とある国に皇子様がいました。皇子様は舞踏会でバイオリン弾きに出会いました。
それを引き金に、2人の悲しく、儚い愛の物語は幕を開けるのでした。
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目次
ep.1 バイオリン弾きとの出会いは舞踏会にて
新シリーズです!
初めて挑戦するジャンルなので、優しく見守ってくれると嬉しいです☺️
豪華絢爛なシャンデリアに綺麗に磨き上げられたフロア。そして、クラシックな音楽にのせて踊る、金銀に飾り付けられた貴族たち。
そんな滑稽な様子を第一皇子のリアム•コーデン•フォーサイスは悪態を心の中に隠しながら、貴族たちを眺める。
(どいつもこいつもバカばっかり。どうせ、王家のお気に入りになりたいだけだろう。)
そう、ここは王家主催の舞踏会。貴族たちはみな、王家に気に入られ、あわよくば側近や妃にと必死になっているのだ。欲に塗れた人間が、いや、リアムから見れば猿同然のような人間が王家という餌に群がっている。非常に気色が悪い光景だとリアムは思う。
するとコツコツとヒールがなり、こちらにリアムと同い年くらいの少女が近づいてきた。その少女はケバケバしい化粧にきつい香水、さらに胸を半分出した露出狂のような赤いドレスを着ていた。少女は見た目に反する猫撫で声でリアムに話しかけた。
「ご機嫌よう。リアム皇子。私、エリカと申しますの。よろしければ、私と一曲踊りませんか?」
どうやら少女は礼儀作法を知らないようだ。手を取られ、リアムはゾワゾワと鳥肌が立つ。何とか平常心を取り戻し、彼女の誘いを断った。
「すみません。素敵なお嬢様からのお誘い嬉しいのですが、私が最初に舞踏会で踊るのは将来を約束した人と決めておりますので。」
にこりと貼り付けた爽やかな笑みで言うと、大体の女は撃沈することをリアムは知っていた。予想通りに女はほぅっと顔を赤らめ、
「それなら仕方ありませんね。もしよろしければ私を将来の伴侶にしてください。いつでもお待ちしておりますわ。」
と諦めて去っていった。
リアムは手を洗うため、ホールを後にした。
城の回廊は夜の煌めきに照らされ、淡く輝いていた。今までいた、欲と邪心に塗れた空気が漂うダンスホールとは大違いだ。
手を洗い戻ろうとするが、リアムは帰るのが嫌だった。誰も好きであんなところには居たくない。
すると、どこからかバイオリンを奏でる繊細な音色が聞こえてきた。ダンスホールとは反対方向からだ。
リアムは興味本位でその音色を探しに足早に向かう。
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小ホールに人影が見えた。そっと覗いてみると、夜の光に照らされながら、バイオリンを奏でる少年がいた。
その少年は美しい顔立ちをしていた。陶器のような透明で白い肌、魅了されて吸い込まれそうな紅い瞳、白い肌に映える猫のように柔らかそうな黒い髪。そんな少年は悲しそうに切なそうにバイオリンを弾いていた。一筋の涙を流しながら。
ep.2 月灯かりと皇子の本音
「綺麗な音色ですね。」
リアムがそう声をかけると、少年はこちらを驚きの目で見る。
「リアム第一皇子殿下...」
リアムは輝くほどに淡い金髪、菫色の紫の瞳だ。端から見れば、第一皇子と見た目と背格好が一緒なのだから。
「そうですよ。驚かせてしまいごめんなさい。あまりにも君の奏でる音色が綺麗で来ちゃいました。君の名前は何て言うんですか?」
少年は涙を拭い、目を見開き驚く。そりゃそうだ。一国の皇子に声をかけられれば誰だって驚く。
「ノア•アーベントと申します。殿下。」
ノアはそう深々とお辞儀をした。リアムは貼り付けた笑みを浮かべた。正直、音色には惹かれたが、どんな心の持ち主かはわからない。もしかしたら、ノアにはものすごい下心があるかもしれない。
「殿下はいつもそんな感じなんですね。生きてて楽しいですか?」
生きてて楽しい...その言葉がグサリとリアムの深いところに突き刺さる。何がこいつにわかるのだろう。皇子としての役目をリアムは全うしてきたつもりだ。リアムの貼り付けた笑みでもみんな喜んでくれた。でも、どうしてノアはそんなことを言ってくるのだろう。
