方舟の丘陵 - 人類を絶滅から救った子供達と年寄り達とあぶれ者達と三日坊主などなど -
編集者:緑鳩の声
持続可能な社会が叫ばれながらも
それに逆行する動きも多く
この先世界はどうなっちゃうの
人類が絶滅しないように
子供達、
年寄り達、
世間のあぶれ者達 、
社会になじめない者達、
未来人などなどが
大奮闘
笑いあり、涙あり、
友情あり、恋愛あり
となる予定
毎月3日に
次話投稿予定
ここのお話は
全てフィクションです
固有名詞が実在するものと
同じものがあるかもしれませんが
全く関係ありません
このシリーズの説明や
キーワードは
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目次
プロローグ(0話)
備え有れば患い無し
戦争も内乱もサイバーテロも
感染症も異常気象も
全て予想通り
そしてそれらは
備えてきた僕らにとっては
ある意味
理想的といえるようなタイミングで
同時多発した
何度もシミュレーションを重ねた
僕らの備えも
順調に機能し始めている
備え有れば患い無し
とは言うけれど
起きてしまった事柄は
あまりにも辛く、悲しい
それらは僕らの地方では
冬の猛吹雪の日に本格化した
そして猛吹雪は何日も続いた
世界には大国と呼ばれる国が
いくつかあるが
そのひとつスターオーアイが
同盟国であるはずの小さな国に
核ミサイルで攻撃をはじめた
スターオーアイは
大手IT企業をいくつも擁し
個人、企業、行政問わず
世界中の多くの情報を集めていた
情報の保護を謳ってはいるが
自国の利益のためなら
その不正利用は黙認され
政府までもが
その不当な利用に手を染めている
そもそも情報の不正利用の
確認は困難で
不正・不当の定義もあいまいだ
自分の利益こそ正義との
考えを持つ者も少なくない
個人や団体の
ネットの検索・閲覧履歴や
公開・非公開を問わず作成したコンテンツは
スターオーアイ政府の舞台裏で
AIや必要に応じ人手で解析される
そして個人や企業、そして国までもが
スターオーアイにとって利益をもたらすか
それとも不利益となるかで分別されている
それぞれの興味や考え方にあわせて
自国に有利なフェイクニュースを見せたり
自国の利益に害となる意見を持つ者が
ネット上で炎上するように誘導したり
そしてついには
スマホの位置情報で行動パターンを把握し
事故に見せかけた暗殺までも始めた
情報だけではなく
食料の生産や流通も
他の国々を自国の
思うままにしようとしていた
そんなスターオーアイに
反対する動きも強くなり
世界の各地で
スターオーアイに関連する製品や
情報サービスの使用を控える運動が
自然発生した
スターオーアイは他の国々に
自国の製品を積極的に買うように
働きかけるが
自然発生した不買運動は
政府にはどうすることもできない
スターオーアイは
関税とは逆に
スターアイ製品の販売者には
補助金を出すようにとまで
各国に迫ってきた
断れば核ミサイルを撃ち込むと
核抑止という言葉もあったが
それは過去の話で
核を持つ国は
それを背景に不当な要求を
他の国々に押し付けるようになっていた
スターオーアイは民主主義だったが
生活を人質にとられた国民達は
自国が生き延びるためなら
他国が犠牲になるのは止む無し
との世論を植え付けられていた
その結果
自国の利益のためなら
戦争をも厭わない
権力者を生んだ
そして核を持つ国にたてつくと
このようになるのだと
見せしめの戦争が始まった
世界での戦火はこれだけではない
領土を広げようと国々による
戦争も起きている
以前から繰り返している
宗教間や民族間の争いも
収まる気配はない
内乱も多発している
政治家とお金持ちが癒着し
より沢山のお金と権力を蓄え
他の多くの人々は貧困に陥った
そんなことを続けた国では
分断が生じ、内乱がはじまった
人々の生活よりも
自分の権力への執着を優先する者と
それに反対する者たちとの間での
内乱もやむことがない
それらの戦争や内乱に関わって
サイバーテロも多発し
通信、金融、運輸の大混乱も
世界中で多発している
致死率の高い感染症の
蔓延も始まっていた
それは発生した地域に止まらず
渡航者による感染拡大が
世界各地で生じている
そして感染拡大阻止よりも
経済を優先する国々では
多くの犠牲者が出ている
世界があっという間に滅んでしまうような
大国間の大規模な核戦争にはなっていないが
様々なことが同時多発したことにより
世界中で流通も通信も途絶え
多くの人々が
食料やエネルギーの供給さえ
受けられない状態となった
これらの大きな流れは
僕達の努力では
どうにも止めることはできなかった
もっと早くに対処していれば
止められたのだろうか
どこまで遡れば
止められたのだろうか
話は一旦 何年も前に遡る
