですから。」
いいなあ……私は一人っ子だからなあ……
「あ、お兄!せっかく来たならお昼ご飯作ってくんない?」
真琴は親戚の子たちをカメラで撮っていた奏真さんの背中にそう呼びかけた。
「ええ……叔母さんがなんか作っておいてくれてないの?」
「あるもの適当に食べてって。みんな、お兄のご飯久々に食べたいよねー?」
「うんっ!」
「奏真兄に会えるの久しぶりだもん!」
愛されてんなー奏真さんは。ていうか自分以外の子の声も利用するとは、真琴なかなかやり手だなw
「私、手伝いますよ。」
流石に何もしないのは申し訳ない。
「じゃあいっか。わかった、作るよ。」
「やったー!」
*
「いただきまーす!ん、美味しい!」
「琴葉……ソースこぼれてるよ。服汚れるから気をつけて。これ制服だったら大変なことになるからね?」
お昼ご飯は、私が麺をゆで奏真さんがソースを作ったスパゲッティのミートソースになった。私も食べさせてもらってるけど、結構美味しい。
「奏真、真琴、琴葉って……なんか字に関係ありそうですね。」
「そう。我が家は名前がしりとりみたいになってるんだよ。」
「面白いよね。まあお父さんは名前に奏って付かないけど。」
こう見ると、奏真さんと真琴は結構似てる。2人共美男だ。すごく。別々に暮らしているけど、仲はいいんだね。
*
雑談をしていると、外は暗くなってきていた。
「ごめんね。せっかくのイブにお邪魔しちゃって。」
「ううん。お兄に会えたしよかった。冴さんも、また来て。」
「もちろん。」
真琴の家を出、自分の家まで歩く。スマホの時計を確認すると、『17:34』と表示されていた。
「冴さん、今日は映司さんたちの帰り遅いんだよね?夕飯はどうするの?」
「カレー作ってあるから食べてってメール来てたので、それですね。牛タンカレーですって。」
「え、牛タン?高くない?」
「ふるさと納税の返礼品的な感じらしいですよ。早く帰って食べましょう。」
「そうだね。」
---
「おはよーございまーす。」
クリスマスの朝。昨日に引き続きすごい寝相の奏真さんをベッドから引きずり出し、半ば強制的に朝ごはんの匂いに包まれるリビングに連れて行く。
「冴さんクリスマスプレゼント来た?」
「はい。なんか置いてありました。」
この年になってサンタが来るのは驚きだけど、もらえるのは純粋に嬉しい。まだ包みは開けずに、今は置いてある。
「映司さんたち、今日も仕事なんだね。」
「一応社長ですから。夜にはケーキ買ってきてくれるらしいんで、一緒に食べましょ。」
「………うん。」
*
それから、クリスマスの昼間は何事も無く過ぎて行った。ちなみに、サンタからのプレゼントの中身は本棚(組み立て式のやつ)とマウスパッドで、奏真さんにも手伝ってもらい本棚は組み立てて部屋に置いた。最近自分の本が増えて、置き場に迷っていたから丁度いい。3年前パソコンを買ったと同時に近くの100均で買ったマウスパッドも、だいぶボロボロだったのでありがたい。
「冴さん、本が好きなの?」
「まあ…小説は読むのも書くのも好きです。」
「え、そうなの?書けるんだ。すごい。」
「別に、小説なんて登場人物考えてストーリーなんとなく組み立てれば書けますけどね。」
「それが普通の人は簡単にできないんだよ。」
んー、私自身書くの結構簡単だけどな……まあ、書くのそんな上手くないから簡単に感じるんだ。
「冴さんの書いた小説、読ませてくれないかな。」
「そんな上手いもんじゃないですよ。………仕方ないですね、いいですよ。」
「やったー。」
私はパソコンを立ち上げ、Wordを開く。個人的に一番上手く書けているやつを画面に表示させる。
「これが個人的にお気に入りです。これ以外読まないでくださいね。」
「ありがとう。」
*
「冴さん。」
「あ、読み終わりました?」
30分ほどして、奏真さんがパソコンに釘付けになっていた視線を私の方に向けた。
「すっごい面白かった。キャラの心情とか、情景描写とか、世の中の作家さんと比べても遜色無いぐらい。」
「そんな……こと、無いです。私なんて、まだまだです。」
「冴さんは、自己肯定感が低すぎるよ。」
「……何をいきなり。事実を述べたまでです。」
自分でも驚くほど、事務的な口調で答える。
「冴さん。君は、もっと自分を評価してあげていいと思う。まだ、出会って4日目の俺なんかに言われても嬉しくないと思うけど………普通の人にできないことを、これほどまでの完成度で。…………冴さん?」
「あっ、いえなんでも無いです……」
ここまで自分の趣味について褒められたことが無いから、嬉しくて涙が滲んでいたことに気づいた。
「これからも、面白いものを書いてね。冴さん。」
「…………はい!」
---
『メリークリスマース!』
夜。クリスマスパーティーとして美味しいものを食べ、話し、笑い、すごく充実していた。このまま、何もしないで良いのだろうか。自分が励まされるばかりで、自分のやっていることに悩んでいる奏真さんに、何も手を差し伸べないで。奏真さんはいつも笑顔で、色んな話をしてくれて、出会って数日の私にだって、すごく優しくて。………寝起きでもいつでもかっこいいし。あれ待って、私今なんて?かっこいい?奏真さんがかっこいいのはおそらく全人類共通の認識だけど、何で私はこんなに奏真さんのことを考えてるんだろう。
「あのー、奏真さん。」
「何?」
「奏真さんの夢ってなんですか?」
「写真家になりたい.....って言わなかったけ?w」
苦笑いで奏真さんが言う。それはそうなんだけど.....うん。
「家業を終わらせたい。」
「家業って......夢喰いのことですか。」
