夏休み特別編2025
編集者:天泣
天泣です。
なんだかんだわんだらんだ((
いやぁ、去年ってちゃんとした夏休み企画やってないなーと思いまして。
てことで今年はちゃんとやりまーす。
謎小説の詰め合わせだけど気が向いたら読んでくれ〜
ちな、本編とは無関係かもしれなくもない。
───
episode.1 夢か、現か、幻か
何処かの世界の兎たち
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目次
episode.1
夢か、現か、幻か。
No side
存在するが、存在しない。
一見、矛盾しているようにも見えるが、この表現が正しいのだ。
その組織は確かに《《存在する》》。
依頼達成率は真逆の100%であり、世界各国どこでも活動していた。
達成してきた依頼は雑用から裏社会に関わることまで様々。
しかし、組織側が依頼を選んでいるのも100%という驚異的な数字を叩き出したことに繋がっているのだろう。
《《存在しない》》と云われる理由は単純。
誰もその組織の構成員も、拠点も、何も知らないからだ。
そして近年、組織の噂がパタンと無くなってしまったことも理由である。
まるで、そんな組織など存在しなかったかのように人々の記憶の中にしか情報は残っていない。
どれだけダークウェブに潜ろうが、組織へは辿り着けない。
存在する筈だが、その組織は存在しない。
これはそんな組織が引き起こす物語──の、筈だった。
はい、No sideに割り込む天泣です。
結果から述べると書いているうちに内容変わってきてるから全く意味のない前書きになりました((
でも消すのも勿体ない←謎の勿体ない精神やめろ
それでは20000字ぐらいあるけど、最後まで是非お楽しみください
---
--- 英国出身の迷ヰ兎 ---
--- 夏休み特別編 ---
--- episode.1 ---
---
No side
季節は、いつ頃だろうか。
とりあえず夏でも冬でもないことは確定しているだろう。
街を歩く人々の服装は長袖から半袖まで多種多様で、《《コレ》》とした季節を表すことは難しい。
男「……ま、無難にシャツでいいか」
ウォークインクローゼット、と呼ぶには広すぎる空間。
そこで二つの人影が服を選んでいた。
鏡に映るは外の景色。
この“ワンダーランド”からは見えているが、“外の世界”からは見えない──いわゆるマジックミラー状態。
女「ねぇ、もう移動した方がいいと思うのだけれど」
長い金髪が女性の動きにつられて揺れる。
そんな彼女とよく似た顔立ちの男性は、外の景色が映っていない鏡で服装を確認してから返事をする。
男「そういう君こそ、準備は済んでいるの? いつもは君の方が直前になって焦っているじゃあないか」
女「……別に、いつもじゃないでしょう」
男「いや、いつもだね。ほぼ100%の確率で直前に忘れ物がないか、全てチェックを始めるのは誰だろう? ねぇ、心配性の──」
女「うるッさいわねぇ……着替え途中に敵地へ放り込むわよ」
男「それは困るな」
全く困っていなさそうな表情で、ケラケラと男は笑う。
女は溜息を吐きながら服のエリアをあとにした。
🌇🌇🌇🌇🌇🌇🌇
太宰「……寝れない」
国木田「いつもなら寝ているのに珍しいな」
太宰「私だって起きてる時あるからね?」
場面は変わり、武装探偵社。
自称“民の尊敬と探偵社の信頼を一身に浴する男”である太宰は発言通り、自身の机で眠れていなかった。
理由は単純。
起きていなければならないと、第六感が云っているからである。
何故、そんな警鐘を鳴らされなければならないのか。
太宰自身も不思議であった。
ただ、窓から見える景色は平和から程遠い。
太宰「……今夜は忙しくなりそうだねぇ」
国木田「夜に何かあるのか?」
太宰「いやぁ、別に国木田くんが気にするほどのことじゃあないよ」
国木田「それなら独り言など呟くな。仕事の邪魔だ」
太宰「えぇ……」
眼鏡をクイッ、と上げようとした国木田から太宰は奪う。
視野が曖昧になった国木田が取り返そうとしたが、掌は宙を舞うばかり。
当然だ。見えていないのだから。
??「それは僕の真似か、太宰」
国木田の眼鏡をかけて考え込む太宰に、そんな言葉が投げかけられる。
太宰「私は乱歩さんと違いますし、こんな度の強い眼鏡を掛けたところで|何《なぁんに》も変わりませんよ。この疑問が晴れることはありません」
乱歩「だったら僕を頼ったらいい。君も探偵社の一員なんだから」
太宰「……、確かにそうですね」
カチャ、と眼鏡が国木田の机に置かれ、太宰は乱歩が座っている席の目の前に立つ。
太宰「さっきから向かいの建の隙間で色々と物騒なことが起こってそうで」
乱歩「アレはマフィアの黒蜥蜴だね、ぼろぼろになってるけど。敦が来た時に|事前予約《アポイントメント》もなく来て、事務所が荒らされたのが懐かしい。だから国木田が、いつも通り一人で他の階へ謝罪に行ってたね」
チラッ、と太宰は国木田の方を見る。
国木田「あの時の修繕費と謝罪用のお菓子でどれだけ掛かったか……っ」
賢治「国木田さーん、お茶淹れますかー?」
国木田「……頼む」
マフィアの襲撃は予想の範囲内だったとはいえ、このまま謝罪巡りしてたら国木田くん倒れちゃいそう。
そんなことを考えていると、乱歩がカラカラと空になったラムネ瓶の中にあるビー玉を鳴らした。
乱歩「ま、僕のラムネが無事だったし、あの時の話はここまでにしようか」
太宰「……そうですね」
乱歩「アドバイスの前に、いま君がすべきは来客の相手だ」
古そうな音を立て、探偵社の扉が開かれる。
其処に立っていたのは、おそらく外国の血が混ざっている少女。
綺麗な金色の髪は高く一つに結われており、高級感のあるワンピースと綺麗な瞳は燃え盛る紅い色をしている。
???「……|事前予約《アポイントメント》を忘れていたのだけれど、良いかしら?」
太宰「えぇ、此方へどうぞ」
改めて見ても、綺麗な人だと太宰は思った。
そして話し方や振る舞いから、少女ではなく女性と認識する。
太宰「ようこそ、武装探偵社へ。私は太宰治です」
アリス「アリスよ」
太宰「……では早速ですが、アリスさん。ご依頼は──」
アリス「“異能開業許可証”」
太宰「《《それ》》が何がお分かりで?」
アリス「勿論よ。ただ、この組織にあるものを奪い取ろうなんて……そんな野蛮な真似をするつもりはないから安心してちょうだい」
ふふっ、と少女らしい容姿からはあり得ないほど冷静で大人びた笑顔に全員がより一層警戒を強めた。
|前回のこと《ギルドの一件》を知っている。
まだヘリで登場しないだけマシだが、社員達は気を緩めることは出来なかった。
この少女のような人が実際どんな人物なのか、誰も知らないからだ。
太宰「……。」
乱歩「……。」
たった、2人の男を除いて。
太宰「横浜にはもう一つ、“異能開業許可証”を持つ組織がありますが──何故うちに?」
アリス「私は穏便に済ませたいの。戦争なんて手段に入れないし、入れたくもないわ。薄暮の武装探偵社なら、何か情報があるかと思って」