不登校となってしまった僕は
この町の義務教育学校に転校してきた
山村留学とでもいうのだろうか
親との折り合いも悪く
たった一人でやってきた
首都のヒトダラトから
遠く離れた州へ飛行機で
その州都からさらに鉄道で
街並みや平原を走り抜け
大きな山地に分け入る
特急といっても
なんかのんびりしている
速度もさほど早くなく
すれ違い待ちの停車も多い
いくつものトンネルを抜け
辺りに民家の気配もない信号所が
何か所もある
北上しているからなのか
標高が高くなっているからなのか
黄色や赤のにぎやかな紅葉の景色は
しだいに落葉した木と
針葉樹との混合となってくる
鉄橋を渡るときに見えた
気候区分をもわける山の稜線は
雪化粧している
山が深くなると
車窓は急な斜面や深い谷間ばかり
どのくらい時間が経ったのか
ウトウトして目が覚めると
傾斜はゆるやかな所が多くなり
狭いながら平地も見え始めた
険しい山地は越えたようだ
心は暖かいような
寂しいような
複雑な気持ちになっていた
どうやら夢を見ていたようだ
夢の中では
とっても立派な樹があって
その幹にそっと掌をあてていた
ミチが隣にいて
同じことをしている
いや
僕がミチの真似をしたのだったかな
懐かしい思い出
ミチはとてもやさしい女の子
底抜けに優しいといってもいい
自分の命を奪ったものにさえ
憎しみを向けようともしなかった
険しい山地を越えたとはいえ
流れる景色のほとんどは森
ちょっと農地
民家はほんの少し
州都からだいぶ走った
この先に街なんてあるのだろか
そんなことを考えていたら
突然に意外と立派な街もあって
ちょっと驚く
でもそこは目的地ではない
特急から降り
別の列車に乗り換える
いや1両だけで
列をなしていないので
列車といってよいのだろうか
どうやら僕が寝ている間に
特急は野生動物と衝突したようで
だいぶ遅れての到着となっていた
予定の乗り継ぎ列車は
既に出発していて
次の列車まで
ボォーと時間を過ごす
なにもしない待ち時間を
あまり苦痛に感じないのは
僕の特技なのかもしれない
乗り継ぎ列車が
出発するころには
いつの間にか日は落ち
乗換駅の街並みを過ぎると
車窓には灯りが途絶える
暗闇の中をゴトゴト走る
各駅停車なので
また、ある駅に止まる
ホームに人をみかけたのは
なんか久しぶりだ
目的の駅は次の次
列車が動き出した時
車内に僕を呼ぶご婦人の声
|「《Sg》トリディボウ君、トリディボウ君」
座席の背もたれ越しに振り返ると
体格のよい黒縁眼鏡のご婦人と
女の子の2人
さっきの駅で後ろの扉から乗った人達だ
僕は反射的に背もたれに隠れるように
また前を向く
ご婦人は笑顔を振りまきながら
僕の名前を呼んでいた
あまり大きな声ではないが
ちょっと恥ずかしい
でも他の乗客はほとんどいない
|「《Sg》失礼ですが
トリディボウ君でございますでしょうか」
|「《tD》は、はい、そうですが」
|「《Sg》わ た く し
ロプカチョ義務教育学校の教師で
サ ギ ブ と申しますですのよ
トリディボウ君
ようこそロプカチョへ
そして はじめまして
ここで会えてよかったですのよ
本当に
急なのですが
林間学校でいつも使っている所で
トリディボウ君の歓迎会を
することになったのですのよ
ロプカチョで降りる予定は変更
早速ですが
次のロプタンで降りて
みなさんと合流いたしますですのよ」
|「《tD》は、はい
はじめまして
…
わかりました」
サギブが
クロスシートの向かいに座ると
足元がとても狭く
僕は足の角度を変える
その狭さをものともせず
サギブと一緒に来た女の子は
僕とサギブとの足の間をかき分け
僕と窓との間の狭いスペースに
ぎゅっと収まって座った
かと思ったら
すぐに両足をこすりあわせて
靴を脱ぎ捨てると
座面にひょいと立ち上がり
僕にもたれかかる
|「《sc》うち サチっていうねん
4年生
お兄ちゃんトリディボウっていうんや
ト デ ボ やな」
|「《tD》ああ
トデボさ
8年生なんだ」
と応えたが
トテボと呼ばれるのは
初めてではなかったので
ちょっとドキッとした
|「《Sg》あらあら
列車の椅子に上がるのは
そろそろ
おやめになるお年頃でなくって」
サギブが割り込む
|「《sc》ええんや
お兄ちゃんがおるから
な、ト デ ボ」
返答に困っていると
サチが続ける
|「《sc》トデボは
ヒトダラトからきたんやろ」
|「《tD》そうだけど」
|「《sc》こわかったやろ」
|「《tD》…
確かに…
車…
とか多くて…」
|「《sc》そんなんやのおて
ビルとアスファルトばかりで
畑もない
なんちゃらレロ
じゃなくてテロか
なんかで
物の流れが止まったら
蓄えなんですぐ終了
食べるものもなくなって
みんなお陀仏や
それに比べたら
ロプカチョはええで
毎年、毎年