「うん。両親に従うばかりの自分が嫌なんだ。これは両親との戦いでもあり、自分との戦いだから。......冴さん?」
「あの、私も、夢喰いをやってみたいです!」
「え?」
そりゃそんな反応するよね。
「夢を奪いたい相手がいるんです!どうか....教えてください。私に、夢喰いのことを。」
「冴さん。夢喰いは私怨だけじゃできない。冴さんはうちの一族じゃないから、空中も歩けないし、窓から家の中にも入れない。わかるよね。」
「でも、できますよね。その......ブレスレットがあれば。真琴から聞きました。」
私は奏真さんの手首のあたりを指さして言った。
「ったく真琴も何言ってくれてるんだか......わかった、教えるよ。」
奏真さんはそう言って、着ていたニットカーディガンの袖をまくった。顔は美人だけど、その腕は男性らしくガッチリしていた。袖に隠れていた|逞しい《たくましい》腕の手首には、ブレスレットがついている。青の水晶と透明な水晶が一つずつ、革の紐に通されていた。
「この青い水晶が、夢の結晶。透明な水晶が、記憶の結晶。このブレスレットを付けると、そのブレスレットを付けた主の夢と記憶がこの結晶に宿る。つまり.....」
「水晶が壊れたら、夢と記憶が消える。」
「そういうこと。このブレスレットは付ければ夢喰いの能力が使えるけど、壊れたら夢と記憶が消えるというリスクも背負っている。夢喰いをする者にとって記憶が消えるのは死ぬと同義。命懸けっていうのは、そういう意味も兼ねてるんだよ。」
「そうですか......」
普通に怖いのだが。
「どうする?これでもまだ、夢喰いをやりたい?」
「もちろんです。ここまで聞いて、退くことなんてできない。」
「わかった。その決意に応えられるように、俺もなんとかする。年明けに一度、実家に行ってブレスレットを取ってくるから、それまで待ってね。」
「わかりました。」
---
「あけましておめでとうございます。」
「あけましておめでとう。」
新年。新しい1年が始まった。4月から私は高3。受験生になる。
「冴、奏真くん、おはよう。あけましておめでとう。」
年末年始は両親共に仕事は休み。まあ三が日が過ぎたら2人とも仕事だし、私も1月10日から学校だし。
「そういえば、シーズンモールの近くの美術館あるだろう?そこで1月6日から僕の個展があるんだよね。冴と奏真くんで今度行ってきたら?」
朝ごはんの雑煮を食べながら、お父さんが言った。ちなみにシーズンモールとは我が家から車で15分くらいのところにある大きくて広いショッピングモールのこと。
「えっ!?ホントですか!?」
わお、奏真さんの目がキラキラしとる。
「流石にこんな嘘はつかないよw入場料も無料だし、行くついでにシーズンモールに寄って昼ごはんでも食べたらどうだ?」
「行きたい……冴さん、付き合ってくれる?」
「まあちょうど本屋行きたいって思ってたとこだし、行きますか。」
新年早々いい予定が決まったな。知り合いに会わないといいけど………
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「じゃ、行こうか。」
当日。私は我が家の車の助手席に座っていた。運転席には奏真さんが座っている。
「免許持ってたんですね。」
「写真撮る時遠いところ行ったりするし、運転するの結構好きなんだよね。」
「なるほど。あ、音楽流していいですか?」
私は車の充電コードにスマホを繋ぎ、アプリを開く。
「別にいいけど、何の曲?」
「んー、これですね。」
私は自分のプレイリストの3番目の曲をタップした。
「これ、アニソンだよね。冴さんアニメ好きなの?」
車を運転しながら奏真さんが私に聞いた。
「時々見ますよ。オタクってほどではないですけど。小説書く時の参考がてら見るんですよね。そうしたら曲にもハマったんですよ。」
「ふーん。いいね、この曲。」
などと話しているうちに、美術館に着いた。が、美術館に駐車場が無いのでシーズンモールに車を停める。車を降りると、冬の冷たい風が吹いていた。
「あ、今日この後俺の家まで行ってブレスレット取りに行くけどいい?」
「はい。わざわざありがとうございます。」
とりあえず最初は美術館へ。奏真さんは目を輝かせながら写真に魅入っている。私はというとぼーっと周りの人を見ていた。ふむ、やはり大人が多い。確かにお父さん写真撮るの上手いから見たくなるのはわかる。うん。興味無いけど。
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「いやー素晴らしかったー。映司さんの撮る写真ってホントよなあ……次、俺の家行こうか。ここから歩いて行けるからそれでいい?」
「どうぞどうぞ。」
奏真さんの両親ってどんな感じなんだろう……怖い人かな?意外とそうでも……いやでも逆らったら実の息子でも夢を奪おうとする人らしいし、怖くなくてもヤバそう。
「着いたよ。」
モヤモヤと考え事をしているうちに奏真さんの実家に着いた。
「いや、え、デカくないすか……?」
横浜の赤レンガ倉庫を小さくして屋根付けた感じの外観で、なんかオシャレ。
「そうかな?とりあえず入ろうか。」
ビターチョコレートみたいな色のドアを開け、中に入る。めっちゃ洋風の家だな。
「ブレスレットは確か父の書斎のほうにあるんだよね……ちょっと見てくるからここで待ってて。」
リビングのふかふかの革のソファに身を沈め、奏真さんを待つ。
「誰かいるのか?」
「知らない靴よね。これ。」
えっ……今の声……奏真さんの両親帰ってきちゃった?
