怪異×ミステリー×チープコメディ
違い物。
都市伝説、妖怪、怪奇現象の噂話から発生した、あるべき姿から道を違えた怪異的存在。
統正師。
違い物退治の専門家。
詳細、起源、実態不明の仕事人。
喫茶みちいし。
統正師兼従業員の少年少女が愉快に働く、
ちょっぴり不思議な喫茶店。
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目次
議題その一、青春なんてちょっと不思議なくらいが丁度いい
白い手が伸びてきて、横たわるわたしの頬を軽く撫でる。優しい声色。
あなたはだあれ?
静かで冷たな、真っ白い場所。
わたしの声が届かない。
充電はとっくに切れていて、肺が黒く、白く、なんだかずっと痛い感覚がする。
結晶が割れて、冷気と霧ばっかり、氷点下の異空間じゃ息すら凍えてしまう。
どこかも知らない。
寒い。
寒い。
寒い。
あつい
「いいから離れて!麦!!」
「麦お願いっ!」
「返事して!!!」
---
--- 〜3日前〜 ---
---
「や、やらかした……」
それも盛大に。
私立羽糸中学校2年C組、北家麦。
初日。
なんと、自己紹介で大失敗。
終わった!!
もうそのあとの記憶が一切無いな、考えてみれば夢のような地獄だ。納得できない!
てか始業式ってあんなに体力使ったっけ!
新しい人にも全然慣れないし、知ってる人ほとんどゼロだよ!
内気がこう予後を悪くしていくんだろうね…私とて繊細な女子中学生、流石に初手から孤立は気まずすぎる。しかも2年目。
緊張して声が裏返るって、まさかこの私がそんなテンプレミスをやらかすとは思わなかった。
それに、やっぱりいろんなクラスメイトが話しかけてくれたと言うのに、あまり手応えがない。いや、正直全くない。
雑談自体、そもそもなかなかにハードルが高いと行為だろう。一生苦手。克服しようと思って十四年目。
天気の話?趣味の話?当たり障りのない言葉じゃすぐにネタが尽きてしまいます、湯水の如くきっかけを引き出して、一瞬で聞き手に回るあの人たちは、一体どんな訓練を積んだんでしょう。そういう能力者なのかな。
…どうせ6月くらいには馴染むから平気だよ。
郷に入っては郷に従えってやつだからしょうがないね…。私の自認じゃ業に入っては業に従えとしか思えない…。
年頃の女の子にあるまじき達観とも思わない。みんな結局同じような考えをしている。…はず…なんだけれど。
うん、ダイジョーブ。
ムギちゃん、ココロツヨイカラ、ダイジョーブ。
そうそう!
何も落ち込まなくてもいいじゃない。
あの子の名前、なんて言ってたっけ。
かん……かだ…ささ…みたいな……
「そうだ、|苅田 笹根《かんだ ささね》ちゃん」
ぽん、と手を打ってそう言った。
二つ結びの女の子。
あの様子からして、去年からずっとムードメーカーだったみたい。
笑顔の似合う華々しい子でした。近づき難いよ、ありがたすぎるよ。
きっと席が真後ろだからたまたま話しかけてくれただけなんだろうけれど、現実を受け止めきれない私にとってはまさに神様みたいな存在でした。もう、なんか、あの瞬間だけ笹根ちゃんに後光が刺してた。
もっと仲良くなれるかなあ。
その他は、ええと…井川くん、九名くん、笠谷くん、アヤカちゃん、薺ちゃん、純恋ちゃんに纏くんに……
指折りにクラスメイトを思い出し、嬉しい妄想に浸っている、その最中だった。
「なんか寒いような…ママなんて言ってたっけ。雨降るとは聞いてないような」
「まいいや、天気予報、天気予報〜」
スクールバックからスマホを取り出して、お天気アプリを立ち上げる。
足元のもっけもんのコラボマンホールから、ちらりと視線を上げてみれば、若干空模様が悪いようにも感じられた。折り畳み傘はあいにく家に置いてきてしまったから、帰るにせよ、雨宿りするにせよ、早めに判断しなくっちゃ。
…まだ今月のギガ、残ってるはずなのに、やけにスピードが遅い。フリーWi-Fi無くてもある程度はいけるでしょう、頑張ってくれ〜〜〜。
イライラする気持ちを抑えて、ただ何気なく、右上の表示に目をやった。
信じられない表記。
だってここは、見るからな住宅街なのに。
そもそも昨日は繋がったのに。
「え…………」
「け、圏外?」
「バッ、バグかな、あら、あれっ…壊したもしかして!?嫌だ〜っ」
「エッ」
「待って!なんか雪降ってきた!?」
焦りは止まりません。
急に使い物にならなくなった携帯電話、季節外れの大雪、ひとりぼっちの中学生。
私が大声を上げた瞬間、雪は勢いを増し、気温もぐんぐん下がっていきます。手、手が冷たい……春だからって油断して、ちょっと薄い生地を下ろしたばっかりに!