町の人たちがたらふく食べられるだけ
獲れる畑がある
歩いて行ける範囲で
必要なものが全部できる
とはいえ
まだ りょうさん やらな あかんこと もある
やから、次の選挙
インオサに入れてぇな
うちのおじいちゃんなんやで」
|「《tD》え、あ …
でも僕… まだ選挙権ないよ」
|「《sc》そっかぁ
お兄ちゃんでもまだダメなんや
しゃあない
ほな、選挙運動手伝ってぇな」
|「《tD》え、あ …
そうなの … 」
|「《Sg》さぁ、さぁ、
そろそろ降りる準備を
いたしますのですのよ」
サギブの促しで
サチの話は中断
列車が止まったのは
1線1面の小さな駅
バス停のような小さな待合室と
街灯がひとつだけ
僕は登山用の大きなザックを背負い
降り立った
|「《sc》トテボ
でっかい荷物やなぁ」
|「《tD》これで引っ越しの荷物全部だから
少ない方だと思うよ」
|「《sc》そっか
でも、おんぶしてもらうわけにはいかんな」
そう言ってサチは
僕の手を握る
|「《Sg》あらあら
サチさんたら
もうトリディボウ君に
なついちゃったのですのね
トリディボウ君は
よい人ですのね
サチさんには
人を見る目があるのですのよ
それでは
まいりますですのよ」
サギブは歩き始めようとするが
駅の街灯を離れた先は真っ暗闇
その日は快晴だが
月明りのない新月の夜
|「《sc》もう暗ぉーなっしもうたな」
|「《Sg》大丈夫ですのよ
備えあれば患いなしですのよ」
|「《sc》うちも準備しとったけどな」
いつの間にか2人はニット帽の上に
コンパクトなヘッドランプを装着していた
|「《sc》スイッチONや
ほな行くで」
しばらくは
車も通れそうな砂利道を歩いたが
近道をするとのことで
細い道に入る
2人のランプの光の中だけ
木々が見えているが
暗闇の中
森が無限に続いているような感覚になる
登山道という程ではないが
遊歩道というにしてはちょっと険しい
木の根や岩で段差もある
なるほど、2人とも荷物が
バックパックなのは
こんな道を歩くからなのだ
手を離した方が歩きやすそうだが
サチがあまりにもしっかり手を握るので
離すタイミングも逸し
繋いだまま歩き続ける
しだいに登りがきつくなってくる
サギブはかなり体重がありそうだが
身軽に坂を登っている
段差があってもヒラリと越える
なにか運動や訓練をしているのだろうか
…
しまった!
まさか…
僕は心の中で叫んだ
特急の遅れでロプカチョへの
到着も遅れることを
義務教育学校の寮に連絡するのを
忘れていた
なので
僕があの列車に乗っていたことは
学校は知らないはずだ
この2人はなにもの!?
まさかスターオーアイからの
刺客
ミチ一家の事故の真実を
僕が知っていると
スターオーアイが把握したのだろうか
それにしては子供も一緒
いや、スターオーアイは
自国の利益のためなら
どんなことでもする
僕を油断させるためか
とはいえ
この2人
刺客とは思いたくない
スターオーアイに対抗する国の
情報収集と僕を保護するための
スパイなのかもしれない
…
僕の頭の中は混乱する
その時ヘッドランプの光のなか
小さく平たい塊が
こちらに向かって飛んでくる
|「《tD,sc,Sg》あ!」
その小さな塊は
僕のすぐ横の樹の
僕の視線の高さに
へばりつく
|「《Sg》直接強いランプの光を
あててはだめですのよ
そっと照らしてみるのですのよ」
サギブが囁く
サチは頷くとライトを消す
サギブがランプの角度を調節して
よい具合にほんのりと照らす
ネズミ?
それとも
リス?
それにしても目が大きくまんまる
|「《sc》モモンガや」
サチは小声ながら嬉しそうに興奮している
|「《Sg》こんなに人の近くに
自分から来るなんて
珍しいですのよ」
これは可愛い動物にお会いできた
野生動物がこんなに近くに来てくれるなんて
僕もミチに似てきたのかな
ミチのことばかり考えているから
それは
ミチと公園を歩いた時の思い出
スズメやカラスが
ミチが近づいても
不思議と逃げようとしなかった
モモンガは
僕のすぐ横でじっとしていたが
しばらくすると
ゆっくりと樹をよじ登っていった
上を見ると
落葉した枝々と星々が
囁き合っているよう
|「《Sg》星が綺麗ですのよ
ちょっとライトを消してみますですのよ」
ライトを消し
目が慣れてくると
星明かりも結構明るい
天の川も鮮明に見えてくる
こんな綺麗な星空を見るのは久しぶり
無意識に僕は
サチとつないでいない方の手の
手袋を
顎と頚で挟んで外す
そして
そっと
モモンガの登っていった樹の
幹に掌をあてる
立派な樹だ
サチも繋いでいた手を離すと
そっと手袋を外してくれる
僕は樹の方へ向き直り
両方の掌で幹を感じる
ミチに会いたいな
その時、幹から掌を通って
なにか意識のようなものが
身体に入ってきた
え、ミチ、そこにいるの!