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「あ、すみません勝手にお邪魔して。ドリームフォトの社長の娘の夢見冴といいます。」
「ああ、奏真が世話になってます。納夢敦貴です。奏真の父です。」
「奏真の母の、納夢美夜子です。」
ふむ……奏真さんは母親似だな……
「あの……素敵なお家ですね。今着てらっしゃるスーツもシックでお似合いですよ。」
お父さん直伝、交渉スマイルでなんとか取り繕う。これでごまかせないかな……色々と。
「ああ、アンティークが好きなもんで。このスーツは、うちのブランドのものなんですよ。」
「うちのブランド?」
「|adolescence《アドレセンス》ってブランド知ってますか?実は、僕がそこの経営をしていまして。」
「どうりで。adolescenceのスーツ、うちの父もよく着ていますよ。」
うん。これは事実。
「それは嬉しいですね。ありがとうございます。ところで……奏真はどこかな?」
「ああ、父さん母さんおかえり。」
「久しぶりだな。年末年始も顔を見せなかったじゃないか?」
その一言で、空気がピリッと冷える。
「色々と忙しかったんだよ。大学生舐めないでくれる?」
「それは悪かったな。」
「じゃ、俺もう行くから。冴さん、行こう。」
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なんとなく、奏真さんの顔が険しい気がする。と気づいたのは、さっき本屋で買い物をしていた時だった。奏真さんの家を出てから、今の昼ごはんの時間に至るまで奏真さんはほとんど喋っていない。
「大丈夫……ですか?」
「ああ、ごめん。」
私が声を掛けるまで無言で生姜焼き定食を食べていた奏真さんが顔を上げた。
「はあ……やっぱ父さん母さんに会うと緊張するな……」
「なんか……すいません。」
「いいんだよ冴さん。別に気にしなくても。」
今度は私が無言になり、醤油ラーメンをすする。なんか、空気が重い。
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昼ごはんを食べ終わると、服屋を見たりクレーンゲームを見たりとわりと楽しかった。
「冴さーん、次どこ行きたい………って、どうしたの?冴さん。」
いきなり黙った私に、奏真さんが心配そうな顔をしている。
「あの、すみません。今日はもう帰りましょう。」
私は奏真さんの左手首を引き、早足で歩く。
「え、どうしたのホントに。」
「ちょっと……会いたくない相手が見えたので。」
私は、嫌に早い鼓動の心臓を落ち着けながら、逃げるように歩いた。
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「はあー.......」
私は大きなため息をつきながら、学校への道を歩いていた。すごく気が重い。始業式めんどくさいな.....よりにもよって会いたくないヤツ見かけちゃったし.....昇降口で外履きのスニーカーを脱ぎ、上履きに履き替える。スニーカー、25.5だとキツくなってきたな.....中学入ってから今に至るまで身長は7センチぐらい伸びたけど足に関してはほとんど成長してなかった気がする。まあいっか。階段を上り、自分の2年B年組の教室に無言で入る。クラス、というか学校の友達は理衣だけだから、みんな大して挨拶もしてこない。まあ、そのぐらいが丁度いいんだけど。
「冴、あけおめ!今年もよろしく!」
「おはよ。今年もよろしく。」
夢喰いのせいで、夢がなくなってしまってるけど、本人は大丈夫そう。
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「久しぶり。駄作作家さん。」
帰り際。あの愛川舞衣よりも大嫌いで、今一番会いたくない人に声を掛けられた。
「クラス変わってから全然会わなかったよね。一年半ぶりぐらい?ちゃーんと学校来てるんだ。」
田川渚沙。この、なにかをあざ笑うような、なにかを見下しているような、コイツの喋り方が私は大嫌いだ。
「用がねえならさっさと立ち去れ。」
「怖いな〜。あの時はアタシになーんも言い返せなかったくせに。あ、そうそう。この間シーズンモールでアンタのこと見かけたよ。」
そう言って田川が見せてきた写真には、シーズンモールで写真に肩を並べて歩く私と奏真さんの姿が写っていた。
「この人誰?彼氏?アンタなんかにこんなイケメンの彼氏なんてできないと思うけどね。」
「|違ぇよ《ちげえよ》。」
「だよね〜。だったら何なの?」
「ただの知り合いだよ。」
「アンタみたいなクソ陰キャがどこでこんな人と知り合えるの?ねえねえ、紹介してよ。」
うるさい。黙れ。その言葉が、喉の奥に引っかかって出てこない。
「嫌だよ。」
「あ?」
「嫌だつってんだよ。聞こえてねえのか?あ、高2にもなって身勝手なことしてる時点で相当ボケてんだね。ババアにはわかんねえか。ははっ。」
あえて罵倒せず、煽ってみる。
「アタシにそんな口利いていいと思ってんの?いい加減にしないと殺すわよ。」
「いい加減?テメエを殴り飛ばしてない時点でだいぶ加減してるよ。それに、お前みたいな陰湿ナメクジ野郎が面と向かって誰かを殺すなんてできる訳ねえだろ。」