というか流石に、その、やばくないですか?
ゆきやこんこんなんて生半可なレベルじゃありません、例えば昔パパに連れて行ってもらった北家の実家の豪雪地帯でさえ、ここまでの勢いには遭遇しませんでした。
白い綿が帳のように連なって、いまさっき見ていた景色が無理やり塗りつぶされたように見えます。
寒いのは嫌いじゃないですけど、にしたって限度があるでしょう!
不釣り合いな異常自体!=絶望!
なにこれ怖!!!
マジで怖い!!!!
無我夢中で走り抜けました。
町。ここは華原崎市の羽糸地区です。
家にさえ行けばこっちのもの!
初期位置の十字路からぐんと駆け出し、右へ曲がり左へ曲がり、カーブミラーを横目に、止まっていると寒さで凍えてしまうから、もはや目的は恐怖から逃げることに変わりつつある中、はやくはやくと足を進めました。
あら?
あれっ。
通学路は記憶しているはずなのに。
「同じとこ、じゃん」
冷や汗が流れる。
足元には、見覚えのあるもっけもんマンホールです。一番最後に見たときより、雪と雨でぐちょぐちょに汚れていて、表面が滑りやすくなっています。
迷った?景色が全くわからないから、方向を間違えた?
「つ、つぎっ、こっちっ」
試すは反対側です。左に曲がって、直進、直進、また右に曲がって、自販機を横目に、あ、ようやく違う場所に出たのでは?
………。
だめでした。
「じゃあここ」
右の道。右に曲がる。左に曲がる。まっすぐ。桜の木。
ダメ。
「こっちは!?」
前。前。変に曲がるからおかしなことになるんだ!ずっと直進を続けてみる。
駄目。
「これ!」
学校から来た道をまっすぐ戻る。駅まではいけるはず。視界は悪くなる一方で、繰り返すたびに、もっけもんマンホールは汚くなっている。
たしかに時間はすすんでいる。
あるいは、この雪はちゃんと降っている。
本当に寒い。
決まりきったこと。
勿論、例によって例の如く、この試みも失敗に終わった。
無謀だ。
何度も何度も何度も走ってみたけど、氷柱は見えるし、めちゃくちゃ滑るし、まつ毛凍りそうで怖いし、息はどんどん白くなる。
それ以外は何も変わらない。
超常現象ってこういうこと?
挑戦の中で、時計も確認してみた。針は止まってた。未だにスマホも圏外のまま。
気温のせい?いやいや、時計はまだしも、スマホは雪程度で圏外にならないだろう。…都会っ子の偏見かな?
だけど実際問題、場所は場所だし、圏外に気付いてから雪が降ってきたわけで…。
というかなんで見知った場所なのに、同級生はおろか、車やら自転車のひとつさえ通らないわけ!?
これは普通におかしいことだよ!
「ううう…助けてくださいぃぃ…」
何十回目かの助けを呼びかけて、変わらず吸い込まれていく声に落胆した。
どうなるんだこれ。
私死ぬんだあ…
えーん……
『ああ』
『迷い込んだのね』
『違う匂いがするものだから、ヒトの…女の子の匂い』
『ワタシの声が、聞こえている?』
そのとき。冷たい声がしました。
感情を感じさせない、恐ろしいくらい、無機質な女性の声色。
背筋がぞくりとする感覚。
バッと本能的に、真上を見上げました。
ここから聞こえた。
誰?
あなたは誰?