夜空から森の中に目を移す
ライトは消したままのはずなのに
なぜかほんのりと明るい
その明かりの中に
僕と同じ年くらいの
女子と男子の二人
二人の身体は
カラフルな色彩で覆われていて
その模様は少しずつ変化している
突拍子もない出来事のはずだが
なぜか心は落ち着いている
幹から掌を離すと
樹液がついたのか
すこしべたついたが
それも心地よい
|「《tD》ミチなの?」
思考はおだやかに止まったままだったが
口は動いた
|「《Tn》いいえ
私は ツ ナ グ
ミ チ さんではありません
でもミチさんは存じていますし
ミチさんの想いも受け継いでいます
トデ…
トリディボウさんのことも
ミ…」
|「《kT》よろしくだぜ」
ツナグの言葉を遮るように
男子の方が話し始める
|「《kT》ツナグはおとなしすぎっから
説明などなど全部
俺がすっから
なんでも聞いてな
あ、俺はカタリってんだ」
僕からは
まだ挨拶の言葉も発してなく
なにから質問してよいかも
考えもまとまらないままだが
カタリが矢継ぎ早に続ける
|「《kT》まぁ、とりあえず
トデボは
根っとわーく にも
認められたみてーだから
ちょっと未来まで
つきあってぇーな
すぐ|現代《ここ》に戻ってくっから」
カタリは僕の腕をつかむと
ぐいと前に引っ張った
僕はよろめいて
二、三歩前に進む
一瞬つぶった目を開けると
そこは朝日が差し込む
明るい森の中
そして初冬の様相は一変
落葉樹の枝々にも緑が芽吹き
林床には沢山の花々が咲いている
(つづく)
つづき は 6月3日に投稿の予定です。
予約登校日を設定して、少しずつ書き進めています。
なので、作者になにかあった場合は、未完成の状態で投稿される可能性もあります。
未来の文明 - 装着 根っこらぼ-(1話)
プロローグ(0話)の つづき です。
暗い夜の初冬の森から
明るい朝の早春の森へ
カタリの言う通りならば
未来に来たことになる
思考がキャパオーバーで
止まったままの僕に
カタリが語り続ける
|「《kT》ようこそ
俺らの時代へ
おめぇーらの文明が
滅びた後の時代だぜ
滅びたといっても
どこかの国々の辺境にあった
いくつかのコミュニティは
生き延び
俺らに命を繋いだんだぜ
ただ、間に行き来のできない
年代も長くあって
おめぇーらのコミュニティが
生き残ったのかどうかは
不明だ
まぁ、ミチの想いに残る
おめぇーがいるなら
生き残った可能性もある
だから此処でいろいろ準備したら
おめぇーらの時代に戻って
いろいろ頑張ってもらう
人類が絶滅しないように
って算段だ
あ!
でもこちらに来る前に
ひとつ確認するのを
忘れちまってた
ツナグ
頼んだぜ」
ツナグは頷くと
ゆっくり
僕へと歩み寄る
近い
パーソナルスペース的に
初対面で会話する距離ではない
…
似合い年の女の子が
こんなに近くに立つなんて
そして可愛い
ミチに似ている
やっぱりとても可愛い
そして綺麗
僕の個人的な好みから見ても
完全合致
容姿も声も喋り方も
鼓動が強く早くなるのを抑えられない
ツナグは僕をまっすぐみつめる
緊張を知られないように
目をそらしたい気持ちもあるが
目をそらしては
いけないように感じる
彼女とみつめ合っていると
未来でも過去でも
もう
どうでもよいと思えてくる
しばらくすると
ツナグは僕の横に移動し
僕と並ぶように立つ
|「《Tn》手を繋いでも
かまいませんか」
僕はそっと頷く
落ち着いているように
見えていて欲しいが
頭の中はパニック
さっきサチとは手を繋いだけど
こんなに意識してしまった
女の子と手を繋ぐのは
初めてだ
でも僕にはミチが…
いやミチとは
…
ちょっと
話をしたり
…
散歩をしたりしたけれど
それから
樹の幹を一緒に触っていた時
偶然を装って
わざと手に触れたこともあったけど
僕の片思い
だったかもしれないし
…
ツナグの手が
僕の手にそっと触れる
手袋は…
片側はサチが持っているはず
もう片方はどっかに落としたかも
ツナグの指の一本一本が
僕の指の間に入り込んでくる
まさかの恋人握り
もはや
緊張を隠しきれている
自信は全くない
でもツナグの掌の
暖かさが伝わってくると
不思議と気持ちも落ち着く
僕はツナグの手を握り返す
掌の柔らかさと
指の間や
手の甲の指の付け根のあたりの
絶妙な硬さが
なんとも心地よい
ずっとこうしていたい
|「《Tn》間違いありません」
ツナグの穏やかな言葉が響く
|「《kT》OK
んなら
…
て、おめぇーら
いつまで手ぇ握ってんだ」
僕達は慌てて手を離す
|「《kT》お
ちょうど来た来た」
カタリの視線の先をみると
繭のような形の乗り物が
空中をこちらに向かってくる
といっても
よく見ると飛んでいるわけでもない
高木が枝を張っているその手前に
モノレールのレールのようなものがある
懸垂式のモノレールのよう
でも近くに駅は見当たらない
繭型の乗り物は僕らの近くで止まる
乗り物は下面が
僕の身長の倍くらい高さで止まっている
