閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
prologue
「もしも俺が明日死んだら、|結衣《ゆい》はどうする?」
突然の質問だった。
驚きのあまり即答はできなかったが、一呼吸置いて言葉を紡いだ。
「そんなの、起こってみなきゃわかんないよ。」
言った後、自分は少しずれたことを口にしているのではと思った。
彼が聞きたかった言葉はきっと、こういうことではないはずだ。
案の定、少し不貞腐れた様な顔をしていた。
「…ふーん、悲しくはならない?」
「まぁそりゃ悲しいだろうけどね。」
私がそう言うと、彼は付き物が取れた様な、すっきりした様な表情をして、「俺はね」と言った。
「俺は結衣が死んだら毎日お墓参りに行くし、お供物だって結衣が好きなものとかちゃんとこだわるよ!」
正直、‘俺もついていく’とかではないのか、とは思ったが、でもそれが彼らしいとも思った。
「結衣が死んだらなんて、そんなこと考えるのも苦しいけど。でもそうなっても、俺はずっと結衣に尽くすよ!」
“だって俺、結衣に恋してるからーーー。”
episode 1
「ゆいー、彼ぴからLINEきてるよー。」
「あー大丈夫、そのままにしといて。」
昼休みになり、親友とお弁当を食べながら英単語を一気に頭に入れる。
全く高校というものは、小中学校とは比べ物にならない程の勉強量で、青春なんてできたものではない。
「そんなのお家でやればいいじゃんね、テストまだだし。」
「そういう問題じゃないの。高1の時点でどれだけ土台作ってるかで入試の結果も変わってくるから。それに、英検も近いし。」
「とは言ってもだよ?せっかく彼氏いるんだから、もっと高校生らしいことするべきだよ。華のJKライフ送るべきだよ。」
箸でウインナーを刺して、机に肘をつきながら口に放り込む彼女を見て、
あぁ、自分ももっとそういう風にゆるく生きていたいなぁと思った。
「…彼氏なんて、いてもいなくてもそんな変わらないでしょ。」
「え、彼氏いない歴16年のうちにそれ言う?流石に訴えるよ?」
真剣な表情でそう言うと、「もういいですー、うちは推しがいるから」と、少し拗ねた様子でスマホを取り出した。
「ごめんごめんw、でも|彩葉《いろは》は作ろうと思ったらいくらでもいるでしょ。」
「…どうだか。うちはもう、大学に全てをかける。」
「全てって大袈裟すぎw」
何だか訳も分からず英単語を観察しているのも馬鹿らしくなってきて、スマホを取ってLINEをチェックした。
“今日会えないかな?”
そのメッセージに、トクンと胸が高鳴るのを感じ、やっぱりまだ好きなんだなぁと思った。
彼氏とは別に、上手くいってない訳ではない。
交際を始めてから2年が経つが、他校になってからも頻繁に連絡を取り合っているし、お互いの都合が合えば定期的に会っている。
…でも、
「…どした?やっぱ気向かない?」
私の画面を覗き込んでいたのか、心配そうに彩葉がこちらを見つめた。
「…うん、なんか違うかも。」
ここのところ少し、彼と会うのが憂鬱になってしまっている自分がいる。
付き合いたての頃は、彼から誘われるのが嬉しくて、どこに行くにしてもウキウキで着いていったのに。
「やっぱそれ、倦怠期ってやつだよ。」
「いやいや、倦怠期って普通、3ヶ月とかで起こるやつでしょ?私達もう2年だよ。」
「恋愛に普通とかないよ。」
そう言われて、確かに、と思った。
ならどうすればいいと言うのだ。
好きだけど会いたくはない、そんなの対処しようがない。
「試しに会ってみて、それでやっぱ無理ってなったら帰るってのはどう?そしたら自分の気持ちもわかるんじゃない?」
我ながら、最高の親友を持ったと思った。
「確かに!そうしようk」
「何の話してんの?」
上から降ってきた低音ボイスに少しギョッとなりながらも、声の正体はすぐわかった。
「|大知《だいち》、近い。」
「ピッピー、この子彼氏持ちでーす。」
「わりぃわりぃw、てか狙ってねーよこんなチビ。」
その言葉に多少はイラついたが、特に何も言い返さず肩に置かれたゴツい手をバシッと叩いた。
「いってー。お前女子の癖に全然可愛くねーよな。」
「うっさい。あんたが触るからでしょ。」
さっきまで大知の手が乗っていた肩をはたきながら、どうして同い年の男はこんなにもガキなのかと思う。
彼だったら、付き合ってない女子に触れるどころか、話しかけることすらしないと思う。
「…お前さ、今日映画行かね?」
「は?なんで。」
急な誘いに戸惑いながらも、もしかしたら大知はさっきの会話を聞いていて、彼と会わない口実を作ってくれているのではと思った。
「…2人はちょっと。彩葉行く?」
「あーうちはいいかな。今日兄ちゃんとアサイー食べ行くから。」
「んー…ちなみに、今何の映画やってるっけ?」
聞いても断るつもりでいたが、念のために確認しておくことにした。
「お前の好きなアニメの劇場版やってるぞ」
「えっ嘘、まじ!?あれって来月からじゃないの!?」
「昨日から。部活の先輩からチケットもらったからお前行かねーかなって。」
「いくいく!行きます!!」
我ながら単純だなと思う。
映画一本で動かされるくらい、今の私は彼と釣り合っていない。
ただ一つ、引っかかることがあった。
「…彼氏と、行く約束してたんだよね。その映画。」
「…やめとく?」
彼と交わした言葉が頭をよぎり、思わず俯いた。
…2回、行けばいいか。
「大丈夫、今日行こっか。」