『ワタシの姿が、見えているかしら。』
ぬ、と、真っ白な掌が、目の前を覆いました。
ほんの一瞬の出来事です。
怖いほどに整った、綺麗な顔立ちの女性。
もしくは、少女だったのでしょうか。
不健康極まりない印象を持たせる肌に反して、その雰囲気や輪郭は凛とした美しいもので、あらゆる感情や感想を差し置いて、「美しい」という言葉が独り歩きするような、そんなものでした。
無から現れて、口角をそっと持ち上げれば、呆気に取られる私なんかに構うことなく、
手を、
広げて、
そのまま、
そのまま、
そのまま、
冷たい手で私の顔を隠して覆って、
一瞬だけ、こんなことしてるくせに、
視界が途絶えるその直前に戸惑った風な表情を見せて、
私は______________
**「悪霊退ッッッ散ッ‼️‼️‼️‼️‼️‼️」**
大きな大きなハンマーとクワのような何かを持って、空間を突き破り、勢いよく少女が飛び出してきた。
空いた穴からは真っ青な快晴が除く。
切り分けられた、雪の向こう側。
その場違いなほど元気な声。
その声量。
その派手な髪色。
獲物を捕らえて喜ぶネコみたいな、その黄色の瞳。
颯爽とヒーローの如く、あるいは御伽話の王子様の如く現れたのは、印象的なツインテールの__
「さっ、笹根ちゃん!?」
「麦!えーっ、さっきぶり」
「さっきぶり…って違う!今の何?!なんで笹根ちゃんがここにいるの!?」
「企業秘密〜😉ガバガバだけどね」
「それはガバガバじゃまずいんじゃないかなぁ!」
「ねえ、てかアタシ今超びっくりしてるんだよ!店長の言ってた『凍り血』って麦のことなの!!??」
「なっ、なっ、なんの話かなそれは本当に分からない」
「まーた本人も把握してないパターン〜…店長って性格悪いのよね、ホント、ガキと統正師に厳しいんだから」
「ごめん笹根ちゃん!話の糸口が掴めないっ!」
「あは〜ごめん!要はねぇ!」
「あの『雪女の違い物』!!ぶっ潰す前に威力だけ消すから!」
「作戦会議は後だ!被害者の北家麦ちゃん!」
「統正師、苅田笹根!業務開始しまーす!」
笹根ちゃんは、武器(?)を一振り二振りし、踏み込んで高く跳躍した。まるで空を飛んでいるような姿に、ついぽかんと口が開いてしまう。
ハッと我に帰る。いつの間にか、あの女性の影は消えていた。
上空には、白いモヤを斬りつけ斬りつけ、濃い塊を壊している笹根ちゃん。
そして、彼女が動くにつれて、降っていた雪の威力もだんだんと弱まっていった。
「麦っ!」
と、空からの大きな声が耳に届く。
「目!閉じて、耳塞いで!あと、できたら口も!!」
「それと!」
「『私は人間だ』って思い続けて!心ん中でそう何回も唱えといて!!!」
「でなきゃ連れてかれる!」
「わ、わかった、やってみる!」
言われるがまま、目と口を閉じて、しゃがみ込み、そっと両手で耳を塞いだ。
私は人間です。私は人間です、私は人間です、私は人間です。私は、私は、私は___
貴女とは、きっと違います。
---
夕暮れ時。雪なんて最初から降っていなかったかのように、アスファルトは乾いていて、もっけもんマンホールも全然滑らなかった。
スマホはちゃんと5G表記。安心です。
「いやあ〜、お疲れぃ」
「し、死んだと思った……私は絶対死んだと…」
「麦やるじゃん。見直したぜ」
笹根ちゃんは、にやりと嬉しそうに微笑んだ。
差し出された手を取って、立ち上がる。
「あーあー、制服、雪でびっちょびちょになっちゃった」
「あ、そうじゃん。乾いてくれなかったかー流石に…」
「アイツ、融通効かないね」
中にはいるんだけどね、そういう、ちゃーんと配慮してくれる違い物も。と、彼女は舌打ちしました。
私の制服や持ち物だけ、全部がびっちょびちょのぐっずぐずになったみたい。
違い物。
笹根ちゃんは、『雪女の違い物』と、言っていた。
関係するのかな。
だったら。
「ねえ、笹根ちゃん。笹根ちゃんの言ってる、違い物って……なんのこと」
私はまっすぐ目を見て、
「私も、知らなくちゃいけないことなんだよね」
「しようよ。…作戦会議」
と言った。
笹根ちゃんはぱちり、と瞬きして、それから、心底嬉しそうにはにかんだ。
「そうこなくっちゃ!」
「じゃあ、ちょっと着いてきて。服も濡れてるし、そのまま帰るわけにもいかないっしょ?」
「だーいじょぶだーいじょぶ!すぐ近くだし、ソッコーで乾かせるから」
かつ、こつ。軽快な足取りの笹根ちゃんの背中に隠れるようにして、なんとか歩く。
み、見られている…!そりゃこんなずぶ濡れ女がいたらビックリするよね…!!