どうやって乗るのだろう
と思っていると
車体が降下してきた
車体上面の吊り下げ部分が伸び縮みするようだ
車体の一部が縮むようにして入口ができ
入口の下部が伸びて
地面との間にスロープができる
こんななにもない森の中で
乗り降りできるなんて
モノレールというより
タクシーみたいだ
|「《kT》まあ、ついてこいや」
カタリが先頭で乗り込む
僕はツナグにも促され
カタリの続いて乗り込む
中はロングシートで
十人くらい座れるだろうか
すぐ後ろをついて来たツナグの案内で
荷物を入口の近くに置くと
入口からは一番奥の
カタリの向かいの席に座る
僕の隣は次に乗ってきたツナグ
と思ったのは甘かった
サチが車内でツナグの横をすりぬけ
追い越すと
ひょこりと僕の隣に座った
ツナグはカタリの隣に
その隣にサギブが座る
サチは人差し指で僕の肘をつつく
|「《sc》ちょっとちょっと
お兄さん
さっきツナグと手ぇ繋いだ時
うちと手ぇ繋いだ時より
えらい 嬉しそうやったのと
ちゃいまっか?」
|「《tD》… 」
|「《sc》ほら
赤こうなった
おもろ」
僕はこの時ツナグがどんな表情をしたのか
見ることができなかったが
救い船というか
話題転換は
サチ自身がしてくれた
|「《sc》ところで
どうやって|未来《ここ》に来れたか
わかりまっか?」
|「《tD》いや
わからない」
|「《sc》それはな
一枚の紙があって
なんかこう曲げると
こことここが くっついて」
サチは身振り手振りを交えて説明してくれる
|「《sc》ちゅうことで
わかったやろ」
|「《tD》いや
ごめん
わからないや」
僕の困った顔をみて
カタリは待っていましたとばかりに
語り始める
|「《kT》俺らは三次元の生き物
南北、東西に自由に動け
ジャンプとかすれば上下にも動ける
座標の軸で考えた時
三つの方向に動けるから三次元だ
でも説明のために一次元の生き物
ということにするぜ
一枚の紙の上
東西に引かれた線がある
一次元の生物は
この線上を東か西にしか動けない
この線は北から南に絶えず動いているが
一次元の生物には
この流れはどうにもできない
ところが紙をまるめて
南のある部分と北のある部分が
接するようにする
そうすると
北から南に流れていく線自身が
前に通った場所に接して通るとこになる
この接した場所で
ちょっとしたコツをつかめば
紙上の東西した動けなかった一次元の生物も
紙の南北の方向に移動することができる
それと同じ
三次元の生物の俺らも
時空に歪みがあるから
特定の場所でジャンプするくらいの
ちょっとしたコツをつかめば
四次元的移動
すなわち未来や過去にいけるってことだ
だが
紙の丸め方や接している場所までは
変えられないから
行き来できる時代や場所は限定される
わかっただろ」
|「《tD》なるほど
なんとなくだけど
分かった気がする」
|「《kT》そうだろそうだろ
俺は説明がうまいからな
そんじゃ、降りるか」
乗り物はいつの間にか
地下なのか
大きな建物の中なのか
そんな所に着いていた
|「《Sg》わたくし と サチさんは
もう少し先で降りて
あとでお会いすることに
いたしますですのよ
トリディボウ君
荷物お預かりいたしますですのよ」
|「《kT》だな
そうしてくれ」
カタリは出口にむかって歩いている
|「《Tn》トデ…
トリディボウさん
まいりましょうか」
|「《sc》ほな
うまくやるんで
手袋預かっておくけん」
|「《tD》ああ」
僕はなんと答えてよいかわからず
こんな声しか出せず
立ち上がる
乗り物の止まっている場所には
ホームはなく
降り口から連続するように
直接通路が続いている
通路に窓はない
やはり地下なのだろうか
床は平らだが
壁から天井はアーチ状
奥は暗闇だが
近づくと次々と明るくなっていく
照明器具はみあたらず
アイボリーの壁全体が発光している
しばらく行くと
通路は半透明の壁に突き当たる
先頭のカタリは速度を落とさずに
壁に突っ込み
壁の途中で止まると
こちらを振り返る
まるでカタリの身体が
壁と融合しているよう
|「《kT》おめぇーは
壁にごっちんこするかもしんねえから
注意して来いよ」
と言うとカタリはまた先を向き
壁の向こうへ通り過ぎていく
ツナグは僕の斜め後ろから
横にくる
また近い
ドキッとする距離
|「《Tn》もう一度
手を繋いでいただけますか」
|「《tD》え、あ、
まぁ
…
喜んで」
|「《Tn》ありがとうございます
そうしないとトリディボウさんは
まだここを通れないので」
ツナグも壁を通り抜ける
ツナグに引かれた僕の手も
壁の中を通っていく
身体が壁にぶつかった時
すこし抵抗があったが
ツナグとつないだ手から
肩へそして身体全体へと
抵抗はなくなっていった
その先は通路がそのまま膨らんだような
部屋になっている
カタリはそこで立ち止まると
振り返る
|「《kT》よし
ツナグの確認で
ミチの記憶に残る人物で間違いなし
