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目次
虚の館と祭り人形
館に幽閉されて三日、鬼道は早くも憔悴しはじめていた。
ただ軟禁されるだけであればそれほどの苦痛でもない。問題はこの環境である。
圧倒的な孤独。孤立といっても過言ではない環境に、鬼道の脳神経は悲鳴をあげていた。
妙に味の薄い食事は全て部屋の扉の飾り窓から差し入れられ、浅く重い眠りは固い寝台の上で取る、このことを差し引いても、鬼道はなお耐えられる自信があった。しかし問題は意外なところに潜んでいるものである。
使用人の姿が一つも見当たらないのだ。館はいつ巡っても隅々まで清められており、鏡台にも埃一つない。食事も決まって届けられるのだから、誰もいないということはあり得ない。それなのに、足音も呼吸音も聞こえない。常にひそりと静まりかえり、鬼道の靴音が虚しく響くばかりである。
唯一の救いといえば、部屋に置き忘れられたようになっている人形の存在だった。この地域で祭事があるときに女が着るような色鮮やかな着物を着せられたそれは、素人目に見てもかなり古く、服に縫い付けられたビーズは所々糸がほつれ、刺繍の細かい縫い目も半ば解けかけている。至近距離で見ると粗が浮かんでくるのだが、幼児用の座高がきわめて低い椅子に座らせて遠目から見ると、不思議ととても端正に作られた立派なもののように映るのだった。
鬼道はこの状況にどうしても頭が耐えられなくなったときには、この人形に話しかけようと決めていた。孤独と無言は狂気に直結する。生きて正気で戻ることが鬼道の最優先事項であった。
この館で過ごす期間は丸1ヶ月。残り二十八日を耐え切れば、鬼道は館から解放され、莫大な賞金を手に入れることができる。そうすればきっと、この町のさる金持ちに囲われている妹を助け出すこともできるはずだ。鬼道は確信していた。
しかし、と鬼道は思う。ただ館で過ごすだけであの額の大金を手に入れられるなど、はなから疑うべきだった。彼は後悔していた。自分の神経の図太さを過信するべきではない。そのことが身に沁みて感ぜられた。
目に見えない使用人ばかりが動きまわる、そして何故か矢鱈と鏡の多いこの館で、1ヶ月の幽閉。半ば痴気すら感じる馬鹿げた企画を考え出した地主の頭を叩き割ってやりたい。そんな凶暴な考えが頭をよぎり、鬼道は疲れているなと漠然と思った。自らの頬を両手で張って鼓舞する。俺なら大丈夫だ。きっと耐え切ってみせる。妹のためだろう。
残り二十八日。館は鬼道の靴音をひっそりと吸い込んで沈黙する。