国木田さん、と敦が小さく声を掛ける。
敦「さっきの話だと、マフィアは何処かと争ってるんですよね? それとは関係ないんでしょうか……」
国木田「俺に聞くな」
鏡花「マフィアが彼処までやられているのは珍しい、と思う。それより不思議なことがあるけど」
敦「鏡花ちゃん、不思議なことって?」
鏡花「隙がありすぎる。不思議というか、不自然なところだけど。まるで無機物みたい」
敦は改めてアリスの様子を確認した。
金色の長髪に、燃える炎のような深紅の瞳。
同じ色味をしたワンピースは少女らしさはあるものの、纏っている雰囲気が大人の女性だ。
しかし、これはあくまで《《一般的な感想に過ぎない》》。
敦「(異能力“月下獣”)」
機能を使い、敦も気づいた。
虎の嗅覚は鋭く、ある程度なら判別できるが今、探偵社には新しい匂いがない。
それはつまり、アリスの存在が鏡花の言う通り“無機物”。
又は“異能力”に関わる何かということが裏付けられる。
アリス「──随分と躾のなっていないペットをお飼いのようで」
敦「……!」
太宰「躾できてる、の間違いでは? そもそも《《初対面の相手》》をそう簡単に信用できるものではないでしょう」
アリス「……それもそうね。それでどうしたら例のものは手に入るのかしら」
太宰「確実に貰えるかは分かりませんが、発行している場所と繋げることは可能ですよ」
アリス「あら、簡単に案内してもらえるのね」
太宰「目的をお話しいただけたら、ですけど」
んー、とアリスは唇に人差し指を添えて悩む素振りを見せる。
アリス「|組合《ギルド》と同じく、あった方が動きやすいだけ。私の方がまだ奪おうとしていないんだから優しくないかしら?」
太宰「マフィアには容赦ないのに、まだ善人の振りですか」
敦「それって──!」
アリス「……流石は探偵さんね。昼夜の狭間に存在しているだけあるわ」
太宰「何故、私達には奇襲──というよりは、脅しを掛けないのですか?」
アリス「簡単なことよ。少なくとも貴方以外からは死の気配をあまり感じない。それに《《私は》》穏便にいきたいから」
二人の間に無が生まれた。
周りの社員が口を出すことはなく、静かな空間には外から鳥の鳴き声が聞こえてくる。
太宰「……依頼は“異能開業許可証”を発行してもらいたい、ということで宜しいですか?」
アリス「えぇ、その認識でいいわよ。今のところはね」
含みのある言い方に対して、何か呟いた乱歩。
しかし声は小さく、誰にも届くことなく消えた。
アリス「何かあったら此処に連絡をして」
一つ、机に差し出された名刺。
それを最後に、アリスは丁寧なお辞儀をして去っていった。
見送り一人すら付けさせないその背中は、やはり容姿より年齢が高いことを語っている。
太宰「……乱歩さん」
乱歩「名刺見せて」
太宰が触れることは叶わず、発信器などは付けられなかった。
今、アリスの手掛かりは名刺のみ。
乱歩「どうして特務課に繋げようと思った?」
太宰「……乱歩さんに隠し事はむりですね。私だけがあの人を知っていて、信頼できるので」
乱歩「あの太宰が“信頼”ねぇ」
太宰「詳しい話、必要ならしますが」
乱歩「いや、面倒だからいい。この件は太宰に任せちゃって大丈夫?」
あぁ、と奥の扉から和装の男が姿を現す。
福沢諭吉。
この武装探偵社の社長だ。
福沢「太宰が信頼できるなら良いだろう。それに、特務課以外とも連係も取りやすいはずだ」
太宰「……気づかれてましたか」
裏の読めない依頼人──アリス。
しかし太宰は、民の尊敬は分からないが、探偵社の信頼を一身に浴する男だ。
この決断が間違いだとは、誰も思わない。
太宰はどう依頼を進めるべきか考え、探偵社を出た。
黄昏時。
昼と夜の狭間である曖昧な時を、彼は一人、迷いなく歩みを進めていった。
🌃🌃🌃🌃🌃🌃🌃
辿り着いたのは、この街の裏社会の代表とも云える“ポートマフィア本部の入口前”。
スーツにサングラスと、黒服が多い中に一人、小さな影が混ざっている。
相変わらずチビだな、と太宰が物陰から様子を窺っていると、頬に当たるギリギリにナイフが飛んできた。
同時に太宰のいる物陰へ視線が集まる。
??「一体何のようだ、太宰。手前のことだから大人しく処刑されに来たわけじゃねぇだろ」
一応の為か、小柄な男が黒服が発砲しないよう前線に立ち手を広げている。
流石に本部前とはいえ、戦闘は避けたいのだろう。
太宰「昼間から色々とやっているのを見かけたら、普通に何事か気になるでしょ?」
??「……見たのか?」
太宰「街を歩いてる時に戦闘音が何度か聞こえたよ。あとは探偵社の窓から、ボロボロの黒服が路地裏で休んでるのを少し、ね。だから見たかと問われたら、肯定も否定もできない」
??「もっと簡潔に話せただろ、青鯖」
太宰「因みに私が此処にいるのは、それが気になった社長からの命令とかじゃないよ」
??「……本当に何のようだ?」
太宰「お子様の中也にも判りやすく説明するなら、情報提供だよ。役に立つかは知らないけどね」
中也「誰がお子様だ」
太宰「……。」
中也「なんか云えや」
太宰「……おこちゃまちゅーや」
中也「変わってねぇだろうが!?」
くだらない会話をしている間にも、時は過ぎていく。
最強の|二人組《コンビ》“双黒”として名が知られている太宰と中也を止められる黒服など、この場にはいない。
どうしようかと狼狽える黒服の背後から聞こえたのは、凛とした通る声。
??「部下を困らせるでない、中也」
中也「っ、姐さん!」
紅葉「太宰も、役に立つか分からぬ情報を買うほどマフィアが道化ではないことを知っておろう?」
太宰「まぁ、中也で遊びたかっただけなので。ちゃんと役立つ情報ですよ、紅葉姐さん」
はぁ、と紅葉はため息をつくい。
紅葉「それで、何を求めておる?」
太宰「出来ればだけど、これから行く報復を中止してもらいたいですね」
中也「手前、本気で云ってるのか」
太宰「本気と書いてマジというやつだよ。申し訳ないけど、今のマフィアで彼らに勝てるとは思えない」
中也「……相手を知ってるのか?」
太宰「まぁ、ね。一時期有名になった“帽子屋”のこと覚えてる?」
中也「|マフィア《うち》は特に関わってなかったが、行動的には|探偵社《そっち》みたいな何でも屋じゃねぇか?」
紅葉「いや、先代の時に依頼だけしてみたことがある。ちょうど私が担当したが、返信がなく窓口の男で止まってしまった」
それは知らなかった、と太宰は近くの段差に腰掛ける。
欠伸もしていたが、対立組織の本部前ということもあってか気は抜いていない。
太宰「とにかく、今マフィアに喧嘩を売ってるのは帽子屋で間違いないよ。理由は不明だけど」
中也「というか、手前はなんで帽子屋だと断言できるんだ?」
太宰「……人には知られたくないことの1つや2つあるだろう。中也だって──」
中也「手前、それ以上なにか云えば重力で潰すぞ」
冷たい殺気で満ちる本部前。
紅葉は何度目か分からないため息をついていた。
兎に角、マフィアにとって有益な情報であるのには違いなかった。