壁も通り抜けられたので
健康状態もOK
ってことだな」
|「《tD》それは僕が健康ということですか」
|「《kT》その通り」
|「《tD》それならあの壁の判定は
間違えていますよ」
|「《kT》なんでだ」
|「《tD》だって僕は気管支喘息で
死にかけて集中治療室に入ったこともあるし
今でも薬を続けているけど
入退院を繰り返しているし
アトピーもあるし
花粉症もあるし…」
|「《kT》それは違うぜ
俺らは心の病気を気にしているんだ
それに喘息やアトピーは
ヒトダラトを離れて
ストレスがなくなればすぐに治る
花粉症だってここには
よい治療法があるぜ」
|「《tD》僕には
心にも問題がある自信があります」
|「《kT》いや
そこは自信を持つところじゃねえだろ」
|「《tD》でも…
なにをやっても長続きしないし
それに…
適応障害でヒトダラトの学校には
行けなくなったし
さらに…
両親は双極性障害と若年性認知症
兄弟は統合失調症
僕もいつ発症するか…
いつも不安なんです」
|「《kT》ははは
それも問題ねえ
そんなんもここでは個性の範囲内
本当の心の病気っちゅうのはな
権力・金銭・財産・既得権への執着
多様性を受け入れられない心
人を差別し分断を招く心
そうゆうやつだ」
|「《tD》え
それって病気なんですか」
|「《kT》あったりめぇーだ
そんなんがあっから
おめぇーらの文明は
大勢の人たちが命を落とし
破滅したんだ
個人でも民族でも文明でも
種でも生態系でも
寿命を縮めるなら大病だぜ
俺らの文明は
おめぇーらの文明が滅びた原因を考え
その反省から成り立っているんだ」
言葉を返したくても
返す言葉のみつからない僕に
カタリは続ける
|「《kT》まぁ
おめぇーらの時代に帰る前に
ここの生活を見ていけや
いろいろわかってくるから
それはともかく
人類を絶滅から救う計画に
力を貸してくれるんでいいか?」
|「《tD》もちろん
協力したいです
僕にできることなら
でもできるのかな」
|「《kT》誰でもできねぇことはできねぇ
だから
できることだけでいい
それでいいな」
|「《tD》はい」
|「《kT》よし
なら
まず
着替えねぇーとな」
|「《Tn》それでは私は
一旦席を外しますね」
|「《kT》おう」
ツナグは元来た廊下へと
去っていった
|「《kT》まずは着替える目的の第一は
仲間の間での意志の疎通だ
おめぇーらの世界では
ンマホ…
じゃねぇ スマホか
そんなんで意思の疎通をしたら
スターオーアイにすぐ
目ぇつけられちまうからな」
|「《tD》え
服で通信なんかできるのですか」
|「《kT》俺らが身に着けているのは
おめぇーらの服とは全く違う
根っこらぼ といって
身に着けている本人と一体となって
形成されているひとつの生態系だ
細菌、粘菌、真菌、植物、ウイルスや
それらの生成物からできている」
|「《tD》ええええ
そんなの身に着けたら
…
よくないと思います」
|「《kT》なに言ってんだ
今でもおめぇーらの皮膚や腸内には
たっくさんの細菌がいて
そのおかげで生きてんだぞ
根っこらぼ は
究極の善玉菌の集合体ってとこか
皮膚の表面では温度や湿度の管理
病原菌の排除もしてくれるんだぜ
ちょっとコツをつかめば
他人と意識を共有できたり
他人が考えていることを覗ったりも
根っとわーく を介してできる」
|「《tD》他人の意識を覗うって
そんな覗き見みたいなのも
よくないと思います」
|「《kT》まぁ、おめぇーらの感覚ではそうなるか
おめぇーらの世界では
差別や価値観の押し付けが
横行し過ぎてっからな
いろいろと隠さねぇーと
生きていけねぇーんだよな」
|「《tD》… 」
|「《kT》あ
今、おめぇー
ツナグが自分のことどう思っているか
覗こうと思っただろ」
|「《tD》え
もうわかっちゃったんですか
でも僕
まだ
着替えてないですが」
|「《kT》ハハハ
今のは推測というか
おめぇー顔に書いてあったぞ
つーか
それが普通の健康な男子だ
さてそろそろ準備できっかな
根っこらぼ はひとりひとり
適合性が違う
オーダーメイドだ
ここで生まれた人間は
親から引き継いだものを
適宜修正していくんだがな
おめぇーらの世界の人間では
全く適合できない奴も多い
おめぇーは数年前
樹に触れた時
根っとわーく から派遣された粘菌が
おめぇーの中に入り込み
根っこらぼ を身に着ける準備を進めていた
おめぇーがおめぇーの時代で
また樹に触った時や
地面に寝転がった時にも
根っとわーく にデータが収集された
根っとわーく に残るミチの想い
も重要な役割を持っている
そんなんで
おめぇーは適合性のある人間の
候補になった
そんで
さっき、ツナグと手ぇ握った時や
壁を通り抜けた時に
最終チェックした
今
準備されていた 根っこらぼ の
最終調整をしてんだ」
|「《tD》え
根っとわーく には過去の人の
想いが残っているのですか?
それを覗うこともできるのですか?