「どうして、そんなこと言ってくるの...僕は今まで頑張ってきたのにっ。僕の辛さを全く知らないくせに...」
リアムはノアに八つ当たりをする。そうすればするほど、涙がぼろぼろと溢れ出してくる。今までこんな情けない姿、誰にも見せたことはなかった。誰にも見られたくなかった。
「殿下の苦しみを私がわかることはありません。ですが、今まで辛かったですよね。苦しかったですね。頑張りましたね。私の前では泣いてもいいんですよ。」
そう、子供を諭すようにゆっくりとした優しい口調で言った。リアムは初めて下心のない優しさをもらった。嬉しかった。ただこの時だけは報われた気がした。リアムはノアの胸の中で思い切り号泣した。
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「少しはおさまりましたか?殿下。」
ノアはぽんぽんとリアムの背中を叩く。今まで耐えていた分の涙を全て流したのか、すっきりしていた。
「ごめんなさい。情けない姿をお見せしてしまい。もしよろしければ何がお礼をしたいです。」
リアムがそう言うと、ノアは熟考のすえ、一つの答えを導き出した。
「殿下。もしよろしければ、俺と今、一緒にいてくださいませんか?敬語もなくて大丈夫です。俺も外しますし。」
側近にしてほしいという邪心に塗れたものではなかったことにリアムは驚く。
「うん。わかった。君は綺麗なんだね。欲に塗れた貴族たちと違って。こんな人初めてだ。」
リアムはそう言い、真っ直ぐに優しい目でノアを見つめる。その凛々しい姿にノアは少しドキッとする。リアムの姿は月灯かりに淡く照らされ、一つに結えている綺麗な長い金髪がこれ以上にないくらい映えている。そんなリアムにノアは苦悩を覚えた。
「俺はそんな立派な人間様じゃない。辛い過去があるんだ。そのせいでたくさんの人を傷つけた。話していいか?」
そう深刻そうな様子でノアは切り出した。
ep.3 宵闇とバイオリン弾きの過去
〜Noah side 〜
俺は孤児だったらしい。橋の下に籠が置かれていてその中に入ってたと、育ててくれた養父が言ってた。その中に一通の手紙が入っていて、
『どうかこの子を、ノアを立派に育ててください。私は貧しく、この子を幸せにしてあげることができません。どうかお願いします。』
だってさ。笑えるだろ?幸せにすることができないって。見ず知らずのやつより、親と過ごした方がよっぽど幸せになれると俺は思うね。もし、変なやつに拾われれば命すらないのにな。俺の母親はそんなことも考えられなかったのかな。
そして、俺は養父さんと養母さんに拾われた。可愛いと一目惚れだったらしい。それと元々、養母さんは子供ができにくい体質だったらしい。そこで俺を拾ったんだと。それ以前に俺を可哀想だと思ったらしい。優しさだろうけど、俺にとってはそれはもう屈辱だった。
その話を幼少期から何度も聞かされた。あなたは私の元に舞い降りて来てくれた天使だと、養母さんは言ってた。彼女なりの愛情だったんだろう。当時の俺は捻くれていて、嫌味にしか聞こえなかったがな。中々心を開くことができなかった。
話が少し変わるが、養母さんと養父さんは政略結婚だが、仲はすこぶる良かった。養母さんは愛情深い優しい人だったよ。反対に養父さんは冷静で無愛想な感じだった。亭主関白って良く周りの奴らから言われてて、養母さんめっちゃ笑ってたな。俺もそう思われてることが面白かったが、プライドが勝って無視してた。だって、養父さん、記念日とか全部覚えてやがるんだ。まぁ、そんな2人は喧嘩もしたことがなく、平穏な日々を過ごしてた。養母さんの病気が発覚するまではな。
養母さんが重い病気に罹ったんだ。しかも末期の。
日に日に養母さんは衰弱してった。最後の方は頬がこけて、髪もボロボロだったな。そんな時でも、俺は素直になれなかった。もちろん、養母さんのことは大事だと思っていたよ。そして、養母さんは死んだ。最後まで俺に寄り添おうとしてたよ。葬式に行った。その後、家に帰って、養父さんからこう言われたよ。
「母さんはお前のことを最後まで心配していたな。」
その言葉に俺はカチンときたね。そんなこと俺でも知ってるよ。素直になれない気持ちをわからないからそんなこと言えるんだよって思った。