私はそう吐き捨てると、田川に背を向けて歩き出した。
---
「洗濯物、終わりました。」
「ありがとう。奏真くんが来てくれてから家事とか助かるわ。」
「冴さんは手伝ったりしないんですか?」
「普段は私たち家を空けることが多いし、手伝うというよりいつもやってるのよ。さ、疲れたし休みましょうか。テーブル、拭いておいてくれる?」
「わかりました。」
冴さんもなかなか苦労してるんだな……
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「お母さんにとって、冴さんはどういう娘ですか?」
休憩中、なんとなく聞いてみた。
「えっ?そうねえ……強がり、かな。」
「強がり?」
「冴が小6ぐらいの時かな〜。階段でコケたらしくて、捻挫してスネにアザできてたのよ。冴は隠してたみたいだけど、お風呂上がりにアザ見えちゃって、本人に聞いてみたのよ。そしたら、言うほどのことじゃないと思った、なんて言うんだもん。コケた時点で心配なのに、ねえw」
「はははw」
でもなんか納得かもしれない。
「そういう感じで、どんな時でも自分は後回しで、助けてほしい時に助けてが言えないし、強がりも困るわよねえ……」
「助けてが言えない?」
「冴ね、高1のとき学校に行ってなかった……というか、行けてなかったの。クラスの子とトラブルになって、精神的にしんどくなっちゃったみたいでね。………ここから先は、私が話さない方がいいかも。奏真くんが、冴の口から聞いてみて。」
「答えてくれますかね……」
「それはわかんないかもw」
高1の時……か。あの、愛川舞衣って人が去年の担任って言ってた……何か、関係あるのかな。
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「…………ただいま。」
「冴さんおかえり。何か、あった?」
「いや、大丈夫です。」
私は幽霊のような声でただいまを言い、帰宅した。
「奏真さん、夢喰いって今日してもいいですか?」
「あー、うん。冴さんがそうしたいならいいよ。」
「ありがとうございます。」
田川渚沙、アイツの住所はどこだったかな。
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夜。私は暖かい格好をして、ブレスレットを付けるとベランダから飛び出した。紙にメモした住所に向かい、空中を歩く。後ろには、心配そうな顔の奏真さんが着いてきている。流石に1人で行かせるのは心配だから、と母親みたいな感じで来てくれた。二階建ての一軒家の窓からこっそりと入り、田川を見つける。夢喰いの仕事は、ここからが大事だ。私は、気合いを入れて、呪文を唱えた。
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「冴さん、どうだった?」
帰り道、空中を歩きながら奏真さんが聞いてきた。
「意外といけるなーって思いました。」
「………そう。」
ふっと、奏真さんの顔が暗く沈んだ気がしたのは気のせいだろうか。
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次の日は嬉しい事に土曜日だった。朝早くから両親は1週間の出張に行き、しばらくの間私と奏真さんの2人だ。でもやっぱり、夜から奏真さんの暗い表情は変わらない。
「奏真さん、どうしたんですか?」
「冴さん、ちょっと聞いて。」
いつになく真剣な表情と声の奏真さんに、私は身構える。
「俺は今から、夢も記憶も失う。」
「は?え、何言ってるん……ですか。」
「おそらく昨日、見られていたんだ。うちの両親に。冴さんが、夢喰いをしていたところを。」
「えっ?」
全く気づかなかった……
「俺はルールを破った。ブレスレットを盗んで、冴さんに渡した。ごめんね、冴さん。俺がもっと気をつけていれば。」
「何、どういう、こと、ですか。」
「いけないことをしたのがバレたから、一族の掟に乗っ取って、俺はきっと夢も記憶も奪われるんだよ。」
どういうこと?今、まさに奏真さんの両親のどっちかが夢を奪おうとしているってこと?
「夢喰いのやり方は教えた。わからないことは真琴に聞いて。多分、夢を失っても取り戻す方法を知ってるから。」
「待ってください。なんで、」
視界が滲む。涙が勝手に出てくる。
「約束だよ、冴さん。俺の夢と記憶を、ちゃんと取り戻して。」
「待って、奏真さん。」
すると、ピシッという音と共に、奏真さんのブレスレットの水晶が砕けた。そのまま、糸が切れたように、奏真さんは意識を失った。
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嘘だ……嘘だ……ねえ……奏真さん…………
「目を覚ましてよ……」
そんな呟きも虚しく、奏真さんは眠ったままだ。私のせいだ。私のせいだ。私が……
「私なんかのせいで……」
ごめんなさい。なんて言っても、今の奏真さんには届かない。
『真琴なら、夢を取り戻す方法を知ってるかも……』
そうだ、真琴。真琴に聞こう。立ち上がれ、自分泣いてる場合じゃない。
「行かなきゃ」
私は涙を拭くと、立ち上がった。
---
「冴……さん?ですよね?あの、奏真兄は……」
突然来た私に、真琴は面食らった様子だった。
