ルミエール王国の第一王女・城ヶ崎英玲奈は、初めて見る城の外の世界に絶望した。
憧れていたキラキラした世界はそこにはなく、貧困と犯罪でひしめき合っていた。
人々は口々に、『こうなったのは国王のせいだ』と言う。英玲奈の知らない場所で、父は悪政を行っていたのだ。
英玲奈は人々に、告げた。
『私が必ず、この国を救ってみせる。絶対に、貴方達を助けるわ。だから、信じて待っていて!』
そうして英玲奈は、王女という立場を捨て、剣を手にし、御付きの者を連れて国を飛び出した。
英玲奈の故郷を救う物語は、ここから始まった。
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目次
Prologue 箱入り王女様
ここは、光の国・ルミエール王国。
この国の第一王女である『|城ヶ崎英玲奈《じょうがさきえれな》』は、生まれてから一度も外に出たことがなかった。それは弟の|麗音《れおん》も同じだろう。
ある日の夜、英玲奈は城をこっそり抜け出し、外の世界を見た。
そこには、昔から憧れていたキラキラした光景はどこにもなかった。あるのは貧困と、犯罪だけ・・・。
英玲奈は驚愕し、絶望した。
困惑に任せて街を歩き続けると、スラム街があった。そこの人々は、口々に国王の悪評を並べたて、助けを求めてきた。父がどんな悪政をしてきたのか、スラム街の荒れ具合や痩せこけた人々を見れば、英玲奈はいやでも想像できてしまった。
英玲奈は思わず、人々に高らかに宣言した。
英玲奈「私がこの国を変える。必ず貴方達を救うから、信じて待っていて」
人々は彼女が王女であると知ると、彼女を信じてお守りをくれた。
英玲奈は全速力で城に戻った。
英玲奈は麗音に貧困や犯罪に困らされている人々を助けるように言った。
そして、お手伝いとして彼女の元で働いていた|狐屋稲荷《きつねやいなり》という女の子を連れ、城を飛び出した。
それっきり、彼女の行方はわからなくなり、連絡もぱったりと途絶えたのだった。
王女英玲奈
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episode1. 王女は征く、どこまでも
英玲奈「・・・国を出てきたのはいいのだけど・・・この姿じゃ目立っちゃうわね」
稲荷「変装してみては?顔は仮面か何かで隠して・・・」
英玲奈「まぁそうなるわよね。稲荷ちゃん、お金は渡すから動きやすそうな服を買ってきてもらえない?」
稲荷「わかりました!」
お手伝いの稲荷は普段から狐のお面をつけている。
そのため、国外の人は愚か、城の人間でさえもその素顔を知らない。英玲奈は知っているが。
稲荷は美人である。少なくとも、英玲奈はそう思っている。
稲荷「買ってきました!」
稲荷が買ってきてくれた服を着て、英玲奈は両手を広げて立った。
英玲奈「どうかしら?」
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稲荷「すごく似合ってます!カッコいいですよ!」
英玲奈「稲荷ちゃんのセンスがいいのよ。あとは、このピエロの仮面を付けて・・・」
稲荷「大丈夫ですか?前見えますか?」
英玲奈「ええ。バッチリよ。ありがとう稲荷ちゃん」
稲荷「よかったです!これからどうしましょう?私達、このままじゃかなり目立ちますよね・・・」
英玲奈「二手に分かれて、ルミエール王国クーデターに向けて仲間を集めましょう。貴方は本名を名乗ってくれて構わないけど、私は念の為、偽名を使うことにするわ」
稲荷「わかりました。それでは、私は西の方角に行ってみます」
英玲奈「じゃあ、私は東に行ってみるわね。仲間ができたら、再びここに集合しましょう」
稲荷「了解です。それではご無事で、王女様!」
稲荷は手をぶんぶんと振りながら、西へ向かって走って行った。
英玲奈「さてと、私もそろそろ出発しないと」
英玲奈は城から持ってきた聖剣を腰に携え、市場で買った鞄に地図とお金、食糧を入れて歩き始めた。
