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目次
[あの日を忘れてはならない]
「お前はどうしてそこまでして命を懸ける?」
誰かが言った。
「良いじゃん、ロマンがあるじゃないか。」
僕は笑ってそう言った。
「ロマン、か…たかがロマンのために、命を落としても構わないと?」
その人は不思議そうに首を傾げ、眉を顰める。
「貴方にとってロマンはちっぽけな事かもしれないけど、僕にとっては夢なんです。」
「そうか……。」
煙草を吸い、息を吐いてその人は口を閉じた。煙草の煙が立ち上り、やがて風に流され消えていく。
「そういえば、貴方はなぜ、僕に寄り添ってくれるんですか?こんな、僕に。」
聞きたかったことを思い出し、その人の横顔を見つめて問いかけた。
「なぜ、か…何でだろうなぁ、お前が、死んだ弟に似てるからかもな。」
その人は空を見上げて僕の問いにそう返した後、自嘲気味に笑った。
その横顔は少し寂しそうに、切なく見えた。
「………そう、ですか。なぜ、弟さんは亡くなられたんですか?」
「戦争に巻き込まれて死んだ。」
その人はもう一度煙草を吸い、息を吐きながら答えた。
「俺が徴兵で故郷から離れてた時、敵の空爆機から落とされた爆弾が俺の家族が居た街の近くに落ちたらしい…それで、その爆風と放射線によって巻き込まれて死んだ……弟はまだ八歳だった…。」
その人は重い過去をポツリと、鼻を啜りながら途切れ途切れに明かしていった。
僕は、胸が締め付けられる様な感覚を感じ、申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。
「…な、す、すみません……辛い過去を掘り返す様な質問して…。」
「いや、いい。大丈夫だ。ただ、20年経った今でも忘れられなくてな。」
その人はハッとした様に顔を上げ、服の袖で目元を拭いた。
誤魔化そうとしていても、僕にはハッキリと、泣いているということが分かった。
「…僕で良ければ、手伝わせて下さい。貴方に恩返しをする為に。」
僕はその人へと向き直り、真っ直ぐにその人を見つめた。
その人はそれを聞いて少し驚いた様に目を丸くしていたが、やがてフッと笑った。
「はは、ありがとうな。」
その人…いや、僕の尊敬する"自衛隊の副官"は、軍帽を被り直すと、僕の背中を押した
「ほら、行くぞ。訓練だ。今回も容赦しないぞ?」
副官はニヤリと意地悪く笑ってそう言った。
「…!はい!」
僕は目を輝かせ、嬉しさに胸を弾ませながら、副官の隣を歩く。
愛する日本を、この国を守る為に。
僕は今日も、厳しい訓練を乗り越える、
[潮風が吹くあの海で]
遥か下から、海の波打つ音が聞こえる。
冷たい潮風が服を、髪を揺らす。
「…どうして、どうしてだ!」
俺は声を張り上げて叫んだ。
目の前には、俺が誕生日プレゼントにあげた白いワンピースを着た恋人が居る。
「貴方には関係ないッ……!」
彼女は目に涙を溜め、俺を拒絶する様に首を横に降った。
その切ない叫びを聞いて、胸が張り裂けそうになる。
「関係なくない…!俺はお前のッ…!」
言葉を紡ごうとした矢先、強風が吹いて遮られる。
「もう、これ以上私に構わないで…!」
大粒の涙を目からボロボロと溢しながら、彼女は一歩、後ろへと下がる。
彼女が居る場所は崖だ。もう二歩下がれば彼女は海へと落下してしまう。
「なぜ…!なぜ何も言わず、何も明かさず消えようとする!」
足が震えて前に進めず、問いかける事しかできない自分に腹が立つ。
「貴方は知らなくていいの…!!」
