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目次
調査報告書1 クレマチスについて
【クレマチス】
今から約5年前、突如地球上に発生し、僅か4年足らずで人類を絶滅に追いやった生命体である。まだ未解明な点がとても多く、研究チームが解明を進めている。各個体にある‟コア”を切れば倒すことができる。コアの場所は個体によって異なるため、戦闘時はまずコアを見つけなければならない。
クレマチスにはいくつかの種類があり、ファーストクラス、セカンドクラス、サードクラスに分類されている。基本的に知能はない模様。
現在確認されている種は以下の4つである。発見次第駆除せよ。
【モンタナ】
群れでの行動を好み、非常に厄介。過去には30体近くの群れも確認されている。
【フォステリー】
唯一雌雄のある個体。足が異常に速く、見つかったら一般人はまず逃げられない。
【ヴィオルナ】
比較的小さな個体。飛行可能。戦闘能力はあまりないようだ。
【アトラゲネ】
冬に多く発生する。しかし基本的に敵意はないようなので、被検体に多く使用される。
0クラス…規格外の個体。現時点での該当個体は現れていない。
Ⅲクラス…体長5メートル以上、戦闘能力が非常に高い個体。 基本フォステリーが分類される。
Ⅱクラス…体長3メートル以上、戦闘能力を有する個体。 基本モンタナが分類される。
Ⅰクラス…体長2メートル以下、戦闘能力を持たない、または比較的弱い個体。 基本ヴィオルナとアトラゲネが分類される。
調査報告書2 レクトについて
【レクトについて】
レクトとは、ヨーロッパのどこかに位置する小さな国である。3年前に作られた30mの防壁に囲まれており、外部からの侵入は不可能となっている。また、一般人が防壁外へ出ることは難く禁じられている。
国内には近代的な建造物が立ち並んでおり、侵攻以前のような平和を取り戻しつつある。
南方に戦闘部隊基地、中心に司令部隊基地、北方に偵察部隊基地が置かれている。偵察部隊、戦闘部隊は専用のゲートから防壁外へ向かう。
【防壁外の世界】
建造物はクレマチス達によって殆ど破壊されており、荒廃した世界が広がっている。人間はもちろん動物もおらず、植物は全て枯れ果ててしまった。至る所にクレマチスがいる為、部隊以外の者が一歩でも踏み出せば命はないだろう。
調査報告書3 基地内部について
【機関について】
レクトを防衛する3つの部隊を、総称『|星孔雀《ホシクジャク》の騎士団』と呼ぶ。年に一度募集をかけ、入隊条件を満たした応募者の中から選抜試験を行い、合格した者は希望する部隊に所属することができる。ただし、司令部隊は司令部隊長・レイチェルが指名した者のみ入隊可能となっている。騎士団は常に人材不足の為、戦闘部隊の場合は新人であれど容赦なく前線へと駆り出されることもある。また、育ちが複雑な者も多くいるため、年上や年下等は重視されていない。だがあくまでも命を懸けることを前提としている為、あまり親密過ぎる関係は組まない方がそのときの為だろう。
【基地内部について】
司令部隊基地
最もセキュリティが高い。地下3階、地上4階建てになっている。地下には避難施設及び武器庫がある。1Fはエントランス、2Fは情報通信局、3F、4Fは共に司令室や宿泊所となっている。
戦闘部隊基地
最も民間施設との距離が近い。階層は司令部隊と同じだが、特徴的な形をしている。B2Fには研究所が併設されている。
1Fは稽古場、2Fは救護室や会議室、3Fは通信局や会議室、4Fは宿泊所となっている。
偵察部隊基地
最も防壁との距離が近い。地下がなく、地上7階建てとなっている。屋上があり、敵襲に備え見張りを交代制でつけている。
内部は戦闘部隊基地とほぼ変わらない。
Episode【00】 入団式
地球への侵攻が始まってから、5年。
地球最後の国では、人類を守るため、また新たな者達が立ち上がろうとしていた。
「総員、起立せよ!」
指揮官の合図と共に、新入団員約370名が一斉に立ち上がる。張り詰めた空気の中、代表の団員が任命証書を丁寧な作法で受け取り、宣誓の言葉を述べ、拍手を浴びながら壇上を降りる。式が進められ、「各隊長からの言葉」と響いた途端、空気が揺らいだ。全員の視線がステージに集中する。厚い戦闘用靴を響かせながら現れたのは、戦闘部隊、司令部隊、偵察部隊のそれぞれの隊長だった。3人は横一列に並びステージの中心で足を止める。白髪の女が一歩前に出た。