それならミチのことも」
|「《kT》まぁ
それは
おめぇー次第だな
お
準備できたみてぇーだ」
横を向いたカタリの視線の先では
四人の大人が壁をすり抜けて
部屋に入ってくる
扉でもない部屋の普通の壁から
湧き出てきたように見えた
彼らの 根っこらぼ の
表面の模様は様々で
アートになっている
カラフルなものもあれば
シックなものもあり
固定しているものもあれば
流動しているものもある
|「《kT》みんな
よろしくだと
あ
彼らはおめぇーらの言葉を
喋る個性は持ってねぇーから
俺が通訳すんな」
四人とも裏のないにこやかな表情
僕は握手を求められ
順番に握手していく
四人とカタリとの間では
なにか言葉以外の方法で
意志の疎通をしているようだ
|「《kT》お
そっか
根っこらぼ について
装着前に
もっと説明をしておけだって
まず 根っこらぼ は身体全体を覆う
俺やツナグなんかでは
一見顔や頭は覆われていないように見えるが
そこは薄く透明になっているだけ
実際は髪の毛一本一本の先まで
根っこらぼ に覆われている
まずはベーシックなのもを装着してもらうが
追加で沢山のオプションもある
空を飛べるオプション
ビバークに適したオプション
人の心を読む能力を強化したオプション
表面の模様を自由に変えられるオプション
髪型を自由に変えられるオプション
など
分子構造から構築しての工作や建築
植物の特殊機能の発現
病気や怪我の治療
食べ物の加工
なんてもんもある
ただしオプションには適性もあっから
全てのオプションが使えるとは限らない
大切な機能のひとつは衣服としてだが
外気温に応じて内部構造が
柔軟に変化するので
オプションなしでも
結構な温度差に対応できる
それから
一度装着したら一生脱ぐことはない」
|「《tD》え
では
お風呂に入るときはどうするのですか」
|「《kT》究極の善玉菌の集合体が
皮膚の環境を常に清潔かつ理想的に
保っているから
本来風呂なんて入る必要はねえ
でもリラックスのためとか
風呂が趣味だとか
そんなことなら
入浴中の気持ちよさが十分楽しめるように
入浴時に根っこらぼ の内部構造が変化する
だから着たまま入浴でも十分大丈夫
出た後の温度湿度の管理もバッチリ
だから
濡れても拭く必要なしだ」
|「《tD》お手洗いはどうなるの?」
|「《kT》おめぇーも心配性だな
根っこらぼ の一部が排泄物を包み込んで
分離されるタイプが多いな
そうそう
お尻の周りの環境も
究極の善玉菌が整えてくれるから
お尻を拭いたり洗ったりする必要もねぇ
オプションによっては排泄物も
根っこらぼ の生態系の維持に
利用するものもあんだ」
|「《tD》根っこらぼ に穴が開いて
そこから排泄っていうわけには
いかないのですか?」
|「《kT》そんなんはねぇな
根っこらぼ は
常に身体全面を覆うのが基本だ
まぁ正確に言うと
口から腸の内面も
根っこらぼ が覆っていて
お尻の穴は体外とも考えられんだが
その辺りはいろいろな保護も考え
厳重に覆われてんだ」
|「《tD》それでは
握手する時も
常に手袋をしているような
感じってことですか?」
|「《kT》まぁそうゆうことだな
人と触れ合う時も
根っこらぼを介してとなるが
例外もある
たとえば赤ん坊
赤ん坊は母親から
根っこらぼ を分けてもらっているから
母親と赤ん坊の根っこらぼは
容易に融合して
二人を外から覆うことになる
それから
お互いに本当に心を許し合えるような
関係になると
根っこらぼ の融合が可能になると
聞いたこともある
そうしたら素手で握手も
できんじゃねぇかな
根っこらぼ どうしの相性も
あんのかもしんねぇが
俺も経験したことねぇから
よくは知らねえ
ただ
根っこらぼ が心の状態にも
敏感に反応する事は確かだぜ」
|「《tD》… 」
|「《kT》そんじゃぁ
そろそろ始めんぞ」
僕は頷く
大人の二人が向かい合ってしゃがみ
床に触れると
その間にちょうど僕が横になれるくらいの
台のようなものが盛り上がってくる
寝台なのだろう
寝台の側面は部屋の床や壁・天井と同じ
アイボリーだが
上面だけが樹皮のような不均一な茶色で
少し緑の部分もある
別の二人が台の両側で壁にふれると
壁が張り出していき
二人はそれを引っ張るように
台を取り囲むような個室を作る
|「《kT》んじゃぁ
そこに横になれ
服は脱いで
そこに入れておけ
おめぇーがそこ入ったら
ここ閉めっから」
個室に入ると
服入れにちょうどよい
箱のようなものも形成されている
出入口はすぐに閉められたが
壁全体が発光して中も明るい
その明かりも
服を脱ぎやすくするためか
ゆっくりと暗くなっていく
温度もちょうどよい
人類を絶滅から救うためと
自分にいいきかせ
服を脱ぐと
台の上に仰向けに横になる
台の表面は今まで経験したことのないような
適度な柔らかさと
快適な肌触り
表面は平にみえていたのだが
よこになってみると
自分の身体にあわせて
凹凸ができて
これも快適
心の中では
なぜ自分が人類を絶命から
救わなければいけないのか
そんな大事に関わる義務はないのでは
やっぱり自分にはできないのではないか
そんな不安や葛藤もあったが
あまりの心地よさにどうでもよくなる
そして
すぐに
眠ってしまった
眠っていた時間は
一瞬のようにも
とても長い時間のようにも
感じた
目を覚まし
上半身を起こすと
目に入ったのは
自分の腕や下半身
まるで木
表面の見た目は樹皮そのもの
全体の形もずんぐりしている
顔はどうなんだろう
鏡は?
と辺りを見渡すが
そこは小さな個室ができる前の大きな部屋
一面アイボリーの壁で一か所だけが
廊下に続いている
誰もいない
立ち上がってみる
表面の見た目は硬そうにも見えるが
とても柔軟で
動くには全く問題はない
自分の全体像を見てみたい
もう一度鏡はないだろかと考えた時
向かい合っていた壁の一部が
ちょうど姿見くらいの範囲で鏡になる
木!