目指すは東の街、『ドラゴンタウン』だ。
街を目指して歩いていくと、怪物に遭遇した。
スライム「うにゅーーっ!」
英玲奈「邪魔よ」
ジャキッ
英玲奈が剣を一振りすると、スライムは真っ二つになって消えた。
実は、英玲奈は王女なのだが____。
英玲奈「あーあ、ドラゴンでもなんでもいいけど、そこそこ強いのと戦いたいわぁ」
勇者としてのスキルもかなり高く、RPGで言うならカンスト状態なのだった・・・。
episode2. 街で出会った仲間
やがて英玲奈は、ドラゴンタウンにたどり着いた。
英玲奈「まだ入れそうなパーティはあるかしら・・・」
ギルドに立ち寄った英玲奈は、受付に『まだ人数が埋まっていないギルドはありますか』と尋ねた。
受付は言葉に詰まり、一つのパーティを紹介してくれた。
人数は5人、最大人数は6人なので、まだ入ることができる。
英玲奈「このパーティに参加したいです」
受付「・・・わかりました。でも、くれぐれも気をつけてくださいね」
英玲奈「気をつける・・・?何にでしょうか?」
受付「実は、このパーティ・・・“女嫌い”で知られているんです」
それを聞いても、英玲奈の心は揺らがなかった。
翌日、英玲奈はパーティの仲間と会うことになった。
女性は信用できないと思っているのか、ニックネームを教えられた。
5人の視線は冷たい。それでも英玲奈は引かなかった。
ドズル「・・・はじめまして」
戦士、ドズル。パーティのリーダーで、怪力自慢のムキムキ男性。貼り付けたような笑みを浮かべている。心から笑っていないのは見ればわかった。
ぼんじゅうる「なんで女な訳?嫌だって言ってんのに・・・」
魔法使い、ぼんじゅうる。ドズルの右腕?のような立場らしい。さっきから受付嬢に文句を垂れまくっている。
おんりー「・・・どうも」
盗賊、おんりー。小型ナイフを構えたまま、弓使いの少年を守るように立っている。人一倍警戒心が強そうだ。
おらふくん「・・・」
弓使い、おらふくん。大きな弓を背中に背負い、震えながらおんりーの後ろにいる。相当怖がりなのだろう。
おおはらMEN「めんどくせぇっすね・・・」
技術者、おおはらMEN。唯一人外の見た目で、巨大なツルハシを背負っている。英玲奈が気に入らないようだ。
エレン「エレンです。よろしくお願いします」
英玲奈も本名は隠し、エレンと名乗ることにした。幸い剣士はいなかったため、バランスは良さそう。
こうして、女嫌いのパーティ5人組と、素性を隠した一国の王女の旅は始まった。
パーティに入ったはいいものの、英玲奈はかなり避けられていた。誰も近寄って来ず、いつも1人だった。
それでも英玲奈・・・エレンは辞めなかった。1人黙々と、怪物を狩り続けた。
ドズルはそのエレンの様子を、度々眺めていた。初対面の時とは違い、冷たさを感じない・・・心配の目だった。
ドズルの心は動きかけていたが、なおもエレンを避け続けていたのだった。
episode3. パーティにいる理由
エレンがパーティ『ドズル社』に所属して数日。
ドズルの思いが完全に動かされる出来事が起こった。
それはクエストを終え、宿屋で休んでいる時のこと。夕食の時間で起きた。その時食堂___というより宿屋には、ドズル社しかいなかった。
1人離れた席で黙々とカレーを食べていたエレンに、ぼんじゅうるが近づいてきた。
この時のエレンは、仮面を半分だけ外し、口と右目が見えていた。
エレン「なんですか」
エレンが淡々と尋ねると、ぼんじゅうるはバカにしたように鼻で笑い、
ぼんじゅうる「お前さ、なんでこのパーティに来たわけ?」
そう聞いてきた。
エレン「他に人数が空いているところがなかったからですよ」
エレンはまた淡々と答え、机に向き直ってカレーを食べ進める。それがぼんじゅうるを更に苛立たせたのか、
ぼんじゅうる「だとしてもさ、女嫌いって受付嬢絶対言ってたよな?わかってて入ったのかよ?」
自分の机に戻る様子もなく、しつこく聞いてくる。
**バンッッッ!**
突然鳴り響いた爆音に、ぼんじゅうるは後退りする。エレンが机を渾身の力で叩いたのだ。