依頼を選んでいるとは云え、達成率は100%。
その中には国のトップの護衛だってあった。
帽子屋が護衛につくという噂だけで、刺客が減るほど海外では有名な組織。
構成人数などは不明だが、マフィアがここまで追い詰められるのは久方ぶりだった。
紅葉「これは、鴎外殿に相談かのぉ……」
太宰の求めているものは、現在止められている中也率いる報復がこのまま解散すること。
確かに帽子屋が噂通りの組織なら、報復へ向かえば返り討ちに合うのが目に浮かんだ。
依頼元を叩こうにも、思い浮かぶアテが多すぎる。
太宰「因みにだけど中也」
中也「あ"?」
太宰「そっちには“刺客”的なの来てない?」
中也「……その言い方、探偵社には来たのか」
太宰「まぁ、一応ね。目的は|組合《ギルド》と一緒だって。あとは“異能開業許可証”が欲しいらしいよ」
中也「なら余計に報復はしない、っつーわけにはいかねぇじゃねぇか。そもそもマフィアのメンツに関わる」
太宰「……君等に喧嘩を売ってるのは“死の気配がするから”らしいよ」
中也「なら手前も同じだろ、最年少幹部」
太宰「それ云われた。でも1人じゃ分が悪いとでも思ったのかな? 帰っていったよ、名刺残して」
中也「名刺だぁ?」
懐から出した名刺を太宰は眺める。
ただ名前と電話番号の書かれたシンプルなデザインだ。
太宰「……ん?」
何かに気がついた太宰は、名刺を空へ掲げた。
紙が薄い部分があり、月明かりで文字が透けて見える。
それは異国の人とは思えないほど綺麗な日本語だ。
中也「どうした?」
太宰「いやぁ……想像の何倍も忙しく、面倒なことになりそうだなって思っただけだよ」
🌁🌁🌁🌁🌁🌁🌁
『親愛なる探偵社へ。
誰かはこの仕掛けに気づくと思っていたわ。
何がきっかけか判らないけれど、私には止められない。
例の件は帽子屋として。
個人としては、あの子を救ってほしい。
太宰治に見せれば全て理解してくれるはずよ。
力不足な私を許して。
赤の女王より。』
🌁🌁🌁🌁🌁🌁🌁
太宰「……だから貴女は、探偵社に来たんですね」
?「やぁ、太宰くん」
名刺をしまい、太宰は立ち上がって少し汚れた裾を払う。
?「紅葉君から色々と聞いたよ。相手はあの“帽子屋”だそうだね」
太宰「マフィアのメンツを保つ為には血眼になって探したいところだろうけど、今回ばかりは止めた方が良いよ。壊滅させられたくはないでしょ?」
?「確かにそうだが、やはり何もしないというわけにもいかなくてねぇ……」
ニコッ、と笑うポートマフィア首領“森鴎外”。
その笑みを見て太宰、そして中也も顔を歪めた。
森の近くにいた者なら分かるだろう。
大体、こういう時は突拍子もない事を云うのだ。
それに振り回されてきた双黒は思わず視線を合わせる。
「「中也(太宰)と二人で相手するなんて冗談でしょ(ですよね)!?」」
放った言葉は、多少違いがあるものの殆ど変わらない。
森はそれを見て、もう一度笑うのだった。
森「福沢殿に確認してくるから、少し待っていなさい」
中也「首領! 考え直してください! 太宰は裏切り者ですよ!?」
太宰「|組合《ギルド》戦でも組んだし良いでしょ!? 双黒は敦くんと芥川くんに世代交代したんだから!」
紅葉「大人がみっともなく騒ぐんじゃない」
ゴツン、と双黒の頭に鉄槌が落ちる。
流石は五大幹部で唯一の女性といった所だろうか。
紅葉「全く……」
森「福沢殿に許可が貰えたよ」
太宰「社長!?」
森「変わるかい?」
手元にあった携帯を奪い取るなり、太宰は叫ぶ。
太宰「私に一任するのやっぱり無しにしてくれませんか!!??」
福沢『……貴君なら最も適した対応が可能だろう。そして、つい先程の依頼で国木田や敦は外に出た』
太宰「タイミングゥ……」
中也「首領、これが本当に最適解なんですか?」
森「……長年忠誠を誓っている君なら判るだろう、中也君」
双黒はもうこれ以上は時間の無駄だと感じ、諦めることにした。
太宰「それで、マフィアは何処に向かう予定だったの?」
中也「どうしても相手は俺達を潰したいようだ」
渡されたメッセージカードには座標が示されている。
太宰は其処が赤レンガ倉庫を指していることに気がついた。
太宰「こんな見え透いた罠にハマろうとしてたわけ?」
中也「逃げてきた奴に話を聞けば、急に現れて殺されかけたらしい」
太宰「此方からは接触不可、と。あんまり森さんらしくない判断な気がするのだけど」
中也「……手前が来るのを分かっていたのかもしれねぇな」
太宰「あー、なるほど。私がマフィアを訪れたら双黒を向かわせ、本部の警備に姐さんとかアテれるもんね」
そんなことを話していれば、すぐに約束の場所へ着いた。
太宰「……いないね」
中也「場所は間違ってねぇ筈だが──」
そこで中也の言葉は途切れ、双黒の間に人が現れる。
回避後、すぐに応戦しようとするも距離を取られてしまった。
??「──うっそ〜!? 二人しかいないんだけど!!」
????「それでも、きっと楽しめるよ。あの二人は例の“双黒”だから」
中也「手前らが“帽子屋”で間違いねぇな?」
????「あぁ、此方だけ知っているのはフェアじゃないね」
緑色の帽子を外し、銀髪の男は一礼する。
アーサー「僕はアーサー・ラッカムだ」
エマ「エマ・マッキーンだよ〜!」
太宰「……他の仲間は何処にいるのかな?」
エマ「えっ、ルイスくんとアリスちゃんのこと知ってるの!?」
太宰「なるほど、少なくとも君達二人以外は此処にはいないようだね」
中也「……本部の方か」
アーサー「エマ、喋りすぎだよ」
エマ「テヘッ☆ でも、どうせ殺すんだから変わらないよね〜」
やっぱりか、と太宰はため息をつく。
殺す気がなければ、こんなに面倒くさいことにはなっていない。
エマ「──隙あり」
先程までの楽しげな雰囲気はどこへ行ったのか。
瞬時に距離を詰めてきたエマの攻撃を中也が防ぐ。
外套が重力操作によって強固にされており、エマの大鎌は刃を通さない。
エマ「ひゃっ……!?」
アーサー「っ、エマ!」
それだけでなく、外套を通した重力操作で大鎌に掛かる重力が何倍にもなった。
急いで身を引いたから良かったものの、少しでも遅れていればその華奢な身体に重くのしかかっていたことだろう。
あーあ、とでも云いたげな太宰を他所に、中也はエマとの距離を縮める。
多くのものを介しての重力操作が難しい中也は直接触れようとしたが、アーサーによって掌は宙を舞う。
いや、それだけではなかった。
宙に浮かぶ緑色の文字列。
自身も使うのでよく理解している“異能力が発動している”サイン。
身動きの取れなくなり、焦る中也だったが背後から伸びてきた手のおかげで身体が自由になる。
アーサー「……よく対応できたね」
太宰「出来ますよ、勿論。私は貴方達のことを《《よく知っている》》」
エマ「それはありえないよぉ? だってエマ達は何も情報を残してないもん」
太宰「えぇ、そうですね」
中也「手前……やっぱり何か隠してやがるな?」
太宰「……気づいてたんだ」
はぁ、とため息をつきながら太宰は頭を掻く。