「それについては、今から話す。」
困惑しながらも、真琴は私を家の中に入れてくれた。ダイニングの椅子に座り、向かい合う。
「まず、先に謝らせて欲しい。ごめんなさい。」
「その感じだと、奏真兄は……」
「私が夢喰いをやりたいって言ったから、奏真さんは実家でブレスレットを盗んだ。そのブレスレットを盗んだことが奏真さんの両親にバレて、奏真さんは夢を奪われた。真琴なら夢を取り戻す方法を知っているかもって奏真さんに言われて、私は今ここに来た。」
淡々と、事実だけを伝える。これ以上何か言っても、現実は何も変わらない。
「そう……ですか……でも、僕知ってます。夢を、取り戻す方法を。」
「ほっ、ホント!?」
「今から言います。しっかり覚えて下さい。」
「うん。」
---
「まずは、割れた水晶の欠片を集めてください。そうしたら、それを握って、夢の中に入る時の呪文を普通に唱えます。夢の中に入ったら、奏真兄の夢の欠片が散らばっていると思います。それも集めて、夢を奪う時の呪文を唱えます。ただ『彼方の夢へ』のところを『彼方の夢を』にして唱えてください。それで、戻るはずです。」
「そう。ありがとう。」
「ただ、その様子も知られてはなりません。絶対に、僕以外の誰にも言わないでください。」
「うん。もちろん。」
私はしっかり頷いた。
「僕も、奏真兄の記憶も夢も無いままなんて嫌です。冴さん、お願いします。」
「わかった。頑張るよ。」
---
「ポベートール。」
夜。自分のブレスレットを着け、奏真さんのブレスレットの割れた結晶の欠片を拾い集め奏真さんの夢の中へ入った。前に奏真さんに着いて行って愛川の夢を奪った時とは違って、奏真さんの夢の中は薄暗かった。グレーの、今にも雨が降り出しそうな雲が広がっている。
「早く行かなきゃ。」
緊張で震える手をグッと握りしめ、歩く。夢の中では、温度を感じない。暑くも寒くもない。涼しいかと言われたら、そうでもない。ただひたすらに、不思議な空間だ。
「あった………」
思わず呟いた。本来は浮いている夢の結晶が、割れた下に落ちていた。それをかき集め、真琴に教えられた呪文を唱える。
「深き闇夜の月読命様よ、無限に続く彼の夢よ、夜を統べたり月司り、彼方の夢を誘いたまえ!!」
私の集めた結晶が、まばゆい光に包まれる。割れていた奏真さんのブレスレットも、形を取り戻して行く。お願い、お願い、頼む。奏真さんの夢を、記憶を元に戻して。
「冴……さん?」
聞き覚えのある耳心地のいい低い声が、わたしの耳に入ってきた。
---
「奏真……さん?え、奏真さん?本当に?」
「うん。俺だよ。冴さん、君が俺の夢と、記憶を元に戻してくれたのか?」
「あー、はい。そう、なりますね、はい。」
私はなんと言ったら良いかわからず、たどたどしく答える。
「そうか……」
そう言うと、奏真さんは笑って私の手を握った。
「ありがとう!冴さんがいなかったら、俺はきっと眠ったままだった。感謝してるよ。」
「どう……いたしまして?」
「なんで疑問形なのw 本当にありがとう!」
何度もお礼を言われるのが少し照れ臭くて、私はどうしていいのかわからなかった。でも、何もしなくても、奏真さんは気にしていないようだった。何だか少し、安心した。私と奏真さんがそうやって感動を味わっていた時、急に、景色が変わった。
---
「どこ……ですかここ!?」
そこは、周りに砕けた夢の結晶や割れたブレスレットの欠片が積もっていた。
「夢喰いの奴らの墓場だよ。」
奏真さんの声とは違う、年齢を重ねた声が聞こえてきた。慌ててそちらを見ると、あの、奏真さんの父親がいた。そして母親も。
「奏真は夢喰いの掟を破った。夢見冴、お前は夢喰いのことを知ってしまった。」
「貴方達は2人とも、ルールに違反している。私達が今から、貴方達を処分するのよ。」
処分って何?ナイフで心臓グサリ?毒?首絞め?そんなことを考えている私に反して、奏真さんの表情は見たことないほど険しくなっていた。
「何故……アンタ達がここにいる。俺が掟を破ったのは本当だ。でも……冴さんが来たことをなんで知ってるんだ!!」
「協力者がいるんだよ。ほら、出てこい。」
奏真さんの父親が声をかけると、『協力者』とやらはすぐに顔を出した。
---
「協力者、って……」
「どうして……」
奏真さんの父親の言う協力者、というのは、真琴だった。
「夢見冴、お前が真琴に相談してくれて助かったよ。おかげで、この場で違反者を始末できる。」
「真琴……どうして……真琴!」
奏真さんの顔が焦り、感情的になっている。こんな奏真さん、初めて見た。
「奏真兄が、羨ましかったんです。素質がどうとか、それだけで家業である夢喰いができるのが。でも、奏真兄は夢喰いを辞めたかった。奏真兄には奏真兄の夢があった。だから、僕にもできることを見つけて、父さんたちに協力しました。冴さん、僕の家にいたあの親戚の子達は、将来的には僕のように夢喰いの情報収集役として仕事をしてもらうために教育してるんです。」
私は、顔が青ざめていく感覚がした。
「奏真、貴方はルールを破った。夢見冴、お前は知ってはいけないことを知った。2人とも死んで、地獄で仲良くしなさい。」
奏真さんの母親が、冷たく言い放つ。どうしよう、どうしよう……!!でも、私がどうにかするしかない!!
