作業用BGM 永遠の不在証明-東京事変
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目次
プロローグ
<傲慢>
健気さと引き合いにしても何の互換にもならない。あなたの言葉、行為、全てがいつだってそうだった。許せない、許せないのにどうしてか理解ってしまう。今になって。
あなたが感じているあの痛みが。凄まじく____
でも、もう私達には遅かった。あなたの心なんて、あの頃には気遣う余裕すらなかったから。
それほどに、子供だったの。
だから今は愛と流離をあなたに捧げる。
---
赤色は謙虚な美しさ
白色は極上の愛らしさ
鴇色は慎み深さ
黒色は気取らない優美さ
花が落ちたあの瞬間に、失った
伊勢太白
<蕾>
輝かず、燃えることのない僕だけの太陽。
ヒカリとは、焦がれて錯覚する独占欲に近いのかも、しれないね
その言葉が誰の言葉であったのか、もう夢から覚めた今では、思い出せない。寂しくて仕方がないのに、どこかで心が安らいでいる。きっと、良い夢だったんだろう。ベッドの上で悶々としていた頭を振り払うかのように、身体をおこして部屋を後にした。
---
「おはようございます、ヨリヒト様」
「おはようございます。朝から、精が出ますね」
部屋から出てすぐ、長い廊下の手前にいた控えめな桃色の着物を着た女中と挨拶を交わす。こんな朝早くから、家中まわって働くこの人に心の底から感心した。なのに、その女中は深く下げた頭をそのままに、一言こう言った。
「っっ!!あ、ぁ恐れ入ります」
そう言うと、頭をあげることもなく目を合わす事もないまま何処かへまた、行ってしまった。
労いの言葉をかけたつもりだったのだが、どうやら不要だったようだった。
「ヨリヒト様!どうされたんですっ」
背後から、声を張り上げて慌てたように駆け寄ってくる者がいた。どうやら、女中達を束ねる女中頭のちほさんのようだった。ちほさんの動揺と少しの苛立ちが垣間見える様子も僕の元へ近づいてくるにつれ、段々と恐ろしいものでも見たかのような、真っ青な顔になっていった。
「どうしたんですか。ちほさん____」
「ヨリヒト様!!……そのお姿、一体どうされたんですかっ」
幾分か声が震えているように聞こえた。見たことがないほどに慌てふためくちほさんが、僕の肩や身体をくまなく触って確かめているようだった。
「お怪我はございませんか?」
「まあ、こんなに汚してしまって……」
「どうして、このようなお姿にっ?………」
最初は何をそんなに、慌てているのか全くわからなかった。ただ、気が動転してしまったちほさんがそう繰り返し言うので、何か悪い予感が働いて急いで寝室へ戻り、姿見の前に立った。
「ヨリヒト様!!ああそこの者、ヨリヒト様の湯浴みの支度を!急げ!!」
寝室への扉は、ほんの数歩先であったのに走らずにはいられなかった。何が、僕にあったんだ。なんて、簡単な筈の答えが今の僕には見当もつかなかった。
「え、」
そこには、昨日着ていた白いローブはなく、ただ一枚豪華な着物の羽織があった。そして、短かった僕の髪は、腰にまで達するほどに一夜にして、伸びていた。さらり、肩や背中でしなる髪が黒地に金の糸で刺繍された模様を透かすようにしていた。驚いた、僕はまだ何か身体に異変があるのではないかと思い、着物をすぐに脱ぎ捨て一糸纏わない姿で、全身をくまなく見た。ぺたぺたと手で触りながら確かめていると、何故だか指先が黒くなっていた。それは両の足にも同じことが言えた。まだ、まだ何かあるんじゃないかと冷や汗をかきながら、探すがそれは見つからなかった。
「あ、あ………」
言葉が、声がうまく出せなかった。それは、ちほさんの感じていた戸惑いとも、朝早くに会った女中の本能的な恐怖とはまた違う、僕にとってそれは深い絶望だった。
「あぁ、僕はまた完璧から遠のいてしまった……」
姿見の前で、ショックで踞ってしまった。ああ見苦しい、醜い。穢れている。そんな言葉ばかりが頭の中に浮かんでは、消えていた。
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「ヨリヒト様、ちほにございます。まずは湯浴みなさいましょう」
「ヨリヒト様のお身体は今、すり傷や切り傷に晒されています。どうか、ここはちほの言う通りに」
話しかけられる直前に、反射で立ちあがるが、ふらつく足が上手く言う事をきかない。また、醜態を晒す事になる。立たないと____
「……っ傷?傷なんて、どこにもない。まあでも、こんな姿では傷物同然か、はは……」
もう、いつものように微笑みながら柔らかな声で語りかける事すらもできなかった。僕の良さなんて、この容姿と愛らしく振る舞う事しかないというのに。悪態をついて、卑屈になる事しか今の僕にはできなかった。
「いいえ、ヨリヒト様、姿見をご覧ください」
言われるがままに、振り返ってまた自分の身体を見てみれば、あちこちに怪我をしていた。傷が深いところもあれば、浅いところもあった。
足元を見れば、着物に跳ね返っている泥のような汚れもあった。
「………こんな姿、見たくなかった」
気がつけば、口から出ていた本音だった。
「………っヨリヒト様、傷を洗わねば治りが遅くなります。どうか、ここは」
姿見に反射するちほさんの姿は先ほどの様子とは違い、いつもの冷静さを取り戻したようだった。ただ、いつもと違う様子があったとすれば不安そうにこちらをじっと見つめていた事だ。
嫌になって、言葉を吐き出す事すら放り出して部屋の外に控えている女中達の元へ歩いた。
「ローブをお着せさしあげて」
「ヨリヒト様、失礼致します」
そう言うとちほさんは、僕のおぼつかない足取りを支えるように全身で支えてくれた。
「すまない」
僕はただ、その言葉を小さく呟くことしかできなかった。
<adoration>
長い髪を洗うには、とてもとても時間がかかった。それに手足にある、指先から続く黒い跡はどれだけ洗っても落ちることは無かった。
ちほさんや他の女中らに介抱してもらった後に、僕は1人、自室に籠ってずっと考えていた。
僕は、良家の生まれで今までほとんどの不自由なく生活を送ってきた。だが、僕自身が家や何かのために僕だけの力で貢献してきたこともなかった。そんな中、家同士の繋がりで婚約することが決まった。急なことだったが、僕はそれを受け入れた。家の為に、人のために、僕でも貢献できる事が証明されたようで、心の底から安心したからだった。なのに、今日起きた全ての事でもしかしたら全部が終わってしまうのかもしれない。
「ああ、僕は………」
「一体どうして、僕が……くッ」
悔しくて仕方がなかった。そして同時に僕がどうしようもない無力な存在なんだと知らしめられたように思えた。抗いようのない事実に打ちひしがれていた、その時だった。
「………まあ、《《早すぎた》》と思っていたけど___」
「《《今日で丁度良かったようね》》」
背後から、足音も何も気配もなくそれは現れた。
「こんにちは、|尋壱《ヨリヒト》」
「アタシは___」
そこには美しい、とても綺麗な女性が1人立っていた。それなのに何故か腹の底から沸いていく憎悪もあった。
「|朱惹《シュヒ》」
後になってわかったが、それとの出会いはその日でなくてはならなかったのだと今ではそう、思えた。