太宰「アーサー・ラッカムに、エマ・マッキーン。どちらも強い異能者だけどタネさえ分かっていれば相手するのは難しくない」
エマ「ブラフ?」
アーサー「さぁ、どうだろうね」
エマ「うーん……ま、双黒さえ倒せたらこの国は終わったようなものでしょ」
太宰「中也、目に見えるものだけを信用してはいけないよ」
中也「あ"? それってどういう──」
カキン、と太宰の方を見ていた中也の耳元でそんな金属音が聞こえた。
太宰が事前に懐から抜いていた彼のナイフを、耳元に用意していたのだ。
そして、中也の足元には先程まではなかった剣が一つ。
太宰「彼女は“モノの物量を変える”能力の持ち主。其処が無だと思っていても、武器が飛んできてる最中かもしれないから気をつけた方が良いよ」
中也「……交戦する前に云えよ」
太宰「誰が待ってるかは分からなかったからね」
エマ「タネが分かったところで──!」
アーサー「ストップ、エマ」
追撃の準備をしているエマを制止したのは、アーサーだった。
アーサー「君、本当に何者? “未来を知る男”にはなれないだろう?」
太宰「あぁ、懐かしい言葉だね。アレは敦くんが成長した良い事件だったよ。ウェルズさんは綺麗な女性だと聞いていたから、お礼も兼ねてぜひランチにでも誘いたかったんだけど──」
アーサー「質問に答えてくれるかな。君はただの双黒の片割れ、異能大国である欧州にもいなかった“異能無効化”の持ち主だろう?」
太宰「私も遠回りなやり方は飽きたからハッキリさせようか」
いつの間にか二人で会話が進んでおり、中也とエマは置いてかれている。
ただ、今動くべきじゃないのは判っていた。
相方が何か策を考えているなら、邪魔をするべきではない。
太宰「帽子屋と呼ばれた君達が今頃になって姿を現したのは“本”が必要になったから。理由は──うん、ルイス・キャロルが変わってしまったからとかじゃないかな?」
アーサー「……。」
太宰「|組合《ギルド》の長が“白紙の文学書”で大切な娘を取り戻す為にヨコハマを訪れたよう、君達は戦争を経験していなかった“可能世界”を求めてやってきた」
エマ「な、んで……っ」
太宰「マフィアを襲ったのは、ルイスさんが“死の気配”を纏う人達を許せなくなってしまったから。“白紙の文学書”を探すのに手っ取り早い方法だから、君達もこうやってメッセージを残して|殺しをしている《彼を手伝っている》」
中也「……巻き込まれたのも良いところだな」
太宰「ま、マフィアなんてそんなものでしょ」
もう話し疲れて近くのコンテナに座った太宰は、何処からか愛読書を取り出す。
月光が入ってくる倉庫には彼が頁を捲る音だけが微かに聞こえる。
誰も動かないかと思ったが、アーサーが静寂を破った。
アーサー「流石は《《鼠》》と同等の頭脳を持った男だ。探偵社でも、きっとその観察眼や思考力を活かしているのだろう」
太宰「まぁ、私より凄い人がいるので本気で考える必要はそう多くないですけど──」
アーサー「それで、君が僕達のことを知っている理由は?」
太宰「……欧州でも前例がない|この力《人間失格》は或る日、異能無効化という特性を利用して特異点を発生させた」
考え込むアーサーに、太宰はわざと話を続けなかった。
少しすると、謎が解けたかのように彼は目を見開く。
アーサー「僕達が行きたい可能世界──いや、数え切れないほどある可能世界と強制的に接続して、外の自分の記憶を手に入れたのか……!」
太宰「此処とは全然違う世界線ですけどね。そもそも貴方たちは三人で“帽子屋”として活動していますし、ルイスさんとアリスさんは別々に行動が出来ない」
エマ「貴方が知ってる世界での“本”の場所を知らないの!? それさえ分かれば、もう、私達がマフィアと敵対する理由もないし──」
太宰「残念ながら、“本体”は見つかってませんね。誰かの脳内には存在するみたいですけど」
エマ「そ、んな……」
太宰「私が貴方たちについて詳しい理由は理解してもらえましたか?」
アーサー「あぁ」
中也「とりあえず本部にでも戻るか? 今の話をルイスとか云う奴にすれば無駄な戦いはしないで済むだろ」
太宰「聞いてなかったの? 今のルイスさんは私達の話は勿論、彼らの話だって耳を傾けてはくれないだろうね」
でも、と太宰はコンテナを降りて出入り口へ向かった。
太宰「本部に戻るのは賛成だよ。流石に報復の為の寄せ集めと幹部一人じゃ大変だろうからね」
中也「寄せ集め、とは云っても芥川とか黒蜥蜴も合流予定だし戦力としては申し分ないと思うが……」
エマ「ルイスとアリスを甘く見ないほうが良い」
急に雰囲気の変わったエマに、中也は足を止めて振り返った。
感情の起伏が激しいのか、笑顔の時と真面目な表情の差が大きくてまるで別人のように見える。
エマ「あの二人は私達より年下だし、見た目も小さい。だけど私達に戦闘を教えた師匠であり、少なくとも貴方より強い」
中也「……手前」
太宰「中也」
中也「何だよ」
太宰「待て。ついでにお手」
中也「誰が狗だ!」
アーサー「戯れるのは良いが、異能無効化の君なら記憶を手入れているから分かるだろう。ルイスの強さは──」
太宰「分かってますよ。でも、正面での戦闘なら中也の方が強いので」
アーサー「先程まで僕やエマに翻弄されていたのにかい?」
中也「喧嘩なら買うぞ、帽子屋」
少し浮かび上がった紅い渦を巻いたような痣に、アーサーとエマは身構えた。
裏社会に長い事いるからか、中也の殺気は熟練者みたいに洗礼されている。
それは先程まで殺気がほぼ無かったことを認知させ、まだ本気じゃなかったことも理解させられる。
中原中也。
双黒の片割れで、重力使い。
紙の上に載っている文字列だけでは、本当の情報は手に入らない。
帽子屋の依頼成功率は100%だったが、苦労していないわけではない。
依頼人の出した情報や、ネットのものは信用があまり出来ない。
それこそ、自分の目で見なくては。
太宰「はぁーい。痣をそう簡単に出さないでよね、中也。別にアーサーさんだって喧嘩を売ってるつもりは無かったんだから」
中也「……チッ」
太宰「まぁ、ルイスさんって中也と同じぐらいチビだけど」
中也「それを本人の前で云って殺されろ。いや、やっぱり俺が殺すから絶対に死ぬんじゃねぇぞ」
雰囲気は戻り、エマは流れる冷や汗を拭いた。
アーサーも帽子を被り直して、小さく息を吐いているようだった。
アーサー「これが双黒、か」
最強と呼ばれるだけある、と喧嘩をしている二人を見て小さな笑みを浮かべた。
🌃🌃🌃🌃🌃🌃🌃
時は少し遡り、ポートマフィア本部前。
紅葉「……とりあえず待機にはしておるが、中也たちは大丈夫じゃろうか」
森「大丈夫じゃないかな」
エリス「リンタロー、適当なことを云うのはどうかと思うわよ」
適当じゃないよ〜、と抱き締めようとする森を避けたエリス。
顔面から地面に激突していたが、心配以上に呆れているようだった。
紅葉「何か根拠があるのかえ?」
森「まぁ、太宰くんが何か知っているようだったから。彼はきっと私よりも数手ほど先を見越して動いている筈だよ」
紅葉「……直哉、このみっともない|首領《ボス》にティッシュを渡しておやり」