彼女は首を横に振り、またもう一歩下がった。
石が、土がパラパラと音を立てて海に落ちていく。
俺は恐怖を抑え込み、その場から踏み出して駆け寄り、彼女の方に手を伸ばす。
「ッ!!」
彼女はびくりと肩を振るわせ、一歩後ろへと下がる。
地面から足がずれ、彼女はそのまま落下していく。
俺もすかさず崖から飛び降りると、腕を伸ばし、何とか彼女の体を抱き寄せた。
「なんで…!なんでっ…!!」
彼女は悲痛な叫びをあげ、俺の腕を振り払おうとするが、俺は力強く抱きしめたまま、離そうとしない。
「死ぬなら……一緒だと…約束しただろっ!」
俺は嗚咽が混じった声色で言った。
落下する事により巻き起こる風によって服が靡く。
彼女は目を見開いて息を呑み、振り払おうとしていた手を止めた。
ギュッと俺の服を掴み、やがて涙を溢しながら、笑顔を浮かべた。
「……ごめんね。」
彼女の口から発せられたその言葉を聞いて、俺は一瞬驚いた様に彼女を見つめた。
だが、やがて海に落ち、音を立てて高い水飛沫が立つ。
海に落ちていく中、二人はずっと抱きしめ合ったままだった。
付き合った記念に二人で選び、買ったネックレスの半分にそれぞれ分かれたハート型の宝石がキラリと海の中で光り、小さく、カチリと音を立ててくっつく。
二人は額を合わせ、目を閉じてそのまま落ちていき、
二人一緒に、心中をした。
[闇を歩み続ける私は]
「やめろ……!!やめてくれ…!!」
私の目の前に腰を抜かして座っている男は冷や汗をダラダラと流し、怯えと恐怖を隠そうとせず情け無く命乞いをする。
それが、酷く不快に思う。
「何と言った?」
私は男を冷ややかな目で見下ろす。
銃口を相手の眉間へと突きつけ、銃の引き金に指を掛ける。男は目に見えてわかるほど焦っていた。
「わかった、悪かった!悪かったから、助けてくれ!命だけは!」
自分が悪いくせに、自分が引き起こした事態のくせに、自分だけが助かろうとする。
吐き気がした。自分の仲間を売り、自分だけが逃げ回った結果追い詰められてこのザマだ。
「…貴方の命など、私にはどうでも良いことです。貴方の命に価値なんてない。」
突き放すように、吐き捨てるように言い放つと、銃の引き金に添えた手に力を込めた。
─ズガン!!
男の額から大量の血が吹き出し、それが返り血となって私の衣服にべっとりと大量につく。
額に風穴を空けた男の体は後ろへと倒れ、動かなくなった。
「…汚らわしい。醜いですね。」
銃をベルトのホルスターへと仕舞い込むと、男の死体を一瞥もせずに踵を返した。
「………。」
幼い頃の記憶はテレビの砂嵐の様なものが邪魔をして中々思い出せない。
だけど、7つの頃、誰かに言われた様な気がした。
『お前は強くあれ。この町の皆を守る為にも。お前が命を賭して、戦うのだ─』
その人は身体中から血を流し、ボロボロになってまで私を庇った。
私は無我夢中で走り続けた。後ろからは何者かが追ってくる足音と、銃声が聞こえた。
後ろを振り返らず、必死に、前だけを見てその細い枝の様な足を動かし続けた。
「…これで、いいのか……?」
私がふと零した問いに答えは返ってこないと分かっていながら、私はそう呟いた。
涙が自然と込み上げ、思わずその場に立ち止まる。
「強く、慣れましたか…?貴方の言う通りに、あの約束を果たせましたか…?」
膝を突いて項垂れ、地面を見つめた。涙がポロリと目から溢れ、地面に染みていく。
自分でもその声が震えていることに分かっていた。
「っ、あぁ、ああぁぁぁぁぁぁあああぁ!!!!!!」