「わ、私、やっぱり今日は帰ろっかなぁ、なんて…」
「着いたよ!」
遮られた。
仕方なく、目の前の建造物を見ます。
「……わあ…!?」
そこは、路地裏とはいかないまでも、やや人気の少ない通りにあるようでした。
レトロな雰囲気の喫茶店です。
二階建ての木造建築。建築用法には詳しくないので曖昧ですが、とにかく、あたたかいオーラを感じたのは確かでした。
看板には『喫茶みちいし』、とあります。
「喫茶…みちいし?」
「うん、そう!アタシの行きつけ。というか…家!」
「家?誇張とか、そういう…」
「あ誇張じゃなくて。マジ家」
「マジ家なの!?」
「二階部分に住んでるんだ。店長と二人暮らしで」
そうピースをする笹根ちゃん。は、初耳です。
からんころん。
可愛らしい音を立ててドアが開きます。
内装も外観通りレトロでシックな雰囲気だ。
やけに物が多いような…?ごちゃついた感じというべきか。でも、要素が邪魔し合わず、これも逆に味がある気がする。
カレンダー、マトリョーシカ、文房具なんかも置いてある売店コーナー、黒電話。
ほんのりオレンジ味を帯びた照明が光っています。
カウンターには、二十代後半くらいの男性が1人。
笹根ちゃんは真っ先にその人に近づいて、
「たっだいまー!店長、さっきの子連れてきた!」
「ね〜カフェラテ入れて〜」
と続けました。
「自分で入れろよ従業員」
「ヤダね!」
「そもそもお前、部屋に残りあったろ?」
「あれはペットボトルだもん」
……い、家だぁ。びっくりするほどに。
いやいや、面食らっている場合じゃありません。喫茶店なんですから、挨拶……!
「あっ、あの、私、北家麦って名前です…笹根さんに助けてもらって、それで、エト、一緒に…!!」
「ア”ァ、お前な」
ダウナーな雰囲気の男性は、私を一瞥して、ぶらっきぼうに言います。
「凍り血のガキだろ。で、雪女の違い物に襲われたっつー…」
「その違い物?とかが、あまり私、よく分からなくて……」
「は?笹根から何も言われてねえの、お前」
「えっ、あっ?ご、ごめんなさい?」
「あ〜え!?言わなきゃダメだった?待ってよ〜だって見てコレ!
麦こんなびしょ濡れなのに外引き止めるの可哀想でしょ」
「ほ、報連相はちゃんとした方がいいと思うな…」
「ほら、麦もこう言ってるぞ。恥ずかしくねーの」
「てんちょもう黙って!」
ギャーギャー騒ぐ笹根ちゃんの横顔は、なんだかとっても珍しいもののように思えました。
「行こ、麦!服乾かそう」
手を引かれるまま、二階の笹根ちゃんのお部屋に入れてもらいました。
「女の子の部屋って感じ…!笹根ちゃんっぽいね」
「ふふーん、ありがと。よく言われる」
自信家も可愛いですね。
あのクソでかいクローゼットとか、どうやって入れたんでしょう。
「服の方は、アタシの力を若干応用すれば…ねっ!」
私の制服とスクールバッグを室内の物干し竿に吊り下げて_その間は、笹根ちゃんの部屋着を一着お借りしました_手のひらから風を巻き起こし、ものすごい勢いまで調節していきます。
風圧がエグいです。
ごうごうなってます。
ライブ会場の押し出し並みですね。圧巻です。
「スゴい、空が飛べて風まで起こせて…!?笹根ちゃんって一体何者?!」
「そうだねー、やっぱり、大抵を前提をできるように、麦にもお教えいたしましょうかね」
だだん。
セルフ効果音までつけて、笹根ちゃんはゆっくりと口を開きました。
---
[苅田笹根の話]
ま〜お菓子でも聞いてくれってことよ。
何が好き?グミ?チョコ?クッキー?
おけ、え〜とね…
あったあったあった、どうぞ、なんかこれコンビニの新作なんだって!
はーい。
えっとね。
どこから話そうかな……まず、やっぱ、違い物?
今は昔!みたいな壮大な起源が判明しているわけじゃないんだ。
そもそも、麦、お化けとか幽霊とか、怪異とか、都市伝説って信じる派?
あっ、信じる!よかったよかった。
そうざっくり言っちゃうと、「違い物」っていうのは、怪異のことなの。
怪異の一種で、人に害を及ぼすタイプのもの。
そもそも怪異は、人間の住む世界とは別の世界の住人だから、その存在自体は別に悪じゃないって認識なわけで。
だから、ヒトや場所に悪さをする、本来あるべき怪異の姿から道を違えた怪異を、アタシたちは「違い物」って呼んでるんだ。
じゃあ蔓延っている違い物にどう対処すればいいのか!
そこで、アタシたち、「統正師」の出番。
統正師は、違い物の専門家。昔からなんかいっぱいいるらしいよ〜?