森「みっともない……」
直哉「大丈夫ですか、?」
森「私ってみっともない……?」
直哉「い、いえ……! そんなことは……」
ティッシュありがとね、と森は鼻血を止めようとする。
森「顔面強打したぐらいだから心配しなくて大丈夫だよ。それに私、お医者さんやってたから」
「「ただの闇医者だった(じゃった)癖に」」
森「エリスちゃん? 紅葉くん? 聞こえてるよ?」
エリス「軍医やってた時だってまともに働いてないじゃない! アキコにばっか治療させて!!」
森「なんか今日いつもより当たりが強くない???」
どう思う、と振られた直哉はオドオドしながらも袋を用意していた。
森は鼻血だけではなく擦り傷も所々あり、消毒も準備して森よりも何倍も医者らしかった。
芥川「──遊撃隊、到着しました」
森「芥川くんもどう思う?」
芥川「話を初めから聞いていたわけではないので答えられま((ゴホッ」
樋口「あぁ!? 無理なさらないでください!?」
芥川に続き、黒蜥蜴も到着して少し本部前が賑やかになる。
立原「──にしても、本当に帽子屋なのか? 都市伝説じゃねぇのかよ」
広津「少なくとも、先代の頃はまだ活動していた。人々の記憶にしか残っていないから都市伝説と思っても仕方ないが」
立原「へぇ……爺さんは会ったことあるのか?」
広津「若い時に見かけたことはある。何処かの国の偉い人物の護衛任務で日本に来ていてな。私が見た帽子屋は金色の髪が太陽の光で綺麗だった」
立原「やっぱ外人は元から綺麗な色していて良いよなぁ」
銀「……(コクリ)」
立原「其処にいる奴も金色の髪が綺麗だよな。てか、あんな男──」
ほんの一瞬で立原の視線の先にいた人物は消えており、いつの間にか彼の背後に小さな人影がいた。
咄嗟に反応した銀が武器を向けるも簡単に避けられ、立原に当たりそうになる。
広津も異能を発動させようとしたが、上手く身体を翻して触れることは叶わない。
男「“死の気配”がする……けど、この感じは──」
言葉の先が読めた立原は、拳銃を取り出して早撃ちをする。
男の背後には仲間もいたが気にしている余裕はなかった。
今こそ黒蜥蜴の十人長としての地位を持っているが、本当は軍警のスパイ。
此処で正体がバレてしまえば帽子屋どころではなくなる。
男「──まぁ、どうでもいいか」
立原「……!」
結果から述べれば、男の後ろにいた黒服にも本人にも弾丸は当たっていない。
鏡が銃弾を全て受け止めて、割れた鏡面は立原の姿が映していた。
芥川「異能力“羅生門”!」
男「……喰われてるけど?」
女「生憎と耐久性を重視してるから、丸ごと取り込まれるのは予定外なのよ!」
その二人は、顔立ちがよく似ていた。
違うのは性別と髪の長さ、後は瞳の色ぐらいだろう。
高い位置で結われた金髪の女は、夕暮れに探偵社へ訪れた時と同じ格好をしている。
アリス「ねぇルイス、本当に──」
ルイス「殺す。“死の気配”を纏っているやつを生かしてはおけない」
アリス「──そう……って、待ちなさいよ!?」
空高く飛んだかと思えば、無から現れた剣を持って着地と同時に周りの黒服を一掃した。
次の瞬間には目の前にいる黒蜥蜴など目にないのか、まっすぐと走り出した。
道中に黒服が障害としていても、いなくても。
全て斬りながら進んでいくルイス。
紅葉「──金色夜叉」
シュッ、と月光で刀の形をなぞるように煌めく。
交わって生まれた火花が小さいのに関わらず、音は辺りに響いた。
紅葉「久しぶりの再会、と思ったが窓口だった者ではないのぉ……彼もこの戦場にいるのかえ?」
ルイス「……。」
紅葉「会話をするつもりがないのは別に良い。じゃが、私も夜叉も、命乞いや遺言を聞く暇など与えないゆえ……覚悟はしておくと良い」
🌃🌃🌃🌃🌃🌃🌃
鏡が幾つも喰われていくのを見ながら、アリスは一定の距離を置くようにしていた。
追いかけているのは芥川。
悪食である羅生門は防御に特化した鏡さえも喰らってしまう。
アリスへ向けた銃撃を防ぎながら、強者の相手をするのは意外と難しい。
芥川「何故反撃をしない」
アリス「普通に考えて反撃する暇なんて──!」
芥川「笑止。貴様は男と違い、手を抜いている。それに僕は強者を見間違えない」
アリス「良いわねその自信! 分けてもらいたいぐらい!!」
キャラ崩壊がぁ、なんて考えながらアリスは相変わらずの逃げに徹していた。
黒獣だけでも手一杯なのに銃撃戦ときた。
普通に考えて一人でマフィアに乗り込むようなもの。
ルイスのように武器がほぼ永久に出せるなら、アリスが作れるのは“鏡”だけ。
どうするべきか考えて、ため息を吐き、また考えて。
そんなことを繰り返していたら、いつの間にかアリスは攻撃せざるをえない状況に追い込まれていた。
鏡の生成にも時間は掛かり、羅生門の攻撃を真正面から受けるなら防御力を考えて余計に時間を要する。
アリス「(さて、どうしたものかしら……)」
攻撃して何処か黒服の間に隙間を作って体勢を整える、というのが一番良いことはアリスも分かっていた。
しかし、彼女自身は穏便に話を進めたい。
ルイスが殺気を隠さずに紅葉の元へ行ってる時点で、それはもう無理だが。
アリス「……ワンチャンね」
怪我をしない身体──正確には本物の肉体ではないアリス。
羅生門の攻撃の間を潜り抜けるなど、普通なら考えられない。
そんな身体能力を生まれつき持っている人間など、なかなか存在しない。
最悪《《自己修復能力》》でどうにかなる。
腕の一本ぐらいなら、と考えている暇もなく羅生門の攻撃は迫ってくる。
??「はぁーい。そこまでだよ、芥川くん」
芥川「だざっ……!?」
アリス「……ハァァァァァァァ」
太宰「大きなため息ですね、アリスさん」
アリス「わざわざ探偵社に行って保険を張っておいて良かったと思ってるけど、もっと早く来れなかったのかしら……」
太宰「そもそも、メッセージの呼び出し場所が本部から遠いんですよ。加えてアリスさんは逃げまくってるから、追いかけるのが大変で大変で」
アリス「はいはい私が悪かったですよー」
ぷくー、と膨らむ頬を見ながら太宰は微笑む。
遅れて着いたのはアーサーとエマの二名。
二人の仲の良さに不思議そうな二人を見て、アリスはちゃんと説明をすることにした。
アリス「私が可能世界について説明したのは覚えているわよね?」
アーサー「“白紙の文学書”についてもね」
アリス「……私の鏡は未来も見れる。それで知ってしまったのよ、ルイスを助けられないと」
エマ「え……?」
太宰「だから“救ってほしい”なんですか?」
アリスは少し視線を落とす。
アリス「アーサーは、エマは。私達は今のまま次へ進みたい。戦争を経験してない、と“本”に書いたとしてもルイスの哀しみや怒りは消えない」
エマ「……ルイスが元に戻らないってこと、?」
アリス「それに加えて、私が別行動できなくなるでしょうね。もしかしたらルイス・キャロル自体、世界から消えてしまうかもしれない」
アーサー「戻る日付で調整、とかも無理なんだね」
沈黙が続く。