「自分のこと棚に上げてよくほざけるな。クソが。」
『は?』
奏真さんの両親の声が重なる。
「聞こえなかったの?自分のこと棚に上げてよくほざけるな、つったの。耳ちゃんとある?」
私は、色々な小説を読んで色々な小説を書いて培った語彙力でなんとかして煽ることにした。
「人の夢奪って、奏真さんの記憶も奪って、それを止めようとして何が悪い?私は勝手な奴が嫌いなんだ。人の心を何も考えずに踏みにじって、ずっと自分は悪くないって顔をしてる。そういう奴なんか、消えればいい。」
もう、煽りなんかじゃない。自分の想いをただぶつけるだけだ。
「私は今から、アンタら2人の夢を奪ってやる。これでもう、夢喰いはできないよな?」
「なっ……」
「何を考えてるの……?」
「奏真さん。」
「うん。わかってる。」
奏真さんの目には、強い意志が宿っていた。
『ポベートール!!』
---
私たちはそれから、奏真さんの両親の夢を奪った。あとは、真琴だけだ。
「奏真兄、」
「真琴。」
「っ!!」
奏真さんは、聞いたことがないぐらいの低い声と、冷たい瞳で真琴を見た。
「お前はもう帰れ。」
「あの、ごめんなさ、」
「帰れ。」
有無を言わせぬ奏真さんの圧に、真琴は夢から出ていった
「冴さん。」
「は、はい。」
思わず身構えてしまう。
「戻ろうか。」
さっきの奏真さんとは別人かと思うほどの優しい声を笑顔で、奏真さんは行った。
---
戻ると、そこは私の部屋で、まだ時間は夜中だった。空は暗く、窓から見える家の電気はほぼ消えていた。
「奏真さん、あの」
「どうしたの?」
私は、思い切って口を開いた。
「ごめんなさい。私が、夢喰いをやりたいなんて言ったから。私が、真琴に相談したから。こんなことになってしまって。でも、真琴に相談しなければ、奏真さんのことは、助けられなかったから。私の、せいです。本当に、ごめんなさい。」
話しながら、涙が止まらない。本当に、私はとんでもないことをしてしまったのだ。
「冴さん、顔を上げて。」
私は涙も拭けていない顔を奏真さんに向けた。温かくて、男性らしい大きな手が私の頭を撫でる。「君がいなかったら、俺はずっと記憶も夢も失ったままだった。……………君がいてくれて良かった。」
その言葉が嬉しくて、更に泣いてしまう。
「とりあえず、寝ようか。明日は休みだから、2人でどこか一緒に行こう。」
「そうですね。」
---
私のシングルベッドに、2人で横になる。なかなか寝付けない私の頭を、奏真さんが撫でてくれる。
「おやすみ、冴さん。」
その良い声に、急に眠気を誘われた。
「奏真さん、おやすみなさい。」
---
まだ新しい年になって1ヶ月も経っていない日の朝は寒い。体の向きを変え、隣で寝ている奏真さんを見る。髪サラサラだしまつ毛長いし、ホントイケメンだな……
「ん……?あ、冴さんおはよう。」
寝起きの破壊力やばいな。まともに顔見れないや。
「おはようございます。今、朝の7時半です。」
「じゃあ起きるには丁度いいね。起きて朝ごはん食べよう。」
---
「今日、昼間何します?どっか行きます?」
「そうだな……冴さんは行きたいところとかないの?」
朝ごはんを食べ終え、 なんとなくテレビを見ながら話す。
「特にないですね……奏真さんが行きたいところあるならそこ行きます。」
「うーん……海とか?」
「寒中水泳ですか?」
奏真さんってそういうの好きなのか?
「違うよw 久しぶりに写真撮りたいなーって思ったからさ。冬の海って結構綺麗なんだよ。」
「そうなんですか。じゃあ海行きましょ。」
「決まりだね!」
---
助手席から、ナビの指示に従いながら運転する奏真さんを眺める。何をしても絵になるんだな。イケメンって。
「そういえば冴さんが学校行けなくなった時期があるってお母さんから聞いたんだけど……」
「あーそれですか。」
いつの間に話しやがってお母さんめ。
「詳しく聞きたいんだけど……いい?」
「いいですよ。いつか話す時が来るとは思ってたので。」
---
私、学校にほとんど友達いないんです。親友はいますけど、1年生の時クラスも違ったし。休み時間はずっとノートに小説書いてて。そういう習慣がついてたので、なんかトラブルが起きるとか考えたことなくて。ある日の休み時間も普通に小説書いてて、途中でトイレに行ってから戻ったら教室が騒がしかったんです。見たら、クラスの中心的な女子が、私のノートをみんなに見せびらかしてました。それを、大声で笑っていて。駄作じゃん、とかこれよりもっと上手いの私なら書けるわ、とか言ってました。怒りはものすごくありました。人の好きなこととか、一生懸命にやっていることをどうしてバカにできるんだ、って。でも、なにも言えなかった。ノートは取り返したけど、白紙のページに落書きが沢山されていて、もう使えなくなってました。それから、小説家になりたいっていう想いが消えちゃって。学校にも、行けなくなりました。怖くて。またバカにされたくなくて。高校って普通、出席日数足りなかったら退学なんです。お父さんにその連絡が来て、わざわざ学校行って先生と話してくれたんです。自分が社長をやっているうちは、行事の撮影関係は請け負うから、退学にしないでほしいって。学校に行けなくなったのは冴のせいじゃないのに、自分が来たくて来た高校を、1年も経ってないのに出て行かせるのは可哀想だし、おかしいと思う。った、言ってくれて。先生たちの計らいで、今年からその時の中心的な子と違うクラスにしてもらえて。当時の担任だけは、力になってくれなかったんですけどね。
---
「………そういうことか!」
「えっ?」
私の話を聞いた奏真さんが、突然大きな声を上げた。
「夢喰いをやる人にはね、仕事としてのターゲットの人のリストが渡されるんだ。それで俺はあの日、冴さんのところに行った。でも、君は夢なんて無いと言った。それは、自分の夢について嫌な経験をしてしまって、その夢を忘れてしまったんだと思う。」