「司令部隊隊長、レイチェル・フェイシアだ。君たちの入団を歓迎する。最近は敵の侵攻が活発になっているが、今年は優秀な者が多い。今以上に人類を守る壁になってくれることを期待している。以上」
凛とした声が式場に響く。拍手と共に後ろに下がると、右に立つ眼帯の男が声を張り上げた。
「俺は偵察部隊隊長、スカイヴ・エリュワルガだ。偵察部隊に告ぐ。ここに配属された以上、前線に突っ走るような真似はするんじゃないぞ。―まぁ、表情を見る限り大丈夫そうだが。お前達の活躍を期待している。以上」
『はっ!』
偵察部隊の者達の揃えられた返事と眼差しがスカイヴを見据える。スカイヴは薄く微笑み、彼の右に立つ髪を結った男を見た。
「ほら、ノア。お前の番だぞ」
「うん」
男は軽く頷き、二人よりも小さく前に出た。予め彼にだけ用意されていたマイクに向かって話し出す。
「戦闘部隊隊長のノアです。まずは入団おめでとう。…と言いたいところだけど、生憎ここは戦場。おめでとうなんて言葉は使えない。だから皆に言いたいのは―」
ノアの目つきが変わる。小さく息をつき、言葉を続けた。
「—ここに来たからには、全力で国を守り、死んでも戦うことを止めるな。危害を加える敵は殺し、共に戦う仲間は救え。そして、分かっていると思うがここは地獄だ。‟死”が日常になり、苦しみが常に付き纏ってくる‟戦場”。それでも尚、この場所を選んでくれた君たちを、俺達は大いに歓迎しよう。人類の希望となってくれることを信じてるよ。以上」
『はっ‼』
マイクの電源を切ると、戦闘部隊員の威勢のいい返事が空気を震わせる。「じゃ、これで」とノアが軽く手を振って舞台袖へと消えていく。それを二人が追いかけていき、式が続行された。
「あー、疲れた。こんな人数多いなんて聞いてなかったんだけど…」
ステージを降りたノアが歩きながら伸びをする。その顔を横からスカイヴが顔を覗き込んだ。
「お前、今日どーした?熱でもあんのか」
「え?いつも通りだけど」
ノアが不思議そうに首を傾げる。そんなノアの頬をレイチェルがつついた。
「挨拶だよ。いつものお前があんなこと言うわけないだろ」
「え~、酷いなぁ。俺だって言うときは言うよ」
むっとしたノアが頬を膨らませて言う。レイチェルはつつくのをやめ、顎に手を当てた。
「…まぁ、今年の新人は豊作だからな。司令部に120人も新人が入るなんて異例だ」
「だな。皆顔つきが違う」
賛同するようにスカイヴが頷く。ノアがふっと笑った。
「—今年は、何かが変わりそうだね」
吉と出るか、凶と出るか。それは、誰にもわからない。
Episode【01】
入団式から、1週間。
訓練を終えたロミオは、重厚なつくりの廊下を歩いていた。
(なんで僕が司令室なんかに…)
稽古場から帰る途中、司令室からのアナウンスでロミオの名前が呼ばれ、至急第2司令室へ来るようにとのことだった。何かしでかしたかと不安になりながら、普通来ることのない3階へと足を運んでいる。
「ここ、か…」
厳重な鉄の扉の前に立つ。横にある認証カメラに腕章をかざすと、ピピッと音がした。
『戦闘部隊員番号604番ロミオ・アズリエル、入室を許可する』
司令の声がして、ドアが横にスライドしながら開かれる。「失礼します」と腕を後ろに回した敬礼姿勢で中へ入る。
「やぁ、いらっしゃい」
大きな会議用テーブルを囲む椅子に腰かけていたのは、戦闘部隊長のノアだった。意外な人物に内心驚くが表情には出さず一礼し、壁についているモニターを眺めているレイチェルの方を見た。
「質問をしても?」
「どうぞ」
「何故、僕のような新人が呼ばれたんですか?何もやましいことはありませんが」
レイチェルは少し笑い、「呼んだのはワタシではない」とロミオを見ずに答えた。
「では…」
「そ、俺が呼んだの」
ひらひらと手を振るノアは、笑顔だった。何か問題を起こした訳ではないと悟り密かに安堵する。ロミオはノアに向き直り、「要件は何でしょうか」と聞く。
「君、武器は?」
「…リボルバーと、銃です」
「ふーん…」
(なんでそんな質問を…?)