誰もいない薄暗い廃墟の中で私の泣き叫ぶ悲鳴だけが響く。
声が枯れそうになる程何度も泣き叫び、目から止めどなく涙が溢れ続けた。
「…ぐすっ、う、ぅ……。」
しばらくして経った後、ようやく気持ちが治り、鼻を啜りながら涙を拭いた。
重い腰を上げて立ち上がる。
「…貴方の言う通りに、私は町の皆を守り続けます。この命がなくなるその時まで、私は光の中を歩く皆の代わりに闇を歩き続ける。」
胸元で片手を握り締め、決意を固めてそう宣言すると、一歩踏み出す。
もう2度と光の中を歩けはしない。
それでも構わない。
皆が幸せに過ごせるなら、喜んで闇に進もう。
私には、その方法しか思いつかないから。
[愛する家族と動物に囲まれて]
葉が生い茂る木々の間から木漏れ日が差し込む。
眩しい太陽の光が顔にあたり、目が覚める。
「んー……ハッ。」
パチリと目を開け、上体を起こす。まだ目が慣れてないせいか視界がチカチカと白々しく見える。
「よしっ!」
少し時間が経って数回瞬きすると、草木が生い茂る大自然の中を駆けていった。
「お父さーん!お母さーん!!」
遠くに二つの人影が見えた途端、私は光り輝くエメラルドの様な目を輝かせ、笑顔でその人物へと駆け寄っていく。
「おぉ、どうした?よく眠れたか?」
父は私の姿を見てパッと顔を明るくすると、微笑みながら私の目線に合わせて屈んで問いかけてきた。
「うん!小鳥さん達の鳴き声のおかげでスッキリ目が覚めたよ!」
私がニコッとそう笑うと、父は嬉しそうに笑って大きな手で私の頭を撫でた。
「嬉しいわね、小鳥さんたちも、みんな貴女のことが大好きだから。」
金髪のロングの髪を靡かせた母が、森で採れた果物や木の実を集めた籠を手に持ちながら、辺りを見渡した後、私の方を見つめてそう言った。
「私もお母さんとお父さん、村のみんな、動物のみんな、全部大好き!幸せ!!」
私は両腕を上げてぴょんぴょんとその場で跳ねてそう言った。
両親は少し驚いた様に目を丸くし、お互い見つめあった後、フッと照れ臭そうに笑った。
「あぁ、俺も大好きだ!!」
「えぇ、私もよ。」
両親も同じことを言ってくれたことが嬉しくて、私はその場から駆け出し、森の奥へと進んだ。
「熊さーん!おっはよ〜!!」
大柄な熊が丸まって寝ていたところに私が飛びついた所為で熊は一瞬驚き、警戒するかの様に唸ったが、私の姿を見るとすぐに牙と爪を引っ込め、嬉しそうに擦り寄って顔を舐める。
「あははっ、くすぐったいよ〜」
熊の頭を撫でながら、少し押し倒される様にして地面に転がった。
「こらっ、もう、危ないでしょ。」
心配そうに様子を見にきた姉が私の頭をペシッと軽く叩いてそう言った。
「いたっ、いいじゃん、別に!楽しいんだから!」
「楽しいから、じゃない!勝手にいなくなるんだから…!」
姉は腕を組み、仁王立ちで地面に寝転がる私を見下ろした。
姉は優しいが、少し心配性で余計なお世話な所がある。
けど、私のことを誰よりも想ってくれているのは私自身よく分かっていた。
「お母さんとお父さんがご飯の準備ができたって。ほら、いくよ!」
姉は私の腕を引いて立ち上がらせると、手首を掴み、その場から走り出した。小鳥たちも羽ばたき、ウサギや先ほどの熊も、ご飯の時間で嬉しそうに走っていた。
「うわっ、早いよ!」
姉に引っ張られるがまま、私も走った。
少し喧嘩になったりする時もあるけれど、毎日が幸せだ。
動物たちや、愛する家族がいる。
私たちエルフは、森の外にはあまり長く出られない。
それでもいい。
私はここが好きだから。
ずっと、この幸せが続いてほしいと心の中で密かに願った。