「どうせ、孤児の俺を助けていい人ぶりたかっただけだろ。同情の気持ちなんざ俺にはいらねえ。」
本心でもあったし、本心でもなかった。その瞬間、養父さんから平手打ちを喰らった。真っ赤に目を腫らして、泣きながらな。そりゃそうだ。最愛の妻を侮辱まがいのことをされたんだからな。それから養父さんは家に帰ってくることが少なくなったな。なんたって、有名バイオリニストだ。元々、帰ることが多くなかったが、養母さんが亡くなってから滅多に帰らなくなった。コンサートやらで忙しいんだろう。
俺はたくさんの人を傷つけた。養父さん、養母さん、時には家の執事やメイドにまで当たった。メイドたちは次々に辞めていった。1人、残ってくれた執事もいたけれど年で辞めてしまった。
---
「もし、みんなとまた会えるのなら謝りたい。謝っても許してくれないかもしれない。」
ノアは今までの生い立ちを苦しそうに辛そうに語った。孤児であるということが鎖のようにノアを縛ったのだろう。
月が雲に隠れ、少しずつ辺りが暗くなっていく。ノアの表情が全く見えず、今どんな感情なのかがわからない。
「俺がバイオリン弾けるの、義父さんの影響なんだよ。養父さんは今日の舞踏会に来てんだ。だから向こうには行きたくない。行けない。」
震える声でそう言う。ノアの表情はわからない。わかりたくない。どういう表情をしているかが想像がつくから____
ep.4 運命より固い誓いを
2人の間に少しした心地よい沈黙が流れた。2人はそれぞれの思いに浸っていた。そうして、刻々と時間が過ぎていく。そんな中、静寂な空気を保ったまま、リアムはノアに話しかけた。
「もしノアさえよければ、僕と友達になってくれないかな。君みたいな心優しい人に出会ったのは生まれて初めてなんだ。ノア自身は優しくないと思っているかもしれない。けど、そういう過去を持っておきながら、悪の道に走っていないのはすごいと思うよ。しかも、反省できてる。世の中には自分のしたことに気づかなかったり、失敗を省みることができなかったりする人間が数多くいる。僕はそういう人を大勢見てきた。だから、ノア。君はとても清くて心優しい。一国の皇子が言うんだから間違いないよ。そんなノアに惹かれたんだ。僕はノアと友達になりたい。僕の心からのお願い。」
ノアはリアムの真剣な様子に心を打たれた。こんな自分を受け入れてくれる人が現れるなんてリアムは思っても見なかった。心がじんわりと温かくなっていく。氷が溶けていくような感覚で、それは、後悔と自責で塗られたノアの世界が鮮やかに色づく瞬間だった。
ノアの表情が少しずつ柔らかくなっていくのを見て、リアムは喜びと嬉しさでいっぱいになる。恩人の心を少しでも救えたことでだ。ノアは今までの暗い表情とは一変し、花が綻んでいるような明るい笑みで言った。
「もちろん。こんな俺でよければ、末長く...ってこれじゃあプロポーズみたいだな。そうだな...」
ノアはいいことを考えついた子供のような表情をする。そして、ノアはリアムの前で跪き、手の甲を額に軽く押し当てる。これはこの国での最上級の敬礼と呼ばれているものだ。それは忠誠を誓う儀式で、年頃の少女からは永遠を共にし、忠誠を誓うことを約束する、誰しもが憧れる儀式としても有名だ。それにリアムは驚く。
「私、ノア•アーベントはリアム•コーデン•フォーサイスに永遠の忠誠と友情と愛を身命を賭して捧げる。病める時も健やかなる時も永遠を共にすることをここに誓う。」
誓いの儀式のことは知っていたけれどまるで結婚式のようだとリアムは思う。
ノアは上目遣いでリアムを見つめた。そして、手の甲を口まで近づけてちゅっと軽く口付けをした。高々にリップ音が小ホールに響く。なかなか、ロマンチックなことをしてくれた。
ノアはそっとリアムの手を下ろし、にこりと微笑む。リアムは手の甲を見つめ、ノアが口付けたところにそっと唇をつけた。
リアムが不敵な笑みをノアに向けると、意外にもウブなようでノアは顔を赤く染めた。
「な、な...どうしてそんなことを...」
「なんでってノアもしたでしょ。お返しだよ。お返し。」
そうノアをからかうとますます顔を赤らめる。
その表情が愛おしく感じる。
いつしか、リアムはノアとずっと一緒にいたいと思うようになっていくのだった。