個人経営、詳細不明、起源不明の陰陽師だよね。つまるところは。
麦が遭遇しちゃったのは、雪女の違い物だよ。
そんであたし、ばばばーん!って空飛んで威力弱めたじゃん?
そんなふうに、違い物に困っている人を助けるお仕事なの。
ここ喫茶みちいしはね、そんな違い物関連のお悩みを抱える依頼人さんが頻繁に来るんだ。
喫茶店、兼祓い屋さんてトコ。
違い物の怖いところは、なんといっても人間に取り憑くところ!だと思うね。
なんてったって、霊力が弱いと寿命をずずずず〜と吸われて、すぐ灰になっちゃうの……!
おー、こわ。
そういうの気にする人は、生まれた子供に膜?簡易結界?みたいなのを張っておいて、保護するみたい。店長が言ってたけど、全く世の中には、いろんな人がいるもんだよね。
あっ、でも大丈夫。元々の体質とかで決まるんだけど、霊力が強かったら、取り憑かれても死なないどころか、その違い物の力をちょっと借りられるんだよ!
アタシが空を飛べたりするのはそのおかげ。
「天狗の違い物」に取り憑かれてて。ま、勝手にアタシに憑いたのはあっちの方じゃん!?だからこれからも存分に酷使…じゃなかった、駆使するつもりだよ。
麦は「雪女の違い物」に…まだ襲われただけだから、もしかしたら、取り憑かれてるわけじゃないんだろうね。
滅多にないことだよ!?ほんとラッキーだよ!
…そう、店長はやっぱり麦のこと「凍り血」って呼んでたけど…ねえ、やっぱり本当に知らない?
そっか〜、そうだよね。はは、アタシもよくわかんないや!
ああ、あれは店長の|道石 真生《みちいし まお》。男。年齢は言わないけど、ま三十路はいってるでしょ。
ふざけた|大人《ガキ》だから気ぃ遣わなくてぜんっぜんいいからね。
え、関係性?店長と従業員、師匠と弟子、家主と居候……親子じゃないからそこんとこ!
怒ると超怖いし〜、マジ一週間はプライベート以外ガチガチの監視体制に敷かれるの!!ありえなくない!?なんで知ってんだよって話!
---
見事30分弱で乾いた制服類を身につけ、笹根ちゃんと残りのお菓子を片付けて、店長さんのいる一階まで降りていきました。
「ガールズトークは終わったか?」
「オカゲサマデ〜。ねえカフェラテは?」
「……お前なあ。同級生の前でしっかりしとこうとか、考えないのかよ」
「うるさいな、麦ちゃんだって何か飲みたいよね〜?」
笹根ちゃんは、ね?と首を傾げました。
「ええ、そうだなあ…」
ちらりと店長さんに視線を向けます。
コワイ…!なんか、佇まいが笹根ちゃんと大違い。本当に一緒に住んでるの…!?
やがて彼は大きくため息をついて、私たち2人をカウンター席に座らせました。
「麦、何が良い」
「えと、笹根ちゃんと同じ物、…を…?」
「こいつと同じだと致死量の蜂蜜を乗せることになるが、大丈夫か」
「あっ!ノーマルでお願いしますっ、ノーマルで」
少し笑いながら頷いて、トポポポ、とお湯の注がれる音が響く。うっすらと店内BGMが流れていることにようやく気づいた。
名前も知らないクラシックだ。大体洋楽だと思ってたけど、これはこれでアリだなぁ。
「お待たせしました。カフェラテふたつ」
「わ、ありがとうございます…!」
「(吸)」
ぺこぺこお礼を言う私、ノータイムで啜る笹根ちゃん。
経験の差として捉えれば良いのかな?風刺画かな?
「お代の方先に払ってもいいですか?」
「ああ、いいよ。アイツの給料から引いておく」
「で、でもぉ…」
「心配すんなって。違い物依頼の代金で毎回結構入るんだよ。こう見えて、…ああ見えて、生粋の統正師だからな」
小声で店長さんは笹根ちゃんを見やりました。そういうものでしたか。
外野は黙って引き下がりましょう!
正直、ありがたい話です。
「さて、と」
店長さんは、ブラックコーヒーのカップをこつんと置き、私たちに向き直りました。
「北家麦の『雪女の違い物』を祓う。これが、今回の喫茶みちいしの仕事だ」
「イエッサー、はいさ!」
「当事者のお前には、今一度、俺にも説明してもらいたいところだな」
「ゆっくりで、いい具合で構わない」
「話して聞かせてくれ。
お前の遭遇した、道を違えた怪異譚を」
私の「統正師北家麦」としてのはじまりは、こんなところから始まりました。