「夢を……忘れた?」
「すごく珍しいけど、たまにいるんだ。そういう人が。」
ほええ……
「冴さんは、今は小説家になりたいとは思わない?夢に向かって頑張るのは、もう嫌?」
「私は……」
『クソ駄作じゃん!!こんなん私の方が上手いの書けるわw』
得意そうに嘲笑った、あの声を思い出す。
「嫌じゃ、ないです。奏真さんが褒めてくれたし。それに……夢を忘れずに、挫折しても諦めずに努力すれば、夢は叶うかもしれないって、学んだので。」
「へえ。誰から?」
「それは……」
うん、言いにくい。言いにくいけど。
「奏真さん……です。」
「そっかーw ありがとね。あ、そろそろ着くよ。」
駐車場に車を停めて車から降りる。少し歩くと、太陽の光を映して輝く海と、砂浜が見えた。
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「綺麗……」
気づけば、そんな言葉が勝手に口から漏れていた。海に太陽の光が反射して輝き、人が入らない冬の海は青く澄んでいて、想像以上の美しさだった。
「綺麗だね。」
私の隣でそう呟く奏真さんも、海の美しさに見とれていたようだった。そして、首からさげていた一眼レフカメラを構える。ただシャッターを切るために準備しただけなのに、それだけの動きも奏真さんがやると凄まじく絵になる。いや、この横顔を写真に納めたい。すると、奏真さんはシャッターを切った。
「よし、上手く撮れた。冴さん、そんなにずっと俺の横にいないで、好きなように歩いたりしてていいよ。」
「そ、そうですか?」
やばいやばい、見惚れてたのバレてないよな。
---
私は少し緊張しながら、海岸を歩く。お気に入りのスニーカーで、湿ったような砂を踏みしめる。柔らかくて、転ばない様に足に力を入れる。
もしかしたら、生きてきて一番、今が幸せかもしれない。
夢を見つけた。挫折していたことから立ち直れた。……………好きな人ができた。ほんの少しの付き合いなのに、ものすごく大事な人に感じる。優しくて、大人で、かっこよくて。
去年は、いや、今までは。辛いことがあっても、「助けて」が言えなかった。何度も何度も我慢して、結局自分はなにも出来なかった。人との関わりを避けていたつもりが、人との関わりで救われた。そんなことを考えていたら、後ろから奏真さんが私に声を掛けた。
「冴さん」
今までで一番優しく、一番落ち着いた声で、奏真さんは私を呼んだ。私が振り向くと、奏真さんはシャッターを切った。
「え!?え?」
あれ、今……
「撮りました!?」
「うん。」
「撮っていいって言ってないんですけど〜!」
「ダメって言われてないし。」
「子供かっ!」
奏真さんはイタズラをした子供みたいな幼い顔で、カメラに向かって飛びつこうとする私を避ける。
「あっ」
「あ、」
砂につまずいて転びそうになった私を、奏真さんが抱きとめる。…………まだ出会う前。車から私を守ってくれたあの姿を思い出す。この人は……今までずっと強がりで、素直になれなかった私を変えてくれた、
「王子だ」
---
「え、|家《ウチ》を出る!?」
帰り道の車の中で、奏真さんは驚きのことを言った。
「うん。3月末とかにするつもりだけど。」
「な、なな、なんでですか?」
動揺を隠せない。
「これ以上お世話になるのは普通に申し訳ないし、1人で生活する力もちゃんと身につけなきゃいけないし。まあ、色々とね。」
「そうなんですか……」
ショック……いつまでもいる訳じゃないって知ってるし、わかってたけど。やっぱ、うん。ショック。
「そんな落ち込まなくても、ちゃんと会いに行くよ。」
「ホントですか!?約束ですよ?約束ですからね?」
私は思わず詰め寄る。
「うん、約束ね。」
家に着いてから車を降りて、奏真さんは私に小指を差し出した。そして、指切りげんまんをする。
「残った時間、楽しもうね。」
---
「本当に行っちゃうんですね……」
3月。学校の修了式も終わり、私は春休みに入っていた。今日は、奏真さんが我が家を出て行く日だ。
「いつでも遊びに来てね。またご飯でも行きましょう。」
「君が立派なカメラマンになるの、楽しみにしているよ。まあ、もし就職先に迷ったらうちの会社に来てくれ!」
お父さんもお母さんも、テンションは明るい。私なんか寂しくて昨日からずっとしょげてるけど。
---
「桜綺麗ですね〜。」
「だね。いい写真が撮れそう。」
奏真さんが家を出る1週間前、2人でお花見に行った。前みたいに奏真さんはカメラを持って、たくさん写真を撮っていた。
「ていうかこれ美味しいね。冴さんが作ったの?」
「はい。お花見といったら手作りの弁当ですからね!」
私が作った弁当を2人で食べる。なんだろう。恋人感がすごい。
「奏真さんは家を出たらどうするんですか?」
「部屋決めたから、そこに住むよ。今までにバイトしてたお金もあるし、また新しくバイトしながら大学通って、写真について学びながら写真家目指すつもり。」
「そうなんですか……」
私、普通に学校通ってて昼間は会うこと少なかったから全然知らなかった……
「新居も、引越しが終わったら遊びにおいでよ。引越しの手伝いしてもらいたいところだけど、女の子に重い荷物運びとかはさせられないし。」
「女の子に、とか今どき良くないって話、前にしましたよね?」
「ははっ。懐かしい。」
---
笑う横顔も、ただひたすらにかっこよかった。たくさん写真を撮って、枝に手を伸ばす私の写真も撮られて、楽しかった。多分、というか絶対、これは恋だ。でもこの想いを伝えるかは、迷っている。あと少しで、行ってしまうのに。
「冴は?私たちなんかより言うことたくさんあるでしょう?」
「父さんたち、またもうすぐ仕事に行かなきゃならないから、準備してるよ。」