三人とも、何も云えなくなっていた。
唯一の希望は代償があるかもしれない。
全て無くなってしまえば、マフィアと対立しているこの時間さえ無駄になる。
アリス「……ごめんなさい。もっと早く気付けたら良かったのに」
太宰「前もって知ってたわけじゃないんですね」
アリス「知ってたら相談してるし、今日探偵社には行ってないわ」
それもそうか、と太宰は振り返る。
太宰「芥川くん。監視とかつけても良いから絶対に殺すな」
芥川「ですが帽子屋は──!」
太宰「狗なんて嫌いだけど、君は“待て”ぐらい出来るだろう?」
芥川「……っ、判りました」
殺す、ではなく、救う。
そんな風にアリスが表現したのは、自分も死ぬかもしれないからなのだろうか。
そんなことを考えながら太宰は中也の元へ向かった。
先に帽子屋状況を首領へ伝えるようにしていたが、ちゃんと説明できているのだろうか。
森「やぁ、太宰君。中也君から一通り話は聞いたけど、一体どうするつもりかな?」
太宰「どうやら“本”を使っても元のルイスさんに戻らない確率の方が高いみたいで。今は芥川くんの監視下のもと、どうするか話してると思いますよ」
森「そうかい」
太宰「そういえばルイスさんは──」
太宰の問いかけに答えるかのように、爆発音が響き渡った。
檸檬爆弾か、なんて思って視線を向ければボロボロの紅葉と、まだ余裕のありそうなルイスの姿。
幹部として退くわけにも行かず、夜叉と当人の斬撃に巻き込めない。
そして何より、紅葉に銃弾が当たったらと黒服たちが動けていなかった。
太宰「……腑抜けしかいないわけ?」
中也「それが一言目かよ」
太宰「幹部の意地もあるだろうけど、このままだと紅葉さん危ないよ」
森「そういうのは、本人が一番判ってるものだよ」
太宰「ここで捨てるには惜しいと思うんだけど、森さんはそれで良いわけ?」
良いわけがない。
それは誰もが分かっていた。
しかし、紅葉に代わる人材がいないのも事実。
一瞬で交代できなければ、黒服の被害が大きくなる。
ただでさえ、日中から減らされているのに此処でまた減るのは組織としても良くはない。
太宰「……ま、結論は後で聞けば良いか」
出番だよ、と中也の背中を押す太宰。
しかし視線は別の方へ向いていた。
🌃🌃🌃🌃🌃🌃🌃
紅葉「(ここまで追い詰められるのは、いつぶりじゃろうか)」
幹部になって数年。
男尊女卑が激しい時代も夜叉と共に生き抜いた、先代の時代からマフィアだった。
しかし、目の前にいるのは数多もの戦場を駆け抜け、帽子屋としても成果を挙げた同い年の子供のような青年。
書類仕事もあれば交渉や拷問もある。
目の前の彼のようにずっと戦場にいた場合ではない紅葉は、此処が限界だと理解した。
紅葉「(……そう、理解するのは簡単じゃ)」
長年マフィアにいる紅葉からしたら、現在の五大幹部は色々とおかしい。
紅葉の部下であり、荒神をその身体に宿している双黒の片割れ──中原中也。
戦闘は出来ないと何かある度すぐシェルターに駆け込む役立たず──|A《エース》。
地下の訓練所で新人の指導などをしている表だった行動が出来ない──ポール・ヴェルレヱヌ。
先代の死を見届けたかと思えばマフィアを抜けて探偵社にいる最年少幹部──太宰治。
そして、唯一の女性であり殺戮の権化である金色夜叉の使い手──尾崎紅葉。
紅葉「理解して、此処からどうするか……!」
ルイス「っ、」
紅葉「“金色夜叉”! |私《わっち》の邪魔になるものを切り捨てよ!」
爆弾が紅葉に届く前に切り捨てられ、殆ど二人の間の位置で爆発する。
煙の中、うっすらと見えた影へ向かってもう一度爆弾を投げ込み、ルイスは剣を構えていた。
しかし煙が潮風で消えて気付く。
紅葉だと思っていた影は“金色夜叉”であり、本人の姿がない。
ルイスが振り返ると同時に紅葉の刃が、右肩から左脇腹へ届いた。
紅葉「……っ、浅い──!」
右肩はちゃんと入ったものの、紅葉が踏み込むと同時に身体を退かれた。
徐々に浅くなった傷では、ルイスを止めることが出来ない。
剣を振りかぶった姿が、紅葉の朱い瞳に映る。
紅葉「(私の命と引き換えにそこそこ削ることは出来たのではないんじゃろうか)」
走馬灯のように流れていく記憶。
紅の字と呼んでくれた彼と一緒にマフィアを抜けようとしたが、あの人は先代に殺された。
それからマフィアは憎んでいたが、今は心地が良い。
部下にも恵まれ、頼りない首領を五大幹部が一人として支えてきた。
そして、ルイスは“死の気配”がする人物を殺している。
いずれ溺愛している、自身と違って光の世界で生きる鏡花の元へ行くかもしれない。
そこまでの道のりで少しでも足止めできて、重りになれたのなら。
紅葉「……皆、達者でのぉ」
その時、振り下ろされている剣の位置が変わらなくなった。
ルイスは何も変化がない。
紅葉が剣の振り下ろされる速さと同じ速度で影に沈んでいるのだ。
完全な暗闇に覆われ、誰かに引き上げられる。
否、誰なのかは分かっていた。
紅葉「な、おや……?」
直哉「何を…っ、何で勝手に満足して死のうとしてるんですか!」
涙を浮かべる直哉に対して、紅葉は何も云えなかった。
もう助かることはないと思っていた。
自分以外に抑えられる人はいないと思い込んでいた。
死んでも仕方がないと、思った。
太宰「姐さん。貴女は次を思って命を懸けたのかもしれませんけど、残された方の気持ちはよく分かるんじゃないですか?」
太宰に云われるまで、気が付かなかった。
思い出せなかった。
あの人を想って泣き続けていた日々のことを。
太宰「ほら、想っている人がまた増えましたよ」
紅葉「……っ、鏡花や」
鏡花「良かった……生きてて、本当に良かった……っ」
与謝野に治療を頼んだ太宰はその場を離れ、先程まで紅葉がいた場所へ向かう。
本来の世界のルイスを知っているのは自身だけ。
敵対するのはなかなか珍しい世界なのではないだろうか。
そんなことを考えながら歩を進めれば、また爆発音が聞こえてきた。
ルイス「──して」
中也「あ?」
ルイス「どうして此処にいる。アーサーは、エマは……っ」
勘違いが起きているが、説明する暇もなく戦闘は激しくなっていく。
先程までの武器と武器のぶつかり合いではない。
生身の中也がどこまでやれるのか。
正直、太宰も予想がついていなかったが、普段から銃弾を止めたりしていることから武器に弱いと云うわけではない。
爆発は対応可能なのか不明だが。
ルイス「やっぱり“死の気配”が濃い方が躊躇いもない……っ、だからロリーナも──!」
中也「誰だよそれ!?」
太宰「……成程、ね」
どの世界でも|そう《途中離脱》なのか、と太宰は一人納得した。
あとは、どうやって無力化するだけ。
太宰「──その前に決まったか」
アリス「待たせて悪かったわね、太宰くん」
太宰「大丈夫ですよ」
結末は決まった。
太宰「暴れなくて良さそうだよ~!」
中也「じゃあどうするんだよ!!」
太宰「もう少し時間稼ぎよろしく~!」
中也「はぁ!? ──って、危ねぇ!?」
よし、と太宰はアリスの方を見る。