本当に全身 木 !
頭はギザギザ
まるで
途中で折れた倒木の下半分に
手足がついているよう
顔も人間の顔ではなく
樹皮に直接 眼が二つある
いままで会った未来人の
人間らしい姿とは
全然違う
お、おしゃれじゃない!!!
|「《kT》おー
それがおめぇーの
根っこらぼ の
ナチュラルフォルムか
なかなかいいじゃん」
声に驚いて振り向くと
ちょうどカタリが壁をすり抜けて
出てきた
|「《tD》え
いや
これはダメというか
恥ずかしいというか … 」
|「《kT》そんなことねぇーって
ツナグにも見せてやんな
きっと喜ぶぜ
それと、おめぇーの歓迎会つーのも
準備してんだ
ついて来いよ」
こんな姿ツナグには見られたくなかったが
他にどうすることもできず
カタリの後を追って
最初に入ってきた廊下を戻る
半透明の壁の壁が見えてきた時
ツナグが半透明の壁を通り抜けて
こちらにやってきた
|「《Tn》あらトデ…
トリディボウさん
やっぱり木のフォルムなのですね
ミチさんとの思い出の深い…
素敵ですよ」
ツナグの声は嬉しそうにも
悲しそうにも
どちらにも聞こえた
まだツナグの気持ちを読むことはできない
カタリはそのまま半透明の壁を抜けて
モノレールから降りた所の方へと
向かっていった
|「《Tn》トリディボウさんの歓迎会を
準備しているのですよ。
一緒に行きましょう
天気もよいので
ちょっと森の中も歩いて行きましょう」
僕は半透明の壁と通り抜けるために
ツナグに手を引いてもらおうと
手をさし出す
でもツナグは今までより
少し遠くに立っている気がした
ツナグもカタリの進んでいる方向へと
向きを変える
|「《Tn》根っこらぼ を纏ったら
もうこの壁は自由に通れますよ」
と言いツナグは
僕と手を繋ぐことなく
半透明の壁を通り抜けていく
僕はおそるおそる壁に触れる
僕が触れた部分の壁が
まるで溶けるような感覚
なんの抵抗もなく
壁を通り抜けることができた
カタリ、そしてツナグの後について
廊下を歩いていく
今までは僕の斜め後ろを
まるで僕をサポートするかのように
歩いてくれたツナグが
先にいってしまうのは
ちょっと寂しい感じがした
モノレールから降りたところは
天井が高く
頭上をモノレールが通過していく
その先にはまた今までと同じような
通路が続いている
その途中で壁を触ったり
顔を近づけたりしている大人がいる
壁の点検でもしているのだろうか
カタリとツナグは立ち止まる
言葉ではない方法で大人と
会話をしているよう
|「《kT》おう
トデボのことを紹介したところだ
よろしくだと」
|「《tD》はじめまして
よろしく」
僕は多分相手には通じていないだろう
発語をしながら握手をする
|「《tD》なにをされているのですか?」
|「《kT》それはまた俺が説明する
この地下の建造物も
根っこらぼ と同じ
微生物とその生成物の集合体で
生態系を形成している
我々人間も共生させてもらっている
そんで人間の役割としての
メインテナンスをしてんだぜ」
さらにもう少し進むと
森の中に出る
新緑が眩しい
正面に大きな樹
白と緑に彩られている
沢山の白い花と緑の若葉
しばらく目を奪われる
振り返ると傾斜地にある横穴
やはり地下にいたようだ
出入口にも半透明の壁があったが
何もないかのように通り抜けることができた
カタリを先頭に
森の小径を歩く
地下では少し硬い印象だった
ツナグの表情も和らいでいる
ツナグも森が好きなのだな
僕も森が好きだ
ヒトダラトの家の近所にあった
原生林も保護された緑地
僕にとっては街中のオアシス
ミチとお散歩した思い出もある場所
ここもあの原生林に似ているな
森の中では所々で
土台のようなものが作られている
そのまわりで作業をしているのか
動き回っている人が数人いる
なにをしているのだろう
|「《kT》あれは
新しいモノレールの路線の建設中だ」
|「《tD》こんな素敵な森
モノレールを作って開発しちゃうなんて
もったいないですね」
|「《Tn》その心配はないですよ
モノレールが通っても
この森はこのまま
モノレールの工事も
木を避けた通り道を選んだり
ちょっと木に避けてもらったり
それには何十年
場合によっては何百年も
かけることもあるのです
木を切ることはないんですよ」
|「《tD》でも
建設用の重機も
資材を運んでくる道もないのに
どうやって建設しているのだろう」
|「《kT》ああやって手で触れることで
分子構造から組み立てながら
建造物を作るんだぜ」
|「《tD》そ
そ
そんなことが人間にできるのですか?」
|「《kT》まぁ
おめぇーにも
そのうち解ってくっと思うが
今は
おめぇーらの文明では
多様性を尊重することを蔑ろにし
差別や分断を生む者が
リーダーになってしまったことによって
失われてしまった人間の能力
とだけ言っておくわ」
(つづく)
つづき は 7月3日に投稿の予定です。
予約登校日を設定して、少しずつ書き進めています。
なので、作者になにかあった場合は、未完成の状態で投稿される可能性もあります。