「奏真くん、またね。いつでもいらっしゃい。泊まって行っても、ただ私や冴と話すだけでもいいから。」
「連絡先はあるんだから、写真についてのアドバイスならいつでも言えるから。好きなように連絡してくれよ。」
「はい。本当にありがとうございました。」
奏真さんが深く頭を下げると、お母さんとお父さんは玄関からリビングの方に戻って行った。
「冴さん。」
「はっ、はい。」
名前を呼ばれ、少し声が裏返ってしまう。
「大好きだよ。」
「っ!」
耳元に、奏真さんの優しい声が流れ込んでくる。抱きしめられた、と判断するのに少し時間がかかった。
「俺を助けてくれた優しいところも、努力家なところも、強がりな可愛いところも、大好きだよ。」
どうしよう。心臓が持たない。
「わ、私も、大好き、です。」
思わず言葉が途切れ途切れになってしまう。
「かっこいいところとか、寝相が意外と悪い所とか可愛いと思うし、奏真さんの撮る写真も、大好きです。」
やばい、なんか泣きそう。
「この写真、冴さんにあげる。」
「えっ?」
奏真さんから封筒を手渡される。
「海に行った時と、お花見に行った時に俺が撮った写真だよ。良ければ、どこかに飾って。」
「ありがとうございます。」
どんな写真だろう。あとで見てみよう。
「また、会いに行くよ。新居にも、片付いたら呼ぶからね。いつか、冴さんの書いた小説が出版されたら、絶対に買うね。」
「はい。楽しみにしててください。雑誌とかで、カメラマンとしていつか奏真さんの名前が乗るかもしれないですね。楽しみにしてます。」
「ありがとう。じゃあ、またね。」
最後にもう一度ハグをして、奏真さんは出て行った。奏真さんがくれた写真は、煌めく冬の海の写真と、美しく咲く桜。そして、砂浜に立つ私の後ろ姿と、桜の枝に手を伸ばす、私の写真だった。
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奏真さんが家を出てから、2年が経った。私は大学生になり、もうすぐ20歳だ。大学に通いながら小説投稿サイトに投稿したり、コンテストに応募していた。今年に入ってから投稿していた小説に出版社から声がかかり、今や大学生ラノベ作家として夢を叶えている。奏真さんとは月に1回ほど連絡を取っていて、新居にも3回ほど行かせてもらった。でも今年から、連絡がつかなくなっている。高3で、この春から大学生の真琴の家にも行って聞いてみたら、奏真さんは写真撮影のためにヨーロッパのあたりなど色んな国に行っているらしい。「帰国したら一番に冴さんに会いに行くと思いますよ。」って真琴は言っていたけど、出国の時に何も言わなかった人が帰国する時一番に私に会いに来るのだろうか。真琴は、いや納夢家はあれから、夢喰いをやめたらしい。真琴は奏真さんにしっかりと謝罪をして、できる限り奪った夢を返しに行ったのだと言っていた。大学に入ると同時に一人暮らしを始めて、奏真さんのように自立すると決めたそうだ。いやー、なんか平和が戻った感じで嬉しいな。
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作業中の机の端に置いてあったスマホが鳴った。私の小説の編集の人かと思ったけど、画面に表示されているのは、懐かしいあの名前だった。
「も、もしもし?」
少し緊張しながらコールボタンを押し、声をかけてみる。
『冴さん、久しぶり。元気?連絡できてなくてごめんね。今、日本に帰ってきたところ。今から冴さんの家の方行きたいんだけど、いい?』
恥ずかしながら、私はもうすぐ20歳なのにも関わらず実家暮らしなのだ。
「はい。全然、あの、来てもらって構わないです。」
『了解。15分後にバス乗って、それから電車だから、1時間前後で着くと思う。待っててね。』
「はい。じゃあ。また後で。」
『うん。』
いやー………相変わらず声がイケメン。見た目も変わらずイケメンなんだろうなあ〜。
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ピーンポーン。電話から45分ほどで、インターホンが鳴った。慌てて玄関まで降り、ドアを開ける。
「冴さん、久しぶり。」
「お久しぶりです。」
うん。見た目も変わらずイケメンだ。
「冴さんの本、読んだよ。面白かった。」
「えっ!?読んでくれたんですか!?」
「うん。真琴が教えてくれたんだ。」
真琴め……今めっちゃ恥ずかしいよ……
「夢が叶って良かったね。応援してるよ。」
「ありがとうございます。奏真さんは、仕事の方はどんな感じなんですか?」
「出版社でバイトしながら、独立するために経験を積んでるところ。30歳までには独立したいけど、仕事が来るかわからないから最近はSNSで撮った写真上げたりして、知名度をアップしようとしてるところ。」
すご……いや計画性とか努力すごいなホントに……
「奏真さんの夢、叶うといいですね。応援してます。」
「冴さん。今日はね、冴さんに大事なことを言いに来たんだ。」
「えっ」
なんだろう……また長い間会えないとかかな。
「冴さん。俺は冴さんが好きだ。結婚を前提に、俺と付き合って欲しい。」
結婚……早い……気がするけど私ももうすぐ20歳だし、大学生での結婚もおかしくないし、私も奏真さんのこと好きだし……
「はい。よろしくお願いします。」
「お金を稼げるのは、まだ先かもしれないけど、絶対に冴さんを幸せにする。」
「私も……奏真さんと幸せに生きたいです。」
やばい、泣きそう。
「うん…………。」
あ、奏真さん、ちょっと泣いてる?私もだけど。私は、幸せを噛み締め、身長差のある奏真さんを背伸びして抱きしめた。私を抱きしめ返す奏真さんの大人っぽい香りに包まれ、私のもうひとつの夢が叶ったことを感じた。