いつの間にか一人増えてるが、面倒だから最初からいたことにしておくことした。
太宰「一応聞いても良いんですか?」
アリス「何かしら」
太宰「自分で決着をつけるので大丈夫なのかな、と」
アリス「……あまり赤ノ女王をナメないことね」
エマ「アリスちゃーん! 準備OKだよー!!」
アーサー「僕も、今日は異能の調子が良いみたいだ」
テニエル「それじゃあ行こうか」
テニエルの作った穴に飛び込む四名。
ルイスの前に出た直後にアーサーが異能を発動して、近くにいたほぼ全員が動けなくなる。
唯一動ける太宰がルイスを除いたメンバー解放し、準備を整える。
ルイス「アーサー……エマ……」
中也「異能力“汚れちまった悲しみに”」
ルイス「っ、」
ルイスも触れられたが、中也の異能力で地面に倒れ込む。
テニエル「……こっちで大丈夫?」
アーサー「マフィアの前でやるからこそ意味がある──はず、だよね?」
太宰「意味ありますよ。一応、マフィアは報復を無駄に大事にしてるので。皆さんがやるのは不満が出ると思いますけど……まぁ、そこは森さんがどうにかするでしょ」
森「え、丸投げ?」
エマ「はい、アリス」
アリス「……ありがとう、エマ」
地面に仰向けになっているルイス。
剣をまっすぐ持ち、跨がったアリス。
胸に剣先が向けられているが、その手は震えている。
手だけではない。
これからどうなるか分からない恐怖で、身体が震えていた。
ルイスとアリスは一心同体、だった。
現在、虚像である異能で作られた器に入っているアリス。
彼が死ぬと、自身はどうなるのか。
ルイス「……殺らないの?」
アリス「、、、」
ルイス「消えたくない? 生きていたい? それとも|この選択《僕を殺すこと》に罪悪感でも抱いてる?」
アリス「、、、、、」
ルイス「怖いなら僕が君にやったみたいに主権を握って、要らないものは端に、見えないところに、決して出られない牢獄に閉じ込めたら良い」
ルイス以外、誰も口を開かない。
彼が何を思ってるのか、誰も分からなかった。
“死の気配”を纏う人間への執着。
どうしてそうなったか太宰と、帽子屋は理解できているだろう。
ルイス「……ねぇ、アリス。これだけ答えてくれないかな」
アリス「何、かしら……」
ルイス「別の世界の僕は、こんなに狂ってなかった?」
この世界線のアリスは“鏡の国のアリス”を、ルイスに使わせていない。
それが何を意味するのか。
普段の“迷ヰ兎”の姿は、この場にいる中だとアリスと太宰しか知らない。
アリス「……えぇ」
そっか、とゆっくりと手を上げたルイス。
重力で動きが取りにくいのに、グッと剣を握った。
手が斬れて、赤い血が剣とルイスの腕を伝う。
ルイス「迷惑懸けて、ごめんね。でも僕は、ロリーナを殺した奴を許せなかった」
アーサー「……ルイス」
ルイス「“死の気配”を纏う奴が全員消えたら、後は僕だけ。でも、君達まで殺せるとは思えなかった。こんな僕を仲間と呼んでくれた皆を殺すなんて、僕には……っ」
エマ「泣かないでよ、ルイス……!」
テニエル「……僕は、ルイスに殺されるなら本望だよ」
ははっ、と声にならない笑い声が静かな夜に消えていく。
ルイス「死ぬのが早くなっただけ。君を不安にさせるのは悪いと思ってるけど、僕は死ぬことは怖くない。君も死なないことを願っているよ、アリス」
アリス「……私達は二人で一人。貴方だけ逝かせはしないわ」
ルイスが手を離すと同時に、まっすぐ剣が上がる。
そのままアリスは剣を胸に突き刺し──。
---
アリスside
アリス「──ッッッッッッ」
飛び起きた私は、寝間着だったのなんて忘れていた。
ベットを降りるなり、髪をグシャグシャにしながらワンダーランドの中を歩き続けた。
今が何時か分からない。
ただ、無駄に早い鼓動と流れる冷や汗をどうにかしたくて。
??「っ、おい! 大丈夫かよ!?」
アリス「違う、あれは別の世界の、でも、私は虚像で、ルイスが死んだら、」
??「アリス!」
グイッと肩を掴まれて振り返る。
涙が溢れて、姿がちゃんと見えない。
アリス「──にたくない」
??「……!」
アリス「死にたくない。違う、生きたくない。ルイスがいない世界なんて、私が巻き込んでしまったのに、あの先は、私が確かに殺して──っ!」
??「落ち着け!」
顔を掴まれ、彼と視線があった。
アリス「……ガブ、?」
ガブ「よし、とりあえず現実なのは分かったな?」
アリス「……ぅ、ん」
むにー、と両頬を引っ張られる。
涙は相変わらず止まることはなく、彼の手を濡らしてしまった。
それを気にしていることがバレているのか、大丈夫だと笑われる。
ガブ「……悪い夢で見たか?」
アリス「いいえ、夢ではないわ。異能の延長線──或る可能世界を視たの」
ガブ「ま、とりあえずルイスは暫く帰ってこないし、お茶でも飲んでゆっくりしようぜ」
場所を変えて、椅子に腰掛ける。
彼は相変わらず優しく声をかけ続けてくれた。
ガブ「にしても、お前が取り乱すなんてよっぽどの悪夢だな」
アリス「……だから悪夢じゃないわよ」
ガブ「いーや、お前が何と云おうと悪夢だ」
アリス「……どうして其処まで否定するのよ。私の異能は知ってるでしょう?」
“鏡の国のアリス”。
それは鏡を創るだけではなく、過去や未来も映す。
何処かの鏡に映っている光景を見ることが出来るし、鏡を通した転移も出来る。
そして、可能世界や並行世界を視ることも。
アリス「だからアレは、何処かの世界線で確かに存在した私達の姿。探偵社から警戒されたのも、羅生門に食べられそうになったのも、私じゃない私が経験してる。そしてルイスを、この手で──っ」
ガブ「お前は優しすぎるんだよ、アリス。何処かの世界線を気にしてたら、さっきみたいに|今《この世界》を見失うぞ」
アリス「……それは」
ガブ「俺がいなかったらどうしてたか、なんて“鏡の国のアリス”で可能世界を見てみないことには分からない。でも、ろくな未来じゃねぇだろうな」
アリス「そう、かもしれないわね」
優しすぎる、ね。
今まで夢に可能世界が出てこなかったし、同化もしたのは初めてだった。
簡単に割り切るのは、難しい。
ガブ「俺らみたいなのはテキトーに生きてたら良いんだよ。難しく考えなくて良い」
アリス「……そう云われてもね」
ガブ「《《僕》》は探偵社で働いてる神宮寺ユイハで、お前はルイスを誰よりも理解してる。それ以上でもそれ以下でもない。どう生きるかは、どんな結末を掴むのかは俺ら次第だろ」
アリス「貴方らしいわね」
ふわぁ、と欠伸をしたガブ。
明日も依頼があって忙しいと云っていたのに、付き合わせてしまった。
私は深呼吸をして微笑む。
アリス「……もう大丈夫。紅茶淹れてくれてありがとう、ガブ」
ガブ「どういたしまして〜」
それじゃ、と姿が見えなくなるまで見送る。
紅茶を飲みきろうとカップを覗くと、自分の姿が映った。
鏡を出してちゃんと見てみると、しっかりと泣いていたのが分かるぐらい目が腫れていた。
アリス「……ははっ」
虚像の筈なのに目が腫れるなんて、おかしいわね。
何処かの世界の兎たち
…やぁ、また会ったね。
ボクかい?