ロミオは少し困惑しながらノアを見つめる。何か考えるような仕草をした後、ノアが再度聞いた。
「じゃあさ、何か守りたいもの、ある?」
「え…」
守りたいものと聞いてロミオの中に真っ先に浮かんだのは、義弟のアリアの笑顔だった。「…あります」と俯きがちに答える。
そんなロミオを見て、ノアが「うん、決まりだね」と立ち上がった。ロミオが何か言いかけたが隙を与えず、一瞬でテーブルを飛び越えてロミオの前に降り立つ。
「では今から、君の初任務へ行くとしようか」
「……は」
なんでそうなる、と言いたげなロミオの腕を掴み、ノアが司令室をあとにする。訳がわからないまま連れていかれたロミオを見送り、一人になったレイチェルは呆れて溜息をついた。
「…で、任務というのは?」
移動用の輸送車に揺られながら、ロミオは隣に座るノアに聞いた。外を眺めていたノアは、ロミオの方を振り返る。
「さっき偵察部隊から入った情報で、リドアニア南部のガドル地区でフォステリーが捕獲されてる。君にはその駆除にあたってもらいたいんだ。でもⅡクラスの個体だから、簡単でしょ?」
「簡単って…」
初任務でⅡクラスは鬼畜すぎないかと言わんばかりのロミオの目に、ノアはふっと微笑む。何か試すような、挑発的な笑み。
「…あ、ついたみたい」
ノアが外を見る。つられて同じ方向を見ると、まだ原型を保っているビルがぽつりと建っていた。ロミオが車から降りると、待っていた見張り役のリーガとノアが何やら話し込んでいる。暫くして話し終えたノアがこちらに歩いてきた。
「相手はこのビルのどこかにいる。知能がないからビルから逃走する心配は多分ないけど、もし逃走したら無線で伝えて。説明は以上、それじゃね~」
「は?ちょっと、待っ…」
あまりに簡潔な説明に引き留めようとしたものの、既にそこにノアの姿はなかった。取り残されたロミオが茫然としていると、リーガがロミオの肩を叩いた。
「頑張れよ新人。あの隊長は大変だからな」
「で、ですね…」
リーガの言葉に頷き、頑張れよと見送られてロミオはビルの中へと入っていった。
—————————
「んッ…」
鼻をつくような腐卵臭に顔をしかめる。一階のエントランスを捜索しても何もなく、警戒しながら階段を上がる。
二階の廊下に片足をつく。カツッ、と音がした。
―瞬間、目の前に現れたのは、白い|なにか《・・・》だった。
「っ」
目の前に鎌が振りかざされる。間一髪で後ろに飛び退き、壁を蹴って一階に繋がる階段に身を隠す。相手をうかがうと、人型のような、形の定まらない目が一つの個体だった。大きな鎌を持っていて、ゆらゆらと揺れるように辺りを見回している。瓦礫の隙間から銃を向け、背後から三発打ち込んだ。
「ギャア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!」
よほど痛かったのか、甲高い悲鳴を上げてそれが暴れる。その傷口から、ドス黒いコアが見えた。狙いを定め、引き金に手をかける。
しかし、引き金を引くより早く、周囲の瓦礫が吹き飛んだ。目の前に鎌が現れる。
(マズ…ッ)
頭に鈍痛が走る。血が飛び散り、壁に血の跡をつくった。受け身をとれず床に叩きつけられる。
「いった…」
痛みを押し殺して立ち上がる。階段から降りてきたそれを睨みながら、床に転がった銃を拾う。
(どうする?相手は鎌だ。この狭さでは遠距離の僕が圧倒的不利—)
ズキズキと痛む頭で必死に考える。今にも突進してきそうなそれを視界から外さないようにして、ゆっくりと後ずさった。どうにかして背後を取らなければ。
不意に、天井に亀裂が入っていることに気付く。一番亀裂が大きな場所は、丁度僕とそれの間にあった。
(これなら…)
バンッと天井に向かって引き金を引く。銃弾は亀裂に直撃し、一気に天井が崩れ落ちた。
砂埃で視界が遮られているうちに、積みあがった瓦礫から二階へと飛び移る。顔を覗かせると、それは砂埃と瓦礫の中で僕を探しているようだった。見つからないよう、息を殺して狙いを定める。
(—そこ)
音を立てて発砲された弾丸は、息をつく間もなくそれの背中を打ち抜いた。それが痙攣し、鎌を取り落とす。