エレン「悪いですか?」
エレンの声は低く、自分より頭一つ分でかい男を鋭く睨む。その顔は、般若にも劣らぬ恐ろしい形相だった。
エレン「女嫌い?ええ、聞いてましたよ。それが何か?嫌いなら勝手に嫌ってればいいじゃないですか。避ければいいじゃないですか。関わらなければいいじゃないですか。だから私から関わるようなことはしていませんし、1人の時間を出来る限り増やしてますよね?今日だって、6人部屋はあったのに私だけ1人部屋に変えましたけど?」
エレンはただ捲し立てる。その勢いに、食事を食べていた他のメンバー4人も目を向ける。
エレン「ならなんでこのパーティにいるかって話になるでしょうけど、単純明快です。私はただ、“パーティに所属している”と言う肩書きが欲しかっただけです。パーティに所属していれば、クエストを受けられますし、お店で買い物できますから。貴方達に嫌がらせしたいわけでも、邪魔しにきたわけでもないです」
エレンの言葉は止まらない。ぼんじゅうるは完全に固まっていた。
エレン**「陰口も嫌がらせも、ご勝手にどうぞ!私はなんとも思いませんので!」**
そう吐き捨てたエレンは、残っていたカレーをさっさと食べ終え、返却口に持って行った。
食堂のおじさんとバイトの女性に謝罪し、エレンは自分の部屋に戻って行った。
ぼんじゅうるを含む5人は、しばらくその場から動けずにいた。
episode4. 女嫌いのトラウマ
エレンが1人、部屋でくつろいでいた時、部屋の扉が叩かれた。
エレン「はーい」
ドズル「すみません、少しいいですか・・・?」
声の主は、リーダーのドズルだった。
エレン「どうぞ」
エレンは鍵を外し、ドズルを部屋に招き入れた。
ドズル「ありがとうございます」
エレン「文句でも言いに来たのですか?騒がしくしてしまってすみませんね」
ドズル「・・・そうじゃ、ないんです」
意外そうな顔をするエレンに、ドズルは聞いてもいないのに話し始めた。
エレン「なるほど、女性への恐怖、ですか・・・」
ドズル社にはかつて、女性のメンバーがいたそうだ。でも、度々癇癪を起こしてはメンバーに当たり散らしていたらしい。特に当たりがひどかったのは『おらふくん』だという。とうとうおんりーとおらふくんが殺されかけ、慌てて追い出したらしい。その後も時々女性メンバーを募ったが、顔やステータスだけで擦り寄ってくる人しかいなかったという。
ドズル「あれ以来、僕達はずっと女性を避けていた。女嫌いというより、女性不信だったんです」
エレン「それはまぁ・・・女の人を嫌っても仕方ないですね」
ドズル「でも、今日のあなたを見て確信しました。あなたはそんなひどいことをしない。僕達をわかってくれるかもしれないと」
エレンは静かに立ち上がると、慣れた手つきでピエロの仮面を取った。
ドズル「・・・?」
きょとんとした顔で見守るドズルに目もくれず、髪飾りを外し、ポニーテールをほどく。
エレン「これなら・・・わかるかしら?」
口調も変わったエレンの姿を見て、ドズルは声も出ないほど驚いた。少し時間が経って、叫んだ。
ドズル「あ、あなたは・・・英玲奈姫様⁉︎」
英玲奈「そうよ。私は城ヶ崎英玲奈・・・。ルミエール王国の改革のために旅をしている、普通の王女よ」
ドズル「いや普通じゃないですって!改革?旅⁉︎頭が全然追いつきません!」
英玲奈「敬語じゃなくてもいいわ。私、ルミエール王国で貧困に困っている人たちをたくさん見てきた。そんな人たちを助けるために、改革に協力してくれる仲間を探して、私は旅をしているの」
ドズル「仲間・・・?」
英玲奈「ええ。・・・ドズルさん、私、必ずみんなのトラウマを払拭して見せる。だから、改革に協力することを約束して」
英玲奈は色白で細い手を差し出し、強い決意のこもる目でドズルを見つめた。
ドズル「もちろん、協力するよ。君ならきっと打ち解けられる。僕は信じる!」
英玲奈「・・・ふふっ、ありがとう!」
英玲奈はにっこりと笑ってみせた。