ただの“忘却の果て”にいる──うん、なんだろうね。
でも、ボクはボクだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
にしても、随分と揺れていたね。
あぁ、もちろん地震とかじゃないよ?
ルイスじゃない──此処、本来の世界のボクの心でも云おうか。
実際に心と呼んでいいのかは分からないからね。
ボク達は、人じゃないから。
さて、例の世界とやらの復習でもしようか。
アリスが夢で見た可能世界では、どうやらこの世界との差があるみたいだ。
登場人物を、一度整理してみよう。
---
**ルイス(可能世界)**
或ることがきっかけで“死の気配”を纏う者を容赦なく殺している。仲間の前ではケラケラと笑ったりするが、敵の前では一切の躊躇いなく武器を振り回している。最後に見せた涙は迷ヰ兎と変わらない、本来の彼なのだろう。
**アリス(可能世界)**
探偵社を訪れ、太宰の協力を必要とした。迷ヰ兎の記憶はないが、異能力で様々な世界線を知っているのでどうにかルイスを止めようとした。その結果が“本”による現実改変。考え方はどちらかと云うとルイス(迷ヰ兎)寄りで、戦いを出来るだけ避けたい。
**アーサー(可能世界)&エマ(可能世界)**
基本的には迷ヰ兎と変わらないが、戦争後にあまり狂ってはいない。或ることで変わってしまったルイスから離れることも、止めることも出来なかった。ただ許せないのも事実で共に戦う道を選ぶ。しかし、裏ではアリスの案に乗って早く“本”を手に入れる為に“異能開業許可証”を得ようとしていた。
**テニエル(可能世界)**
或る組織で奴隷のように扱われていたが、元英国軍組に拾われてからはアッシーとして使われることもなく好きに生きられている。
**ロリーナ(可能世界)**
“或ること”に深く関わっている人物。戦争で生き残ったが、この世界でも亡くなってしまった。相手は裏社会の人物であり、“死の気配”を纏っていた。
**帽子屋(可能世界ver)**
ルイス、アリス、ロリーナ、アーサー、エマ、テニエルで構成された謎多き組織。依頼達成率は驚異の100%。拠点をワンダーランドとし、テニエルが窓口として依頼を持ってきて全員で選定していた。ロリーナを失ってから、全て狂い始め──……?
**太宰(可能世界)**
自称“民の尊敬と探偵社の信頼を一身に浴する男”。ある日、特異点が起きて迷ヰ兎の記憶を手に入れた。昼間からマフィアが騒がしくしているのを見て、少し察してはいたがアリスが現れてから真面目に動くことにした。
**中也(可能世界)**
ちょっと原作と異能が違う。何かを通じての重力操作が可能だったり、他の世界と比べて感情によって異能が暴走しやすい(痣が浮かびやすい)。本人も気をつけているが、双黒と名を馳せていた時はすぐに太宰が殴って止めていた((
**乱歩(可能世界)**
どの世界でも宇宙一の名探偵。アリスの名刺の仕掛けにすぐに気づいたが、何を云わなかった。“異能開業許可証”を発行してもらいたいというアリスを見て、どうしても止めたい人(ルイス)がいるのを見抜いていながらも伝えなかったのは太宰を信用をしているから。
**紅葉(可能世界)**
五大幹部が一人で、“死の気配”が濃いからとルイスに目をつけられてしまった。直哉を登場させたかったのもあるが、天泣なりに彼女のことを深めてみたかった。実質主人公((
**アリス(迷ヰ兎)**
夢で良かったとは思ったものの、あのようになっていたかもしれないという不安で取り乱した。しかし、ガブのお陰で何か被害が出ることはなかった。
**ガブ(迷ヰ兎)**
最後までアリスが見た夢を悪夢と言い切った人物。自身が普通の人間じゃないのは充分判っていたが、見つめ直すきっかけになった。あの後ルイスに感謝を伝えられたが、しらを切った。
---
さて、登場人物はこんなところかな。
色々と酷いねぇ。
設定とかストーリーとか、ぜーんぶが最悪だ。
どの世界でも|彼女《ロリーナ》が死ぬのは、そういう運命なのだろうか。
ルイスは、アリスはどれだけ傷つけば良いのだろう。
~~__`…天泣はどこまで傷つければ気が済むんだか`__~~
キミはそう思わないかい、#親愛なる読者#。
あの最悪な小説をよく読み進めてきたね。
“英国出身の迷ヰ犬”も、“英国出身の迷ヰ兎”も。
全て、巫山戯ている。
…あぁ、悪いね。
ボクの愚痴はこの辺にしようか。
次の物語は《《こう》》ならないといいね。
幸せだけ求めているわけではない。
ただ、ボクが此処にいるのだからルイスは少しでも報われるべきだ。
#親愛なる読者#がボクの発言が分からなくて当然。
いつか分かったとしても、共感は求めていない。
さて、次の物語の予告をしよう。
---
英国軍の治療技術は素晴らしいものだ。
その中でも或る異能兵の治癒能力は──彼は、どんな怪我でも救ってくれる。
彼を見つけるのは簡単だ。
特徴的な赤い髪を見つければ良い。
高い位置で結んでいる赤髪に、マリーゴールドのような黄色い瞳。
その誰からも好かれる性格をしている“コナン・ドイル”は、その異能のせいで英国軍の本部から出られない。
本人も、それを受け入れて本部内という小さな箱庭で自由に生きていた。
──しかし、そんな彼が姿を消した。
疑われるルイス・キャロル。
英国に再来した殺人鬼。
過去と現在が交差した中、|コナン・ドイル《ジョン・H・ワトソン》は何を想うのだろうか。
---
また会おう、#親愛なる読者#。
はじめに
このシリーズは、夏休み特別編ということで様々なストーリーを投稿できたらと思っています。
大きく分けて
・平行世界/可能世界
・過去編
・クロスオーバー
・本編に関わるかもしれない物語
の四つです。
どれだけ投稿できるかは分かりませんが、今日の21:00に「episode.1」は予約してます!
是非、時間がある時に読んでください。
投稿できなかった物語は、また別の機会に──。
それじゃまた!