「ア”、ア”、」
パンッと破裂音が聞こえ、それの胴体に大きな風穴が開く。やがてそれは崩れていき、塵となって消えた。先程までの緊張感が嘘のように静寂が漂う。
「たお、せた…」
一気に力が抜け、はーっと大きく息を吐く。倒した。倒せたんだ。そう思うと、どこか嬉しかった。
「お疲れ様。上出来だったよ」
ビルを出ると、隊長が笑みを浮かべて待っていた。上出来の基準はどこなのかは知らないが、「ありがとうございます」感謝を述べておく。
「…あの、なんで隊長はついてきたんですか?ただ見守るだけなら、別の隊員でも―」
「外部には言ってないんだけど、この部隊では入ってきた新人の中で最も優れている者だけ、初任務に隊長を同行させることになってるんだ。理由は…ま、あとでいっか」
「えぇ…」
隊長がはぐらかす。怪我のせいで頭が回らず、まあいいかと深く考えずに銃をしまった、その時だった。
「あら、もう倒してしまったの?結構強かったつもりなんだけれど」
甘ったるい、女の声がした。
「っ!」
僕が振り返るより先に、隊長が女に切りかかっていた。瞬発速度に驚くと同時に、衝撃が広がる。
ザシュッと肉が切られる音が響き、女の肩から血が噴き出す。女は素早く距離を取り、隊長も僕の前に立ち塞がった。女の切られたはずの傷が瞬く間に治っていく。
「なんで…リーガさんは、」
「リーガ?…ああ、あの見張りのことかしら。そんなのもう殺しちゃったわよ。弱いんだもん」
反射的にリーガさんが居た筈の西を振り返る。そこには、さっき励ましてくれた筈の人の、血に染まった死体が転がっていた。あ、と掠れた声が漏れる。
「…お前、なに?人間、じゃないよな」
隊長が、普段とは違う低い声で女に問いかける。女は笑っていた。
「何って、クレマチスに決まってるじゃない。新人ちゃんが入ったって聞いたから、様子を見に来たの。―でも、思ったより厄介そうね」
「っ」
女の真っ赤な瞳と目が合い、思わず身構える。隊長は表情を一切変えず、僕の前から動かない。
暫く膠着状態が続き、それに飽きたのか、女は戦闘態勢を解いた。
「ま、今日は様子見だもの、ここで睨み合ってもしょうがないわ。今回は見逃してあげる」
そう言って、早く行けと言わんばかりに僕らから目をそらした。だがそんな言葉信じられるはずもなく、僕はその場から動かなかった。しかし、隊長は剣を背負い直し、踵を返して「行こう」と僕に言った。
「で、でも」
「今は君が怪我してるからね。それに、その時はまだ今じゃない。帰ろう、ロミオ」
「……はい」
仕方なく、でも警戒心は解かずに車に乗り込む。後から乗り込んできた隊長は、リーガさんの死体を抱えていた。久々の身近な死に心臓がぎゅっとなる。扉が閉まり、車が発進する。その間に、女は姿を消していた。
「…一人の初任務だけに隊長がついていくのは、こういうことを防ぐためなんだ」
「え」
しんとした車内に、静かな隊長の声が響く。
「昔、ある優秀な新人の初任務に、0クラス級と思われる個体が奇襲を仕掛けて、その新人と応援に駆け付けた隊員13人が殺されたんだ。ただでさえ人材不足のこの組織にとって優秀な人材は貴重だから、襲われても守れるように隊長が同行するの」
「でも、どうして敵はそんなことが分かるんですか?他の隊員は…」
「奴らは感知能力が高くて、強いやつと弱いやつを見分けることができるんだ。それでこの時期になると活発に動き出して、強いやつを殺していくってわけ」
面倒くさいよね、と溜息をつく横顔は、どこか悲しげ雰囲気を纏っていた。そうですね、と返して俯く。
—この世界の残酷さが、今一度分かった気がした。
調査報告書4
新たな知性を持った個体が発見されました。発見次第、直ちに司令部へ知らせてください。
コードネーム:ローズ
種類:ヒト型
クラス:0クラス(推定)
特徴:地までつく長い金髪、右肩に咲いた大きな赤い薔薇、真っ赤な瞳
能力:攻撃手段は不明、再生能力に長けている。
対抗手段:不明
コア:不明(憶測では、右肩の薔薇だと思われる)
現段階で最も危険な個体です。用心しましょう。